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2025年7月14日月曜日

江漢西遊日記四 その57

P67 東京国立博物館蔵

(読み)

なされと云 此 黒  坊 と云 ハおらん多ノ方 能者 ニ

なされというこのくろんぼうというはおらんだのほうのものに


あら春゛天竺(シク)能方 ノおらん多能出張 ヤハ嶋

あらず てん じく のほうのおらんだのでばりやはじま


能者 或(アルイ)ハアフリカ大 州  の中(ウチ)モノモウタア

のもの  あるい はあふりかたいしゅうの  うち ものもうたあ


バと云 処  能熱國(ネツコク)能産 れなり故 尓色 黒 く

ぱというところの   ねつこく のうまれなりゆえにいろくろく


髪 チリ\/と雲珠巻(ウツマキ)尓なり總 て目鼻 も

かみちりちりと    うずまき になりすべてめはなも


甚  タ異(コトナ)里夏 ハ裸(ハタカ)の上 ヘけさ能様 なる物 を

はなはだ  ことな りなつは  はだか のうえへけさのようなるものを


着(キ)るなり此 時 ハ冬 なりおらん多より筒 袖

  き るなりこのときはふゆまりおらんだよりつつそで


能衣類 を与 ヘ下 ハ日本 能象 股 引 尓履(クツ)ハ

のいるいをあたへしたはにほんのぞうももひきに  くつ は


雪駄(セツタ)を者くなり腰 ニハ日本 能皮 能さげ

   せった をはくなりこしにはにほんのかわのさげ


た者こ入 をさげ多り頭  ハベンガラ嶋 とて木

たばこいれをさげたりあたまはべんがらじまとても

(大意)

(補足)

「おらん多能出張」、『でばり【出張り】⑤ 出向いて仕事をする所。支店。「じやがたらのこんぱんやは,おらんだの―にござい」〈滑稽本・浮世床•初〉』

「ヤハ嶋」、ジャワ島。

「モノモウタアバ」、ウィキペディアによると『モノモタパ王国(Monomotapa)もしくはムタパ王国(Mutapa)は、王国の始まりは15世紀前半にさかのぼり、かつてアフリカ大陸の南東部に存在していた国家。南部アフリカのザンベジ川とリンポポ川の間に広がり、支配領域にはジンバブエ共和国とモザンビーク共和国の領土にあたる地域が含まれている』とあります。全く知らない王国名でした。

 江漢の思い込みの強い口からでまかせかとおもいきや、実際にあった王国でした。

アフリカの国々が内戦もなく諸物産や交易を行い人的交流もできるようになるには、あとどれくらいの年月が必要となりましょうか。諸外国がこぞってアフリカの諸民族を征服し植民地として搾取しまくった爪痕はひどく深かったようで、それらのことを先頭にたって行った国々はまったくしらんぷりとひどいものです。

 江漢さんの黒ん坊の観察は実に詳細です。ジロジロとなめるように見るというよりも絵描き独特のぱっぱっと眺めては描くような感じで見たのではないかとおもいます。

 

2022年2月5日土曜日

桃山人夜話巻四 その44

P26後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

P27 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

P26後半

くし天猫 の如 し作 りを阿ら春時 ハ所  の人 是 越狩る

   袮こ ごと つく     とき ところ ひとこれ 可

くしてねこのごとしつくりをあらすときはところのひとこれをかる


里民 呼 天゛可ミ奈り狩  と云 よし二 荒  山 あ多り

里ミんよん      可゛り いふ  尓つく王うざん

りみんよんで かみなりが りというよしにっこ うざんあたり


尓てハ折 ふしミる人 有 白 石 子も随  筆 尓此 事

   をり    ひとあり者くせきし 春゛いひつ このこと

にてはおりふしみるひとありはくせきしもず いひつにこのこと


越く王しく志るし置 多り

        をき

をくわしくしるしおきたり


P27

神 那里

可ミ

かみなり


(大意)

P26後半

(普段は)おだやかで猫のようである。農作物を荒らすときは土地の者たちが

この獣の狩りをおこなう。里のものはこれを雷狩りというそうだ。日光山あたり

では時折(この獣を)みかける人がいる。新井白石も随筆でこのこと

を詳しく記している。


P27

かみなり


(補足)

「やさしくし天」、ここの「し」のように上の文字に重ねるようにしてる書き方もあれば、最後の行の「く王しく志るし置多り」のように「し」を長い文字で書くこともあります。「く」も長いですけど。美意識なのでしょうか。

