P17 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵
(読み)
鍛冶可゛嬶
可ぢ 者ゝ
かじが ばば
土佐 国 野根と云 処 尓鍛冶屋阿りし可゛女 房 を
とさのく尓のね 可ぢや 尓よう本゛う
とさのくにのねというところにかじやありしが にょうぼう を
狼 の食 殺 しのり移 りて飛 石 といふ所
おゝ可ミ くいころ うつ とびいし
おおかみのくいころしのりうつりてとびいしというところ
尓て人 をとり
ひと
にてひとをとり
くらひし
くらいし
といふ
という
(大意)
鍛冶が婆
土佐の国、野根というところに鍛冶屋があった。女房は
狼に食い殺され、狼が乗り移って飛石というところ
で人を捕り食らったという。
(補足)
ここの表題の「嬶」の振り仮名には本文のように濁点がともにありません。また本文では「嫗」。
「野根」、「野」のくずし字は「那」のような形+「土」。「野」の偏が「田」と「土」に分解されて「土」が下になったのか?
「処」、最初は読めなくて、文章の流れは「ところ」なので、はたと「処」と気づいた次第。形もほぼそのままでした。
「女房」の振り仮名を読むほうが大変。
「狼」の振り仮名が「於本可ミ」ではなく「おゝ可ミ」と平仮名になってます。
「所尓て」、今度は同じ読みでも「処」ではなく「所」。「尓」は英語小文字筆記体の「y」とほとんど同じ形、「尓よう本゛う」の「尓」も同じ。
この本の画では不鮮明なので別の色刷りのものを見ました。
嬶の顔は口が耳まで裂けた恐ろしい般若。腕は細くともうちに力を秘めつかまれたら逃れることはできなそう。姉さんかぶりの白い手ぬぐいがちょっとおかしく、薄手の流しの着物が寒そう。嬶の両膝のあいだには狼のギョロ目があり、よくみると肩車をしている。とその下に目をやると、あれ、もう一匹狼が、あれあれ、またその下に狼がいるがこやつの目は上目遣いで苦しそう。こんだけ背負ったらそりゃ苦しいわ。
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