2022年3月31日木曜日

塩賣文太物語上 その7

P4前半 国立国会図書館蔵

(読み)

おあきんどいつも

おあきんどいつも


よりこんどハ

よりこんどは


者やくく多゛り

はやくくだ り


志やつ多

しゃった


せんそく

せんそく


つ可ふて

つかうて


や春ま志やませ

やすましゃませ


心  のよいお人 志゛や

こころのよいおひとじ ゃ


をもしろい者奈しの

おもしろいはなしの


(大意)

商人さんはいつもより

今回ははやくやって

いらっしゃった。

脚を洗って

ごゆっくりして

ください。

こころ立てのよいお人じゃ。


おもしろい話の


(補足)

この頁もP4P5は見開きになってます。

「志やつ多」や「志やませ」はそのまま読むと何のことかとおもいますが、会話文の文末です。

「せんそく」、はて読み間違いではなさそう。辞書に「洗足」がありました。旅籠などに着いたときに桶の水や湯でお客さんの脚を洗うことでした。

丸印に囲まれた「文」や「小」がはっきりと記されています。

 

2022年3月30日水曜日

塩賣文太物語上 その6

P3 国立国会図書館蔵

(読み)

志本や起の者ま大 くうじと?

しおやきのはまだいぐうじと?


志遠やき一 者゛んの志本や尓て

しおやきいちば んのしおやにて


上  下おびたゝしきくらし奈り

じょうげおびたたしきくらしなり


者゛ゝめ可゛いう

ば ばめが いう


ざる

ざる


おもいれを

おもいれを


つ可うぞ

つかうぞ


「ね」

 ね


王多くし可゛あや

わたくしが あや


奈してミま志よ

なしてみましょ


者゛ゝどのゝてぎハ尓も

ば ばどののてぎわにも


あの子可゛??

あのこが


いけ?まい

いけ?まい


(大意)

塩焼きの浜の大宮司は

このあたり一番の塩問屋で

豪華な暮らしをしていました。


婆めが言う

ざる

おもいれを

つかうぞ


「ねじかね婆」

わたくしがうまく話をまとめてみましょう。


婆殿の手際でも

あの子は言うことを聞きますまい。


(補足)

 P2P3は見開きですので、P2の大宮司のセリフはP3のねじかね婆のセリフに答えたものでした。

右上の3行は内容はなんとなく理解できますが、やはり読めないところが・・・

「志遠やき一 者゛ん」、変体仮名「遠」(を)としましたが、自信なし。

左真ん中あたりのセリフはどんな意味なのかさっぱり・・・

 天秤棒で海水を運ぶ職人さんたちの腰蓑が素敵です。現在でもおなじような格好をして働いているようです。

 

2022年3月29日火曜日

塩賣文太物語上 その5

P2下段 国立国会図書館蔵

(読み)

ねぢ可年

者゛ゝとて

此の家尓

ふ多゛いの

らう女有

し可゛此事

御心尓

?可す

べしと

いふ


志由び

春ると

御本うひ可゛

でるぞ


(大意)

また、

ねじかね婆という代々仕えている

老女がいたが

この殿様の想いを

かなえて差し上げましょう

という。


首尾よくできれば

ご褒美がでるぞ。


(補足)

「ねぢ可年」、最初の「ね」は平仮名、次のは変体仮名。使い分けに規則はなさそう。「ぢ」は「江戸日本とジャポニズムの絵本ギャラリー」ホームページがなければわかりませんでした。

「?可す」、読めそうで読めません。ウ~ン。

「志由び」、「志由」で一文字の漢字と思い込んでなんか「喜」に似ているなと。

スラスラ読めませんねぇ。

大宮司の左袖には「大」印が付いています。

手前の俵や笊に山盛りなのは塩。

 

2022年3月28日月曜日

塩賣文太物語上 その4

P2上段 国立国会図書館蔵

(読み)

奈尓そち可゛

なにそちが


可げやう可

かげようが


志らの大 くうし小志本可゛

しらのだいくうじこしおが


事 をきゝい可さま

ことをききいかさま


志本ゝしき

しほほしき


ものとをもい

ものとおもい


个るよの

けるよの


よめ尓せん

よめにせん


ものと文 太を

ものとぶんたを


めしその事 を

めしそのことを


のへし可゛む春めきゝ

のべしが むすめきき


いれぬよし奈り

いれぬよしなり


(大意)

なにおまえが

かけようか


しらの大宮司は(文太の娘の)小しおの

評判をきき、なんとしても

小しおを欲しくおもいました。わたしの

嫁にしようと文太呼びよせ、その事を伝え述べたが

娘は聞き入れぬということでありました。


(補足)

 わたしは古文書を読むのは超初心者から少しは抜け出しつつあるのではと自負しておりましたが、撤回せねばなりませぬ。読めませんねぇ。読めないと推理が先行してだんだんフィクションになっていくのが恐ろしくもあります。

 出だし、大宮司のセリフの2行目がわかりません。変体仮名「可」(か)と「う」はまぎらわしいですが、「可け」ではなく「うけ」ですかね。まぁどっちにしても?。

「志らの」が「はまの」でしたらわかるのですけど、読みが間違っているのでしょうか。ウ~ン、

「个るよの」、ここの行の「よの」もなかなかわかりませんでした。

「事をきゝ」、「めしその事を」、この「事」も手こずりました。平仮名「る」ににています。

 ふぅ〜、このあとも苦労しそうです。絵本なので楽しみたいんですけど・・・

 

2022年3月27日日曜日

塩賣文太物語上 その3

P1下段 国立国会図書館蔵

(読み)

お志本といふむすめを

おしおというむすめを


もてり此 子まつしき

もてりこのこまずしき


ものゝむ春めなれども

もののむすめなれども


心  やさしく

こころやさく


歌 の道 を

うたのみちを


ま奈び者る

まなびはる


あ起の花鳥

あきのかちょう


風月  を?

ふうげつを?


