2020年10月31日土曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その8


P.6

(読み)

うさぎ王多くし可゛か多起

うさぎわたくしが かたき


をとつて志んぜませ う

をとってしんぜましょう


とうさ起゛多ぬ起のや満へ

とうさぎ たぬきのやまへ


ゆき多ぬき尓志者゛を

ゆきたぬきにしば を


せ本いさせうしろより

せほいさせうしろより


(大意)

うさぎ「わたくしがかたきをとってしんぜましょう」と

兎は狸の山へ行き、

狸に柴を背負わせうしろから


(補足)

「うさぎ」「うさ起゛」、「多ぬ起」「多ぬき」と文字を変えています。

「王多くし可゛」、わたくしが、とはとても丁寧です。変体仮名「王」(わ)。

「か多起」、平仮名「か」がよく使われるようになってます。

「や満へ」、変体仮名「満」(ま)。そのすぐ左側の行に平仮名「ま」があります。

「せ本いさせ」、変体仮名「本」(ほ)。

耳をピンとたて腕まくりする兎は赤い目で狸をにらみ、浴衣のような着物の柄が独特です。

下駄は丁寧ですが、狸の絵はちょっと乱暴。

 

2020年10月29日木曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その7

P.5

(読み)

あと尓て

あとにて


ぢゞハおど

じじはおど


ろき可奈し

ろきかなし


ミい多ると

みいたると


ころへうさ

ころへうさ


ぎまいり

ぎまいり


ぢゞハいちぶ

じじはいちぶ


志ゞ うをか多り

しじゅうをかたり


奈げき

なげき


可奈

かな


しミ

しみ


けり

けり


(大意)

あとになって

じじは驚き悲しんでいたところへ

兎がやってきました。

じじは一部始終をうさぎに話しながら

(いっそう)嘆き悲しみました。


(補足)

「あと尓て」、「あ」がわかりにくですが右上のカーブがやや大きくなってます。

「いちぶ志ゞう」、始終(しじゅう)が悩むところですが、その前の「いちぶ」がありますので、一部始終とつながります。

「か多り」、平仮名「か」。

「けり」、全ページでは「个り」でした。

爺さん、山へ出かけてゆくのに部屋では裕福ななりであります。お膳も漆塗りとおもわれ立派です。

うしろには屏風、座布団は赤でこれに赤のちゃんちゃんこを着てれば還暦祝の宴席になります。

P4P5見開き

そんな好々爺に向かう恐ろしい形相のばばに化けたたぬき、ブルッと震えます。




 

2020年10月28日水曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その6

P.4

(読み)

可の志るを

かのしるを


くい可け連

くいかけれ


バ者゛ゞハ多ぬ

ばば ばはたぬ


きと奈つて

きとなって


尓げさり

にげさり


个り

けり


(大意)

この汁を食わせると

ばばはたぬきになって

逃げ去りました。


(補足)

おぉ〜こわ!たぬきの顔がじじいをにらみ、ばばの死骸を入れた汁をお椀に入れています。

汁鍋にはちゃんと鍋敷きがあります。左のおひつは大きく立派。

尻尾が見えてますよ。

「くい可け連バ」、変体仮名「連」(れ)が悩みますがここまで何度かでてきているので大丈夫です。

「かける」は辞書にたくさんの意味があります。ここでは「他にある作用を与える。他に影響を及ぼす」をとりました。

「个り」、変体仮名「个」(け)。


 

2020年10月27日火曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その5

P.3

(読み)

や連者゛

やれば


者゛ゞを

ば ばを


うちころし

うちころし


者゛ゞ尓春可゛多

ば ばにすが た


をへんじ者゛ゞと

をへんじば ばと


奈つて者゛ゝの志可゛ひを

なってば ばのしが いを


志る尓いれおく

しるにいれおく


ところへぢゞハ

ところへじじは


可へり

かえり


(大意)

(縄めをとき)そうしたら

(たぬきは)ばばを打ち殺してしまいました。

ばばに姿を変えばばになって

ばばの死骸を汁に入れておきましたところへ

じじが帰ってきました。


(補足)

