2021年8月31日火曜日

桃山人夜話巻一 その18

P8 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

飛 縁 魔

ひのえんま

ひのえんま


顔 可多ちう津くし个れど毛いと

可本

かおかたちうつくしけれどもいと


お曽路しきもの尓天夜奈\/

         よ

おそろしきものにてよなよな


出 天男  の精 血 を吸 つゐ尓者

いで 於とこ せい个つ 春ひ

いでておとこのせいけつをすいついには


とり殺春と奈む

  ころ

とりころすとなむ


(大意)

飛縁魔

顔かたちは美しいのだが、大変に

恐ろしいもので、夜ごと

あらわれ、男の生き血を吸い、ついには

とりついて殺してしまうということだ。


(補足)

飛縁魔の振り仮名は、現在と同様の現代仮名遣い。「飛」のくずし字の「九」に似た形は他の漢字のくずし字にもよく見られる形です。

「う津くし」、変体仮名「可」(か)と平仮名「う」はほとんど同じ形です。ここの「う」よりも3文字上の変体仮名「可」のほうがよほど「う」らしくみえます。

わかりずらい変体仮名「毛」(も)、変体仮名「路」(ろ)がつづきます。

「もの尓天」、ここの変体仮名「尓」(に)は英筆記体小文字「y」の小さいかたち。

 蓮の花咲く池が地獄を連想させます。


 

2021年8月30日月曜日

桃山人夜話巻一 その17

P7 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

白 蔵 主

者くぞうす

はくぞうす


白 蔵 主の事 ハ狂  言 尓毛作 里

者くぞう春    个う げん  つく

はくぞうすのことはきょうげんにもつくり


よく人 乃知ると古ろ奈連ばこゝに

  ひと し    

よくひとのしるところなればここに


略  し川

里やく

りゃくしつ


(大意)

白蔵主

白蔵主のことは狂言にもつくられていて

よく人々に知られているのでここでは

略した。

(補足)

 各巻とも画図の頁割りの位置がきまってなく、ここのBlogでは順番を変更しようかと考えたのですが、各巻のとおりにしました。項目の最初に画図がきてそのあとに内容がくるようにすればわかりやすいのですが、それをすると版木にも摺りにも調整が難しいしムダもでてしまうという事情があったはずです。もちろん金に糸目をつけなければ、いともたやすく簡単にできてしまったことでしょう。

「白蔵主」の「主」の振り仮名が項目では平仮名「す」、本文では変体仮名「春」。

「尓毛」、変体仮名「毛」が変体仮名「春」に似ています。

「作里よく」、「よく」を変体仮名「天」(て)と読んでしまいました。それでも意味は通じます。

「と古ろ」、変体仮名「古」(こ)はほとんど片仮名「ホ」ですが、意外と読み損じます。

「奈連ばこゝに」、平仮名「は」も使われるときがあります。このあとの平仮名「に」も同様。

「略し川」、変体仮名「川」(つ)。片仮名は「ツ」ですがこれはちゃんと斜めにはなってますが三本川になってます。「略」の旁の「各」が下部になってます。「仰」、「野」などよく見られます。

 カラーで載せられないのが残念。ネットですぐに見つけられますので御覧ください。

 

2021年8月29日日曜日

桃山人夜話巻一 その16

P6後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

奈りといふこと越か多く戒  ん可゛多め尓作 意越添

           いまし      さくゐ 曽ゑ

なりということをかたくいましんが ためにさくいをそえ


多る教  訓 奈りこれ与りきつ年の法 師尓化  るを

  个う くん          本う  者゛け

たるきょうくんなりこれよりきつねのほうしにば けるを


白 蔵 主とハいひ奈らハし法 師の狐  尓似多るおこ

者く曽う春        本うし きつ年 尓

はくそうすとはいいならはしほうしのきつねににたるおこ


奈ひ春るをも白 蔵  主とハいひふらせり大和 のあ

      者く曽゛う春        や満と

ないするをもはくぞ うすとはいいふらせりやまとのあ


し尓寺 のこと尓し多るハ倶 尓附会  の説 奈るべし

  でら        とも ふくわい せつ

しにでらのことにしたるはともにふかい のせつなるべし


(大意)

であることをかたく戒めとするために作られた

教訓の話である。これ以降、狐が坊主に化けることを

白蔵主と言い習わし、また坊主が狐に似たような行いを

することも白蔵主と言いふらした。大和の国の

あしな寺での出来事にしたのはどちらも無理なこじつけの

話にすぎない。

(補足)

「奈りといふこと越か多く戒ん可゛多め」、「こと」は合字。「戒ん」、振り仮名に「め」がぬけてしまったようです。「か多く」の「多」は変体仮名で「さ」の「一」がないようなかたち、「多め尓」の「多」も変体仮名ですが、もうひとつのかたちでほぼ原型を残しています。

「添」(曽ゑ)、拡大しても読みづらい。

 論旨明快に述べていますが、狐が化けることをどうも完全には否定しきれてはいないような文章の運びであります。う〜む・・・

 

2021年8月28日土曜日

桃山人夜話巻一 その15

P6前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

恐 れ天里 の山 蔭 尓埋  天塚 と奈し本こら越

於曽  さと やま可げ うづめ つ可   

おそれてさとのやまかげにうずめてつかとなしほこらを


多天ゝ今 尓狐  の杜 と云 能 狂  言 のこんく王以ハ是

   いま きつ年 もり いふのうきやう个ん       これ

たてていまにきつねのもりというのうきょうげんのこんかい はこれ


尓も登づきて人 多る者 の悪 きことゝ志り天悪

      ひと  もの あし       あし

にもとずきてひとたるもののあしきこととしりてあし


きミち尓入るハ畜 生 のこゝ路と同 様 のふるまひ

    い  ちくせい     とうやう

きみちにいるはちくしょうのこころとどうようのふるまい


(大意)

恐れ、里の山かげに埋めて塚をつくり祠(ほこら)を

建てて現在は狐の杜と言われている。能狂言の「吼噦(釣狐)」はこれ

にもとづいてつくられたもので、「人」である者ならば悪と知りながら悪

の道に入ることは畜生の心と同様の振る舞い

(補足)

「恐れ天」、「恐」のくずし字は「思」に似てます。「思」は「心」の上が「ツ」のようなかたちで「恐」は「旧」のようなかたち。

「多天ゝ」、「天ゝ」がつながってわかりにくいですが「てゝ」と読めます。「て」の変体仮名「天」は平仮名「て」の曲がりの部分が波打つような形と「ゝ」+「く」のような形の2種類あります。1行目にある変体仮名「天」は後者、ここの変体仮名「天」は前者です。