としく

としく


个り

けり


(大意)

おしおという娘が

おりました。この子は貧しい

一家の娘ではありましたが

心やさしく

歌の道を学び

春秋の花鳥風月を

たのしみました。


(補足)

つっかえつっかえなんとか読みましたが、最後の「風月を」の次は何でしょうか。

「花鳥」も最初は?でしたが、風月とくればその前にくるのは花鳥です。鳥のくずし字はわかりましたが、花のくずし字を調べてみて納得。

「歌」のくずし字も一読のときは?。「道」のくずし字は特徴的なので読めました。

文太の奥様は左利きのようです。塩田をならす鋤を左手が前に出ています。

 

2022年3月26日土曜日

塩賣文太物語上 その2

P1上段 国立国会図書館蔵

(読み)

ひ多ちの

ひたちの


く尓の

くにの


志本や起尓

しおやきに


文 太といふ

ぶんたという


ものあり个り

ものありける


心  正  じき尓

こころしょうじきに


してふうふ

してふうふ


いと奈ミ

いとなみ


个り

けり


(大意)

常陸国(ひたちのくに)の

塩焼きに

文太という

者がいました。

心は正直であり

夫婦で住んでいました。


(補足)

「ものあり个り」、行末の「り」が「る」と迷いましたが、「あり」の「り」と同型なので「り」としました。文末の「个り」も同様です。

「心正じき」、最初「心」が悩んだのですが、下段に「心やさしく」とあり解決。

 彫師の腕はいまひとつのようです。字がゴツゴツしています。文太の左の裾のところに「文」とあります。表紙の娘の右袖に「小」とあったのはいたずら書きではなく、小しおの「小」でした。

かすれているところもあって、読むのはいささか大変です。

 

2022年3月25日金曜日

塩賣文太物語上 その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

塩 賣

し本うり

しおうり


文 太

ふん多゛

ぶんた


物 語  上

もの可多り

ものがたり


(大意)

(補足)

この本の奥付には「寛延二年巳正月」とありますのでグレゴリオ暦1749年2月(17日)です。

正月とあるのは、版元は正月に合わせて出版販売するのが通例だったためです。絵本です。

「賣」は「士」+「買」。売るのにどうして買うが入っているのか不思議です。

「買」は「罒」+「貝」で、貝はお金の意味ですから、それらを罒(あみがしら)、つまり網ですくって採取する。つまり「貝(お金)」を手に入れるという意味になります。

「賣」の上部は「士」で、これは横棒二本の両端に短い縦棒を書き添えると「出」になります。なので「貝(お金)」が「出」てゆくという意味になります。

老婆心ながら豆知識でした。

「文太」(ふん多゛)。先の「桃山人夜話巻五 舞首」の登場人物に「小三太」がいました。この振り仮名が(こさん多゛)と「太」が「多」ではなく「多゛」と濁っていました。どうやら「文太」は「ぶんた」ではなく「ふんだ」と発音していたのかもしれません。

「語」の「吾」がなんか変なかたちにみえます。しかし「五」のくずし字のとおりになっています。

「五」の二画目で真下までおろしたら、そのまま逆Sのように下から左回りに上がっていって真ん中あたりで今度は右回りになって三画目の角になります。「口」の部分はちゃんとそれらしくなっています。

 ご婦人が釜茹でならぬ、竹簾の上に座して湯気または煙で燻されているのかあぶられているのか、しかし表情は苦悶している様子はありません。ご婦人の視線の先には目線で合図しているのか燻され加減はどうだいときいているような顔つきの男子が。何でしょうねぇ。

 ご婦人の右袖あたりに「小」の字がありぼやけていますがなにか他の文字のようなものがあります。いたずら書きですかね。

 

2022年3月24日木曜日

桃山人夜話巻五 その46

 

P28奥付 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

作 者  桃 山 人

さくしゃ とうざんじん


画 工 竹 原 春  泉

がこう たけはらしゅんせん


金 花堂 蔵 板

きんかどうぞうはん


(大意)


(補足)

「作者」or「俳者」か迷うところです。くずし字辞典やネットの日本古典籍くずし字データセットで比較した結果、「作者」としました。

 全五巻楽しく毎日ブログアップができました。話の内容がいろいろあって面白かったのですが、一番わたしの奥底ですごいなと感嘆していたのは、彫師と摺師の腕です。版元から清書された原稿をわたされ、板に貼り付け、一文字一文字さまざまな彫刻刀を使って刻んでいきます。筆のカスレや細いつらなりなど筆で紙に書いたままの質感を保って刷り上げます。そして出版後は版木は次の本のためにかんなで削られてしまいます。だんだん薄くなった版木は家の壁の穴ふさぎのあて板や薪になってしまいました。

 貴重な版木を保存している会社もあります。わたしが二十歳前の頃だったでしょうか、宇治の鉄眼和尚の一切経の版木を見たときの感動は今もしっかりとおぼえています。

 版木は当時、街なかの和菓子屋さんのお店で和菓子が入れられているガラスケースのようなものにごっそりと入れられていました。暗い部屋でしたが、黒光りした版木の迫力のあること。ガラスケースを開けて、何枚か持たせてもらいました。ずっしりとした重みは版木の重さだけではなく何枚も何枚もお経を刷り上げてきたそれらの積層したものでありました。美しかった。一文字一文字の角はまったくつぶれてなく鋭角に際立っていました。薄暗がりの部屋を出ると、そとは蒸し暑く青空でした。


2022年3月23日水曜日

桃山人夜話巻五 その45

P27 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

舞 久飛゛

まひ

まいくび


三人 の博徒    勝  負の

ミ多り 者゛くちうちせう ぶ

みたりのば くちうちしょうぶの


いさ可ひより事 おこり

      こと

いさかいよりことおこり


て公   尓とらハれ皆 死

 お本やけ     ミ奈し

ておおやけにとらわれみなし


罪 尓奈りて死可゛いを

ざい    し

ざいになりてしが いを


海 尓奈可゛し个るに三人 可゛

うミ        ミ多り

うみになが しけるにみたりが


首 ひとゝ古路尓より

くび

くびひとところにより


て口 より炎  を者き

 くち  本の本

てくちよりほのおをはき


可けた可゛ひ尓いさ可ふこと

かけたが いにいさかうこと


昼  夜やむこと奈し

ちう や

ちゅうややむことなし


(大意)

舞首

三人の博打打ちが勝負の

いさかいから事が起こり、

公にとらわれて皆死

罪になった。死骸を

海に流したところ、三人の

首がひとところにより

集まり、口より炎をはき

かけ、互いに言い争うこと

昼夜やむことはなかった。


(補足)

