2024年5月15日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その49

P19 国文学研究資料館蔵

(読み)

「命  のちゞむ尓も

 いのちのちぢむにも


いろ\/あり女  ゆへ尓

いろいろありおんなゆへに


命  のちゞむを奈り

いのちのちぢむをなり


ひらちゞミといひ金

ひらちぢみといいかね


もちのいのちのちゞ

もちのいのちのちぢ


むをふくらちゞみ

むをふくらちぢみ


といひく以もので

といいくいもので


いのちのちゞむを

いのちのちぢむを


志たきりちゞミと

したきりちぢみと


いひちやじんのいのち

いいちゃじんのいのち


のちゞむを春起やちゞ

のちぢみをすきやちぢ


ミといひか春り者゛可り

みといいかすりば かり


とり多可゛る人 のいのち

とりたが るひとのいのち


のちゞむをゑちごちゞミ

のちじむをえちごちぢみ


といふきぬちゞミもめん

というきぬちぢみもめん


ちゞミ尓もそれ\/尓い王

ちぢみにもそれぞれにいわ


れあるべし

れあるべし

(大意)

 命の縮むのにもいろいろある。女ゆえに命の縮むことを業平ちぢみ(本所業平橋あたりでとれた名産のしじみ)といい、金持ちの命の縮むことをふくらちぢみ(ふくらすずめ)といい、食い物で命の縮むことを舌切ちぢみ(舌切雀)といい、茶人の命の縮むことをすきやちぢみ(数寄屋(茶室)造り)といい、かすり(ピンハネ)ばかり取りたがる人の命がちぢむことを越後ちぢみ(絣(かすり)を扱う有名どころの呉服屋のひとつ)という。絹縮・木綿縮にも、それぞれにいわれがあるいちがいない。

(補足)

 判じ物は「奢った報いでござる」だとおもいますけど、△の部分がどうしてそうなるのか考え中・・・

 

2024年5月14日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その48

P19 国文学研究資料館蔵

(読み)

[命  可゛ちゞむ]

 いのちが ちぢむ


命  のせん多くも志春

いのちのせんたくもしす


ぐせバお本ミそ可尓

ぐせばおおみそかに


かけとり可゛やろう能

かけとりが やろうの


とう可゛んぶ年可五百

とうが んぶねかごひゃく


ら可んのげんぞく志

らかんのげんぞくし


多やうにつめ可けせ川

たようにつめかけせっ


かくひき能者゛し多

かくひきのば した


命  をい川と起尓ちゞ

いのちをいっときにちぢ


める

める

(大意)

[命がちぢむ]

 命の洗濯もしすぎてしまうと、大晦日の掛取りが、野郎の冬瓜船か五百羅漢が還俗したようにして詰めかけ、せっかく引き延ばした命をいっぺんに縮めてしまう。

(補足)

「やろう能とう可゛んぶ年可五百ら可んのげんぞく志多やうに」、掛取りたちのハゲ頭(といっても、ちょんまげの月代)を、船の上に積み上げられた冬瓜や五百羅漢の表情にたとえている。ここでは八人の冬瓜が集まってます。それぞれの表情も京伝工夫して変化させています。

 掛取りたちが持ってきた提灯の絵文字を右から読むと、「おごつ(た)」「むくい(手゛)」とつづき、最後はさてなんでしょうか?

 

2024年5月13日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その47

P17P18 国文学研究資料館蔵

P18

(読み)

う多

うた


「さても見事 や

 さてもみごとや


ふりもよし者多゛

ふりもよしはだ


可春可゛多能可ハ由ら

かすが たのかわゆら


しさ満の志め

しさまのしめ


多るふんどしハ

たるふんどしは


奈尓と申 スふん

なにともうすふん


どしぞ

どしぞ


「ちり可ら\/

 ちりからちりから


春多\/

すたすた


本゛う

ぼう 


(大意)

歌「さても見事や、振りもよし、裸姿のかわゆらし、様のしめたるふんどしは、なんと申す褌ぞ。

(二挺鼓の音)「ちりからちりから、すたすた坊主

(補足)

歌なので文句は七五調。

「ちり可ら\/春多\/本゛う春」、「九替十年色地獄 その58」では天女の二挺鼓でした。

こちらのはまったく実写のようで、実際のお座敷の様子のようです。

 当時は誰もが吉原で花魁と座敷で遊ぶなどということはできませんでしたから、このような出版物でその様子を知ることが多かっただろうし、あこがれもいだいたのでしょう。京伝もそれらのことを意識して、花魁の姿や部屋を特別美化することなく、見たままを丁寧に描き、紹介しているようにおもわれます。

 

2024年5月12日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その46

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

「おや者゛可

 おやば か


らしい可ぜを

らしいかぜを


ひき奈んしやう

ひきなんしょう


尓へ

にぇ


「ゆやでふんどし

 ゆやでふんどし


のせん多く春る

のせんたくする


きどり多゛ぞ

きどれだ ぞ


「これ可゛本んの金 を

 これが ほんのかねを


ゆミ川゛のやうに

ゆみず のように


つ可うといふの多

つかうというのだ


奈んときつい可\/

なんときついかきついか


命  のせん多く

いのちのせんたく


とハいふものゝ

とはいうものの


志川ハふられ多

じつはふられた


者ぢを春ゝぎ

はじをすすぎ


多゛春のさ

だ すのさ

(大意)

「おや、馬鹿らしい。かぜをひきなんしょうにぇ。

「湯屋でふんどしを洗濯しているようであろう。

「これがほんとうの『金を湯水のように使う』ということなのだ。なんともたいしたものだ、すばらしい。命の洗濯とはいうものの、実はふられた恥を洗い流しているさ。

(補足)

「ふんどし」、ここの「と」は「Z」+「ヽ」のようなかたち。

「きつい」、ここの『きつい』は『⑥ 大したものだ。素晴らしい。「お娘御の三味線は―・いものでござる」〈咄本・鯛の味噌津〉』

 「命の洗濯に〜する」とはいまでも温泉湯治に行くときなど普通に使われていますが、この当時から、いやもっと時代は遡るのかもしれません。

 右隅のまだ小柄な女性は着物の裾も短く足がみえています。髷も小さい。禿(かむろ)です。

 

2024年5月11日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その45

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

「こゝろに志ハ

 こころにしわ


ミのこらぬやう

みのこらぬよう


に命  のせん多く

にいのちのせんたく


を春るの多゛じゆ

をするのだ じゅ


者゛ん奈ら一 もん可゛

ば んならいちもんが


能りで春む可゛命

のりですむが いのち


のせんた

のせんた


く丹ハ

くには


小者゛ん金 で

こば んがねで


な个れバのり

なければのり

P18

可゛き可ねへ

が きかねえ

(大意)

「心にしわがよらぬように命の洗濯をするのだ。襦袢ならば一文の糊ですむが、命の洗濯には、小判の金でなければ糊がきかねぇ。

(補足)

 命を洗濯する男、身ぐるみ一式洗ってしまったのか、手ぬぐいを腰にまわしてかくしています。

 人物もですが、部屋の作りや細々した什器なども丁寧に描かれています。

 

2024年5月10日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その44

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

[命  能せん多く]

 いのちのせんたく


命  といふや川可゛と起\゛/

いのちというやつが ときどき


せん多くせぬとよくあ可本゛ん

せんたくせぬとよくあかぼ ん


のうにけ可゛れてあぶらやの

のうにけが れてあぶらやの


ぞうきんのごとくよごれ

ぞうきんのごとくよごれ


つひ尓ハ命  可゛ねぐさるもの

ついにはいのちが ねぐさるもの


奈り志可しいのちのせん多く

なりしかしいのちのせんたく


もあらひ春ぐせバての可ハ

もあらいすぐせばてのかわ


をすりむき奈以しやう可゛

をすりむきないしょうが


本ころびて志んだ以のぢ

ほころびてしんだいのじ


あい可゛王るく奈る

あいが わるくなる


もの奈れバその

ものなればその


本ど\゛/を可ん可゛へ

ほどほど をかんが え


てせん多く春べし

てせんたくすべし


か奈らずあらひ

かならずあらい


春ぐ春べ可ら須

すぐすべからず

(大意)

