2024年5月18日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その52

P20 国文学研究資料館蔵

(読み)

「そバ可らかめ可゛これ

 そばからかめが これ


春ゞめ此 い者ゐ尓ち川

すずめこのいわいにちっ


とおごりやれといへバ

とおごりやれといえば


春ゞめ可゛おふさて可゛川

すずめが おうさてが っ


てんじやありやせこりやせ

てんじゃありゃせこりゃせ


や川とせよい\/とい川てうれ

やっとせよいよいといってうれ


しがるこれを奈づけて春ゞめ

しがるこれをなずけてすずめ


お古゛りといふ

おご りという


「あ奈多ハ命  の

 あなたはいのちの


おやでござり

おやでござり


ま春とうれ

ますとうれ


し奈起尓

しなきに


めそ川こう

めそっこう


奈起゛ハ

なぎ は


めそ\/と

めそめそと


奈く

なく

(大意)

 そばから亀が「これ雀、この祝いにちょっとおごれや」というと、雀が「おう、よしわかった。ありゃせ、こりゃせ、やっとせよいよい」といって嬉しがる。これを名付けて雀おごり(雀おどりの洒落)という。

「あなたは命の親でございます」とうれし泣きに、めそっこ鰻(未成長の細く小さい鰻)はメソメソと泣く。

(補足)

 雀踊りはこのブログでも何度か出てきました。北斎も描いています。

「命能おや」が持つ杖、わたしならここも「命」の杖にしてしまいそう。

 

2024年5月17日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その51

P20 国文学研究資料館蔵

(読み)

[命  能おや]

 いのちのおや


奈めくじハ可いるをおそれ

なめくじはかいるをおそれ


かいるハへびをおそれへびハ

かいるはへびをおそれへびは


ハ奈めくじをおそれき川年

はなめくじをおそれきつね


ハ可りうどをおそれ可りう

はかりうどをおそれかりう


どハしやうやをおそれ

どはしょうやをおそれ


志やうやハき川年をおそ

しょうやはきつねをおそ


畄のミ志らみのおや由

るのみしらみのおやゆ


びをおそれる毛ミ奈こ

びをおそれるもみなこ


連命  可゛おしきゆへ也

れいのちが おしきゆえなり


されバむやく能せ川しやうし

さればむやくのせっしょうし


ものゝ命  をとるべ可らず

もののいのちをとるべからず


「者奈し可゛め者奈しう奈

 はなしが めはなしうな


き者奈しどり奈ど命

ぎはなしどりなどいのち


のおや尓おんを可へし

のおやにおんをかえし


多る多めしお本し

たるためしおおし

(大意)

 なめくじは蛙を恐れ、蛙は蛇を恐れ、蛇はなめくじを恐れる。狐は狩人を恐れ、狩人は庄屋を恐れ、庄屋は狐を恐れる。蚤虱が親指を恐れるのも、みな命が惜しいからである。されば、無駄な殺生はすべきでないし、生きとし生けるものの命をとってはならない。

「放し亀・放し鰻・放し鳥など、命の親に恩を返すおこないの例は多い。

(補足)

 「なめくじ」の三すくみは虫拳(親指が蛙、人差し指が蛇、小指がナメクジ)。狐の三すくみは狐拳(藤八拳)。とものの本にはありました。

「奈めくじ」、ここの「く」と三行目の「く」がカタカナ「ム」のようなかたちで、さらに出だしに「ヽ」がありますが、もともと変体仮名「久」は一画目に「ゝ」のようなかたちがつきます。

 二行目から三行目に「ハ」がひとつおおい。たまにあります。

放生の噺は落語にも出てきます。

 雀は舌切雀そのまま(着物の柄も竹です)、亀は浦島太郎がのった亀、うなぎはというと、よくみると髷の上にかわいらしくのっていました。それぞれ左のたもとに「雀」「かめ」「う奈ぎ」とあります。

 

2024年5月16日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その50

P19 国文学研究資料館蔵

(読み)

「まへの志 う

 まえのしゅう


つまんでて

つまんでて


ミじ可く

みじかく


里く川を

りくつを


い王川せへ

いわっせえ


多゛ん\゛/あと

だ んだん あと


尓里く川可゛

にりくつが


つ可へている

つかえている


「せ川可くの者゛

 せっかくのば


し多命  可゛

したいのちが


ろくろくびの

ろくろくびの


よあけ可゛多

よあけが た


志本゛り者゛奈しの

しぼ りば なしの


まげ由王ひ

まげゆわい


さむい者゛ん

さむいば ん


のきん玉 の

のきんたまの


ごとく

ごとく


ちゞま川て

ちぢまって


志ま川多

しまった


可奈しや\/

かなしやかなしや

(大意)