「作」のくずし字は特徴的です。ここのはそれほどでもありません。

「里民」、「里」に同じ漢字で振り仮名「変体仮名「里」(り)」があるのは、なんとなく変な感じ。

 画が黒ずくめでどこに雷獣がいるのかよくわかりませんが、左上と渦の中に2頭?います。なるほど猫族のようです。

 この画ではまったくわかりませんので他の資料で調べてみました。第一巻から第四巻の画の中では一番の彫込みではないかとおもうくらい、素晴らしい出来栄えであります。雷獣の毛並みがひと彫りひと彫り丁寧に隙間のない仕上がりになっています。また渦巻いている妖気も力強く精密に流れるように勢いよく彫られています。下部の部分は打ち砕かれる浪のようです。中央の雷獣の視線が読者にむけられているのですが、どうだこの画はなかなかだろうと、これは彫師の矜持のよう。

 

2022年2月4日金曜日

桃山人夜話巻四 その43

P26前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    五かミ奈里

多゛以さん志゛うご

だ いさんじゅうごかみなり


下 野 の国 筑 波 の辺 尓ハ雷 獣  と天山 尓春む个もの有

志もつけ く尓つく者゛ へん  ら以ぢ う  や満      あり

しもつけのくにつくば のへんにはらいじゅうとてやまにすむけものあり


夕 立  雲 の起 らんと春る時 勢  い猛 く奈り天空 中

ゆふ多゛ちぐも 於こ     ときいき本 多け    くうちう

ゆうだ ちぐものおこらんとするときいきおいたけくなりてくうちゅう


へ可ける尓其 いき本い當 るべ可ら須゛といへり常 尓ハやさし

     曽の    阿多          つ年

へかけるにそのいきおいあたるべからず といえりつねにはやさし


(大意)

第三十五かみなり

下野の国、筑波のあたりには雷獣という山に住んでいる獣がいる。

夕立雲がわき起ころうとするとき、勢い猛々しくなって空中を

駆け回るのだが、その勢いは(速すぎて)当てることができないほどだという。普段はおだやかで


(補足)

 第4巻最後の話になります。

「其いき本い當るべ可ら須゛といへり」、この部分の意味がいまひとつわかりません。

「常」のくずし字は特徴的。

下野の国は現在の栃木県で、筑波は茨城県。なので常陸の国の間違いでしょう。ですが雷が活躍する地域としては似たようなもの。

 

2022年2月3日木曜日

桃山人夜話巻四 その42

P25後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

手を可多\/し天谷 底 へ熊 の落 し多るを見し人

て       多尓曽こ く満 於と    ミ ひと

てをかたかたしてたにそこへくまのおとしたるをみしひと


有 其 石 を十  人 志天動 可し个れども春こしもゆる

あり曽のいし 志゛う尓ん  うご  

ありそのいしをじゅうにんしてうごかしけれどもすこしもゆる


可゛ざりしと楚゛鬼 熊 石 と天木曽の山 奥 尓今 尓

        於尓く満いし  き曽 や満於く いま

が ざりしとぞ おにくまいしとてきそのやまおくにいまに


有 と曽゛云 伝 ふ亨  保 の始  尓鬼 熊 を獲多る

あり   いひつ多 个 う本う 者じめ 於尓く満 え

ありとぞ いいつたうきょうほうのはじめにおにくまをえたる


か里うど有 皮 の大 いさ六 畳  尓足ら須゛曽゛有 个る

    あり可ハ 於本  ろくぜ う 多     あり

かりうどありかわのおおいさろうじょうにたらず ぞ ありける


(大意)

片手で谷底へ熊が落としたのを見た人

がいる。その石を十人で動かそうとしたが少しも揺る

がなかったという。鬼熊石といって木曽の山奥に今も

あると言い伝わっている。享保のはじめに鬼熊を捕まえた

猟師がいた。その皮の大きさは六畳にとどかんとするほどであったという。


(補足)


「手を可多\/し天」、「可多\/」が困りました。「片方」(かたほう)の意でしょうけど、「堅堅」(かたかた)の文字通り「堅い」の意もあります。まぁ片方が順当かと。

「か里うど」、平仮名「か」もときたま使われます。

「大いさ」、「き」の間違いなのかどうか不明です。

 皮の大きさが6畳弱だったというのですから、大きいグリズリーやヒグマや白熊と同程度です。実際にいたような気がします。約300年前のことですので皮は何かに使われてしまったのでしょう。残念。

 

