2022年3月7日月曜日

桃山人夜話巻五 その30

P18 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

栁  者゛ゞ

や奈ぎ

やなぎば ば


古 き栁  尓は精 有 て

ふる や奈ぎ  せい

ふるきやなぎにはせいありて


妖 を奈須事 む可しよりためしお本し

よう   こと

ようをなすことむかしよりためしおおし


(大意)

柳ばば

古い柳には精があって

怪しいことが起こることは昔より例がおおい。


(補足)

平仮名の「は」や「た」があるのがちょっとめずらしいくらいでしょうか。

柳ばばはどうしてこんなに黒くなってしまったのでしょうか。杖をついていますが、これは柳の枝でこしらえたものでしょう。柳ばばは杖で手がふさがっているので、かわりに柳の枝と葉で胸の前で両手を垂らす仕草をしている感じ。

川沿いやお堀にはよく柳並木があって、新緑の季節は爽やかですけど、「油断春べ可ら須゛」。こんな婆さんには出くわしたくない。

 

2022年3月6日日曜日

桃山人夜話巻五 その29

P17 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

鍛冶可゛嬶

可ぢ  者ゝ

かじが ばば


土佐 国 野根と云 処  尓鍛冶屋阿りし可゛女  房  を

とさのく尓のね       可ぢや     尓よう本゛う

とさのくにのねというところにかじやありしが にょうぼう を


狼   の食 殺 しのり移 りて飛 石 といふ所

おゝ可ミ くいころ   うつ  とびいし

おおかみのくいころしのりうつりてとびいしというところ


尓て人 をとり

  ひと

にてひとをとり


くらひし

くらいし


といふ

という


(大意)

鍛冶が婆

土佐の国、野根というところに鍛冶屋があった。女房は

狼に食い殺され、狼が乗り移って飛石というところ

で人を捕り食らったという。


(補足)

ここの表題の「嬶」の振り仮名には本文のように濁点がともにありません。また本文では「嫗」。

「野根」、「野」のくずし字は「那」のような形+「土」。「野」の偏が「田」と「土」に分解されて「土」が下になったのか?

「処」、最初は読めなくて、文章の流れは「ところ」なので、はたと「処」と気づいた次第。形もほぼそのままでした。

「女房」の振り仮名を読むほうが大変。

「狼」の振り仮名が「於本可ミ」ではなく「おゝ可ミ」と平仮名になってます。

「所尓て」、今度は同じ読みでも「処」ではなく「所」。「尓」は英語小文字筆記体の「y」とほとんど同じ形、「尓よう本゛う」の「尓」も同じ。

 この本の画では不鮮明なので別の色刷りのものを見ました。

嬶の顔は口が耳まで裂けた恐ろしい般若。腕は細くともうちに力を秘めつかまれたら逃れることはできなそう。姉さんかぶりの白い手ぬぐいがちょっとおかしく、薄手の流しの着物が寒そう。嬶の両膝のあいだには狼のギョロ目があり、よくみると肩車をしている。とその下に目をやると、あれ、もう一匹狼が、あれあれ、またその下に狼がいるがこやつの目は上目遣いで苦しそう。こんだけ背負ったらそりゃ苦しいわ。

 

2022年3月5日土曜日

桃山人夜話巻五 その28

P16後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

迷 ハ春阿る時 老 婆 とも成 天ゆく人 尓詞  越可け

まど    ときらう者゛  なり   ひと こと者゛

まどはすあるときろうば とおなりてゆくひとにことばをかけ


し登奇談  類 抄 尓出 多り金 陵  の絮 柳  ハ人

  き多゛んる以せう いで  きん里やう じよ里 う ひと

しときだんるいしょうにいでたりきんりょうのじょりゅうはひと


を招 きしと盧全 茶話尓志るし嶋 原  の柳  は

 ま禰   ろせんさ王    し満者゛ら や奈ぎ

をまねきしとろぜんさわにしるししまば らのやなぎは


客  越化  春登契 情 買 談  尓のせ多り油断  春べ可ら須゛

きやく 者゛可  个以せ以可ひ多゛ん     ゆ多゛ん

きゃくをば かすとけいせいかいだ んにのせたりゆだ んすべからず


(大意)

