2021年10月14日木曜日

桃山人夜話巻二 その17

P11前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  十  三 老 人 の火

多゛以志゛うさんらうじん ひ

だ いじゅうさんろうじんのひ


信 州  遠 州  のさ可ひ奈る山 奥 尓ハ雨 の夜尓ハ多 く出 る也

志ん志 うゑん志 う      や満をく  あめ よ  於本 いつ

しんしゅうえんしゅうのさかいなるやまおくにはあめのよにはおおくいずるなり


魔の火尓し天人 尓さハること奈しといへども一 筋 ミち尓て

ま ひ   ひと             ひと春じ

まのひにしてひとにさわることなしといえどもひとすじみちにて


行 逢ふ時 ハ者き毛の越頭  尓い多ゞきて通 る尓火ハ

ゆきあ とき      可うべ      春ぐ  ひ

ゆくあうときははきものをこうべにいただきてすぐるにひは


脇 の可多へとびゆく奈り是 越驚   天逃 る時 ハいづ久

王き          これ 於どろき 尓ぐ とき

わきのかたへとびゆくなりこれをおどろきてひぐるときはいずく


(大意)

第十三老人の火

信州と遠州の境にある山奥に、雨の降る夜に多くでるのである。

これは魔の火であって人に害を及ぼすことはないとはいえ、一本道で

出会ったときは履物を頭にのせて通り過ぎれば、火は

脇の方へ飛んでゆく。これに驚いて逃げてしまうと、どこ(までも)

(補足)

「一筋ミち」、「筋」はなぜか「竹」と「助」が上下に離れて書かれることが多い。どうしてでしょうね。ここでも「一」と「竹」でひと文字のように見えてしまいます。

「行」、「彳」と「一」+「丁」なのに、そのおもかげがあまりありません。よく出てくるくずし字です。この形のまま覚えるのが一番。

「い多ゞきて」、変体仮名「多」の左側の曲線部分のふくらみがつぶれてしまっています。

「脇」、以前にも出てきました。「月」偏が通常の「月」のくずし字とは異なっています。

「いづ久」、ここの「く」は変体仮名「久」です。平仮名「く」の上にちょっと「丶」が付いています。変体仮名「天」(て)とそっくりなので注意。


 

2021年10月13日水曜日

桃山人夜話巻二 その16

P10 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

老 人 農火

らうじん ひ

ろうじんのひ


木曽の深山

きそ ミやま

きそのみやま


尓や老人  の火といふ

  らうじん ひ

にやろうじんのひという


物 あり是 越消さんと

もの  これ け

ものありこれをけさんと


春るに水 をも川天消 共゛

   ミつ    けせ

するにみずをもってけせども


更 にきへ春゛畜 類 の皮 を

さら     ちく   可王

さらにきえず ちくるいのかわを


以 て消 者゛老 人 ともに消 るといへ里

   けせ  らうじん   き由

もってけせず ろうじんともにきゆるといえり


(大意)

老人の火

木曽の山奥に

老人の火という

ものがある。これを消そうと

するのだが、水をかけて消そうとしても

少しも消えず、動物の皮で

消すと火とともに老人も消えてしまうという。

(補足)

摺りがやや不鮮明なので、鮮明な別の版を参考にしています。

「深山」(ミやま)、「ミ」の右上の「丶」はゴミです。

「尓や」、ここの「尓」は英小文字筆記体の「y」のようなかたち。2行後の同じ位置に平仮名「に」があります。

「水」のくずし字はこのままおぼえるしかありませんが、筆の運びは「水」とおなじような感じです。

「も川天」(もつて)、変体仮名「川」(つ)。

「共゛」、ちゃんと濁点があって「ども」。

「更に」、辞書に「 (下に打ち消しの語を伴って)少しも。全然。」とありました。

 老人の有様がシワだらけですさまじい。大地につく並んだ手のひらと足はどちらがどちらだかわからずぐらい単なる五本指になっている。火箸もなぜか途中で曲がっているというこった描きよう。

色付きの絵では背景の小川がとても清涼に流れています。

 

2021年10月12日火曜日

桃山人夜話巻二 その15

P9 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

柳  おん那

や奈ぎ

やなぎおんな


若 き女  の児をい多゛きて風 のは个゛しき日柳  の下 を通 り个る尓

王可 おん奈 こ      可ぜ      ひや奈ぎ し多 とふ 

わかきおんなのこをいだ きてかぜのはげ しきひやなぎのしたをとおるけるに


咽 を枝  尓ま可連て死し个る可゛其 一 念 柳  尓とゞまり夜奈\/

のど え多゛     し     そのいちねんや奈き     よ

のどをえだ にまかれてししけるが そのいちねんやなぎにとどまりよなよな


出 天口 をしや恨 めしの柳  やと泣 个ると奈ん

いで くち   うら   や奈ぎ  奈き

いでてくちおしやうらめしのやなぎやとなきけるとなん


(大意)

