2023年10月31日火曜日

桃太郎発端話説 その69

下P10 東京都立図書館蔵

(読み)

春ゞめのね尓のこりもゝの奈可奈る

すずめのねにのこりもものなかなる


さ年可多尓ミゝをと川多る者奈の

さねかたにみみをとったるはなの


波る御こさ満可゛多のおねむけ

はるおこさまが たのおねむけ


さましやんらめで多のいち可

ざましやんらめでたのいちが


さ可へ多

さかえた


「やれ\/大  奈もゝ可゛奈可゛

 やれやれおおきなももが なが


連てきもふし多

れてきもうした


もひと川奈可゛れ多ら

もひとつなが れたら


おちゞ尓

おじじに


おましよ

おましょ


春  朗 画

しゅんろうが


京  傳 作

きょうでんさく

(大意)

雀の鳴き声「チュウ」に残っている。桃の中の種(さね)方のとんでも噺、

そんな突拍子もない黄表紙が正月新春に、御子様方のお眠気ざましに

「桃太郎噺」でなんとなんと売れ行きめでたく、本屋はにぎわった。

「やれやれ、大きな桃が流れて来ましたよ。もう一つ流れてきたら

お爺にたべさせましょう」

(補足)

「もゝの奈可奈る」、「も」はかすれてしまっていて、はなしの内容を知っていないと読めません。「奈」二つ目が変なかたちですが、そのすぐ左に「奈」があって、似ているといえばにてます。

「ミゝをと川多る者奈の波る」、諺『耳をとって鼻をかむ』(耳をそぎとって鼻をかむことから突拍子もないことをするたとえ)のもじり。正月はいろいろな本の新版が発売されるので江戸庶民は楽しみにしていた。平仮名「は」でもよかったのですが、変体仮名「波」(は)としました。

「御こさ満可゛多のおねむけ」、変体仮名「於」(お)は平仮名「か」にしかみえません。

 お子様向けの「豆本」など、最後のむすびは必ず「めでたし\/\/\/\/」で、ここでもそのきまり文句で結びとしています。

「きもふし多」、「ふ」の次にもう一文字変体仮名「个」ような文字があるように見えるのですが、わかりません。

「京傳作」のほうが「春朗画」の何倍もでかい。春朗はまだ北斎かけだしの頃の号。力関係でこうだったとしても、作者の名がいかにもで、大きいような気がします。

おしまい。

 

2023年10月30日月曜日

桃太郎発端話説 その68

下P10 東京都立図書館蔵

(読み)

む可し\/ あつ多とさちゞいハやまへくさ

むかしむかしあったとさじじいはやまへくさ


可り尓者゛ゝアハ可王へせん多く尓可王より

かりにば ばあはかわへせんたくにかわより


奈可れてくるもゝ尓和可王くふう婦の中 尓

ながれてくるももにわかわぐふうふのなかに


まうけしもゝたろハこどもし由

もうけしももたろはこどもしゅ


御ぞんじの於尓可゛し満いぬさる

ごぞんじのおにが しまいぬさる


きじ可゛ち うしん者奈しち うハ

きじが ちゅうしんばなしちゅうは

(大意)

 昔むかしあったとさ。爺いは山へ草刈りに、

婆アは川へ洗濯に行きました。川より流れてくる桃を

とって食べた夫婦は若やぎ、二人のあいだに桃太郎が生まれました。

お子様方はご存知の鬼ヶ島、犬猿雉の忠臣話の「忠」は

(補足)

 最終頁になって、桃太郎発端話説の題のとおり、桃太郎昔噺の発端に戻りました。

残念ながら、字がどうも読みにくい。

「ちゞいハやまへ」、文字どうしがくっついていて判別しずらい。

「ふう婦の中尓」、漢字の「中」とわかるのにしばしかかりました。

「まうけしもゝたろハこどもし由」、この行全部、文字がボコボコしてわかりずらい。

 桃を食べる前から元気そうなジジババにみえます。もともと山に芝刈り川へ洗濯へと行けたのですから元気だったのかもしれません。

 

2023年10月29日日曜日

桃太郎発端話説 その67

下P8P9 東京都立図書館蔵

下P8

(読み)

い可んぞ奈んぢら可゛志やうじきを

いかんぞなんじらが しょうじきを


可んじ多満王さらんやゐんとく

かんじたまわざらんやいんとく


あ連バよう保うありしやく

あればようほうありしゃく


ぜんのいへ尓ハ可奈らすよけい

ぜんのいえにはかならずよけい


あり奈んぢら可゛春へ尓ハま多

ありなんじらが すえにはまた


大 ふう起の

だいふうきの


ミと奈るべし

みとなるべし


由め\/

ゆめゆめ


う多がふ

うたがう


こと


奈可れ

なかれ


とつげ

とつげ


給 ひすまん

たまいすまん


のすゞめとけし

のすずめとけし


とびさり給 ふ

とびさりたまう


「とひよ\/ \/

 とひょとひょとひょ


とひよしやうじき

とひよしょうじき


お起よ志やう

おきよしょう


し起

じき


「志やうじき

 しょうじき


フウ\/

ふうふう


ゴウ

ごう


\/

ごう


「志やうじきふう婦ハねごと

 しょうじきふうふはねごと


尓まで志やうじ起奈事 を

にまでしょうじきなことを


いふ

いう


「お者゛ゝやひと尓可り多もの

 おば ばやひとにかりたもの


ハ者やく可へして可し多

ははやくかえしてかした


ものハずいぶんおそく

ものはずいぶんおそく


とりやれや

とりやれや


志やうじ起

しょうじき


フウ

ふう


\/

ふう

(大意)

どうして汝らの正直を感じらっしゃらないということがあろうか。ひそかに徳を重ねればかならずよい報いをうけるものです。善行を積み重ねる家には必ずおもいかけぬ慶事があるのです。汝らの将来は、ふたたび大富豪の身の上となりましょう。ゆめゆめ疑うことなかれ」

と告げられて、数万羽の雀となって飛び去られました。

「とひよとひよとひよ、とひよ正直(爺)、お起よ正直(夫婦)」

正直ふうふうごうごう。

正直夫婦は寝言にまで正直なことを言う。

「お婆や、人に借りたものは早く返して、貸したものはできるだけ遅く返してもらうようにな。正直夫婦(ふうふ)う」

(補足)

「い可んぞ」、「如何(いか)にぞ」に同じ。『③ (反語に用いて)どうして…であろうか(…ない)』

 雀に化している実方朝臣雀のお告げの場面。

「給ふ」、くずし字がバネのようにクルクルっと2重になってすぐに覚えられます。

「う多可゛ふ事」、「事」のくずし字は平仮名「る」のようなかたち。

「とひよ\/\/」、歌舞伎の下座音楽の一つ。鳥の鳴き声のものまねで、「暫(しばらく)」などの舞台で、花道から本舞台へ進むときなどに用いる、とものの本にはありました。

 縁側にたてかけてある鋤(すき)。花咲爺のここほれワンワンでつかった鋤でしょうか。

噺がこんがらがってきてます、う〜ん。

 

2023年10月28日土曜日

桃太郎発端話説 その66

下P8P9 東京都立図書館蔵

下P8

(読み)