(人を)惑わしていた。ある時は老婆にも化けてゆく人に言葉をかけ

ていたと「奇談類抄」に出ている。(中国の)金陵(昔の南京)の絮柳は人

を招いたと「盧全茶話」に記され、嶋原の柳は

客を化かすと「契情買談」に載っている。油断してはいけない。


(補足)

「老婆とも」、(ろうばめとも)と「婆」を二度も読んでしまいました。お恥ずかしい。

「成」、ここの「成」のくずし字は、最初の一画目が残っているので筆順に従ったくずし字にだいたいなっているのがわかります。前行の下にある「成」は「求」と「斗」を合体させたような形。

「嶋原の柳は」、「嶋」の「山」は上部に冠のようになってます。平仮名の「は」は珍しい。

 一般庶民はきっと手にすることのない専門書を三冊もあげて、煙に巻くところが一番怪しい。

 

2022年3月4日金曜日

桃山人夜話巻五 その27

P16前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 一 柳  婆

多゛以志ゞういちや奈ぎ者゛ゞ

だいしじゅういちやなぎば ば


古 き柳  の怪  越奈春こと毛路こしの書 尓も多 く

ふる や奈ぎ く王い          しよ  於本

ふるきやなぎのか いをなすこともろこしのしょにもおおく


のせ多り我  朝 尓もさ阿る例  春く奈可ら須゛昔  ひ多

    王可゛てう     多めし       む可し

のせたりわがちょうにもさあるためしすくなからず むかしひた


ちの鹿し満尓千 年 越遍多る柳  美女 と成 て人 越

  可   せん禰ん    や奈ぎびじよ 奈り ひと

ちのかしまにせんねんをへたるやなぎびじょとなりてひとを


(大意)

第四十一柳婆

古い柳が怪しいことを起こすことは唐土の書にも多く

載っている。我が国にもそのような例は少なくない。昔、日立

の鹿島に千年を経た柳があり、美女となって人を(惑わしていた)


(補足)

 ひとつ前は「鍛冶が婆」(鍛冶屋の婆)で今回も婆シリーズ第二弾。

すでに5冊目ですので、いろいろな漢字のくずし字もすでに出てきたものばかりです。

「千」がこれだけだったら、悩みます。

 

2022年3月3日木曜日

桃山人夜話巻五 その26

P15後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

旅 人 越取 くらふこと於び多ゞし是 ハ狼   の鍛冶可゛かゝ尓

里よじん とり          これ 於本可ミ 可じ

りょじんをとりくらうことおびただしこれはおおかみのかじが かかに


の里うつりし登曽゛郷 士逸 作 と云 もの白 毛 の狼   を

         ごうしいつさく いふ  者くもう 於本可ミ

のりうつりそとぞ ごうしいっさくというものはくもうのおおかみを


こ路せし与り者゛ゞの出 天人 越とること奈しといへり

          いで ひと

ころせしよりば ばのいでてひとをとることなしといえり


(大意)

旅人を取り食らうことがおびただしく、これは狼に鍛冶屋の妻が

のりうつったからだという。郷士の逸作というものが白毛の狼を

殺してからというもの媼(ばば)があらわれて人を捕ることはなくなったという。


(補足)

「四十」、つい「よんじゅう」と読んでしまいますが「しじゅう」。

「旅人」、振り仮名「里よじん」の「里よ」がわかりずらい。すぐ左の行に「の里うつりし」がありますが、こちらはどうにかすぐ読めます。

「鍛冶可゛かゝ尓」、平仮名「か」があります。上が変体仮名「可」で続くの避けたのかもしれません。

「郷士」、「郷」のくずし字がひどく単純化されていて見るたびになんでかな?とおもってしまう。

 ニホンオオカミは人に絶滅させられてしまいました。シーボルトが剥製を本国に持ち帰ったものが残ってます。賢い動物と言われているのに、その賢さで生き残ることができなかった。それとも賢さを発揮して家で飼われる犬になったのかもしれません。一方で狼の食料であった鹿や猪は天敵が絶滅したためか増えすぎて手に負えなくなっています。ここは白毛の狼に復活してもらって、人を殺すことなく、猪や鹿、猿も獲ってほしいところであります。人間の身勝手が露骨ですね。


