2022年9月30日金曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その12

P8 国立国会図書館蔵

(読み)

「奈ん

 なん


でも

でも


とう

とう


可゛らし

が らし


可゛多ん

が たん


との

との


本う可゛

ほうが


きゝ可゛

ききが


いゝと

いいと



(大意)

「なんでも、唐辛子が

たくさんのほうが

ききがよいとさ」


(補足)

 P5ではすすきに満月の屏風の左側にポンポコたぬきが描かれていましたが、この頁では実物がやけどの背中に唐辛子入り味噌を塗られるという図です。うさぎが手にするすりこぎ棒といい、すり鉢といい本物と見まがうできばえです。おちょこのようなものもありますが薄めるための水でもはいっていたのでしょうか、なかなか細かい。うさぎの着物は縦縞をほどこし、たぬきのは網代柄のような細かい線で刻まれています。

 背景は次頁の内容の絵。うさぎが自分の木の船を造船しているところです。うさぎの左手に持っているものは大工道具のひとつである手斧(ちょうな)と呼ばれるのものです。「釿」(金へんに斤)ともかきます。粗削りで材木の形を整えていきます。仕上げには槍鉋(やりがんな)などを用います。豆本にも描かれるぐらいですから当時でも大工現場では当たり前に使われていた道具のひとつだったのかもしれません。

 束ねて立て掛けてある表面に文字が書かれていますが、読めません。

 

2022年9月29日木曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その11

P7 国立国会図書館蔵


P7拡大

(読み)

うちかやへもへ

うちかやへもへ


うつりそうしん

うつりそうしん


やけ多ゞれ大

やけただれおお


やけどゝ奈り

やけどとなり


多り个り

たりけり


(大意)

(と言う)うちに、茅へ燃え

うつり全身

焼けただれ

大やけどと

なってしまいました。


(補足)

 ぼやけることもなくくっきり文字で問題なく読むことができます。

前頁うさぎの腰についていたものと同じものがたぬきの腰にも見えました。やはり斧でありました。斧を拡大してみると、丁寧な仕事をしています。刃の部分からミネの部分の鉄の濃淡がきれいです。

またわらじの裏の部分も拡大して見るに藁を編んだように横に編み込みの筋が入っています。

左下の民家と立木がたぬきのアチチぶりの表現に比べるとやや稚拙なところが笑えます。

 

2022年9月28日水曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その10

P6後半 国立国会図書館蔵

P6拡大

(読み)

を可り尓由く

をかりにゆく


べしとさそひ

べしとさそい


多゛し多ぬ起尓

だ したぬきに


可やをせおハせ

かやをせおわせ


あと可ら可ち

あとからかち


\/とひをうて

かちとひをうて


バい満のおとハ

ばいまのおとは


奈んじやかち\/

なんじゃかちかち


山 じやといふ

やまじゃという


(大意)

(茅を)刈にゆこうとさそって出かけました。

たぬきに茅を背負わせて、うしろから

カチカチと火をうつと

「今の音はなんじゃ」

「カチカチ山じゃ」という(うちに)


(補足)

「さそひ」、「誘い」ですが、なかなか読めませんでした。

うさぎの腰うらに見えるのは斧みたいですが、茅を斧で刈るわけないし、さてなんでしょうか。

 

2022年9月27日火曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その9

 

P6前半 国立国会図書館蔵

P6拡大

(読み)

ゐ多るところ

いたるところ


へうさ起゛可゛き

へうさぎ が き


多りぢいさん\/

たりじいさんじいさん


そのやう尓奈

そのようにな


げ起多るやふ奈

げきたるような


可多起をうち

かたきをうち


て志んぜんと

てしんぜんと


多ぬきのゐ

たぬきのい


る山 へ由きて

るやまへゆきて


いつしよ尓可や

いっしょにかや



(大意)

(嘆いて)いるところへ

うさぎがやってきました。

「じいさんじいさん

それほどの嘆きの

かたきを討って

しんぜよう。

たぬきのいる

山へ行って

いっしょに茅(かや)」


(補足)

3行目行末「く」のようにえるのは小さい繰り返し記号と解釈しました。

5行目「(奈)げ起多るやふ奈」、ずいぶんニラメッコしましたが、「多」の次からがよくわかりません。

「いつしよ尓可や」、「可や」は「茅」です。「いっしょ」だとおもうのですが、う〜ん・・・

 うさぎの腰手ぬぐいの文字は「火之用」(心)でしょうか。両手の部分がぼやけてしまっていますが、火打ち石を打ち付けています。


2022年9月26日月曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その8

P4 国立国会図書館蔵

P5後半

P5拡大

(読み)