「今」のくずし字がわかりにくいです。よくある形は「彡」+「丶」のようなかたち。

「吼噦(こんかい)(釣狐(つりぎつね))」、釣狐はわかりますが、「吼噦」は今回知った次第。

 

2021年8月27日金曜日

桃山人夜話巻一 その14

P5後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

ひ置 多る鬼 武 鬼 次 と天二疋 の犬 の有 个る可゛

 於き  於尓多け於尓つぐ  尓ひき いぬ 阿り

いおきたるおにたけおにつぐとてにひきのいぬのありけるが


是 可゛多め尓喰 こ路され天終 尓生 軆 を阿ら

これ     くひ     つい せう多以

これがためにくいころされてついにしょうたいをあら


ハし多り白 き老 狐の尾尓ハ白 銀 の者里の如

    志ろ らうこ を  志ろ可年    ごと

わしたりしろきろうこのおにはしろがめのはりのごと


き毛を生 し多る奈り人 \゛/其 多ゝ里阿らんこと越

 け せう     ひと   曽の

きけをしょうじたるなりひとびとそのたたりあらんことを


(大意)

(飼って)いた鬼武・鬼次という二匹の犬がいたのだが

この二匹に食い殺されてとうとう正体を

現したのだった。白い老狐の尾は白銀の針のような

毛になっていた。人々はその祟(たたり)があるのではと

(補足)

「置」は「罒」+「直」。くずし字はふたつの部品そのままです。「直」のくずし字は「ホ」+「一」のような形。

「多め尓」、ここの「多」は変体仮名ではなく、「多」のくずし字です。2行あとにもあります。

「喰こ路され天」、変体仮名「路」がからむと、注意深く前後を読まないとわかりにくい。

「生軆」は今では「正体」。「軆」は「体」の旧字で「身」を「豊」にする意。ちなみに「體」という旧字もあります。「軆」のくずし字は偏の「身」は確かに「身」のくずし字ですが、旁の「豊」は「本」のくずし字になってます。

「毛」は変体仮名の形ではなく、そのままの漢字です。一画目が「ゝ」になってます。

「生し多る」、「し」は上下左右どこにでも配置できます。

「阿らんこと越」、「ら」は形になってませんが「阿らん」でひとつと理解します。「こと」は合字。

 

2021年8月26日木曜日

桃山人夜話巻一 その13

P5前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

塔 寺尓赴  可んと春るを狐  のさとり天白蔵主  を

多うじ 於もむ      きつ年     者くさう春

とうじにおもむかんとするをきつねのさとりてはくぞうすを


た者゛かりい多゛し天喰ひころしミづ可ら蔵 主と化  天其

          く        さう春 者゛け 曽の

たば かりいだ してくいころしみずからぞうすとば けてその


寺 尓住 職   春ること凡  五十  年 の余奈りし尓同 国

てら 志う志よく     於よ曽ご志゛う袮ん 与    どうこく

てらにじゅうしょくすることおよそごじゅうねんのよなりしにどうこく


倍見の牧 尓志ゝ可゛里の有 个る時 人 尓交 り天見

へミ まき       阿り  ときひと まじ  个ん

へみのまきにししが りのありけるときひとにまじりてけん


物 尓出 多りし可゛佐原 藤 九郎 登云 郷 士可゛家 尓飼

ぶつ いで     さ王らとうくらう いふごうし  いゑ 可

ぶつにいでたりしが さわらとうくろうというごうしが いえにか


(大意)

(宝)塔寺に行こうとしたところ、狐がこれに感づいて白蔵主を

だまして誘い出し食い殺し、みずから白蔵主と化けてその

寺に住職することおよそ50年あまりになった。同じ甲斐の国、

倍見の牧で鹿狩りが行なわれたとき、人にまじって見物に

出かけたところ、佐原藤九郎という郷士が飼う


(補足)

「赴可ん」、振り仮名「於もむ」の「も」が変体仮名「毛」ではなく「茂」のようにみえます。

「た者゛かり」、平仮名「た」もこのように使われますが、ほとんどは変体仮名「多」です。

「郷士」、「郷」のくずし字をくずし字辞典で確かめると、もっと簡略化されたものもありました。

 

2021年8月25日水曜日

桃山人夜話巻一 その12

P4後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

春尓化  天弥作 可゛もと尓いゝより殺 生  の罪 ハ後世のさゝハ

  者゛け やさく         せつせう  つミ ごせ 

すにば けてやさくが もとにいいよりせっしょうのつみはごせのさゝわ


里なれ者゛狐  をとること越や免よと天銭 壱 貫  文 をあ

     きつ袮           ぜ尓いつく王んもん

りなれば きつねをとることをやめよとてぜにいっかん もんをあ


多え天罠 を持 帰 れりされども弥作 ハ過 王いの出

   わ奈 もち可へ      やさく 春ぎ   で

たえてわなをもちかえれりされどもやさくはすぎわにので


来可゛多き越奈希゛き天白 蔵  主可゛もと尓い多りこと

き          者く曽゛う春      

きが たきをなげ きてはくぞ うすが もとにいたりこと


のよしを歎  天ま多毛や銭 を得奈んと思 ひ宝

    奈げき     ぜ尓 え   おも 本う

のよしをなげきてまたもやぜにををえんとおもひほう


(大意)

(白蔵)主に化けて弥作のところへ行って「殺生の罪は来生のさまたげ

になるから狐を捕ることを止めよ」と頼み、銭一貫文を

与えて罠を持ち帰った。しかし、弥作はそれでは暮らしていけないことを

嘆き、白蔵主のところへ行き、事の次第を嘆願した。再度銭を得ようとおもい宝

(塔寺)


(補足)

「もと尓い多り」、ここの「も」は「し」のように下までいったら、クルッと左回りに上がり、上部で今度は右回りにおりてきます。「と」がほとんど形がなくてわかりずらいですが、文章の流れから読みます。この3行あとにも出てきます。「い」と「多」が続いていてちょっとわかりずらい。

「後世」の読みは(こうせい)(ごせ)(ごせい)といろいろ。

「さゝハ里」(ささはり)、普段は「さわり」(障り)としか読んでいませんでした。

「とること越や免よ」、「こと」は合字。変体仮名「免」(め)はよく出てきます。

「銭」の旁がくずし字になってません。2行目の「残れり」では同じ旁「戔」でしたがくずし字です。

「帰れり」、振り仮名がないと読めません。

「過王い」(すぎわい)、漢字では「生業」(なりわい)。この読みは知りませんでした。

「奈希゛き天」、変体仮名「希」(き)は調べてやっと納得。たいていは「起」や「幾」。

 

