裏表紙
(読み)
なし
(大意)
なし
(補足)
前回「猿加尓合戦」の裏表紙もそうでしたけれど、この裏表紙も風呂敷にしてほしい。または暖簾でもかわいらしい。シーツなど布柄にピッタシです。格子の四角には「編輯兼出版人木村文三郎」の「木」の字を図案化したようにみえます。猫の顔が見えているのが7匹いますけど、みな違ってるような・・・、間違い探しは苦手なんです。みんなかわいらしい。お尻も。
裏表紙
(読み)
なし
(大意)
なし
(補足)
前回「猿加尓合戦」の裏表紙もそうでしたけれど、この裏表紙も風呂敷にしてほしい。または暖簾でもかわいらしい。シーツなど布柄にピッタシです。格子の四角には「編輯兼出版人木村文三郎」の「木」の字を図案化したようにみえます。猫の顔が見えているのが7匹いますけど、みな違ってるような・・・、間違い探しは苦手なんです。みんなかわいらしい。お尻も。
奥付
(読み)
明治十五年七月十一日御届
編輯兼出版人
東京馬喰町二丁目一番地
木村文三郎 定價3銭
大賣捌人
東京通油町 水野慶次郎
同 横山町 辻岡文助
越後三條 浅間傳左衛門
同 長岡 松田周平
同 葛塚 弦巻七十郎
甲州三日町 松本米兵衛
箱舘地蔵町 木下清次郎
信州松本 髙美甚左ェ門
(大意)
略
(補足)
定価が3銭ですから今までみてみた豆本の2〜3倍です。現在の価格で約800円くらい、手にして悩まずにササッと購入する価格ではありません。内容をちょっと立ち読みして面白いなとおもったらためらわずにすぐに買いますけど。
箱館を除けば越後・甲州・信州と関東周辺地域です。東京に出てこなくてもこういった娯楽本もこの頃には手に入れられるようになっていたようです。
奥付6
奥付拡大下段
(読み)
常磐津稽古本
ときわずけいこぼん
紙春り仕立ニ差入別して
かみすりしたてにさしいれべっして
安直尓差上候間たくさん
あんちょくにさしあげそうろうあいだたくさん
御もとめを奉希上候
おもとめをねがいあげたてまつりそうろう
(大意)
紙摺り仕立てに差し入れしました。
お求めやすくしましたので
たくさんお買い上げお願い申し上げます。
(補足)
「安直尓差上候間」(あんちょく)、値が安いこと。「候」は「丶」。平仮名「ゆる」のように見えるのは「間」(あいだ)のくずし字。ふたつ右の広告の2行目にも「御座候間沢山」とあります。
6つの広告を読むのも一苦労でありました。ふぅ〜。
奥付5
奥付拡大下段
(読み)
下口文句
しもぐちもんく
左王里浄瑠璃
さわりじょうるり
御酒宴の御席へ御??
ごしゅえんのおせきへ
??ニハ求てよろしき
??にはもとめてよろしき
珍本奈り 一冊十銭
ちんぽんなり いっさつじっせん
(大意)
下口文句 左王里浄瑠璃
御酒宴の御席へ??
お手元へ一冊求めてよろしき
珍本にございます。
(補足)
「下口」、読みは(しもぐち)or(したぐち)どちらかわかりません。
「左王里」変体仮名が3文字連続です。「左」だろおもうのですがさて?3文字が一筆書きのようなってます。
「御席」〜「ニハ求て」、「〜」が???
「珍」も辞書で調べてやっとわかりました。
奥付4
奥付拡大下段
(読み)
さ王り文句入
さわりもんくいり
浄瑠璃どゝ逸
じょうるりどどいつ
こ連ハえらみどゝ逸同やう
これはえらみどどいつどうよう
の美本尓御座候間沢山
のびほんにござそうろうあいだたくさん
???の??と候
???の??とそうろう
(大意)
さわり文句入
浄瑠璃どゝ逸
この本はえらみ(選)どゝ逸と同様の
美本にございますので沢山
???
