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2020年12月24日木曜日

豆本 猿加尓合戦 その22

裏表紙

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 格子縞はどれも5本の線で間隔は不揃い。でも全体としてみると妙な動きと安定感があるところができておもしろい意匠です。正方形になっている中は梅の花のよう。

 空中に浮かんで見えるような大きな球体、一度そうだとおもってしまうとそうみえてしまうけど、これは柿の実に猿がしがみついているよう、に見えないこともない。調べてみると括猿(くくりさる)というのがあるそうな。しがみついているのではなく、悪さをしないように猿が手足をくくられているらしい。まぁしがみついているといっても当らずとも遠からず。

 探せばこの意匠の風呂敷もありそう。ほしいね。

 

2020年12月23日水曜日

豆本 猿加尓合戦 その21

奥付

(読み)

明治十五年七月十一日御届

東京日本橋区馬喰町二丁目一番地 定價三銭

編輯兼出版人 木村文三郎

大賣捌人

東京通油町 水野慶次郎

同 横山町 辻岡文助

越後三条  浅間傳財門

同 長岡  松田周平

越後葛塚  弦巻七十郎

甲州三日町 松本米兵衛

箱館地蔵町 木下清次郎

信州松本  髙美甚左エ門


(大意)

(補足)

 定價三銭とありますから、いままで見てみた豆本が一銭か一銭五厘でしたので、ちょうど倍になります。一銭・一銭五厘が今の価値で約400円なので銅版の豆本は約800円となります。手にとってすぐに買おうという気持ちにはちょっと躊躇する価格でしょうか。300〜400円くらいなら子どもの土産にすぐに買ってしまうでしょうけど千円近くになると、二の足を踏んでしまいます。

 大賣捌人とは今の本の小問屋のことです。出版社から各地で仕入れて地元の小売店に捌(さば)くわけです。当然人が多く賑やかな地域でなければ商売は成り立ちません。東京はともかく越後に三条・長岡・葛塚と3ヶ所もあります。そして甲州・箱館・信州と販売地域も広いです。

 算法新書の広告があります。ネットでダウンロードしたら215頁もありました。

和算のそろばんから始まり高等数学まで扱っています。

広告文の読みです。

「此書ハ長谷川先生の校閲として考今算法書の数多しといへども

他尓比べき書籍奈し実尓古今無類の数書奈れバ算法と志し

阿る諸君乃求メの程伏して希ふ尓お也」

間違っているところあるかもしれません。

他の広告文もだいたい意味がわかりますが、読めない箇所もあってなかなか難しい。


 

2020年12月22日火曜日

豆本 猿加尓合戦 その20

P.12

P.12拡大

(読み)

そ連よりさる可尓王本゛く

それよりさるかにわぼ く


奈しう春多満ご者ちの

なしうすたまごはちの


ミ多り可゛多ちあひ尓て

みたりが たちあひにて


奈可奈本りのさけくミ

なかなおりのさけくみ


可ハせいとむつましくつ

かわせいとむつましくつ


きあひしと奈んめで多し\/

きあいしとなんめでたしめでたし


(大意)

それより猿と蟹は和睦し

臼、玉子、蜂の

3人が立ち会って

仲直りの酒を酌み

交わしました。とても睦ましい

付き合いとなりました。

めでたしめでたし。


(補足)

「ミ多り」、三人。

「奈可奈本り」、変体仮名「可」が「奈」とつながっているのでちょっとわかりずらい。毎度のことですが、「可」と「う」の区別は文章の流れから判断するのが一番です。

 背景に山がよく出てきました。画工のふるさとの山かもしれません。この頁では集落も描かれています。

 猿と蟹がごちそうののったお盆をはさんで酒を酌み交わしているところ。猿の小皿にも蟹の小皿にも箸があります。猿の脇にあるのは面白い形の銚子。蟹の姿が実に細かく図鑑にものせられそうです。ハサミもでっかい。