「前の衆、手短にまとめて掛けとってくれ。まだあとがひかえている。

「せっかく延ばした命が、ろくろ首の夜明け方(夜中にずっと伸ばしっぱなしにしてたので夜明けにはつかれてちぢむ)・しぼり放しの髷結わい(かたくしぼってあっても少しづつくずれる)・寒い晩の金玉(これは言わずもがな)のように縮まってしまった。悲しやかなしや。

(補足)

 判じ物の「△ル」は宿題にします。命のちぢみの絵が今ひとつ、これでは蛇がのたくっているよう。

 

2024年5月15日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その49

P19 国文学研究資料館蔵

(読み)

「命  のちゞむ尓も

 いのちのちぢむにも


いろ\/あり女  ゆへ尓

いろいろありおんなゆへに


命  のちゞむを奈り

いのちのちぢむをなり


ひらちゞミといひ金

ひらちぢみといいかね


もちのいのちのちゞ

もちのいのちのちぢ


むをふくらちゞみ

むをふくらちぢみ


といひく以もので

といいくいもので


いのちのちゞむを

いのちのちぢむを


志たきりちゞミと

したきりちぢみと


いひちやじんのいのち

いいちゃじんのいのち


のちゞむを春起やちゞ

のちぢみをすきやちぢ


ミといひか春り者゛可り

みといいかすりば かり


とり多可゛る人 のいのち

とりたが るひとのいのち


のちゞむをゑちごちゞミ

のちじむをえちごちぢみ


といふきぬちゞミもめん

というきぬちぢみもめん


ちゞミ尓もそれ\/尓い王

ちぢみにもそれぞれにいわ


れあるべし

れあるべし

(大意)

 命の縮むのにもいろいろある。女ゆえに命の縮むことを業平ちぢみ(本所業平橋あたりでとれた名産のしじみ)といい、金持ちの命の縮むことをふくらちぢみ(ふくらすずめ)といい、食い物で命の縮むことを舌切ちぢみ(舌切雀)といい、茶人の命の縮むことをすきやちぢみ(数寄屋(茶室)造り)といい、かすり(ピンハネ)ばかり取りたがる人の命がちぢむことを越後ちぢみ(絣(かすり)を扱う有名どころの呉服屋のひとつ)という。絹縮・木綿縮にも、それぞれにいわれがあるいちがいない。

(補足)

 判じ物は「奢った報いでござる」だとおもいますけど、△の部分がどうしてそうなるのか考え中・・・

 

2024年5月14日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その48

P19 国文学研究資料館蔵

(読み)

[命  可゛ちゞむ]

 いのちが ちぢむ


命  のせん多くも志春

いのちのせんたくもしす


ぐせバお本ミそ可尓

ぐせばおおみそかに


かけとり可゛やろう能

かけとりが やろうの


とう可゛んぶ年可五百

とうが んぶねかごひゃく


ら可んのげんぞく志

らかんのげんぞくし


多やうにつめ可けせ川

たようにつめかけせっ


かくひき能者゛し多

かくひきのば した


命  をい川と起尓ちゞ

いのちをいっときにちぢ


める

める

(大意)

[命がちぢむ]

 命の洗濯もしすぎてしまうと、大晦日の掛取りが、野郎の冬瓜船か五百羅漢が還俗したようにして詰めかけ、せっかく引き延ばした命をいっぺんに縮めてしまう。

(補足)

「やろう能とう可゛んぶ年可五百ら可んのげんぞく志多やうに」、掛取りたちのハゲ頭(といっても、ちょんまげの月代)を、船の上に積み上げられた冬瓜や五百羅漢の表情にたとえている。ここでは八人の冬瓜が集まってます。それぞれの表情も京伝工夫して変化させています。

 掛取りたちが持ってきた提灯の絵文字を右から読むと、「おごつ(た)」「むくい(手゛)」とつづき、最後はさてなんでしょうか?