「や連者゛」(やれば)、変体仮名「連」(れ)がある一方、後ろから3行目に「いれおく」と平仮名「れ」もあります。「者゛」はいままでなら「バ」でした。

「へんじ者゛ゞと」、「と」としましたが、かすれていてよくわかりません。カタカナの「ニ」としたら位置や大きさがおかしい。「尓」でもおかしい。

「者゛ゞ」が4回もでてきました。

婆さん狸にだまされて打ち殺され哀れ汁に入れられてしまいました。

麦を挽いていた石臼の上部がはずれて、下部の内面が丁寧に描かれ正確に波状のギザギザまでわかります。


P2P3見開き

婆さんを打ち殺す勇ましい狸に憎しみが高まる場面です。

 

2020年10月26日月曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その4

P.2

(読み)

あと尓て

あとにて


たぬきハ

たぬきは


むぎミを

むぎみを


つ起

つき


い多る

いたる


者゛ゞ尓

ば ばに


む可い

むかい


王連の

われの


奈わと起て

なはときて


くれ連バ

くれれば


むぎつく▲

むぎつく


てつ多゛い春べし

てつだ いすべし



もふし

もうし


个連バ

ければ


者゛ゞハ

ば ばは


奈ハ

なわ


めを

めを


と起

とき


(大意)

そののち、たぬきは麦実をついているばばにむかって

「おれの縄をといてくれれば麦つきを手伝ってやろう」と申しましたので

ばばは縄めをといてあげました。


(補足)

 絵の隙間に文章が散らばります。

豆本それぞれに文字や文章にクセがありますので、最初はとまどいます。

「たぬき」、平仮名「た」です!しかしここだけ。

「つ起」や「と起」という言い回しがよく出てきます。

「王連の」(われの)、変体仮名「王」(わ)は「已」のような形。変体仮名「連」(れ)このあとも出てきます。

「春べし」、変体仮名「春」(す)は「す」+「て」のようなかたち。

「个連バ」(ければ)、難しいです。文章の流れで「ければ」と予想してにらめっこするとそう見えてきました。

明治18年出版ですが、まだまだ変体仮名やかっての言い回しがあたりまえに出てきてます。そう簡単に変わることができるものではありません。

四角い枠にバッテンの道具は小林画でもでてきてました。枠をよく見ると竹でできているようです。節まで丁寧に描いています。右脇の囲炉裏の自在鉤の支柱も節がありますので竹かもしれません。

あやうく食べられそうになったたぬき、怒り心頭、六尺棒のようなものの先は?ばばの足が見えています。

 

2020年10月25日日曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その3

P.1

(読み)

む可し\/ ぢゝと

むかしむかしじじと


者゛ゞありしと起

ば ばありしとき


多ぬきを尓わ尓志者゛り

たぬきをにわにしば り


おき者゛ん尓志る尓しやうと

おきば んにしるにしようと


いゝつけ

いいつけ


や満へ

やまへ


ゆきける

ゆきける


(大意)

むかしむかしじじとばばがおりましたときのことです。

たぬきを庭にしばっておきました。

晩の汁にしておいてくれといって

(じじは)山へ行きました。


(補足)

 絵のタッチが小林英一郎のものとはまったく異なっているのが一見してわかります。

小林英一郎画は太い黒線で輪郭をはっきりさせ、色は均一に鮮やかであります。

佐藤新太郎画は輪郭線はササッとなでるように細く、色は薄めのものをそっとおいている感じ。

前者がこってりなら、後者はさっぱり。両者ともに味があります。


「と起」がすぐにはわかりませんでした。「起」はすぐにわかったのですが「と」がわかりません。

「多ぬきを」、「ぬ」が「ね」にみえます。

ここからはかすれているせいもあると言い訳がましく「尓わ尓志者゛り」、最初の「尓」が「あ」と読み違えると迷路に入ります。「志」は大丈夫。前後と意味がつながるように何度も音読してようやく納得。なかなか初心者から抜け出ることができませぬ。

「者゛ん尓」、ここの「尓」のように、ほとんど筆記体英字の「y」のかたちも多い。

「しやうと」、「や」が小さく、この「や」と次の「う」が一文字のように見えてしまってあれこれ悩む。「う」が「ろ」にも「る」にも見えます。「と」がかすれてこれまた悩みます。