むくゆる多め明日そのもゝを

むくゆるためあすそのももを


可へすへしそのもゝをくらふ

かえすべしそのももをくらう


と起ハふう婦多ちまち和可

ときはふうふたちまちわか


や起可う\/尓して志可も里起

やぎこうこうにしてしかもりき


りやうひと尓春ぐれ多るいつし

りょうひとにすぐれたるいっし


をもつべしそのこ可奈らず

をもつべしそのこかならず


奈んぢら可゛多め尓於尓可゛し満

なんじらが ためにおにが しま


尓い多り多可らをとり可へし

にいたりたからをとりかえし


てあ多をむくふま多ふうふ可゛

てあだをむくうまたふうふが


あ王れミ多るさるきちいぬ

あわれみたるさるきじいぬ


とも尓ち可らをそへておんを

ともにちからをそえておんを


むくゆべしふ多ゝび可く

むくゆべしふたたびかく


まづしく奈るともてんとう

まずしくなるともてんとう

(大意)

(その恩に)報いるため、明日その桃を

与えます。その桃を食べると夫婦はたちまち若やぎ、

孝行にしてしかも力量ひとに優れる一子をもうけるでしょう。

その子はかならず汝らがために鬼ヶ島へ向かい、宝を取り返して

仇をとってくれます。また夫婦が大切に育てた猿・雉・犬、

ともに力をあわせて、今までの恩をかえしてくれるでしょう。

 再びこのように貧しくなっても、天道(てんとう)は

(補足)

「あ多をむくふ」、「あ」のかたちは現在の「お」から「ゝ」をとったもの。

囲炉裏の鉄瓶とそれをつるす自在鉤(じざいかぎ)を半分描くような構図にしています。わざと隠して見るものの想像にまかせるという基本的な技でしょうけど、うまいものです。

洗濯物のように干してあるのはタバコの葉。

婆さんが肘をかけているところと、爺さんの奥の絵を貼ってある屏風?あたりの位置関係がどうもよくわかりません。

 

2023年10月27日金曜日

桃太郎発端話説 その65

下P8P9 東京都立図書館蔵

下P8

(読み)

志やうじ起ふう

しょうじきふう


ふハお尓ゝ多可ら

ふはおににたから


をとられむ可しの

をとられむかしの


ふう起ひ起可へて

ふうきひきかえて


いまハもとの志

いまはもとのし


者゛のい本り尓引

ば のいおりにひき


こミふう婦ひん

こみふうふひん


くを志の起゛个る可

くをしのぎ けるが


あるひふう婦と

あるひふうふと


ろ\/とまどろミ

ろとろとまどろみ


个る尓ゆめとも

けるにゆめとも


奈くうつゝとも

なくうつつとも


なくさね可多

なくさねかた


あそんあらハ連

あそんあらわれ


給 ひ奈んじふ可う

たまいなんじふこう


尓して和さ王いを

にしてわざわいを


うく和連む可し

うくわれむかし


奈んぢ尓もゝをこひて

なんじにももをこいて


うゑを志の起゛多りそのおんを

うえをしのぎ たりそのおんを

(大意)

 正直夫婦は鬼に宝を取られ、昔の豊かな生活に引きかえ、

今はもとの柴の庵(いおり)に目立たぬよう住むようになり、

夫婦は貧しさ苦しさをなんとかしのいでいた。

 そんなある日夫婦がとろとろとまどろんでいると、

夢ともなく現(うつつ)ともなく、実方朝臣が現れていらっしゃった。

「なんじ不幸にして禍を受けました。わたしは昔なんじに桃を求めて飢えをしのぎました。その恩に(報いるため)

(補足)

「ひ起可へて」、「ひ」の最後が次に続いてしまっています。

「もとの」、「も」がずいぶんかすれてしまってます。

 正直夫婦うとうとしながら、その吹き出しのでかいこと。囲炉裏の鉄瓶のデカさよりもすごい。

 

2023年10月26日木曜日

桃太郎発端話説 その64

下P6P7 東京都立図書館蔵

下P7

(読み)

「あのいぬめハお本き奈

 あのいぬめはおおきな


さ満で本へるハ\/  可うしんさ満

さまでほえるはほえるはこうじんさま


の保へるハ\/  とき多ハ

のほえるはほえるはときたは


「犬 本゛年おつて

 いぬぼ ねおって


多可らとらるゝ

たからとらるる


とまうすハこの

ともうすはこの


と起よりぞ者し

ときよりぞはじ


まり个り

まりけり


下P6

「奈んでも六 多゛んめの

 なんでもろくだ んめの


きり尓ハ思 ひ志らせて

きりにはおもいしらせて


こ満そうとおもふ多尓てんと

こまそうとおもうたにてんと


よいきミ\/  おもひ志つ多可

よいきみよいきみおもいしったか


王ん\/\/

わんわんわん


\/\/

わんわん

(大意)

「あの犬の奴は、ずいぶんと大きな声で吠えるなぁ。

荒神様の御絵馬の売り子の声のようだわな」

「諺『犬骨折って宝とらるる』と申すは

このときより始まったのである」

「なんとしても六段目の切で思いしらせてやろうと

したが、(早い出番で)してやった。まったくいい気味だ。

おもいしったか。わんわんわん、わんわん」

(補足)

「保へるハ\/」、変体仮名「保」(ほ)と気づくには少々時間がかかりました。ものの本には『荒神様は竈の神様。毎月末に絵馬を売り歩き、その売り声が「荒神様の御絵馬御絵馬であった」』とありました。

「犬本゛年おつて・・・」、この部分、少しかすれていることもあって、読みづらい。「とらるゝ」「まうすハ」がわかりにくい。

「奈んでも六多゛んめのきり尓ハ」、この犬の台詞部分はものの本に頼らねば意味不明。『「仮名手本忠臣蔵」の六段目、勘平腹切の場のこと。ここは最後の仕納めの場面の意』

このように、当時の歌舞伎や文楽などの引用や、有名料理店や江戸の街のアチラコチラの噂話などを持ち出されるとお手上げになってしまいます。

 犬と婆をよく見ると、犬や婆の毛は線で描くのではなく輪郭を毛でなぞるように描いています。こうするとなるほどそれっぽくみえます。「惡」婆は犬に噛み殺されてしまいました。

 蔵の壁を破壊し穴を開けていますが、実際はほぼ不可能。こんなふうにしたら見つかるに決まってます。壊された壁にはちゃんと中にある竹で編んだものが描かれていてなかなか細かい。

 

2023年10月25日水曜日

桃太郎発端話説 その63

下P6P7 東京都立図書館蔵

下P7

(読み)

「あと奈る於尓ゝもの

 あとなるおににもの


とへバお尓らハ志ら奴

とえばおにらはしらぬ


とついとおる

とついとおる


「こうふろし起

 こうふろしき


づゞみを志よつ多

づつみをしょった


ところハ可ぜの

ところはかぜの


可ミのかミくす

かみのかみくず


ひろいとミへ

ひろいとみえ


やう可゛や

ようが や


「お尓のめ尓も

 おにのめにも


やミ多゛とハこの

やみだ とはこの


こつてあんへい

こってあんべい


くらひぞ\/

くらいぞくらいぞ


「や連尓げろ

 やれにげろ


\/

にげろ

(大意)

 あとから遅れて逃げてきた鬼にきいてみると、

そんなことは知らぬとそっけなく通っていった。

「こんなふうに風呂敷包みを背負ったところは、

風の神が紙屑拾いのようにみえてしまうだろうな」

「鬼の目にも闇だというのは、このこったろうよ、

暗いぞ暗いぞ」

「やれ、逃げろ逃げろ」

(補足)