奈してぢゝい尓くハせ多ちま

なしてじじいにくわせたちま


ちもとの多ぬきと奈り者゛ゝア

ちもとのたぬきとなりば ばあ


くつ多ぢゝいヤイ奈可゛しの志多

くったじじいやいなが しのした


の本年をミろといひ奈可゛ら山

のほねをみろといいなが らやま


へ尓げ由起多りぢゝいハ奈げ起X

へにげゆきたりじじいはなげき


(大意)

(食事の支度を)して、ジジイに食べさせ

るとたちまちたぬきとなって

「ババアをくったジジイやい、流しの下の

骨を見ろ」といいながら、山へ

逃げて行きました。ジジイは嘆き


(補足)

「ぢゝい尓くハせ」「者゛ゝアくつ多ぢゝいヤイ」、「く」の次に筆が流れているので読みづらい。「くつ多」もしばらくわかりませんでした。「ヤイ」は語尾につけて、からかうような馬鹿にするような感じをにおわせますが、カタカナ「ヤイ」をみるのは初めてなような気がします。

 ポンポコたぬきが屏風に見事です。そのすぐうしろの縁側で、顔に手ぬぐいを押し当て嘆き悲しんでいるのはもちろん爺さんです。屏風の手前ではまさにババア汁をおいしそうに食べている爺さん。屏風の一枚向こうでは、それを知って嘆いている爺さん。天国と地獄です。

 うさぎが山へ逃げてゆくたぬきを見て、なにか決心している感じです。


 

2022年9月25日日曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その7

P4 国立国会図書館蔵

P5前半

P5拡大

(読み)

かくとも志ら春゛ぢゝいハや満

かくともしらず じじいはやま


より多起ゞをせおひ可へりき

よりたきぎをせおいかえりき


多連バ多ぬきの者゛ゝアハ??

たればたぬきのば ばあは


ぢいさんく多び連多であらう

じいさんくたびれたであろう


あさい者つしやつ多たぬき

あさいわっしゃったたぬき


志゛るをこしらへ多りとぜん多゛て

じ るをこしらえたりとぜんだ て


(大意)

そうともしらず、ジジイは山

より薪(たきぎ)を背負い帰ってきました。

たぬきのババアは

「さあさあじいさんくたびれたことでしょう。

朝、言ってらっしゃったたぬき汁

をこしらえましたよ」と

食事の支度を


(補足)

 1ページ前はあれほどボケて不鮮明だった文章も、この頁ではなんともありません。

何が原因なのでしょう?

「や満」、「や」が現在の「ゆ」にみえますが、「や」です。「ゆ」はたいてい変体仮名「由」を使います。

3行目の行末「者゛ゝアハ」の次がよくわかりません。呼びかけの「ヤウ\/」のように読めますがよくわかりません。

「い者つしやつ多」、そのまま「いはつしやつた」と読むと、さて?と考えてしまいます。

 P4はババア汁ジジイに食わせるの絵。爺さん婆さんの顔の描き方が何度も言ってしまいますがこの作者独特の表現であります。

婆さんの姿のどこかにたぬきの片鱗が描かれてないかを拡大して調べましたがなさそうです。

後ろのついたてにはすすきに満月、P5に目をやるとぽんぽこたぬきが描かれてました。

 

2022年9月24日土曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その6

P2 国立国会図書館蔵

P3後半

P3拡大

(読み)

ころしおの連ハ者゛ゝアの春可゛多尓

ころしおのれはば ばあのすが たに


者゛けてし可゛ひを志るの奈可へい連て

ば けてしが いをしるのなかへいれて


者゛ゝア志るをこしらへ本年ハ奈可゛しの

ば ばあしるをこしらへほねはなが しの


志多へ可くしぢゝいの可へりをまちゐ多り

したへかくしじじいのかえりをまちいたり


(大意)

(打ち)殺して、自分はババアの姿に

ばけ、死骸を汁の中へ入れて

ババア汁をこしらえました。骨は流しの

下へ隠し、ジジイの帰りを待っていました。


(補足)

 薄汚れた透明な下敷きを透かして読んでいるようで、なかなか厄介です。ちょっと前でしたら読めなかったことは確実で、まぁここまで読めるようになったことは日頃の成果であります。

