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2022年9月18日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その25

 

裏表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 鱗(うろこ)模様にみえるのは、古くから日本の伝統的文様の青海波といわれるながれでしょう。ひとつひとつに年輪のような模様をいれていて、まさしく魚の鱗の年輪でその魚の年齢がわかるのとおなじになっています。

 拡大してそれらを丹念にみくらべてみました。みなそれぞれことなっていてひとつずつ刻んでいることがわかります。他で本で同じものを何冊分か使うならまぁそれに見合う作業でしょうが、この定価3銭の豆本一冊にここまでの労力をかけるとは、彫りだしたらいい加減な仕事はできない職人のなせる心意気っていうものでしょうか。

 丸い花のようなものも同様でひとつひとつがことなっているのですが、全体的な均衡は保っています。

 現在では同じパターンの繰り返しは簡単に一つの図柄を複写していくらでも増やすことができます。この裏表紙のように似てはいますがひとつとして同じものがないというもので全体がまとめられている美しさはかけがえのないものであります。

 

2022年9月17日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その24

 

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

定價三銭

明治十五年七月十一日御届

東京馬喰町二丁目一番地

編輯兼出版人 木村文三郎

(大意)

(補足)

 このBlogにとりあげた編輯兼出版人木村文三郎さんの銅版画豆本は「あさ可゛本物語」「ねこの道行」「ねずみの嫁入」「猿加尓合戦」「花咲ぢヾい」「婦゛んぶく茶釜」とこの「桃太郎一代記」です。住所がここでは「日本橋区」がありません。「ねこの道行」も同様で、この2冊は奥付が同じ版になってます。他5冊は「日本橋区」が入っていてこれらの奥付は5冊とも同じです。

 近世文芸に以下の文献があります。著者の磯部敦氏には許可を得ていませんが紹介させていただきます。

「銅版草双紙考

磯部 敦

2002 年 75 巻 p. 107-117 

発行日: 2002年

公開日: 2017/04/28 

DOIhttps://doi.org/10.20815/kinseibungei.75.0_107」

 この中に明示15年生まれの金田一京助の回想談が紹介されています。

『また、明治十五年に生まれた金田一京助は、縁日で絵本を漁った子供時代を次のように回想する(注32)

自分で選んで、勝手に買って、夢中になった本の初まりは、七つ八つから十才ほどになる頃の、縁日にあさる絵本、草ぞうしの類、だった。十銭ぐらい手にして行って、見世物や アメ玉に使った残りを、一銭、二銭という、そうした絵本に、あれでもない、これでもない、それよりもこっち、い や、こっちよりもそっち、と、岩見武勇伝・絵本太閤記・ 義経一代記・義経勲功記と云った類をあさるうれしさは、今に忘れえない。記憶では、編修兼発行者が堤吉兵衛というのが一番多かったが、これは品が少しおちた。絵も下手、版もわるかった。それに比して尾関とよという女名の本は、絵もよく、版もきれいなので、それを大さわぎして選ったものだった。』

 これだけの見栄えのする豆本が草双紙屋で販売される以外にも縁日の夜店で子どもの買える値段で販売されていたのでした。


2022年9月16日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その23

P12 国立国会図書館蔵

(読み)

幾 英 筆

いくひでひつ


◯もゝ太郎 ハ王可゛や

 ももたろうはわが や


へ可へりぢゝ者゛ゝへ可う\/

へかえりじじば ばへこうこう


をつくし

をつくし


とも尓

ともに


つ連▲

つれ


▲多る

 たる


さる

さる


いぬ

いぬ


きじへも

きじへも


そ連\/尓

それぞれに


おんしやうを

おんしょうを


めぐミめで多き者るを

めぐみめでたきはるを


む可へ个りめて多゛し\/\/

むかえけりめでたしめでたしめでたし


(大意)

桃太郎はわが家へ帰り

じじばばに孝行を尽くしました。

供(とも)に連れていた

犬、猿、雉にも

それぞれに褒美を与え

めでたい春をむかえたのでした。

めでたしめでたしめでたし。


(補足)