「や満へ」、変体仮名「満」(ま)です。


 絵の構図が小林英一郎のものと背景をのぞいてほとんど同じです。たぬきの縛られ吊り下げられている様など重ねられるくらい。

小林画では麦を臼と杵でついてましたが、佐藤画では石臼で挽いています。

また小林画のほうは柱や桟など真っ直ぐなところは定規で描いたかのように一直線、佐藤画は手書き感ただよいたよりありませんが全体としてボロ屋の雰囲気が増しています。

これからたぬき汁にするババの表情がうれしそうで優しい、「これから汁にするからいい子にしていてね。美味しく食べますから・・・」

 

2020年10月24日土曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その2

見返し

(読み)

明治十九年十二月十四日内務省交付1949

(大意)

(補足)

出版は明治18年6月1日ですが内務省交付の日付はそれから1年と半年後。

赤の朱印は左回りに東京図書館印と読めます。内側の英字は右回りでTOKIOのあとが不明です。

杵をホッピングに持った兎と紅白座布団に座す狸の置物。狸の柄が米国の国旗をおもわせます。

 

2020年10月23日金曜日

豆本 かち\/山(佐藤新太郎)その1

表紙

(読み)

国政筆

くにまさひつ


かち\/山

かちかちやま

(大意)

(補足)

明治18年出版、画工も出版も佐藤新太郎。前回の小林英一郎が明治13年でした。佐藤新太郎はその豆本を目にしていることは確実だろうと思われます。

「政」のくずし字が元の字と似ても似つかないようにみえます。くずし字ではよくありますが、偏と旁は左右の位置にあるものを上下にもってきます。最近できた奈良文化財研究所史的文字データベース連携検索システムで確かめてみるとひとつだけ例がありました。くずし字辞典にはありませんでしたので、それほど目にするくずし字ではないようです。

同じ柄のうわっぱりを羽織っている二人、青の方は右手にたぬきのお面、左手に櫂。赤の方は右手に櫂、左手はラベルに隠れていますが兎でしょう。漁師ですね。背景全体は明治赤。

 

2020年10月22日木曜日

豆本 かち\/山 その17

裏表紙

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

小林英次郎の豆本は「国立国会図書館デジタルコレクション」に以下の4冊があります。

『花さかぢゝい』『かち\/山』『むまくらべ』『舌切雀』。

この4冊は同時期に同じ価格で出版されたようです。

このBlogではすでに『かち\/山』『むまくらべ』『舌切雀』の3つの豆本をとりあげました。

『花さかぢゝい』を続けてとしたいところですが、『かち\/山』の落丁が気になるところで、

次回も『かち\/山』の異なる版、明治18年佐藤新太郎のものにします。そのあとで小林英次郎の『花さかぢゝい』を予定してます。



 

2020年10月21日水曜日

豆本 かち\/山 その16

P11はP9と同じ

P12はP10と同じ

奥付

(読み)

明治十三年七月二十七日出版御届價一銭五厘

著者画

神田區八名川町五番地

小林英次郎

出板人

下谷區

坂本町二丁目八番地

野田茂政

(大意)

(補足)

「御」の上に「野田」の朱印があります。

貼紙にすけて「北尾卯三郎改」と読めます。

この豆本は意識的落丁の疑いがある、つまり女子子どもにふさわしくないページを抜き取り他のページを加えているのではないかとおもわれるようなものになってました。

絵自体はいかにも小林英次郎らしく太めの輪郭線と隅々まで描きこみ色彩豊かなものであります。

大正時代や昭和初期をへて、わたしも親しんだ昭和少年漫画の源流が感じられます。



 

2020年10月20日火曜日

豆本 かち\/山 その15

P.10

(読み)

ことをぢゝひ尓

ことをじじいに


者奈して

はなして


与ろこ

よろこ


者゛せめで

ば せめで


多く年を

たくとしを


おくり个る

おくりける


めでたし\/

めでたしめでたし


(大意)

(かたきうちを果たした)事をじじいに話して

喜ばせました。

めでたく年をおくることができました。

めでたしめでたし。


(補足)