 命というやつは、ときどき洗濯をしないと、欲・垢・煩悩にけがれて、油屋の雑巾のように汚れてしまい、ついには命が根腐ってしまう。しかし命の洗濯も洗いすぎれば、手の皮をすりむき、懐具合もさみしくなり、身代の具合も悪くなってしまうものなので、そのほどほどの加減を考え洗濯しなければならない。洗いすぎは厳にしてはならない。

(補足)

「よくあ可本゛んのう」、一読ではなんのことかわからず。わかってしまえば3つの語彙の連続でした。よくあることです。

 吉原の遊女屋の座敷の場面。遊女たちの髷が横に広がり、笄(こうがい)の飾りも派手で、うしろが大髷になっているのは当時の流行であったと、ものの本にありました。

 床の間横の棚に、囲碁一式があります。遊女の嗜みのひとつで、かなりの腕の花魁もいたそうです。

 

2024年5月9日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その43

P16 国文学研究資料館蔵

(読み)

「一 川べ川徒いの本そ起けふりの

 ひとつべっついのほそきけむりの


いとをも川てろめいをつ奈ぐハ

いとをもってろめいをつなぐは


千 ごくづミのふ年をきぬ

せんごくぶねのふねをきぬ


いとでつ奈ぐよりも

いとでつなぐよりも


奈本あやうし

なおあやうし


「おれハ奈可゛\゛/

 おれはなが なが


のらう尓んも

のろうにんも


のでハ奈以

のではない


な可゛いきの

なが いきの


ごう尓んもの多゛

ごうにんものだ


露命(ろめい)越つ奈ぐ

   ろめい をつなぐ

(大意)

 造り付けの竈(かまど)からの糸のように細い煙で露命をつなぐことは、千石船の船を絹糸でつないでおくことよりも、いっそう危ぶまれることである。

「おれはずっと浪人者であったのではない。長生きの厄介者だ。

[露命をつなぐ]

(補足)

「一川べ川徒い」、こんな単語は辞書にあるまいとおもって調べるとありました。

『ひとつべっつい ―べつつひ【一つ竈】

① ただ一つだけ,造り設けたへっつい。

② 歌舞伎の鬘(かずら)の一。剃髪(ていはつ)した者が再び髪を伸ばし始めてまだ髷(まげ)が結えないときの髪形で,月代(さかやき)と額だけを剃(そ)ったもの』

「ごう尓ん」、『ごうにん ごふ―【業人】

① 前世の悪業の報いをうける人間。また,悪業を行う人。

② 人をののしっていう語。業さらし。「やいここな運命つきの―め」〈浄瑠璃・用明天皇職人鑑〉』。ここでは浪人者にひっかけた洒落。

「露」のくずし字を調べてみると、ここのとはちょっと違っていました。

 浪人者の住居としては、造り付けの竃(見るからに立派)に薪もふんだんにあり、お茶碗や桶もあって、そこそこの生活をしていそう。団扇はあっても火吹き竹が見当たりません。

 

2024年5月8日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その42

P16 国文学研究資料館蔵

(読み)

「命  を玉 のをと

 いのちをたまのおと


いひて命  の本そ

いいていのちのほそ


きこといとのごと

きこといとのごと


くま多露(ろ)命 と

くまた  ろ めいと


いひて命  のもろき

いいていのちのもろき


ことつ由のごとし

ことつゆのごとし


くものゐ尓あれ多

くものいにあれた


るこ満ハつ奈ぐと

るこまはつなぐと


もつ奈ぎ可ねるハ

もつなぎかねるは


命  奈り

いのちなり


「いのち奈可゛けれバ

 いのちなが ければ


者ぢお本し四十  丹

はじおおししじゅうに


志て志奈んこそめ

してしなんこそめ


や春可るべ个れと个んこう

やすかるべけれとけんこう


本うしの可き能こされしも

ほうしのかきのこされしも


うべ奈る可奈奈可゛いきをして

うべなるかななが いきをして


者ぢお本きハひつきやう命

はじおおきはひっきょういのち


の多め尓くるしめらるゝ可゛ご

のためにくるしめらるるが ご


とし

とし

(大意)

 命は魂(たましい)の緒(魂をつなぎとめる緒。細く切れそうではかなさの表現)といって、命の細いこと糸のようである。また露命といって、命のもろいこと露(つゆ)のようである。蜘蛛の糸に暴れ馬をつなごうとしても、つなぐことが出来ないのが命である。

「命長ければ恥多し。四十にして死なんこそ目安かるべけれ」と、兼好法師が書き残されたのも、うなずけることである。長生きをして恥多きは、結局のところ、命のために苦しめられるようなものである。

(補足)

「玉のを」、『たまのお ―を【玉の緒】

① 玉をつらぬいた糸。また,特に宝玉の首飾り。

② 〔「魂の緒」の意〕いのち。生命。「なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける―ばかり」〈伊勢物語•14〉』

「くものゐ尓」、この「ゐ」は「糸」や「家」の「い」のことでしょうか。

「くるしめらるゝ」、「るゝ」が悩みます。

 浪人のかぶる編笠をやけに丁寧に描いています。「ろ命」をこのままネオンサインにしてもよいくらい気に入りました。飲み屋やバーの看板にピッタシ。

 壁のきず汚れ隠しに「いろは」「ほへと」と練習した半紙を裏返しに貼ってあるところがなかなか芸が細かい。

 

2024年5月7日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その41

P15 国文学研究資料館蔵

(読み)

[からき命  を拾(ひろ)ふ]

 からきいのちを  ひろ う


「ひり里と

 ひりりと


からい可゛さん

からいが さん


志よのこひよろ

しょのこひょろ


りと奈可゛いハ多

りとなが いはた


し可尓人 のあ

しかにひとのあ


しであんべい

しであんべい


これハ七 いろ

これはなないろ


とう可゛らし

とうが らし


でハ奈く

ではなく


て奈まへ

てなまえ


のごうさらし多゛

のごうさらしだ


「あゝあぶ内(奈い)といふや川こ

 あああぶ  ない というやっこ


さんさけ尓よ川多と

さんさけによったと


ミへるハへ

みえるわえ


「から多゛ハ志ずむ命  ハむ可し者゛奈し能

 からだ はしずむいのちはむかしば なしの


もゝのやうに

もものように


奈可゛れて

なが れて


ゆく

ゆく

(大意)

「ひりりと辛いが山椒の粉(こ)、ひょろりと長いは、たしかに人の足であんべい。これは七色唐辛子ではなくて、名前の業さらしだ(みっともないことだ)。

「あぁ、あぶない、というやっこさん、酒に酔ったとみえるわい。

「からだは沈む、命は昔話の桃のように流れてゆく。

(補足)

 唐辛子売が川端を売り声調子良く「ひりりと辛いが山椒の粉、」と言いながら、川の中を見ると「ひょろりと長いは、たしかに人の足」と続ける。命は流れてゆくが、辛き命はかろうじて救われる。

 「名前の業さらし」は「七色唐辛子」の音をなぞっている洒落か?

