2026年8月22日土曜日

大日本物産圖會その62

P62 東京都立図書館蔵 

P62_1

(読み)

三河  國 名倉砥(ナクラド)切 出 ノ圖

みかわのくに    なぐらど きりだしのず


八名郡 名倉 といふ地より

やなぐんなぐらというちより


切 出須故 尓名倉 砥の名

きりだすゆえになぐらどのな


なり山 中  砥石 の苗 を逐

なりさんちゅうといしのなえをちく


深 く堀 入、四角 尓長 く切

ふかくほりいれしかくにながくきり


出して四 本 づゝ馬 尓付

だしてよんほんずつうまにつけ


て里 尓い多゛須青 白 砥石

てさとにいだ すせいはくといし


と異  り薄 黒 く斑(マダラ)あり

とことなりうすぐろく  まだら あり


天其質(シツ)滑(ナメラカ)奈り刀剣剃(トウケンカミ)

てその しつ   なめらか なり    とうけんかみ


刀(ソリ)等 尓用 ひ又 合  砥に用 由

  そり とうにもちいまたあわせどにもちゆ

(大意)

(補足)

「三河國」、愛知県中部・東部に相当。三州(さんしゆう)。

「逐」、『ちく【逐】① 追いかける。追いはらう。「逐電」「逐鹿(ちくろく)」「駆逐」「放逐」② 順を追って進む。「逐一」「逐次」「逐日」「逐条」「逐語訳」』

「己」+「大」、「異」の異体字。古文書では普通に使われています。

「合砥」(あわせど)、天然の仕上げ砥石。人造砥石の#3000〜#13000以上に相当。

 わたしは木工を数十年やってまして、ほそぼそと販売を続けています。ですので刃物を研ぐのは日常で、砥石もいくつか所有しています。しかしながら天然砥石はとても高価で手が出ません。切れ味が少しでもおちたなとおもったらすぐに研ぐのが一番で、そのようにしていれば、大抵は中砥と仕上げでそれほど時間もかからずに研ぎ上がります。なお老婆心ながら、研ぐというと砥石と刃物をしゅっしゅっと動かすところしか動画などではでてきませんが、砥石ともう一つの砥石でこすり合わせて砥石面を真っ平らにするという大事な手入れをしないと、刃物はきちんと研げません。砥石は二ついるということです。

 以前TVで外国の方が日本の砥石の名産地で天然砥石を求め、帰国して包丁研ぎの仕事をしている様子が放映されました。その方の研ぎは上手で申し分ないのですが、研ぎ過ぎで砥石も刃物も、もったいなく、あの十分の一程かもっと少なくてよいのにと、とにかくもったいないとおもったものでした。研ぎの魔力で研ぎすぎてしまうのです。

 子どものころ、〽ほうちょう〜とぎやでございっ、と独特の節回しで、道具一式を肩にかついで街中を流す研屋さんがいました。わずかな金銭でササッと手早く出刃包丁や菜切り包丁を研ぐのを息を詰めてながめたものでした。

 露天掘りで掘り出してます。いくらでもとれたのでしょうか。現在では坑道を掘ってその奥で鉱脈をみつけ、少しずつの生産をしているようです。

 崖の上で切り出している職人ふたりや切り出された石を天秤棒で運ぶ二人の職人さん、また右側のそれらを加工したり、馬にヨイショッとのせようとしている人、皆々仕事中の体の力の入れようがわかる態勢を上手に描いているなぁと感心してしまいます。

 赤い花の濃淡のつけかたなど、これまた見事であります。


 

2026年8月21日金曜日

大日本物産圖會その61

P61 東京都立図書館蔵 

P61_1

(読み)

同 蝋 ヲ製 ス圖

どうろうをせいすず


志本゛里多る液(シル)を鍋(ナベ)尓て

しぼ りたる  しる を  なべ にて


溶(トカ)し大 奈る桶(ヲケ)へ冷(ヒヤ)水 を汲(クミ)

  とか しだいなる  おけ へ  ひや みずを  くみ


その上 尓穴 の穿(アキ)多る筥(ハコ)を

そのうえにあなの  あき たる  はこ を


置(オ)きと可し多る蝋 を筥 の内

  お きとかしたるろうをはこのうち


尓入る連バ穴 より漏(モ)連て

にいるればあなより  も れて


ひや水 の中 尓な可゛るゝを

ひやみずのなかになが るるを


手をもつてつよくもミ

てをもってつよくもみ


莚(ムシロ)へちらして日 光 耳

  むしろ へちらしてにっこうに


曝(サラ)しかハ可すこと十  五六

  さら しかわかすことじゅうごろく


日 のちた王ら尓つめ天

にちのちたわらにつめて


諸國(シヨコク)尓出す

   しょこく にだす

(大意)