(補足)
読めないところが半分、なんとなく読めそうでわからないところが悔しい。
調べようにも八方塞がり、ウ~ン。
でもなんとかしたい。
奥付3
奥付拡大
(読み)
浄瑠璃文句
じょうるりもんく
選どゝ逸
せんどどいつ
どゝ逸の?作をえらみ集め
どどいつの?さくをえらみあつめ
銅版の差画を加へ美ゝしき
どうはんのさしがをくわえびびしき
仕立御?中本尓御座候
したてご?ちゅうぼんにござそうろう
(大意)
浄瑠璃文句 選どゝ逸
どゝ逸の傑作を選び集め
銅版の差画を加え美々しく
仕立てました御?中本に
ございます。
(補足)
「どゝ逸の?作をえらみ」、「?」の漢字は一つ前の「繪入五行義太夫本」宣伝文「御目誇らしく」の「誇」と同じ形です。しかし間違えているようです。「誇作」という熟語はありません。
ウ~ン、あと一息で読めそうなんだけど・・・
「仕立御?中本尓御座候」、これもくずし字になってないのに「?」が読めません。
どなたか教えて下さ〜い。
(20210112追記)「どゝ逸の新作をえらみ集め」、「新」だとおもいます。
奥付2
奥付上段拡大
(読み)
繪入 五行義太夫本
えいり ごぎょうぎだゆうぼん
文句ニ合せ所ゝへ画をく王へ
もんくにあわせところどころへえをくわえ
御目誇らしく稽古本ニて
おめほこらしくけいこぼんにて
相成候重宝の珍本奈り
あいなりそうろうちょうほうのちんほんなり
(大意)
繪入 五行義太夫本
文句に合わせ所々に絵を加えました。
見た目も誇らしい稽古本であります。
便利な珍本にございます。
(補足)
どのようなものかは、国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができます。
そういえば、ずいぶん昔に実家の引っ越しのとき、父が使っていた義太夫本が沢山出てきたのをおもいだしました。でもあれは義太夫だったかどうか、ウ~ン・・・。
(20210112追記)「御目誇らしく」は数日悩んで「御目新らしく」のような気がしてきました。
奥付1
奥付上段拡大
(読み)
大阪 五行義太夫本
おおさか ごぎょうぎだゆうぼん
紙春り仕立尓差入表紙尓
かみすりしたてにさしいれひょうしに
厚紙を用ひ御手な可゛く
あつがみをもちいながく
御らん尓相成候共いたむ事なし
ごらんにあいなりそうろうともいたむことなし
(大意)
大阪 五行義太夫本
紙の仕立てと表紙に厚紙を用いておりますので
お手元で末永くご使用されてもいたむことは
ございません
(補足)
奥付の広告がおもしろそうなので、読めないところもあるのですが6つとも順に読んでみましょう。
最初は「大阪五行義太夫本」。もとのせりふから1ページに5行ずつ太い字で読みやすく書いた本。
P12
P12拡大
(読み)
△そ連より
それより
王可゛个゛ふを
わが ぎょうを
者げミてふうふ奈可五
はげみてふうふなか
五むつましく
むつましく
くらし个る
くらしける
めで多し\/\/
めでたしめでたしめでたし
(大意)
それからは
自分の生活を真面目に生き
夫婦仲は睦まじく
暮らしました
めでたしめでたしめでたし
(補足)
「王可゛个゛ふを者げミて」、変体仮名「个゛」と平仮名「げ」。
トラ蔵の縦縞の着流しがP4のものと同じになりました。前頁のものは太いのと細い縦縞が交互でした。トラ蔵の左のにゃんこの手がかわゆい。膝にのせているのは子どもでしょうか。
最後の頁も実に細かく隅々まで念入りです。
おコマの左手には「文句どゝ逸」の宣伝をしています。
P10P11見開き
P11拡大
後半
(読み)
尓可うく王い奈しこ連より个つ
にこうかい なしこれよりけっ
してふぎをつゝしミ身のおこ
してふぎをつつしみみのおこ
奈ひを多いせつ尓い多すべしと
なひをたいせつにいたすべしと
奈ごりをしくもりやう尓王可れ△
なごりおしくもりょうにわかれ
(大意)
後悔しました。この後より決して
不義を慎み身の行いを
大切に致すべしと
名残惜しくもりょうに別れ