 幾英筆と囲みに名前が入って目立つようになっています。小林幾英または小林英次郎。ネットで調べるといろいろ出てきますし彼が描いていたたくさんの浮世絵も見ることができます。すばらしい浮世絵を描いている一方で子ども向けの豆本の絵を描いていることにも驚かされます。

 ちょっと前でしたら犬がこんな格好で散歩していたら驚いたでしょうが、昨今はこのような姿をさせてお供をさせている飼い主さんがいるのでそれほど驚かないでしょうが、でもきっと振り返るでしょう。まぁお供はどちらかわからなくなっていますけど。

 桃太郎の両袖の家紋が桃です。しゃれてます。袴も裃もなんという細かい柄模様でしょうか。二本差しの飾りも手を抜いていません。

 扇を開く方を手にしています。絵でよくみかける描き方です。このように持つのが作法だったのでしょうか。確かにここを持てばなにかのはずみで開くことはありません。

 背景のお城には金のシャチホコがあり、さらにおくには見事な富士山です。裾から頂上へと濃淡をほどこし大沢崩れも描かれています。かなり意識して描いているのがわかります。

 桃太郎の右肩にかぶさる木は桃の木のような気がしてなりません。

あらためて全体をみわたすと、犬がでかいなと感じました。

 

2022年9月15日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その22

P11下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△太郎 ハきゝ

  たろうはきき


とゞけ多可らものハ

とどけたからものは


こと\゛/くぶんどり奈し

ことご とくぶんどりなし


いさ満しくきこくせり

いさましくきこくせり


(大意)

太郎は聞き入れ、

宝ものは

ことごとくぶん取りました。

勇ましく帰国しました。


(補足)

「こと\゛/く」、「こと」は合字。

 鬼たちが宝ものを差し出しているのをこまかく見てみると、四角い箱は地べたですが、大きな巾着袋は脚に飾り彫りのある台にのっています。巻物や細々したものは丸いお盆のような台にのっています。こういったところの描き方がなかなか細かいところです。

 

2022年9月14日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その21

P11上段 国立国会図書館蔵

(読み)

多可ら

たから


ものを▲

ものを


▲さゝげて

 ささげて


奈尓とぞ

なにとぞ


一 めいハお

いちめいはお


多春け

たすけ


く多゛さい

くだ さい


とね可゛

とねが



个れバ

ければ


もゝ▲△

もも



「お尓の

 おにの


め尓

めに



ミ多゛

もだ


とハ

とは


このこと多゛

このことだ


(大意)

宝ものを

捧げて

なにとぞ一命は

お助けください

と願い出たので

桃(太郎は)

「鬼の目に

涙とはこのことだ


(補足)

「多可らものを」、「多可ら」が「多ろう」と読めなくもありません。これらはとてもよくにています。P10「可うさん奈春よしを」の「可う」も「ろう」と読み間違えるくらいにています。

「さゝげて」、「お多春け」では平仮名「け」ですが、昔ながらの言い回し「个れバ」になると変体仮名「个」(け)になってしまいます。

 鬼たちが袖の中に手を入れて中国式の挨拶をしています。ちょっとした時代背景がありそうです。この豆本シリーズが出版されたのが明治15年(1882年)です。その7年前明治7年(1874年)に清国領台湾へ明治政府は初めての海外出兵と戦闘をしています。またその翌年明治8年には朝鮮の江華島事件がありました。鬼たちが戦いのときに使っていた武器も清国の様式のものだったのかもしれません。

 

2022年9月13日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その20

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

あくる

あくる


日お尓ども

ひおにども


もんをひら

もんをひら


いて可う

いてこう


さん奈春

さんなす


よしを

よしを


申  いで

もうしいで


(大意)

あくる日

鬼どもは門を開き

降参することを

申し出て


(補足)