(補足)

 いくつかの工程をコマ割りして描くのではなく、一枚の中にすべておさめてしまうという「大日本物産圖會」の手法。

「同」、岩代國。

 説明札が3枚あります。左から黄札「蝋を晒ス図」、赤札「蝋ヲ搾ル図」、白札「莚ノ上ニ晒ス」。

 母(ニコニコ顔です)娘が背景に、母の持っているものは一服するときのお菓子かそれともお昼の握り飯か。

 絵がとても鮮明で、また賑やかで活気があふれでています。黒いかたまりがいくつもありますがこれなんでしょうか?

 

2026年8月20日木曜日

大日本物産圖會その60

P60 東京都立図書館蔵 

P60_1

(読み)

岩 代  國 会 津蝋 實採 ノ図

いわしろのくにあいずろうみとりのず


蝋(ラウ)ハ日 用 必 需(ヒツジユ)の品 尓て山漆(ウルシ)

  ろう はにちよう    ひつじゅ のしなにてやま うるし  


ハゼ漆  天竺桂(コガノキ)の実等 より

はぜうるし    こがのき のみなどより


採(トリ)或(アルイ)ハ蜂(ハチ)の巣(ス)水蝋樹(イボタ)ホ より

  とり   あるい は  はち の  す     いぼた などより


取るものあり當 国 尓て漆樹(ウルシ)

とるものありとうごくにて   うるし


よりとる物 ハ十  月 落 葉 頃(コロ)

よりとりものはじゅうがつらくよう  ころ


実(ミ)をとり臼(ウス)尓て搗(ツキ)箕(ミ)尓

  み をとり  うす にて  つき   み に


て粉(コ)と種(タネ)とを簸(フルヒ)王け大

て  こ と  たね とを  ふるい わけおお


釜(カマ)の上 へ木材(キ)を並 べ莚(ムシロ)を

  がま のうえへ   き をならべ  むしろ を


布(シ)き搗(ツキ)多る粉を橵(チラ)し蒸(ムシ)

 し き   つき たるこを  ちら し  むし


て又 麻(アサ)の帒(フクロ)尓入連ふ多ゝび

てまた  あさ の  ふくろ にいれふたたび


むして〆 木尓いれ搾(シボル)奈り

むしてしめきにいれ  しぼる なり

(大意)

(補足)

「岩代國」、いわしろ いはしろ 【岩代・磐代】① 旧国名の一。1868年(明治1)陸奥(むつ)国を分割して成立。福島県中西部に相当。

「天竺桂」、『「天竺桂(てんじくけい)」および「コガノキ(鹿子木)」は、どちらも複数のクスノキ科の常緑高木を指す古い漢名や別名であり、文脈によってヤブニッケイまたはカゴノキのどちらをも指す場合がある』。

「水蝋樹」、『いぼたのき【〈水蠟〉 樹・疣取木】モクセイ科の落葉低木。葉は対生し,長楕円形で全縁。五月頃,枝先に白色四弁の筒状花を数個ずつ開き,秋に紫黒色の実を結ぶ。日本各地に分布。この樹皮に寄生するイボタカイガラムシ(イボタロウムシ)の分泌する蠟(ろう)分からイボタ蠟を採集する。イボタ』。

「粉」、右側は「分」でそのくずし字は「彡」(さんづくり)+「丶」です。

 この画のように蝋の原料を採ることは現在でも行われていて、石油由来の蝋では代替できない分野では必需品です。これからも天然蝋はなくならないとおもいます。

 櫨(ハゼ)の実からとった蝋で作られた蝋燭を何本も持っています。会津の絵蝋燭ももう50年以上手元にあって、もったいなくてながめるだけにしています。

 枝からぶら下げた籠がきれいです。

 

2026年8月19日水曜日

大日本物産圖會その59

P59 東京都立図書館蔵 

P59_1

(読み)