2022年2月2日水曜日

桃山人夜話巻四 その41

P25前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

こミ遂 尓ハ身の置 所  奈くし天穴 の口 へ出 るを鑓

    つい  ミ 於きどころ    阿奈 くち いづ  やり

こみついにはみのおきどころなくしてあなのくちへいずるをやり


尓天つきて川本う尓天うちとる奈り其 力  の

                曽のち可ら

にてつきてっぽうにてうちとるなりそのちからの


つよきこと何 人 力 といふこと越志ら須゛といへり王多り

     奈ん尓んりき      

つよきことなんにんりきということをしらず といへりわたり


六 七 尺  も阿らん可と思 ハるゝ本どの大 石 越山 中  ニ天

ろくしちしやく      於も      多以せき さんち う

ろくしちしゃくもあらんかとおもはるるほどのたいせきをさんちゅうにて


(大意)

(奥の方へ詰め)込み、ついには身の置きどころがなくなって穴の口から出てくるところを槍

でつき、鉄砲で撃ち取るのである。その力の

強いことは何人力ということでは言いあらせないほどであるという。端から端まで

六七尺もあろうかとおもわれるほどの大きな石を、山中で


(補足)

「鑓」(やり)、振り仮名がなければ読めません。振り仮名の「や」は「ゆ」とまぎらわしい。

「て川本う」、「川」はみため、とてもじゃないけど「つ」には見えません。変体仮名「川」(つ)。カタカナ「ツ」はたしかに三本の線があり「川」。

「つよきこと」、「こと」が「を」に見えてしまいますが合字の「こと」。次の「いふこと越」も同様。

「山中ニ天」、「ニ」がとても小さい。しかし助詞「ニ」はたいてい極小。

 

2022年2月1日火曜日

桃山人夜話巻四 その40

P24 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

鬼 く満

於尓

おにくま


(大意)

鬼熊


(補足)

 綴じの都合でしょうか、画が続きます。

馬は熊の背中にかつがれ、目玉はまん丸、口を開き歯をむき、気絶寸前の表情。鬼熊はあれっチト重いな、と目尻が下がりよっこらしょっと腰に力を入れてふんばっているところ。

グリズリーやホッキョクグマの大きいのは立つと3m前後あるというのですから、うーんでかい。

初めて北回りでジャンボに乗ったとき、途中アンカレッジ空港にでみたホッキョクグマに度肝を抜かれましたが、現在は日本に送られてきていて千歳市役所にあるそうです。

 

2022年1月31日月曜日

桃山人夜話巻四 その39

P23 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

野き川袮

のぎつね


きつねの挑  燈 の

    ちやうちん

きつねのちょうちんの


火をとり蝋 燭 を

ひ   らうそく

ひをとりろうそくを


食 ふこと今 毛

くら   いま

くらうこといまも


まゝ阿る事 に

    こと

ままあることに


奈ん

なん


(大意)

野狐

きつねが提灯の火をとって蝋燭を

食べることは今も

ときおりあること

である。


(補足)

提灯を「挑」という漢字を当ててますが、同じ音とはいえ無理矢理で上手ではありません。暗闇に灯りを挑ませるぐらいの感じでしょうか。

 旅人か通りががりの人がきつねに驚いて、なりふりかまわず逃げてゆきました。残された提灯を手にして大好物の蝋燭の火と立ち上る煙をみて、うっとり。自然と顔がほころんでしまいます。もう一匹は妻がなめおわるのを待ちながら、後脚で背中をポリポリ、気持ちよさそうです。秋もおわり、里山の夜のひとときでありました。

 

2022年1月30日日曜日

桃山人夜話巻四 その38

P22後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

免り猿 奈どを取 て手のひらて押 尓忽   死春穴

  さる   とり て    於春 多ちまちし 阿奈

めりさるなどをとりててのひらておすにたちまちしすあな


与り於尓く満をとり出  春を於曽゛く登云 奈り大 木

         い多゛       いふ  たい本゛く

よりおにくまをとりいだ すをおぞ くというなりたいぼ く


を井个゛多の如 く尓組 天藤 づるを以 天穴 の口 を

 ゐ    ごと  くミ ふぢ   もつ 阿奈 くち

をいげ たのごとくにくみてふじづるをもってあなのくちを


ふさぎ種 ゝ  の木を入 れバ取 て於くの本うへつめ

   志由\゛/ き いる  とり 

ふさぎしゅじゅ のきをいるればとりておくのほうへつめ


(大意)