「申いで」、カタカナ「ヤ」のようにみえるのが「申」のくずし字。

 豪華な絵です。桃太郎の頭のうしろにあるのが桃なのかどうかがP7のところではよくわかりませんでしたが、ここでははっきりと桃であることがわかります。桃の葉も確認できます。また旗竿の先のお飾りの桃はここぞとばかりに目立つように立派に、葉も葉脈まで一本一本くっきりと描かれています。

 腰掛けも凝ったつくりで蛇腹のような筒状になったものです。まさかこのまま押しつぶして持ち運びができるものではないでしょうけど。そして桃の絵がいくつも描かれています。

 刀の柄も大小ともに丁寧に刻んでいます。桃太郎は自信満々。

 

2022年9月12日月曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その19

P9下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△もの

  もの


お尓

おに


ども

どお


春る

する


どき

どき


个ん

けん


さ起尓

さきに


あ多り

あたり


可゛多く

が たく


やおもひ

やおもい


个ん

けん


ミもく

みもく


春ミ

すみ


可へ尓げ

かへにげ


こミ

こみ


可多く

かたく


とざして

とざして


まもり

まもり


ゐる

いる


(大意)

(さす)がの鬼どもも

鋭い剣先に

応戦するのも困難と

おもいました。

身体は傷だらけになってかわりはて

(鬼の館に)逃げ込み

門をかたく閉ざして

守りました。


(補足)

「もの」「おもひ」「まもり」、の「も」は「の」にかたちがにています。

「あ多り」、しかえし、復讐の意味もあるようです。

「ミもく春ミ可へ」、今どきはさすがにこのような古風な表現はつかわないようです。

 

2022年9月11日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その18

P9中段後半 国立国会図書館蔵

(読み)

▲者゛うせん奈せ

 ぼうせんなせ


どももゝ太郎

どもももたろう


可゛志き尓

が しきに


志多可゛ひさる

したが いさる


きじひつしを

きじひっしを


きハめてせめ

きわめてせめ


多つ連バさし▲△

たつればさし


(大意)

防戦しましたが

桃太郎の指揮に

したがって、猿

雉死にものぐるいで

攻め立てたので

(さすがの)


(補足)

上段の▲印からのつづきです。

「者゛うせん」、旧仮名遣いでは実際の発音と書き言葉が一致しません。その対応関係はゆるい規則がありますので一度は学んでおいたほうが無難です。

「きじひつしを」、「し」が縦棒「|」になってます。「ひつし」は「羊」ではありません。

 

2022年9月10日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その17

P9中段前半 国立国会図書館蔵

(読み)

さるものあり

さるものあり


とハ王可゛こと

とはわが こと


奈り

なり


さる

さる


とハ\/

とは


奈可\/

なかなか


てづよい

てづよい


者多ら

はたら


き多゛

きだ


(大意)

なかなか使える者がいるというのは

おれのことだ。

猿というのは

なかなか手ごわい

働きをするものだ。


(補足)

P8下段「「多゛い尓つ本゜ん

もゝ可らう満

連太郎の

ミうち尓」の続きになります。

「さるものあり」、「然る者」です。もちろんダジャレで「猿」をかけています。

「とハ\/」、繰り返し記号がありますが、「とはとは」では変ですし「さるとはさるとは」ではなんとか意味が通じますけどやはりなんか変。

 鬼の表情がどこかひょうきんです。鬼のパンツはふんどしに短めの藁(わら)暖簾のようなフリルが定番です。それと武器は槍や日本刀とはことなった、地獄の閻魔様がもっているようなものです。

 

2022年9月9日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その16

P9上段 国立国会図書館蔵

(読み)

P8上段より

げぢを奈し

げじをなし


そ連\/

それそれ


てく者゛り

てくば り


奈春を

なすを


見てお尓

みておに


ども大 き

どもおおき


尓おどろ起

におどろき


うつていで▲

うっていで


(大意)

(さるいぬきじに)

命令して

それぞれに

細かい指示を与えているのを

見て、鬼どもは

大変に驚きました。

攻めに出て▲


(補足)