でだし「こと」が「ここ」にもみえますが、それでは意味が通じません。

「与ろこ者゛せ」、「与」がわかりにくい。

「年」が楷書のようになってます。古文書ではたいてい「◯」に「丶」のくずし字です。

うさぎのふっくらした腹のへそがかわいらしい。瞳が赤ではなく黒でつり上がっている。

櫂を振り回している右手が下になってます。左利きなのでしょうか。

有名な北斎の神奈川沖浪裏を意識したのか、浪の描きこみがなかなかですし、舳先の先の浪の砕け方や右下のたぬきに襲いかかるような波はどうみても北斎のパクリであります。

その波間に落とされたたぬき、ケツの赤ふんが目を引きます。

たぬきの右足の後ろにある紺色のものはたぬきが乗っていた船のように見えますが、うーん・・・



 

2020年10月19日月曜日

豆本 かち\/山 その14

P.9中下段

(読み)

へいでゝ

へいでて


可多起▲

かたき


▲うちを

 うちを


なし个る

なしける


「かぜ尓

 かぜに


あ多るといけ

あたるといけ


ねへ可ら

ねえから


多いし尓

だいじに


志ねへ

しねぇ


(大意)

(沖)へ出てかたきうちをなしとげました。

「風にあたるといけねぇから

大事にしねぇ


(補足)

空の青さといい、海の青さも淡い水色でとても静かそう。こんな海でたぬきをこらしめるなんて・・・

うさぎはもちろん大工でも船大工さん、左手に鉋を持ち、その鉋の右に四角の黒いものがあります。

何かと考えましたが玄能で鉋の刃の調整をしているのかもしれません。

材木が斜めに置かれています。江戸時代やそれ以前の材木の製材や鉋がけの浮世絵などを見ると、ほとんど材木が斜めに置かれています。これが古来からの方法だったのでしょう。現在は平らな台の上で行います。材木の下にはかんなくずまで描かれています。

うさぎの瞳の赤が印象的です。

P8P9見開き

話が上中下段で流れていて読みやすい。

見開きで見ると海と空の広がりがあり、浜に打ち寄せる波のうち際が右斜め上に向かってそこには立派な松、沖には帆掛け船と小島、なかなか見事であります。銭湯の壁絵にできる。

 

2020年10月18日日曜日

豆本 かち\/山 その13

 

P.9上段

(読み)

どうと

どうと


奈りけるを

なりけるを


うさ起゛

うさぎ


とう可゛ら

とうがらし


ミそを

みそを


つけて

つけて


奈を

なお


奈やませ

なやませ


けれど

けれど


ひ奈らず

ひならず


ぜん可い奈せバ

ぜんかいなせば


こんどハ

こんどは


ふねをこし

ふねをこし


らへて多ぬき

らえてたぬき


尓ハ●

には


(大意)

(おおやけ)どをしました。

うさぎは唐辛子味噌をつけてなお悩ませましたが

まもなく全快してしまいました。それではと

今度は船をこしらえて、たぬきには


(補足)

前頁の上段からの続き。

「どうと」、この2文字目は「う」「ろ」「ら」?おおやけど(う)?わかりません。

「ひ奈らず」、日ならず。とおからず、まもなく。

鉋(かんな)片手にうさぎの大工姿、かっこいい。半纏の背中は屋号でしょうけど、読めませんね。


2020年10月17日土曜日

豆本 かち\/山 その12

P.8中下段

(読み)

●つちの

  つちの


ふねをこさ

ふねをこさ


へてやり

えてやり


や可゛てお起

やがておき


「このあい多゛ハ

 このあいだは


ひどいめ尓あつ多

ひどいめにあった


(大意)

土の船をこしらえて

やがて沖


「この間はひどい目にあった

(補足)

文章はP8P9見開きの上中下段に分かれているので、この頁だけの大意では意味がつながりません。

左下に見えている脚はうさぎが船をこしらえているところ。


 

2020年10月16日金曜日

豆本 かち\/山 その11

 

P.8上段

(読み)

あ可゛

あが


れバ

れば


多ぬ

たぬ


起ハ

きは


わら\/の

わらわらの


ていで

ていで


あ奈

あな


へ尓げて

へにげて


ゆき王可゛

ゆきわが


可ら多゛ハ

からだ は


おゝやけ

おおやけ


(大意)

(燃え)上がり、たぬきはあわてて

穴へ逃げてゆき、たぬきは大やけどをしました。

(補足)