 

2024年5月6日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その40

P15 国文学研究資料館蔵

(読み)

ある人 さけ丹ゑい

あるひとさけにえい


ひよろ\/ 志奈可゛ら

ひょろひょろしなが ら


川 者多をとふりふみ者川゛

かわばたをとうりふみはず


して川 へ者まり命  あや

してかわへはまりいのちあや


うくミへ多るところに

うくみえたるところに


おりよくとん\/とうがら

おりよくとんとんとうがら


しうりとふり可ゝりあ

しうりとおりかかりあ


やう起命  をひろい阿

やうきいのちをひろいあ


けるからき命  をひらう

げるからきいのちをひろう


といふことハこのと起

ということはこのとき


よりぞ者じまり个る

よりぞはじまりける

(大意)

 ある人酒に酔い、ふらふらしながら川端を通り、踏み外して川へはまり、命が危なかったところへ、ちょうどとんと唐辛子売りが通りかかり、危なかった命を拾い上げた。辛き命を拾うとは、まさにこのときより始まったのである。

(補足)

「さけ丹ゑい」、この変体仮名「丹」(に)もよく出てきます。『えい ゑひ 【酔ひ】

酔うこと。よい。「皆―になりて」〈源氏物語•行幸〉』

「川者多をとふり」「とうがらし」、ここの「と」は他の「と」はかたちがことなっています。唐辛子売の着物の柄にもこのかたちの「と」が使われています。

「ふみ者川゛して」、ほとんどが「ミ」ですが、たまに平仮名「み」も出現。

 唐辛子売はほんとうに色鮮やか真っ赤なハリボテのでっかい唐辛子をかついで、売り歩いていたのだから、なんとも斬新であります。

 

2024年5月5日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その39

P13P14 国文学研究資料館蔵

P14

(読み)

P13

忠臣水滸伝(ち うしん春いこでん) 京  傅 作 かうへん五さ川

      ちゅうしんすいこでん  きょうでんさくこうへんごさつ


当 ねん出来うり出し申  候

とうねんできうりだしもうしそうろう


P14

◯京  伝 店 志んもの御ひろう

  きょうでんだなしんものごひろう


△定  九郎 く春べ可゛ミ多

  じょうくろうくすべが みた


者゛こ入れ品 ゝ

ば こいれしなじな


「これハてあ多り可゛者ぶ多へ

 これはてあたりが はぶたえ


でよう可んいろ奈るゆへ

でようかんいろなるゆえ


尓かくなづけ申  候

にかくなずけもうしそうろう


△ゑん志 う形(可゛多)

  えんしゅう  が た


△ふ川き形

  ふっきがた


△立身(りつしん)形

        りっしん がた


右 御多葉粉入

みぎおたばこいれ


志んもの此 外 品 ゝ

しんものこのほかしなじな


しん可゛多あり(きせるの図)

しんが たあり


尓毛め川゛らしき新

にもめず らしきしん


可゛多以ろ\/あり

が たいろいろあり


く王しく盤志る

くわしくはしる


し可゛多し

しが たし


野暮 長  命 舊  跡

やぼのちょうめいきゅうせき

(大意)

忠臣水滸伝 京伝作 後編五冊 当年出来売り出し申し候

◯京伝店新物ご披露

△定九郎くすべ紙煙草入れ品々

これは手触りが羽二重で羊羹色なためにこのように名付け申し候

△遠州形

△富貴形

△立身形

右お煙草入れ新物、この他品々新型あり。

(きせる)にも珍しき新形色々あり。詳しくは記しがたし。

(補足)

 自身の新作読本「忠臣水滸伝」と京伝の煙草入れの店の広告を載せています。

「品々」、「品」のくずし字が全ページの「所」とほとんど同じ形です。

「く春べ」、『くす・べる【燻べる】

① 煙が多く出るように燃やす。いぶす。くすぶらせる。「蚊やりを―・べる」』

「御多葉粉入」、「葉」のくずし字が二文字のようにみえますが、これで一文字。「粉」の右側「分」がちゃんと「分」のくずし字になっています。

「く王しく盤」、変体仮名「盤」(は)としましたが。

「野暮長命舊跡」、鴨長明のもじり。この石碑の「旧」は「観の偏(こうのとり)」+「旧」。

 京伝のこの店は浮世絵や錦絵にも描かれていて、ネットで見ることができます。

 

2024年5月4日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その38

P13P14 国文学研究資料館蔵

P13

(読み)

[命  越春て尓ゆく]

 いのちをすてにゆく


「此 さくしやハミち

 このさくしゃはみち


ゆ起のゆめをミ多

ゆきのゆめをみた


そうでもんくハあ

そうでもんくはあ


多可もねごと

たかもねごと


能ごとく多゛

のごとくだ


「とても王しハ

 とてもわしは


春てねバ

すてねば


奈らぬい

ならぬい


のち

のち


所  を

ところを


春て

すて


春゛尓こゝ

ず にここ


可ら内 へ

からうちへ


可へる本ど

かへるほど


尓そ奈多

にそなた


ハあと尓

はあとに


とゞまつ

とどまっ


て春てる

てすてる


ともどう

ともどう


とも志やれ

ともしやれ


「おまへハよい所  へき可゛

 おまえはよいところへきが


つき奈春川多命

つきなすったいのち


を春てるさう多゛んハ

をすてるそうだ んは


まあ七 八 十  ねんの者゛

まあしちはちじゅうねんのば


しやしやう

しゃしょう

(大意)

[命を捨てにゆく]

「この作者は、道行きの夢を見たようで、文章はあたかも寝言のごとくだ。

「とはいっても、わたしは捨てねばならぬ命ではあるが、捨てるのはやめてここから戻るから、そなたはここに残って捨てるともどうともしやれ。

「お前はよいところに気がつきなすった。命を捨てる相談は七八十年延ばしましょう。

(補足)

「とても王しハ春てねバ」、変体仮名「春」がくずれていますが、このあとの「所を

春て」の「春て」とまぁまぁ同じかたちです。

「所」のくずし字が二箇所出てきます。最初のは「〜のに、〜だが」、あとのは「場所・箇所を数えるのに用いる。「気に入らぬ所がふた―ある」」。

 命の相合い傘、ひとりが傘の柄を持ち相手を思いやるようにかざすものばかりとおもっていましたが、よく見ると男の持ち手の上に女の手が同じように握っています。これが相合い傘の正しい作法なのかと🤔。

 男は裸足、女は着物の裾に隠れてますけどきっと裸足。これは道行き、命を捨てるにあたっての作法でありましょう。

 

2024年5月3日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その37

P13P14 国文学研究資料館蔵

P14

(読み)

やく王んとミせて本う可ふり

やか んとみせてほうかぶり


む可し能ミ奈らバとのやうに

むかしのみならばどのように


志やうもやうハ

しょうもようは


多つ多川

たつたがわ


高 尾も

たかおも


びく尓も

びくにも


いろの道

いろのみち


ふミまよ

ふみまよ


う多る

うたる


こ以の道

こいのみち


いん可゛王

いんが


じや柳

じゃやなぎ


いと柳

いとやなぎ


つ奈可゛る

つなが る


えんや

えんや


ぬへのを

ぬえのを


のへびを

のへびを


つ可ひて

つかいて


これまで

これまで


もいきの

もいきの


ひ多の可゛と

びたのが と


く王可尓こ

くわかにこ


まん才 三

まんさいぞう


尓おごま

におごま


さん志ま

さんしま


さんこんさ

さんこんさ


ん奈可多ん本一 寸

んなかたんぼいっすん


さ起ハまゝの川

さきはままのかわ


つひの命  の春て所  いさかしこへといそ起゛ゆく

ついのいのちのすてどころいざかしこへといそぎ ゆく

(大意)

薬缶とみせて頬かぶり、昔の身ならばどのように、しょう模様は竜田川、高尾も比丘尼も色の道、踏み迷うたる恋の道、因果じゃ柳いと柳、つながる縁や鵺の尾の、蛇を使いてこれまでも、生き延びたのが徳若に、小万才三にお駒さん、しまさんこんさん中田んぼ、一寸先は儘の川の、終の命の捨て所、いざかしこへと急ぎゆく。

(補足)

「む可し能ミ奈らバとのやうに」、「や」が「か」のようにみえますが、次の行「志やうもやうハ」の「や」と同じかたちです。

 今回の部分の文章も、前回の続きで五七調・七五調。言葉遊びや歌舞伎・浄瑠璃のもじりなどがあふれます。

「こまん才三尓おごまさん」、浄瑠璃「恋娘昔八丈(こいむすめむかしはちじょう)」の主人公、尾花才三郎と城木屋お駒。

「志まさんこんさん奈可多ん本」、伊勢道中歌(伊勢音頭)の「縞さん紺さん中乗りさんさぁーさおかげでな」のもじり。

 