「お尓らハ志ら奴」⇒「おいらは知らぬ」。「お尓のめ尓もやミ多゛」⇒「鬼の目にも涙」。と洒落続き。

「あと奈る於尓ゝ」、変体仮名「於」(お)は元字に近いかたち。「ゝ」があるようなないような感じ。

「ふろし起」、「ろ」は「つ」のような「ろ」のようで悩みます。この数行後の「ひろい」もおなじ。

「志よつ多」、「よつ」がよくわかりませんでしたが、前後の流れから判断できます。

「このこつてあんへい」、「つ」と「へ」がそっくり。

 打ち出の小槌を右手にして逃げる鬼、風呂敷柄はやはり唐草文様のようにも雲柄にも見えます。

 

2023年10月24日火曜日

桃太郎発端話説 その62

下P6P7 東京都立図書館蔵

下P7

(読み)

けんどん者゛ゝハ

けんどんば ばは


与くふ可起こと

よくふかきこと


ゆへま多゛奈んぞ

ゆへまだ なんぞ


多可らあらんと

たからあらんと


あと尓ひ起の

あとにひきの


こり个る可゛

こりけるが


志やうじ起可゛

しょうじきが


て可いのい奴尓

てかいのいぬに


くいころさるゝぞ

くいころさるるぞ


こゝちよ起

ここちよき


「けんとん者゛ゝつ年尓

 けんどんば ばつねに


あくをこのミし由へ

あくをこのみしゆえ


ぼんのうのいぬ尓くい

ぼんのうのいぬにくい


ころさるゝつゝしむべしおそるべし

ころさるるつつしむべしおそるべし

(大意)

 慳貪婆は欲深かったので、まだなにか宝があるのではないかと

あとに引き続き残ったのだが、正直夫婦が飼っていた犬に

食い殺されてしまったのだった。気分すっきりなことである。

 慳貪婆はつねに悪を好んでいたため、煩悩の犬のたとえ通り、

犬に食い殺されてしまった。

慎みが肝心である。恐ろしいことであった。

(補足)

「こと」は「こ」と「と」を合体させた合字。「より」が「ゟ」のように他にもいくつかあります。

「ぼんのうのいぬ」、『煩悩の犬は追えども去らず⇒煩悩が人につきまとって離れないのを,犬がまといつくのにたとえた言葉』のこと。

 隠れ蓑に隠れ笠を奪って逃げる鬼が丸見えです。何か呪文が必要なのかもしれませんが、見えなくなってはさすがの北斎でも描くことは難しかったのかもしれません。

 

2023年10月23日月曜日

桃太郎発端話説 その61

下P6P7 東京都立図書館蔵

下P6

(読み)

けんどん者゛ゝハ

けんどんば ばは


あるやミの与尓

あるやみのよに


於尓どもを

おにどもを


とも奈ひ

ともない


可つてお本゛へし

かっておぼ えし


和可゛さと奈連バ

わが さとなれば


あん奈い

あんない


して志の

してしの


びいり

びいり


可く連可゛さ

かくれが さ


かくれミの

かくれみの


うちでの

うちでの


こづち尓し

こづちにし


きのま起もの尓

きのまきものに


およびきん\゛/

およびきんぎ ん


へいせんを

べいせんを


う者゛ひ

うば い


お尓可゛し満へ

おにが しまへ


多ち可へる

たちかえる


ふて起

ふてき


奈り个る

なりける


お尓ども

おにども


奈り

なり

(大意)

 慳貪婆は、ある闇の夜に鬼どもをともない、

以前住んでいた我が里であったので、

案内導き、忍び入り、隠れ笠・隠れ蓑・打出の小槌・錦の巻物に、

さらに金銀・米銭を奪い、鬼ヶ島へ立ち帰った。

 大胆で恐れを知らぬ鬼どもであった。

(補足)

「あるやミの与尓」、「ミ」の形がおかしい。変体仮名「美」「見」でもないし・・・

「可く連可゛さかくれミの」、「く」が「ム」のような形のものもおおい。

「へいせんを」、「へ」が「つ」にみえますし、「へいせん」の意味が不明、しばし考え濁点を付けて「べいせん」米と銭と納得。

 蔵の窓の左脇に、蔵にはほとんど必ず付いている折釘(おれくぎ)が描かれています。丸く盛り上がっている部分は饅頭などと呼ぶそうです。釘は蔵の構造柱まで打ち込んであるので錆が侵入しにくいようにこの饅頭で防ぐ工夫をしているとありました。蔵の壁は分厚い土壁ですから釘や手荒なことをすると割れて崩れてしまいます。蔵の修理のときにこの折釘を支えに足場を組んだり支えとしたりするためのものです。

 以前、蔵を壊すところを見たことがあるのですが、相当な量の水をかけながら建前で使うような大きな木槌(かけや)で叩き壊すといった感じで、土壁にはもちろん竹で編んだ壁下地がありますのでとても大変です。木組みの構造が見えるまで徹底的に崩してました。

 

2023年10月22日日曜日

桃太郎発端話説 その60

下P4P5 東京都立図書館蔵

下P4

(読み)

あの志やうじ起めハいつ可どの

あのしょうじきめはいっかどの


多可らをせしめていまハまぶ奈

たからをせしめていまはまぶな


可年もち尓奈りおりまし多

かねもちになりおりました


和し尓ハおまへ可゛多を

わしにはおまえが たを


つめこん多゛つゞらを

つめこんだ つづらを


あて可゛ふててん志゛やうを

あてご うててんじ ょうを


ミせまし多

みせました


いや者や者らの

いやはやはらの


多つ多せんさくさ

たったせんさくさ


「お尓ひとくち尓のミ

 いにひとくちにのみ


こミのよいし由う

こみのよいしゅう


じや

じゃ

(大意)

「あの正直なやつめは、一財産になる宝物をせしめ、

いまでは本当の金持ちになりました。

わたしにはお前方を詰め込んだ葛籠をあてがわれて、

ひどい目にあわされました。いやはや腹のたつ次第さ」

「鬼たちはあっさり引き受けてくれてよい衆じゃ」

(補足)

「者らの多つ」、「ら」に点がひとつ多くあります。

「まぶ」、『まぶ(名•形動)文ナリ

③ 本物である・こと(さま)。「一廉の宝をせしめて今は―な金持になりました」〈黄表紙・桃太郎発端話説〉』と、この本が用例にのっていました。

慳貪婆、鬼たちにお願いしているからなのか、刺々しさがなくなってこびいる表情。

 

2023年10月21日土曜日

桃太郎発端話説 その59

下P4P5 東京都立図書館蔵

下P5

(読み)

奈ん尓もくろ鬼 する

なんいもくろおにする


ことハねへほう可しの

ことはねえほうかしの


こ可゛多奈ざいく

こが たなざいく


でハねへのこぎり

ではねえのこぎり


かん奈与起まさ可り

かんなよきまさかり


のミこみやまの

のみきみやまの


春ミつ本゛多゛

すみつぼ だ


「まづまへい王ひ尓四方の

 まずまえいわいによもの


多起すいを

たきすいを


もめやう

もめよう


「そいつハふ川ちめ

 そいつはぶっちめ


印  とせずハ奈るまい

しるしとせずばなるまい


「うまいハ

 うまいは


\/

うまいは

(大意)

「なんにも苦労(黒鬼)することはねえ。

大道芸人の小刀を細工してのみ込む芸ではねえ。

鋸・鉋・斧(よき)・鉞(まさかり)・鑿(のみ)こみ山の墨壺だ」

「まず前祝いに四方(よも)の瀧水(たきすい)で一杯やろう」

「そいつは(宝物は)、奪い手に入れなければなるまい」

「うまいはうまいは」

(補足)

