裏表紙
(読み)
なし
(大意)
なし
(補足)
何の変哲もない横縞柄です。
和綴じの糸こよりが茶色くなってますが、綴じ直しをせずに当時のまま劣化したままなのでしょうか。
佐藤新太郎版はサッパリさらっとしたどちらかというと和風、小林英次郎版は隅々まで描きこむこってりくっきり色づかいもメリハリたっぷりと洋風といったところ。
次回はその小林英次郎の「花さ起ぢゝい(小林英次郎)」となります。
裏表紙
(読み)
なし
(大意)
なし
(補足)
何の変哲もない横縞柄です。
和綴じの糸こよりが茶色くなってますが、綴じ直しをせずに当時のまま劣化したままなのでしょうか。
佐藤新太郎版はサッパリさらっとしたどちらかというと和風、小林英次郎版は隅々まで描きこむこってりくっきり色づかいもメリハリたっぷりと洋風といったところ。
次回はその小林英次郎の「花さ起ぢゝい(小林英次郎)」となります。
奥付
(読み)
御届明治十八年六月一日
めいじじゅうはちねんろくがつついたち
編輯画工兼出板人
へんしゅうがこうけんしゅっぱんにん
定價壱銭五厘
ていかいっせんごりん
東京日本橋區馬喰町二町目七番地
とうきょうにほんばしくばくろうちょうにちょうめななばんち
佐藤新太郎
さとうしんたろう
(大意)
略
(補足)
明治10年の西南の役が終わってようやく明治時代らしさがはじまったなどとものの本にはあります。明治18年出版ですからそろそろ明治中期になる頃でも、読んできたとおりまだまだ江戸時代を引きずった書き言葉や表現があり、そう簡単になくなるものではないことがわかります。
「変体仮名とその覚え方」板倉聖宣著 仮説社 には次のようにあります。
p124_9.
文部省は明治33年にいったん変体仮名の教育を廃止したが、・・・
明治33年、文部省は、小学校令施行規則を定めて小学校での変体仮名の教育を廃止したが、そのとき「棒引き仮名遣い」もさだめたこともあって、猛烈な反対運動が起きて、明治41年に変体仮名の教育を復活した。そこで、第二期の国定国語読本には二六種の変体仮名を教えるようになった。小学校の教科書から変体仮名が完全に姿を消すのは、大正11年以後のこと。
こんな教育事情でありますから、社会・文化に根強く根深く潜り込んでいるものを明治政府が強く指導しようとしてもなかなか手ごわいのでありました。
この豆本壱銭五厘とあります。
日銀のHPには「1円未満の紙幣(お札)や貨幣(硬貨)については、1953年(昭和28年)に制定された「小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律」(いわゆる小額通貨整理法)により、発行が停止されました。また、それまでに発行されていた1円未満の紙幣や貨幣も、同年12月31日限りで通用力を失いました。」とあり、「現在、1円未満の紙幣や貨幣は通貨として使用できませんが、「銭」と「厘」は「1円未満の金額の計算単位」として、「銭は円の百分の一をいい、厘は銭の十分の一をいう」と定められています(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第2条第2項)。
したがって、現在も、利息や外国為替の計算などには1円未満の単位が使われています。」となってます。
後半の説明にあるように、日常の通貨紙幣としては使用できませんが利息・外国為替計算には使われているということであります。
明治39年石川啄木22才は岩手県渋民村尋常高等小学校で代用教員で月俸8円でした。
調べてみると
●東京国立博物館観覧料
明治5年 2銭 昭和56年 250円 →1銭≒125円
●銭湯入浴料
明治5年 1銭2厘 昭和62年 270円 →1銭≒225円
となって、ずいぶんと幅があります。他の料金との比較もありますが、わたしの感覚としては子どもが親戚や親にねだるなり、親などが買ってあげられる価格帯に設定するわけですから、壱銭五厘は現在の価格にすると200円〜300円くらいのような気がします。
P.12
(読み)
奈してちやう
なしてちょう
あひ奈す
あいなす
こと可ぎり
ことかぎり
奈し
なし
めで
めで
多起者るを
たきはるを
む可い个ること
むかいけること
めて多し
めでたし