 最後まで銅版画の力を訴えるかのように草地を細かい網目のように一本一本描いています。執念です。

 

2020年12月21日月曜日

豆本 猿加尓合戦 その19

P.11

P11拡大

(読み)

「アァくるしい

 あぁくるしい


どうぞいのち者゛可り

どうぞいのちば かり


ハ多春けてく多゛さい

はたすけてくだ さい


いごハきつとこゝろ

いごはきっとこころ


をあら多め

をあらため


ま春可ら◯

ますから


◯お奈可まへ

 おなかまへ


い連てく多゛さい

いれてくだ さい


(大意)

「あぁ苦しい

どうぞ命ばかりは助けてください。

以後はきっと心を改めますから。

お仲間へ入れてください。


(補足)

 変体仮名がいくつも使われていますが、すべていままでにみてきたものでスラスラ読めます。文章も大意を略してもよいくらいそのままで通じます。

 猿の着物の柄がどの頁でも柿の果実と葉です。たいていは頁が変わると異なるものなのですけど。猿の反りっかえりようがすごい。そのまま回転してブリッジになりそう。シワシワの必死の形相がよく出てくる豊臣秀吉に似ています。

縁側の板が柾目で、目の間隔を変化させている凝りようがとても意識的に感じます。

屋外の風景も銅版画でできるテクニックをいろいろ試しているみたい。

P10P11見開き

 見開きで見てもやはり銅版画なのだぞという画工の気持ちが伝わってきます。立ち臼親の表情がそんなふうにみえてしまう。臼を持つために脇をえぐってありますが、それが口に見えてもう一つ顔があるようにみえます。

 

2020年12月20日日曜日

豆本 猿加尓合戦 その18

P.10下段

P.10下段拡大

(読み)

「おの連こ連までむ本うを者多らき

「おのれこれまでむほうをはたらき


さ満\゛/のあく个不 奈春多゛んてん

さまざま のあくぎょうなすだ んてん


こ連を由るし多満ハ春゛

これをゆるしたまわず


王連\/可゛てを

われわれが てを


可りて▲

かりて


▲ちう 者゛つ奈し

 ちゅうば つなし


たまふ

たまう


奈り可く

なりかく


ごしろ

ごしろ


(大意)

「おのれ、これまで無法をはたらき

様々の悪行なす段、天

これを許し賜わず

我々が手を

借りて

誅伐なし

給うなり。

覚悟しろ」


(補足)

変体仮名「連」(れ)が3箇所出てきます。

「あく个ふ」、英小文字「n」のように見えるのは変体仮名「个」(け)。変体仮名「不」(ふ)とちょうどその右隣にある変体仮名「本」(ほ)が似てます。

「王連」(われ)、変体仮名「連」(れ)がわかりにくですけど「れ」です。

「たまふ」、平仮名「た」。ほとんどが変体仮名「多」ですがちゃんと「た」もあるのです。

「可くごしろ」、変体仮名「可」、「ろ」、それと「う」どれも似ていて文章の流れから読むしかありません。

 拡大した画像から銅版画の精緻さがよくわかります。化粧廻しの網目・菱形の飾り・房の細かさ、精緻に描けることを喜々と追求しているような気持ちが伝わります。

 

2020年12月19日土曜日

豆本 猿加尓合戦 その17

P.10上段後半

P10拡大上段

(読み)

さんと春るところを

さんとするところを


多ちう春可゛いで天

たちうすが いでて


奈ん奈くさるをいけ

なんなくさるをいけ


どりてさ満\゛/きう

どりてさまざま きゅう


もん奈し尓个り

もんなしにけり


(大意)

するところを

立ち臼親があらわれて

難なく猿を生け

捕りにして様々に糾問

したのでした。


(補足)

「いで天」、「て」は変体仮名「天」。

「きうもん」、「糾問」(きゅうもん)とわかるまでしばし間がありました。

「个り」、5行前と8行前に平仮名「け」がありますが、「个り」は文末の常用句なので変体仮名です。

立ち臼親の刀の飾りもこれを木版摺りでしたら大変そうです。

 