「のミこみやまの春ミつ本゛多゛」、墨壺で大工道具尽くしのセリフをしめています。「のミこみやま」は呑み込んだ⇒承知した、と放下師の小刀を呑み込むををうけての洒落。

「四方の多起すい」、四方の瀧水という銘酒。ネットで調べると今でもありました。「四方」がすぐには読めません。

「もめよう」、「もめる」に『⑤( →4の意から転じて)費用を負担する。おごる。「それは私が―・めまする」〈歌舞伎・けいせい壬生大念仏〉』という意味があります。

「ふ川ちめ印」、『ぶっち・める 【打っ締める】② 手に入れる。奪う。ものにする。「今夜あの娘を―・めて見せやう」〈滑稽本・東海道中膝栗毛•2〉』。印のくずし字は前にも出てきました。偏と旁が上下になっています。「印」は単なる語呂合わせ。

 大王の後ろにひかえる鬼が若いのか顔がかわいらしい。大王をのぞいて、他の鬼たちはチャッチャッチャと描きあげた感じです。

 

2023年10月20日金曜日

桃太郎発端話説 その58

下P4P5 東京都立図書館蔵

下P5

(読み)

ふう婦可゛

ふうふが


多可らを

たからを


ゑ多る事 を

えたることを


心  尓くゝ思 ひ

こころにくくおもい


於尓の大 王うへ

おにのだいおうへ


春ゝめて志やうじき

すすめてしょうじき


ぢゝ可゛多可らものを

じじが たからものを


奴すませんと

ぬすませんと


多くむふて起

たくむふてき


奈り个るせんさく奈り

なりけるせんさくなり


「そん奈ら奈んでも

 そんならなんでも


い王と可ぐらの

いわとかぐらの


くろどんとで可け

くろどんとでかけ


ずハ奈らずの

ずはならずの


もり能大 てんぐ

もりのおおてんぐ


ときん尓とつての

ときんにとっての


きちずい多

きちずいだ

(大意)

(正直)夫婦が宝物を手に入れたことを心憎くおもい、

鬼の大王に正直夫婦の宝物を盗ませようと勧め、企んだのでした。

大胆で恐れを知らない謀(はかりごと)でありました。

「岩戸神楽の音楽に合わせて、そっと黒子で忍び寄れば

宝物を奪う絶好の機会だ」

(補足)

「奈らずのもり能大てんぐときん尓とつてのきちずい多」、「奈らずのもり能大てんぐ」は成るに引っ掛けた洒落。「ときん(頭巾)」は天狗などが頭にのせている小さな頭巾。「ときん尓とつてのきちずい多」は時にとっての吉瑞の洒落。とものの本にはありました。ここの鬼の大王のセリフは洒落だらけで、その洒落も深い予備知識がないとわかりません。

 鬼の大王の脇息、脚が猫脚ならぬ鬼脚で上部は鬼の顔が彫り込んであります。

 

2023年10月19日木曜日

桃太郎発端話説 その57

下P4P5 東京都立図書館蔵

下P4

(読み)

さてもけんどん者゛ゝハ

さてもけんどんば ばは


むりのよくをか王起

むりのよくをかわき


しよりおの可゛こゝろの

しよりおのが こころの


お尓ゝつ可まれてつい尓

おににつかまれてついに


お尓可゛しまの奈可ま

おにが しまのなかま


いりしお尓のるす尓ハ

いりしおにのるすには


せん多くしておのれ可゛

せんたくしておのれが


こゝろのあ可を

こころのあかを


おとすべ起きも

おとすべききも


つ可ずます\/よくしん

つかずますますよくしん


ぞうて う

ぞうちょう


してと可く

してとかく


志やうし起

しょうじき

(大意)

 さて慳貪婆は無理を通す気持ちを強くもち、

自分の心にすくう鬼につかまれてしまい、

ついに鬼ヶ島の仲間入りをした。

 鬼の留守には洗濯をして、自分の心の垢を

落とすべきところ、それにも気づかず、

ますます欲心増長し、ただただ正直(夫婦が)

(補足)

「むりのよくをか王起しより」、なんども目を上下させないとわかりにく。

かわ・く【渇く】[動カ五(四)]《「乾く」と同語源》

1 のどがからからになって、水分が欲しくなる。「のどが―・く」

2 満たされぬ気持ちがいらだたしいほど高まる。心から強く欲しがる。「愛に―・く」

 言っていることは「婆さんが道理の通らぬ気持ちに気づかずまたそれを抑えることもできず、その心を強く持ってしまっていて」となるのですけど、それを簡単に表現するのが難しい。

「おの可゛こゝろのお尓ゝつ可まれて」、「こゝろ」はなんとか、しかしつぎの「つ可ま」の「ま」が読めない。すぐ左隣りにある「ま」とくらべると彫りが悪かったかも。

 下P4P5全体を眺めると、広角レンズで撮ったような感じになっっています。

 

2023年10月18日水曜日

桃太郎発端話説 その56

P4P5 東京都立図書館蔵

P4

(読み)

つちもきも和可゛お本きミの

つちもきもわが おおきみの


く尓奈れバいづく可

くになればいづくか


お尓のやどゝさ多゛

おにのやどとさだ


めんときのとも

めんときのとも


お可゛ゑいぜしも

おが えいぜしも


こと王りぞ可し

ことわりぞかし


かしら尓つのをい多ゞ

かしらにつのをいただ


きとらの可王のふどし

きとらのかわのふどし


ハ志めねどもミち尓

はしめねどもみちに


そむけるものハあく

そむけるものはあく


まともお尓とも奈る

まともおにともなる


べしき可い可゛し満尓

べしきかいが しまに


お尓ハ奈くお尓ハ

おにはなくおには


ミやこ尓あるぞ

みやこにあるぞ


可しと尓ようご能

かしとにょうごの


志満のもんくもむべ奈り

しまのもんくもむべなり

(大意)

「土も木も我が大君の国なればいづくか鬼の宿と定めん」と、

紀朝雄が詠ったのも理にかなったことである。

頭に角をはやし、虎の皮の褌をしめていないが、

人の道に背けるものは、悪魔とも鬼ともなるであろう。

「鬼界ヶ島に鬼はなく、鬼は都にこそいるのだ」と、

女護の島の言い分ももっともなことである。

(補足)

 出だしからつまづいて、どこできるのかもよくわからない。何度か音読してようやくなるほどと。「さ多゛めんと」で区切るので、その印「句点(。)」がついています。

 区切りがわからないときは、不明なところは保留しておいてまずは流して全文を読むのが一番です。

紀朝雄の詠んだ「土も木も・・・」は、日本の国土も森も我が大君の国のものである。どこに鬼の居場所があるのか(あるわけがなかろう)、といった意味合い。

「ぞ可し」、(連語)〔文末に用いられた係助詞「ぞ」に終助詞「かし」が付いたもの〕

強く念を押して断定する意を表す。「我はこのごろ悪(わろ)き―」〈更級日記〉「かげろふのゆふべを待ち,夏の蟬の春秋をしらぬも有る―」〈徒然草•7〉

「尓ようご能志満」、【女護の島】

① 女性だけが住んでいるという想像上の島。中国の「三才図会」に記述があり,近世には八丈島をそれにあてる風説もあったという。

② 女性ばかりがいる所。「朱雀の御所は―」〈浄瑠璃・平家女護島〉

 

2023年10月17日火曜日

桃太郎発端話説 その55

下P2P3 東京都立図書館蔵

下P2

(読み)