おじいさんの顔を拡大してみると、やはりこの絵師独特の描き方で、いわゆる好々爺ふうなものではありません。

 

2022年9月23日金曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その5

P2 国立国会図書館蔵

P3前半

P3拡大

(読み)

者゛アさん尓む可ひ王多し可゛奈王を

ば あさんにむかいわたしが なわを


といてく多゛さらバむ起゛つくてつ多゛ひ

といてくだされらばむぎ つくてつだ い


をい多しま春とまことしや可尓者゛ゝ

をいたしますとまことしやかにば ば


アを多゛まし奈王をと可せて者゛ゝアを

あをだ ましなわをとかせてば ばあを


さん\゛/にて うちゃく奈しつゐ尓ハうち

さんざ んにちょうちゃくなしついにはうち


(大意)

婆さんにむかって「わたしの縄を

ほどいてくだされば、麦つきをお手伝い

いたします」とまことしやかに、ババアを

だまし縄をとかせて、ババアを

さんざんに打擲(なぐりたたくこと)し、とうとう

打ち(殺して)


(補足)

 とても不鮮明で読むのも困難ですが話の筋はわかっていますのでそれを頼りに解読します。

「王多し可゛奈王を」、「王多し」の次がわかりません。

「といてく多゛さらバ」、「く多゛」の次は「さ」でまちがいないとおもいます。しかしその次が「れ」だとつながりがよいのですが「れ」にはみえません。

「奈王をと可せて」、「と可せて」としましたが「とせて」とみえます。

  P2の絵は作者のちょっとした含みがありそうです。大きな袋に見えますがこれはきっとたぬきの金袋なのではないでしょうか。ちょうどたぬきの股下のあたりから出ていることもありますし、袋の表面はたぬきの毛でおおわれているようにも見えます。その袋から両手が右側に、両足がたぬきの脚もとに突っ張って出ています。恐ろしい。

 

2022年9月22日木曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その4

P1後半 国立国会図書館蔵

P1拡大

(読み)

ハんといひてぢゝいハ山 へしごと尓

はんといいてじじいはやまへしごとに


いでし由くあと尓ハ者゛アさん可゛

いでしゆくあとにはば あさんが


むぎをついてゐ多り多ぬきハ▲

むぎをついていたりたにきは


(大意)

食べようと言い残してじじいは山へ仕事を

しに出かけました。家ではばあさんが麦を

ついていました。たぬきは


(補足)

「山へしごと尓」、他の豆本では「山へしばかり尓」となるのですが、ここでは「しごと尓」となってます。「ごと」は「こと」の合字に濁点付き。「ごと」は「者゛」とは読めません。

 捕まって吊るされているたぬきは口をひらいてなにかわめいているよう。拡大してみるとボケてしまってはいますが体毛は丁寧に刻んであるのがわかります。

窓の柵が竹であったり壁が石壁にみえますが土塀が直線状に割れたものなど独特さが見られます。

 

2022年9月21日水曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その3

P1前半 国立国会図書館蔵

P1拡大

(読み)

む可し\/ぢゝいと者゛ゝアとありて

むかしむかしじいとば ばあとありて


あるとき多ぬき可゛いでゝい多づ

あるときたぬきが いでていたず


らを春る由へおさへて尓ハへ志者゛

らをするゆえおさえてにわへしば


りおき者゛ん尓ハ志る尓てくら

ろおきば んにはしるにてくら


(大意)

むかしむかしじじいとばばあが暮らしていました。

あるとき、たぬきが出ていたずらを

するため、捕まえて庭に縛り置きました。

晩には汁にして食べようと


(補足)

「志者゛りおき」、不鮮明ですが読みはあっているとおもいます。

「尓ハへ」、変体仮名「尓」(に)はもうひとつ「者゛ん尓ハ」の英字小文字筆記体の「y」もあります。

 おばあさんの顔立ちは今までの豆本絵本のおばあさんのものと、ずいぶんことなっています。この絵師独特の描き方です。

 

2022年9月20日火曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その2

見返し 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 すすきの穂の部分を拡大してみると穂先の一本一本にさらに細かく線を刻んでいます。これで穂のふわふわ感をだそうという工夫のようです。これから何かが起こりそうなかちかち山の静かな風景でしょうか。月や山を描きたくなってしまいますが、すすきと野原だけ。絵師のこれでいいのだという声が聞こえてきそうです。