伊豫 国 鷹 捕 之圖一

いよのくにたかとりのずいち


鷹 を捕る尓ハ張 切 網 と天

たかをとるにははりきりあみとて


羅の目一 二寸 尓てす可゛糸 を以 て

らのめいちにすんにてすが いとをもって


作 り竪 四 尺  よこ二間 者可り奈る

つくりたてよんしゃくよこにけんばかりなる


を鷹 觸 れハ縮  寄 やうに

をたかふれればちじみよるように


張 てその下 へ提  灯 羅とて三 尺  者゛

はりてそのしたへちょうちんらとてさんじゃくば


可りの丸 網 の中 へ鵯(ヒヨドリ)を入 おき

かりのまるあみのなかへ  ひよどり をいれおき


か多ハら尓蛇 の可多ちを木尓て

かたわらにへびのかたちをきにて


造 り竹 のつゝ尓入 糸 を奈可゛く

つくりたけのつつにいれいとをなが く


つけて夜 中尓仕可けお起早 天

つけてよなかにしかけおきそうてん


尓鷹 木末 を出るとき陀 の糸

にたかきすえをでるときへびのいと


を引 鵯   の方 を目可゛けて動 可せバ恐

をひきひよどりのほうをめが けてうごかせばおそ


れて騒  立 を見て鷹 是 をとらん

れてさわぎたつをみてたかこれをとらん


とし羅尓加ゝるをとる奈り

としらにかかるをとるなり

(大意)

(補足)

 画の発色や詞書きの文字のキレがとても鮮明です。

「伊豫国」、愛媛県全域にあたる。予州。

「羅」、『ら【羅】① 薄く織った絹布の総称。うすぎぬ。うすもの。② 搦(から)み織りの技法を用いて織った目の粗い絹織物。③ 陰茎。魔羅(まら)』『ら【羅】① あみ。あみでとる。「羅致」「羅網」「網羅」② つらねる。つらなる。「羅布」「羅列」「棋羅」「森羅」』。

「す可゛糸」、『すがいと【絓糸】縒(よ)りをかけない一本の生糸。日本刺繡などに用いる』。

「早天」、『そうてん さう―【早天】① 早朝。「翌九日の―に江刺を向て襲ふの体に」〈近世紀聞•延房〉② 夜明けの空。』

 網の上の赤札には「張切アミ」。

 網は絵師・彫師・摺師の技の見せどころの画題のひとつです。ここの張切網も見事であります。網の上の樹木は広葉樹、猟師の後ろは針葉樹、ちゃんと描きわけていています。

 

2026年8月18日火曜日

大日本物産圖會その58

P58 埼玉県立川の博物館蔵 

P58_1

(読み)

同 炭 焼 場之圖

どうすみやきばのず


炭 ハ豆州  天城(アマギ)山妻良(メラ)

すみはずしゅう   あまぎ さん  めら


小浦(ウラ)より多 く出す山

こ  うら よりおおくだすさん   


中  尓土 をもつて大 い奈る

ちゅうにつちをもっておおいなる


焼竃(ヤキガマ)を徒くり楢(ナラ)椚(クノギ)樫(カシ)の

   やきがま をつくり  なら   くのぎ   かし の


木等 を建(タテ)尓並  い連天

きとうを  たて にならべいれて


火をほどこしふ多をして

ひをほどこしふたをして


燻(ムシ)やきにし天製 す

  むし やきにしてせいす


こと尓堅硬(ケンゴウ)なるものを

ことに   けんごう なるものを


ビンチヤウと称  すこれハ

びんちょうとしょうすこれは


ウバガシ尓天焚(タキ)多る物

うばがしにて  たき たるもの


なり

なり

(大意)

(補足)

 画像の解像度が低いので、詞書きが不鮮明です。

「同」、伊豆国。

「妻良」、『子浦(こうら)と妻良は天然の崖と人工の防波堤で守られた南伊豆最大の良港に面している』。

「椚」、『くぬぎ【櫟・椚・橡・櫪】ブナ科の落葉高木。雑木林に多い。葉は狭長楕円形で縁に鋸歯(きよし)がある。秋,球形の「どんぐり」がなる。どんぐりの皿には線形の鱗片(りんぺん)が多数つく。材をシイタケ栽培の原木に用い,また薪炭材とする。樹皮は染料に用いる。古名ツルバミ』

 ここでは炭の製造を産業としている地域のひとつとしてここ伊豆を取り上げています。しかし、日本の村々では山が近いこともあって、小さな炭焼小屋は全国至る所にありました。村と村が接するところでは小枝を拾ったりすることについても、村同士の決まりがあって、里山は厳しく管理されていました。

 ここで炭とする樹木に楢・椚・樫があげられています。どれも非常に硬くて重い広葉樹です。山から伐採し、竃に入れるように形を整える、どれも重労働です。

 

2026年8月17日月曜日

大日本物産圖會その57

P57 東京都立図書館蔵 

P57_1

(読み)

伊豆 國 椿  の油  を取 圖

いずのくにつばきのあぶらをとるず


當 國 新(ニイ)島 三宅(ミヤケ)島 其 他

とうごく  にい じま   みやけ じまそのほか


七 島 中  椿樹(ツバキ)の多 きこと

しちとうちゅう   つばき のおおきこと


本邦(ホンホウ)第 一 とす山野(サンヤ)尓自(ジ)