 

2024年5月13日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その47

P17P18 国文学研究資料館蔵

P18

(読み)

う多

うた


「さても見事 や

 さてもみごとや


ふりもよし者多゛

ふりもよしはだ


可春可゛多能可ハ由ら

かすが たのかわゆら


しさ満の志め

しさまのしめ


多るふんどしハ

たるふんどしは


奈尓と申 スふん

なにともうすふん


どしぞ

どしぞ


「ちり可ら\/

 ちりからちりから


春多\/

すたすた


本゛う

ぼう 


(大意)

歌「さても見事や、振りもよし、裸姿のかわゆらし、様のしめたるふんどしは、なんと申す褌ぞ。

(二挺鼓の音)「ちりからちりから、すたすた坊主

(補足)

歌なので文句は七五調。

「ちり可ら\/春多\/本゛う春」、「九替十年色地獄 その58」では天女の二挺鼓でした。

こちらのはまったく実写のようで、実際のお座敷の様子のようです。

 当時は誰もが吉原で花魁と座敷で遊ぶなどということはできませんでしたから、このような出版物でその様子を知ることが多かっただろうし、あこがれもいだいたのでしょう。京伝もそれらのことを意識して、花魁の姿や部屋を特別美化することなく、見たままを丁寧に描き、紹介しているようにおもわれます。

 

2024年5月12日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その46

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

「おや者゛可

 おやば か


らしい可ぜを

らしいかぜを


ひき奈んしやう

ひきなんしょう


尓へ

にぇ


「ゆやでふんどし

 ゆやでふんどし


のせん多く春る

のせんたくする


きどり多゛ぞ

きどれだ ぞ


「これ可゛本んの金 を

 これが ほんのかねを


ゆミ川゛のやうに

ゆみず のように


つ可うといふの多

つかうというのだ


奈んときつい可\/

なんときついかきついか


命  のせん多く

いのちのせんたく


とハいふものゝ

とはいうものの


志川ハふられ多

じつはふられた


者ぢを春ゝぎ

はじをすすぎ


多゛春のさ

だ すのさ

(大意)

「おや、馬鹿らしい。かぜをひきなんしょうにぇ。

「湯屋でふんどしを洗濯しているようであろう。

「これがほんとうの『金を湯水のように使う』ということなのだ。なんともたいしたものだ、すばらしい。命の洗濯とはいうものの、実はふられた恥を洗い流しているさ。

(補足)

「ふんどし」、ここの「と」は「Z」+「ヽ」のようなかたち。

「きつい」、ここの『きつい』は『⑥ 大したものだ。素晴らしい。「お娘御の三味線は―・いものでござる」〈咄本・鯛の味噌津〉』

 「命の洗濯に〜する」とはいまでも温泉湯治に行くときなど普通に使われていますが、この当時から、いやもっと時代は遡るのかもしれません。

 右隅のまだ小柄な女性は着物の裾も短く足がみえています。髷も小さい。禿(かむろ)です。

 

2024年5月11日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その45

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

「こゝろに志ハ

 こころにしわ


ミのこらぬやう

みのこらぬよう


に命  のせん多く

にいのちのせんたく


を春るの多゛じゆ

をするのだ じゅ


者゛ん奈ら一 もん可゛

ば んならいちもんが


能りで春む可゛命

のりですむが いのち


のせんた

のせんた


く丹ハ

くには


小者゛ん金 で

こば んがねで


な个れバのり

なければのり

P18

可゛き可ねへ

が きかねえ

(大意)

「心にしわがよらぬように命の洗濯をするのだ。襦袢ならば一文の糊ですむが、命の洗濯には、小判の金でなければ糊がきかねぇ。

(補足)

 命を洗濯する男、身ぐるみ一式洗ってしまったのか、手ぬぐいを腰にまわしてかくしています。

 人物もですが、部屋の作りや細々した什器なども丁寧に描かれています。

 

2024年5月10日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その44

P17P18 国文学研究資料館蔵

P17

(読み)

[命  能せん多く]

 いのちのせんたく


命  といふや川可゛と起\゛/

いのちというやつが ときどき


せん多くせぬとよくあ可本゛ん

せんたくせぬとよくあかぼ ん


のうにけ可゛れてあぶらやの

のうにけが れてあぶらやの


ぞうきんのごとくよごれ

ぞうきんのごとくよごれ


つひ尓ハ命  可゛ねぐさるもの

ついにはいのちが ねぐさるもの


奈り志可しいのちのせん多く

なりしかしいのちのせんたく


もあらひ春ぐせバての可ハ

もあらいすぐせばてのかわ


をすりむき奈以しやう可゛

をすりむきないしょうが


本ころびて志んだ以のぢ

ほころびてしんだいのじ


あい可゛王るく奈る

あいが わるくなる


もの奈れバその

ものなればその


本ど\゛/を可ん可゛へ

ほどほど をかんが え


てせん多く春べし

てせんたくすべし


か奈らずあらひ

かならずあらい


春ぐ春べ可ら須

すぐすべからず

(大意)