(歩)く。猿などを捕まえて手のひらで押すとすぐに死んでしまう。穴

から鬼熊を取り出し捕まえることを「おぞく」という。大木

を井桁のように組んで藤蔓(ふじづる)で穴の口を

ふさぎ、いろいろな木を入れると、鬼熊はこれらを取って奥の方へ詰め(込み)


(補足)

「手のひらて」、(手のひらにて)だとおもうのですが、「に」がみあたりません。カタカナ「ニ」が小さくあるようにも見えますが、この本ではそれが使われているところはなかったようにおもいます。

「押尓」(於春に)。「春」がかすれているので、見た目は「ミ」にみえます。

「忽死春」(多ちまちし春)。振り仮名を読むのも一苦労。

「大木」(たい本゛く)、「た」が変体仮名「多」にも平仮名「た」にもみえません。

 この本では巨人伝説や島のような赤エイの話などがありました。で、今回は巨大熊。

なんとなく実際にいたのだろうとおもってしまいます。

 

2022年1月29日土曜日

桃山人夜話巻四 その37

P22前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    四鬼 熊

多゛以さん志゛うし於尓く満

だ いさんじゅうしおにくま


鬼 熊 ハ人 の目尓可ゝらぬ毛の奈り木曽尓てハとし

於尓く満 ひと め         き曽

おにくまはひとのめにかからぬものなりきそにてはとし


遍多る熊 越於尓く満とハ以へり夜深 天民 間 尓

   く満          よふけ ミん可ん

へたるくまをおにくまといいえりよふけてみんかんに


出 牛  馬 越引 出  し天喰 ふ尓人 の如 く立 て阿由

いでぎう 者゛ ひきい多゛  くら  ひと ごと 多ち 

いでぎゅうば をひきいだ してくらうにひとのごとくたちてあゆ


(大意)

第三十四鬼熊

鬼熊は人目に触れることはないものである。木曽では年

をとった熊を鬼熊という。夜が更けると人家のまわりに

あらわれ、牛馬を引き出して食い、人のように立って歩く。


(補足)

「熊」のくずし字が「鮭」にもみえます。「能」の部分は「能」のくずし字になっています。

変体仮名「毛」(も)のかたちは数種類あり、「もの」とセットで使われるときはほとんど、ここのかたちです。

「遍多る熊越於尓く満とハ以へり」、「尓」が「φ」のようにみえます。ここの「に」は英語筆記体小文字「y」のかたちだとおもいます。同じ行の最後にもこの「に」があります。

 

2022年1月28日金曜日

桃山人夜話巻四 その36

P21後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

春るゝ登いへり於ろ可奈る人 越多ぶら可し天毛のをう

            ひと

するるといえりおろかなるひとをたぶらかしてものをう


者゛ふ氣越志りて人 尓近  くこと奈し牛  馬 の本袮

   き    ひと ち可づ     ぎ う者゛ 

ば うきをしりてひとにちかずくことなしぎゅうば のほね


を得ざれバ化  ること能 ハ春゛位  の望  むこと未   詳    奈ら須゛

 え   者゛け   阿多   くらゐ の曽゛   いま多゛つまびら可

をえざればば けることあたわず くらいののぞ むこといまだ つまびらかならず


(大意)

(これを)忘れてしまうという。愚かな人をたぶらかして物を

奪う。気配を感じて人に近づくことはない。牛馬の骨が

なければ化けることができない。野狐が自分の地位・身分を望むことは

いまだ明らかではない。


(補足)

ここからの3行、文章の切れ目がちょっとわかりにくいです

「於ろ可」、変体仮名「於」(お)が変体仮名「礼」(れ)にもみえます。

「近くこと」、「近」のくずし字が元の字からかけ離れています。「斤」の一画目の次くらいから「を」になったような感じ。「こと」は合字。このあと2箇所でてきます。

「本袮」、変体仮名で「ほね」だが、一瞬なんのことかと。

「望」のくずし字が「野」のそれとにています。

 なんだか説明だけになってしまっていて残念。

 