「さるハ又 さる里可うを多゛しやる奈

 さるはまたさるりこうをだ しやるな


可うしんさ満を多゛いし尓して

こうじんさまをだ いじにして


ミざるき可ざるい王さるを

みざるきかざるいわざるを


和すれず志ん尓よのつ起尓

わすれずしんにょのつきに


てをちゞめこゝろの多ず奈

てをちじめこころのたずな


をくゝりざる尓し多可゛よい

をくくりざるにしたが よい


「きじハ三 十  六 可せんの

 きじはさんじゅうろっかせんの


や可もちのう多を

やかもちのうたを


思 ひきじも

おもいきじも


奈可ずバう多れ

なかずばうたれ


ましといふ

まじという


こと王ざ

ことわざ


を和すれ

をわすれ


まいぞや

まいぞや


「いぬハこつち尓いるもの奈れバ

 いぬはこっちにいるものなれば


ゆる\/とおしへ

ゆるゆるとおしえ


ませ う

ましょう

(大意)

「猿は、よいか、小賢しさを出すでないぞ。庚申様を大事にして

見猿聞か猿言わ猿を忘れず、余計なことには手を出さず、

心の手綱をしっかりと括(くく)っておくことが大切じゃ」

「雉は、三十六歌仙の家持の歌のように故郷を大切にし、

雉も鳴かずばうたれまじの諺を忘れず、無用なことは慎むのじゃ」

「犬はわしと一緒に住むのであるから、

ゆっくりと教えよう」

(補足)

「猿利口」、辞書にないだろうとおもったら「こざかしいこと」とありました。なんでも調べて見るものです。

「庚申様」、三猿(さんえん)の形を刻んだ青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)で祀られた神様。悪霊災厄退散の神様。

「真如の月」、『〘仏〙 真如が一切の迷いを破ることを月が闇を照らすのにたとえた言葉』とありました。

 正直爺さんがこれからの人生訓を教えているところ。

什器があっさりと描かれています。右端の燗銅壺ににた燗徳利を入れておくようなものがあります。角が丸くなっていてなかなかの高級品。

 

2023年10月16日月曜日

桃太郎発端話説 その54

下P2P3 東京都立図書館蔵

下P3

(読み)

「おひとまこいの御志 う

 おいとまごいのごしゅう


ぎ尓せ起そろでちと

ぎにせきぞろでちと


せりふをこじつけませ う 

せりふをこじつけましょう


「きじれい可王らず王ん王の

 こじれいかわらずわんわの


お尓ハへまひこめとびこめ

おにわへまいこめとびこめ


きや川\/ と小ざるや

きゃっきゃっとこざるや


いぬころ

いぬころ


きし可いふ

きじがいう


「志゛しんの

 じ しんの


と起ハ

ときは


さつそく

さっそく


御志らせ

おしらせ


申  ませ う

もうしましょう


「多ん\/の

 だんだんの


御きやうくん

ごきょうくん


あり可゛多ふ

ありが とう


ぞんじ

ぞんじ


ます

ます


御ふう婦

ごふうふ


の御おんハ

のごおんは


和すれま

わすれま


せ奴

せぬ

(大意)

「お暇乞いの御祝儀に、節季候(せきぞろ)で

ちょっとセリフをこじつけて踊りましょう。

〽雉はいつもとかわらず、

わんわのお庭へ

舞い込め飛び込め、

きゃっきゃっと、

小猿や犬ころ」

雉が言う

「地震のときは早速お知らせ申しましょう」

「かさねがさねのご教訓、

ありがとう存じます。御夫婦の御恩は

忘れませぬ」

(補足)

 会話のセリフは、きし可いふ、とあるように誰のものかを示すことはほとんどなく、セリフの内容で判断するしかなさそうです。「」で記されている順番や場所とはあまり関係ないようです。

「きや川\/ と小ざるや」、猿の鳴き声「きゃっきゃっ」なのですが、字面からはちっともそんな雰囲気がありません。「小」猿は「子」でしょうし、かたちは変体仮名「尓」です。

「きし可いふ」、一見するとよくわからないのですが、「」の前なので「言う」と予想。

「多ん\/の御きやうくん」、「うくん」が読みづらくなんとか御教訓とわかると、多ん\/がなんだろうと。ちと考えてこれは「多゛ん多゛ん」ではないかな、辞書で調べるとありました。それに島根の方言にだんだんがあったこともヒントになりました。

 

2023年10月15日日曜日

桃太郎発端話説 その53

下P2P3 東京都立図書館蔵

下P3

(読み)

べ起いへも奈个れバ

べきいえもなければ


や者りつ可へ多起

はやりつかえたき


与し袮可゛うちく

よしねが うちく


るい奈可゛ら志由

るいなが らしゅ


せ う奈ること

しょうなること


ども奈り

どもなり


さ連バけんどん者゛ゝ可

さればけんどんば ばが


ことくあくをこの

ごとくあくをこの


めハ多ちまち

めばたちまち


和ざ王いをま袮起

わざわいをまねき


志やうし起ぢゝ可゛

しょうじきじじが


ごとくぜんを

ごとくぜんを


志由すれバさい

しゅすればさい


王いを可ふむる

わいをこうむる


てんとうさ満ハ

てんとうさまは


ミとうし

みとうし


ぞや奈んと

ぞやなんと


こどもし由

こどもしゅ


可゛てん可\/

が てんかがてんか

(大意)

 (帰る)べき家もないので、このまま仕えたいとの

願いであった。畜類ながら殊勝なることであった。

 しかし一方慳貪婆のように悪を好めば

たちまち禍を招き、正直爺のように、

善を修め身につければ、幸いを与えられる。

お天道様はお見通しなのである。

どうだろう、子どもたちよ

わかってくれたか、わかったか。

(補足)

「和ざ王いをま袮起」、「わ」の変体仮名「和」「王」ですが微妙に発音がことなったのかもしれません。ここの変体仮名「袮」は7行手前の「袮」よりもう少しくずしたもののようにみえます。

 三者三様、背中の線が猿はゆるくへこみ、犬はなだらか、雉がややまるくと場面に変化をつけています。犬の着物柄は犬のぶち柄そのままみたい、帯を後ろで締めているのは尻尾?

 

2023年10月14日土曜日

桃太郎発端話説 その52

下P2P3 東京都立図書館蔵

下P2

(読み)

いつ多い里ち起゛

いったいりちぎ


いつへん奈るもの

いっぺんなるもの


ゆへむ可しのまづ

ゆえむかしのまず


志起を和すれず

しきをわすれず


い与\/志゛ひ

いよいよじ ひ


ぜんごんを

ぜんごんを


こゝろ可゛けて

こころが けて


くらし个る

くらしける


さてこ連まで

さてこれまで


可いお起多るせ う

かいおきたるしょう


るいのこらす

るいのこらず


者奈ち个る可゛奈可

はなちけるが なか


尓もさると

にもさると


きしとハこ連

きじとはこれ


までのおんを

までのおんを


可んじ和可れを

かんじわかれを


於しむ犬 ハ可へる

おしむいぬはかえる

(大意)

とても律儀一辺倒である者たちでしたから、

昔の貧しさを忘れず、今まで以上に

慈悲と善行を心がけを暮らしました。

 さて、これまで飼っていた動物たちは

残らず放してあげましたが、

特に猿と雉はこれまでの恩を感じ、

別れを惜しみました。犬は帰る

(補足)

 全体に読みやすい。

「志゛ひぜんごん」、慈悲善根。

 右端のおっとり顔をした娘さんは正座ですが、善人の婆様は立膝をしているようにみえます。当時御婦人がくつろいでいるとき立て膝で座るのは普通だったとものの本で読んだことがあります。