「あ奈べあげて」、わかりません。文章の区切りを間違えているかもしれませんが・・・

たぬきの着ているのがドテラのよう、下駄も高下駄、まるで歌舞伎役者です。

一日おいて読んだら、わかりました。

「あなへ尓げて」でした。初心者はつらい。



2020年10月15日木曜日

豆本 かち\/山 その10

P.5(P.3と同じ)。P.6(P.4と同じ)なのでP.7となります。

(読み)

たぬきを

たぬきを


多゛まして

だ まして


志バ可り尓ゆく

しばかりにゆく


とて

とて


たきゞ

たきぎ


をせをわせ

をせをわせ


あとより

あとより


ひをつけ

ひをつけ


けれバ

ければ


多ぬ起

たぬき


のそ多゛

のそだ


ハもへ

はもえ


(大意)

たぬきを芝刈りにゆこうとだまして

焚き木を背負わせました。

うしろから火をつけると

たぬきの粗朶(そだ)は燃え上がり


(補足)

「たぬき」「たきゞ」の2箇所が平仮名の「た」。でも「多゛まして」「多ぬ起」と従来どおりの変体仮名「多」。

「せをわせ」、「わ」にみえないのですが、前後の流れで「わ」。

「そ多゛」粗朶(そだ)。火をおこすときに小さい枝切れに火をつけてそれから薪へとしますが、そのときの小枝などのこと。わたしが在住しているところは江戸時代、粗朶を大量に出荷していたことが古文書にあります。江戸の周辺地域はほとんど燃料となる薪や粗朶などの出荷を担っていました。

 道標の右側は「可ち\/山」、左側は「か(ち)\/山」、その上は「柾是」?、これよりかちかち山のこれは「是」ですから2文字目はよいとして最初の字はなんでしょう?

たぬきは熱くて絶叫、両手の突っ張り具合といい口を天に向かっての叫び声、脚は駆け出したくとも熱さで突っ張っています。背負紐の縄目まで丁寧です。

P6P7見開き

見開きにしてみるとP6のうさぎはやはり火打道具でたぬきの背中に火を付けている様子でした。またうさぎの斧の柄が右脚下にのぞいてます。

たぬきの絶叫が背中の炎と一緒に空にむかってます。


2020年10月14日水曜日

豆本 かち\/山 その9

 

P.4左半分

(読み)

か多起を

かたきを


とつて

とって


あげませう

あげましょう


とてぢゞいの

とてじじいの


いへを

いえを


かへり

かえり


や可゛て▲

やが て


(大意)

かたきをとってあげましょうと

じじいの家へ帰りました。

やがて


(補足)

「か多起」「かへり」、変体仮名「可(か)」ではなく平仮名です。

「ぢゞいのいへをかへり」、助詞の「を」が「に」ならば、じじいの家に帰ったとなりますが、「を」だと違う意味になるのかどうか・・・



2020年10月13日火曜日

豆本 かち\/山 その8

 

P.4右半分

(読み)

お奈げき

おなげき


奈さると

なさると


いへバ

いえば


ぢゞい

じじい


しか\゛/

しかじか


の■


■こと奈りと者奈

  ことなりとはな


せバうさ起゛

せばうさぎ


そん奈ら

そんなら


王し可゛

わしが


(大意)

お嘆きなさっているのかと聞けば

じじいはかくかくしかじかのことがあったと

答えました。

うさぎはそれならばわしが


(補足)

うしろの大きく燃え上がる炎は

もちろんたぬきの背中から立ち上がっているもの。

うさぎのいでたちがものものしい。

両手に持っているのは火付け道具にしては

ちょっとそうみえないし何でしょうか。

背負っている薪の下に見えるのは斧の刃先のようにみえます。

薪の側面、子どものいたずら書きみたいな顔にみえます。

「者奈せバ」、変体仮名「者(は)」は「む」の「す」のあとがそのまま右に流れたり下がったりするかたちになります。

「王し可゛」、変体仮名「王(わ)」は漢字の「已」のような形。



2020年10月12日月曜日

豆本 かち\/山 その7

 

P.3上段

(読み)

▲奈け起

 なげき


い多る

いたる


ところへ

ところへ


うさ起゛

うさぎ


き多りて

きたちて


奈尓を

なにを


(大意)

嘆(なげ)いていたところへ

うさぎがやってきて

何を


(補足)