 右下に折り目がそのままになっています。これくらいちゃんと折り返してきちんと撮影しなさいって、これをみた当初はおもったのですが、その左上にもっと大きな折返しの線があります。ですのでこの小さい方はもしかしたら、くっついてしまっていて折り返そうとすると和紙がはがれてしまうので、そのままなのかもしれないと、おもいなおしました。

 

2022年9月19日月曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

かち\/山 咄  し

    やま者゛奈

かちかちやまば なし


(大意)

(補足)

 前回のBlog「桃太郎一代記」がおわって、再度木村文三郎の豆本をさがしてみたら、この「かち\/山咄し」がありました。そして表紙をみたらうれしい驚きです。「あさ可゛本物語」の絵師と同じなのでした。目が細く切れ上がり、表情は柔和さより鋭さが目立つ描き方で現代的で劇画風なところもあって現在から見ると先鋭的といってよいです。実際このような表情や描き方でかいている漫画家さんが現在いらっしゃいます。

 この豆本シリースは絵師として小林英次郎(幾久)がかかわっているのですが、彼のような気もしますけど何度か見くらべてみるとやはりここまで画風をかえることはないでしょうから、作者不詳の誰かさんだとおもいます。

 この豆本は一冊まるまる赤く変色してしまっています。日焼けでしたら頁ごとに差があるはずですが頁に関係なく一様に全部の頁が赤く変色しているのは印刷に使われたインクがこの豆本だけ他のものとは異なっていたのかもしれません。しかしこの一冊だけインクをかえるのも妙なはなしです。うーん、詳しい方にお聞きしたいです。

 ラベルが顔の真上に貼ってあります。わたしがこの仕事をした人の上司なら貼った方の顔に同じことをしますね。表題の右側に空白があるのにわざわざ顔にかぶせて貼ることはないでしょう。

 表紙は店に並べたとき、お客さんに手にとってみてもらうため、絵師は一番気合を入れて描くところです。これなら誰でも手がでてしまうでしょう。すばらしいできばえであります。

 

2022年9月18日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その25

 

裏表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 鱗(うろこ)模様にみえるのは、古くから日本の伝統的文様の青海波といわれるながれでしょう。ひとつひとつに年輪のような模様をいれていて、まさしく魚の鱗の年輪でその魚の年齢がわかるのとおなじになっています。

 拡大してそれらを丹念にみくらべてみました。みなそれぞれことなっていてひとつずつ刻んでいることがわかります。他で本で同じものを何冊分か使うならまぁそれに見合う作業でしょうが、この定価3銭の豆本一冊にここまでの労力をかけるとは、彫りだしたらいい加減な仕事はできない職人のなせる心意気っていうものでしょうか。

 丸い花のようなものも同様でひとつひとつがことなっているのですが、全体的な均衡は保っています。

 現在では同じパターンの繰り返しは簡単に一つの図柄を複写していくらでも増やすことができます。この裏表紙のように似てはいますがひとつとして同じものがないというもので全体がまとめられている美しさはかけがえのないものであります。

 

2022年9月17日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その24

 

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

定價三銭

明治十五年七月十一日御届

東京馬喰町二丁目一番地

編輯兼出版人 木村文三郎

(大意)

(補足)

 このBlogにとりあげた編輯兼出版人木村文三郎さんの銅版画豆本は「あさ可゛本物語」「ねこの道行」「ねずみの嫁入」「猿加尓合戦」「花咲ぢヾい」「婦゛んぶく茶釜」とこの「桃太郎一代記」です。住所がここでは「日本橋区」がありません。「ねこの道行」も同様で、この2冊は奥付が同じ版になってます。他5冊は「日本橋区」が入っていてこれらの奥付は5冊とも同じです。

 近世文芸に以下の文献があります。著者の磯部敦氏には許可を得ていませんが紹介させていただきます。

「銅版草双紙考

磯部 敦

2002 年 75 巻 p. 107-117 

発行日: 2002年

公開日: 2017/04/28 

DOIhttps://doi.org/10.20815/kinseibungei.75.0_107」

 この中に明示15年生まれの金田一京助の回想談が紹介されています。

『また、明治十五年に生まれた金田一京助は、縁日で絵本を漁った子供時代を次のように回想する(注32)