2020年12月18日金曜日

豆本 猿加尓合戦 その16

P.10上段前半

P.10上段拡大

(読み)

つよくぬ可ミそを

つよくぬかみそを


つけんと春るをり

つけんとするおり


可ら者ち可゛とび

からはちが とび


多゛しさし多れバこハ

だ しさしたればこは


可奈ハじと尓けい多゛

かなわじとにげいだ


(大意)

(痛みが)強く、糠味噌を

つけようとした(ちょうど)

そのとき、蜂が飛び

出し刺しました。「これは

かなわぬ」と逃げ出そうと


(補足)

 当時やけどには糠味噌がよかったようです!?

立ち臼親は掻巻(かいまき)のような厚手の衣裳の下に鎖帷子(くさりかたびら)、化粧まわしも精緻に描かれています。

 読みに難しいところはなさそうです。

 

2020年12月17日木曜日

豆本 猿加尓合戦 その15

P.9

(読み)

「アゝあつい\/

「アアあついあつい


多満ごじや奈コリヤ

たまごじゃなこりゃ


多満らぬ\/

たまらぬたまらぬ


(大意)

「あぁ熱い熱い

玉子じゃ。

こりゃたまらぬたまらぬ


(補足)

「コリヤ」が「コツヤ」になってます。囲炉裏の灰がとんだか?

「多満ごじや奈」、「多満らぬ」と「多満」を繰り返して洒落たか。

木版画ではできない細かい微細な点を打つことは銅版画では簡単なので大安売りでとばしまくっています。

猿の着物の柄は柿でしょうか。P5では桃に見えると記しましたけど、見えないこともない。

屋外の風景がやけに鮮やかで、針葉樹や他の木々の葉を描き分けています。屋内の衝立には梅の枝ぶりに青海波の背景も細かい。

P8P9見開き

見開きで見ると、屋外のどかな風景と部屋では囲炉裏から玉子の黄身蔵が飛び出した熱射と轟音が聞こえてきそうな静と動の対比が迫力満点であります。奥行きが感じられるように遠近感を少しつけているのが上手。

 

2020年12月16日水曜日

豆本 猿加尓合戦 その14

P8後半

(読み)

のそ者゛へ春ハると中

のそば へすわるとなか


より多満ご可゛とび

よりたまごが とび


つ起可本をやけど

つきかおをやけど


させ多れバい多ミ

させたればいたみ


「きミ可゛よい

「きみがよい


ざ満をミろ

ざまをみろ


(大意)

(囲炉裏)のそばへ座ると中

より玉子が飛び

つき、顔をやけど

させ、痛みが


「いい気味だ。

ざま(様)をみろ。


(補足)

 読みは難しいところはないようです。

銅版画ならではと画工も張り切ったのでしょう、囲炉裏の飛び散る灰を細かい点で描写しています。確かにこれは木版画では難しそう。


 

2020年12月15日火曜日

豆本 猿加尓合戦 その13

P8前半

P8拡大

(読み)

可くとも志ら春゛

かくともしらず


のこりてある可起

のこりてあるかき


可゛本しく可尓の

が ほしくかにの


うちへき多りこの

うちへきたりこの


あい多゛ハ志つけい

あいだ はしっけい


しまし多とゐろり

しましたといろり


(大意)

(猿は)そうとも知らず

残っていた柿

が欲しく蟹の

家へ来ました。

「この間は失敬しました」

と囲炉裏


(補足)

 もう児雷也(じらいや)そのもの。囲炉裏に隠れて中から出てきたという感じではなく、空中から左脚でドンと囲炉裏に飛び降りた勢いです。右手は背中の刀に左手はおもいっきり開いて歌舞伎です。衣裳もいいねぇ~。おでこの玉子はちっとも違和感なし。