2022年1月27日木曜日

桃山人夜話巻四 その35

P21前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    三 野狐

多゛以さん志゛うさんのぎつ年

だ いさんじゅうさんのぎつね


野干 ハ蝋 油  漆  奈らび尓女  の氣血 越このむもの

や可ん らうあぶらうるし    をん奈 き个つ

やかんはろうあぶらうるしならびにおんなのきけつをこのむもの


奈りと心 要 論 尓出 多り疑    ぶ可き毛の尓し天日の

   志んやうろん 以で  う多可゛ひ        ひ

なりとしんようろんにいでたりうたが いぶかきものにしてひの


光 り越恐 連刃   をきらふ毛の越守 ら春る尓一 旦

ひ可  於曽 やい者゛       まも    いつ多ん

ひかりをおそれないば をきらうものをまもらするにいったん


ハ信 越失  ハ春゛登いへども其 うむ尓至 り天ハ是 をわ

 志ん うし奈        曽の   い多   これ

はしんをうしなわず といえどもそのうむにいたりてはこれをわ


(大意)

第三十三野狐

野干は蝋・油・漆ならびに女の生気と血を好むもの

であると「心要論」に出ている。疑い深い性質で日の

光を恐れ刃(やいば)を嫌う。約束をさせると一旦は

守り信用を失うことはないが、それがいやになってしまうとこれを

(忘れてしまうという)


(補足)

「野干」、日本語変換でも普通に出てくるので通常の単語のようですが、恥ずかしながら、狐の別称であるとは知りませんでした。「野狐」の振り仮名に「♡」マークのようなものがありますが、「年」のくずし字で、変体仮名「年」(ね)。古文書などでは「◯」+「ヽ」のかたちがおおいです。

「油」の振り仮名に平仮名「あ」が使われています。

「気」のくずし字が「柔」に似ています。「汽」の「氵」をとったものがまとめて上部になって、「メ」or「米」が下部になります。

「疑ぶ可き」、振り仮名がありますがこれを読むのも一苦労。

「日の光」の振り仮名がかすれて読みづらいですがこれは漢字が読める。

「守ら春る尓」、この振り仮名もかすれてます。

「うむ尓至り天ハ」、「うむ」がしばし悩みます。辞書を引きました。「倦む」です。そういえば「倦まず弛まず」(うまずたゆまず)という言い方がありました。

 眉唾な話をもっとそれらしく驚かすか呆れさせるかして誇大妄想的に膨らませて書いてほしいところですが、作者はここに来てややお疲れの様子・・・

 

2022年1月26日水曜日

桃山人夜話巻四 その34

P20 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

天火

てんく王

てんか


ま多ぶら里火といふ地より丗   間

     び   ち      个ん

またぶらりびというちよりさんじっけん


余ハ魔道 尓天さ満\゛/の悪 鬼

よ まだう        あつき

よはまどうにてさまざ まのあっき


ありて王ざ王ひを奈せり

ありてわざわいをなせり


(大意)

天火

またはぶらり火という。地面より三十間

あまりは悪魔の住む世界であるので様々な魔物

がいて、災いをなした。


(補足)

「十」を三つ並べて「十十十」三十。一間は約1.8mなので約54m。京都に三十三間堂がありますがあの廊下の長さプラス三間。

「魔道」、振り仮名「だ」が変体仮名ではありません。「道」のくずし字は特徴的。

「王ざ王ひ」、最初の「王」が小さすぎて読めません。

 まぁ、こんなものが天から降ってきたら、諦めるしかありません。

 

2022年1月25日火曜日

桃山人夜話巻四 その33

P19 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

野鉄 本゜う

のでつ

のでっぽう


北 國 の深 山 尓居る獣  奈り人 を見可け蝙蝠

本つこく しんざん ゐ けもの  ひと    可ふ本り

ほっこくのしんざんにいりけものなりひとをみかけこうもり


のごとき物 を吹 出 し目口 をふさ起゛天息 を止

    もの ふきい多゛めくち      いき とゞ

のごときものをふきいだしめくちをふさぎ ていきをとど


免人 をとり食 ふと奈り

 ひと   くら

めひとをとりくらうとなり


(大意)

野鉄砲

北国の奥深い山にすむ獣である。人をみかけるとコウモリ

のようなものを吹き出し、人の目と口をふさいで息を止

め、捕まえて食ってしまうという。


(補足)

 どうして野鉄砲というのかが気になっていました。なるほど画を見てみると鉄砲のように勢いよく旅人をねらって撃つごとく吹き出しているからのようです。玉はコウモリのようなものなのでしょう。画ではモモンガにも見えますが。