2024年5月2日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その36

P13P14 国文学研究資料館蔵

P13

(読み)

道行仇(ミちゆきあ多゛)

    みちゆきあだ


寝言夢(ねごと由め)能

    ねごとゆめ の


浮橋(うき者し)

   うきはし


あく玉 可゛奈尓ぞと人

あくだまが なにぞとひと


のとひしと起つうと

のといしときつうと


こ多へてきへ奈まじ

こたえてきえなまじ


ものおもハ春る秋

ものおもはするあき


のくれむこう

のくれむこう


とふるハ清 十  郎

とおるはせいじゅうろう


じや奈以可かさや

じゃないかかさや


さん可川半 七 と

さんかつはんしちと


いひ可王し

いいかわし


多ること能者

たることのは


もそりやか王い

もそりゃかわい


のじや奈以尓く

のじゃないにく


ふとんいまきり

ふとんいまきり


かけ多ハあ尓さん

かけたはあにさん


可あぶ奈以\/  の

かあぶないあぶないの


こと奈可らお奈可の

ことながらおなかの


やゝも者やミつき者

ややもはやみつきは


つ可阿まり尓四十  両  つ

つかあまりにしじゅうりょうつ


可ひ者多゛して二分のこる

かいはた してにぶのこる


金 より大 じ奈此 いのち

かねよりだいじなこのいのち


春て尓ゆくとハ多゛い多ん奈

すてにゆくとはだ いたんな


とん多゛ちや可゛まじや奈以可い奈

とんだ ちゃが まじゃないかいな

(大意)

(命の棒を相合い傘にして、お夏清十郎、三勝半七気取りで二人は道行きとなる)

 悪玉が何ぞと人の問いしとき、通と答えて消えなまじ。物思はする秋の暮、向こう通るは清十郎じゃないか、笠屋三勝半七と、言いかわしたる言の葉も、そりゃ可愛いのじゃない、にく蒲団、今切りかけたは兄さんか、あぶないあぶないの事ながら、おなかのややも早や三月、二十日あまりに四十両、使い果たして二分残る、金より大事なこの命、捨ててゆくとは大胆な、とんだ茶釜じゃないかいな、

(補足)

 道行文とよばれる独特な五七調・七五調で文章は綴られている、とありました。

道行(みちゆき)はおもに浄瑠璃や歌舞伎で男女が連れ立って駆け落ちや心中などをする場面をいう、とありました。

「あく玉可゛奈尓ぞと〜ものおもハ春る秋のくれ」は、伊勢物語六段(芥川)の歌「白玉かなにぞと人の問いしとき露と答えて消えなましものを」のもじりである、とありました。

「むこうとふるハ清十郎じや奈以可」、浄瑠璃や歌舞伎などのお夏清十郎もののきまり文句。

「かさやさん可川半七」、『笠屋三勝半七』浄瑠璃「笠屋三勝廿五年忌」などの三勝半七ものの女主人公三勝と茜屋半七の二人。

「いまきりかけ多ハあ尓さん可」、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」七段目、兄・寺岡平右衛門に対する妹・お軽のセリフか?とありました。

「お奈可のやゝも者やミつき」、三勝半七ものの常套文句。

「者つ可阿まり尓四十両」、浄瑠璃「冥途の飛脚」のセリフ。

「とん多゛ちや可゛まじや奈以可い奈やく王んとミせて本う可ふり」、明和年間頃にはやった「とんだ茶釜が薬缶に化けた」(『半日閑話』)という流行語のもじり。

 とまぁ、浄瑠璃。歌舞伎の幅広い知識がないと、さっぱりなのでありました。なので大意はそのまま書き下しただけです。

 

2024年5月1日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その35

P11P12 国文学研究資料館蔵

P12

(読み)

「い多をけづゝ多可ん奈く春゛ハま多゛

 いたをけずったかんなくず はまだ


多起つけ尓でも奈る可゛命  を

たきつけにでもなるが いのちを


け川゛ゝ多るかん奈く川゛ハ多ゞ

けず ったるかんなくず はただ


おいしやさ満のやく多゛以と

おいしゃさまのやくだ いと


奈るのミなり

なるのみなり


「けづれ命(めい)

 けずれ  めし


春うハさま

すうはさま


\゛/尓ある

ざま にある


可゛奈可尓も王

が なかにもわ


づ可のいのち

ずかのいのち


多゛まゝの

だ ままの


川 \/

かわままのかわ


女  で命  をけづる

おんなでいのちをけずる

(大意)

「板を削った鉋屑はまだ焚き付けにでもなるが、命を削った鉋屑は、ただ、お医者様の薬代となるのみである。

「削った命の数(寿命のこと)はさまざまにあるが、中でもわずかの命だ、儘(まま)の川、ままのかわ。

(補足)

「い多を」、変体仮名「多」が上下にはさまれてつぶれてしまって、「い多」で一文字のようにみえます。

「まゝの川」、『儘の川、地唄』。命はいろいろ工夫しても長い短いはわからない、そのままにうけいれるのがよさそうだ、はかないものなのだよ。とでもいう意味か。

 こたつの奥には、盆栽風のものが二鉢あって、ひとつは果実のようなものがなっています。こたつに入る時期に実のなるものは?柑橘類でしょうか。こたつの覆いの模様はきんとん雲か。命を鉋で削るそばには曲尺もあります。火鉢もものがよさそうでその下には煙草入れ。雪見行灯のつくりも丁寧に(ちゃんと手提げまで細い黒い線で)描いています。でも、小さい雪見障子を上にあげてあるのだから、中が描いてあってもよさそうなのに、真っ白。わたしの見立てが間違っているのかも。

 とにかく、この部屋のいろいろ、京伝自身の体験から描いた感じがします。

 

2024年4月30日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その34

P11P12 国文学研究資料館蔵

P12

(読み)

さんのごとし

さんのごとし


「此 女 中  岩 井喜代太郎 可゛

 このじょちゅういわいきよたろうが


ぶ多い可゛本ときて

ぶたいが おときて


うつくしき

うつくしき


うへ尓て可゛

うえにてが


多んとあれ

たんとあれ


バ男  能命

ばおとこのいのち


をけ川゛ること

をけず ること


つけぎや

つけぎや


のごとし

のごとし


「こんやハ又 うちでお可ミ

 こんやはまたうちでおかみ


さんとち王川ておそひ

さんとちわっておそい


の可へ多ゝしおぢらしかへ

のかえただしおじらしかえ


お可多じけ

おかたじけ


奈どゝい者れる

などといわれる


多び尓

たびに


命  可゛け

いのちが け


づ連る

ずれる

(大意)

(和中)散のようである。

「この女中は岩井喜代太郎の舞台での顔にそっくりで美しいうえに、あれやこれやたくさんの手練手管で、男の命を削ることなんて付木屋の薄い木片が燃やされるようにすぐやられてしまう。

「今夜はまた、家でおかみさんと仲良くして遅くなるのかい。それともただじらしているだけかい。ごちそうさまだね」などと言われるたびに、命が削れる。

(補足)

「此女中」は鉋で命を削っている男が入れあげている芸者で、場面(芸者が男の奥さんにヤキモチをやいて愚痴っている)はその芸者の部屋、大きな三味線が壁にかかり、こたつに火鉢と、とても豪華であります。また、こたつの上には読本があって、この芸者さん読み書きも達者なよう。こたつの裾にある黒い塊は猫?