 命というやつは、ときどき洗濯をしないと、欲・垢・煩悩にけがれて、油屋の雑巾のように汚れてしまい、ついには命が根腐ってしまう。しかし命の洗濯も洗いすぎれば、手の皮をすりむき、懐具合もさみしくなり、身代の具合も悪くなってしまうものなので、そのほどほどの加減を考え洗濯しなければならない。洗いすぎは厳にしてはならない。

(補足)

「よくあ可本゛んのう」、一読ではなんのことかわからず。わかってしまえば3つの語彙の連続でした。よくあることです。

 吉原の遊女屋の座敷の場面。遊女たちの髷が横に広がり、笄(こうがい)の飾りも派手で、うしろが大髷になっているのは当時の流行であったと、ものの本にありました。

 床の間横の棚に、囲碁一式があります。遊女の嗜みのひとつで、かなりの腕の花魁もいたそうです。

 

2024年5月9日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その43

P16 国文学研究資料館蔵

(読み)

「一 川べ川徒いの本そ起けふりの

 ひとつべっついのほそきけむりの


いとをも川てろめいをつ奈ぐハ

いとをもってろめいをつなぐは


千 ごくづミのふ年をきぬ

せんごくぶねのふねをきぬ


いとでつ奈ぐよりも

いとでつなぐよりも


奈本あやうし

なおあやうし


「おれハ奈可゛\゛/

 おれはなが なが


のらう尓んも

のろうにんも


のでハ奈以

のではない


な可゛いきの

なが いきの


ごう尓んもの多゛

ごうにんものだ


露命(ろめい)越つ奈ぐ

   ろめい をつなぐ

(大意)

 造り付けの竈(かまど)からの糸のように細い煙で露命をつなぐことは、千石船の船を絹糸でつないでおくことよりも、いっそう危ぶまれることである。

「おれはずっと浪人者であったのではない。長生きの厄介者だ。

[露命をつなぐ]

(補足)

「一川べ川徒い」、こんな単語は辞書にあるまいとおもって調べるとありました。

『ひとつべっつい ―べつつひ【一つ竈】

① ただ一つだけ,造り設けたへっつい。

② 歌舞伎の鬘(かずら)の一。剃髪(ていはつ)した者が再び髪を伸ばし始めてまだ髷(まげ)が結えないときの髪形で,月代(さかやき)と額だけを剃(そ)ったもの』

「ごう尓ん」、『ごうにん ごふ―【業人】

① 前世の悪業の報いをうける人間。また,悪業を行う人。

② 人をののしっていう語。業さらし。「やいここな運命つきの―め」〈浄瑠璃・用明天皇職人鑑〉』。ここでは浪人者にひっかけた洒落。

「露」のくずし字を調べてみると、ここのとはちょっと違っていました。

 浪人者の住居としては、造り付けの竃(見るからに立派)に薪もふんだんにあり、お茶碗や桶もあって、そこそこの生活をしていそう。団扇はあっても火吹き竹が見当たりません。

 

2024年5月8日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その42

P16 国文学研究資料館蔵

(読み)

「命  を玉 のをと

 いのちをたまのおと


いひて命  の本そ

いいていのちのほそ


きこといとのごと

きこといとのごと


くま多露(ろ)命 と

くまた  ろ めいと


いひて命  のもろき

いいていのちのもろき


ことつ由のごとし

ことつゆのごとし


くものゐ尓あれ多

くものいにあれた


るこ満ハつ奈ぐと

るこまはつなぐと


もつ奈ぎ可ねるハ

もつなぎかねるは


命  奈り

いのちなり


「いのち奈可゛けれバ

 いのちなが ければ


者ぢお本し四十  丹

はじおおししじゅうに


志て志奈んこそめ

してしなんこそめ


や春可るべ个れと个んこう

やすかるべけれとけんこう


本うしの可き能こされしも

ほうしのかきのこされしも


うべ奈る可奈奈可゛いきをして

うべなるかななが いきをして


者ぢお本きハひつきやう命

はじおおきはひっきょういのち


の多め尓くるしめらるゝ可゛ご

のためにくるしめらるるが ご


とし

とし

(大意)