 この画では海の浪や渦や波しぶきはわかりますが、三人の顔の表情に描かれている細かい線がぼやけてしまっていてよくわからないのが残念です。同様に髪の毛も非常に繊細に描かれているのですが、絵師が得意としていたのではとおもえます。

「久飛゛」、変体仮名「久」(く)のかたちは「久」の筆順通りです。

「事」(こと)、「事」は異体字「古」+「又」。「こと」は合字。このあともいくつか出てきます。

「奈可゛し个るに」、平仮名「に」もつかうことはあるようです。

「ひとゝ古路尓」、すこし読みづらい箇所。

「た可゛ひ尓」、平仮名「た」の出番は少ない。

「いさ可ふこと」、変体仮名「可」(か)は「う」、「ら」、変体仮名「留」(る)などとまぎらわしい。ひとつだけにらめっこしていても読めません。

「昼夜やむこと」、ここの「や」は現在のと同じです。


 

2022年3月22日火曜日

桃山人夜話巻五 その44

P26後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

の首 ハ水 中  尓争  ふや可゛て又 重 可゛首 ハ五郎 可゛

 くび 春いち う 阿ら曽     ま多しげ  くび ごらう

のくびはすいちゅうにあらそうやが てまたしげが くびはごろうが


首 尓くひふせら連んと春る時 五郎 可゛腰 尓附 多

くび           ときごらう  こし つ希

くびにくいふせられんとするときごろうが こしにつけた


る小三 太 可゛首 おどりいで天五郎 可゛首 越可みふせ

 こさん多゛  くび      ごらう  くび

るこさんた が くびおどりいでてごろうが くびをかみふせ


多りかく三 人 可゛首 くひ争  ふ天夜るハ火 ゑん越

    さん尓ん  くび  阿ら曽  よ  くハ  

たりかくさんにんが くびくいあらそうてよるはか えんを


ふき昼 ハ海 水 巴  の如 くなれ者゛巴  可゛渕 と名附 多り

  ひる 可い春いともえ ごと     ともえ  ふち 奈づけ

ふきひるはかいすいともえのごとくなれば ともえが ふちとなづけたり


(大意)

(ふたつ)の首は水中で争った。やがて又重の首が五郎の

首に食いふせられようとしたとき、五郎の腰に付け下げ

られていた小三太の首がおどり出て五郎の首を咬みふせた。

このように三人の首が食い争って、夜は火炎を

吹き、昼は海水が巴紋のように渦巻くので巴が淵と名付けられた。


(補足)

「附多る」、「る」はほとんどが変体仮名「留」(る)で丸のようなかたちですけどここでは平仮名。振り仮名「つ希」、変体仮名「希」(け)だとおもうのですけど。

「火ゑん越」、ここの変体仮名「越」(を)はもとのかたちが残っています。

「昼」のくずし字、「日」と「一」以外が冠のようになってます。

 三つの首の争う様が、前段の「夜の楽屋」の話と重なって楽しめました。

 

2022年3月21日月曜日

桃山人夜話巻五 その43


P26前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

登組 附 个る尓互   尓組 川゛本ぐれつし天遂 尓

 くミつき   多可゛ひ くん        つい

とくみつきけるにたが いにくんず ほぐれつしてついに


石 間越ふミ者づし天海 の中 尓ま路び落 多

いしま       うミ 奈可    おち

いしまをふみはずしてうみのなかにまろびおちた


里両  人 刀  を抜 持 天首 と首 と尓阿てつゝうん

 里やう尓ん可多奈 ぬきもち くび くび  

りりょうにんかたなをぬきもちてくびとくびとにあてつつうん


とひと聲 さけび奈可゛ら尓可き落 し多れ者゛二 ツ

   こゑ          於と     ふ多

とひとこえさけびなが らにかきおとしたれば ふたつ


(大意)

(五郎にむず)と組み付くと、互いに組んずほぐれずしてついに

岩場をふみはずして海の中へ転び落ちて

しまった。二人は刀を抜き持って、互いの首にあてると「うん」

とひと声叫びながらかき落とし、ふたつ

(の首は)


(補足)

いよいよ講談調の語りも盛り上がってきました。

「組川゛本ぐれつし天」、「川」に濁点「゛」がついて変な感じですが変体仮名「川」(つ)。次の行「ふミ者づし天」では平仮名「つ」に「゛」。

「阿てつゝうんとひと声」、読みづらいところです。

「さけび奈可゛ら尓可き落し多れ者゛」、ここもちょっと読みづらい。


2022年3月19日土曜日

桃山人夜話巻五 その42

P25後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

ハ石 尓爪 づき天のけさ満尓ま路ぶ所  越肩 先 可

 いし つま           ところ 可多さき

はいしにつまずきてのけさまにまろぶところをかたさきか


け天乳の下 迄 切 さげ多り切られ天五郎 ハ起

  ち し多まできり    き   ごらう おき

けてちのしたまできりさげたりきられてごろうはおき


上  り左  りの手尓刀  を取 直 し天又重  を無二

阿可゛ ひ多゛  て 可多奈 とり奈を  ま多しげ む尓

あが りひだ りのてにかたなをとりなおしてまたしげをむに


無三 尓衝 个れハ又 重 刃   を春天ゝ五郎 尓むづ

むざん つき   ま多しげやい者゛    ごらう

むざんにつきければまたしげやいば をすててごろうにむず


(大意)

(五郎)は石につまずき、あおむけに倒れるところを、又重は肩先から

乳の下まで切り下げた。切られた五郎は起き

上がり左の手に刀を持ち直し、又重を

がむしゃらに突き刺したので、又重は刀を捨てて五郎にむず

(と組み付くと)


(補足)

 講談調なので文章がどことなく、五七調になっているような気がします。声を出してそれっぽく読むとやはり講談師の気分です。

「のけさ満尓」「肩先可け天」「切さげ多り」、平仮名「け」も使われています。

「上り」、「上」のくずし字が「と」のよう。

「直し天」、「直」のくずし字はよくでてきます。

 