逃げゆくたぬきににらみをとばし、縦縞模様を着流して二の腕まくり「やってやろうじゃねぇかぁ」と体格もたくましい。あごした首周りの毛並みか髭か、たのもしい。

白足袋はいた脚先はうさぎのかたちか。

敷居のむこう、縁側の板縁の緑が奇抜。



2020年10月11日日曜日

豆本 かち\/山 その6

 

P.3下段

(読み)

ぢゞいハ

じじいは


そん

そん


奈らい満のハ

ならいまのは


者゛ゞアをくい

ば ばあをくい


し可とて▲

しかとて


(大意)

じじいは

そんなら今の(わしが食った汁)は

ばばあを食ってしまったのかと


(補足)

下段から始まります。

前回説明したとおり、じじいはババアに化けたたぬきがババアを殺して料理した汁をたぬき汁とおもって食べたのですが、そうではなかったことがわかり愕然としているところです。

憎(にっく)きたぬきは夕焼けを背景に、うまくいったうまくいったとご満悦、笑顔でスキップして逃げてゆきました。

「い満のハ」、「8」にみえますが変体仮名「満」(ま)です。


2020年10月10日土曜日

豆本 かち\/山 その5

 

P.2下段

(読み)

▼奈

 な


ハを

わを


と可

とか


せて

せて


む起゛を

むぎ を


つ起

つき


い多り

いたり


し可゛

しが


者゛アの

ばばあの


ゆ多゛ん

ゆだ ん



みて

みて


(大意)

縄をとかせて

麦をついていましたが

ばばあが油断したところをみて


(補足)

この場面はばばあがたぬきにしめ殺されるところです。

このあとの二丁と三丁が落丁しているのですが、どうも意識的にというか何らかの圧力があったためなのか作為が感じられるところです。

というのは、たぬき汁にされそうだったたぬきがばばあをだまし、ばばあをババア汁にしてしまったうえに、たぬきはばばあに化けてじじいにそのババア汁を食わせてしまったからです。なんとも残虐な展開なのです。それがちょうど二丁と三丁にあたるのです。

ちがう豆本の「カチカチ山」ではその箇所はそのままになってます。

その部分を抜いてしまったので頁数が足りなくなってしまいますので、このあとで今度は四丁目を足しています。たんに抜いただけなら頁数が足りないままなところわざわざ勘定をあわせることをしているのですからどうも疑わしいのであります。

「みて」、「み」はほとんどカタカナ「ミ」ですが、ここでは平仮名。


2020年10月9日金曜日

豆本 かち\/山 その4

 

P.2上段

(読み)

多ぬ

たぬ


起ハ

きは


者ゞア尓む可いこれ

ばばあにむかいこれ


お者゛アさん

おば あさん


王しの奈ハを

わしのなわを


といてくれ多ら

といてくれたら


そのむぎを

そのむぎを


ついて

ついて


あげ

あげ


ようと

ようと


いつ

いつ


ハり▼

わり


(大意)

たぬきはばばあにむかって

「これ、おばあさんわしの縄をといてくれたら

その麦をついてあげよう」

といつわって、


(補足)

2行目「者ゞア」3行目「お者゛アさん」、他の箇所でもそうですが「者(は)」に濁点があったりなかったりいい加減です。

 首を絞められているばあさんの右側にあるのは凧揚げではありません。

麦にまじっているゴミやのぎとかのげという針のような毛をとるときに、使う道具でしょう。

一方からあおいで風を送り、麦をこの障子のようなところで上に振るうと麦以外はとばされる仕組み。



2020年10月8日木曜日

豆本 かち\/山 その3

 

P.1

(読み)

むかし\/

むかしむかし


あるい奈可

あるいなか


尓ぢゞいと

にじじいと


者゛ゞアあり

ば ばああり


あるひ多ぬきを

あるひたぬきを


つ可め者りへ

つかめはりへ


志づりをき▲

しずりおき


▲ちゞいハ山 へ

 じじいはやまへ


由起ける可゛

ゆきけるが


あと尓て

あとにて


(大意)

むかしむかし

ある田舎にじじいとばばあがおりました。

ある日たぬきをつかまえて

梁(はり)へ吊り下げたまま

じじいは山へ行ってしまいました。

そのあとのことです。


(補足)