 命は魂(たましい)の緒(魂をつなぎとめる緒。細く切れそうではかなさの表現)といって、命の細いこと糸のようである。また露命といって、命のもろいこと露(つゆ)のようである。蜘蛛の糸に暴れ馬をつなごうとしても、つなぐことが出来ないのが命である。

「命長ければ恥多し。四十にして死なんこそ目安かるべけれ」と、兼好法師が書き残されたのも、うなずけることである。長生きをして恥多きは、結局のところ、命のために苦しめられるようなものである。

(補足)

「玉のを」、『たまのお ―を【玉の緒】

① 玉をつらぬいた糸。また,特に宝玉の首飾り。

② 〔「魂の緒」の意〕いのち。生命。「なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける―ばかり」〈伊勢物語•14〉』

「くものゐ尓」、この「ゐ」は「糸」や「家」の「い」のことでしょうか。

「くるしめらるゝ」、「るゝ」が悩みます。

 浪人のかぶる編笠をやけに丁寧に描いています。「ろ命」をこのままネオンサインにしてもよいくらい気に入りました。飲み屋やバーの看板にピッタシ。

 壁のきず汚れ隠しに「いろは」「ほへと」と練習した半紙を裏返しに貼ってあるところがなかなか芸が細かい。

 

2024年5月7日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その41

P15 国文学研究資料館蔵

(読み)

[からき命  を拾(ひろ)ふ]

 からきいのちを  ひろ う


「ひり里と

 ひりりと


からい可゛さん

からいが さん


志よのこひよろ

しょのこひょろ


りと奈可゛いハ多

りとなが いはた


し可尓人 のあ

しかにひとのあ


しであんべい

しであんべい


これハ七 いろ

これはなないろ


とう可゛らし

とうが らし


でハ奈く

ではなく


て奈まへ

てなまえ


のごうさらし多゛

のごうさらしだ


「あゝあぶ内(奈い)といふや川こ

 あああぶ  ない というやっこ


さんさけ尓よ川多と

さんさけによったと


ミへるハへ

みえるわえ


「から多゛ハ志ずむ命  ハむ可し者゛奈し能

 からだ はしずむいのちはむかしば なしの


もゝのやうに

もものように


奈可゛れて

なが れて


ゆく

ゆく

(大意)

「ひりりと辛いが山椒の粉(こ)、ひょろりと長いは、たしかに人の足であんべい。これは七色唐辛子ではなくて、名前の業さらしだ(みっともないことだ)。

「あぁ、あぶない、というやっこさん、酒に酔ったとみえるわい。

「からだは沈む、命は昔話の桃のように流れてゆく。

(補足)

 唐辛子売が川端を売り声調子良く「ひりりと辛いが山椒の粉、」と言いながら、川の中を見ると「ひょろりと長いは、たしかに人の足」と続ける。命は流れてゆくが、辛き命はかろうじて救われる。

 「名前の業さらし」は「七色唐辛子」の音をなぞっている洒落か?

 

2024年5月6日月曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その40

P15 国文学研究資料館蔵

(読み)

ある人 さけ丹ゑい

あるひとさけにえい


ひよろ\/ 志奈可゛ら

ひょろひょろしなが ら


川 者多をとふりふみ者川゛

かわばたをとうりふみはず


して川 へ者まり命  あや

してかわへはまりいのちあや


うくミへ多るところに

うくみえたるところに


おりよくとん\/とうがら

おりよくとんとんとうがら


しうりとふり可ゝりあ

しうりとおりかかりあ


やう起命  をひろい阿

やうきいのちをひろいあ


けるからき命  をひらう

げるからきいのちをひろう


といふことハこのと起

ということはこのとき


よりぞ者じまり个る

よりぞはじまりける

(大意)

 ある人酒に酔い、ふらふらしながら川端を通り、踏み外して川へはまり、命が危なかったところへ、ちょうどとんと唐辛子売りが通りかかり、危なかった命を拾い上げた。辛き命を拾うとは、まさにこのときより始まったのである。

(補足)

「さけ丹ゑい」、この変体仮名「丹」(に)もよく出てきます。『えい ゑひ 【酔ひ】

酔うこと。よい。「皆―になりて」〈源氏物語•行幸〉』

「川者多をとふり」「とうがらし」、ここの「と」は他の「と」はかたちがことなっています。唐辛子売の着物の柄にもこのかたちの「と」が使われています。

「ふみ者川゛して」、ほとんどが「ミ」ですが、たまに平仮名「み」も出現。

 唐辛子売はほんとうに色鮮やか真っ赤なハリボテのでっかい唐辛子をかついで、売り歩いていたのだから、なんとも斬新であります。

 