\/\/
めでたしめでたし
(大意)
して寵愛すること
限りがありませんでした。
めでたい春を迎えたこと
めでたいことである。
めでたしめでたし。
(補足)
「ちやうあひ奈すこと」「む可い个ること」、「こと」は合字。
「めで多起者るを」、「起者」が難しい。変体仮名「者」の上部が「起」の下部にくいこんでいます。
波の絵柄はこの頃には葛飾北斎のような感じで描くのが定番になっていたのかもしれません。似てますよね。
船の舳先をを切っている構図がうまい。兎の赤い瞳、視線は狸憎しとにらめつけ、かたや赤フン狸はやられたぁ〜と、その目線はまた兎に向けられているよう。両者の脚絆、兎は灰色、狸は赤とお似合いです。浪の荒れようが凄まじい。
P.11下段
(読み)
うミへうち
うみへうち
こみ
こみ
とふと可多きを
とうとかたきを
うちとり
うちとり
ぢゞ尓者奈し
じじにはなし
个連バちゞハ
ければじじは
よろこびいく
よろこびいく
者゛くぞ
ば くぞ
そ連ゟ
それより
可のうさ起゛
かのうさご
王可゛
わが
このごとく
このごとく
(大意)
海へ打ち込み
しっかりとかたきを討ち取りました。
ぢぢに(そのことを)話したところ
ぢぢの喜びようはどれほどであったことか。
そののち、かの兎は我が子のように
(補足)
文章のほとんどがこたつの唐草模様の掛け布団を背景にして、文字もかすれやつぶれがあってわかりにくい箇所も多いです。
「とふと」、最初は「とうとう、やっと」の意だとおもったのですが、辞書には「しかと、ゆるぎないさま」とあり、こちらの意味と気づきました。
「可多きを」、この部分うっかりと「うさぎ」と読んでしまいそうです。それでは意味がおかしくなるのですが。
「ぢゞ尓者奈し」、読みづらい。次の「个連バちゞハ」も同様です。
「者゛くぞ」、「ぞ」がつぶれてしまって、「ぞ」とわかれば形をなぞれますが、あれこれ悩む箇所です。
「そ連ゟ」、「より」は合字「ゟ」、「このごとく」の「ごと」も合字。
P10P11見開き
こたつに寄りかかり膝をくずし、胸筋も二の腕も太いのに、なよっているたぬきの姿がおかしい。
ふたつの場面をひとつの絵に盛り込んでいるのですが特に違和感は感じません。
もう一度すりこ木とすり鉢あたりに目をやれば、その左側のお盆の中にある赤いもの3本は唐辛子と見ました。これをすりつぶして狸の背中に塗りつけたという訳?
こたつの高さが高いように感じますが、実際こたつの高さはもっと高いものが多かったようです。ほんとかうそか、向かいに座る人が見えないくらいのものもあったとか・・・
P.11上段中段
(読み)
ふねハ
ふねは
つちぶね
つちぶね
ゆへ多゛ん\/
ゆえだ んだん
くづ連
くずれ
可ゝり
かかり
け連バ
ければ
うさ起
うさぎ
ハよろこび
はよろこび
ひごろの
ひごろの
あくじおもひ
あくじおもい
志連と
しれと
可ひを
かいを
もつて
もって
さん\/゛
さんざん
尓うち
にうち
多ゝき
たたき
(大意)
船は土船のため
だんだんとくずれだしので
兎は喜び、日頃の悪事をおもいしれと
櫂を持って散々に打ちたたき
(補足)
「ふねハ」と「つちぶね」の「ね」が異なってます。後者は変体仮名「禰」(ね)でしょうか。「根」かもしれません。
「くず連」「け連バ」「志連と」、変体仮名「連」(れ)。
「うさ゛起」、濁点をおくところを間違えたか。
「あくじ」、「くじ」が「乍」のようにみえます。
部屋の中は兎が狸に土船を造らせようと設計図を見せて説得している場面、狸は背中の大やけどをいたわるのか半身裸でこたつに入っています。こたつにかぶせてある布は唐草模様。
外では兎が細かく造り方を指示でもしているのか、狸は土壁を塗るときのようにコテ(鏝)と鏝板で左官屋さんのようです。
P.10
(読み)
つく
つく
らせ
らせ
ふたりし
ふたりし
てうミへ
てうみへ
のり多゛し
のりだ し
多゛ん\/とゆく
だ んだんとゆく
本ど尓うさ起゛
ほどにうさぎ
のふねハきぶ
のふねはきぶ
ね多ぬきの
ねたぬきの
(大意)
造らせ二人して海へ乗り出しました。
だんだんと(沖へ)ゆくほどに
兎の船は木舟で、狸の
(補足)
「のり多゛し」、「り」の右側下がかすれてます。
