P3後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵
(読み)
もさら尓し天五常 の道 越志れる人 尓狐狸の多ぐ
ごせう ミち ひと こ里
もさらにしてごじょうのみちをしれるひとにこりのたぐ
ひの妨 越奈春こと絶 て奈し昔 甲斐の国 夢 山
さ満多け 多ゑ む可し可ひ く尓ゆめやま
いのさまたげをなすことたえてなしむかしかいのくにゆめやま
の麓 尓弥作 と天ひと里の獣 人 有 常 尓鼠 を熊 の
ふもと やさく 可りうどありつ年 袮づミ くま
のふもとにやさくとてひとりのかりうどありつねにねずみをくまの
脂 尓烹天罠 尓可けてハ狐 をつり其 皮 を者きとり
あぶら に 王奈 きつ袮 曽の可ハ
あぶらににてわなにかけてはきつねをつりそのかわをはきとり
市 尓うること越渡世 とせり夢 山 尓年 経多る狐 阿里
いち とせい ゆめやま としへ きつ袮
いちにうることをとせいとせりゆめやまにとしへたるきつねあり
(大意)
(いう)までもなく、五常の道を知る人には狐狸のたぐいが邪魔立てをすることは決してなかった。昔甲斐の国の夢山という麓に弥作というひとりの狩人がいた。つねに鼠を熊の油で煮て罠を仕掛けては狐を捕り、その皮を剥ぎ取り市で売ることをなりわいにしていた。夢山に年とった狐がいた。
(補足)
「五常の道」、五常とは 仁・義・礼・智・信(じんぎれいちしん)の五つ。ちなみに仁義礼智忠信孝悌(じんぎれいちちゅうしんこうてい)は仁義八行(じんぎはっこう)の玉にある文字で八犬伝の話。「常」のくずし字がどうしてこんなかたちなのかはおいておいて、とても特徴的な形です。2行あとにも出てきます。「道」のくずし字もこんな形なのですが、ここの「道」はいたって普通。
「昔」、パッと見た目は「艹」+「百」にもみえてしまう。
「ひと里」、「と」が「ゝ」のようにみえます。流れから「と」と判断します。
「市尓うること越」、「こと」は合字で一文字扱いです。「ゟ」(より)の合字のフォントはあるのですが「こと」はありませんでした。変体仮名「越」(を)は頻出度とても大。
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