「つけぎ」、『つけぎ【付け木】

松や檜(ひのき)の薄い木片の端に硫黄を塗りつけたもの。火を他の物につけ移すのに用いたが,マッチの普及後使用されなくなった。硫黄木。火付け木』

 

2024年4月29日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その33

P11P12 国文学研究資料館蔵

P11

(読み)

「さけで命  をけづるハこ可゛多

 さけでいのちをけずるはこが た


奈でけ川゛るやう奈もの奈れバ

なでけず るようなものなれば


ま多゛いのちのへる尓てま可゛とれ

まだ いのちのへるにてまが とれ


るけれど女  といふや川ハ男  の命

るけれどおんなというやつはおとこのいのち


をけ川゛るかん奈なれバざんじ能

をけず るかんななればざんじの


うち尓命  可゛へる奈りようじん春

うちにいのちが へるなりようじんす


べし女  ハ命  のて起やくなること

べしおんなはいのちのてきやくなること


あ多可も金 尓やきミそ奈め

あたかもかねにやきみそなめ


くじに志本水 くハ尓和ち う

くじにしおすい かにわちゅう


P12

さんのごとし

さんのごとし

(大意)

 酒で命を削るのは、小刀で削るようなものなので、まだ命を減らすのに時間がかかるけれど、女というやつは、男の命を削る鉋であるから、しばらくのうちに命を減らしてしまう。用心すべし。女は命の処方をまちがえると毒となる薬であり、それはあたかも「金に焼き味噌」、「なめくじに塩」、「スイカに和中散」のようである。

(補足)

「て起やく」、『てきやく【敵薬】処方によっては毒になる薬。「其病人とは大―」〈浄瑠璃・伊賀越道中双六〉』

「金尓やきミそ」、相性があわないたとえ。俗に焼き味噌をつくると金がにげるとされる。とありました。

「水くハ尓和ちうさん」、食い合わせのたとえ。「水くハ」は西瓜🍉。「和中散」は『わちゅうさん【和中散】日本で経験的に用いられている生薬処方。江戸時代の売薬の一。枇杷(びわ)の葉,縮砂(しゆくしや),桂枝など九種類の生薬より成る。食中(あた)りの際に用いられる』 

2024年4月28日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その32

P11P12 国文学研究資料館蔵

P11

(読み)

[酒 で命  をけ川゛る]

 さけでいのちをけず る


「命  をけ川゛ると志り奈可゛らどふ

 いのちをけず るとしりなが らどう


もさけ可゛やめら

もさけが やめら


れねへどう

れねえどう


春るもん多゛

するもんだ


のミやうじん

のみょうじん


さ満へでも

さまへでも


ぐ王ん可゛け

が んが け


を志やう可

をしようか


「さあいゝ可ん

 さあいいかん


多゛もふ一 つ

だ もうひとつ


のめ能王可

のめのわか


くさと志

くさとし


玉 へつぎ春

たまえつぎす


てられ多

てられた


可んざま

かんざま


しハあ

しはあ


け天

けて


志まふ

しまう


可゛いゝ

が いい


公(きミ)ハね

  きみ はね


さけのあぢ

ざけのあじ


志ら春゛多゛

しらず だ


「岩 田の〈春やまハよく

 いわたの すやまはよく


のめるぞ

のめるぞ


「もふのめねへ

 もうのめねえ


これ多゛\/

これだ これだ

(大意)

「命をけずると知りながら、どうも酒がやめられねえ。どうするもんだの明神様へでも願掛けしようか。

「さあ、いい燗だ(神田)。もう一杯飲めの若草とし給え。つぎたしたままの燗冷ましはあけてしまえ。公は寝酒の味知らずだ。

「岩田の『𠆢春』やまはうまいぞ

「もう飲めねえ、これだこれだ。

(補足)

「どう春るもん多゛のミやうじんさ満」とそれをうけて「さあいゝ可ん多゛」と続けて、神田明神様に引っ掛けた洒落か。

「のめ能王可くさと志玉へ」、俗曲文庫端唄及都々逸集○雉子〔地唄〕(三下リ)に「雉子(きぎす)鳴く、野辺の若草摘み捨てられて」とあり、そのもじり、とありました。

「公(きミ)ハねさけのあぢ志ら春゛」、いろいろ想像できますが、何でしょうねぇ?🤔

「岩田の〈春やま」、京都加茂の岩田醸造の銘酒『素山』とありました。ネットでググってもありませんでした。「や」は変体仮名「也」でしょうか。かたちが?

 

2024年4月27日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その31

P11P12 国文学研究資料館蔵

P11

(読み)

さけといふや川

さけというやつ


ハ人 の命  をけづ

はひとのいのちをけず


るこ可゛た奈なり

るこが たななり


ゆへにさけをの

ゆえにさけをの


むこと越けづる

むことをけずる


といふ可川本ぶし

というかつおぶし


のやせるもけ川゛

のやせるもけず


るゆへ奈りよう

るゆえなりよう


じの本そく

じのほそく


奈るもけ川゛る由へ

なるもけず るゆえ


なり松 い多のう春

なりまついたのうす


く奈るもけ川゛る由へ

くなるもけず るゆえ


なり可つ本ぶしも

なりかつおぶしも


やうじも松 のい多もかけ

ようじもまつのいたもかけ


可゛へあり人 の命  尓ハ

が えありひとのいのちには


可け可゛へ奈しけづ徒多だけハ

かけが えなしけずっただけは


うまること奈し

うまることなし

(大意)

 酒というやつは、人の命を削る小刀である。ゆえに酒をのむことを「けずる」という。鰹節が細くなるのも削るからである。楊枝が細るのも削るためである。松板の薄くなるのも削るからである。鰹節も楊枝も松板も替えがある。人の命は他のもので替えることができない。なくなった分だけを埋め合わせるものはない。

(補足)

 この頁は読みやすくなりました。

「けづ徒多だけハ」、変体仮名「徒」(つ)はひさしぶり。

 「命」という木工品をかかえ、小刀で削るしぐさ、ほんとうにどこかでやっていそう。

後ろの屏風(or襖絵)は、杜甫の飲中八仙歌「知章騎馬似乗舩」(知章が馬に騎(の)るは舩に乗るに似たり)。知章がうしろにややのけぞって、酔っ払って船をこいでいます。落款は山東京伝の「山」。

 

2024年4月26日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その30

P10 国文学研究資料館蔵

(読み)

「けいせいハ

 けいせいは


よ以可ら遍

よいからへ


びをつ可ひて

びをつかいて


よりつ可す

よりつかず


きやくハあ川

きゃくはあつ


くなりもふ

くなりもう


可へる\/ と

かえるかえると


いふところを

いうところを


奈ん多゛へ者゛可

なんだ へば か


らしいとあ

らしいとあ


多ま可ら能ん

たまからのん


でかゝる

でかかる


と可く

とかく


女  は男

おんなはおとこ


の命

のいのち


とり

とり


なり

なり

(大意)

「傾城は宵から蛇をつかって寄りつかず、客はまだかまだかとじれて、「もう帰る帰る」と言うところを、遊女は「何だえ、馬鹿らしい」と、頭からのんでかかる。このようにして、女は男の命とりとなる。

(補足)

「けいせい」、『けいせい【傾城・契情】

① 〔漢書外戚伝「一顧傾二人城一,再顧傾二人国一」から。君主がその色香に迷って城や国を滅ぼす,の意〕美人。美女。「矢おもてにすすんで―を御らんぜば」〈平家物語•11〉

② 遊女。近世には太夫・天神などの高級な遊女をさす』

「遍びをつ可ひてよりつ可す」、のらりくらりと時間をかせぐことをいう、とありました。

 「帰る帰る」はもちろん客を蛙にみたてて、蛇である遊女がそれを頭からのんで、客を見くびることを洒落ています。うまいシャレ。蛙は蛇にのまれてしまうので、命とりとなる。

 

2024年4月25日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その29

P10 国文学研究資料館蔵

(読み)

「春可ぬことをハ

 すかぬことをば


い王志やん春い可尓奈可゛

いわしゃんすいかになが


れのミしやとてもこゝろ

れのみじゃとてもこころ


にふ多川ハ奈い王い奈と

にふたつはないわいなと


ふるへごゑ尓奈川天本ろ\/

ふるえごえになってほろほろ


とひざのうへゝこ本゛し多る

とひざのうえへこぼ したる


奈ミ多゛ハあ多可もへびの多満ご能ごとしそこでつひ尓ハ

なみだ はあたかもへびのたまごのごとしそこでついには


男  能命  をとりお和んぬ奈ん本゛う可おそろしき物語(もの可多り)尓て候

おとこのいのちをとりおわんぬなんぼ うかおそろしき   ものがたり にてそうろう

(大意)