「ふねハきぶね」、「ハ」と「き」の上下がやや重なって少しわかりずらい。
兎が何か紙を狸に見せつけています。船の設計図でしょうか。兎の衣裳が歌舞伎にでてくる役者さんのよう。右下にはすり鉢にすりこぎ棒。何に使うor使ったのでしょう。
P.9後半
(読み)
多ぬき尓
たぬきに
奈け連バ
なげれば
奈を\/
なをなを
奈やミ
なやみ
くるしミ
くるしみ
个る可゛う
けるが う
さ起ふねを
さぎふねを
つくり
つくり
多ぬき尓
たぬきに
春ゝめつち
すすめつち
ぶねを
ぶねを
(大意)
(それを)狸に投げれば
いっそう、もだえ苦しんでいました。
兎は船を作り、狸には土船を作ることをすすめ
(補足)
「奈け連バ」、「け」に濁点がありませんが、よくあることです。変体仮名「連」(れ)は何度もでてきています。
「春ゝめ」、ここの変体仮名「春」(す)は「十」+「て」。
P8P9見開き
見開きで見るとなかなか迫力があります。忍者同士の戦いのよう。
狸の燃え盛っている柴の下の色が土の色と同じになってしまってます。
P.9前半
(読み)
いゝけるバ
いいけるば
うち尓
うちに
もへ
もえ
あ可り
あがり
大 やけ
おおやけ
ど奈り
どなり
うさ
うさ
ぎ
ぎ
きゝて
ききて
よろ
よろ
こび
こび
ミまい
みまい
奈可゛ら
なが ら
とう
とう
がらしミそ
がらしみそ
もちゆき
もちゆき
(大意)
と答えたとたん
(柴の)内側に燃え上がり
(狸は)大やけどをしました。
兎はそれを聞いて喜び、見舞いに
唐辛子味噌を持ってゆきました。
(補足)
この頁、文章よりも先に兎の斬新な忍者装束のような姿に目が奪われます。一体この●の紺色、そのまわりに薄青のトゲトゲ、なんて奇抜な柄でありましょう。両手に持つは火打道具、これがカチカチの音のもとです。
「いゝけるバ」、「る」は「連」(れ)ではないのですね。
「うち尓」、「う」のカーブのところがかすれていて「こ」にもみえてしまいます。
「きゝて」、ここの「て」も先ほどの「う」と同じく、かすれてます。「と」にみえます。
「ミまい」、「ま」とわかってしまうとなんでもないですが、変体仮名「連」(れ)をちょっとかきそこなったようにもみえます。
P.8
(読み)
「こゝハ
ここは
かち
かち
\/
かち
や満
やま
奈り
なり」
と
と
(大意)
「ここはかちかち山だ」と
(補足)
前頁の狸の問に答えています。
「かち」、平仮名「か」です。
場所を示す杭には「かち\/山」「加知仝山」とあります。「仝」は繰り返し記号「\/」と同じで読みは(おなじ)(どう)。
紺地に白の格子縞の上下に地下足袋姿、背中の柴に火付けされおおあわてです。
P.7
(読み)
ひをうち可け連バ多ぬきい満のおと
ひをうちかければたぬきいまのおと
ハ奈んのおと奈りときけ者゛
はなんのおとなりときけば
(大意)
火を付けたところ
狸が「今の音は何の音か」と
聞いたので
(補足)
出だしの「ひ」の上に文字のようなもながあります。無視しても意味が通じますのでゴミと判断。
「い満のおと」、ややかすれているので読みにくい。
音はもちろん火付けに使う火打ち石です。
縁側の座面は竹でしょう。全体の作りも細部まで丁寧に描いています。
部屋の壁は豆本の定番でたいていヒビが入り一部はくずれています。
P6P7見開き
空の赤、黄土色の小山、緑の草木は色の調子を両頁で保っていますが、灰色の地面は爺さんのほうがややマットな感じで、兎のほうは筆でササッと左右に塗っています。
それにしても幸せ満面の食事から庭に崩れ落ちてしわくちゃの泣き顔、天国から地獄。
P.6
(読み)
うさぎ王多くし可゛か多起
うさぎわたくしが かたき
をとつて志んぜませ う
をとってしんぜましょう
とうさ起゛多ぬ起のや満へ
とうさぎ たぬきのやまへ
ゆき多ぬき尓志者゛を
ゆきたぬきにしば を
せ本いさせうしろより
せほいさせうしろより
(大意)
うさぎ「わたくしがかたきをとってしんぜましょう」と
兎は狸の山へ行き、
狸に柴を背負わせうしろから
(補足)
「うさぎ」「うさ起゛」、「多ぬ起」「多ぬき」と文字を変えています。
「王多くし可゛」、わたくしが、とはとても丁寧です。変体仮名「王」(わ)。
「か多起」、平仮名「か」がよく使われるようになってます。
