2022年3月10日木曜日

桃山人夜話巻五 その33

P20前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 三 夜 の楽屋

多゛以志ゞ うさんよる がくや

だ いしじゅうさんよるのがくや


木 偶  泥工の坊  といへども仕 ふ人 の魂   を入れぬる時

尓ん个゛うでく 本゛う     つ可 ひと 多満しひ い   とき

にんぎょうでくのぼ うといえどもつかうひとのたましいをいれぬるとき


ハ其 意  性 根 尓入りて人 形  尓止  ること芝  居の人 の

 曽のこゝろせ以こん い  尓ん个゛う とゞ満   し者゛ゐ ひと

はそのこころせいこんにいりてにんぎょうにとどまることしば いのひとの


志る所  奈り野呂松三 左衛門 可゛人 形  をま多ぎ多類

  ところ  のろまさんざへもん  尓ん个゛う

しるところなりのろまさんざえもんが にんぎょうをまたぎたる


毛の於こり越ふるい其 人 形  尓王びことし天癒 多り夜

         曽の尓ん个゛う       いえ  よる

ものおこりをふるいそのにんぎょうにわびごとしていえたりよる


(大意)

第四十三夜の楽屋

操り人形といえども、それをつかう人が魂をこめたときに

その心が人形の心髄に入って人形にとどまることは、芝居に

たずさわる人の知るところである。野呂松三左衛門の人形をまたいでしまった

者が熱病におかされ、その人形に詫び言をして癒えたことがあった。夜(の楽屋に)


(補足)

「四十三」の振り仮名が読みづらいですが「志ゞうさん」。

「楽屋」(がくや)、変体仮名ではなく平仮名の「が」。

「木偶泥工の坊」、「でくのぼう」は「木偶の坊」のことですが、こちらは木彫りの人形の操り人形。粘土や土をこねてこしらえた人形もありますから「泥工」(でく)としたのでしょう。変体仮名「个゛」(げ)がすぐ左の変体仮名「曽」(そ)ににています。

「魂」(多満しひ)、「し」があります。

「ま多ぎ多類」、変体仮名「類」(る)はひさしぶり。

「王びことし天」、「こと」は合字。「を」に見えなくもありませんが、すぐ右の行に「を」があり比較するとやはり違います。

 題名の「夜の楽屋」をみただけでさて何が起こるのかと、なにかゾクッとしたものを感じます。

 

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