「『いやなことを言わないでくださいませ。いくらこんな身であっても、あなたはかけがえのないひとよ』と震え声になって、ほろほろと膝の上にこぼした涙は、まるで蛇の卵のようである。そこでとうとう男の命をとってしまうのである。とても恐ろしいことでございます。

(補足)

「お和んぬ」、『おわん◦ぬ をはん― 【畢んぬ】(連語)〔動詞「おわる」の連用形に完了の助動詞「ぬ」の付いた「おわりぬ」の転〕多く動詞の連用形に付いて,動作の完了したことを表す。…し終わった。…してしまった。「省略せしめ候ひ―◦ぬ」〈平家物語•11〉〔漢文の「畢」「了」「訖」などの訓読に基づく語〕』

「奈ん本゛う可おそろしき物語(もの可多り)尓て候」、謡曲「道成寺」などや、御伽草子にもよくみえる、物語の最後につける常套文句、とありました。

「本ろ\/とひざのうへゝこ本゛し多る奈ミ多゛ハあ多可もへびの多満ご能ごとし」、ここもなかなかに痺れる文句にて候。

 三枚蒲団に上等な掛け布団、すべて旦那の出費で、床入前の大事な儀式です。

蛇の柄といい、掛け布団の柄といい、こんな細かい彫りをよくもまぁ。

 

2024年4月24日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その28

P10 国文学研究資料館蔵

(読み)

[命  とり]

 いのちとり

 

女  ハ志 うねんのふ可起もの尓て

おんなはしゅうねんのふかきものにて


へびと奈りじやとなりし多め

へびとなりじゃとなりしため


しお本く多゛う志゛やう寺(じ)のゑん

しおおくど うじ ょう  じ のえん


ぎでもミ奈さ満ごそんじのこと

ぎでもみなさまごぞんじのこと


奈り女  の一 心 のへびめ可゛べ丹ちよく

なりおんなのいっしんのへびめが べにちょく


を奈め多ねこのやうにくれ

をなめたねこのようにくれ


奈ひの志多をべろり\゛/と

ないのしたをべろりべろりと


多゛し可けぬり多゛ん春の

だ しかけぬりだ んすの


びやう能やう奈めを

びょうのやうなめを


飛可らせと起春て多

ひからせときすてた


まるぐけのやう尓の

まるぐけのようにの


多川て男  の命  を

たっておとこのいのちを


とらんと春る

とらんとする


かる可゛ゆへ尓う

かるが ゆへにう


つくしき女  を

つくしきおんなを


本めて命  とり

ほめていのちとり


めとハ申 春奈り

めとはもうすなり

(大意)

 女は執念深きものであり、へびとなり蛇となる例が多い。道成寺縁起で、皆様ご存知のことである。思い詰めた女の蛇めが紅猪口をなめた猫のように、紅(くれない)の舌をべろりべろりと出しかけ、塗り簞笥の鋲のような眼を光らせ、ときほどいた帯締めのようにのたって、男の命をとろうとする。そのようなわけで、美しい女をほめて、「命取り女(め、眼)」と申すのである。

(補足)

「べ丹ちよく」、『べにちょく【紅猪口】

紅を入れた杯のような入れ物。指先で溶いて唇に塗る。べにちょこ』

「まるぐけ」、『まるぐけ【丸絎け】

芯(しん)を入れて,断面が丸くなるように絎けること。また,そのひもや帯。特に,帯締め』

「かる可゛ゆへ尓」、『かるがゆえに ―ゆゑ―(接続)〔「かあるがゆえに」の転〕

それゆえに。そういうわけで。「硫黄といふ物みちみてり。―硫黄が島とも名付けたり」〈平家物語•2〉』

「女の一心のへび〜男の命をとらんと春る」、まるぐけ(帯留め)をのたうつ蛇に見立てているのに、しびれました。

 上の画像では、泣く女を見上げる男の両目がいたずら書きされてますが、実際はこちら。

 京伝、いかにも命を取られそうな男の顔にしたか!?

 

2024年4月23日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その27

P9 国文学研究資料館蔵

(読み)

「金 尓うらミ可゛か川\/ごさ

 かねにうらみが かずかずござ


るおやの金 をつ可ふと起ハ

るおやのかねをつかうときは


かきやうむち うとひゞく

かぎょうむちゅうとひびく


奈りおの可金 をつ可ふと起

なりおのがかねをつかうとき


ハ志じ う滅亡(めつ本う)と

はしじゅう   めつぼう と


ひゞく奈り正

ひびくなりしょう


じき里ち

じきりち


ぎの帳  あ以

ぎのちょうあい


ハ可くべつき

はかくべつき


らくとかせく

らくとかせぐ


奈りきひて

なりきいて


おどろく人

おどろくひと


もなし

もなし

(大意)

 金に恨みが数々ござる。親の金を使うときは、家業夢中と響くなり。おのが金を使うときは、始終滅亡と響くなり。正直律儀の帳合は格別気楽と稼ぐなり。聞いて驚く人もなし。

(補足)

 とても読みにくく、文章の理解も難しい。

「つ可ふと起ハ」、「ふ」は前後の文字から類推。

「おの可金をつ可ふと起」、ここの「つ可ふと起」も判読しにくいが、二行前と同じようなので、ここも類推。

「滅亡(めつ本う)」、「滅」はつぶれてしまって読めませんがふりがなからなんとか、このふりがなもつぶれてしまっています。

「里ちぎ」、「里」が二文字のようにみえて、悩みどころ。

「可くべつきらく」、「く」がわかりずらい。

「おどろく」、「ど」のかたちがいまひとつ不明。

 この部分は『京鹿の子娘道成寺の歌詞〽鐘に恨みは数々ござる 初夜の鐘を撞く時は 諸行無常と響くなり 後夜の鐘を撞く時は 是生滅法と響くなり 晨鐘(じんじょう)の響きは生滅滅己(しょうめつめついいりあい) 入相は寂滅為楽(じゃくめついらく)と響くなり 聞いて驚く人もなし』の替え歌。初夜の鐘は午後8時、後夜は午前4時に撞く鐘のこと。

 替え歌の内容は何を言わんとしているのか、悩みます。ウ~ン🤔

 

2024年4月22日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その26

P9 国文学研究資料館蔵

(読み)

命  可゛てあしに可らむ

いのちが てあしにからむ


「王し可゛て以志由ハ

 わしが ていしゅは


水 く王しうりで

みずが しうりで


こ可゛奈し\/  といつ

こが なしこがなしといっ


てうりあるき

てうりあるき


とふ\/子可゛奈く

とうとうこが なく


て王し可゛この

てわしが この


さ満尓奈りまし多

さまになりました


「命  とつり可゛へ尓せねハ

 いのちとつりが えにせねば


可ねもち尓ハ奈られ

かねもちにはなられ


ぬ多とへ命  尓可へて

ぬたとえいのちにかえて


も多ゞ本しいものハ

もただほしいものは


可年多゛の大 可゛ら

かねだ のおおが ら


くり多

くりだ

(大意)

[金が手足にからむ]

「わしの亭主は水菓子売りで、こがなしこがなしといって売り歩き、とうとう子がなくて、わしがこのような様になりました。

「命と取り替えにしなければ、金持ちにはなられぬ。たとえ命にかえても、ただ欲しいものは、金田の大からくりだ。

(補足)

「こ可゛奈し」、『こが‐なし【空閑梨・古河梨】

〘名〙 ナシの歴史上の品種。現在では、大古河(おおこが)という品種が知られ、九月中旬に熟し、大果で帯緑黄赤色、果肉は色が白く緻密で柔軟。

俳諧・犬子集(1633)二「ちればわが身をこがなしの花々哉〈貞継〉」』

「可年多゛の大可゛らくり」、『竹田人形は古い歴史を持ち、寛分年間(1660年頃)に竹田近江掾が大阪の道頓堀に人形芝居の櫓を上げたのが始まりといわれています。この竹田人形は、糸繰りとカラクリ人形として評判をとり、いつも大入り満員を続けた民衆的な人形芝居でした』とあり、金田と洒落ている。