P8の上段からの続きになります。

「下知」、読みは「げぢ」でも「げち」でもよいようです。

「そ連\/」、これも濁点があってもなくてもよさそうです。「それぞれ」。

 鬼たちが桃太郎たちにくらべると全体に小さく描かれ、逃げ腰で劣勢の感じがみてとれます。

 

2022年9月8日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その15

P8下段 国立国会図書館蔵

(読み)

「ものども

 ものども


春ゝめ

すすめ


\/ \/

すすめすすめ


「多゛い尓つ本゜ん

 だ いにっぽ ん


もゝ可らう満

ももからうま


連太郎 の

れたろうの


ミうち尓

みうちに


(大意)

「ものども

すすめ

すすめすすめ

「大日本

桃からうま

れ太郎の

身内に


(補足)

「もゝ可らう満」、「可」「ら」「う」はみなよくにているので、何度か目をとおさないとわかりません。桃太郎侍の決めゼリフ「ももからうまれたももたろう」でした。

 

2022年9月7日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その14

P8上段 国立国会図書館蔵

(読み)

◯もゝ

 もも


太郎 ハ

たろうは


お尓可゛

おのが


志まへ

しまへ


ち可つき

ちかつき


个連バさる

ければさる


いぬきじ尓

いぬきじに


(大意)

桃太郎は鬼ヶ島へ

近づいたので

猿、犬、雉に


(補足)

いままで「志満」だったのが「志ま」となりました。

 目がチカチカするほどの衣装柄が画面の半分ちかくをしめているような感じです。

大将の桃太郎は従者犬を脇に下知をとばしています。ここでは猿が主役のようで、ほかはまぁまぁという描き方。とてもにぎやかな場面です。

 

2022年9月6日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その13



P7下段 国立国会図書館蔵

(読み)

●(P6より)多゛んご

        だ んご


をもら

をもら


ひてもゝ

いてもも


太郎 尓

たろうに


志多可゛ひ

したが い


お尓可゛

おにが


志まへと

しまへと


いそ起゛

いそぎ


个る

ける


(大意)

だんごをもらって

桃太郎に従って

鬼ヶ島へと

急ぎました。


(補足)

「もらひてもゝ太郎」、「も」はほとんど平仮名「の」になっています。「郎」のくずし字は2行手前の「ら」に「ゝ」がついたようなかたち。

 桃太郎の頭の上にある白い空間は、すきまを埋める工夫かとおもいきや、雉(きじ)がもつ旗竿の吹き流しでありました。

 雉も桃太郎も、絵師のしっている絵柄や紋章をすべて描きなぐったという様子。ド派手でありますけど、歌舞伎舞台でもこんなのがありました。

 

2022年9月5日月曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その12

P7上段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△(P6上段より)可゛

         が

もゝ

もも


太郎

たろう


さ満

さま


おこし

おこし


尓ついて

について


ゐるのバ

いるのは


なんで

なんで


ござ

ござ



ま春

ます


尓つ本゜んX

にっぽ ん


X一 のきミ多ん

 いちのきみだん


ご多゛ひとつ

ごだ ひとつ


く多゛さい□

くだ さい


(大意)

(猿)が「桃太郎様お腰についているのは

なんでございます」ときけば

「日本一のきみだんごだ」

「ひとつください」(P6下段へ)


(補足)

 子どもの頃に何度も歌った童謡は脳髄の奥の奥まで染み付いて覚えているようです。

〽も〜も、たろさん、ももたろさん。おこしについたぁきびだんごぉ、ひとつ〜わたしにくださいな〜

ちょうどこの歌詞の場面のようです。

「ゐるのハ゛」、バはまちがって刻んでしまったようですが、きっと「いへバ」というよくある言い回しとかんちがいしたのかもしれません。

「尓つ本゜ん」、濁点はよくでてきます。「゜」(半濁点)はどちらかといえば珍しい。

「きミ多んご多゛」、濁点のつけわすれがあります。濁点については全般に鷹揚な気がします。

 桃太郎の背中にさしてある旗竿の先端には桃がついています。同じようなものが桃太郎の髪の毛の左側にも見受けられますがこれも桃でしょうか?

