P10 国文学研究資料館蔵
(読み)
[命 とり]
いのちとり
女 ハ志 うねんのふ可起もの尓て
おんなはしゅうねんのふかきものにて
へびと奈りじやとなりし多め
へびとなりじゃとなりしため
しお本く多゛う志゛やう寺(じ)のゑん
しおおくど うじ ょう じ のえん
ぎでもミ奈さ満ごそんじのこと
ぎでもみなさまごぞんじのこと
奈り女 の一 心 のへびめ可゛べ丹ちよく
なりおんなのいっしんのへびめが べにちょく
を奈め多ねこのやうにくれ
をなめたねこのようにくれ
奈ひの志多をべろり\゛/と
ないのしたをべろりべろりと
多゛し可けぬり多゛ん春の
だ しかけぬりだ んすの
びやう能やう奈めを
びょうのやうなめを
飛可らせと起春て多
ひからせときすてた
まるぐけのやう尓の
まるぐけのようにの
多川て男 の命 を
たっておとこのいのちを
とらんと春る
とらんとする
かる可゛ゆへ尓う
かるが ゆへにう
つくしき女 を
つくしきおんなを
本めて命 とり
ほめていのちとり
めとハ申 春奈り
めとはもうすなり
(大意)
女は執念深きものであり、へびとなり蛇となる例が多い。道成寺縁起で、皆様ご存知のことである。思い詰めた女の蛇めが紅猪口をなめた猫のように、紅(くれない)の舌をべろりべろりと出しかけ、塗り簞笥の鋲のような眼を光らせ、ときほどいた帯締めのようにのたって、男の命をとろうとする。そのようなわけで、美しい女をほめて、「命取り女(め、眼)」と申すのである。
(補足)
「べ丹ちよく」、『べにちょく【紅猪口】
紅を入れた杯のような入れ物。指先で溶いて唇に塗る。べにちょこ』
「まるぐけ」、『まるぐけ【丸絎け】
芯(しん)を入れて,断面が丸くなるように絎けること。また,そのひもや帯。特に,帯締め』
「かる可゛ゆへ尓」、『かるがゆえに ―ゆゑ―(接続)〔「かあるがゆえに」の転〕
それゆえに。そういうわけで。「硫黄といふ物みちみてり。―硫黄が島とも名付けたり」〈平家物語•2〉』
「女の一心のへび〜男の命をとらんと春る」、まるぐけ(帯留め)をのたうつ蛇に見立てているのに、しびれました。
上の画像では、泣く女を見上げる男の両目がいたずら書きされてますが、実際はこちら。
京伝、いかにも命を取られそうな男の顔にしたか!?
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