2024年5月5日日曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その39

P13P14 国文学研究資料館蔵

P14

(読み)

P13

忠臣水滸伝(ち うしん春いこでん) 京  傅 作 かうへん五さ川

      ちゅうしんすいこでん  きょうでんさくこうへんごさつ


当 ねん出来うり出し申  候

とうねんできうりだしもうしそうろう


P14

◯京  伝 店 志んもの御ひろう

  きょうでんだなしんものごひろう


△定  九郎 く春べ可゛ミ多

  じょうくろうくすべが みた


者゛こ入れ品 ゝ

ば こいれしなじな


「これハてあ多り可゛者ぶ多へ

 これはてあたりが はぶたえ


でよう可んいろ奈るゆへ

でようかんいろなるゆえ


尓かくなづけ申  候

にかくなずけもうしそうろう


△ゑん志 う形(可゛多)

  えんしゅう  が た


△ふ川き形

  ふっきがた


△立身(りつしん)形

        りっしん がた


右 御多葉粉入

みぎおたばこいれ


志んもの此 外 品 ゝ

しんものこのほかしなじな


しん可゛多あり(きせるの図)

しんが たあり


尓毛め川゛らしき新

にもめず らしきしん


可゛多以ろ\/あり

が たいろいろあり


く王しく盤志る

くわしくはしる


し可゛多し

しが たし


野暮 長  命 舊  跡

やぼのちょうめいきゅうせき

(大意)

忠臣水滸伝 京伝作 後編五冊 当年出来売り出し申し候

◯京伝店新物ご披露

△定九郎くすべ紙煙草入れ品々

これは手触りが羽二重で羊羹色なためにこのように名付け申し候

△遠州形

△富貴形

△立身形

右お煙草入れ新物、この他品々新型あり。

(きせる)にも珍しき新形色々あり。詳しくは記しがたし。

(補足)

 自身の新作読本「忠臣水滸伝」と京伝の煙草入れの店の広告を載せています。

「品々」、「品」のくずし字が全ページの「所」とほとんど同じ形です。

「く春べ」、『くす・べる【燻べる】

① 煙が多く出るように燃やす。いぶす。くすぶらせる。「蚊やりを―・べる」』

「御多葉粉入」、「葉」のくずし字が二文字のようにみえますが、これで一文字。「粉」の右側「分」がちゃんと「分」のくずし字になっています。

「く王しく盤」、変体仮名「盤」(は)としましたが。

「野暮長命舊跡」、鴨長明のもじり。この石碑の「旧」は「観の偏(こうのとり)」+「旧」。

 京伝のこの店は浮世絵や錦絵にも描かれていて、ネットで見ることができます。

 

2024年5月4日土曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その38

P13P14 国文学研究資料館蔵

P13

(読み)

[命  越春て尓ゆく]

 いのちをすてにゆく


「此 さくしやハミち

 このさくしゃはみち


ゆ起のゆめをミ多

ゆきのゆめをみた


そうでもんくハあ

そうでもんくはあ


多可もねごと

たかもねごと


能ごとく多゛

のごとくだ


「とても王しハ

 とてもわしは


春てねバ

すてねば


奈らぬい

ならぬい


のち

のち


所  を

ところを


春て

すて


春゛尓こゝ

ず にここ


可ら内 へ

からうちへ


可へる本ど

かへるほど


尓そ奈多

にそなた


ハあと尓

はあとに


とゞまつ

とどまっ


て春てる

てすてる


ともどう

ともどう


とも志やれ

ともしやれ


「おまへハよい所  へき可゛

 おまえはよいところへきが


つき奈春川多命

つきなすったいのち


を春てるさう多゛んハ

をすてるそうだ んは


まあ七 八 十  ねんの者゛

まあしちはちじゅうねんのば


しやしやう

しゃしょう

(大意)

[命を捨てにゆく]

「この作者は、道行きの夢を見たようで、文章はあたかも寝言のごとくだ。

「とはいっても、わたしは捨てねばならぬ命ではあるが、捨てるのはやめてここから戻るから、そなたはここに残って捨てるともどうともしやれ。

「お前はよいところに気がつきなすった。命を捨てる相談は七八十年延ばしましょう。

(補足)