 ばあさまの手足にからむ命のしっぽがちと怖い。

 

2024年4月21日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その25

P9 国文学研究資料館蔵

(読み)

[金 は命  とつり可゛へ]

 かねはいのちとつりが え


よの中 尓命  本ど多゛い

よのなかにいのちほどだ い


じ奈ものハ奈けれども

じなものはなけれども


そのいのちとつり可゛へ

そのいのちとつりが え


奈ものハ可年なり

なものはかねなり


か年といふやつ可゛ゑて

かねというやつが えて


ハ命  尓もおよふもの尓て

はいのちにもおよぶものにて


か年尓いのちをとられ多

かねにいのちをとられた


ことのむかしからかぞへつく

ことのむかしからかぞえつく


し可゛多し

しが たし


「命  ハ奈可゛い本ど可゛よ个れ

 いのちはなが いほどが よけれ


どもとしよりて子奈く

どもとしよりてこなく


かゝろふ志まも奈起ミ尓

かかろうしまもなきみに


てへん\゛/と奈可゛い起春る

てべんべ んとなが いきする


も又 ミじめ奈もの奈り

もまたみじめなものなり


これハひ川きやう

これはひっきょう


命  尓てあしを

いのちにてあしを


からめられる

からめられる


多゛うり奈り

ど うりなり

(大意)

 世の中に命ほど大事なものはないのだが、その命と釣り合うものは金である。金というやつが、とかく命にも及ぶものであり、金に命をとられてしまった例は、昔からいくらでもある。

 命は長いほどよいのだが、歳をとって子がなく、世話になる頼りもなく、便々とただ長生きするのもまたみじめである。これは結局、命に手足をからめとられているというわけなのだ。

(補足)

「つり可゛へ」、『とりかえること。引き替え。「未だ金銭を功名と―にした例(ためし)はないですな」〈社会百面相•魯庵〉』

「かゝろふ志まも奈」、「志ま」は『しま(接尾)① 名詞その他,状態を表す語に付いて,そのような様子であることを表す。さま。「思はぬに横―風のにふふかに覆ひ来ぬれば」〈万葉集•904〉』。「かゝろふ」は『「掛かる」は“ぶら下がる。ひっかかる。作用が及ぶ。行動に移る”の意などに広く用いられるが,仮名書きも多い。「壁に絵が掛かる」「魚が網に掛かる」「迷惑が掛かる」「暗示に掛かる」「修理には大金が掛かる」「これがすんだら仕事に掛かる」』

 平仮名「か」、「な」、「け」などとその変体仮名が混在して使われています。とくにその使われ方の法則はなさそうです。

 京伝はよく天秤棒の絵を使います。「九替十年色地獄」でも花魁と千両箱を巨大な天秤棒にのせてその落籍の値段をはかりました。今回、この命は千両也。

 

2024年4月20日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その24

P7P8 国文学研究資料館蔵

P8

(読み)

「梅 可゛枝も

 うめが えも


や川多王いナア

やったわいなあ


と志らてい王ぬハ志ち

としらでいわぬはしち


ハよつ本゜どおくまし起

はよっぽ どおくまじき


ものとミへ多り

ものとみえたり


「命  を能者゛す」

 いのちをのば す


「け ふハよくいのち可゛

 きょうはよくいのちが


のびやし多志多可゛

のびやしたしたが


おまへももふ五十

おまえももうごじゅう


ぢ可いせへ可

ぢかいせえか


ところ\゛/いのち

ところどころいのち


尓志王可゛より

にしわが より


やし多

やした


ひのしを

ひのしを


可け

かけ



しやう

しょう


「と川さんおめへの

 とっさんおめえの


命  ハ

いのちは


あめの

あめの


やう多゛

ようだ


本゛う尓

ぼ うに


くん奈\/

くんなくんな

(大意)

「梅が枝もやったことだと、そのまま言ってしまうと、質はよほどでなければ入れるものではないと考えるのだけれど。

「命を延ばす」

「今日は命がよく延びました。けど、お前ももう五十近いせいか、ところどころ命にシワがよりました。火熨斗(ひのし)をかけましょう。

「とうちゃん、おめえの命は飴のようだ。オレにくんなくんな。

(補足)

「梅可゛枝もや川多王いナア」、「ひらがな盛衰記」の中の文句。ネットのHPから無断借用すると、『四段目―神崎の廓に身を沈め、傾城梅が枝(うめがえ)と名乗る千鳥は、源太の出陣に必要な産衣(うぶぎぬ)の鎧を請戻す金の工面に心を砕き、無間の鐘をついても三百両を得たいと思い詰める。来合わせた延寿がそれと言わずに金を与える。梶原父子を親の敵と狙う姉お筆も、延寿の情ある計らいに心解け、源太は出陣する』、とありました。

「志らてい王ぬ」、ありのまま飾り気なく言うこと、とありました。

 「梅可゛枝〜ものとミへ多り」の解釈がよくわからないながらも大意のようにしました。左の頁の鰹を買うのに上田の袷を質にいれた(曲げて)ことをうけての文句だとおもうのですけど、ウ~ン🤔

 この部分も文字がかすれていたりかけたりで読みづらい。「梅」などつぶれてしまっていて読めません。

 命のあたまを棒にひっかけ延ばしている男の嫁さんが右手に持っているのが火熨斗、アイロンです。ほんの数十年前まで使われていたし、いまでも職人さんたちに使われています。その子どもが延びている様が飴の棒のようなので、なめたいわけ。

 ところで火熨斗をもつ奥さんの着物の裾がぞろぶいていますが、家の中では身分にもよりましたが、このような着方が普通だったようで、多くの絵に残っています。長屋のかみさんなどはしなかったでしょうけど。

 

2024年4月19日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その23

P7P8 国文学研究資料館蔵

P8

(読み)

ありせ川ちんの満ど可ら

ありせっちんのまどから


梅 可゛ゝを志多いこいふ年て

うめが かをしたいこいぶねで


月 見をし土用 まへ尓本とゝ

つきみをしどようまえにほとと


ぎ須をきゝ本ん須起尓

ぎすをききぼんすぎに


者つ可川をゝくひせ可き

はつがつおをくいせがき


ふ年の夕 春ゝミ日 れんき

ぶねのゆうすずみにちれんき


の志者゛ゐ个んぶつせつ多い

のしば いけんぶつせったい


ぢやを春ゝり奈可らや起

じゃをすすりながらやき


多んこをしてやりこ者多゛の

だんごをしてやりこはだ の


こぶま起でどひろくをひ

こぶまきでどぶろくをひ


つ可けても多のしミ尓二

っかけてもたのしみにふた


いろハ奈しこゝろさへ

いろはなしこころさえ


や春けれバいのちの能び

やすければいのちののび


ることあ多可も小む(す)めの

ることあたかもこむ す めの


せ多け多ぬきのきん玉

せたけたぬきのきんたま


南  風 尓あて多るあめ

みなみかぜにあてたるあめ


能ごとし

のごとし

(大意)

 (あり)雪隠の窓から梅の香りを楽しみ、肥(人糞)を運ぶ船で月見をし、土用前にホトトギスを聞き、盆過ぎに初鰹を食い、施餓鬼(霊を弔う)船で夕涼み、日蓮忌に芝居見物をし、接待茶をすすって焼団子を食い、小鰭(こはだ)の昆布巻でどぶろくをひっかけ、そんなことをしても、楽しいことにかわりはない。

 心さえ穏やかならば、命が延びることはあたかも、小娘の背丈(あっというまに背がのびる)、狸の金玉(八畳敷にのびる)、南の風にあたる飴のようである。

(補足)

 この部分は難しい。ややかすれているうえに、濁点が省略されているのでさらにわかりにくい。やっと読めても意味がちんぷんかんぷん。何度も音読するもつっかえつっかえになってしまいます。