 

2022年9月4日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その11

P6下段 国立国会図書館蔵

(読み)

□(P7より)

おともを

おともを


い多しませ う

いたしましょう


といへバもゝ

といえばもも


太郎 ハ

たろうは


こし

こし


より

より


きミ

きみ


多゛ん

だ ん


ごを

ごを


あ多

あた



个れ

けれ


者゛


あと

あと


より

より


いぬきじ

いぬきじ



お奈じ

おなじ


くきミ●(P7へ)

くきみ


(大意)

お供をいたしましょうというと

桃太郎は腰よりきみだんごを与えると

あとから犬、雉(きじ)も同じく

きみ(だんご)


(補足)

 P6P7は見開きで文章が書かれているので、P6上段からP7上段につながりそれがP6下段へつながってP7下段となります。それぞれ文末文頭につながりの合印(▲△など)がついています。

「おとも」、ここの「も」は「し」のながれでそのまま左回りに書き始めあたりでまで上がってクルッとまわします。2行あとの「もゝ」はそれとはことなる筆順です。

「こしより」が「こゝ」にみえます。

 桃太郎といえば岡山名物吉備団子で「きび」のはずですけどここでは何度も「きミ」となっています。まぁどちらもおいしそうですからかまわないのですけど、出版人や絵師のこだわりがありそうです。

 犬の衣装の派手なこと、きっと桃太郎の次ぐらいにキンキラキンの色づかいだとおもいます。

おじいさんおばあさんが見送る手前側が川面のようにみえます。でも描き方は日本独特のすきまを埋める雲のようなものになっています。

 

2022年9月3日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その10

P6上段 国立国会図書館蔵

(読み)

[つゞき]

多くと

たくと


申 シ

もうし


きミ

きみ


多んごを△

たんごを


△こし

 こし


らひもらひ王可゛や

らいもらいわが や



いで

いで


多る

たる


とち う

とちゅう


尓て

にて


さる▲△(P7へ)

さる


(大意)

(過ごさせ)たいのですと申し、

きみだんごをこしらえてもらい

わが家を出発しました。

その途中、猿(が)


(補足)

「多んご」、「多゛」の濁点をつけわすれたか彫り忘れたかなのですが、「こ」には濁点があるのでさてどうしたことか。まぁ読んでいるとよくあることです。

「こしらひもらひ」、こしらえてもらいとすぐに理解できます。文法的にはどうなっているのでしょう?

おじいさんとおばあさんの衣装柄は最初の頁から変わっていません。卍と菱形の四つ星。

 

2022年9月2日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その9

P5下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△志満へ

  しまへ


まゐり

まいり


多可ら

たから


ものを

ものを


とりて

とりて


まゐり

まいり


おふ多り

おふたり


をあん

をあん


らく尓春ご

らくにすご


させ[つ起゛へ]

させ つぎ へ


(大意)

(鬼ヶ)島へゆき

宝ものをとってきましょう。

お二人を安楽に

過ごさせ(たいのです)


(補足)

文末、枠の中は「つだへ」ではなく「つ起゛へ」です。

 部屋と庭の出入りに使う踏み台は太い材木を輪切りにしたものです。幹の樹皮は細かく描いていますが切断面の年輪はなぜか適当です。またもうひとつの踏み台というか小さな腰掛けが餅つきの手水の桶の台になっています。この小さな桶も手を抜くことなくしっかりと存在感があります。

 じじばばの視線の先は桃太郎の頭ではなく杵にむかっています。桃太郎の力あふれる餅のつきっぷりはさぞかし「きミのよいおと可゛」庭に響きわたったのでしょう。

 

2022年9月1日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その8

P5上段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲春る尓志多可゛ひ

 するにしたが い


ち可らハ人 尓春ぐ

ちからはひとにすぐ


連多りある日

れたりあるひ


ぢゝい者゛ゝあ尓

じじいば ばあに


いひ

いい


个るハお尓可゛▲△

けるはおにが


(大意)