2022年3月18日金曜日

桃山人夜話巻五 その41

P25前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

を切 春天又重  越も返 須刀  尓討 者多さんとしつ

 きり  ま多しげ  可へ 可多奈 うち

をきりすてまたしげをもかえすかたなにうちはたさんとしつ


連ども足 者゛や尓逃 天山 中  尓隠 れり五郎 ハ小

   阿し    尓げ さんち う 可く  こらう こ

れどもあしば やににげてさんちゅうにかくれりごろうはこ


三 太 可゛首 越可き切 天片 手尓血刀   をさげいづ

さん多゛  くび   きり 可多て ち可゛多奈

さんだ が くびをかききりてかたてにちが たなをさげいず


こ迄 もと又重  越追 可くる追ハれ天又重  かくれも

 まで  ま多しげ 於つ   於   ま多しげ

こまでもとまたしげをおっかけるおわれてまたしげかくれも


やら須゛ふ多ゝび出 天阿しらひし可゛い可ゝし多り个ん五郎

        いで                ごらう

やらず ふたたびいでてあしらいしが いかがしたりけんごろう


(大意)

を切り捨て、又重をも返す刀で討ち果たそうとした

が、又重は足早に逃げて山中に隠れた。五郎は小

三太の首をかき切って、片手に血刀をさげ、どこ

までもと又重を追いかける。追われて又重は隠れ

きれずに再び出て相手をしたが、どうたことだろうか、五郎


(補足)

 久しぶりの講談調子になってきました。やはりこのほうがおもしろい。

変体仮名「春」(す)と「須」(す)の使い分けは、詳しく調べればありそうな気がしますが、読んできた感じでは気分次第なのではないかと。

「刀(可多奈)」、最後の行に「刃(やい者゛)」があります。「刃を研ぐ」、「刀の刃がかける」の例のように、刃は刀の薄く鋭くして斬ることができるようにしてある部分。でも使い方は刃は刀の一部分には違いないので、刀の意味で使われているみたい。

「又重越追可くる」、「可へる」と読んでしまいました。

「阿しらひし可゛い可ゝし多り个ん」、「し」を読みとばしそう。「ゝ」も。

 

2022年3月17日木曜日

桃山人夜話巻五 その40

P24後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

尓天出合ひ酒 興  のうへ尓天争 論 尓於よび个

  で阿 し由个 う     さうろん

にてであいしゅきょうのうえにてそうろんにおよびけ


る可゛悪 五郎 ハ大  力 無双 の聞 え阿り个る者 奈れバ

   阿くごらう 多゛以りきぶさう きこ     もの

るが あくごろうはだ いりきぶそうのきこえありけるものなれば


小三 太 又 重 の両  人 偽  り天討 者多さんと目ぐ

こさん多゛ま多しげ 里やう尓んいつ王  うち     ま

こさんだ またしげのりょうにんいつわりてうちはたさんとまぐ


ハせし个る越五郎 ハ知り天唯 ひと刀  尓小三 太

      ごらう し  多ゞ  可多奈 こさん多゛

わせしけるをごろうはしりてただひとかたなにこさんだ


(大意)

(ここ)で出会い、酒盛りの席で言い合いとなった。

ところが悪五郎は世に二人といない大力の聞こえある者だったので

小三太と又重の両人はだまし討にしようと目配せして

いたのを五郎は気づき、ただの一太刀で小三太


(補足)

「聞え」、平仮名の「え」がひさしぶりにでました。

ちょうど変体仮名「天」(て)が3つ並んでいます。ひとつめは変体仮名「久」(く)に似ています。あとのふたつは平仮名「て」に似ています。

 

2022年3月16日水曜日

桃山人夜話巻五 その39

P24前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十  四舞 首

多゛以志ゞ うしまひくび

だ いしじゅうしまいくび


寛  元  の比 鎌 倉 検非違使の放 免 尓小三 太 又

くハん个゛ん ころ可満くらけびゐし 本うべん こさん多゛ま多

か んげ んのころかまくらけびいしのほうべんにこさんだ また


重 悪 五郎 登て三 人 の王る者 有 伊豆の国 真

志げ阿くごらう  さん尓ん   もの阿りいづ く尓ま奈

しげあくごろうとてさんにんのわるものありいずのくにまな


鶴 可゛崎 といふ所  尓祭  有 个る日三 人 の王る者 こゝ

づる  さき   ところ まつりあり  ひさん尓ん   もの

づるが さきというところにまつりありけるひさんにんのわるものここ


(大意)

第四十四舞首

寛元(1243〜47)のころ、鎌倉検非違使の下僕(しもべ)に小三太、

又重、悪五郎という三人の悪者がいた。伊豆の国、

真鶴が崎というところで祭りがあった日、三人の悪者はここ

(で出会い)


(補足)

「非」のくずし字は「飛」のくずし字の下半分とほぼ同じです。もとのかたちが異なるのに不思議です。音(おん)が同じなのが関係ありそうにもおもえますけど。「飛」のくずし字は「非」のくずし字の上に「ユ」があります。

 さて桃山人夜話最後をしめる話はどんなものでしょうか。

 

2022年3月15日火曜日

桃山人夜話巻五 その38

P23後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

奈りしと曽゛人 形  師土斎 可゛う多尓

      尓ん个゛うしどさ以

なりしとぞ にんぎょうしどさいが うたに


捨 袮ども家 こ楚でくの坊  主 な連

春て   いゑ     本゛う春゛

すてねどもいえこそでくのぼ うず なれ


鬼 も佛  も手づく袮尓し帝

於尓 本とけ て

おにもほとけもてづくねにして


深 葦 のさ登墨 染  寺 尓近 き比 迄 土斎 可゛石

ふ可くさ   春ミ曽゛めでら ち可 ころまでどさ以  せき

ふかくさのさとすみぞ めでらにちかきころまでどさいが せき


碑阿り个る与し壷  井氏 何 可゛し可゛毛の語   奈り

ひ      つ本゛ゐうじ奈尓       可゛多り

ひありけるよしつぼ いうじなにが しが ものが たりなり


(大意)

(木頭に)なったという。人形師土斎の歌に

捨てねども家こそでくの坊なれ

 鬼も仏も手づくねにして

(家は簡単に捨てたりすることはできない、これこそ役に立たないでくの坊である

それに比べれば鬼や仏は手作りの魂のこもったものである)。

深草の里にある墨染寺に、近き頃まで土斎の石碑

があったということを壺井氏某(つぼいのなにがしさん)が語っている。


(補足)