(補足)
前回も記しましたが、「可うく王い奈し」が??です。「い」としましたがこれはどうみても「ハ」です。「い」は他の行にたくさん出ててそれらと比べても異なります。「ハ」は4行目にあるだけですがこれはそっくり重なるくらい同じです。しかし「ハ」と読むと「可うく王ハ奈し」となって意味が不明です。意味が通じるようにするには「ハ」を「い」とすれば「後悔した」の意に理解できます。ウ~ン・・・どうなんでしょう。
「つゝしミ」、ちょっと読みづらい。
「多いせつ」、ここの「い」は先程の「ハ」の形に近いです。
「こ連より」「奈ごり」「りやう」、「り」が小さい「つ」に似たのもあり、ちょっと悩みます。
「王可れ」、平仮名「れ」、他の箇所では変体仮名「連」(れ)でした。
木が両脇に一本ずつあります。枝ぶりや葉はともかくとして、両方とも幹がやや稚拙に感じます。
他の部分は緻密で丁寧でうまいのに、この落差はどうしたことでしょうか。
P10P11見開き
P11拡大
前半
(読み)
◯多りとら蔵 大 い尓よろこびあ
たりとらぞうおおいによろこびあ
つく連いを奈し王可げのい多り尓て
つくれいをなしわかげのいたりにて
おこ満をつ連て可けおち奈し多る
おこまをつれてかけおちなしたる
をさ多゛めしうち尓てハうらんでゐ
をさだ めしうちにてはうらんでい
ら連る多゛ろうとざんげ者゛奈し
れれるだ ろうとざんげば なし
(大意)
(助けました。)トラ蔵は大いに喜んで
あつく礼をしました。若気の至りで
おコマを連れて駆け落ちしたことを
さだめし、家の方では恨んでい
られるだろうと懺悔ばなしに
(補足)
「ざんげ者゛奈し」、ちょっとよくわからないところです。次に「尓可うく王い奈し」と続くのですが、ここもどうも読みが不安です。
トラ蔵おコマには笑顔が戻り、クマはりょうにかみたおされてあたふたあたふた。クマとりょうの柄が似ています。
画像を拡大するとわかるのですが、絵の濃淡は銅版に描くペンの太さと線の本数(密度)で描いているのがわかります。親方はこういった根を詰める作業は弟子にまわしたのでしょうか。おコマの着物の柄もにぎやかです。
8P9見開き
P9拡大
後半
(読み)
りゆうといふいぬいでき多り
りゆうといういぬいできたり
やう春をきゝてくまのふぎ
ようすをききてくまのふぎ
をいきどふり多ちまちく満
をいきどうりたちまちくま
を可ミ多をしおこ満を多すけ◯
をかみたおしおこまをたすけ
(大意)
りゅうという犬があらわれて
いきさつを聞きクマの不義
にいきどおり、あっという間に
クマを噛みたおし、おコマを助け
(補足)
「やう春」、変体仮名「春」(す)は「十」+「て」のようなかたち。「多すけ」のように平仮名「す」もあり、共存してます。平仮名「ま」も変体仮名「満」(ま)があり、両方共存。
文章拡大画像背景の草地が非常に細かい細線で描かれているのがわかります。
3人の着物の輪郭線がふっくらと柔らかいのが印象的です。
P8P9見開き
P9拡大
前半
(読み)
くまハ多ん本゛奈可尓
くまはたんぼ なかに
てひといきつ可んとや春
てひといきつかんとやす
ミゐ多れ者゛とら蔵 き多
みいたれば とらぞうきた
りて可ど王可し\/ と大ご ゑ
りてかどわかしかどわかしとおおごえ
多て連バもとこゝろや春くし多る
たてればもとこころやすくしたる
(大意)
クマは田んぼの中で
ひと息つこうと休んで
いたところ、トラ蔵が追いついて
「かどわかしかどわかし」と大声で
叫びました。そうすると以前から
親しくしていた
(補足)
変体仮名「可」(か)がたくさんでてきます。「う」のようにみえたり「っ」のようにみえたりいろいろです。
「や」は現在では3画です。この当時は「つ」の最後をそのまま右回りに上がり「つ」を横切ってそのまま丸く流れます。
クマはおコマを右脇にかかえ、左脚でおもいっきりトラ蔵を蹴飛ばしています。クマは半笑い、おコマはうちひしがれ、トラ蔵は無念の表情。三者をよく描き分けています。おコマのこのときの顔って、実際の猫も首根っこを持って吊り下げるとこんな顔になりますね。