「野鉄本゜う」、「本」に半濁点「゜」があります。

ここでは「北」が楷書になっています。くずし字はまったく別の漢字で「小」+「ヽ」。

「蝙蝠」、振り仮名が「かふほり」。「かふ」はよいとして「ほり」は旧仮名遣いで「もり」と読めそうもないと思うのですけど。

「ごと」は合字「こと」に濁点。

「吹出し」、振り仮名「い」を読みとばしそう。

「ふさ起゛天」、漢字に濁点があるのは変ですが、「起」は変体仮名なので。

「人をとり」、「と」のかたちが上部が丸くなってます。拡大してみると一画目の最後を二画目に引きずっているためのようです。

 

2022年1月24日月曜日

桃山人夜話巻四 その32

P18後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

退 役 し天ひと月 過 火 氣も奈き所  与り火出

多以やく    つき春ぎく王き   ところ  志由つくハ

たうやくしてひとつきすぎか きもなきところよりしゅっか


天家 越やき身も焼 死しむさぶり多くハへ多類

 いゑ   ミ やけし         

ていえをやきみもやけししむさぶりたくわえたる


金 銀  財 宝 衣類 ホ 一 時の烟  と立 登  れり其

きん\゛/ざ以本うゐる以とういちし 个むり 多ちの本゛  曽の

きんぎ んざうほういるいとういちじのけむりとたちのぼ れりその


日ひとむらの火天 与り下  りしをミ多る人 有 恐 るべし

ひ     ひてん  く多゛      ひとあり於曽

ひひとむらのひてんよりくだ りしをみたるひとありおそるべし


(大意)

退役してひと月を過ぎたころ、火の気もないところから出火し

て家を焼き自身も焼け死しんだ。むさぼりたくわえた

金銀財宝衣類などほんのいっときの間に煙となって立ち登った。そ

の日、火のかたまりが天より降ってきたのを見た人がいる。恐るべきことである。


(補足)

「火出天」、送り仮名「し」が抜けているようです。

「ひとむらの火」、「と」、「ら」は形をなしていません。「の火」と続くので読めました。

「ミ多る」、ここも少し悩むところ。

 悪代官の屋敷を天よりの大火球で打ち砕き炎上しろと領民が願っていると、ほんとうにそうなりそうな気がしてきます。

 

2022年1月23日日曜日

桃山人夜話巻四 その31

P18前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    二天 火

多゛以さん志゛う尓てんくハ

だ いさんじゅうにてんか


天 火尓て家 越やき焼  死せし人 所 ゝ 尓阿り去 所  尓

てんひ  いゑ   せう し  ひと志よ     さるところ

てんぴにていえをやきしょうしせしひとしょしょにありさるところに


天代  官  越勤  し者 春こしも仁心  奈く私欲 を可満

 多゛以く王ん つとめ もの    じんしん  しよく 

てだ いか んをつとめしものすこしもじんしんなくしよくをかま


へて下 ゝ 越志い多げ主 人 尓も悪 名  を負ハせ个る可゛

  志も       し由じん  あくみやう 於

えてしもじもをしいたげしゅじんにもあくみょうをおわせけるが


(大意)

第三十二天火

天火(てんぴ)により家を焼き焼死した人はあちこちにいる。ある所で

代官を勤めていた者がいたが、その者は少しも情け深い心がなく私欲のために

下々の者をしいたげ、主人にも悪い評判を負わせた。


(補足)

「天火」の読みを、題名では「てんか」とし本文冒頭では「てんぴ」、同じ言い回しや表現を避けるを徹底しています。「阿り」、「有」も混在しています。

「所々尓」、「々」を見落としそう。ここの変体仮名「尓」(に)は英文字小文字筆記体「y」とほとんどかたちが同じ。

「官」のくずし字は特徴的で、「友」の「一」を「冖」にしたような感じ。

 

2022年1月22日土曜日

桃山人夜話巻四 その30

P17後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

ふとこ路尓入 連バこれ尓さ満多げらるゝこと奈しと云

     いる                 いふ

ふところにいるればこれにさまたげらるることなしという


深 山 尓野可げと云 毛の有 名ハ可ハれども是 と同

  さん の   いふ  ありな      これ 於奈

しんざんにのかげというものありなはかわれどもこれとおな


じ野可げも名毛ミ越きらふよし深 山 の人 ハいへり

 の              や満 ひと

じのかげもなもみをきらうよしふかやまのひとはいえり


(大意)

ふところに入れておけばこれに襲われることはないという。

奥山に「野かげ」というものがある。名は異なっているがこれと同

じものである。「野かげ」も「なもみ」を嫌うという。奥山の人が言っている。


(補足)

