2023年11月30日木曜日

人間一生胸算用 その10

P3P4 国立国会図書館蔵

P3

(読み)

此 無二郎 といふハ

このむじろうというは


いま多゛廿   二三 尓て

いまだ にじゅうにさんにて


とし和可奈れども

としわかなれども


志゛川ていなる生 れ

じ っていなるうまれ


尓天奈里尓毛

にてなりにも


ふり尓も可まハ須

ふりにもかまわず


あさゆふそろ

あさゆうそろ


者゛んを者奈

ば んをはな


さ須゛よく可せぐむすこ奈り

さず よくかせぐむすこなり

(大意)

この無二郎というものは、いまだ二十二、三歳で

年若いが、生まれつき実直で身なりも気にせず、

朝から晩まで算盤をはなさず、よく稼ぐ息子であった。

(補足)

「廿二三」、これで二十二、三。十に縦棒一本加えて廿、さらに一本加えて卅。

「尓天奈里尓毛」、変体仮名六連発。

 帳場に座る無二郎、「奈里尓毛ふり尓も可まハ須」どころではなく、髪は結い髪したばかり、髭もきれいにあたって、眉も整え、着物も着こなし、羽織の結び目まで氣を使っているおしゃれ若旦那であります。

 

2023年11月29日水曜日

人間一生胸算用 その9

P3P4 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

ごぜへせ う今 可らぐ川と

ごぜえしょういまからぐっと


とび出しハ於もくろ山 の

とびだしはおもくろやまの


むらつ者゛め

むらつば め


柳  者し尓

やなぎばしに


さい王い

さいわい


や川

やつ


可れ

がれ


奈じ

なじ




舟 やど

ふなやど


もあれバ

もあれば


サア\/すぐいき

さあさあすぐいき


\/とせり多つ

いきとせりたつ


連バ善 多満しゐ

ればぜんたましい


イヤ\/ふ年も

いやいやふねも


へち

へち


まも

まも


いらぬと

いらぬと


ひとこゑ

ひとこえ


のりものこれへと

のりものこれへと


与へハ一ツへんのく毛於こり

よべばいっぺんのくもおこり


善 多満しゐと京  伝 を

ぜんたましいときょうでんを


のせどこへ行 可と思 つ多ら

のせどこへゆくかとおもったら


京  伝 可゛東  と奈りのうとく

きょうでんが ひがしとなりのうとく


なるあきんど無名(むめい)や

なるあきんど   むめい や


無(む)次郎 可゛家 尓来 り个れども

  む じろうが いえにきたりけれども


多れあつて志るもの奈し

だれあってしるものなし

(大意)

(「こりゃあ行くほうで)ございやしょう。今からぐっとくり出せば

おもくろ山の群燕。柳橋に幸いわたしの馴染みの舟宿もあるので、

さあさあすぐ行きましょう行きましょう」とせかせると、

善魂「いやいや舟もヘチマもいらぬ」と一声、

「のりものをこれへ」と呼ぶと、一片の雲が起こり、

善魂と京伝をのせ、どこへ行くかとおもったら、

京伝の東隣の裕福な商人無名屋無次郎の家に来たのだが、

誰にも知られることはなかった。

(補足)

「於もくろ山のむらつ者゛め」、面白いの意味の洒落。

「舟やど」、於やど?かとおもってよくみると「舟」でした。

「ひとこゑ」、「と」と「こ」のつながりがよくわかりません。

「へちまも」「のりもの」「く毛」、「も」のかたちがみなことなります。

 善魂は天狗の羽うちわならぬ軍配をもっています。

 

2023年11月28日火曜日

人間一生胸算用 その8

P3P4 国立国会図書館蔵

P3

(読み)

京  伝 ハ

きょうでんは


きのつまつ

きのつまっ


多於もし

たおもし


ろくも

ろくも


袮へ王る

ねえわる


な可゛き

なが き


可う

こう


しやく

しゃく


をきゝ

をきき


大 き尓

おおきに


うち

うち


志びり

しびり


をきらし

をきらし


てゐ多り

ていたり


し可゛

しが


可う

こう


しやく

しゃく


於ハり

おわり


ぜん


多満

たま




もうし


个るハ

けるは


なん



いま


可らつ連て行く所  可゛ある可行 て

からつれてゆくところが あるがいって


ミるきハなし可奈どゝいふ

みるきはなしかなどという


由へこいつ与しハらへでも行

ゆえこいつよしわらへでもゆく


口 ぶりまんざらでもねへと

くちぶりまんざらでもねえと


思 ひ古里やアいゝ本う天゛

おもいこりゃあいいほうで

(大意)