3人の手足はちゃんとにゃんこのものになっています。
P6P7見開き
P.7拡大
後半
(読み)
そへどもそ奈多ハ奈
そえどもそなたはな
うてのあふ連もの
うてのあふれもの
由へ奈か\/ち可らおよ
ゆへなかなかちからおよ
者゛春゛ざんねん奈可゛ら
ば ず ざんねんなが ら
おこま王多し多れども
おこまわたしたれども
むねん尓おもひ奈く\/
むねんにおもいなくなく
あとをし多ひ由く
あとをしたいゆく
(大意)
争ったのですが相手は
名うてのあぶれ者
なのでなかなか力及
ばす、残念ながら
おコマを渡してしまいました。
しかし無念でならず泣く泣く
別れがたくおもいあとを追いました。
(補足)
「阿らそへども」と「あふ連もの」の「も」の筆順が異なります。最初のは「し」のように書きはじめてそのまま左回りにもとに戻るようにしますが、もう一方は書きはじめは同様ですが下部までいったら小さく左上にのぼりそこから大きく右回りにかきます。このあと2ヶ所「も」がでてきますがそれらも同様です。「あ」が現在と同じような形になってます。
「むねん尓」、変体仮名「尓」は英小文字筆記体「y」の形。
豆本は手のひらにのるくらいの大きさです。まさか後世に拡大して見られることを想像していたとは思えませんが、画面を拡大して隅々をみると、どこも丁寧に描きこんでいて手抜きなど微塵もありません。
P6P7見開き
P.7拡大
前半
(読み)
■い連奈けれバ大 い尓
いれなければおおいに
い可りとら蔵 を可ミ
いかりとらぞうをかみ
多本しておこ満尓さる
たおしておこまにさる
ぐつ王を者ませてこ
ぐつわをはませてこ
王き尓可ゝへて尓げさ
わきにかかえてにげさ
らんと春とらざう
らんとすとらぞう
そ連やつてハと阿ら
それやつてはとあら
(大意)
(聞き)いれることはなかったため、大いに
怒り、トラ蔵を咬(か)み
たおして、おコマにさる
ぐつわをはませて、
小脇に抱えて、逃げ去ろうと
しました。トラ蔵は
そうなってはと争う
(補足)
「そ連やつてハと」、こんなにはっきり硬筆で記されているのに「やつてハと」がわかりません。意味はもちろんおコマを連れ去るクマを阻止しようと争うということですけど、「やつ」の次は「て」「こ」「こと」何でしょうか。
トラ蔵はなにおぉ〜と息巻くものの、クマは余裕の笑顔でおコマの裾を踏みつけて逃げられないようにしています。3人の衣裳は前頁とおなじものの、外の風景は大きく変わっています。縁側の柾目板の木目も細かい。
P4拡大後半
P4P5見開き
(読み)
ておこ満のいろ可尓こゝろを可けをり
ておこまのいろかにこころをかけおり
\/きてハくど起个連どもこ満ハ
おりきてはくどきけれどもこまは
とら蔵 尓ミさ本を多てゝきゝ■
とらぞうにみさおをたててきき
(大意)
おコマの色香に心を奪われ、折々
来ては口説くのですが、コマは
トラ蔵に操(みさお)をたて聞き(入れず)
(補足)
ここのたった3行、ちょっと手強かった。
ひとつは「ろ」「可」「う」の区別。もうひとつは「ゝ」の読み。「こゝろ」「多てゝきゝ」
何度も読んで意味が通じる読みを探しました。
屋外の木の陰からのぞいているのはごろつきのクマ。その視線の先は一直線におコマの腰から太ももにながれる色香がタップリただようあたりにそそがれています。それにしてもおコマのトラ蔵にしなだれる姿は色っぽい。
木の幹を描くのがあまり得意ではなさそうです。
P.4前半
P4拡大
(読み)
五さんとあるよふ多り王可゛やを
さんとあるよふたりわが やを
ぬけいでゝねぎしのさと尓ゆき奈
ぬけいでてねぎしのさとにゆきな
可ちを可りて春ミゐ多りきんじよ
かちをかりてすみいたりきんじょ
のごろつき尓くまといふものあり
のごろつきにくまというものあり
(大意)
(暮ら)そうとある夜ふたりは我が家を
抜け出て根岸の里へ行き、中地(なかち?)