儒教的で教訓をたれる話よりこういった物語のほうがおもしろいく楽しめます。

なにかの折、しんとしてひんやりした誰もいない楽屋のような部屋にひとり入ってしまったとき

このはなしを思い出して、肝を冷やすことがありそう・・・

「こ楚」、「こ」がなやみます。

「手づく袮尓し帝」、この「く」は平仮名より変体仮名「久」(く)にちかい。

変体仮名「帝」(て)はあまりみませんので忘れてました。

 

2022年3月14日月曜日

桃山人夜話巻五 その37

P23前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

きうでハちぎれ天血綿 のくれ奈ゐ尓曽ミ怒 れ

        ち王多        い可

きうではちぎれてちわたのくれないにそみいかれ


るあ連者゛笑 ふ有 毛と是 人の 霊 越写 せし故 也

     王ら 阿り  これひと 連以 うつ  ゆへ

るあれば わらうありもとこれひとのれいをうつせしゆえなり


慶 長 の比 迄 ハ人 形  ハ皆 土 頭   奈りし可゛伏 見の満 江

个いてう ころまで 尓ん个゛う ミ奈つち可゛しら     ふしミ まんこう

けちょうのころまではにんぎょうはみなつちが しらなりしが ふしみのまんこう


斎 始   天木を以 天彫 し与りこの可多木頭   とハ

さい者゛じめ き もつ ゑり       き可゛しら

さいは じめてきをもってえりしよりこのかたきが しらとは


(大意)

(眼を開)き、腕はちぎれて血綿が紅に染まり、怒って

いるものもあれば、笑うものもある。もともとこれらは人の霊を人形に移したためだからである。

慶長の頃までは人形はみな土頭であったが、伏見の満江斎

がはじめて木を彫って頭を作ってからというもの、木頭に

(なったという)


(補足)

読みにくくわからないところが何箇所かありました。いつもながら変体仮名「可」(か)と「う」「ら」は注意です。

「もと」、ここの「も」の変体仮名のかたちは「し」のようにかいて、最後がそのまま左回りに上がり横切ってSを下からかくようにして、今度は右回りに下に流すような感じ。最後の行にある「もの」の変体仮名「も」は小さな平仮名で「こ」+「ち」のような感じ。

「彫し」(ゑりし)、辞書には「彫る・鐫る」とあります。かたいものをくりぬくことを「えぐる」といいますが、「える」の名残でしょうか。

 

2022年3月13日日曜日

桃山人夜話巻五 その36

P22 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

夜  楽  屋

よるの可゛くや

よるのが くや


火の用 心

ひのようじん


吉 田へや

よしだへや


(大意)

(補足)

 こういった画が絵師は得意だったようです。いままでとはタッチが異なりますし描きなれている。乱れた髪の毛なども繊細。取っ組み合っているのは本文にあった(高)師直(こうのもろなお)と(塩谷)判官(えんやはんがん)の様子。これなら見てみたい。

 

2022年3月12日土曜日

桃山人夜話巻五 その35

P21 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

桂  おとこ

可つら

かつらおとこ


月 を奈可゛く

つき

つきをなが く


見いり居れ

   い

みいりいれ


者゛桂  おとこ

  可つら

ば かつらおとこ


のまねきて

のまねきて


命  ちゞむる

いのち

いのちちじむる


よし

よし


む可し

むかし


よ里

より


いひ

いい


つ多ふ

つたう


(大意)

桂おとこ

月をながく

見入っていると

桂おとこ

が招いて

命をちじめる

ということは

昔より

言い伝えられている。


(補足)

 この画を見ると、桂おとこは月面にできる濃淡の柄ではなく、どこからともなく月を背景にあつまってくる怪しい雲のようなものがなんとなくかたちをなして、次第に人のようなかたちになり、腕が月に見入っている人をおいでおいでと揺らぎ、招くようであります。この画で見る限り、桂おとこの顔はなかなか渋い。

 

2022年3月11日金曜日

桃山人夜話巻五 その34

P20後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

の楽  屋尓師 直 と判 官  の人 形  よ春可゛ら争  ひ多ること

 可゛くや もろ奈を 者んぐハん 尓ん个゛う     阿ら曽 

のが くやにもろなおとはんが んのにんぎょうよすが らあらそいたること


阿里丑 ミ川ごろ尓楽  屋へ入れ者゛必    怪  異越ミると

  うし     可゛くや い   可奈ら須゛く王いゐ

ありうしみつごろにが くやへいれば かならず か いいをみると


いふことさも阿るべき尓や首 ハ切 天棚 尓眼  を開

            くび きり 多奈 ま奈こ ひら

いうことさもあるべきにやくびはきりてたなにまなこをひら


(大意)

(夜)の楽屋で、(高)師直(こうのもろなお)と(塩谷)判官(えんやはんがん)の

人形が一晩中争っていたことがある。丑三つ時に楽屋へ入れば必ず怪異を見る

というのはなるほどありそうなことである。首は切られて棚の上で眼を開(き)


(補足)

「楽屋」、「楽」のくずし字は「ゝ」+「ホ」のような禾のような形でいままであまり見なかったような気がします。

「よ春可゛ら」、「可゛ら」が悩みました。

「必」(可奈ら須゛)、振り仮名を読むほうが大変。「ら」のかたちがほとんどない。

「怪異」、「異」は異体字「己」+「大」になってます。

「いふこと」、「こと」は合字。

「開」、「門」(もんがまえ)が「冖」(わかんむり)になってます。

 (高)師直(こうのもろなお)と(塩谷)判官(えんやはんがん)の人形が一晩中争っているところを夜中にこっそり忍び込み見てみたい・・・怖いけど。

 