「つ可め」、捕まえることでしょう。

「志づり」、垂る(しずる)。木の枝につもった雪が落ちると辞書にはあります。

宙吊りたぬきの後ろ、剥がれ落ちた土壁にその下地の竹編みやひび割れまで丁寧です。

たぬきが婆さんに何か話しかけているようです。また婆さんは何をついているのでしょう。

その内容は次頁。


2020年10月7日水曜日

豆本 かち\/山 その2

 

見返し

(読み)

筬 飛亭 画

せいひていが


北尾者ん

きたおはん


(大意)

(補足)

小林英次郎は号に「筬飛亭(せいひてい)」「箴飛亭(しんぴてい)」または「飛幾亭 (ひきてい)」があり、他にも別名があるようです。

「飛」のくずし字を辞典で調べると、確かにここのものと似てました。きっとあっているでしょう。


 かちかち山で争うたぬきとうさぎの置物がかわいらしい。

うさぎと杵は切り離せぬもの。

ご両人は何の上に座っているのでしょう。うちわのような本のような瓦でもあるみたい。


2020年10月6日火曜日

豆本 かち\/山 その1

 

表紙

(読み)

かち\/山

かちかちやま


(大意)

なし

(補足)

 やっこの手には杵(きね)、目の薄紅色の隈取はちと酔っているのか、右足のつま先がやけにリアルであります。それを左に見上げる姉さんは鼓(つづみ)をもち、やはり目のまわりは薄紅色の色っぽさ。その薄紅色で鼓の革を意匠化して表紙に散りばめています。


変体仮名「可」ではなく平仮名「か」となっています。どのように使い分けているかはまったくの気分次第のよう。


 このBlogでは著者画 小林英次郎、出板人 野田茂政のコンビの豆本「舌切雀」と「むまくらべ」を取り上げました。今回は同じ両者の「かち\/山」です。

この豆本残念ながら落丁乱丁があります。

気にせずそのまますすめます。



2020年10月5日月曜日

豆本 むまくらべ その18

 

裏表紙

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

Isabella Lucy Bird の日本の旅行記でも馬のしつけが全くなってないのに呆れています。

 海外からサラブレッド系の脚が長く背の高い馬が入ってくる前、日本の馬は脚が短く背も低かったのでやや極端に言えば驢馬にまたがっているようなものでした。しつけはなってなかったかもしれなせんがとても大切にしていたことは確かで、馬にはわらじを履かせていたくらいです。明治になろうとする江戸時代後期に西洋人が乗る馬には蹄鉄がうってあるのをみて驚きつつすぐに受け入れています。

 日本には牛車が古来使われていたのに、人を乗せる馬車はありませんでした。その問題を板倉聖宣(きよのぶ)さんが『日本史再発見』であかしています。

江戸時代まで馬車はありませんでしたが、この豆本では様々な馬の活躍が「むまくらべ」されています。馬車はなかったのですが馬を大切に役立てていたのです。

「舌切雀」の裏表紙と同じデザインです。そのときに「雀」の字を意匠化しているかもと述べましたが勇み足でした。蝙蝠が翔んでいるようでもあり骸骨のようでもあり宇宙人のようでも・・・

こんな浴衣の柄で夏の縁日で通りすがったらちょっと驚きそう。



2020年10月4日日曜日

豆本 むまくらべ その17

奥付

(読み)

明治十三年七月二十七日出版御届價一銭五厘


著者画

神田區八名川町五番地

小林英次郎


出板人

下谷區

坂本町二丁目八番地

野田茂政

(大意)

(補足)

「御」の上に「野田」の朱印があります。

貼紙にすけて「北尾卯三郎改」と読めます。

小林英次郎の豆本は「国立国会図書館デジタルコレクション」に以下の4冊があります。

『花さかぢゝい』『かち/\山』『むまくらべ』『舌切雀』。

次回から『かち/\山』を予定してます。


「馬子にも衣装」(まごにもいしょう)とはよく言いますが、誰でもそれ相応な服を着ればそれらしく立派に見えることであります。馬子とは馬に荷持や人をのせて運ぶ人のことです。馬子だけでなく馬にも華やかな衣裳を着させて人々の目を大いに引き立てるようにしたいろいろな馬がここでは紹介されてました。また馬の放牧も盛んで、「野馬」のところでは下総小金が有名であるとありました。とても大切にされていたことは異論がないでしょう。

