2026年2月16日月曜日

繪本寶能縷 その12

P11 国文学研究資料館蔵

絵本直指寳(えほんねざしだから)P11

(読み)前半

かゐこやしない草 㐧 十  一

かいこやしないそうだいじゅういち


蚕  乃神 を祭 る

可いこ 可ミ まつ

かいこのかみをまつる


事 日 本 の古 しへ

古とひのもと い尓

ことひのもとのいにしえ


を考   れ者゛軻遇

 可んぐふ   可ぐ

をかんぐうれば かぐ


突智埴 山 姫 尓

つち者尓  ひめ

つちはにやまひめに


逢 て雅  産 㚑

あひ 和可゛む春び

あいてわが むすび


を産 此 神

 うむこの

をうむこのかみ


乃頭  尓蚕  と

 可しら 可いこ

のかしらにかいこと


桑 となれりと

くハ

くわとなれりと


神 代  巻 尓見へ

じんだいのまきにみえ


多れ者゛本 朝

      てう

たれば ほんちょう

(大意)

桑の神を祭ることを、古の日本をふりかえって考えてみると

軻遇突智(かぐつち)が埴山姫(はにやまひめ)に逢って、

雅産霊(わがむすび)を産み、この神の頭に蚕と桑の葉が生ったと、

日本書紀の神代の巻に記されているので、わが国では

(補足)

「軻遇突智」、『かぐつち 【軻遇突智】記紀神話の神。伊弉諾尊(いざなきのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)との間に生まれた火の神』

「埴山姫」、『埴山姫(ハニヤマヒメ)はイザナミが火の神カグツチを産んだ際に火傷を負い、その火傷が原因が死ぬ間際に水の神ミズハノメと共に産み落とされたとされる土の神で、土に関連する農業や陶磁器製造業、造園業、土木関係などの職業と特に縁が深いとされている女神』

「雅産霊」、『雅産霊命(わくむすびのかみ/わくむすび)は、日本神話に登場する食物と生成の神。古事記では和久産巣日神、日本書紀では稚産霊と表記され、イザナミが火の神カグツチを生んだ際に誕生。頭や身体から蚕や桑、五穀を生み出したことから、農業、豊作、蚕の守護神として信仰される』

「神代巻」、『じんだいのまき。日本書紀において、天地開闢から神の時代、神武天皇即位前までの神話を扱った巻。第1巻・第2巻に相当』

 原本では、機織り機が精緻に図面のように描かれています。見取り図そのもの。木工職人がこれを見れば、そのまますぐに組み立てられるとおもいます。

 一番手元の経糸を吊り下げている部分、上部のところが前後に調節できるよう凹凸が刻まれています。

 また右手に持っているのは「杼(ひ)」(shuttle)、右から左へ、バタンと経糸をかえして、左から右へ、を繰り返します。

 わたしの母は1920年、農家の生まれでした。機織りを教え込まれて、少女の頃に自分の普段着の着物生地を織って、その切れ端を大事にしていました。

 

2026年2月15日日曜日

繪本寶能縷 その11

P10 国文学研究資料館蔵 

絵本直指寳(えほんねざしだから)P10

(読み)

かゐこやしない草 㐧 十

かいこやしないそうだいじゅう


蔟   より糸 を

ま由者り  いと

まゆはりよりいとを


於ろし色 白 く

   いろ

おろしいろしろく


いさ起よきを

いさぎよきを


細 糸 のま由とし

本そいと

ほそいとのまゆとし


いろ黒 きを

いろくろきを


粗 糸 の

あらいと

あらいとの


ま由とす

まゆとす


真綿 丹

ま和多

まわたに


引 ても

ひき

ひきても


上  中  下を

じょうちゅうげを


ゑらミ

えらみ


和可ち

わかち


形 を

なり

なりを


津くりて

つくりて


束  綿

多ハ年和多

たばねわた


幾 者゛く

いく

いくば く


把とするなり

はとするなり


北 尾重 政 画

きたおしげまさえ

(大意)

(補足)

「真綿」、『まわた【真綿】

糸にできない屑繭(くずまゆ)を引き伸ばし乾燥した綿。軽くて強く,暖かい。引き綿・布団綿としたり,紬糸(つむぎいと)の原料とする。絹綿。』

「束綿」、『たばね‐わた【束綿】

越前国(福井県)から産出された真綿。色はきわめて白く、品質が上等であったため多く進物などに利用された。』

「把」、『たば 【束・把】

いくつかのものをひとまとめにしたもの。まとめてたばねたもの。細長いものや平たく薄いものをまとめる場合にいう。「稲の―」「札―」「薪(まき)を―にする」』

 ここの娘4人は、美人画であっても、タスキをきりりと締め、力強くせっせせっせと働いている雰囲気を出しています。

 二人の娘が白布のようなものを引っ張って伸ばしているのが真綿です。繭を割って、煮て柔くなっているので、だましだまし破れないように少しずつ全体に伸ばして布状にしていきます。この当時は大きなナスの形のようなのが出来上がりのようで、それを干して完成でした。