を借りて住むようになりました。近所の
ごろつきにクマというものがいて、
(補足)
「王可゛や」、変体仮名「王」(わ)は「已」のようなかたち。
「ねぎしのさと尓ゆき奈可ちを可りて」、「奈可ち」が間違いかもしれません。「ゆき奈」が違うよみで、「可ち」は「うち」(家)としても意味は通じるので、ウ~ン、悩みます。
二匹いやふたりのなんとも幸せそうな表情、とくにおコマ。飼い猫がいつもこんな表情なら飼い主さんはメロメロでしょうね。そしてトラ蔵の渋みのある優しくおコマを見つめる目。色男全開であります。
ふたりの衣裳も細かいけど、障子の腰板の板目の描き方もこだわってます。他の部分も実に念入り。
P2後半
P2拡大
(読み)
ふ多り可゛いふやう可ら
ふたりが いうようから
していつまでゐてもふうふ尓奈る
していつまでいてもふうふになる
ことハできぬ可ら可けおちして
ことはできぬからかけおちして
ふ多りいつしよ尓くら五
ふたりいっしょにくら
(大意)
ふたりのやりとりから
いつまでこうしていても夫婦になる
ことはできないだろうから、駆け落ちして
ふたり一緒に暮らし
(補足)
「あ」と「お」の区別は簡単です。「お」の形が基本でそれから「丶」をとったのが「あ」となります。
「いふやう可ら」、「う」「可」「ら」どれも似ています。
「こと」は合字で一文字扱いです。「ゟ」(より)はフォントがあるのですが「こと」はありませんでした。
P2P3見開き
とら蔵の左奥背景に木々の間から瓦屋根の家々が細かく描かれています。ここだけではありませんが描けるところはとにかく描いてやるという画工の意地みたいのがありそう。親方に弟子がこんなもんでどうでしょうと見せると、まだここが描けるじゃねぇかとダメ押しされていそうです。
このBlogで以前に「猫のはなし」を取り上げています。
この頁を参考にして描いているのがわかりますし、猫の名前も同じです。出版は「禰この道行」が明治15年、「猫のはなし」が明治18年です。
P2前半
P2拡大
(読み)
▲奈しふ可起奈可とぞ奈り尓个りあ
なしふかきなかとぞなりにけりあ
まり志げく尓奈れバふ多りともと本゛
まりしげくになればふたりともとぼ
でもできぬやう尓奈り多るをやう\/
でもできぬようになりたるをようよう
志のびあひて
しのびあいて
(大意)
(出会いを)して深き仲になっていました。
あまりに何度も会っていると二人とも??
でもできぬようになってしまうところをなんとか
忍び会って
(補足)
「あまり志げく尓奈れバふ多りともと本゛でもできぬやう尓奈り多るを」、「と本゛」が不明です。想像力を働かせるのですが、ウ~ン・・・、どなたか教えてほしいです。あとでわかったら加筆します。まぁ意味は「二人とも頻繁に会っていると飼い主から制限されて会えなくなってしまうところをなんとか忍びあって」のような感じでしょう。
「奈しふ可起奈可とぞ」、「し」も「可」もとても小さい。しかし文章のながれから読めます。
「まり志げく尓」、「やう\/」、最初のは大きい「し」、あとのは繰り返し記号です。見た目はまったく同じ。
手ぬぐいを口にくわえているのはコマ、明かりをさしだしているのがお豊。絵はやや煩雑に感じるほど描き込まれています。コマの手足はちゃんと猫になっています。
P.1
P1拡大
(読み)
あるしんミち尓おとよといふ可こひもの
あるしんみちにおとよというかこいもの
尓可ハ連多るこ満といふめねこあり
にかわれたるコマというめねこあり
お奈じ志んミち尓ねこ八 といふ个゛い
おなじしんみちにねこはちというげ い
しや尓可ハ連てとら蔵 といふをねこ
しゃにかわれてとらぞうというをねこ
ありいつ可の起づ多ひ尓であひを▲
ありいつかのきづたいにであいを
(大意)
ある新道にお豊という囲い者(お妾さん)に
飼われているコマという雌猫がいました。
同じ新道にねこ八という芸者
に飼われているトラ蔵という雄猫
がいました。いつしか木づたいに出会いを
(補足)
絵の描きこみがすごい。1ページ目だから気張ったのかとおもうとそうでもなくこのあとのページも細かいのです。主役の猫二匹と芸者ねこ八の顔だけが無地で目立たせています。
屋根にいるのがコマ、抱かれているのがトラ蔵で尾っぽが短い。二匹ともニコニコしてニャァァァンっと声がきこえそう。ちょうちょ結びの首輪もかわいい。それに栄養状態がよくぷくぷく。
「新道」、小路。町家などの間の細い道。
「ミち尓」、「可こひもの尓」、おなじ変体仮名「尓」でも形が異なります。前者は平仮名「ふ」のよう、もう一方は英文字筆記体の「y」ににています。
「可ハ連」、変体仮名「連」(れ)、なんとなくもとの「連」の形が残っています。二行後にも出てきます。
「こ満」、変体仮名「満」(ま)。「満」とは似てもにつきません。
「志んミち」、一行目は平仮名「し」でしたが、ここでは変体仮名「志」。
「个゛いしや」、変体仮名「个」(け)。文末で頻繁に「〜し个る」(〜でした)のように使われます。
「とら蔵」、この「蔵」のくずし字を書いてみろと言われてもなかなか難しい。「〜蔵」のように代表的な名前で頻繁に使われますので読み違いはないでしょう。
「いつ可の起づ多ひ尓」、「いつ可の」は「いつしか」がぴったりそうです。「起づ多ひ」がよくわかりませんでしたが、猫同士なので木に登って枝をつたって出会いをというふうに想像しました。まったく違っているかもしれません。