 

2022年3月2日水曜日

桃山人夜話巻五 その25

P15前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  四十 鍛冶可゛嬶

多゛以志ゞうかじ  者゛ゞ

だいしじゅうかじが ば ば


野根の助 四郎 国 延 ハ乱 連やき刃 の上  手奈り三 代  目

の禰 春けしらうく尓のぶ ミ多゛  者゛ ぜ うづ  さん多゛以免

のねのすけしろうくにのぶはみだれやきば のじょうずなりさんだ いめ


の養 子重 国 可゛妻 室 戸といふ所  尓刀  の料  の残 銀

 やうし志げく尓  つまむろど   ところ 可多奈 里やう ざんぎん

のようししげくにが つまむろどというところにかたなのりょうのざんぎん


を乞ひ夜尓入 天路 尓迷 ふ狼   多 く出 天取 まき

 こ よ いり ミち ま与 於本可ミ於本 いで とり

をこひよにいりてみちにまようおおかみおおくいでてとりまき


志可゛終 尓是 尓喰 ころさる其 妻 幽 霊 と奈り天

   つい これ くひ    曽のつまゆうれ以

しが ついにこれにくいころさるそのつまゆうれいとなりて


(大意)

第四十鍛冶が媼

野根の助四郎国延は乱れ焼刃の名人であった。三代目

の養子重国の妻が室戸というところに刀の料金の残金

を受け取りに行った。夜になって道に迷い多くの狼があらわれ取りまかれて

しまい、とうとう狼に食い殺されてしまった。その妻が幽霊となって


(補足)

「媼」(うば、おうな)、「女」+「囚」+「皿」。

「上手」、一文字に見えてしまいます。

「三代目」、目のふりがなが二文字にみえますが、これは変体仮名「免」(め)。

「養子」、「養」の下部の「良」のくずし字の形が、「銀」、「狼」、「喰」のその部分と同じような形になっています。

「取」のくずしじはほとんどがこの形です。平仮名「え」のようなかたちをひと筆書きして左端に「ゝ」。

「幽」のくずし字が「出」に似てます。すぐ右下に(最後の行にも)「出」がありますので比較。

 

2022年3月1日火曜日

桃山人夜話巻五 その24

P14後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

入る奈りされバ貧 乏  神  ハ油断  の飛ま越う可ゞひて

い      びん本゛う可゛ミ ゆ多゛ん

いるなりさればびんぼ うが みはゆだ んのひまをうかがいて


風 の神 ハ阿多ゝ可とさむさのひま越袮らへり口 与り

可ぜ 可ミ                 くち

かぜのかみはあたたかとさむさのひまをねらえりくちより


黄奈る氣越ふくハ黄ハ土 尓し天湿 氣奈り風

き  き    き つち   しつき  可ぜ

きなるきをふくはきはつちにしてしっきなりかぜ


ハ皆 土中  与り生 春゛去 バ悪 氣越さけて正気  を取 べし

 ミ奈どち う  せう  され あつき    せ うき とる

はみなどちゅうよりしょうずさればあっきをさけてしょうきをとるべし


(大意)

入るものである。だから貧乏神は油断の隙間をうかがって、

風の神は暖かさと寒さの隙間をねらって入る。口より

黄色い気を吹くが、黄色は土であり湿気である。風は

すべて土中より生ずる。それ故、(天地の)悪気をさけて正気をとるべきである。


(補足)

「貧乏神」、「貧」の上の部分「分」のくずし字がちゃんと「彡」+「ゝ」になっています。

「う可ゞひて」、すぐ右側の行にまったく同じ文があります。

「阿多ゝ可と」、あれっ、なんて読むのだろうとおもって、次に「さむさ」とあるのでなるほどと。

「ひま越」、前行では変体仮名「飛」(ひ)でしたがここでは平仮名。

「黄ハ土尓し天」、陰陽五行説。「木・火・土・金・水」は色にすると「青・赤・黄・白・黒」。

 結末を急ぎすぎて、なんだかよくわからない話になってしまってます。出だしはよかったんですけど。でも「風の神」って、悪さをするのかもしれない神様かもしれませんが、言葉の感じが好きです。