「とても王しハ春てねバ」、変体仮名「春」がくずれていますが、このあとの「所を

春て」の「春て」とまぁまぁ同じかたちです。

「所」のくずし字が二箇所出てきます。最初のは「〜のに、〜だが」、あとのは「場所・箇所を数えるのに用いる。「気に入らぬ所がふた―ある」」。

 命の相合い傘、ひとりが傘の柄を持ち相手を思いやるようにかざすものばかりとおもっていましたが、よく見ると男の持ち手の上に女の手が同じように握っています。これが相合い傘の正しい作法なのかと🤔。

 男は裸足、女は着物の裾に隠れてますけどきっと裸足。これは道行き、命を捨てるにあたっての作法でありましょう。

 

2024年5月3日金曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その37

P13P14 国文学研究資料館蔵

P14

(読み)

やく王んとミせて本う可ふり

やか んとみせてほうかぶり


む可し能ミ奈らバとのやうに

むかしのみならばどのように


志やうもやうハ

しょうもようは


多つ多川

たつたがわ


高 尾も

たかおも


びく尓も

びくにも


いろの道

いろのみち


ふミまよ

ふみまよ


う多る

うたる


こ以の道

こいのみち


いん可゛王

いんが


じや柳

じゃやなぎ


いと柳

いとやなぎ


つ奈可゛る

つなが る


えんや

えんや


ぬへのを

ぬえのを


のへびを

のへびを


つ可ひて

つかいて


これまで

これまで


もいきの

もいきの


ひ多の可゛と

びたのが と


く王可尓こ

くわかにこ


まん才 三

まんさいぞう


尓おごま

におごま


さん志ま

さんしま


さんこんさ

さんこんさ


ん奈可多ん本一 寸

んなかたんぼいっすん


さ起ハまゝの川

さきはままのかわ


つひの命  の春て所  いさかしこへといそ起゛ゆく

ついのいのちのすてどころいざかしこへといそぎ ゆく

(大意)

薬缶とみせて頬かぶり、昔の身ならばどのように、しょう模様は竜田川、高尾も比丘尼も色の道、踏み迷うたる恋の道、因果じゃ柳いと柳、つながる縁や鵺の尾の、蛇を使いてこれまでも、生き延びたのが徳若に、小万才三にお駒さん、しまさんこんさん中田んぼ、一寸先は儘の川の、終の命の捨て所、いざかしこへと急ぎゆく。

(補足)

「む可し能ミ奈らバとのやうに」、「や」が「か」のようにみえますが、次の行「志やうもやうハ」の「や」と同じかたちです。

 今回の部分の文章も、前回の続きで五七調・七五調。言葉遊びや歌舞伎・浄瑠璃のもじりなどがあふれます。

「こまん才三尓おごまさん」、浄瑠璃「恋娘昔八丈(こいむすめむかしはちじょう)」の主人公、尾花才三郎と城木屋お駒。

「志まさんこんさん奈可多ん本」、伊勢道中歌(伊勢音頭)の「縞さん紺さん中乗りさんさぁーさおかげでな」のもじり。

 

2024年5月2日木曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その36

P13P14 国文学研究資料館蔵

P13

(読み)

道行仇(ミちゆきあ多゛)

    みちゆきあだ


寝言夢(ねごと由め)能

    ねごとゆめ の


浮橋(うき者し)

   うきはし


あく玉 可゛奈尓ぞと人

あくだまが なにぞとひと


のとひしと起つうと

のといしときつうと


こ多へてきへ奈まじ

こたえてきえなまじ


ものおもハ春る秋

ものおもはするあき


のくれむこう

のくれむこう


とふるハ清 十  郎

とおるはせいじゅうろう


じや奈以可かさや

じゃないかかさや


さん可川半 七 と

さんかつはんしちと


いひ可王し

いいかわし


多ること能者

たることのは


もそりやか王い

もそりゃかわい


のじや奈以尓く

のじゃないにく


ふとんいまきり

ふとんいまきり


かけ多ハあ尓さん

かけたはあにさん


可あぶ奈以\/  の

かあぶないあぶないの


こと奈可らお奈可の

ことながらおなかの


やゝも者やミつき者

ややもはやみつきは


つ可阿まり尓四十  両  つ

つかあまりにしじゅうりょうつ


可ひ者多゛して二分のこる

かいはた してにぶのこる


金 より大 じ奈此 いのち

かねよりだいじなこのいのち


春て尓ゆくとハ多゛い多ん奈

すてにゆくとはだ いたんな


とん多゛ちや可゛まじや奈以可い奈

とんだ ちゃが まじゃないかいな

(大意)