2021年8月24日火曜日

桃山人夜話巻一 その11

P4前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

子越多 くうミ个れども大 可多ハ弥作 可゛為 尓とられ

こ 於本       於本   やさく  多め

こをおおくうみけれどもおおかたはやさくが ためにとられ


て王づ可一 疋 残 れり親 狐  是 越恨  尓や思 ひ个ん寶 塔

    いつひきのこ  於やぎつ袮これ うらミ  於も   本う多う

てわずかいっぴきのこれりおやぎつねこれをうらみにやおもいけんほう とう


寺登いふ尓弥作 可゛おぢの法 師と奈りて白 蔵  主と

じ    やさく     本うし    ハく曽゛う春

じというにやさくが おじのほうしとなりてはくぞ うすと


いへる阿り狐  此 こと越よく志りて阿る時 おぢの白 ざう

     きつ袮この          とき   者く

いえるありきつねこのことをよくしりてあるときおじのはくぞう


(大意)

子を多く産んだがそのほとんどは弥作のために捕られ

てわずか一疋が残った。親狐はこのことを恨みに思ったのだろう。宝塔寺

というお寺に弥作の叔父が坊主となっていて名を白蔵主と

いうことを狐はよく知っていた。ある時叔父の白蔵主

(補足)

「大 可多ハ」、「可」が小さく「大」の下に入ってしまい「太」に見えますが、振り仮名があるので間違えません。

「残れり」、「残」の旁「戔」(さん)のくずし字は「お」に似て特徴的です。

「宝塔寺」、ここの「宝」のくずし字は旧字の「寶」。

 

2021年8月23日月曜日

桃山人夜話巻一 その10

P3後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

もさら尓し天五常  の道 越志れる人 尓狐狸の多ぐ

      ごせう  ミち    ひと こ里

もさらにしてごじょうのみちをしれるひとにこりのたぐ


ひの妨   越奈春こと絶 て奈し昔  甲斐の国 夢 山

  さ満多け     多ゑ   む可し可ひ く尓ゆめやま

いのさまたげをなすことたえてなしむかしかいのくにゆめやま


の麓  尓弥作 と天ひと里の獣 人 有 常 尓鼠  を熊 の

 ふもと やさく      可りうどありつ年 袮づミ くま

のふもとにやさくとてひとりのかりうどありつねにねずみをくまの


脂  尓烹天罠 尓可けてハ狐  をつり其 皮 を者きとり

あぶら に 王奈     きつ袮   曽の可ハ

あぶらににてわなにかけてはきつねをつりそのかわをはきとり


市 尓うること越渡世 とせり夢 山 尓年 経多る狐  阿里

いち      とせい   ゆめやま としへ  きつ袮

いちにうることをとせいとせりゆめやまにとしへたるきつねあり


(大意)

(いう)までもなく、五常の道を知る人には狐狸のたぐいが邪魔立てをすることは決してなかった。昔甲斐の国の夢山という麓に弥作というひとりの狩人がいた。つねに鼠を熊の油で煮て罠を仕掛けては狐を捕り、その皮を剥ぎ取り市で売ることをなりわいにしていた。夢山に年とった狐がいた。

(補足)

「五常の道」、五常とは 仁・義・礼・智・信(じんぎれいちしん)の五つ。ちなみに仁義礼智忠信孝悌(じんぎれいちちゅうしんこうてい)は仁義八行(じんぎはっこう)の玉にある文字で八犬伝の話。「常」のくずし字がどうしてこんなかたちなのかはおいておいて、とても特徴的な形です。2行あとにも出てきます。「道」のくずし字もこんな形なのですが、ここの「道」はいたって普通。

「昔」、パッと見た目は「艹」+「百」にもみえてしまう。

「ひと里」、「と」が「ゝ」のようにみえます。流れから「と」と判断します。

「市尓うること越」、「こと」は合字で一文字扱いです。「ゟ」(より)の合字のフォントはあるのですが「こと」はありませんでした。変体仮名「越」(を)は頻出度とても大。

 

2021年8月22日日曜日

桃山人夜話巻一 その9

P3前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

流遍゛し萬  物 の霊 多る人 登生 れ天畜 類 尓まどハさ

    者゛んもつ 連い  ひと う満  ちくる以 

るべ しば んもつのれいたるひととうまれてちくるいにまどわさ


るゝこと己 れ虚 愚尓し天心  尓誠  奈き可゛故 也世尓狐

    をの きよぐ   こゝろ まこと    ゆへ よ きつ年

るることおのれきょぐにしてこころにまことなきがゆえなりよにきつね


つき或  ハ狐  尓化  され抔 春る人 をミる尓多 くハ愚どん

  阿るい きつ年 者゛可  奈ど  ひと    於本  ぐ

つきあるいはきつねにば かされなどするひとをみるにおおくはぐどん


なる者 可ま多ハ婦人 女 子の多ぐひ奈り仁  人  君 子ハ云

  もの    ふじん尓よし      志゛ん\゛/くんし いふ

なるものかまたはふじんにょしのたぐいなりじ んじん くんしはいう


(大意)

(いない)だろう。万物の霊長たる人として生まれながら畜類に惑わされることは、自分が心に隙があり愚かであり誠がないために起こるのである。世に狐に取り憑かれたり或いは狐に化かされるなどする人を見ると多くは愚鈍な者であるか又は婦人女子たちである。仁徳をそなえた人や君子はいう(までもなく)

(補足)

「流遍゛し」、変体仮名「流」(る)ははじめてみると、とまどってしまいます。「遍゛し」はセットで覚えやすい。

「誠」のくずし字の旁は「成」ですが、このくずし字がここにあるような形です。「厂」は上部にあって、「戈」(ほこ)が縦長になってます。

「故」のくずし字は特徴的で英小文字「m」のようにみえます。

「多ぐひ」、「く」が英文字「L」のようになってます。

 この当時は儒教思想におおわれていましたから、ここにあるようにまったくもって好き勝手に述べています。福沢諭吉などがこれらの儒教的な事柄を徹底的に叩くのはあと少し明治維新になってからです。それにしても「愚鈍なるもの」と「婦人女子」を並列させていることを読者はどんなおもいで読んだのでしょうか。

 

2021年8月21日土曜日

桃山人夜話巻一 その8

P2後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

狐  狸  の人 尓つき猫 鼠  の死人 尓さ満多げ春る奈ど

きつ年多ぬき ひと   袮こ袮づミ 志尓ん   

きつねたぬきのひとにつきねこねずみのしにんにさまたげするなど


是 皆 其 入れ物 を可里天曽れ尓の里うつる奈り獣

これミ奈曽のい 毛の              志゛う

これみなそのいれものをかりてそれにのりうつるなりじゅう


怪  の妖 魔ハ春べ天虚 越窺  ふ毛の奈り志可れバ虚

く王い ようま    きよ う可ゞ         きよ

かいのようまはすべてきょをうかがうものなりしかればきょ


奈き人 尓魔のさ須と云 こと奈し狐  ハ人 を化  春ものと

  ひと ま    いふ    きつ年 ひと 者゛可

なきひとにまのさすということなしきつねはひとをばかすものと


いへ者゛稲荷 山 尓天王ざと日をくら須者 も阿らざ

    い奈りやま     ひ    毛の

いえばいなりやまにてわざとひをくらすものもあらざ


(大意)