 

2023年10月13日金曜日

桃太郎発端話説 その51

下P2P3 東京都立図書館蔵

下P2

(読み)

とくこ奈らず

とくこならず


か奈らずと奈りの

かならずとなりの


者゛ゝ尓ひ起可へ

ば ばにひきかえ


志やうし起ふう

しょうじきふう


ふハ可づの多可らを

ふはかずのたからを


さづ可りまこと尓

さずかりまことに


志やうぜんの能そミ

しょうぜんののぞみ


多りて鳥 屋志やう

たりてとりやしょう


者゛いをやめいろは

ば いをやめいろは


づけのくらを

づけのくらを


多てゝ奈尓

たててなに


くら可らず

くらからず


くらし个る可゛

くらしけるが

(大意)

(論語に)「徳は孤ならず必ず隣あり」とあるように、隣の婆にひきかえ、

正直夫婦はたくさんの宝物をさずかり、この世の望みをすべてかなえることができ、

鳥屋商売をやめ、いろは付けの蔵を建てて、

何不自由なく暮らしました。しかし

(補足)

論語里仁第四之二五「子曰德不孤必有鄰」、仁徳のある人は孤立することなく必ず隣に理解者が有る。

相変わらず「と」と「こ」がまぎらわしいのですが、読めても意味がよくわからないとなおさらです。

「鳥」のくずし字が変体仮名「多」(た)にもみえてしまいます。

 大金持ちになったので居間は広々してとても豪華ですが質素です。爺さんは火鉢に暖かそうな座布団を敷いていますが、善人の婆さんは何もなし。正直爺さんそんなことでいいのですか!

 

2023年10月12日木曜日

桃太郎発端話説 その50

下P1 東京都立図書館蔵

(読み)

「もゝんぐ王ア奈んどいふやう奈

 ももん があなんどいうような


奈まけ多事 でハ奈ひアゝ徒のもねへ

なまけたことではないああつのものへ


「奈んとすさまじ

 なんとすさまじ


可ろふ可や

かろうかや


「こうつるし

 こうつるし


あげられ

あげられ


てハそつ

てはそっ


ちのお尓ミゟ

ちのおにみより


こつちのこめ

こっちのこめ


可ミ可い多印

かみがいたしるし


い多いのねと

いたいのねと


き多

きた



「アゝ

 ああ


多すけ

たすけ


給 へ\/

たまえたまえ

(大意)

「ももんがぁなどというふざけた我らではないぞ。

(この慳貪婆は)角もねぇ」

「(こめかみをつかまれている慳貪婆の痛がりようは)なんとも

凄まじいものだ」

「こんなに吊るし上げられては、そっちの鬼の身より

こっちのこめかみがいた印の痛いときたぞ」

「あぁ助け給え給え」

(補足)

「事」のくずし字は、平仮名「る」のようなかたち。

「印」のくずし字は、偏と旁が上下になるくずし字はたくさんあって、印もその一つ。

「給」のくずし字は、バネの螺旋のように2重にクルクルまわします。

 北斎の特徴はこのような絵をみるとよくわかります。あらっぽく勢いよく描いてはいますが、鬼たちの一瞬の動きをとらえていて、まさに連続撮影した分解写真のひとつであるようにもみえますが、北斎のほうが何倍も生き生きしています。

 

2023年10月11日水曜日

桃太郎発端話説 その49

下P1 東京都立図書館蔵

(読み)

宇治拾遺ニ曰(うぢし うゐい王く)

       うじしゅういいわく


今 ハむ可し女  あり春ゝめのけ可゛志多るを

いまはむかしおんなありすずめのけが したるを


やし奈いて者奈ちけれバおんをむ

やしないてはなちければおんをむ


くふ多めひさごの多年をく王へ

くうためひさごのたねをくわえ


き多るその多年をうへ多る尓ひさご

きたるそのたねをうえたるにひさご


おゝくいで起てミ奈うち尓者く

おおくいできてみなうちにはく


まいありと奈りの女  こ連を

まいありとなりのおんなこれを


うらやミむり尓すゞめ尓け可゛

うらやみむりにすずめにけが


させてやし奈ひ者奈ち个る

させてやしないはなちける


尓ぞこのすゝめもひさごの

にぞこのすずめもひさごの


多年をく王へき多るうへ个れ

たねをくわえきたるうえけれ


バ者多していで起尓个りさてひさ

ばはたしていできにけりさてひさ


ごのうちよりどくむしおゝく

ごのうちよりどくむしおおく


いでゝ可の女  をい多くさし个る

いでてかのおんなをいたくさしける


このつゞらも可のふくべよりいで

このつづらもかのふくべよりいで


多る者奈し奈りものうらやミハせまじ起もの奈り

たるはなしなりものうらやみはせまじきものなり

(大意)

 宇治拾遺物語に曰く、

今ではもう昔のことだが、ある女がいた。

怪我をした雀を養って放したところ、

その恩に報いるためひさごの種をくわえてやって来た。

その種を植えてたところ、ひさごがたくさんなって

その実の中に白米が入っていた。

 隣の女がこれを見て羨み、無理に雀に怪我をさせ

養い放したのだ。

この雀もひさごの種をくえてやって来た。植えてみると

おもったとおり育った。ところがひさごの中から出てきたのは

たくさんの毒虫で、この女をひどく刺したのだった。

 この葛籠のはなしはも、もとはこのふくべ(ひさご)からの噺

である。物事、羨むことはするものではない。

(補足)

「おんをむくふ多め」、「こ連をうらやミ」、「く」と「う」がほとんど同じかたちです。前後の流れで読むしかなさそうです。

 慳貪婆の顔が般若のお面のようにもみえます。

 

2023年10月10日火曜日

桃太郎発端話説 その48

下P1 東京都立図書館蔵

(読み)

けんどん者゛ゝハおも起つゞらを

けんどんば ばはおもきつづらを


もち可へりし可゛いつ多いこの

もちかえりしが いったいこの


つゞらハちくら可゛お起尓てひろひ

つづらはちくらが おきにてひろい


多るあくまけどうをこめ

たるあくまげどうをこめ


おきしつゞら奈連バふ多をあける

おきしつづらなればふたをあける


までも奈く多ちまち奈可より

までもなくたちまちなかより


めり\/とつゞらをこ王しゐぎやう

めりめりとつづらをこわしいぎょう


のきじんあら和れけんどん者゛ゝを

のきじんあらわれけんどんば ばを


ち う尓つ可んでお尓可゛し満へとび

ちゅうにつかんでおにが しまへとび


由起しハてんこちも奈起志多゛い奈り

ゆきしはてんこちもなきしだ いなり

(大意)

 慳貪婆は重い葛籠を持ち帰りましたが、

そもそもこの葛籠は、築羅の沖で拾った悪魔・外道を

押し込めた葛籠でありましたので、蓋を開けるまでもなく、

たちまち中よりメリメリと葛籠をこわし、

異形の鬼神あらわれ、慳貪婆を宙につかんで、

鬼ヶ島へ飛んで行ってしまうとは、

とんでもない次第なのでした。

(補足)

 スラスラと読めるところです。

「おも起つゞら」とその2行となりの「ちくら可゛お起」の変体仮名「於」を比較するとだいぶ形がことなります。

 鬼の髭や後れ毛、婆の逆立つ髪の毛がやけに丁寧に一本一本はっきり描かれてます。

 

2023年10月9日月曜日

桃太郎発端話説 その47

下表紙 東京都立図書館蔵

(読み)