   ほんぽう だいいちとす   さんや に  じ


生(シヤウ)してその花 者も艶麗(キレイ)

  しょう してそのはなはも   きれい


なり花 ちりて後 實(ミ)越

なりはなちりてのち  み を


むすぶ土人 これを採(ト)りて

むすぶどじんこれを  と りて


臼(ウス)尓て搗(ツキ)袋  尓入 て〆 木

  うす にて  つき ふくろにいれてしめき


尓可け油  を搾(シボ)るそ能色

にかけあぶらを  しぼ るそのいろ


志ろく澄清(スミ)尓し天粘(ネバ)

しろく   すみ にして  ねば


ら須゛洋州(ヤウジ ウ)のホルト油尓

らず    ようしゅう のほるとゆに


勝(マサ)連り

  まさ れり

(大意)

(補足)

 構図は椿の花をこれでもかというくらいに巨大に描き、遠近感と奥行きを与える広重定番の技。

 またこの画は色があせていますが、これら木版画がどのように劣化するかを知るためにも、それなりに貴重な資料となります。画の周辺がボロボロになりはじめてもいます。

「ホルト」、『ホルト。ポルトガルの転』の油なのでオリーブオイルのこと。

 椿油というと、食用油としてよりも、大相撲の関取衆の鬢付け油の香りが鼻をクンクンとさせて思い出されます。両国界隈お相撲さんが歩いたあとには椿油の残り香があって、とっくに見えなくなってしまった関取を探してキョロキョロしてしまいます。

 

2026年8月16日日曜日

大日本物産圖會その56

P56 国立国会図書館デジタルコレクション蔵 

P56_1

(読み)

阿波 國 藍 玉 製 之圖二

あわのくにあいだませいのずに


刈 取 多る全 草 を三 部尓分け末 の

かりとりたるぜんそうをさんぶにわけすえの


方 十  分を「上  リン」中  の方 十  分ヲ「中

ほうじゅうぶを じょうりん ちゅうのほうじゅうぶを ちゅう


リン」本 の方 十  分の四を本 葉と區

りん もとのほうじゅうぶのしをほんばとく


分 し鉈(ナタ)尓て細 可尓し日尓干し黒

ぶんし  なた にてこまかにしひにほしくろ


色 尓化するを度として莖 を去リ

いろにかするをどとしてくきをさり


俵  尓納 むる也○打 粉は朝 より

たわらにおさむるなりうちこはあさより


刈 倒  日尓干 四分六 尓押 切 可ら

かりたおしひにほすしぶろくにおしきりから


竿 尓て打 こなし葉と莖 と分ケ

さおにてうちこなしはとくきにわけ


て納 む蒅(スクモ)製  ハすくも蔵 尓入

ておさむ  すくも せいすはすくもくらにいれ


筵  を可け度 々 水 を注(ソゝ)ぎ床 返

むしろをかけたびたびみずを  そそ ぎとこがえし


をして八 十  日 の後 尓四 貫 目程 を

をしてはちじゅうにちののちによんかんめほどを


一 臼 として上  品 は二 日程 搗 て二十  五尓

ひとうすとしてじょうひんはふつかほどつきてにじゅうごに


丸 め俵  尓納 むる奈り

まるめたわらにおさむるなり

(大意)

(補足)

「蒅」、『すくも【蒅】藍(あい)の葉に水を加えて発酵させたもの。黒褐色の塊』。

「二十五尓丸め俵尓納むる」、意味がちょっと不明ですが、「四貫目程を一臼」とあって、約15kgをついて、それを25個の藍玉にして俵に納めて蔵に入れるのだとおもいます。

 赤札3枚黄札1枚があってそれぞれ作業の説明を記しています。赤札「藍ヲコナス」(から竿で打ちこなす)、「あゐ玉ヲ蔵尓入ル」、「藍玉ヲ?ル」。黄札「スクモ蔵」。

 材木は末(すえ)が木の先端で、根の部分を元(もと)といいます。ここでも同様で藍草の先端を末、元を本としています。

 畳の新しいものは藺草の溌剌とした香りが気持ちも躰もシャンとさせてくれます。藍染めした半纏もあの独特な藍染の香りが体に力を与えてくれますが、最近は昔ながらの藍染は少なくなって、化学染料なのか香りがしません。

 ここで働く職人さんたちの半纏はほとんどが藍染です。スクモ蔵の藁葺きの濃淡がきれいです。