狐や狸が人についたり、猫や鼠が死人に妨げをするなどは

これはみな、その入れ物を借りてそれに乗り移ることによるためである。

獣怪という化け物はすべて人の心の隙を窺って入り込むものなのだ。そうであるから、

心に隙のない人に魔物が入り込むことはない。狐は人を化かすものだと教えてやれば

稲荷山でわざわざ日を暮らす者もいないだろう。


(補足)

「猫鼠の死人尓さ満多げ」が具体的にどのようなことをするのかがよくわかりません。

「魔のさ須と云こと奈し」、「さ」が小さくてわかりにくいですが、文脈から判断します。ここの「須」と次行の「くら須」が形がことなっています。

 心に獣怪の入り込む隙をつくってはいけないと言っているわけですが、それでは獣怪の存在を認めてしまうことになってしまいます。でも、まぁ現代でも「魔がさす」という表現は普段から使われてますので、それほどこだわることではなさそうです。

 

2021年8月20日金曜日

桃山人夜話巻一 その7

P2前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

我慢  奈く豪 情 奈く扨 ハ登おもふ一 念 も奈き尓於

可゛まん  ごうぜう  さて     いちねん 

が まんなくごうぜいなくさてはとおもういちねんもなきにおい


てハ鬼神 といふ登も其 人 のこゝ路をさとること阿多

  きじん     曽のひと     

てはきじんというともそのひとのこころをさとることあた


ハ春゛と志るべし楚れ可゛中 尓も獣  怪  と天け毛のゝ年

            奈可  志゛うく王い      とし

はず としるべしそれが なかにもじゅうかい とてけもののとし


経多る可゛人 倫 の眼  をくら可゛し隠  忍  天魔を奈春有

へ    志ん里ん あ奈こ      可くれ志のび ま   あり

へたるが しんりんのまなこをくらが しかくれしのびてまをなすあり


(大意)

思い上がった気持ちもなく、強情な気持ちもなく「さてはあれは(なんだ)とふとおもうこと」もなくては、鬼神といえどもその人の心の中のうごきを理解することはできないとしるべきである。

 そのような「奇怪」のなかでも、「獣怪」といって、獣の年をとったものが人々の目をくらまし隠れ忍んで人に害悪をなすことがある。

(補足)

「おもふ」「一念も」、「も」のかたちがことなっています。

「於(おゐ)」、虫に食われていますが、振り仮名がなんとか読めます。

「こゝ路」、変体仮名「路」(ろ)は初めて見ると???ですけど、特徴的な形なので覚えやすい。

「楚れ可゛」、変体仮名「楚」(そ)もよくでてきます。

「け毛の」、変体仮名「毛」なのか平仮名「も」なのか小さすぎてよくわかりませんけど、多分変体仮名でしょう。

「隠」のくずし字はきっと何度目にしても読めそうにありません。

 

2021年8月19日木曜日

桃山人夜話巻一 その6

P1後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

本゛袮も怪異の姿   尓ミえ天手を出 し天招 き口 を

    けゐ 春可゛多    て 多゛  ま年 くち

ぼ ねもけいのすが たにみえててをだ してまねきくちを


開 天笑 ひ王れ尓懼 ろしゝ登思 へ者゛松 尓可け多類

あき 王ら    お曽    おも   まつ

あきてわらいわれにおそろししとおもえば まつにかけたる


草鞋  も首 を延 し天笠 のうちを覗  个り可れ?

王らんじ くび の者゛ 可さ    の曽゛

わらんじもくびをのばしてかさのうちをのぞ けり(されば)


(大意)

(傘の古)骨も怪異の姿に見えて見えてしまう。古傘がおいでおいでと手招き

口を開けて笑っている。自分が恐ろしいと思ってしまうと、松の枝にかけてある

草鞋が首を延ばしてきて、笠のなかを覗くのではとビビってしまう。だから


(補足)

 最後の三文字「可れ?」の部分は文脈からは「されば」ですが、どうみても一致するのは「れ」だけです。

変体仮名「袮」(ね)、元の字は「禰」。同じ行の下の方に変体仮名「年」(ね)があります。「◯」の横に尻尾がついた形です。

「懼 ろしゝ登」、繰り返し符号「ゝ」はよく使われます。平仮名「く」と間違えてしまいますが意味がおかしくなるのですぐに気づきます。

「松 尓可け多類」、「可」はほとんど点です、「候」も「点」であることがおおいですけど、頻繁に使われるものは著しく簡略化されてしまいます。変体仮名「類」(る)もほどほどあらわれますがたいていは変体仮名「留」(る)です。

「草」のくずし字は最初の1画目と2画目が冠のように大きい。

「个り」、変体仮名「个」(け)は「々」のような形。そのすぐ右に平仮名「け」があります。

 要は、気の持ちようだよと述べているわけですが、そんなこと言ったってねぇ。怖いものは怖い。いろいろあることないこと想像しちゃうから人間なんですよ、そこから芸術も生まれるんですと、これは個人的な見解であります。

 

2021年8月18日水曜日

桃山人夜話巻一 その5

P1前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

桃 山 人 夜話巻 第 壹

とうざんじんやわまきだいいち


第  一 白 蔵 主

多゛いいち者くざう春

だ いいちはくぞうす


夫 奇怪  ハ己  与里む可へ天又 己  与り滅 せり去 バ有 ん

曽れきく王い をのれ      ま多をのれ  めつ  され あら

それきかい はおのれよりむかえてまたおのれよりめっせりさればあらん


可登疑   ふ時 ハ可奈ら須゛顕  連奈し登観  春゛る時 ハ更 尓

  う多可゛ とき      あらハ    くハん   とき さら

かとうたが うときはかならず あらわれなしとかん ず るときはさらに


阿ること那しをのれ尓毛の春ごしと思 へ者゛傘   の婦る

                おも   可ら可さ

あることなしおのれにものすごしとおもえば からかさのふる


(大意)

桃山人夜話巻第壹

第一白蔵主

そもそも「奇怪」とは、自分の心の持ちようで現れたり消えたりするものである。そうであるから

現れるのではなかろうかと疑うときは必ず見えてしまうし、そうでないと楽観すればそのようなことは何事もない。自分に何か恐ろしいと思う気持ちがあれば、傘の古い(骨も)


(補足)