(命の棒を相合い傘にして、お夏清十郎、三勝半七気取りで二人は道行きとなる)

 悪玉が何ぞと人の問いしとき、通と答えて消えなまじ。物思はする秋の暮、向こう通るは清十郎じゃないか、笠屋三勝半七と、言いかわしたる言の葉も、そりゃ可愛いのじゃない、にく蒲団、今切りかけたは兄さんか、あぶないあぶないの事ながら、おなかのややも早や三月、二十日あまりに四十両、使い果たして二分残る、金より大事なこの命、捨ててゆくとは大胆な、とんだ茶釜じゃないかいな、

(補足)

 道行文とよばれる独特な五七調・七五調で文章は綴られている、とありました。

道行(みちゆき)はおもに浄瑠璃や歌舞伎で男女が連れ立って駆け落ちや心中などをする場面をいう、とありました。

「あく玉可゛奈尓ぞと〜ものおもハ春る秋のくれ」は、伊勢物語六段(芥川)の歌「白玉かなにぞと人の問いしとき露と答えて消えなましものを」のもじりである、とありました。

「むこうとふるハ清十郎じや奈以可」、浄瑠璃や歌舞伎などのお夏清十郎もののきまり文句。

「かさやさん可川半七」、『笠屋三勝半七』浄瑠璃「笠屋三勝廿五年忌」などの三勝半七ものの女主人公三勝と茜屋半七の二人。

「いまきりかけ多ハあ尓さん可」、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」七段目、兄・寺岡平右衛門に対する妹・お軽のセリフか?とありました。

「お奈可のやゝも者やミつき」、三勝半七ものの常套文句。

「者つ可阿まり尓四十両」、浄瑠璃「冥途の飛脚」のセリフ。

「とん多゛ちや可゛まじや奈以可い奈やく王んとミせて本う可ふり」、明和年間頃にはやった「とんだ茶釜が薬缶に化けた」(『半日閑話』)という流行語のもじり。

 とまぁ、浄瑠璃。歌舞伎の幅広い知識がないと、さっぱりなのでありました。なので大意はそのまま書き下しただけです。

 

2024年5月1日水曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その35

P11P12 国文学研究資料館蔵

P12

(読み)

「い多をけづゝ多可ん奈く春゛ハま多゛

 いたをけずったかんなくず はまだ


多起つけ尓でも奈る可゛命  を

たきつけにでもなるが いのちを


け川゛ゝ多るかん奈く川゛ハ多ゞ

けず ったるかんなくず はただ


おいしやさ満のやく多゛以と

おいしゃさまのやくだ いと


奈るのミなり

なるのみなり


「けづれ命(めい)

 けずれ  めし


春うハさま

すうはさま


\゛/尓ある

ざま にある


可゛奈可尓も王

が なかにもわ


づ可のいのち

ずかのいのち


多゛まゝの

だ ままの


川 \/

かわままのかわ


女  で命  をけづる

おんなでいのちをけずる

(大意)

「板を削った鉋屑はまだ焚き付けにでもなるが、命を削った鉋屑は、ただ、お医者様の薬代となるのみである。

「削った命の数(寿命のこと)はさまざまにあるが、中でもわずかの命だ、儘(まま)の川、ままのかわ。

(補足)

「い多を」、変体仮名「多」が上下にはさまれてつぶれてしまって、「い多」で一文字のようにみえます。

「まゝの川」、『儘の川、地唄』。命はいろいろ工夫しても長い短いはわからない、そのままにうけいれるのがよさそうだ、はかないものなのだよ。とでもいう意味か。

 こたつの奥には、盆栽風のものが二鉢あって、ひとつは果実のようなものがなっています。こたつに入る時期に実のなるものは?柑橘類でしょうか。こたつの覆いの模様はきんとん雲か。命を鉋で削るそばには曲尺もあります。火鉢もものがよさそうでその下には煙草入れ。雪見行灯のつくりも丁寧に(ちゃんと手提げまで細い黒い線で)描いています。でも、小さい雪見障子を上にあげてあるのだから、中が描いてあってもよさそうなのに、真っ白。わたしの見立てが間違っているのかも。

 とにかく、この部屋のいろいろ、京伝自身の体験から描いた感じがします。