(成長)するにしたがい

傑出した力持ちになっていました。

ある日、じじいとばばあに言うには

「鬼ヶ(島へ)


(補足)

「お尓可゛(志満)」、「お」が「か」にみえてしまいます。

絵を拡大してみると、縁の下に非常に細かい網目模様があります。暗がりを表現するためでしょうけど、それにしてもそのこだわりがすごい。

 

2022年8月31日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その7

P4 国立国会図書館蔵

(読み)

[つゞき]

 つづき


二 人の

ふたりの


よろ

よろ


こび

こび


大可多

おおか


奈ら春゛

ならず


もゝ太郎

ももたろう


と奈づけ

となづけ


せいてう▲(成長)

しちょう


「きミのよい

 きみのよい


おと可゛

おとが


春る

する


(大意)

つづき

二人の喜びようはそれはすごいものでした。

桃太郎と名付け、

成長(するにしたがい)

「気持ちの良い音がする


(補足)

「せいてう」、旧仮名遣いはなれていてもふとこれはなんだというようなことがあります。

 体をくの字にして力いっぱいの餅つきですが頭の位置が下すぎるのか構図がもう一息です。杵を左利きの構えで持っています。右利きの構えで持つと左手が前にきてからだの正面を隠すことになってしまうので、それを避けているのだとおもいます。絵師のいろはなのでしょう。

 当時の豆本出版にたずさわった人たちは、まさか後世の人が手にして読んでいるとはこれっぽっちもおもってなかったはずです。ましてやそれを拡大して細かく仕上がりをたしかめるなんて、まさかの出来事であります。

 隅から隅まで拡大してみてみましたが、手抜きのての字もみあたりません。ほんとに細かく精緻に刻んでいます。銅版だとおもうのですけど、嬉々として背を丸め仕事をしている姿が思い浮かびます。上部の花の丸い描き方は他の部分とタッチがことなっています。花と杵が重なる部分もあって、なにか工夫したのでしょうか。

 

2022年8月30日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その6

P3上段 国立国会図書館蔵

(読み)

者゛ゝ

ば ば


「あめの

「あめの


奈可

なか


可ら

から


お多

おた


さん可゛

さんが


で多と

でたと


いふ

いう


个れ

けれ



もゝの

ももの


奈可

なか


可ら

から



ぞう

ぞう


可゛で多

が でた


とハきゝま

とはききま


せんこ連ハ

せんこれは


志んぶんや

しんぶんや


もの多゛

ものだ


(大意)

ばばあ

「飴の中からお多(福)さんが

出てきたとはいうけれど、

桃の中から小僧が出たとは

聞いたことがありません。

これは新聞ネタものだ。


(補足)

 出だしの文字は「お」に「ゝ」をつけ忘れたのではなく、平仮名「あ」です。この時代の「あ」は縦棒がまっすぐ。

「あめの奈可可らお多さん可゛で多」、最初意味がよくわかりませんでした。いろいろ調べてなるほどど。「お多さん」はお多福さんのことでした。金太郎飴の金太郎をお多福にしたお多福飴でした。「奈可」と「可ら」の変体仮名「可」のかたちがずいぶん異なっています。同じ言い回しが9行目にもありますが、こちらの変体仮名「可」はいくらかにています。

「志んぶんやもの多゛」、新聞というものがまだでて10年ちょっとのときにこの言い回しはなかなか斬新だったのかもしれません。まぁそれ以前に瓦版が定着していましたから気持ちの上ではそれほどの変化はないとおもいますが「新聞」という言葉の響きは「ざんぎりあたまをたたいてみれば文明開化の音が」したのかもしれません。

 障子がまっすぐの線できれいに描かれています。みじかで使用されているもので数百年から千年くらいかもっと、変わってないものの筆頭はこの障子があげられます。木と紙とのりだけ。わが家でも部屋の全てに障子がありますが、とてもすぐれています。