2023年7月31日月曜日

箱入娘面屋人魚 その58

P30P31 国立国会図書館蔵

(読み)

〽せミのぬけ可らとち可゛ひ

 せみのぬけがらとちが い


人 魚 のぬけ可らハめづらし个れバ

にんぎょのぬけがらはめずらしければ


こ連をきくす里やへうり

これをきぐすりやへうり


平 二可き年のそとの金 を

へいじかきねのそとのかねを


もう个る

もうける


よいとき尓ハ

よいときには


よい事 者゛可り

よいことば かり


ふき付 るもの奈り

ふきつけるものなり


P31

〽ゆくすへ

 ゆくすえ


とも尓

ともに


まもるべし

まもるべし


可奈ら須

かならず


う多可゛ふ

うたが う


事 奈可れ

ことなかれ


志可し

しかし


あて尓も

あてにも


する事

すること


奈可れ

なかれ


ドロン\/

どろんどろん


ドロ\/\/\/

どろどろどろどろ

(大意)

 蝉の抜け殻とちがい人魚の抜け殻は珍しく

これを生薬屋へ売り、平次はもうひともうけをした。

良いときには良いことばかりが続くものである。

(浦島)「これから先は夫婦ともに手を取り助け合いなさい。

疑うことなどもってのほか。しかし、頼りきってもいけないよ。」

どろどろどろん。

(補足)

 桃がふたつに割れてあらわれた桃太郎を意識したかどうかはわかりませんが、

人魚の抜け殻がわれて、あらわれたような構図です。

 平次の前の玉手箱から立ち上るのは白い煙。浦島太郎と奥さんの鯉(人魚の母親)は科白とともに大きな吹き出しの中にあって、異世界からあらわれたような光景になっています。

 この版では、浦島太郎が髭をはやしています。いたずら書きかな・・・


 

2023年7月30日日曜日

箱入娘面屋人魚 その57

P30P31 国立国会図書館蔵

P31

(読み)

〽さて女  本う人 魚 も

 さてにょうぼうにんぎょも


王可ひてやい可゛

わかいてあいが


手を付 多り

てをつけたり


あしをつけ多可゛りし

あしをつけたが りし


一 袮ん尓て

いちねんにて


者可まを

はかまを


ぬき多るごとく

ぬぎたるごとく


一 可ハむけ

ひとかわむけ


あし手可゛

あしてが


できて本んとうの

できてほんとうの


人 間 と奈り

にんげんとなり


个るこそ

けるこそ


も川とも

もっとも


あまり

あまり


こじつけ尓て

こじつけにて


うま春き多る

うますぎたる


本どふしぎ奈り

ほどふしぎなり


〽平 次ハ人 魚 と

 へいじはにんぎょと


中 む川ましく

なかむつまじく


うとくの

うとくの


ミと奈り

みとなり


さ可い丁  へんへ

さかいちょうへんへ


ぢ う多くを

じゅうたくを



引 こし个る此 所  を人 魚 丁

ひっこしけるこのところをにんぎょちょう


といひし可゛今 ハ人 形  丁  と

といいしが いまはにんぎょうちょうと


あやまり个る

あやまりける

(大意)

 さて女房の人魚も、若い連中が手をつけたい足をつけたいという一念が

通じたのか、袴を脱いだかのように一皮むけて手足ができて本当の人間になった

というのは、はなはだあまりのこじつけで出来すぎた不思議なことである。

 平次は人魚と仲睦まじく金持ちの身となり、堺町あたりに住宅を建て、引っ越した。

ここを(もと人魚が住むというので)人魚町というのだが、いまは訛って人形町と

言い伝えられている。

(補足)

 人形町は現東京都中央区日本橋の町名。人形師が多く住んでいたので俗称でそう呼ばれていた。近くの十軒店に「面屋(めんや)」という屋号の人形屋が実際にあった。その面屋と人形が箱入りで売られていたことから本作の書名「箱入娘面屋人魚」とした、とものの本にはありました。

 

2023年7月28日金曜日

箱入娘面屋人魚 その56

P30P31 国立国会図書館蔵

P30

(読み)