 現在では額縁のような四角のものに引っ掛けて雑巾程度の大きさにして乾燥させて完成です。布団や座布団の中にそれら布状のものを重ね入れて、真綿布団や真綿座布団になります。「綿」とありますが、もちろん純正の「絹」です。

 

2026年2月14日土曜日

繪本寶能縷 その10

P9 国文学研究資料館蔵

絵本直指寳(えほんねざしだから)P9

(読み)

かゐこやしない草 㐧九



生 繭 を塩 尓浸 春こと

奈まま由 し本 ひ多


あり大きなる壺 の内 底

      つ本 うちそこ


丹竹 乃簀を入其 上 に

 多け す  そのうへ


桐 乃葉を敷 又其上耳

きり 者 しき


繭 を敷 ならべ又其上

ま由 しき   


耳桐 の葉を敷 て

 きり 者 しき


ふり可けよく蓋

      ふ多


をして上を泥

     とろ


尓て塗 ふさ起゛

  ぬり


七日すぎて



とり出 し

  い多゛


釜 耳入湯

可ま  由


の中 よ里

 奈可


篗 に可けて

王く


糸 尓久り

いと


取 な里

とる


北尾重政 画


(大意)

(補足)

「ふり可け」、原本にはこの語句の前に「塩(し本)を」があります。

「篗」、『わく 2【籰・篗】〔「枠(わく)」と同源〕

紡いだ糸を巻き取る道具。二本または,四本の木を対にして横木で支え,中央に軸を設けて回転するようにしたもの。おだまき。』

 わたしも子どもの頃、このくるくるまわす手伝いが面白くて大好きでした。もっともこんな大きな仕掛けではなく、繭を入れてる鍋に火をくべていますが、そのようなものではなく、鍋にお湯をはったものでした。

 この作業は原本のほうが仕事の内容としては正確です。鍋の中の繭から糸をほぐしとるこの画をよくみると、繭玉に一番近いところは数本が一緒にほぐされて、それから一本になっています。実際にやったことがある人ならすぐ理解できるとおもいますけど、たいていこんな具合になります。また、巻きとっているお姉さんの手つきもこの通りで、右手は右巻きに回すのですけど、左手の繭玉からの糸をたぐる調子にあわせておこなわないと、うまく巻き取ることはできません。糸巻きの部分もちゃんと巻き取った糸が一本一本描かれています(仕掛けの右下に巻き取り終わったふたつのおだ巻も)。そして、一巻分巻き取りおわった糸を吊るして干してあるのも、実際の作業どおりです。

 重政の画では、糸を巻き取っているところでは右回しにしているはずなのに、巻き取る糸の位置がおかしなところに描かれていたり、巻き取った糸も白い布のように描かれてしまっています(かまどのそばに二つあるおだ巻きも)。巻き取る仕掛けに重しの石をのせているところはそれっぽいのですけど、残念ながら精出して仕事をしているようには見えません。絵師は実際にこの作業を見たことがないのだろうということがわかってしまいます。美人絵を描くのが第一義ですから、まあ、無理なことでしょう。

 美人絵はもちろん、美しい。

 

2026年2月13日金曜日

繪本寶能縷 その9

P8 国文学研究資料館蔵

絵本直指寳(えほんねざしだから)P8

(読み)

かゐこやしない草 㐧 八

かいこやしないそうだいはち


蚕  糸 をはき

可いこいと

かいこいとをはき


お者里て

おわりて


蛾  乃蝶  丹

ひゞる ちやう

ひびるのちょうに


なりて飛

   とぶ

なりてとぶ


古れを蚕 蛾と

   さん可゛

これをさんがと


いふ奈り

いうなり


春  章  画

しゅんしょうえ

(大意)

(補足)

 中学生か高校生のときに「ちょうちょう」は昔は「てふてふ」と書いたのだと教わりました。原本では「てふ」、この本では「ちやう」となって、どちらでもよさそうです。

 この画では蚕蛾が飛んでいます。現在では蚕は繭を作ることに特化して品種改良されてしまって、飛ばないし蛾になっても口が退化してしまって(そのように改良した?)、蛾になっても生きていけないそうです。

 振袖姿の娘さん、柄の花は何でしょうねぇ。

 

2026年2月12日木曜日

繪本寶能縷 その8

 

P7 国文学研究資料館蔵

絵本直指寳(えほんねざしだから)P7

(読み)