変体仮名「者」(は)のかたちは、「む」の後半がダラリと右に流れたような形。

変体仮名「多」(た)のかたちは、平仮名「さ」の横棒がなくなった形。

変体仮名「春」(す)のかたちは、「す」+「て」or「十」+「と」のような形。

変体仮名「曽」(そ)と平仮名「そ」はほとんど同じなのですが、よくみると一画目がことなっていますので、このBlogでは判別できる限り区別します。

「己与里」「己与り」、続けて出てきてますが、一方は変体仮名、もう一方は平仮名。

変体仮名「天」(て)のかたちは、平仮名「て」の曲線部分が波線になります。

変体仮名「登」(と)、「癶」(はつがしら)のかたちがそのまま簡略化されて「 㣺」。下部は小さな「こ」。

「疑」も「顕」のくずし字はなんとなく元の形が残っているような気がしますが、練習してもかけそうにありません。

変体仮名「須」(す)、ここでは「゛」付。「春」(す)とともに頻出します。このあとすぐに「春゛」があります。

変体仮名「尓」(に)も頻出度大。英小文字筆記体の「y」のようなかたちもよくあり次行に出てきてます。

「阿る」、ここの「る」は変体仮名「留」です。変体仮名「阿」が「何」に見えてしまって「何可」と間違えてしまいます。

変体仮名「那」(な)は変体仮名「奈」「な」とともによくでます。

変体仮名「毛」(も)、「もの」というふうに使われることが多い。小さな文字2文字で「こち」と読めないこともないようなかたち。

変体仮名「婦」(ふ)、特徴的な形なので覚えやすい。



2021年8月17日火曜日

桃山人夜話巻一 その4

目録2 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

手負 蛇  五位の光   累   於菊 虫  野鉄砲

て於ひへび ごゐ ひ可り 可さ袮 おぎくむし のてつ本う

ておいへび ごいのひかり かさね おぎくむし のてっぽう


天火   野狐   鬼 熊  雷 電

てんくハ のぎつ年 於尓く満 可ミ奈り

てんか  のぎつね おにくま かみなり


小豆 洗   山 男   恙   虫  風 の神  鍛冶可゛嬶

阿づきあらひ やまをとこ つゝ可゛むし 可せ 可ミ 可じ  者゛

あずきあらい やまおとこ つつがむし  かぜのかみ かじがば


柳  婆   桂  男   夜  楽  屋 舞 首

や奈ぎ者゛ゞ 可つらをとこ よるの可゛くや まひくび

やなぎばば  かつらおとこ よるのがくや  まいくび


目 録  終

もくろく をハり

もくろく おわり


(大意)

(補足)

変体仮名「可」(か)は頻繁に使われます。平仮名「う」や「ら」などと間違えやすい。文の流れから判断してます。

「て於ひへび」と「おぎくむし」の「於」「お」を比較してください。「お」は現在とそうかわりません。変体仮名「於」は「扌」+「乙」のようなかたち。

「阿づきあらひ」、音「あ」が変体仮名と平仮名が使われています。使い分けの基準はなさそうで、まぁ気分次第なんでしょう。深く考えないことです。

 

2021年8月16日月曜日

桃山人夜話巻一 その3

目録1 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

目 録 1

もくろく


白 蔵 主  飛縁 魔 狐者異 塩 の長司   磯 撫

者くざう春゛ ひえんま こ王ゐ し本 てうじ  いそ奈で

かうぞうず  ひえんま こわい しおのちょうじ いそなで


死 神   野宿   火 寝肥   大 蝦 蟇

し尓可゛ミ の志゛ゆくび 袮ぶとり 於本可゛ま

しにがみ  のじゅくび  ねぶとり おおがま


豆 狸   山 地乳 柳  女   老 人  火 手洗  鬼

まめたぬき やまちゝ や奈ぎをん奈 らうじんのひ て阿らひ於尓

まめたぬき やまちち やなごおんな ろうじんのひ てあらいおに


出  世螺  旧 鼠  二 口 女   溝 出

志由つせ本ら きうそ  ふ多くちをん奈 ミぞい多゛し

しゅっせほら きゅうそ ふたくちおんな みぞいだし


葛 の葉 芝  右衛門狸   波 山  帷子    辻  歯黒 べっ多り

く春゛者 し者゛ゑもん多ぬき 者゛さん 可多びら可゛つじ 者ぐろ

くずのは しばえもんたぬき  はざん  かたびらがつじ  はぐろべったり


赤 ゑいの魚  舩 幽 霊  遺 言 幽 霊  水 乞 幽 霊

阿可   うを ふ奈ゆうれ以 ゆ以ごんゆうれ以 ミづこひゆうれ以

あかえいのうお ふなゆうれい ゆいごんゆうれい みずこいゆうれい


(大意)

(補足)

平仮名「や」が平仮名「ゆ」に見えてしまいますがたいていは「や」です。変体仮名「由」(ゆ)とひらがな「ゆ」の区別は「由」の縦棒が、真っ直ぐではなく少しゆらゆらと曲がります。

変体仮名「於」(お)は右側が「乙」のようなかたちです。

たまに平仮名「た」があらわれますが、ほとんどは変体仮名「多」(た)。

変体仮名「以」(い)もよく出てきます。英小文字「n」がくずれたようなかたち。

平仮名「み」の出現頻度は平仮名「た」より少なくて、ほぼ片仮名「ミ」です。

 それぞれの題名を記入している札が「卒塔婆」を連想させます。立体的にしているのが洒落てます。

 

2021年8月15日日曜日

桃山人夜話巻一 その2

序2 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

賢 者 本うちう越遠 ざく累こと那くかる業

けんしゃ     とを         王ざ

けんじゃほうちょうをとおざくることなくかるわざ


の木戸口 君 子も危   尓近 与らむ登欲 世り

 きどぐちくんし 阿やうき ち可    本つ

のくどぐちくんしもあやうきにちかよらむとほっせり


左あ礼者゛化  毛の屋しきの賣 居 も見届

     者゛け  や   うり春え ミとゞけ

さあれば ばけものやしきのうりすえもみとどけ


ざれ者゛氣尓可ゝ里百  物 語   の會  合 もこ王以

    き    ひやくもの可゛多り くハいがう 

ざれば きにかかりひゃくものが たりのかいごうもこわい


毛能見多以可゛所 詮 奈らむ歟

  ミ    志よせん   可

ものみたいが しょせんならむか


桃花山人題

とうかさんじんだい


(大意)

賢者は包丁を持たぬというウソや

身分のある人も、軽業の木戸口のような賑わうところへ来るし

危険なところへ近寄らないなどという気持ちにはならぬのだ。

そんな訳だから、(嘘とわかっていても入ってしまう)化け物屋敷の売上を

見届けなければ気になることだし

百物語の会合だって所詮は怖いもの見たさなのだろう。


(補足)

