P10 国立国会図書館蔵
(読み)
ある日無次郎 さん用 に心 つ可れて
あるひむじろうさんようにこころつかれて
すや\/と袮いりし可目口 者奈
すやすやとねいりしがめくちはな
ミゝハよきひまと思 ひひそ可尓
みみはよきひまとおもいひそかに
きをいさめて申 个るハひ川きやう
きをいさめてもうしけるはひっきょう
王れ\/あのやう奈志ハき心 尓
われわれあのようなしわきこころに
つ可ハれてゐる
つかわれている
由へ尓口 ハつい尓
ゆへにくちはついに
志本い王し
しおいわし
可多ミ
かたみ
く川多
くった
事 奈く目ハ
ことなくめは
つい尓こじき
ついにこじき
志者゛ゐ一 まく
しば いひとまく
ミ須゛ミゝハ
みず みみは
け可゛尓へんと
けが にぺんと
いふ三 味せん
いうしゃみせん
の於とをき可須゛
のおとをきかず
者奈ハ火うち
はなはひうち
者こでやき
ばこでやき
ミその尓本ひ
みそのにほい
者゛可りつ年\/
ば かりつねつね
可いで由め尓も
かいでゆめにも
於もしろひめ尓
おもしろいめに
あ川多事 奈し
あったことなし
(大意)
ある日、無次郎は商売の勘定に疲れて、すやすやと寝入ってしまった。
目・口・鼻・耳はよい機会だとおもい、そっと氣に訴えた。「ようするに、
われわれは、あのようなケチな心に使われているので、口はついぞ塩鰯の片身しか食ったことしかない。目は一度も乞食芝居の一幕も見たことがない。耳は三味線のぺんという音さえ聞いたことがない。鼻は火鉢で焼く、焼き味噌の匂いばかりをいつもいつも嗅いでいるばかりである。夢にもおもしろい目にあったことがないのだ。
(補足)
「け可゛尓」、『(下に打ち消しや禁止の言い方を伴って)たとえ間違っても。決して。「軽薄な犬畜生にも劣つた奴に,―も迷ふ筈はない」〈浮雲•四迷〉「隣の雪隠へは行く人―一人もなく」〈咄本・鹿の子餅〉』とありました。
手は頭が、手のひらであったり、ここのようにぐう(ぐう寝ている)であったりとかわります。
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