附  り

つけた


作 者  山 東 京  傳

さくしゃ さんとうきょうでん


爺〃(ぢゝ)山(やま)へ艸双帋(くささうし)に

じじ じじ   やま へ    くさそうし に


むかし\/ 有(あ多)多土佐節(とさぶし)

むかしむかし  あた た    とさぶし


昔(む可し)〃(\/ )

  むかし   むかし


桃太郎發端話説(もゝ多らう本川多ん者゛奈し)

        ももたろうほったんば なし


并  ニ

ならびに


扨(さて)も其後(そのゝち)實方卿(さ年可多きやう)

  さて も   そののち     さねかたきょう


婆〃(者゛ゝ)ハ川(可ハ)へ千載集(せんざいし う)の

   ば ば は  かわ へ    せんざいしゅう の


(下)板 元 通  油  町  (蔦屋印)徒多や

 げ はんもととおりあぶらちょう     つたや

(大意)

(補足)

 挿絵は昔噺桃太郎の登場人物動物。

「有」の振り仮名「あ多」は「あ川」の間違いか。

「艸双帋」「土佐節」は言葉遊びとすぐにわかりますが、「千載集」はすぐにはピンときません。實方の歌がのっているだけの洒落ではないとおもうのですけど。

 

2023年10月8日日曜日

桃太郎発端話説 その46

中P10 東京都立図書館蔵

(読み)

志多きり春ゞめハおと

したきりすずめはおと


といきやれとお者゛ゝを

といきやれとおば ばを


げち\/のとり阿川

げじげじのとりあつ


可い尓てあとへ志保を

かいにてあとへしおを


まく

まく


「てんとおもいつゞら多゛奈んでも

 てんとおもいつづらだ なんでも


このうち能多可らをせしめ

このうちのたからをせしめ


うるしとでゝとらや起

うるしとでてとらやき


さつまいものくいあ起を志ませ う

さつまいものくいあきをしましょう


「奈んとおれ可゛志うちハそで

 なんとおれが しうちはそで


可ゞミのあんじつの多゛んくん助

かがみのあんじつのだ んぐんすけ


もと起とミへやう可゛や

もどきとみえようが や

(大意)

 舌切雀はおととい来やがれと

お婆をげじげじ(憎まれ者)のように取り扱い、

あとから塩をまきました。

「ずいぶん重い葛籠だ。

この葛籠の中の宝をせしめ漆(せしめ(う)る(し)の言葉遊び)として、

どらやき・さつまいもを食い飽きるまで楽しもう。

「なんとわしの格好は、芝居の「姻袖鏡(こんれいそでかがみ)」の庵室(あんじつ)の段の軍助のようにみえるであろうな

(補足)

「志保」、しお(塩)ですが、字面からはどうも塩がおもいうかびません。

「姻袖鏡(こんれいそでかがみ)」は調べてみると「菊池大友姻袖鏡』(きくちおおとも こんれいそでかがみ」のことので、芝居では葛籠の中に姫が入っていたですが、お婆の葛籠の中は、お子様方はすでにご存知・・・

 

2023年10月7日土曜日

桃太郎発端話説 その45

中P10 東京都立図書館蔵

(読み)

けんどん者゛ゝ

けんどんば ば


可゛よくの者り

が よくのはり


つゞらハつミの

つづらはつみの


於も起ことつ徒゛

おもきことつづ


ら与り波奈

らよりはな


者多゛し心  能よくの

はだ しこころのよくの


れん志゛やく尓つ奈可゛れて

れんじ ゃくにつなが れて


つミをつゞらととも尓

つみをつづらとともに


於い奴こどもし由

おいぬこどもしゅ


古ゝら可゛よいめのつけ

ここらが よいめのつけ


どころじや可゛てん可\/

どころじゃが てんかがてんか

(大意)

 慳貪婆が葛籠を欲張ってもらった

罪はその葛籠より甚だしく重い。

 心のままの欲深き心は背負紐につながれ、

罪を葛籠とともに背負っている。

 子どもたちよ、このようなところに目をつけて、

人としての生き方を考えるのだよ、わかってくれたか、

どうだ、わかってくれたか。

(補足)

「於も起ことつ徒゛ら与り波奈者多゛し心能」、平仮名「た」のようにみえるのは変体仮名「於」(お)。「こと」は「こ」と「と」が一文字になった合字。次に「与り」がありますが、これは合字のフォントがあり「ゟ」です。平仮名「は」のようにみえるのは変体仮名「波」(は)。他にも変体仮名がいくつも使われています。

 「つミをつゞらととも尓於い奴」、うまいいいまわしです。子どもたちに諭しているようで実は自分に、そしてまわり人々への呼びかけであります。

「れん志゛やく」、「連尺」は婆が仁王立ちになって葛籠を背負っているのに使っている紐。

 

2023年10月6日金曜日

桃太郎発端話説 その44

中P10 東京都立図書館蔵

(読み)

くんしハ人 の

くんしはひとの


ふくをよろ

ふくをよろ


こんでうら

こんでうら


やむの心

やむのこころ


奈し

なし


可るがゆへ

かるがゆえ


尓おのれ

におのれ


多つせんと

たっせんと


本つしてまづ人 を

ほっしてまずひとを


多つす志やうじん

たっすしょうじん


ハ人 のふくを尓くん

はひとのふくをにくん


でむさ本゛らんとす

でむさぼ らんとす


このゆへ尓ぜんを

このゆえにぜんを


とふざけて

とうざけて


けんを尓くむ

けんをにくむ

(大意)

 君子は人の幸福を喜んで羨む心はない。

それゆえ、自分が物事を達成させたいというおもいは

まず他人の成就を願う。

 小人は他人の幸福を羨んで欲しがろうとする。それゆえに

善を遠ざけ賢い人を憎む。

(補足)

「かるがゆえに」、「かあるがゆえに」の転。それゆえに。そういうわけで。

この部分、ものの本には『論語』「雍也(ようや)」からのもじりとあり、調べてみましたが不明でした。

 「中」の締めなので、お子様方にちょっとは教訓的なことをとかたぐるしいはじまりです。

 

2023年10月5日木曜日

桃太郎発端話説 その43

中P9 東京都立図書館蔵

(読み)

者゛ゝ

ば ば


「保う可しのこ可゛多奈でハ

 ほうかしのこが たなでは


奈い可゛のミこミやま奈ら

ないが のみこみやまなら


ハやうつゞら

はようつづら


をもらうて

をもろうて


可へりま志与

かへりましょ


「てんとふさ\/しい

 てんとふさふさしい


お者゛ゝじや

おば ばじゃ


「王しハ多つしや多゛

 わしはたっしゃだ


可ら春゛いぶんおもい

からず いぶんおもい


つゞら可゛よいてや

つづらが よいてや


「おちや

 おちゃ


阿可゛り

あが り


ませ

ませ

(大意)

婆「放下師が芸で小刀を呑み込んでみせるように、

わしの気持ちを呑み込んでくれるなら、

早く葛籠をもらって帰りたい」

「なんと厚かましいふてぶてしい婆じゃ」

「わしは達者だから、できるだけ重い葛籠がよいのじゃ」

「お茶をあがりませ」

(補足)

「保う可し」、放下師。大道芸の一種。中世から近世初期にかけて,放下師・放下僧と呼ばれる芸人の演じたもの。とありました。「保」は平仮名「ほ」の元字。

 四者の着物姿を描く線が流れるように柔らかいのが印象的です。雀たちはみな髷を結っているのがかわいらしい。

 

2023年10月4日水曜日

桃太郎発端話説 その42

中P9 東京都立図書館蔵

(読み)