 京伝は堅苦しい面白くもない退屈な長講釈を聞き、

まったくウンザリとしていたが、講釈が終わると、

善魂が声をかけてきた。

「今から連れてゆきたい所があるが、どうだ行ってみるか?」などと

言ってくるので、こいつあ吉原でも行く口ぶり、まんざらでもねぇと

思い、「こりゃあ行くほうで(ございやしょう。」)

(補足)

 帳場の帳場格子をすかしての描きこみがねんがいっています。格子そのものも柵の一本一本がなんともていねい。そして帳箱の文字や5つ玉の算盤も手を抜くことなく仕上げています。

 また、無次郎のうしろの上下二段の引き戸の物入れもしっかりとした豪華なもので、これまた指物師に手渡す見取り図のように正確です。

 絵師は作者京伝自身ですから、几帳面というか、とてもこだわりの強い性格の持ち主のようなきがします。

「な可゛き可うしやく」、「な」はほとんどが変体仮名「奈」ですが、たまに平仮名「な」をみるとホッとします。

 

2023年11月27日月曜日

人間一生胸算用 その7

P1P2 国立国会図書館蔵

P1

(読み)

〽京  伝 多ゞ御もつとも\/   と

 きょうでんただごもっともごもっともと


あハせ天ゐる

あわせている


「こゝハさしづめ

 ここはさしずめ


者゛いやきミせのいひ多て奈ら

ば いやくみせのいいたてなら


志んのうの人 形  と

しんのうのにんぎょうと


いふ者゛奈れと

いうば なれど


それでハ

それでは


あんまり

あんまり


いろけ可゛ない可ら

いろけが ないから


志んのうの

しんのうの


め う多゛い尓

みょうだ いに


志んぞうと

しんぞうと


志やれ多の多

しゃれたのだ

(大意)

「京伝はただ、ごもっともごもっともと合わせている。

「ここはさしずめ、薬屋の客寄せ売り込みなら、神農の人形を使うところだが、

それではあんまり色気がないから、神農の代わりに新造(若い遊女)で洒落たのだ。

(補足)

「神農の人形」、人体のツボや経絡をしるした裸の人形。神農は漢方医薬の神様。現在でも薬局の店頭に飾ってあることがあります。

 こんなにきれいな新造さんが神農の名代なら、善魂のせっかくの講釈も京伝はこれっぽちも頭に入らいないとおもいます。

 

2023年11月26日日曜日

人間一生胸算用 その6

P1P2 国立国会図書館蔵

P2

(読み)

◯心  こそ心

 こころこそこころ


まよハ須

まよはす


心  奈り

こころなり


◯心  多゛尓まことのミち尓可奈ひ奈ハといふ

 こころだ にまことのみちにかないなはという


神詠(しんゑい)を思 ふ尓つけと可く大 事奈

   しんえい をおもうにつけとかくだいじな


ものハ心  じや

ものはこころじゃ


「大 事奈こゝろ本ん多゛ハら

 だいじなこころほんだ わら


奈どゝ王るひぢ口 を

などとわるいじぐちを


いふ奈ども

いうなども


や川ハり心  の志王ざじや

やっぱりこころのしわざじゃ

(大意)

『心こそ心迷わす心なり』。

『心だに誠の道にかないなば』という菅原道真公御神詠の歌にもあるように、とかく大事なものは心じゃ。」

「大事な心ほんだわら」などと悪いダジャレを云うのも、やっぱり心の仕業じゃ。

(補足)

『鴨長明四季物語』に「心だに誠の道にかないなば祈らずとても神や守らん」の歌は北野神詠(菅原道真の歌)としてみえると、ものの本にはありました。

「本ん多゛ハら」、「本当だから」を海藻の「ホンダワラ」にひっかけた洒落。

「心」は筆を運ぶときに横の動きを意識しますが、そのくずし字はむしろ縦方向になります。

 