「や満へ」、変体仮名「満」(ま)。そのすぐ左側の行に平仮名「ま」があります。
「せ本いさせ」、変体仮名「本」(ほ)。
耳をピンとたて腕まくりする兎は赤い目で狸をにらみ、浴衣のような着物の柄が独特です。
下駄は丁寧ですが、狸の絵はちょっと乱暴。
P.5
(読み)
あと尓て
あとにて
ぢゞハおど
じじはおど
ろき可奈し
ろきかなし
ミい多ると
みいたると
ころへうさ
ころへうさ
ぎまいり
ぎまいり
ぢゞハいちぶ
じじはいちぶ
志ゞ うをか多り
しじゅうをかたり
奈げき
なげき
可奈
かな
しミ
しみ
けり
けり
(大意)
あとになって
じじは驚き悲しんでいたところへ
兎がやってきました。
じじは一部始終をうさぎに話しながら
(いっそう)嘆き悲しみました。
(補足)
「あと尓て」、「あ」がわかりにくですが右上のカーブがやや大きくなってます。
「いちぶ志ゞう」、始終(しじゅう)が悩むところですが、その前の「いちぶ」がありますので、一部始終とつながります。
「か多り」、平仮名「か」。
「けり」、全ページでは「个り」でした。
爺さん、山へ出かけてゆくのに部屋では裕福ななりであります。お膳も漆塗りとおもわれ立派です。
うしろには屏風、座布団は赤でこれに赤のちゃんちゃんこを着てれば還暦祝の宴席になります。
P4P5見開き
そんな好々爺に向かう恐ろしい形相のばばに化けたたぬき、ブルッと震えます。
P.4
(読み)
可の志るを
かのしるを
くい可け連
くいかけれ
バ者゛ゞハ多ぬ
ばば ばはたぬ
きと奈つて
きとなって
尓げさり
にげさり
个り
けり
(大意)
この汁を食わせると
ばばはたぬきになって
逃げ去りました。
(補足)
おぉ〜こわ!たぬきの顔がじじいをにらみ、ばばの死骸を入れた汁をお椀に入れています。
汁鍋にはちゃんと鍋敷きがあります。左のおひつは大きく立派。
尻尾が見えてますよ。
「くい可け連バ」、変体仮名「連」(れ)が悩みますがここまで何度かでてきているので大丈夫です。
「かける」は辞書にたくさんの意味があります。ここでは「他にある作用を与える。他に影響を及ぼす」をとりました。
「个り」、変体仮名「个」(け)。
P.3
(読み)
や連者゛
やれば
者゛ゞを
ば ばを
うちころし
うちころし
者゛ゞ尓春可゛多
ば ばにすが た
をへんじ者゛ゞと
をへんじば ばと
奈つて者゛ゝの志可゛ひを
なってば ばのしが いを
志る尓いれおく
しるにいれおく
ところへぢゞハ
ところへじじは
可へり
かえり
(大意)
(縄めをとき)そうしたら
(たぬきは)ばばを打ち殺してしまいました。
ばばに姿を変えばばになって
ばばの死骸を汁に入れておきましたところへ
じじが帰ってきました。
(補足)
「や連者゛」(やれば)、変体仮名「連」(れ)がある一方、後ろから3行目に「いれおく」と平仮名「れ」もあります。「者゛」はいままでなら「バ」でした。
「へんじ者゛ゞと」、「と」としましたが、かすれていてよくわかりません。カタカナの「ニ」としたら位置や大きさがおかしい。「尓」でもおかしい。
「者゛ゞ」が4回もでてきました。
婆さん狸にだまされて打ち殺され哀れ汁に入れられてしまいました。
麦を挽いていた石臼の上部がはずれて、下部の内面が丁寧に描かれ正確に波状のギザギザまでわかります。
P2P3見開き
婆さんを打ち殺す勇ましい狸に憎しみが高まる場面です。
P.2
(読み)
あと尓て
あとにて
たぬきハ
たぬきは
むぎミを
むぎみを
つ起
つき
い多る
いたる
者゛ゞ尓
ば ばに
む可い
むかい
王連の
われの
奈わと起て
なはときて
くれ連バ
くれれば
むぎつく▲
むぎつく
てつ多゛い春べし
てつだ いすべし
と
と
もふし
もうし
个連バ
ければ
者゛ゞハ
ば ばは
奈ハ
なわ
めを
めを
と起
とき
(大意)
そののち、たぬきは麦実をついているばばにむかって
「おれの縄をといてくれれば麦つきを手伝ってやろう」と申しましたので
ばばは縄めをといてあげました。
(補足)
絵の隙間に文章が散らばります。
豆本それぞれに文字や文章にクセがありますので、最初はとまどいます。
「たぬき」、平仮名「た」です!しかしここだけ。
「つ起」や「と起」という言い回しがよく出てきます。