 序の続きです。虫食いがあるところはあれこれ他の原本にあたれるところあたり、ない場合は想像で補います。

「遠ざく累こと」、変体仮名「累」(る)としましたが、あまりみませんですね。大抵は「留」「類」「流」ぐらいです。「こと」は合字で頻繁にあらわれます。「ごと」のときもあります。「ゟ」(より)はフォントがあるのですが、「こと」もほしいところです。

「かる業」、変体仮名「留」(る)はこのBlogでは「留」とはせずに「る」にしています。ひらがな「か」がときとしてあらわれますが、ほとんどは「可」。

「欲せり」、「欲」のくずし字はかたちで覚えるのみ。変体仮名「世」(せ)は「を」にみえます。

「左あ礼者゛」、「左」のくずし字、これまた「を」に似てます。「礼」のくずし字の「し」の部分が「丹」に見えるのは、「豊」を略したからかもしれません。「禮」が旧字。

「氣尓可ゝ里」、「ゝ」が判別しにくいですけど、頻繁にあらわれます。「留ゝ」(るる)など。

「こ王以毛能見多以可゛」、変体仮名オンパレード。変体仮名「毛」(も)は二文字のように見えてしまいます。よく出てきます。変体仮名「能」(の)は特徴的な形なのでわかりやすい。他に「乃」「農」など。

最後「歟」の偏のくずし字が「与」に似ています。「与」の旧字は「興」だからでしょう。そして全体のくずし字は変体仮名「飛」(ひ)にそっくりですし、次の「桃」の旁「兆」のくずし字がこれまた「歟」のくずし字とうり二つ。何がなんだかわからなくなります。

「桃山人」がここでは「花」があります。

 

2021年8月14日土曜日

桃山人夜話巻一 その1

表紙 

序1 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

桃 山 人 夜話巻 一

とうざんじんやわまきいち


じょ


佛 尓幽 霊 登唱 ふるは五位鷺 の吸 物 尓し天

ぶつ ゆう連い と奈   ごゐさぎ 春ひもの

ぶつにゆうれいととなうるはごいさぎのすいものにして


納 所 可゛亡者   を称 春るかハ一 切 魚 類 の総 名  也

奈つしよ  毛う志゛や せう    いつさいぎよる以 曽うミやう奈り

なっしょがもうじゃ  をしょうするかはいっさいぎょるいのそうみょうなり


当 時拂 底 奈る毛のハ野暮登变 化

とうじふつて以     や本゛へんげ

とうじふっていなるものはやぼとへんげ


の婦多川奈りといへども春  泉 子邵 康 節 の

           志ゆんせんしせうこうせつ

のふたつなりといえどもしゅんせんししょうこうせつの


一 念 越起 しこゝ尓勧  善 の元 興 寺越畫 く

いち禰ん おこ    くハんぜん ぐ王ごうじ ゑ可゛

いちねんをおこしここにかん ぜんのげんこうじをえがく


予 又 無量  の妄 想 を發 し天是 尓懲 悪

王れま多む里やう もうざう おこ  これ てうあく

われまたむりょうのもうそうをおこしてこれにちょうあく


乃文盲 閑 話を加 ふす禰き里の膏薬

 毛もん可゛王 くハ      かうやく

のももんが わをくわうすねきりのこうやく


(大意)

桃山人夜話巻一

仏道で「幽霊」と言っているのは「五位鷺の吸物」のことであり

寺院で「亡者」と名付けているのはすべての魚類の総称のことである。

今どきすっかりなくなっているものは、野暮と化け物のふたつと云うが

春泉子は(中国の学者)邵康節と同じような一念を起こして

善を勧める(様々な(無いものを形にした)仏像のある)元興寺を画いた。

わたしもまた、数限りない妄想を重ね、これに悪を懲らしめる

見たことも聞いたこともないような話を加えよう。

自らのスネを切って膏薬を貼って治すなどというインチキや


(補足)

 文中「春泉子」とあるのは絵師「竹原春泉斎」のこと。「桃山人夜話」は天保12年(1841)に刊行されています。

 このBlogでは変体仮名の読みの練習学習を第一としています。それら以上の知識や素養もなく間違いもたくさんあるとおもいますがご容赦ください。(読み方)は原文が2行ありその下にひらがなで読みがあり、3行となって読みづらくなってます。これまたご容赦ください。

 「序」は大変にわかりにくい。何度も何度も読み返しました。また「桃山人夜話 ~絵本百物語~ (角川ソフィア文庫) Kindle版」も読んでみました。わたしなりの解釈(フィクションともいいます)であります。ご笑覧ください。

 序文だけに句読点のように●がうってあります。本文にはありません。この本の所有者が加えたものでしょうか。古書を読んでいると黒丸や点や白丸など記号がよくあります。

 なお、画像の使用にあたっては東京都立中央図書館特別文庫室より許可済です。感謝申し上げます。

 

2021年8月13日金曜日

豆本 新版狐の嫁入 その12

P13

(読み)

ふうふ奈可むつましく

ふうふなかむつましく


くらし个る可゛

くらしけるが


本ど奈く

ほどなく


お志ろハく王い

おしろはかい


多い奈しや春\/と※

たいなしやすやすと


※あんざん奈し可奈ひ

 あんざんなしかなひ


よろこびいよ\/者ん

よろこびいよいよはん


志゛うしめで多し\/\/

じょうしめでたしめでたしめでたし


\/

めでたし


御届明治一九年九月廿日

編輯兼 馬喰町二丁目十四番地

出版人 綱島亀吉


(大意)

 夫婦仲は睦まじく

暮らしていました。

ほどなくして

おしろは懐妊し

安産は楽にすみました。

家庭は悦びに満ちた日を過ごし

ますますにぎわい

繁盛しました。

めでたしめでたし

めでたしめでたし


(補足)

「お志ろハく王い」、「く王い」がわかりにくい。「く」が「へ」にみえてしまいます。

「あんざん奈し可奈ひ」、最初は「あんざん奈し个るひ」とおもったのですが、しかし「る」はこのかたちではありません。なので「奈し」できれて、「可奈ひ」(家内)と読みました。

「いよ\/者ん」、「者ん」が悩みますが、次に続くのが「志゛やう」(じょう)ときてますのではんじょう(繁盛)だろうと推測です。

P12P13見開き

 でんでん太鼓であやすは、さすが大店の若旦那、白足袋まで履いて上等な身なりであります。

今回はP10の文章がわからなく、咽に棘が刺さったまんまの感じです。なんとかしなくちゃ。

裏表紙

いつもながらの泳ぐ亀たち。ホッとするひとときです。

 

2021年8月12日木曜日

豆本 新版狐の嫁入 その11

P12

(読み)

[つゞき]

 つづき


れい

れい


のと本りさん\/九ど

のとおりさんさんくど


とゝのひとゞこう

ととのいとどこう


り奈くあい春ミける

りなくあいすみける


(大意)

[つづき]

しきたりどおり

三三九度をとりおこない

とどこうりなく

無事すみました。

(補足)

[つゞき]が貼り紙のようになってしゃれてます。おしろの左腕が白い棒のようでどうしてしまったのでしょう。赤ちゃんの玩具なのか赤い猫とだるまのハリボテがあります。

 

2021年8月11日水曜日

豆本 新版狐の嫁入 その10

P10

P11

(読み)

[つゞ起]

あめお本く

あめおおく


者らつ起个る

はらつきける


与めいりのあ

よめいりの?