2022年3月10日木曜日

桃山人夜話巻五 その33

P20前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 三 夜 の楽屋

多゛以志ゞ うさんよる がくや

だ いしじゅうさんよるのがくや


木 偶  泥工の坊  といへども仕 ふ人 の魂   を入れぬる時

尓ん个゛うでく 本゛う     つ可 ひと 多満しひ い   とき

にんぎょうでくのぼ うといえどもつかうひとのたましいをいれぬるとき


ハ其 意  性 根 尓入りて人 形  尓止  ること芝  居の人 の

 曽のこゝろせ以こん い  尓ん个゛う とゞ満   し者゛ゐ ひと

はそのこころせいこんにいりてにんぎょうにとどまることしば いのひとの


志る所  奈り野呂松三 左衛門 可゛人 形  をま多ぎ多類

  ところ  のろまさんざへもん  尓ん个゛う

しるところなりのろまさんざえもんが にんぎょうをまたぎたる


毛の於こり越ふるい其 人 形  尓王びことし天癒 多り夜

         曽の尓ん个゛う       いえ  よる

ものおこりをふるいそのにんぎょうにわびごとしていえたりよる


(大意)

第四十三夜の楽屋

操り人形といえども、それをつかう人が魂をこめたときに

その心が人形の心髄に入って人形にとどまることは、芝居に

たずさわる人の知るところである。野呂松三左衛門の人形をまたいでしまった

者が熱病におかされ、その人形に詫び言をして癒えたことがあった。夜(の楽屋に)


(補足)

「四十三」の振り仮名が読みづらいですが「志ゞうさん」。

「楽屋」(がくや)、変体仮名ではなく平仮名の「が」。

「木偶泥工の坊」、「でくのぼう」は「木偶の坊」のことですが、こちらは木彫りの人形の操り人形。粘土や土をこねてこしらえた人形もありますから「泥工」(でく)としたのでしょう。変体仮名「个゛」(げ)がすぐ左の変体仮名「曽」(そ)ににています。

「魂」(多満しひ)、「し」があります。

「ま多ぎ多類」、変体仮名「類」(る)はひさしぶり。

「王びことし天」、「こと」は合字。「を」に見えなくもありませんが、すぐ右の行に「を」があり比較するとやはり違います。

 題名の「夜の楽屋」をみただけでさて何が起こるのかと、なにかゾクッとしたものを感じます。

 

2022年3月9日水曜日

桃山人夜話巻五 その32

P19後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

も月 越見天命  越ちゞ免月 を奈可゛免てミの

 つき ミ いのち    つき

もつきをみていのちをちじめつきをなが めてみの


老 越奈げき多るう多挙 天可曽゛へ可゛多しからの

於ひ        あげ

おいをなげきたるうたあげてかぞ えが たしからの


詩 尓も月 尓対 し天愁 ひ月 をミて命  をちゞ

う多  つき 多以  うれ つき   いのち

うたにもつきにたいしておれいつきをみていのちをちじ


むると云 意  の阿ること筆 尓尽 し可゛多し是 尓依 多る也

   いふこゝろ     ふで つく     これ より

むるというこころのあることふでにつくしが たしこれによりたるなり


(大意)

(このほかに)も、月を見て命をちじめ、月をながめてわが身の

老いを嘆いた歌を数え挙げるのも難しい。唐(から)の

詩にも月に向かい合っては愁い、月を見ては命を縮め

るという意味があることはとてもたくさんありすぎて記しきれない。

この桂男のはなしはこの唐のものによっているのである。


(補足)

「多るう多」、「う」がこのあとの「可曽゛へ可゛多し」の変体仮名「可」と同じ形です。次の「からの」では平仮名「か」がめずらしい。

「尽し」、「尽」のくずし字は「〃」を除いた部分が冠のようになります。

 月の濃淡の柄が、うさぎであったり蟹であったり編み物を編む老婆であったりなどいろいろありますが「桂男」は知りませなんだ。

 月で一番驚いた経験といえば、満月のときのその明るさでした。

真っ暗闇の中で満月に照らされて自分の影ができ、それが満月によるものだと知ったときの驚き、今でもはっきり覚えています。

 

2022年3月8日火曜日

桃山人夜話巻五 その31

P19前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第四十二桂男

多゛以志ゞ う尓可つらをとこ

だ いしじゅうにかつらおとこ


月 の中 尓隈 有 俗  に桂  男  登云 久 しくミゐる時 ハ

つき 奈可 くま阿り曽゛く 可つらをとこ いふひさ     とき

つきのなかにくまありぞ くにかつらおとこというひさしくみいるときは


手越出 し天ミる者 越招 く招 可るゝ者 命  ちゞ満るといひ

て 多゛    もの ま年 ま年   ものいのち

てをだ してみるものをまねくまねかるるものいのちちじまるといい


伝 ふ歌 尓〽ミる多び尓延 ぬとしこ楚う多て个り

つ多          のび

つたうう多に みるたびにのびぬとしこそうたてけり


       ひとのいのちを月 ハ可ゝ袮ど此 外 尓

       ひとのいのちをつきはかかねどこの本可に


(大意)

第四十二桂男

月の中に隈があり、それを俗に桂男という。これを長く見入る時は

手が出てきて見る者を招く。招かれた者は命をちじめるといい

伝える。歌に「見るたびに延びぬとしこそうたてけりひとのいのちを月はかかねど

(月を見るたびに命が延びてくれればいいのだけどなぁ、そうはならないかぁ、う〜ん。人の命を月は縮めたりはしないんだけど。)

このほかにも


(補足)

「四十二」、(よんじゅうに)ではなく(志ゞう尓)。「ゞう」が判読しにくい。

「久しく」、この「く」は変体仮名「久」(く)かも。「く」の上に「ゝ」のようなものがつくのが変体仮名の形です。

「ミゐる」、「ミ」の三画目がながれて「こゝ」のようにみえます。次行の「ミる」も同じ。

「招可るゝ」、「可るゝ」は同じような形が続くのでわかりずらい。

「命」のくずし字は「𠆢」+「予」+「ヽ」のような形が多い。

 歌の部分は何度も読まないと難しいです。

 月がだんだんと満ちてきて満月になり、今度は少しずつ細ってゆく。でもまた三日月から始まってそれを何度も繰り返す。そんなふうに自分の歳も延びてくれないかなぁと月を眺めているとぼんやりおもってしまうのだよ。なんか悲しいけど月のようにはならないのはわかっているんだけど・・・。月は人のいのちを月が欠けるようにはしないしね。

 こんなような感じでしょうか。

 