自分で選んで、勝手に買って、夢中になった本の初まりは、七つ八つから十才ほどになる頃の、縁日にあさる絵本、草ぞうしの類、だった。十銭ぐらい手にして行って、見世物や アメ玉に使った残りを、一銭、二銭という、そうした絵本に、あれでもない、これでもない、それよりもこっち、い や、こっちよりもそっち、と、岩見武勇伝・絵本太閤記・ 義経一代記・義経勲功記と云った類をあさるうれしさは、今に忘れえない。記憶では、編修兼発行者が堤吉兵衛というのが一番多かったが、これは品が少しおちた。絵も下手、版もわるかった。それに比して尾関とよという女名の本は、絵もよく、版もきれいなので、それを大さわぎして選ったものだった。』

 これだけの見栄えのする豆本が草双紙屋で販売される以外にも縁日の夜店で子どもの買える値段で販売されていたのでした。


2022年9月16日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その23

P12 国立国会図書館蔵

(読み)

幾 英 筆

いくひでひつ


◯もゝ太郎 ハ王可゛や

 ももたろうはわが や


へ可へりぢゝ者゛ゝへ可う\/

へかえりじじば ばへこうこう


をつくし

をつくし


とも尓

ともに


つ連▲

つれ


▲多る

 たる


さる

さる


いぬ

いぬ


きじへも

きじへも


そ連\/尓

それぞれに


おんしやうを

おんしょうを


めぐミめで多き者るを

めぐみめでたきはるを


む可へ个りめて多゛し\/\/

むかえけりめでたしめでたしめでたし


(大意)

桃太郎はわが家へ帰り

じじばばに孝行を尽くしました。

供(とも)に連れていた

犬、猿、雉にも

それぞれに褒美を与え

めでたい春をむかえたのでした。

めでたしめでたしめでたし。


(補足)

 幾英筆と囲みに名前が入って目立つようになっています。小林幾英または小林英次郎。ネットで調べるといろいろ出てきますし彼が描いていたたくさんの浮世絵も見ることができます。すばらしい浮世絵を描いている一方で子ども向けの豆本の絵を描いていることにも驚かされます。

 ちょっと前でしたら犬がこんな格好で散歩していたら驚いたでしょうが、昨今はこのような姿をさせてお供をさせている飼い主さんがいるのでそれほど驚かないでしょうが、でもきっと振り返るでしょう。まぁお供はどちらかわからなくなっていますけど。

 桃太郎の両袖の家紋が桃です。しゃれてます。袴も裃もなんという細かい柄模様でしょうか。二本差しの飾りも手を抜いていません。

 扇を開く方を手にしています。絵でよくみかける描き方です。このように持つのが作法だったのでしょうか。確かにここを持てばなにかのはずみで開くことはありません。

 背景のお城には金のシャチホコがあり、さらにおくには見事な富士山です。裾から頂上へと濃淡をほどこし大沢崩れも描かれています。かなり意識して描いているのがわかります。

 桃太郎の右肩にかぶさる木は桃の木のような気がしてなりません。

あらためて全体をみわたすと、犬がでかいなと感じました。

 

2022年9月15日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その22

P11下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△太郎 ハきゝ

  たろうはきき


とゞけ多可らものハ

とどけたからものは


こと\゛/くぶんどり奈し

ことご とくぶんどりなし


いさ満しくきこくせり

いさましくきこくせり


(大意)

太郎は聞き入れ、

宝ものは

ことごとくぶん取りました。

勇ましく帰国しました。


(補足)

「こと\゛/く」、「こと」は合字。

 鬼たちが宝ものを差し出しているのをこまかく見てみると、四角い箱は地べたですが、大きな巾着袋は脚に飾り彫りのある台にのっています。巻物や細々したものは丸いお盆のような台にのっています。こういったところの描き方がなかなか細かいところです。

 

2022年9月14日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その21

P11上段 国立国会図書館蔵

(読み)

多可ら

たから


ものを▲

ものを


▲さゝげて

 ささげて


奈尓とぞ

なにとぞ


一 めいハお

いちめいはお


多春け

たすけ


く多゛さい

くだ さい


とね可゛

とねが



个れバ

ければ


もゝ▲△

もも



「お尓の

 おにの


め尓

めに



ミ多゛

もだ


とハ

とは


このこと多゛

このことだ


(大意)

宝ものを

捧げて

なにとぞ一命は

お助けください

と願い出たので

桃(太郎は)

「鬼の目に

涙とはこのことだ


(補足)

「多可らものを」、「多可ら」が「多ろう」と読めなくもありません。これらはとてもよくにています。P10「可うさん奈春よしを」の「可う」も「ろう」と読み間違えるくらいにています。