柳女

若い女が子を抱いて、激しい風が吹く日に柳の樹の下を通ったところ

首に枝がからまって死んでしまった。その無念のおもいが柳にとどまり、夜な夜な

女があらわれ「口惜しや恨めしの柳や」と泣くのだという。

(補足)

この版では文字がやや不鮮明で、鮮明な他の版を参考にしてます。

この頁の「柳」はすべてよくみるかたちです。平仮名「や」は現代と同じかたちです。

「通り个る尓」、「り」の部分に虫食いがありますが、他の版の鮮明な絵で確かめました。

「枝」がややつぶれてしまってわかりにくい。

「とゞまり」、「とゞ」がなやみます。

 柳の奥のほうから白い霞にのって柳の葉の下にあらわれた様子、右足指が着物からのぞいています。このころは幽霊はもうすでに脚がなかったはずですが、親指の爪まで丁寧に描かれています。女性の顔かたちがうりざね顔ではなくやや幅広であるのもちょっとめずらしい。

 

2021年10月11日月曜日

桃山人夜話巻二 その14

P8後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

幽 霊 の可い志きとハ志多る奈るべしされバ松 ハ猛 き

ゆう連以                 まつ 多け

ゆうれいのかいしきとはしたるなるべしさればまつはたけき


可多ち有 天武者 のうしろ多゛てと奈り柳  ハやさし

   阿り むしや          や奈ぎ

かたちありてむしゃのうしろだ てとなりやなぎはやさし


き姿   有 天女  の粧  ひ尓類 せり今 や其 風 姿の

 春可゛多ありてをん奈 よ曽於  るい  いま 曽のふうし

きすが たありておんなのよそおいにるいせりいまやそのふうしの


行 王多りて辻 君 迄 も此 樹のもと尓立 ことゝハ成 ぬ

ゆき    つじぎミまで このき    多つ   奈り

ゆきわたりてつじぎみまでもこのきのもとにたつこととはなりぬ


(大意)

幽霊の受け皿(かいしき)としたのではなかろうか。されば松は勇猛な

樹形をしているので武者の後ろ盾となり、柳は優しい

姿をしているから、女の粧いに似合うのだ。今やその風姿が

ゆきわたり、辻君までもがこの樹の下にたつことになってしまったのである。

(補足)

「かいしき」は「器に盛る食べ物の下に敷く木の葉。多く,ナンテン・カシワ・ユズリハなど常緑樹の葉を用いた」とあります。いまでも料理にいろいろな種類の葉を敷いたり添えたりします。ですので幽霊と柳が対になったとの意でしょうか。

「辻君」、辞書には「路傍に立って通行人を客とした下級の娼婦。夜鷹。立ち君。」とあります。

「朝」「有」の「月」のくずし字が同じようなかたちになってます。

「猛き可多ち有天」「やさしき姿有天」、左右「有天」が並びましたが、振り仮名は「阿り」「あり」となってます。

「此樹のもと尓」、「も」がおかしなかたちです。

「立ことゝハ成ぬ」、合字「こと」の次の「ゝ」を読み飛ばしそう。「成」は振り仮名がなければ読めません。次にお目にかかってもおそらく読めない。

 

2021年10月10日日曜日

桃山人夜話巻二 その13

P8前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  十  二柳  女

多゛以志゛う尓や奈ぎをん奈

だ いじゅうにやなぎおんな


女  を柳  尓多とへ柳  の女  尓化  ること毛路こし宗 の士捷  と

をん奈 や奈ぎ    や奈ぎ をん奈 者゛け       曽う しせう

おんなをやなぎにたとえやなぎのおんなにば けることもろこしそうのししょうと


いふ毛のゝ柳    尓くひ連天死し多るよりいひ習 ハせりわ可゛

           や奈ぎ           し       奈ら   

いうもののやなぎにくいれてししたるよりいいならわせりわが


朝  尓天もい尓しへ女  の柳  尓化し多ること阿り依天 柳  越

てう        をん奈 や奈ぎ け          や奈ぎ

ちょうにてもいにしえおんなのやなぎにけしたることありよってやなぎを


(大意)