「王連の」(われの)、変体仮名「王」(わ)は「已」のような形。変体仮名「連」(れ)このあとも出てきます。
「春べし」、変体仮名「春」(す)は「す」+「て」のようなかたち。
「个連バ」(ければ)、難しいです。文章の流れで「ければ」と予想してにらめっこするとそう見えてきました。
明治18年出版ですが、まだまだ変体仮名やかっての言い回しがあたりまえに出てきてます。そう簡単に変わることができるものではありません。
四角い枠にバッテンの道具は小林画でもでてきてました。枠をよく見ると竹でできているようです。節まで丁寧に描いています。右脇の囲炉裏の自在鉤の支柱も節がありますので竹かもしれません。
あやうく食べられそうになったたぬき、怒り心頭、六尺棒のようなものの先は?ばばの足が見えています。
P.1
(読み)
む可し\/ ぢゝと
むかしむかしじじと
者゛ゞありしと起
ば ばありしとき
多ぬきを尓わ尓志者゛り
たぬきをにわにしば り
おき者゛ん尓志る尓しやうと
おきば んにしるにしようと
いゝつけ
いいつけ
や満へ
やまへ
ゆきける
ゆきける
(大意)
むかしむかしじじとばばがおりましたときのことです。
たぬきを庭にしばっておきました。
晩の汁にしておいてくれといって
(じじは)山へ行きました。
(補足)
絵のタッチが小林英一郎のものとはまったく異なっているのが一見してわかります。
小林英一郎画は太い黒線で輪郭をはっきりさせ、色は均一に鮮やかであります。
佐藤新太郎画は輪郭線はササッとなでるように細く、色は薄めのものをそっとおいている感じ。
前者がこってりなら、後者はさっぱり。両者ともに味があります。
「と起」がすぐにはわかりませんでした。「起」はすぐにわかったのですが「と」がわかりません。
「多ぬきを」、「ぬ」が「ね」にみえます。
ここからはかすれているせいもあると言い訳がましく「尓わ尓志者゛り」、最初の「尓」が「あ」と読み違えると迷路に入ります。「志」は大丈夫。前後と意味がつながるように何度も音読してようやく納得。なかなか初心者から抜け出ることができませぬ。
「者゛ん尓」、ここの「尓」のように、ほとんど筆記体英字の「y」のかたちも多い。
「しやうと」、「や」が小さく、この「や」と次の「う」が一文字のように見えてしまってあれこれ悩む。「う」が「ろ」にも「る」にも見えます。「と」がかすれてこれまた悩みます。
「や満へ」、変体仮名「満」(ま)です。
絵の構図が小林英一郎のものと背景をのぞいてほとんど同じです。たぬきの縛られ吊り下げられている様など重ねられるくらい。
小林画では麦を臼と杵でついてましたが、佐藤画では石臼で挽いています。
また小林画のほうは柱や桟など真っ直ぐなところは定規で描いたかのように一直線、佐藤画は手書き感ただよいたよりありませんが全体としてボロ屋の雰囲気が増しています。
これからたぬき汁にするババの表情がうれしそうで優しい、「これから汁にするからいい子にしていてね。美味しく食べますから・・・」
見返し
(読み)
明治十九年十二月十四日内務省交付1949
(大意)
略
(補足)
出版は明治18年6月1日ですが内務省交付の日付はそれから1年と半年後。
赤の朱印は左回りに東京図書館印と読めます。内側の英字は右回りでTOKIOのあとが不明です。
杵をホッピングに持った兎と紅白座布団に座す狸の置物。狸の柄が米国の国旗をおもわせます。
表紙
(読み)
国政筆
くにまさひつ
かち\/山
かちかちやま
(大意)
略
(補足)
明治18年出版、画工も出版も佐藤新太郎。前回の小林英一郎が明治13年でした。佐藤新太郎はその豆本を目にしていることは確実だろうと思われます。
「政」のくずし字が元の字と似ても似つかないようにみえます。くずし字ではよくありますが、偏と旁は左右の位置にあるものを上下にもってきます。最近できた奈良文化財研究所史的文字データベース連携検索システムで確かめてみるとひとつだけ例がありました。くずし字辞典にはありませんでしたので、それほど目にするくずし字ではないようです。
同じ柄のうわっぱりを羽織っている二人、青の方は右手にたぬきのお面、左手に櫂。赤の方は右手に櫂、左手はラベルに隠れていますが兎でしょう。漁師ですね。背景全体は明治赤。