「さゝげて」、「お多春け」では平仮名「け」ですが、昔ながらの言い回し「个れバ」になると変体仮名「个」(け)になってしまいます。

 鬼たちが袖の中に手を入れて中国式の挨拶をしています。ちょっとした時代背景がありそうです。この豆本シリーズが出版されたのが明治15年(1882年)です。その7年前明治7年(1874年)に清国領台湾へ明治政府は初めての海外出兵と戦闘をしています。またその翌年明治8年には朝鮮の江華島事件がありました。鬼たちが戦いのときに使っていた武器も清国の様式のものだったのかもしれません。

 

2022年9月13日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その20

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

あくる

あくる


日お尓ども

ひおにども


もんをひら

もんをひら


いて可う

いてこう


さん奈春

さんなす


よしを

よしを


申  いで

もうしいで


(大意)

あくる日

鬼どもは門を開き

降参することを

申し出て


(補足)

「申いで」、カタカナ「ヤ」のようにみえるのが「申」のくずし字。

 豪華な絵です。桃太郎の頭のうしろにあるのが桃なのかどうかがP7のところではよくわかりませんでしたが、ここでははっきりと桃であることがわかります。桃の葉も確認できます。また旗竿の先のお飾りの桃はここぞとばかりに目立つように立派に、葉も葉脈まで一本一本くっきりと描かれています。

 腰掛けも凝ったつくりで蛇腹のような筒状になったものです。まさかこのまま押しつぶして持ち運びができるものではないでしょうけど。そして桃の絵がいくつも描かれています。

 刀の柄も大小ともに丁寧に刻んでいます。桃太郎は自信満々。

 

2022年9月12日月曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その19

P9下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△もの

  もの


お尓

おに


ども

どお


春る

する


どき

どき


个ん

けん


さ起尓

さきに


あ多り

あたり


可゛多く

が たく


やおもひ

やおもい


个ん

けん


ミもく

みもく


春ミ

すみ


可へ尓げ

かへにげ


こミ

こみ


可多く

かたく


とざして

とざして


まもり

まもり


ゐる

いる


(大意)

(さす)がの鬼どもも

鋭い剣先に

応戦するのも困難と

おもいました。

身体は傷だらけになってかわりはて

(鬼の館に)逃げ込み

門をかたく閉ざして

守りました。


(補足)

「もの」「おもひ」「まもり」、の「も」は「の」にかたちがにています。

「あ多り」、しかえし、復讐の意味もあるようです。

「ミもく春ミ可へ」、今どきはさすがにこのような古風な表現はつかわないようです。

 

2022年9月11日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その18

P9中段後半 国立国会図書館蔵

(読み)

▲者゛うせん奈せ

 ぼうせんなせ


どももゝ太郎

どもももたろう


可゛志き尓

が しきに


志多可゛ひさる

したが いさる


きじひつしを

きじひっしを


きハめてせめ

きわめてせめ


多つ連バさし▲△

たつればさし


(大意)

防戦しましたが

桃太郎の指揮に

したがって、猿

雉死にものぐるいで

攻め立てたので

(さすがの)


(補足)

上段の▲印からのつづきです。

「者゛うせん」、旧仮名遣いでは実際の発音と書き言葉が一致しません。その対応関係はゆるい規則がありますので一度は学んでおいたほうが無難です。

「きじひつしを」、「し」が縦棒「|」になってます。「ひつし」は「羊」ではありません。

 

2022年9月10日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その17

P9中段前半 国立国会図書館蔵

(読み)

さるものあり

さるものあり


とハ王可゛こと

とはわが こと


奈り

なり


さる

さる


とハ\/

とは


奈可\/

なかなか


てづよい

てづよい


者多ら

はたら


き多゛

きだ


(大意)

なかなか使える者がいるというのは

おれのことだ。

猿というのは

なかなか手ごわい

働きをするものだ。


(補足)

P8下段「「多゛い尓つ本゜ん

もゝ可らう満

連太郎の

ミうち尓」の続きになります。

「さるものあり」、「然る者」です。もちろんダジャレで「猿」をかけています。

「とハ\/」、繰り返し記号がありますが、「とはとは」では変ですし「さるとはさるとは」ではなんとか意味が通じますけどやはりなんか変。

 鬼の表情がどこかひょうきんです。鬼のパンツはふんどしに短めの藁(わら)暖簾のようなフリルが定番です。それと武器は槍や日本刀とはことなった、地獄の閻魔様がもっているようなものです。

 

2022年9月9日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その16

P9上段 国立国会図書館蔵

(読み)