と奈りのけんどん者゛ゝよくふ可起

となりのけんどんば ばよくふかき


こゝろよりうらやましく思 ひ

こころよりうらやましくおもい


お奈じやう尓春ゞめ能可くれ

おなじようにすずめのかくれ


さとへ多ず年き多り徒ゞらを

さとへたずねきたりつづらを


もらハんといふ

もらわんという


「こんどハすゞめもあまり

 こんどはすずめもあまり


ちそうをせず奈可ま能

ちそうをせずなかまの


うぐひすもちでま尓

うぐいすもちでまに


あ王せる

あわせる


「志多きり

 したきり


すゞめ

すずめ


「うづらのちゝつく王いでハ

 うずらのちちつくわいでは


奈ふてつゞら能ご志由川

のうてつづらのごしゅつ


く王い尓ミへ多のじや奈

くわいにみえたのじゃな

(大意)

 隣の慳貪婆は欲深く、ほんとうに羨ましくおもい。

同じようにして雀の隠れ里へ尋ねやって来ました。

 葛籠をもらおうと頼みました。

今度は雀もあまり馳走せず、仲間のうぐいす餅で

間に合わせました。

舌切雀「うずらの鳴き声ではなくて、

あれこれ不平を言って葛籠を欲しがったのじゃな

(補足)

「志由川く王い」、じゅっかい ―くわい【述懐】② 〔「しゅっかい」とも〕不平・うらみ・愚痴(ぐち)などをいうこと。「かの者―もことわりとぞ憐みける」〈咄本・醒睡笑〉。とありました。

「ちゝつく王い」は辞書にもなく、ものの本の解説に頼りました。洒落ているようではあります。

「春ゞめ能可くれ」、「可くれ」が読みづらい。

 

2023年10月3日火曜日

桃太郎発端話説 その41

中P8 東京都立図書館蔵

(読み)

「こづち尓志゛与さいハ奈い

 こづちにじ ょさいはない


ものをこのようない多

ものをこのようないた


ごとをしてく連てハ

ごとをしてくれては


てんとめい王くじや

てんとめいわくじゃ


「このやう尓多からをもつ

 このようにたからをもつ


とハてんとふくらすゞ

とはてんとふくらすず


めでハ奈ふてきつい

めではのうてきつい


ふくしやすゞめときた

ふくしゃすずめときた


「けんどん者゛ゝこのてい

 けんどんば ばこのてい


をミてうらやま

をみてうらやま


志可゛る

しが る


「あいつらハうまい

 あいつらはうまい


事 をしおつ多

ことをしおった


奈んでも

なんでも


こつちへして

こっちへして


こませ

こませ


多いもの多゛

たいものだ


「こと王りいふて

 ことわりいうて


可へさしやれ

かえさしやれ


ぬ可

ぬか

(大意)

「打出の小槌はなかなかよいものだが、

このような散財をしてくれては、

ほんとうに困ったものじゃ」

「このような宝物をもらうとは、

まったく、ふくら雀ではなくて、

とんでもない大金持ちの雀ではないか」

「けちんぼ婆は、この様子を見て

羨ましがった

「あいつらはうまいことをしおった。

なんでもよいから、こっちへ

してもらいたいものじゃ」

「(こんなにたくさんの宝物を)断って

返すことはできぬものか」

(補足)

「正」「善」「惡」が袂や背中に記されています。

「うらやま志可゛る」、「こ」「と」は区別がやっかいであることは何度も記しましたが、ここの「う」も一画目から二画目へのつながりが「こ」にも「と」にもみえます。

「こつちへしてこませ」、ひとつひとつ丁寧に分解するように読まないとよくわかりません。

 正直夫婦はたくさんの金銀宝物を目の前にしても、派手に喜んではいないような困った様子、に描いたのかもしれません。

 それに比べて慳貪婆は心底、うらやましい〜といった様子。

 

2023年10月2日月曜日

桃太郎発端話説 その40

中P8 東京都立図書館蔵

(読み)

志やうじ起ふう婦

しょうじきふうふ


かの可ろ起つゝら

かのかろきつづら


をもらひ可へり

をもらいかえり


うちをひら起

うちをひらき


てミれバおゝく

てみればおおく


の多可らものを

のたからものを


つめお起多り

つめおきたり


春ゞめの多可ら

すずめのたから


とて竹 のこ能

とてたけのこの


可く連可ささゝ

かくれがさささ


の者能可くれミの多けやまちの

のはのかくれみのたけやまちの


き連で者り多るうちでの小つち

きれではりたるうちでのこづち


その本可さゝづるきれのま起もの

そのほかささづるきれのまきもの


よ尓まれ奈る志奈\/をい連お起

よにまれなるしなじなをいれおき


多りこ連こどもし由のおめさ

たりこれこどもしゅのおめざ


まし尓む可し者゛奈しの多者れ

ましにむかしば なしのたわれ


ごと奈可゛らゐんとくあれバ

ごとなが らいんとくあれば


やう本うあるの多とへとハ

ようほうあるのたとえとは


志られ多り

しられたり

(大意)

 正直夫婦はあの軽い葛籠をもらい帰りました。

中を開けてみると、たくさんの宝物がつめこまれていました。

 雀の宝物でしたので、竹のこの隠れ笠・笹の葉の隠れ蓑・

竹屋町の布切れで張った打出の小槌、その他、笹鶴切れの巻物、

世にもまれな品々が入っていたのでした。

 これらのことはお子様方の目覚ましに、昔噺のたわごとでありますが

「陰徳あれば陽報あり」のたとえとして知られていることであります。

(補足)

 宝の品々の名前の区切りが悩みます。

「多けやまちのき連」、京都竹屋町で作り始めた軽く薄い生織物。

「さゝづるきれ」、中国明代の名物切れ。黄緑地に笹の葉に似た蔓草に織りだした緞子。

「陰徳あれば陽報あり」〔淮南子人間訓〕人知れず善行を積んだ者には必ずよい報いがはっきりと現れる。とありました。

「志奈\/をい連お起多りこ連こどもし由の」、変体仮名「連」(れ)がふたつあります。ふたつめは「れ」と読めますが、もう一つはちょっと難。

 

2023年10月1日日曜日

桃太郎発端話説 その39

中P6P7 東京都立図書館蔵

中P6

(読み)

「志多きりすゞめ

 したきりすずめ


「おふ多りさ満の

 おふたりさまの


御おんハ和すれ

ごおんはわすれ


ませ奴

ませぬ


「ちとお可へ奈され

 ちとおかえなされ


ましお志るハすゞめ

ましおしるはすずめ


うりおや起ものハ

うりおやきものは


すゞめや起でござり

すずめやきでござり


ま須

ます


「すゞめども御ちそう

 すずめどもごちそう


尓おいゑのおどりを

においえのおどりを


者しめる

はじめる


「おいらでせ

 おいらでせ


「可つてんじや

 がってんじゃ

(大意)

舌切雀

「お二人様の御恩は忘れませぬ

「どうぞお代わりもしてください。

お汁は雀瓜、お焼き物は雀焼きでございます

「雀たちは御馳走にお家の踊りをはじめる

「さぁ踊ろうぞ

「合点じゃ

(補足)

「おいらでせ」、が不明ですが前後の流れからの当て推量。

「志多きりすゞめ」「おやすゞめ」はそれぞれの雀の袂に「舌」「親」などと記せばよさそうですが、挿絵の脇に誰かを示したもの。

 雀踊りは歌舞伎などでも踊られていて、錦絵などにもたくさん描かれています。