P9 国文学研究資料館蔵
(読み)
[金 は命 とつり可゛へ]
かねはいのちとつりが え
よの中 尓命 本ど多゛い
よのなかにいのちほどだ い
じ奈ものハ奈けれども
じなものはなけれども
そのいのちとつり可゛へ
そのいのちとつりが え
奈ものハ可年なり
なものはかねなり
か年といふやつ可゛ゑて
かねというやつが えて
ハ命 尓もおよふもの尓て
はいのちにもおよぶものにて
か年尓いのちをとられ多
かねにいのちをとられた
ことのむかしからかぞへつく
ことのむかしからかぞえつく
し可゛多し
しが たし
「命 ハ奈可゛い本ど可゛よ个れ
いのちはなが いほどが よけれ
どもとしよりて子奈く
どもとしよりてこなく
かゝろふ志まも奈起ミ尓
かかろうしまもなきみに
てへん\゛/と奈可゛い起春る
てべんべ んとなが いきする
も又 ミじめ奈もの奈り
もまたみじめなものなり
これハひ川きやう
これはひっきょう
命 尓てあしを
いのちにてあしを
からめられる
からめられる
多゛うり奈り
ど うりなり
(大意)
世の中に命ほど大事なものはないのだが、その命と釣り合うものは金である。金というやつが、とかく命にも及ぶものであり、金に命をとられてしまった例は、昔からいくらでもある。
命は長いほどよいのだが、歳をとって子がなく、世話になる頼りもなく、便々とただ長生きするのもまたみじめである。これは結局、命に手足をからめとられているというわけなのだ。
(補足)
「つり可゛へ」、『とりかえること。引き替え。「未だ金銭を功名と―にした例(ためし)はないですな」〈社会百面相•魯庵〉』
「かゝろふ志まも奈」、「志ま」は『しま(接尾)① 名詞その他,状態を表す語に付いて,そのような様子であることを表す。さま。「思はぬに横―風のにふふかに覆ひ来ぬれば」〈万葉集•904〉』。「かゝろふ」は『「掛かる」は“ぶら下がる。ひっかかる。作用が及ぶ。行動に移る”の意などに広く用いられるが,仮名書きも多い。「壁に絵が掛かる」「魚が網に掛かる」「迷惑が掛かる」「暗示に掛かる」「修理には大金が掛かる」「これがすんだら仕事に掛かる」』
平仮名「か」、「な」、「け」などとその変体仮名が混在して使われています。とくにその使われ方の法則はなさそうです。
京伝はよく天秤棒の絵を使います。「九替十年色地獄」でも花魁と千両箱を巨大な天秤棒にのせてその落籍の値段をはかりました。今回、この命は千両也。
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