奈し奈り志う

??なりしう


げんのざし起ハ

げんのざしきは


まち女???

まちおんな


尓ん奈可うど

にんなこうど


ふうふざせ起

ふうふざせき


さ多゛まり

さだまり


[つ起゛へ]

 つぎへ


(大意)

雨が多く

(晴れることはありませんでした)

嫁入りの???。

祝言の座敷は

(町の)女???

人、仲人夫婦の座席がきまって、

(補足)

 文章は鮮明ですがそのとおりに読ん(だつもり)でも、意味が通じないんです。適当につないでいくと、わたしの得意なフィクションとなってしまいます。

大意は?マークだらけで、もうすこしにらめっこをして考えてみます。うーん・・・。

P10P11見開き

 見開きは、婚礼も無事にすみ、初夜の床入り場面。布団のまわりに屏風めぐらせるのは伝統儀式の大事なお膳立てのようです。寝床の前に用意されているのは床盃でしょうか。二人だけになってあらためて末永くよろしくと盃をかわすのです。

 三人とも笑顔満面で幸せそう。新郎の掛け布団が山盛りでどうしちゃんたんだろう?!

 

2021年8月10日火曜日

豆本 新版狐の嫁入 その9

P9

(読み)

いよ\/吉 日 を

いよいよきちじつを


ゑらミこんれい

えらみこんれい


のぜん日 と奈り

のぜんじつとなり


个る尓曽゛多ん春

けるにぞ たんす


奈可゛もちそれ\゛/

ながもちそれぞれ


のこうぐおへりこん連いの

のかぐおえりこんれいの


与と奈

よとな


可个るてんきハ

かけるてんきは


与けれど

よけれど


[つぎへ]

 つぎへ


(大意)

いよいよ吉日を

選んで、婚礼の

前日となったのでありました。

箪笥・長持ちそれぞれの

家具を送り、婚礼の夜となりました。

天気は良いのですが

(補足)

「奈り个る尓曽゛」、この「曽゛」は今まであまり出てきませんでした。変体仮名「曽」(そ)。

「のこうぐおへりこん連いの」、「の」の次の3文字が「こうぐ」と読めるのですが、意味が通じません。無理やり「家具」としましたけど、よくわかりません。「こん連い」、「ん」が「れ」となってますが次は変体仮名「連」(れ)です。うーん・・・

 綿帽子をかぶった新婦の色打掛の模様は表紙の左の女性の雷文繋と同じです。新婦さん「おしろ」だったのですね。

P8P9見開き

 このような簡素な婚礼がやはりホッとします。

 

2021年8月9日月曜日

豆本 新版狐の嫁入 その8

P8

(読み)

さてあづ起めしあん可゛

さてあずきめしあんが


奈可多り尓て多満や

なかだちにてたまや


可起゛やのそう多゛ん

かぎ やのそうだ ん


とゝのひ个れバひを

ととのいければひを


ゑらび天ゆひ

えらびてゆい


のうをとり

のうをとり


可王し春ミ

わかしすみ


「せう志う者゛ん

 せいしょうばん


ざい者゛ん\/ぜい

ざいば んばんざい


「あひおひの

 あいおひの


まつこそ

まつこそ


めで多

めでた


可り

かり


ける

ける

(大意)

さて、小豆飯庵が仲人となって

玉屋と鍵屋の相談がまとまったので

日を選び結納の取り交わし

が終わりました。

「斉唱万歳万々歳

「相生の松こそ

めでたいことなのです

(補足)

 前頁は結納の挨拶、この頁はもう婚礼の様子です。

「せう志う」が悩みましたが、「万歳斉唱」の「斉唱」だろうとおもいます。

「ゑらび天」、変体仮名「天」(て)はよくでてきます。

「相生の松」、仲のよい夫婦のたとえ。

 

2021年8月8日日曜日

豆本 新版狐の嫁入 その7

P7

(読み)

うへゝんじ奈し个るげぢ与も□

うへへんじなしけるげじょも


□これをきゝ可袮て

 これをききかねて


よりむ春めも見

よりむすめもみ


そめこ可゛れゐるよし

そめこが れいるよし


奈れバべつして与ろこび个る

なればべつしてよろこびける


「ごあん

 ごあん


奈いを

ないを


多のミま須

たのみます


(大意)

(承知の)うえ、返事をいたしました。下女も

これを聞いて、以前

より見初め恋している様子

なので格段に喜びました。

「ご案内を

頼みます

(補足)

「うへ」の次が、ひとまとめになっていてわかりにく。

「げぢ与」(げじょ)、の「げ」が「ゆ」に見えます。これはしばしば出てくる形です。

「これをきゝ」の次からが不鮮明で、わかりません。文意の流れから判断しました。

「べつして」、「つ」と「し」が重なっています。

 相撲のまわしのようなものを立てて、そのまわりにトゲトゲがあります。鰹節です。

結納や婚礼の儀の必需品。

P6P7見開き

両者ともに正装姿。挨拶の口上のやり取りが聞こえてきそう。和やかでめでたい雰囲気が伝わってきます。

 

2021年8月7日土曜日

豆本 新版狐の嫁入 その6

P6

(読み)

む春め

むすめ


お志ろ

おしろ


をもら

をもら


い多しと

いたしと


あづ起

あずき


めしあん

めしあん


をもつて※

をもって


※可起゛や可多へいゝいれ个る

 かぎ やかたへいいいれける


尓さつそくせうちの

にさっそくしょうちの


(大意)

 娘、おしろをもらいたいと

小豆飯庵をたてて

鍵屋方へ申し入れを行いました。

すぐに承知の

(補足)

 合印がどんぐりのような形です。屏風の絵の中に干し藁のようなものがあります。婚礼道中の絵でも鳥居の右側にありました。赤と緑色の籠が手前に二台あります。これは人用ではなく、お祝いの品々を運ぶためのものでしょう。

 子どもたちは豆本などを通して、婚礼の流れも学んでいったこととおもいます。

 