前行「巻耳と云草越」、「巻耳」振り仮名が「奈もミ」とありますが、パッとみためは「ありミ」。拡大してみると確かに振り仮名通り。「云草」は「柔」一文字に見えます。

「野可げ」、ここではほぼ楷書の「野」。同じ読みでも表現をかえるのが習い。

今度は「深山」の振り仮名が「やま」になっています。二文字を「やま」とよませているのか「ふかやま」なのか、よくわかりません。前行では「深山」の振り仮名「さん」とありこれは「しんざん」でしょうけど。

 

2022年1月21日金曜日

桃山人夜話巻四 その29

P17前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第丗一野鉄砲

多゛以さん志゛ういちのてつ本う

だ いさんじゅういちのでっぽう


満ミと云 毛のゝ功 越へ多る越野てつ本うといへり阿る説

   いふ   こう     の

まみというもののこうをへたるをのでっぽうといへりあるせつ


尓ハこうもりの年 へ天野ぶ春満登云 毛の尓奈り

       とし  の    いふ

にはこうもりのとしへてのぶすまというものになり


多るをもいへりと曽゛夕 くれの比 与り出 天人 の面  尓あ

               ころ  いで ひと 於もて

たるをもいえりとぞ ゆうくれのころよりいでてひとのおもてにあ


多り目越ふさぎて生 血 越吸ふ巻 耳と云 草 越

  め     せい个つ 春 名もミ いふくさ

たりめをふさぎてせいけつをすうなもみというくさを


(大意)

第三十一野鉄砲

「まみ」というものの年功を経たものを野鉄砲という。ある説

にはこうもりが年をとってのぶすまというものになった

というものもある。夕暮れ時に出てきて人の顔面にあ

たり、目をふさいで生き血を吸う。「巻耳(なもみ)」という草を


(補足)

出だしから読めないし読めても意味が不明。そのようなときはかまわず次を読んでいきます。

どうやら「まみ」とは何かの名前のようです。「ミと」がグニャグニャとつながってわかりにくい。

「野」のくずし字は「那」+「土」or「王」のような感じ。

 吸血コウモリというのがいるのだから、でも日本にはいないかも、どこかの国では実際にありそうな話。いやだ。「まみ」という音が不思議、こうもりやのぶすまやのでっぽうという音と無関係な感じ。関係ないけど「野ぶすま」という音で思い出すのが「男衾(おぶすま)」という地名。東武東上線の池袋から行くと、寄居駅の手前(鉢形)の手前(男衾)にあります。「ぶすま」とは桶狭間の「狭間」という意味らしく、渓谷にはさまれてジメジメしたかんじの所の意。そこにうじゃうじゃコウモリがいたのかもしれません。

 

2022年1月20日木曜日

桃山人夜話巻四 その28

P16後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

こと多 し赤 間可゛関 の蟹 ハ平家一 門 の人 の怨

     阿可ま  せき 可尓 いけいちもん ひと 於ん

ことおおしあかまが せきのかにはいけいちもんのひとのおん


霊  也と楚゛化 春べき物 も有らん尓蟹 と成 多ること

里やう    くハ   もの     可尓 奈り

りょうなりとぞか すべきものもあらんにかにとなりたること


笑 ふべし婦女 尓ハ登も阿連物 の部多る者 死し天

王ら   ふぢよ      もの ふ  ものし

わらうべしふじょにはともあれもののふたるものしして


可ゝ類物 と奈ること此 比 平 家尓ハ愚人 のミ多 可りき

   もの     このころ     ぐ尓ん  於本

かかるものとなることこのころへいけにはぐにんのみおおかりき


(大意)

(永く怨みをみせる)ことが多い。赤間が゙関の蟹は平家一門の人の

怨霊が化したものであるという。化すべき物は他にもあるだろうに、蟹になるとは

笑うべきことである。女子どもはともあれ、武士たるものが死して

このようなものになるとはこの頃の平家には愚かなものばかりが多かったのである。


(補足)

「赤間可゛関」、「間」や「関」のくずし字の「門(もんがまえ)」は「冖(わかんむり)」のなっているのが特徴です。ならば「門(もん)」のように中に何もない漢字のくずし字ではどうなるかというと、同じ行のにありました、「平家一門」。さすがに「冖」にはならなくて、ほぼそのままでした。

「有らん尓」、「ら」は形をなしていません。

「成」のくずし字が久しぶりに出てきました。新しい漢字として覚えたほうが良さそうです。

「物の部」、振り仮名は「もののふ」ですが、「武士」をそう読ませるのが多い。

 平家蟹の甲羅にケチをつけ、平家一族を愚者扱いして話をしめてしまいました。なんともはや。

春泉子よ巻一序の気概はどこへいった。

 