平 二大 き尓

へいじおおきに


よろこび个る

よろこびける


これ多満ごで

これたまごで


ふやして

ふやして


く王ゐで

くわいで


へらし多

へらした


やう奈

ような


もの奈り

ものなり


〽きよ袮ん

 きょねん


ふ可川 の八 まんで

ふかがわのはちまんで


可いちやうありし

かいちょうありし


玉 手者こハ

たまてばこは


す奈王ち

すなわち


これ奈り

これなり

(大意)

平次は大変に喜んだ。

これはたまごで増やし、クワイで減らしたようなもので

落ち着くところに落ち着いた。

去年深川の八幡で開帳した玉手箱は

つまりこれだったのだ。

(補足)

「よろこび个る」、ここの「こ」は前後で使われている形とは異なっているようにみえます。変体仮名「古」(こ)でしょうか。

「多満ごでふやしてく王ゐでへらし多やう奈もの」、なんのことかわかりません。ものの本には次のようにありました。たまごは強精、クワイは精を減らす食べ物と考えられていたことから、精力の均衡がとれたことをいう。

「ふ可川の八まんで可いちやうありし玉手者」、横浜の東神奈川近くにある慶運寺は別名浦島寺とよばれ、そこの玉手箱が当時江戸の町で開帳されたという記録があるそうです。


 

2023年7月27日木曜日

箱入娘面屋人魚 その55

P30P31 国立国会図書館蔵

P30

(読み)

さてもつりふ年ふうふ奈んぎの

さてもつりふねふうふねんぎの


ところへうら志ま太郎 こいを

ところへうらしまたろうこいを


どう\/してあら王れ出 可の

どうどうしてあらわれいでかの


こともと奈りし平 次尓

こどもとなりしへいじに


多満手者このふ多を

たまてばこのふたを


あけさせ个れハあい可ハら須゛

あけさせけれはあいかわらず


としの

としの


よる玉 手者この

よるたまてばこの


ゐとく尓て

いとくにて


て うどいゝ

ちょうどいい


可希゛んの

かげ んの


男  ざ可り

おとこざかり


かん平 どの尓

かんぺいどのに


奈る可奈ら須゛と

なるかならず と


いふとし

いうとし


可川こう尓

かっこうに


奈り个れハ

なりければ

(大意)

さて、釣船の平次夫婦がいろいろと面倒なことになっているとき、

浦島太郎が鯉といっしょにあらわれ出た。あの子どもになってしまった

平次に玉手箱のふたを開けさせると、いつになっても古びている玉手箱の

威徳のある力のおかげで、ちょうどよい年格好の(早野)勘平に似ているとも似ていないともみえる男盛りになっていた。

(補足)

早野勘平は仮名手本忠臣蔵で31歳で亡くなっている。

「可希゛んの」、変体仮名「希」(け)と読みましたが、この変体仮名はあまりみません。

 浦島太郎が玉手箱を持ってあらわれ、それを幼子になった平次に開けさせるとは、なんとも奇抜なはなしの展開、おもしろい。平次の衣装のなりで今度は顔もツヤツヤの男盛りに若返っています。

 平次の右肩には「平」、左の腰蓑をつけた浦島の右袖に「浦」、その隣には頭にでっかい鯉をのせた美人、帯柄は青海波。浦島の袖や裾のところの柄は浪となっていて、凝ってますねぇ。

 

2023年7月26日水曜日

箱入娘面屋人魚 その54

P29 国立国会図書館蔵

(読み)

女  本うハ尓んぎよていし由ハ

にょうぼうはにんぎょていしゅは


子どもさりとハつまらぬ

こどもさりとはつまらぬ


事 と奈るあまり由き

こととなるあまりゆき


すぎるものを奈め

すぎるものをなめ


春ぎ多や川多゛と

すぎたやつだ と


いふも

いうも


こん奈

こんな


事 可ら

ことから


いひ

いい


出せし

だせし


奈るべし

なるべし


〽それミ奈せへし

 それみなせえし


あんまり奈め

あんまりなめ


すぎ奈者る可ら

すぎなはるから


そう多゛

そうだ


〽可ゝアヤこれ

 かかあやこれ


まあどうし多

まあどうした


もん多゛

もんだ


アゝちゝ可゛

ああちちが


のミ多く

のみたく


奈つ多

なった

(大意)

