2023年12月16日土曜日

人間一生胸算用 その26

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

此 うへハあの心  め

このうえはあのこころめ


を於ひ出しこの

をおいだしこの


可ら多゛を者゛んとうもち尓なされ多ら

からだ をば んとうもちになされたら


王れ\/もすこしハ多のしミも出来申 さん

われわれもすこしはたのしみもできもうさん


尓と口 をそろへ者奈をそろへて申  个れハさす可゛の

にとくちをそろえはなをそろえてもうしければさすが の


無次郎 可゛から多゛も氣ハ可王りやすくぐ川と

むじろうが からだ もきはかわりやすくぐっと


このそう多゛ん尓のる

このそうだ んにのる


「心  手ま

 こころてま


くらして

くらして


袮て

ねて


いる

いる


「口 可゛いふ

 くちが いう


なんと

なんと


こい川ア

こいつぁ


いゝ

いい


法 で

ほうで


ごぜへ

ごぜぇ


しやう

しょう


「手ハ

 ては


まくら尓

まくらに


されて

されて


ゐ奈可゛ら

いなが ら


こい川ハ

こいつぁ


於もしろ

おもしろ


奈ゝこと

ななこと


志やれる

しゃれる


「京  伝 いふ

 きょうでんいう


さて\/

さてさて


せ うし奈

しょうしな


事 じや

ことじゃ


此 く尓も

このくにも


すこし

すこし


ミ多゛れ

みだ れ


そめ尓し

そめにし


多゛ハへ

だ わへ

(大意)

この上は、あの心のやつを追い出し、この体を番頭のものにされたなら、われわれも少しは、楽しむことができるというものだ」と、口をそろえ、鼻をそろえて言うと、

さすがの無次郎の体も、氣が心持ちを変えたのか、グッとこの相談にのるてい(体)となった。

心は手枕をして寝ている。

「口が言う。何とこいつぁ、いい考えじゃねえか。

「手は枕にされていながら、こいつぁ『面白七子』(おもしろい)と洒落ている。

「京伝が言う、さてさて大変なことになったぞ。この国も少し『乱れ初めにし』だな。

(補足)

 氣の、みなからの説得圧力(目はぎょっとするほどの眼力)をうけて、やや上体をひき加減にしている仕草が、なかなかです。

「ミ多゛れそめ尓し」、小倉百人一首14番河原左大臣の歌「みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに 乱れそめにし われならなくに」のもじりとありました。

 氣の使っている立派な煙管箱、細かいことにこだわる京伝らしく、蟻組みの木組みになっています。

 

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