2023年11月25日土曜日

人間一生胸算用 その5

P1P2 国立国会図書館蔵

P2

(読み)

本とけもうまれ又 於尓も

ほとけもうまれまたおにも


てんぐもうまれるかてん可\/  と

てんぐもうまれるがてんかがてんかと


古風 奈せりふ尓て

こふうなせりふにて


博物志(者くふ川し)尓いふ土肉川脈(ど尓くせんミやく)の

    はくぶつし にいう     どにくせんみゃく の


引くり可へしをいひき可せる

ひくりかえしをいいきかせる


「◯老子(ロウシ)ハ聖人(セイシン)虛₂(キヨニス)其心₁(ソノコゝロヲ)ト書

     ろうし は   せいじん    きょにす    そのこころを  とかき


◯大學(タイカク)ニハ先(マツ)正₂(タゝシフス)其心₁(ソノコゝロヲ)ト書

    だいがく  には   まず    ただしうす        そのこころを とかく


◯華厳經(ケゴンキヤウ)ニハ

     けごんきょう には


唯(ユイ)一 心 と説(トキ)テ

  ゆい いつしんと  とき て

(大意)

仏も生まれ、また鬼も天狗も生まれる。合点か合点か」と

古めかしい言い回しで、「博物誌」の説明にあった「土は肉、川は脈」の逆を

言って聞かせた。

 京伝はただ「ごもっともごもっとも」と合わせていた。

「老師は『聖人は其の心を虛にす』と書き

大学には『まず其の心を正しうす』と書き

華厳經には『唯一心』と説いて、

(補足)

「博」の旁のくずし字は「寺」のくずし字とにています。「ち」と「る」が合体したようなかたち。

「土肉川脈」などという四字熟語はなく、博物誌では大地を人にたとえ「石為之骨 川為之脈 草木為之毛 土為之肉」からとったもの。

 大地を人にたとえる講釈は、とても腑に落ちるものであります。宇宙の神秘はそのまま人体のまた生きとし生けるものの不思議さにつながります。

 

2023年11月24日金曜日

人間一生胸算用 その4

P1P2 国立国会図書館蔵

P1

(読み)

毛のいふハ雷(らい)の者つする可゛

ものいうは  らい のはっするが


ことく可ら多゛尓生(せ うず)る

ごとくからだ に  しょうず る


のミ志らミハとりけ多゛もの

のみしらみはとりけだ もの


の生  ずると同 じどうり

のしょうずるとおなじどうり


それじや尓よ川天ま多ぐらの

それじゃによってまたぐらの


谷(多尓)あい尓ハまつ多けも志やうじ

  たに あいにはまつたけもしょうじ


遍その下 のうミべ尓ハあ可かいも

へそのしたのうみべにはあかがいも


うまるゝて奈い可そのうち

うまるるでないかそのうち


心  といふものハ天 地ぞうくハの

こころというものはてんちぞうか の


神 尓飛としくこのものゝ

かみにひとしくこのものの


里やうけん志だひ尓てせいしんや

りょうけんしだいにてせいじんや

(大意)

言葉は雷の発するがごとく、体に生ずる蚤虱(のみしらみ)は、鳥獣に生ずるのとおなじ道理である。それじゃによって、股ぐらの谷あいには松茸も生じ、臍の下の海辺には赤貝も埋まっているではないか。それらのなかでも、心というものは、天地造化の神に等しく、このものの考え次第で、聖人や(仏(ほとけ)も生まれ)

(補足)

変体仮名「毛」(も)この一文字だけを読むとなるとわからなさそう。

変体仮名「遍」(へ)は特徴的なのでおぼえやすい。

「あ可かいもうまるゝ」、「生まる」が適当なのでしょうけど「海辺に赤貝が埋まる」のほうが真面目な講釈のなかでちょっとニヤリとできます。

「心」のくずし字と、次の行の変体仮名「飛」(ひ)がにてます。どこにちがいがあるかというと、さがしてみてください。

「せいしんや」、「精神」としてしまいそうですが、読みすすめれば「聖人」とわかります。