「志ら春゛」、「ら」が悩みます。

「のこりてある」、「このあい多゛ハ」、「あ」は「お」の「丶」なしのような形。「い」は平仮名「い」より変体仮名「以」にちかそう。

「志つけいしまし多」、「志つけい」って何だろうとしばらく考えてしまいました。

「ゐろり」、「ろり」が二重に見えますが、銅版画なのでここだけちょっとミスった感じ。

 

2020年12月14日月曜日

豆本 猿加尓合戦 その12

P.7

P7拡大

(読み)

やりやせう

やりやしょう


者ち「奈んでも可本を▲

はち「なんでもかほを


▲め可゛けて

 めが けて


や多ら尓さし

やたらにさし


てやらう」

てやろう


(大意)

やりましょう。

蜂「なんとかして顔を

めがけて

むちゃくちゃに刺してやろう


(補足)

「奈んでも」(なんでも)、現在では、はっきりしないことやどうやらといった意味がほとんどです。ここでは「何が(なんでも)行くしかない」のように、すべての物事に優先させるさまのこと。

「可本」(かほ)、ちょっと「可尓」(かに)に見えてしまいます。助ける蟹を刺してしまっては変なので間違いに気づきますけど。

 右肩に手ぬぐいをかけ粋な着流し姿、美男の蜂の刺兵衛、頭にのせているのは蜂ではありませんか。P4にすでに出演していました。「柿の葉っぱを付けている猿」とまったくの間違いをしてしまいました(P4は訂正済)。座っている黒羽織は玉子の黄身蔵、頭に玉子をのせなくとも顔の形でわかります。黄身蔵の耳がやけに細かく描かれています。

P6P7見開き

 座敷や縁側の板、屋外の草々などをみるとP6のほうがP7より若干摺りが濃いです。どんなに細かく描くことができても、摺りの濃さの調節は木版と同様、加減が難しいのでしょう。

 

2020年12月13日日曜日

豆本 猿加尓合戦 その11

P.6下段

P.6下段拡大

(読み)

「王しハ

「わしは


さる可゛

さるが


尓げ多゛春

にげだ す


ところを

ところを


いけ

いけ


どる

どる


ことゝ

ことこと


きめ

きめ


やせう

やしょう


多満ご

たまご


「王多しハ

 わたしは


いろり

いろり


の奈可尓

のなかに


可く連ゐて

かくれいて


ふい尓者年

ふいにはね


ついてやり

ついてやり


(大意)

「わしは猿が逃げ出すところを

生け捕りにすることを決めました」

たまご

「わたしは囲炉裏の中に

隠れて居てふいに跳ねて

ついてやります」


(補足)

「王しハ」「王多しハ」、変体仮名「王」(わ)は漢字「已」のかたち。

「ことゝ」、「こと」は合字で一文字です。「より」の合字「ゟ」のフォントあるのですが「こと」はありませんでした。「ことこと」と繰り返してますが、ことなどの意でしょうか。よくわかりません。

「多満ご」、変体仮名「多」(た)、「満」(ま)をしらないと読めません。

「可く連ゐて」、変体仮名「連」(れ)。旧仮名「ゐ」(い)。

「者年」(はね)、変体仮名「者」(は)は平仮名「む」の下部が平のままか右下に流れます。「年」(ね)は毛筆では◯に丶ですが、硬筆では丸になれきれずに途中から右側にくずれます。

 文章を拡大したついでに気づいたのですが、立ち臼親の左手にある煙管の筒入れとタバコの葉入れに細かく縫い目が入っていました。細かい!右足のつま先がちらりと見えています。指先もふっくらしてかわいいし親指の爪まで描いてます。

 

2020年12月12日土曜日

豆本 猿加尓合戦 その10

P.6上段後半

(読み)

尓多ちう春おや

にたちうすおや


多満ごのきミざう

たまごのきみぞう


者ちのさ春べゑ

はちのさすべえ


奈んどそ連\/べう

なんどそれそれべう


ぎ奈し个゛んぢう 尓

ぎなしげ んじゅうに


てく者゛りをし多り个る

てくば りをそたりける


(大意)