2022年1月19日水曜日

桃山人夜話巻四 その27

P16前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  三 十  於菊 虫

多゛以さん志゛うおきくむし

だ いさんじゅうおきくむし


皿屋 しきのお菊 むしハおきく可゛怨 念 虫 と奈りしと云 伝

さらや    きく        於ん袮んむし 

さらやしきのおきくむしはおきくが おんねんむしとなりしといいつた


ふ春へ天可ゝる怨  のことゞもハ其 所  尓止  り天年 越ふる

       うらミ      曽のところ とゞ満  とし

うすべてかかるうらみのことどもはそのところにとどまりてとしをふる


尓随 ひ草 木 鳥 虫 ホ 尓化 し天永  く怨  越ミ春る

 死多 さうもくとりむしとう くハ  奈可゛ うらミ

にしたいそうもくとりむしとうにか してなが くうらみをみする


(大意)

第三十於菊虫

皿屋敷の於菊虫はおきくの怨念が虫となったものと云い伝えれてい

る。すべてこのような怨みなどというものはその場所にとどまって、年がたつ

に従って草木や鳥や虫などに化けて永く怨みをみせる(ことが多い。)


(補足)

「皿屋しき」、「屋」が偏で「し」が旁の一文字の漢字のようです。

表題では変体仮名「於」(お)ですが、本文では「お菊むしハおきく可゛」と平仮名。

「怨」、振り仮名「うらミ」の「うら」がニョロニョロしていて判別しにくい。

「ことども」、「こと」は合字、「ど」がくずしすぎで読めません。

「随ひ」、振り仮名が「志多」で「可゛」を忘れたのか、「随」の次に小さく「可」があるようにもみえて「したがい」と読むのか?しかし「有」のくずし字は次の次の行に「有」がありますが、

「月」の部分をくずした最後に「一」がつきます。なので振り仮名に「可゛」を忘れたと判断。

ちなみに「月」のくずし字はここにあるようにグニャグニャしたものではなく、「月」そのままのかたちか「同」のくずし字に似たかたちです。

 

2022年1月18日火曜日

桃山人夜話巻四 その26

P15後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

登有 妄 念 妄 想 のこゝ路ハ無学  文 盲 ゟ

 阿りもう袮んもうさう     む可゛くもんもう

とありもうねんもうそうのこころはむが くもんもうより


出 ると説可れ多れ者゛学 者るべき本どの分 際 尓

いつ  と      ま奈       ぶんさい

いずるととかれたれば まなばるべきほどのぶんざいに


於 天書 尓眼  をさらし天道 越志り己 れ可゛心

おゐ ふミ ま奈こ     ミち   をの   こゝろ

おいてふみにまなこをさらしてみちをしりおのれが こころ


の善 悪 越弁 へ孝 悌 忠  信 仁 義礼 譲  を知

 よしあし 王き こうて以ち う志んじん 連以ぜ う しる

のよしあしをわきへこうていちゅうしんじんぎれいじょうをしる


多ゝ人 尓ハ愚  奈ること尓迷 ふこと有 べ可ら須゛と思 べし

      をろ可     まよ   阿る      於も

ただひとにはおろかなることにまよふことあるべからず とおもべし


(大意)

とあり、「妄念や妄想をもつ心は無学文盲により

出るのである」と説かれている。であるからそれぞれが学ぶことのできる身の程に

応じて本をしっかりと読み、道を知り、自分の心の善悪をわきまえ、孝悌・忠信・仁義・礼譲を知る普通の人には愚かなことに迷うことがあるわけがないと思うべきである。


(補足)

「奈し登登有」、文末文頭で「登」がダブってしまいました。

「ゟ」、「より」を一文字にした合字です。

「説可れ多れ者゛」、「可」が変体仮名「个」(け)のようにみえます。

「弁へ」、振り仮名に「ま」がありません。

南総里見八犬伝に出てくるのは「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」(の数珠の玉(仁義八行の玉))。

「多ゝ人尓ハ」、現在でも使われる「ただの人」(一般の人、ふつうの人)。

「こと」、合字ですが「ゟ」のようにフォントがありません。

「思べし」、拡大してみても振り仮名に「う」が見つかりません。

 それぞれが分相応にしっかり学び儒学の教えを身につければ妄念妄想を持つこともなく愚かなことに迷うこともないというとても夜話らしからにはなしになってしまいました。