2022年3月7日月曜日

桃山人夜話巻五 その30

P18 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

栁  者゛ゞ

や奈ぎ

やなぎば ば


古 き栁  尓は精 有 て

ふる や奈ぎ  せい

ふるきやなぎにはせいありて


妖 を奈須事 む可しよりためしお本し

よう   こと

ようをなすことむかしよりためしおおし


(大意)

柳ばば

古い柳には精があって

怪しいことが起こることは昔より例がおおい。


(補足)

平仮名の「は」や「た」があるのがちょっとめずらしいくらいでしょうか。

柳ばばはどうしてこんなに黒くなってしまったのでしょうか。杖をついていますが、これは柳の枝でこしらえたものでしょう。柳ばばは杖で手がふさがっているので、かわりに柳の枝と葉で胸の前で両手を垂らす仕草をしている感じ。

川沿いやお堀にはよく柳並木があって、新緑の季節は爽やかですけど、「油断春べ可ら須゛」。こんな婆さんには出くわしたくない。

 

2022年3月6日日曜日

桃山人夜話巻五 その29

P17 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

鍛冶可゛嬶

可ぢ  者ゝ

かじが ばば


土佐 国 野根と云 処  尓鍛冶屋阿りし可゛女  房  を

とさのく尓のね       可ぢや     尓よう本゛う

とさのくにのねというところにかじやありしが にょうぼう を


狼   の食 殺 しのり移 りて飛 石 といふ所

おゝ可ミ くいころ   うつ  とびいし

おおかみのくいころしのりうつりてとびいしというところ


尓て人 をとり

  ひと

にてひとをとり


くらひし

くらいし


といふ

という


(大意)

鍛冶が婆

土佐の国、野根というところに鍛冶屋があった。女房は

狼に食い殺され、狼が乗り移って飛石というところ

で人を捕り食らったという。


(補足)

ここの表題の「嬶」の振り仮名には本文のように濁点がともにありません。また本文では「嫗」。

「野根」、「野」のくずし字は「那」のような形+「土」。「野」の偏が「田」と「土」に分解されて「土」が下になったのか?

「処」、最初は読めなくて、文章の流れは「ところ」なので、はたと「処」と気づいた次第。形もほぼそのままでした。

「女房」の振り仮名を読むほうが大変。

「狼」の振り仮名が「於本可ミ」ではなく「おゝ可ミ」と平仮名になってます。

「所尓て」、今度は同じ読みでも「処」ではなく「所」。「尓」は英語小文字筆記体の「y」とほとんど同じ形、「尓よう本゛う」の「尓」も同じ。

 この本の画では不鮮明なので別の色刷りのものを見ました。

嬶の顔は口が耳まで裂けた恐ろしい般若。腕は細くともうちに力を秘めつかまれたら逃れることはできなそう。姉さんかぶりの白い手ぬぐいがちょっとおかしく、薄手の流しの着物が寒そう。嬶の両膝のあいだには狼のギョロ目があり、よくみると肩車をしている。とその下に目をやると、あれ、もう一匹狼が、あれあれ、またその下に狼がいるがこやつの目は上目遣いで苦しそう。こんだけ背負ったらそりゃ苦しいわ。

 

2022年3月5日土曜日

桃山人夜話巻五 その28

P16後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

迷 ハ春阿る時 老 婆 とも成 天ゆく人 尓詞  越可け

まど    ときらう者゛  なり   ひと こと者゛

まどはすあるときろうば とおなりてゆくひとにことばをかけ


し登奇談  類 抄 尓出 多り金 陵  の絮 柳  ハ人

  き多゛んる以せう いで  きん里やう じよ里 う ひと

しときだんるいしょうにいでたりきんりょうのじょりゅうはひと


を招 きしと盧全 茶話尓志るし嶋 原  の柳  は

 ま禰   ろせんさ王    し満者゛ら や奈ぎ

をまねきしとろぜんさわにしるししまば らのやなぎは


客  越化  春登契 情 買 談  尓のせ多り油断  春べ可ら須゛

きやく 者゛可  个以せ以可ひ多゛ん     ゆ多゛ん

きゃくをば かすとけいせいかいだ んにのせたりゆだ んすべからず


(大意)

(人を)惑わしていた。ある時は老婆にも化けてゆく人に言葉をかけ

ていたと「奇談類抄」に出ている。(中国の)金陵(昔の南京)の絮柳は人

を招いたと「盧全茶話」に記され、嶋原の柳は

客を化かすと「契情買談」に載っている。油断してはいけない。


(補足)

「老婆とも」、(ろうばめとも)と「婆」を二度も読んでしまいました。お恥ずかしい。

「成」、ここの「成」のくずし字は、最初の一画目が残っているので筆順に従ったくずし字にだいたいなっているのがわかります。前行の下にある「成」は「求」と「斗」を合体させたような形。

「嶋原の柳は」、「嶋」の「山」は上部に冠のようになってます。平仮名の「は」は珍しい。

 一般庶民はきっと手にすることのない専門書を三冊もあげて、煙に巻くところが一番怪しい。

 

2022年3月4日金曜日

桃山人夜話巻五 その27

P16前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 一 柳  婆

多゛以志ゞういちや奈ぎ者゛ゞ

だいしじゅういちやなぎば ば


古 き柳  の怪  越奈春こと毛路こしの書 尓も多 く

ふる や奈ぎ く王い          しよ  於本

ふるきやなぎのか いをなすこともろこしのしょにもおおく


のせ多り我  朝 尓もさ阿る例  春く奈可ら須゛昔  ひ多

    王可゛てう     多めし       む可し

のせたりわがちょうにもさあるためしすくなからず むかしひた


ちの鹿し満尓千 年 越遍多る柳  美女 と成 て人 越

  可   せん禰ん    や奈ぎびじよ 奈り ひと

ちのかしまにせんねんをへたるやなぎびじょとなりてひとを


(大意)

第四十一柳婆

古い柳が怪しいことを起こすことは唐土の書にも多く

載っている。我が国にもそのような例は少なくない。昔、日立

の鹿島に千年を経た柳があり、美女となって人を(惑わしていた)


(補足)