(一番に)立ち臼親、

玉子の黄身蔵、

蜂の刺兵衛、

などがそれぞれ評議

をして、厳重に

手配りをしました。


(補足)

「立ち臼親」関取のような名前、立膝の着物姿がふっくらしてます。「玉子の黄身蔵、蜂の刺兵衛」はそのまんま。「蔵」(ざう)、「評」(べう)、「重」(ぢう)、読みがやっかい。

 

2020年12月11日金曜日

豆本 猿加尓合戦 その9

P.6上段前半

P6文章拡大

(読み)

さし个連バきより

さしければきより


ころげおち本う\/

ころげおちほうほう


のてい尓て尓げさり

のていにてにげさり


个るあと尓て可尓

けるあとにてかに


のとも多゛ちより

のともだ ちより


あつまり多゛い一者゛ん

あつまりだいいちば ん


(大意)

刺したので木より転げ落ちて

ほうほうの体で逃げ去り

ました。その後、蟹

の友達が寄り

集まり一番最初に


(補足)

 文章は難しいところはなさそうです。立ち臼親の姿が勇ましい。わたしなら臼を胴体にして手足を、顔は臼の上にのせますけど、まさか臼本体を頭部にするとは・・・虚無僧のかぶっている笠が発想の元かもしれません。着物柄は杵(きね)。煙管一式がやけに目立ちます。火鉢側面に何やら書いてあるのですが拡大しても読めませんでした。

 襖(ふすま)には無地のところはなく、細かい点がたくさんあります。

 

2020年12月10日木曜日

豆本 猿加尓合戦 その8


P.5後半

P5文章拡大

(読み)

可尓ゝうちつけるゆへ可尓ハくや

かににうちつけるゆえかにはくや


しく奈げ起をるところへ者ち

しくなげきをるところへはち


可゛き多りてさるを志多ゝ可尓

が きたりてさるをしたたかに


「アゝざんねん\/」

「ああざんねんざんねん」


(大意)

蟹に投げつけたので蟹は悔し

くて嘆いていたところへ、蜂

が飛んできて猿をしたたかに


「ああ残念残念」


(補足)

「可尓ゝ」、「ゝ」をみおとしてしまいそう。

「者ち」、変体仮名「者」(は)は「む」の下側が右斜め方向にダラダラっと流れるようなかたちですがここではその部分が小さい。

「志多ゝ可尓」、2行前にもありました「ゝ」があります。「可尓」は洒落たわけでもないとおもいますけど「志多ゝ」という種類の蟹がいるのかもしれません。

蟹が嘆いている「アゝざんねん\/」は注意しないと書いてあるのもわかりません。

今回の頭にかぶせてある蟹のお面は、爪も立派で形もくっきりです。

野原をひょっとこみたいな顔をして逃げ回るのは蜂に追われる猿でしょうか。拡大してみると着物の柄が桃の果実と葉のようです。

P4P5見開き

 画面の構成が上手です。それよりも細い硬筆でくまなく描きこんでいることの方に関心がいってしまいます。


 

2020年12月9日水曜日

豆本 猿加尓合戦 その7

P.4

P.5前半

(読み)

ゆへとらぬ」といへバさるハ「とりて

ゆへとらぬ」といえばさるは「とりて


やらん」ときへ可けの本゛りう満

やらん」ときへかけのぼ りうま


きハおの連可゛くらい志ぶ可起を

きはおのれが くらいしぶかきを


(大意)

(登れない)ので採らないのだ」と言うと、猿は「採って

やろう」と木へかけ登り、うまいのは

自分で食い、渋柿を


(補足)

 P4は文章はなし。柿の葉っぱを頭につけてるのは猿でしょうけど、ちょっと格好良すぎる美男の役者ぶり。縦縞の着物、左脚うしろにまくれたのまで丁寧に描いています。足元には食い散らかした柿がゴロゴロ。それにしても細線で描きこんでいる、拡大してみても細かい。