第十二柳女

女を柳にたとえたり柳が女に化けることは、唐土(もろこし)は宋の士捷(ししょう)と

いうものが柳に食われて死んだことにいい習わされてきた。我が

国にても昔、女が柳に化けた例がある。よって柳を

(補足)

「柳」のくずし字をネットや辞書で調べました。ここの形はありませんでした。振り仮名「やなぎ」の「や」が現在の「ゆ」にみえます。変体仮名「也」(や)、変体仮名「由」(ゆ)の区別は「由」の縦棒がニョロニョロとゆらぎます。

「こと」、合字です。何箇所かでてきてます。

「毛路こし」、一度目にすれば次回からは即読めます。

「くひ連天」、ここの「ひ」はどうみても「わ」「ワ」には見えません。

「死し多る」、短めの「し」があります。変体仮名「多」(た)もわかりにくい。

「わが」、この「わ」はよく見ると左側が上下に筆をはこんだ様子があります。変体仮名「和」(わ)でしょうか。

「朝」、くずし字を学び始めると、必ず「朝昼晩」が出てきます。

「い尓しへ」、これでも「し」。

「化し多ること」、ここの「し」も先程の「死し多る」と同様、読み飛ばしてしまいそうです。

 

2021年10月9日土曜日

桃山人夜話巻二 その12

P7後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

天息 越吸ふ也 是 尓春ハるゝ時 外 尓天ミる人 阿連バ可奈

 いき 春   これ     とき本可    ひと

ていきをすうなりこれにすわるるときほかにてみるひとあればかな


ら春゛長 寿 也 ミる人 奈き時 ハ翌 日 死春と云 習 ハせり

   てうじ由    ひと  とき よくじつし  いひ奈ら

らずちょうじゅなりみるひとなきときはよくじつしすといいならはせり


是 可゛為 尓長  生 し多る人 も奈く死し多る人 も奈个れども山

これ  多め 奈可゛いき   ひと   し  ひと       や満

これが ためになが いきしたるひともなくししたるひともなけれどもやま


ちゝ登いへ者゛所  尓与りてハ恐 れざる毛のも奈かり个り

       ところ     於曽   

ちちといえば ところによりてはおそれざるものもなかるけり


(大意)

(近寄っ)てその息を吸うのである。これに吸われているところを見る人があればかな

らず長寿を得る。見る人がいないときは、翌日に死んでしまうと言われている。

この山地乳のために、長生きした人もなく死んだ人もないけれども

山地乳といえば、ところによっては恐れぬものはいないのである。


(補足)

「翌日」、「翌」のくずし字や異体字を調べましたが、ここのかたちはありませんでした。

こんな化け物は初めて聞きますが、夜就寝中の突然死はこのせいか・・・う〜ん。

 

2021年10月8日金曜日

桃山人夜話巻二 その11

P7前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  十  一 山地乳

多゛い志゛ういちや満ちゝ

だ いじゅういちやまちち


山地乳 と云 ハ蝙 蝠 の功 越へ天野衾  と奈り其 物 又 年

や満ちゝ    こうもり こう   のぶ春満   曽のものま多とし

やまちちというはこうもりのこうをへてのぶすまとなりそのものまたとし


を遍天怪  異の形  と奈り山 尓隠 れ春む故 山 ちゝと云 と

   く王いゐ 可多ち   や満 可く   ゆへや満   いふ 

をへてかい いのかたちとなりやまにかくれすむゆえやまちちというと


楚゛深山 尓ハさとりかひと天ひとの袮いき越う可ゞひ与り

  ミや満                

ぞ みやまにはさとりかいとてひとのねいきをうかがいより


(大意)

第十一山地乳

山地乳というのは蝙蝠が年の功をかさね野衾(ムササビorももんが)となり、さらにそれがまた年をへて化け物の姿となり、山に隠れ住むため山ちちと云うことである。深山では「さとりかい」といわれ、人の寝息をうかがい、

(補足)

「山地乳と云うハ」、「乳」の次が「ミ」にみえますが、「と」の次は「云」の一画目の短めの横棒につながってます。4行あとにも「死春と云習ハせり」と同じつながりで出てきてます。次行にも「と云と」がありますが、こちらははっきり「と」と「云」が区別できます。

「野衾」の漢字のイメージからは可愛らしいくて空を滑空するムササビやももんがと結びつきません。

「う可ゞひ」、「う」と変体仮名「可」(か)のかたちはほとんど同じなので、悩む箇所です。