 ひとつ前は「鍛冶が婆」(鍛冶屋の婆)で今回も婆シリーズ第二弾。

すでに5冊目ですので、いろいろな漢字のくずし字もすでに出てきたものばかりです。

「千」がこれだけだったら、悩みます。

 

2022年3月3日木曜日

桃山人夜話巻五 その26

P15後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

旅 人 越取 くらふこと於び多ゞし是 ハ狼   の鍛冶可゛かゝ尓

里よじん とり          これ 於本可ミ 可じ

りょじんをとりくらうことおびただしこれはおおかみのかじが かかに


の里うつりし登曽゛郷 士逸 作 と云 もの白 毛 の狼   を

         ごうしいつさく いふ  者くもう 於本可ミ

のりうつりそとぞ ごうしいっさくというものはくもうのおおかみを


こ路せし与り者゛ゞの出 天人 越とること奈しといへり

          いで ひと

ころせしよりば ばのいでてひとをとることなしといえり


(大意)

旅人を取り食らうことがおびただしく、これは狼に鍛冶屋の妻が

のりうつったからだという。郷士の逸作というものが白毛の狼を

殺してからというもの媼(ばば)があらわれて人を捕ることはなくなったという。


(補足)

「四十」、つい「よんじゅう」と読んでしまいますが「しじゅう」。

「旅人」、振り仮名「里よじん」の「里よ」がわかりずらい。すぐ左の行に「の里うつりし」がありますが、こちらはどうにかすぐ読めます。

「鍛冶可゛かゝ尓」、平仮名「か」があります。上が変体仮名「可」で続くの避けたのかもしれません。

「郷士」、「郷」のくずし字がひどく単純化されていて見るたびになんでかな?とおもってしまう。

 ニホンオオカミは人に絶滅させられてしまいました。シーボルトが剥製を本国に持ち帰ったものが残ってます。賢い動物と言われているのに、その賢さで生き残ることができなかった。それとも賢さを発揮して家で飼われる犬になったのかもしれません。一方で狼の食料であった鹿や猪は天敵が絶滅したためか増えすぎて手に負えなくなっています。ここは白毛の狼に復活してもらって、人を殺すことなく、猪や鹿、猿も獲ってほしいところであります。人間の身勝手が露骨ですね。


 

2022年3月2日水曜日

桃山人夜話巻五 その25

P15前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 鍛冶可゛嬶

多゛以志ゞうかじ  者゛ゞ

だいしじゅうかじが ば ば


野根の助 四郎 国 延 ハ乱 連やき刃 の上  手奈り三 代  目

の禰 春けしらうく尓のぶ ミ多゛  者゛ ぜ うづ  さん多゛以免

のねのすけしろうくにのぶはみだれやきば のじょうずなりさんだ いめ


の養 子重 国 可゛妻 室 戸といふ所  尓刀  の料  の残 銀

 やうし志げく尓  つまむろど   ところ 可多奈 里やう ざんぎん

のようししげくにが つまむろどというところにかたなのりょうのざんぎん


を乞ひ夜尓入 天路 尓迷 ふ狼   多 く出 天取 まき

 こ よ いり ミち ま与 於本可ミ於本 いで とり

をこひよにいりてみちにまようおおかみおおくいでてとりまき


志可゛終 尓是 尓喰 ころさる其 妻 幽 霊 と奈り天

   つい これ くひ    曽のつまゆうれ以

しが ついにこれにくいころさるそのつまゆうれいとなりて


(大意)

第四十鍛冶が媼

野根の助四郎国延は乱れ焼刃の名人であった。三代目

の養子重国の妻が室戸というところに刀の料金の残金

を受け取りに行った。夜になって道に迷い多くの狼があらわれ取りまかれて

しまい、とうとう狼に食い殺されてしまった。その妻が幽霊となって


(補足)

「媼」(うば、おうな)、「女」+「囚」+「皿」。

「上手」、一文字に見えてしまいます。

「三代目」、目のふりがなが二文字にみえますが、これは変体仮名「免」(め)。

「養子」、「養」の下部の「良」のくずし字の形が、「銀」、「狼」、「喰」のその部分と同じような形になっています。

「取」のくずしじはほとんどがこの形です。平仮名「え」のようなかたちをひと筆書きして左端に「ゝ」。

「幽」のくずし字が「出」に似てます。すぐ右下に(最後の行にも)「出」がありますので比較。

 

2022年3月1日火曜日

桃山人夜話巻五 その24

P14後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

入る奈りされバ貧 乏  神  ハ油断  の飛ま越う可ゞひて

い      びん本゛う可゛ミ ゆ多゛ん

いるなりさればびんぼ うが みはゆだ んのひまをうかがいて


風 の神 ハ阿多ゝ可とさむさのひま越袮らへり口 与り

可ぜ 可ミ                 くち

かぜのかみはあたたかとさむさのひまをねらえりくちより


黄奈る氣越ふくハ黄ハ土 尓し天湿 氣奈り風

き  き    き つち   しつき  可ぜ

きなるきをふくはきはつちにしてしっきなりかぜ


ハ皆 土中  与り生 春゛去 バ悪 氣越さけて正気  を取 べし

 ミ奈どち う  せう  され あつき    せ うき とる

はみなどちゅうよりしょうずさればあっきをさけてしょうきをとるべし


(大意)

入るものである。だから貧乏神は油断の隙間をうかがって、

風の神は暖かさと寒さの隙間をねらって入る。口より

黄色い気を吹くが、黄色は土であり湿気である。風は

すべて土中より生ずる。それ故、(天地の)悪気をさけて正気をとるべきである。


(補足)

「貧乏神」、「貧」の上の部分「分」のくずし字がちゃんと「彡」+「ゝ」になっています。

「う可ゞひて」、すぐ右側の行にまったく同じ文があります。

「阿多ゝ可と」、あれっ、なんて読むのだろうとおもって、次に「さむさ」とあるのでなるほどと。

「ひま越」、前行では変体仮名「飛」(ひ)でしたがここでは平仮名。

「黄ハ土尓し天」、陰陽五行説。「木・火・土・金・水」は色にすると「青・赤・黄・白・黒」。

 結末を急ぎすぎて、なんだかよくわからない話になってしまってます。出だしはよかったんですけど。でも「風の神」って、悪さをするのかもしれない神様かもしれませんが、言葉の感じが好きです。