P5。

「由」(ゆ)、「や」。ちょうど二つ並んでいて比べやすい。両方とも筆の運びはほぼ同じ。「ゆ」は変体仮名「由」のなごりがあって、最後の縦におろすところがたいてい「く」のように若干曲がります。「や」は「つ」のように書き出して最後は右回りにクルッと回って素直に下へ。

「可けの本゛りう満きハ」、「可」と「う」はそっくりというより同じです。文意から区別するしかありません。変体仮名「満」(ま)が硬筆なので形がよくわかります。

「おの連」、変体仮名「連」(れ)も形がよくわかります。最初に縦棒、その左側に「ミ」のようにして筆を運び、「ミ」の3画目で最初に縦棒を横切り、あとは高さが縮まった「く」。

 恥ずかしながら・・・

柿の葉っぱを頭につけてるのは猿ではありませんでした。次頁で同一人物が登場、蜂の刺兵衛でありました。頭に乗せているのは蜂です。よく見ると目もあり胴体も尻の膨らみもありました。羽根が葉っぱに見えてしまいました。初心者はよくわからないと妄想で補ってしまいます。お許しを。

 

2020年12月8日火曜日

豆本 猿加尓合戦 その6

P.2後半

(読み)

とることでき春゛奈可゛めゐ多る

とることできず なが めいたる


ところへ可のさる可゛き多りて

ところへかのさるが きたりて


あ可るミ多るをミて奈ぜとら

あかるみたるをみてなぜとら


ざるやといへバきへの本゛られぬ

ざるやといえばきへのぼ られぬ


(大意)

採ることができず眺めていた

ところへあの猿がやって来て

赤くなっている柿を見て「なぜ採らないのだ」と

言うと「登れない(ので)


(補足)

「とること」、「こと」は合字です。「より」はフォント「ゟ」がありますが、「こと」はありませんでした。

「あ可るミ多るをミて」、「可る」がわかりませんでした。話の前後の流れから柿の実のことだろうと想像できます。そうすると柿の色のことですから、「かる」とよめば意味が通じました。

P2P3見開き

 蟹役は学芸会のように頭に蟹を付けています。さすがに蟹を擬人化するのは難しかったのかも・・・、できていたとしても豆本にするには不気味すぎて受け入れられそうになかった?

 縦横縞が方眼紙のように正確です。着物のふくらみや乱れにおうじて縦軸横軸もそれらに沿っています。蟹のハサミがうしろの木の幹にかくれてわかりずらくなっているのがちょっと残念。

 葦の生えている池の向こう岸には茅葺屋根の農家などが数軒見えています。

 

2020年12月7日月曜日

豆本 猿加尓合戦 その5

P.2前半

(読み)

多年を王可゛やへもち可へり尓ハへ

たねをわが やへもちかえりにわへ


うへ多連バめを多゛し多ちまち

うえたればめをだ したちまち


多い本゛くと奈りミことの可起

たいぼ くとなちみごとのかき


多くさん尓奈り多れバきの

たくさんになりたればきの


もとへ由起多のしミゐ多れども

もとへゆきたのしみいたれども


(大意)

種を我が家へ持ち帰って庭へ

植えたところ芽をだしたちまち

大木となり見事な柿が

たくさん実りました。(蟹は)木の

下(もと)へ行って(眺めて)楽しんでいましたが、


(補足)

「王可゛やへ」、変体仮名「王」(わ)は漢字「已」のかたち。

「尓ハへ」、庭(にわ)をこのように書かれると庭のイメージがわきません。

「多連バ」、変体仮名「連」(れ)ですが、この2行あとは「多れバ」と平仮名「れ」になってます。さらにその次の行「多れども」でも平仮名「れ」です。

「ミこと」、フォントがないので「こと」としましたが、一文字で合字です。「こ」の下部と「と」の一画目がつながります。濁点がついていませんけんど「みごと」の意。

「多のしミゐ多れども」、「し」が3行前の「し」に比べるととても小さい。「ゐ」が最初わかりませんでした。わからないときはひとまずとばして次に進みます。すぐ次の行に「ゐ多る」がありました。「ゐ」のようだとわかりそれで意味も通じます。