P8上段より

げぢを奈し

げじをなし


そ連\/

それそれ


てく者゛り

てくば り


奈春を

なすを


見てお尓

みておに


ども大 き

どもおおき


尓おどろ起

におどろき


うつていで▲

うっていで


(大意)

(さるいぬきじに)

命令して

それぞれに

細かい指示を与えているのを

見て、鬼どもは

大変に驚きました。

攻めに出て▲


(補足)

P8の上段からの続きになります。

「下知」、読みは「げぢ」でも「げち」でもよいようです。

「そ連\/」、これも濁点があってもなくてもよさそうです。「それぞれ」。

 鬼たちが桃太郎たちにくらべると全体に小さく描かれ、逃げ腰で劣勢の感じがみてとれます。

 

2022年9月8日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その15

P8下段 国立国会図書館蔵

(読み)

「ものども

 ものども


春ゝめ

すすめ


\/ \/

すすめすすめ


「多゛い尓つ本゜ん

 だ いにっぽ ん


もゝ可らう満

ももからうま


連太郎 の

れたろうの


ミうち尓

みうちに


(大意)

「ものども

すすめ

すすめすすめ

「大日本

桃からうま

れ太郎の

身内に


(補足)

「もゝ可らう満」、「可」「ら」「う」はみなよくにているので、何度か目をとおさないとわかりません。桃太郎侍の決めゼリフ「ももからうまれたももたろう」でした。

 

2022年9月7日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その14

P8上段 国立国会図書館蔵

(読み)

◯もゝ

 もも


太郎 ハ

たろうは


お尓可゛

おのが


志まへ

しまへ


ち可つき

ちかつき


个連バさる

ければさる


いぬきじ尓

いぬきじに


(大意)

桃太郎は鬼ヶ島へ

近づいたので

猿、犬、雉に


(補足)

いままで「志満」だったのが「志ま」となりました。

 目がチカチカするほどの衣装柄が画面の半分ちかくをしめているような感じです。

大将の桃太郎は従者犬を脇に下知をとばしています。ここでは猿が主役のようで、ほかはまぁまぁという描き方。とてもにぎやかな場面です。

 

2022年9月6日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その13



P7下段 国立国会図書館蔵

(読み)

●(P6より)多゛んご

        だ んご


をもら

をもら


ひてもゝ

いてもも


太郎 尓

たろうに


志多可゛ひ

したが い


お尓可゛

おにが


志まへと

しまへと


いそ起゛

いそぎ


个る

ける


(大意)

だんごをもらって

桃太郎に従って

鬼ヶ島へと

急ぎました。


(補足)

「もらひてもゝ太郎」、「も」はほとんど平仮名「の」になっています。「郎」のくずし字は2行手前の「ら」に「ゝ」がついたようなかたち。

 桃太郎の頭の上にある白い空間は、すきまを埋める工夫かとおもいきや、雉(きじ)がもつ旗竿の吹き流しでありました。

 雉も桃太郎も、絵師のしっている絵柄や紋章をすべて描きなぐったという様子。ド派手でありますけど、歌舞伎舞台でもこんなのがありました。

 

2022年9月5日月曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その12

P7上段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△(P6上段より)可゛

         が

もゝ

もも


太郎

たろう


さ満

さま


おこし

おこし


尓ついて

について


ゐるのバ

いるのは


なんで

なんで


ござ

ござ



ま春

ます


尓つ本゜んX

にっぽ ん


X一 のきミ多ん

 いちのきみだん


ご多゛ひとつ

ごだ ひとつ


く多゛さい□

くだ さい


(大意)

(猿)が「桃太郎様お腰についているのは

なんでございます」ときけば

「日本一のきみだんごだ」

「ひとつください」(P6下段へ)


(補足)

 子どもの頃に何度も歌った童謡は脳髄の奥の奥まで染み付いて覚えているようです。

〽も〜も、たろさん、ももたろさん。おこしについたぁきびだんごぉ、ひとつ〜わたしにくださいな〜

ちょうどこの歌詞の場面のようです。

「ゐるのハ゛」、バはまちがって刻んでしまったようですが、きっと「いへバ」というよくある言い回しとかんちがいしたのかもしれません。

「尓つ本゜ん」、濁点はよくでてきます。「゜」(半濁点)はどちらかといえば珍しい。

「きミ多んご多゛」、濁点のつけわすれがあります。濁点については全般に鷹揚な気がします。

 桃太郎の背中にさしてある旗竿の先端には桃がついています。同じようなものが桃太郎の髪の毛の左側にも見受けられますがこれも桃でしょうか?