女房は人魚、亭主は子ども、こうなっては

目も当てられぬ事となった。

あまりにゆき過ぎるヤツのことを

嘗め(すぎ)たヤツだというのは

こんな事から言い出したのだろう。

(補足)

「つまらぬ事と奈る」、「る」は変体仮名「留」のかたちで、丸っこい。そして「る」のかたちになっているのが「事」のくずし字と変体仮名「奈」(な)。

「奈るべし」、こちらの「奈る」は同じく変体仮名「奈」が「る」のかたちで、次の「る」はほとんどかたちになっていません。

「可ゝアヤ」、いったん読めてしまえばなんでもないですけど、初見では??でした。

 平次が大人のなりで、そのまま子どもの顔つきになっているのが愉快ゆかい。

 

2023年7月25日火曜日

箱入娘面屋人魚 その53

P29 国立国会図書館蔵

(読み)

平 二ハまんとし多可年

へいじはまんとしたかね


もちと奈り此 うへの

もちとなりこのうえの


よく尓ハどいの二 郎尓

よくにはどいのじろうに


あら年どもとし二十

あらねどもとしはたち


多゛尓王可くんハおもしろ

だ にわかくんばおもしろ


多ぬきとてまへもの

たぬきとてまえもの


奈れバま可奈すき可゛奈

なればまがなすきが な


女  本うを奈め个る可゛

にょうぼうをなめけるが


奈めれバ奈める本ど

なめればなめるほど


王可く奈る可゛

わかくなるが


おもしろさ

おもしろさ


尓王れを

にわれを


王すれて

わすれて


あんまり奈め

あんまりなめ


すぎつい尓七 ツ

すぎついにななつ


者゛可りのこぞうと奈り

ば かりのこぞうとなり

(大意)

平次はとんでもない金持ちとなり、

この上の欲は、土肥二郎ではないが、

歳がもう二十歳だけでも若ければよいのだがと、

自分の女房だからと、少しでも暇があるといつも

女房を嘗め続けた。嘗めれば嘗めるほど若くなるのが

面白く、我を忘れてあんまり嘗めすぎて、

ついに七つばかりの小僧となってしまった。

(補足)

「土肥二郎」、源頼朝の家臣、土肥次郎実平(どひのじろうさねひら)。芝居などでは老人として登場するが、もっと若ければ、合戦で活躍できたろうとされる人物。

「此うへの」、「う」がわかりずらい。

「二十多゛尓王可くんハ」、何度か音読して納得。

「多ぬきとてまへもの奈れバ」、どこで区切るか悩む。「多ぬきとて/まへもの奈れバ」「多ぬきと/てまへもの奈れバ」。

「ま可奈すき可゛奈」、間がな隙がな。しばらくわかりませんでした。

女房の脇には行灯があります。夜となく昼となく嘗め続けたことを暗示するとものの本にはありました。なるほどね。

 

2023年7月24日月曜日

箱入娘面屋人魚 その52

P28 国立国会図書館蔵

(読み)

〽人 魚 者可まひつけ須゛

 にんぎょはかまひつけず


つんとしている

つんとしている


〽しやうじん

 しょうじん


日尓ハ

びには


つきやハれ

つきやわれ


袮へよのふ

ねえよのう


〽あすあ多りハむさしやへでもいつて

 あすあたりはむさしやへでもいって


志や連るきハ奈し可へ

しゃれるきはなしかえ


志可しこのごしんぞも

しかしこのごしんぞも


む可ふしまでハ由多゛んの

むこうじまではゆだ んの


奈らねへ奈り多

ならねえなりだ

(大意)

人魚はそんな誘いにもおうじずツンとすましている。

(人魚曰く)「精進日にはお付き合いはできませんのよ」

「明日あたり、武蔵屋へでも行って洒落る気はねえかい。

しかし、このご新造も向島では油断のならねえなりをしてやがる」

(補足)

ローカルな内容で、ものの本にたよらないと理解できません。以下その本よりです。

向島には中田屋(葛西太郎)や武蔵屋権三郎といった鯉料理で有名な料理屋があって、人魚はまちがって料理されかねない。がこれは表向きのことで、江戸郊外向島の料理やなどは出会茶屋(大人の休憩所、ラブホテル)でもあったので、そこで嘗めてみたいというのが本音なのでした。