 銅版画になり、木版と比べると細密画のように筆記具の先の細さに応じてどこまでも描きこむことができるようになりました。そうなると画工は力一杯できることは限度まで挑戦してしまいます。木版画のときの奥ゆかしさというか何から何まで描き込まないという趣がなくなってしまいました。

 この絵も画工は隙間なくペンをはしらせています。細い線だけで木に登り柿をもいでいる腕や脚の力の入れ具合が上手です。どの柿にもヘタと反対側のところに「ツ」のような模様がはいっています。

 

2020年12月6日日曜日

豆本 猿加尓合戦 その4

P.1後半

(読み)

ひさるハおの可゛くひ

いさるはおのが くい


多る可起の多年と

たるかきのたねと


む春びととり可へ

むすびととりかえ


てむ春びをくらひ

てむすびをくらい


个る可尓ハその可起の

けるかにはそのかきの


(大意)

自分が食べていた柿の種と

おにぎりを取り替えてそのおにぎりを食べました。

蟹はその柿の(種を)


(補足)

「多年」(たね)、「年」は毛筆だとほとんど「◯に丶」のかたちですが、硬筆だと「年」の形が残っているものの◯にもなれないというやや中途半端な形。

 頁の折り目に半分の文字があります、「さる可尓」と読めます。

木の幹や葉の茂るタッチも細かい。

見返しは色付きでした。この頁も蟹と猿の顔に薄く赤色を塗ってみたくなります。

 

2020年12月5日土曜日

豆本 猿加尓合戦 その3

P.1前半

(読み)

む可し\/ あるところ

むかしむかしあるところ


尓さるとか尓可゛阿り

にさるとかにが あり


し可゛あると起可尓可゛

しが あるときかにが


む春びを一 ツもつ天

むすびをひとつもって


ゐ多りしを本しくおも

いたりしをほしくおも


(大意)

昔々あるところに

猿と蟹がおりました。

あるとき蟹が

おにぎりを一つ持っているのを(見て)

猿は欲しくなり


(補足)

 これでもかというほどに銅版摺りの威力を画面全体に見せつけています。木版でも熟練者ならばできましょうが同じ程度に仕上げるには何十倍もの労力と人手が必要なはずです。

 蟹のいる川辺の雑草の線の細さ、川の石垣の石の肌ざわり感、猿の座っている草の一本一本の細かさ、猿の体毛が草の線とは異なるように細かく描かれています。猿のちゃんちゃんこの幾何学的模様もきれいです。

 文章は木版のときは筆で描かれていたもの(毛筆)が、銅版ではペンのような先がとがった現代の鉛筆で書いたもの(硬筆)のようになっています。

毛筆では「と」と「こ」が似てましたが、硬筆では違いがはっきりわかります。

「ある」、「さる」、「多る」、「个る」など、ここにでてくるすべての「る」は上部がないか、上からの続きでなくなっているようにみえますが変体仮名「留」(る)です。

「か尓」、「可」ではなく平仮名「か」です。しかし次の行では「可尓」となってます。

「阿りし可゛」、ほかの行では平仮名「あ」なのになぜかここだけ変体仮名「阿」。

「む春び」、変体仮名「春」(す)が「十」+「て」のような形であることがよくわかります。

「もつ天」、「も」がわかりにくかもしれません。「し」のように上からきて最下部で左回りに斜め上へすすみ今度は右回りに下に流れていって次の文字につながります。「つ」の下は変体仮名「天」(て)。

「ゐ多りしを」、旧仮名「ゐ」(い)。

「本しくおもい」、変体仮名「本」(ほ)は「不」ににてます。