 

2022年9月4日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その11

P6下段 国立国会図書館蔵

(読み)

□(P7より)

おともを

おともを


い多しませ う

いたしましょう


といへバもゝ

といえばもも


太郎 ハ

たろうは


こし

こし


より

より


きミ

きみ


多゛ん

だ ん


ごを

ごを


あ多

あた



个れ

けれ


者゛


あと

あと


より

より


いぬきじ

いぬきじ



お奈じ

おなじ


くきミ●(P7へ)

くきみ


(大意)

お供をいたしましょうというと

桃太郎は腰よりきみだんごを与えると

あとから犬、雉(きじ)も同じく

きみ(だんご)


(補足)

 P6P7は見開きで文章が書かれているので、P6上段からP7上段につながりそれがP6下段へつながってP7下段となります。それぞれ文末文頭につながりの合印(▲△など)がついています。

「おとも」、ここの「も」は「し」のながれでそのまま左回りに書き始めあたりでまで上がってクルッとまわします。2行あとの「もゝ」はそれとはことなる筆順です。

「こしより」が「こゝ」にみえます。

 桃太郎といえば岡山名物吉備団子で「きび」のはずですけどここでは何度も「きミ」となっています。まぁどちらもおいしそうですからかまわないのですけど、出版人や絵師のこだわりがありそうです。

 犬の衣装の派手なこと、きっと桃太郎の次ぐらいにキンキラキンの色づかいだとおもいます。

おじいさんおばあさんが見送る手前側が川面のようにみえます。でも描き方は日本独特のすきまを埋める雲のようなものになっています。

 

2022年9月3日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その10

P6上段 国立国会図書館蔵

(読み)

[つゞき]

多くと

たくと


申 シ

もうし


きミ

きみ


多んごを△

たんごを


△こし

 こし


らひもらひ王可゛や

らいもらいわが や



いで

いで


多る

たる


とち う

とちゅう


尓て

にて


さる▲△(P7へ)

さる


(大意)

(過ごさせ)たいのですと申し、

きみだんごをこしらえてもらい

わが家を出発しました。

その途中、猿(が)


(補足)

「多んご」、「多゛」の濁点をつけわすれたか彫り忘れたかなのですが、「こ」には濁点があるのでさてどうしたことか。まぁ読んでいるとよくあることです。

「こしらひもらひ」、こしらえてもらいとすぐに理解できます。文法的にはどうなっているのでしょう?

おじいさんとおばあさんの衣装柄は最初の頁から変わっていません。卍と菱形の四つ星。

 

2022年9月2日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その9

P5下段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲△志満へ

  しまへ


まゐり

まいり


多可ら

たから


ものを

ものを


とりて

とりて


まゐり

まいり


おふ多り

おふたり


をあん

をあん


らく尓春ご

らくにすご


させ[つ起゛へ]

させ つぎ へ


(大意)

(鬼ヶ)島へゆき

宝ものをとってきましょう。

お二人を安楽に

過ごさせ(たいのです)


(補足)

文末、枠の中は「つだへ」ではなく「つ起゛へ」です。

 部屋と庭の出入りに使う踏み台は太い材木を輪切りにしたものです。幹の樹皮は細かく描いていますが切断面の年輪はなぜか適当です。またもうひとつの踏み台というか小さな腰掛けが餅つきの手水の桶の台になっています。この小さな桶も手を抜くことなくしっかりと存在感があります。

 じじばばの視線の先は桃太郎の頭ではなく杵にむかっています。桃太郎の力あふれる餅のつきっぷりはさぞかし「きミのよいおと可゛」庭に響きわたったのでしょう。

 

2022年9月1日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その8

P5上段 国立国会図書館蔵

(読み)

▲春る尓志多可゛ひ

 するにしたが い


ち可らハ人 尓春ぐ

ちからはひとにすぐ


連多りある日

れたりあるひ


ぢゝい者゛ゝあ尓

じじいば ばあに


いひ

いい


个るハお尓可゛▲△

けるはおにが


(大意)

(成長)するにしたがい

傑出した力持ちになっていました。

ある日、じじいとばばあに言うには

「鬼ヶ(島へ)


(補足)

「お尓可゛(志満)」、「お」が「か」にみえてしまいます。

絵を拡大してみると、縁の下に非常に細かい網目模様があります。暗がりを表現するためでしょうけど、それにしてもそのこだわりがすごい。