 しかしながら、江戸時代後期に外国からやってきた人々には日本人の馬に対する扱い方があまりになってないことに驚きをとおりこして呆れ果てている記述がたくさん残されています。


2020年10月3日土曜日

豆本 むまくらべ その16


P.12

(読み)
小荷駄馬
こにだうま

奈んと
なんと

多゛ん奈
だ んな

けう の
きょうの

おとま
おとま

りハ▼
りは

▼どこ多゛ねまん
 どこだ ねまん

ねん可ねこれ
ねんかねこれ

でハあすも
ではあすも

てんきらしい奈ア
てんきらしいなあ

めで多い
めでたい

ゝゝ
めでたいめでたい

(大意)
小荷駄馬(こにだうま)
ねぇ旦那、今日のお泊りはどこだね。
万年かね。
これでは明日も晴れらしいなぁ。
めでたい
めでたいめでたい。

(補足)
馬も馬上の人も馬を引く人もみな後ろ姿、その向こうは夕焼け、明日は晴れ。
チャップリンの映画では、後ろ姿でスキップを踏みながら遠ざかる場面はほとんどがハッピーエンドの結末でありました。
むまくらべものどかに終わります。

馬の尻尾の根本にはP8P9早打馬同様の飾りがぐるりとあります。
しばらくながめていて気づいたのですが、対称性を微妙に嫌うというかずらしているのがわかります。笠の頂点からそのまま垂線を対称軸とすると、乗馬している人の頭の位置が少し右へ、羽織は背骨に沿って真っ直ぐですが、左右で羽織のしなりをかえ、鞍はほぼ対称ですが飾りや尻尾は自由です。馬脚の位置や付き人についても同様です。日本の伝統的な手法でしょう。

小荷駄とは馬の背に振り分けてある荷物。室町時代には小荷駄奉行という武家の職名があったとか、現代の兵站業務。

2020年10月2日金曜日

豆本 むまくらべ その15

 

P.11

(読み)

行  列 馬

ぎょうれつうま


古れハ

これは


大 小

だいしょう


ミやう

みょう


さんきん

さんきん


こう

こう


多いのとき

たいのとき


ひきゆく馬

ひきゆくうま


奈り

なり


その

その


いで多ち

いでたち


もつとも▲

もっとも



▲者奈

 はな


や可

やか


奈り

なり


しとぞ

しとぞ


(大意)

行列馬

これは大小名参勤交代のときに

引きゆく馬である。

そのいでたちは大変に華やかであったという。


(補足)

P6曲馬のところでも馬の体中に血管が浮き上がっている様子の絵がありました。

行列を引きゆくだけでも興奮するのかこの馬も血管が顔まで浮き上がっています。

目も上目遣いになってます。

たてがみが小さくいくつも結ってあり、前飾り後ろ飾りも華やか。

お侍さんは馬が主役なので、地味な衣裳であります。


P10P11見開き

ともに飾り立てる馬同士ということで並べたようです。

賑やかで華やかです。

でだし「古れハ」が変体仮名「古」(こ)ですが、その数行あとでは「こう多い」と平仮名になってます。



2020年10月1日木曜日

豆本 むまくらべ その14

 

P.10

(読み)

神 馬

しんめ


神 馬ハ

しんめは


やしろ

やしろ


ま多王(?)

または


あさくさ

あさくさ


かんおん

かんのん


奈ぞ尓

なぞに


あるむま

あるむま


奈り

なり


(大意)

神馬

神馬は社(やしろ)または

浅草観音などにいる馬である。


(補足)

「神馬」の読み方はしんめ、じんめ、かみうま。いままでずっとしんばと読んでました、お恥ずかしい。

「ま多王」、「王」(わ)の部分がよくわかりません。変体仮名「王」にみえるのですが、助詞「は」のかわりに「わ」は使いませんし・・・


 お正月やお祭りのときに神馬を直接見ると、目を奪われます。キラキラツヤツヤしてあらん限りんお飾り衣裳を身に着け、馬もそれを承知していて胸を張り首筋を伸ばしているのです。

ここの神馬は前髪をまっすぐにそろえてかわいらしい。

お供をしている人の白衣の輪郭線を黒だけでなく薄い青で縁取っているのが心憎い。