2021年8月6日金曜日

豆本 新版狐の嫁入 その5

P4

P5

P4P5パノラマ

(読み)

可起゛やふく

かぎ やふく


へもん可゛む

えもんが む


春めおしづ

すめおしづ


多満やの

たまやの


せがれこん

せがれこん


志゛らうへ

じ ろうへ


よめいり

よめいり


(大意)

鍵屋福右衛門の娘おしづ

玉屋の倅こん次郎へ

嫁入り

(補足)

 横幅の大きい絵は見てて飽きません。小藩の大名行列は真っ青なほどの豪勢な嫁入行列です。先頭から鳥居のあたりまでは、参道の木立をすすむ後ろ姿。鳥居から奥はこれからやってくるニコニコ顔の親戚一同、「稲荷社」の参道をくの字に折れて遠近感もたっぷりのうまい構図であります。新婦ののる籠を鳥居に重ねてちょいと隠すところが心憎い演出。

 

2021年8月5日木曜日

豆本 新版狐の嫁入 その4

P3

(読み)

この本??可

この???


じ尓て見そ

じにてみそ


め多る可起゛やの

めたるかぎやの


(大意)

この??にて

見初めた鍵屋の

(補足)

 お恥ずかしい、一行目がわかりません。うーん、ちとくやしい。

いかにも若旦那らしいたたずまい。長椅子に腰掛け脚を組んで、片方の草履は足元へそのまま、いやがおうにも目立ちます。小粋なんでしょう。おつきの小僧は傘を背負って、照れています。若旦那がデレデレでしょうがねぇなぁと・・・赤い提灯には「稲荷大明神」とあって、下部がやけに立派です。すだれもきれい。

P2P3見開き

 このような場面の鉄則ですが、二人の視線はバチバチッとぶつかってますし、下女までそうなっています。そうなってないのは小僧だけ。小僧の着物の色柄と傘をさす下女のそれとがおなじ色合いになっています。


 

2021年8月4日水曜日

豆本 新版狐の嫁入 その3

P2

(読み)

可起゛やふくへもん可゛む春

かぎ やふくえもんが むす


めお志ろを本やうの□

めおしろをほようの


□多めげじ与をつけ

 ためげじょをつけ


これもい奈りへまうて

これもいなりへまうて


ける

ける


「もし今 あいまし

「もしいまあいまし


多ハ多満やの

たはたまやの


王可多゛ん奈奈ん

わかだ んななん


と与い

とよい


おとこ

おとこ


でござ

でござ


りま須

ります


(大意)

鍵屋福右衛門の娘、

おしろを保養のため

下女をつけて

こちらもまた稲荷へお参りしました。

「もし、今会いましたのは

玉屋の若旦那ですよ、

なんと男ぶりのよいことで

ございましょう

(補足)

 きれいな絵です。雨が降ろうとふるまいと傘は必需品。もちろんお付きの下女が差し掛けています。下女は下女らしい身なり、娘のほうは江戸紫と一張羅、頭には赤いリボン?

 そばに二羽の鳥は鳩でしょうけど、ちょっと不格好、鳥を描くのは苦手な様子です。

文章に難しいところはなさそうです。

 

2021年8月3日火曜日

豆本 新版狐の嫁入 その2

P1

(読み)

明治十九年十一月二日内務省交付1366


多満やこん春け可゛せ可゛れ

たまやこんすけが せが れ


こんじらうハでいりのい

こんじろうはでいりのい


しやあづ起めし

しゃあずきめし


あんをつ連て者つ

あんをつれてはつ


午奈れバ

うまなれば


王子へ

おうじへ


さん可い

さんかい


せんとで

せんとで


可け个る

かけける


(大意)

 玉屋コン助の息子

コン次郎は出入りの医者

小豆めし庵を連れて

初午なので王子へ

お参りしようと

出かけました。

(補足)

 稲荷神社で行われる2月最初の午の日の初午祭。そとはちょうど梅の花が咲き始めました。

「あず起めしあん」、医者の名前でしょうか、とりあえず「小豆めし庵」としましたけど、わかりません。

 

2021年8月2日月曜日

豆本 新版狐の嫁入 その1

表紙

(読み)

新版狐の嫁入

しんぱんきつねのよめいり


綱島藏版

つなしまぞうはん

(大意)

(補足)

 綿帽子をかぶるは新婦、それを斜めに見上げるは新郎、その裃の紋を拡大してみると狐の顔というか頭部ではありませんか!ふたりとも目がきりりと釣り上がり顔長で狐です。新婦の着物柄は雷文繋とか卍繋といわれるものでありましょうか。筆でいちいちこれを描いていたのでは時間もかかるし、こんな複雑な柄を描いていたらどこかで間違えてしまいます。なので、これはきっとよくある方法、型紙があるはず。いい雰囲気です。

見返しはこのシリーズは朱印のみ。

見返しファンにはがっかり。

 

2021年8月1日日曜日

豆本 昔咄しかち\/山 その12

P12

P13

(読み)

P12下段

△けれ

 けれ


バうさ

ばうさ


ぎ多ぬ

ぎたぬ


きのふ

きのふ


年をふち

ねをぶち


こハし多ぬ

こわしたぬ


起ハ水 尓

きはみずに


P13下段

う起つ

うきつ


志づミつ

しずみつ


うちころ

うちころ


して可多

してかた


起をとり

きをとり


多りぢゝい

たりじじい


も大ひ尓

もおおい


与ろこび个る

よろこびける


めで多し\/\/

めでたしめでたしめでたし


(大意)

出たところ、うさぎは

たぬきの船をこわしてしまいました。

たぬきは浮いたり沈んだりしながら

溺れて殺し、かたきをとりました。

じじいも大喜びでした。

めでたしめでたしめでたし。


(補足)

 たぬきの座っている畳の色で文章が読みづらい。

「う起つ」、変体仮名「起」がかすれていますが、文章の流れからも、このあと5行目「起をとり」の「起」と同じ形です。

「うちころ」、「う」がにじんでしまってます。しかしよく見ると一行目の「う起つ」の「う」と同じです。

 唐辛子味噌を背中にぬられて、たぬきは背筋を伸ばし、両手もつっぱらかせています。しみて痛そう。赤いふんどしをのぞかせ、脱ぎかけた着物柄も簡単な柄ではないし、座布団はさらに縦横柄と手がこんでいます。そして左にみえる木の火鉢、木目も描いています。窓の外はたぬきの悶絶もどこ吹く風、凪いで静かに沖には帆掛け船が・・・

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最後の頁まで大変に丁寧に描かれている豆本でした。

御届明治十九年九月廿日

馬喰町二丁目店十四番地

編輯兼

出版人 綱島亀吉


裏表紙はこのシリーズの池に遊ぶ亀。