 ここであげている二つの対比はそれら二つがどれも時期がずれていたり、ふさわしくない組み合わせであったりする事柄になっています。

「南風」、南のくずし字は基本で、東西南北といっしょにおぼえます。なかでも「北」が特に特徴的。

 小鰭の昆布巻きが、この当時からあったのですね。こんな上等な旨いものを食うなら、どぶろくなんぞではなく、上等な下り酒を飲みたいところ。

 

2024年4月18日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その22

P7P8 国文学研究資料館蔵

P8

(読み)

「命  をの者゛さんとて

 いのちをのば さんとて


きん\/をふん多゛んに

きんぎんをふんだ んに


つ可以うへ奈起多のしミ

つかいうえなきたのしみ


をしても志りのつまら

をしてもしりのつまら


ぬことあれバ能者し多

ぬことあればのばした


命  可へつて十 そう者゛い尓

いのちかえってじっそうば いに


ちゝまることありく者ず

ちじまることありくわず


ひんらくといふこと王さも

ひんらくということわざも


ありせ川ちんの満ど可ら

ありせっちんのまどから

(大意)

 命を延ばそうと金銀をふんだんに使い、これ以上ないような楽しみ方をしても、そのあとの始末をきちんとしなければ、延ばした命はかえって十数倍にも縮まることがある。

 くわず貧楽という諺もある。雪隠の窓から

(補足)

 この頁も全体に読みづらい。

「うへ奈起多のしミ」、「う」は変体仮名「可」とも読めて、意味も通じてしまいます。変体仮名「多」の上半分が欠けてます。

「そう者゛い」、『そうばい 【層倍】(接尾)助数詞。数を表す漢語について,その倍数だけあることを表す。「倍」を強めた言い方。「くすり九―」「今投資すると何―ももうかる」』

「く者ずひんらく」、『「食わず貧楽高枕」。生活は貧しくても、心は安らかに暮らしていることで、利益や名誉などを求めず、清貧に甘んじる境地をいう。たんに「食わず貧楽」だけでも用いる』

 

2024年4月17日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その21

P7P8 国文学研究資料館蔵

P7

(読み)

「と奈りてハ

 となりでは


者つ可川本で

はつがつおで


いきのびるつもり

いきのびるつもり


多゛可゛こつちハくハ

だ が こっちはくわ


春゛のま春゛者ら

ず のまず はら


よし者らでいのち

よしわらでいのち


をの者春おれ可

をのばすおれが


命  ハよくのひる

いのちはよくのびる


いのち多可゛と可く

いのちだが とかく


子ともら可゛奈

こどもらが な


尓可尓つ

にかにつ


けておや

けておや


のいのちを

のいのちを


ちゞめをる

ちじめをる


「かゝア尓者奈げを

 かかあにはなげを


の者゛春とち可゛川て

のば すとちが って


命  を能者春ハてま可゛

いのちをのばすはてまが


とれる

とれる


「いのちとおもふ阿

 いのちとおもうあ


王せ志ちやへゆく

わせしちやへゆく

(大意)

「隣では初鰹で命を延ばすつもりだが、こっちは食わず飲まず、節約して命を延ばす。俺の命はよく延びる命だが、とかく子どもらが何かにつけて親の命を縮める。

「カカアに鼻毛を伸ばす(甘くなる)のとはちがって、命を伸ばすのは手間がかかる

「命とおもう袷質屋へ行く」

(補足)

「者つ可川本で」、「可川を」のようにみえますが、変体仮名「本」です。

「者らよし者らで」、吉原に行ってちゃ金も貯まらず命も延ばせないので、行った気になって節約しての意味でしょうか、よくわかりません。

「こつちハくハ春゛」、「ハ」が判別しにくい。「く」は変体仮名「久」かも。

「と可く」、前後のつながりからなんとかよめそう。

 命の棒を頁をまたいで引っ張りのばす男の絵はなかなかしゃれてます。

袷質屋へ行く姉さんは「質之道」、すぐ右脇のセリフ「うへ多゛のあハせをまげて」にひっかけたのでしょう。

 

2024年4月16日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その20

P7P8 国文学研究資料館蔵

P7

(読み)

「七十五日いきのび

やうとおもつてかふ尓

可多ミとハき尓かゝる

思ひき川て一本゜ん

可うべい


「せにを可むやう奈可川本多゛

一トきれ可゛や可川て百尓

つひている百まても

い起やうか


「おれ可゛命と

思ふ此うへ多゛のあハせ

をまげて可う可川本多゛

まけさ川せへ奈


「それごらふじろ

いきてゐるい本多゛

(大意)

「七十五日長生きしようとおもって買うのに、片身とは気にかかる。思い切って一本買うべい。

「食べるのがもったいないような鰹だ。一切れだけ買っても百まで長生きできそうだから、一本買いすれば必ず百まで長生きできるだろう。

「俺が命とおもっているこの上田の袷(あわせ)を質に入れて買う鰹だ。まけさっせへな。

「そらこれを御覧じろ、生きている魚だ。

(補足)

 今回の会話部分が字がボケているような感じなのは摺りを重ねた版木での版だったからでしょうか。キレがわるく読みづらい。

「七十五日」、『しちじゅうごにち しちじふご―【七十五日】

① 初物(はつもの)を食べると長生きするという日数。「なすびの初なりを,目籠に入れて売り来たるを,―の齢(よわい),これ楽しみの」〈浮世草子・日本永代蔵2〉』

「せにを可むやう奈可川本多゛」、「せにを可むやう奈」がなんのことかとサッパリ?「銭を噛むような」(高価な食べものを食べること、高価で食べるのがもったいないこと)でした。

「まげて」、『⑤ 〔「質(しち)」と発音が同じ「七」の第二画がまがっていることからか〕品物を質に入れる。「当分いらぬ夏綺羅―・げて七十両」〈浮世草子・好色旅日記〉』

「い本」、『いお いを 【魚】さかな。うお。「白き鳥の…水のうへに遊びつつ―をくふ」〈伊勢物語9〉』

「一トきれ可゛や可川て百尓つひている百まてもい起やうか」、よくわからない部分なのですが大意のようにしました。

 褌一丁の魚屋さんの座り方が独特です。曲げも粋にしたのかこれも独特。棒手振りで売っているので右側にも桶が見えています。

 

2024年4月15日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その19

P7P8 国文学研究資料館蔵

P7

(読み)

いのちといふものハ

いのちというものは


てお起可゛多いし奈り

ておきが だいじなり


一 心 のてを起可゛和るひと

いっしんのておきが わるいと


い可本ど奈可起命  を

いかほどながきいのちを


さづ可りても王れと

さずかりてもわれと


王がで尓ちゞめること

わがでにちぢめること


ありい可り者ら多

ありいかりはらた


ち丹くい可ハいゝよ

ちにくいかわいいよ


ろこび可奈しミおし

ろこびかなしみおし


い本しいの多ぐひ

いほしいのたぐい


ミ奈いのちをちゞ

みないのちをちぢ


めるやくしや奈り

めるやくしゃなり

(大意)

 命というものは手入れが大切である。細やかな手入れがいきとどかないと、どれほどの長い命を授かっても、自分自身で縮めてしまうことがある。怒り・腹立ち・憎い・かわいい・喜び・悲しみ・惜しい・欲しいのたぐい、これらみな命を縮める役者(張本人)である。

(補足)

 一読しただけでは、読みづらく、区切りもどこか判別するのに難しい。何度も音読するのが一番。全体に変体仮名「可」がよみずらい。

「てお起」、『常に心がけて取扱うこと』。

「一心のてを起」、「一心」が一文字「正」のように見えてしまいます。

「王れと王がで尓」、『わ‐が‐でに【我がでに】《「でに」はそれ自身での意》自分自身で。 みずから』。

「い可り〜おしい本しい」、区切りが難しいところ。

 命を延ばす工夫をあれもこれも描いているのが楽しくおかしい、がこんなバカバカしいことをわれわれは日々やっているのですよと、京伝ニヤリとわらってながめている。