かゐこやしない草 㐧 七

かいこやしないそうだいしち


蚕  種 を

可いこ多年

かいこだねを


とることハ

とることは


蔟   物 より

ま由者りもの

まゆはりものより


取 時 形  乃

とると起可多ち

とるときかたちの


よ起蚕  をゑらんで

  可いこ

よきかいこをえらんで


糸 尓てくゝり

いと

いとにてくくり


釣 置 ハ蛾  の

つりをけ ひゞる

つりをけばひびるの


蝶  尓奈り出 る

て ふ

ちょうになりいずる


牝牡を一ツ尓して

めを

めをひとつにして


紙 耳移 し置 バ

可ミ うつ をけ

かみにうつしおけば


段  々 子を産 付 る奈り

多゛ん\/こ うミつけ

だ んだんこをうみつけるなり


これをうハ子といふ

     こ

これをうわこという


北 尾重 政 画

きたおしげまさえ

(大意)

(補足)

 本文は原本と全く同一。

画は原本の左頁の庭の松や花を、三人のお姉さんがいる座敷の縁側の庭にもってきました。

 お姉さんたちは、タスキもはずして蛾とたわむれて楽しそうに過ごしているところ。立ち姿のお姉さんの着物柄が蚕蛾になっています。

 3人ともに体の線がやわらかくなめらかに描かれていて、蚕を世話する農夫にはとてもみえません。


2026年2月11日水曜日

繪本寶能縷 その7

P6 国文学研究資料館蔵

絵本直指寳(えほんねざしだから)P6

(読み)

かゐこやしない草 㐧 六

かいこやしないそうだいろく


蚕  まゆを作 る

かいこまゆをつくる


時 をはい子と

ときをはいしと


いふ廣 き蓋 乃

いうひろきふたの


類 尓椎 柴 奈ど

るいにしいしばなど


の物 を敷 入 天ひ

のものをしきいれてひ


きり多る蚕  を

きりたるかいこを


置 て菊 をおく

おきてきくをおく


ひ尓してまゆを

ひにしてまゆを


張 春なりさて

はりすなりさて


四五日 もして

しごにちもして


のちま由を

のちまゆを


一 川徒ゝもぎ

ひとつずつもぎ


は奈し天

はなして


取 奈り

とるなり


ま由張 物 を

まゆはりものを


蔟 といふ奈り

ぞく

ぞくというなり


春  章  画

しゅんしょうえ


(大意)

(補足)

「けい子」、けいしorけいこ、どちらでしょう。辞書にもありませんでした。

「ひきる」、蚕が成熟して繭を作る状態になること。

「蔟」、『まぶし【蔟】蚕が繭をつくるとき,糸をかけやすいようにした仕掛け。わら・竹・紙などで作る。蚕蔟(さんぞく)』

「一川徒ゝ」、「つ」の変体仮名は「川」「津」「徒」などがあります。「一つ」の「つ」がなめらかな曲線になってなくて、これは変体仮名「川」が「つ」になりかけてる形で、(カタカナの「ツ」はそのまま「川」のかたち)川をくずすとまんなかのたて棒が極端に短くなった形になります。

 この蚕場で働いている姿を描写しているのは右側のお姉さんのみです。他の二人はモデル(着物の裾はぞろぶいて、こんな格好で働けるわけがない、タスキもゆるゆる)を、蚕場にたたせてみせただけでしょう。原本と同じ構図ですけど。

 P5で「白い花二輪を左手にした女将さん」とかきましたが、ここでも左のおねえさんが同じものを手にしているところ見ると、繭玉のようでした。

 色っぽい二人と、右側の無地の着物に前掛け、姉さんかぶりでたすき掛けをしっかりしているお姉さん、上手に対比させています。

 

2026年2月10日火曜日

繪本寶能縷 その6


P5 国文学研究資料館蔵 

絵本直指寳(えほんねざしだから)P5

(読み)

かゐこやしない草 㐧 五

かいこやしないぐさだいご


蚕  春でに

可以

かいこすでに


大 眠  起 して

おおねむりおきして


後 盤桑 の

あとはくわの


葉を

はを


くるゝこと

くるること


前 ゝ よりハ

まえまえよりは


多 きゆへ

おおきゆえ


桑 能葉

くわのは


きざみ

きざみ


可へ春尓

かえすに


いと満なくして

いとまなくして


其 まゝ

そのまま


く王する

くわする


体 奈り

ていなり


北 尾重 政 画

きたおしげまさえ


(大意)

(補足)

 㐧五では画の様子がそれまでとちょっと変わります。

白い花二輪を左手にした女将さんのような御婦人が「どうだい、はかどっているかへ」とでもきいているように中をのぞいています。この方、黒の下駄をはいていて外にいるのに裾をひきずっています。また右手も竹の隙間から中に手を入れて格子を握っているところなど、絵師のこだわりがあるようです。

 中ではタスキをかけて桑の葉をやるのにいそがしそう。この二人、帯が前帯になっているのがよくわかります。子どもと女将さんは後帯。

 外は大きな百合の花が咲いています。旧暦の6月頃でしょうか。