2023年12月15日金曜日

人間一生胸算用 その25

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

ある日無次郎 さん用 に心  つ可れて

あるひむじろうさんようにこころつかれて


すや\/と袮いりし可目口 者奈

すやすやとねいりしがめくちはな


ミゝハよきひまと思 ひひそ可尓

みみはよきひまとおもいひそかに


きをいさめて申  个るハひ川きやう

きをいさめてもうしけるはひっきょう


王れ\/あのやう奈志ハき心  尓

われわれあのようなしわきこころに


つ可ハれてゐる

つかわれている


由へ尓口 ハつい尓

ゆへにくちはついに


志本い王し

しおいわし


可多ミ

かたみ


く川多

くった


事 奈く目ハ

ことなくめは


つい尓こじき

ついにこじき


志者゛ゐ一 まく

しば いひとまく


ミ須゛ミゝハ

みず みみは


け可゛尓へんと

けが にぺんと


いふ三 味せん

いうしゃみせん


の於とをき可須゛

のおとをきかず


者奈ハ火うち

はなはひうち


者こでやき

ばこでやき


ミその尓本ひ

みそのにほい


者゛可りつ年\/

ば かりつねつね


可いで由め尓も

かいでゆめにも


於もしろひめ尓

おもしろいめに


あ川多事 奈し

あったことなし

(大意)

 ある日、無次郎は商売の勘定に疲れて、すやすやと寝入ってしまった。

目・口・鼻・耳はよい機会だとおもい、そっと氣に訴えた。「ようするに、

われわれは、あのようなケチな心に使われているので、口はついぞ塩鰯の片身しか食ったことしかない。目は一度も乞食芝居の一幕も見たことがない。耳は三味線のぺんという音さえ聞いたことがない。鼻は火鉢で焼く、焼き味噌の匂いばかりをいつもいつも嗅いでいるばかりである。夢にもおもしろい目にあったことがないのだ。

(補足)

「け可゛尓」、『(下に打ち消しや禁止の言い方を伴って)たとえ間違っても。決して。「軽薄な犬畜生にも劣つた奴に,―も迷ふ筈はない」〈浮雲•四迷〉「隣の雪隠へは行く人―一人もなく」〈咄本・鹿の子餅〉』とありました。

 手は頭が、手のひらであったり、ここのようにぐう(ぐう寝ている)であったりとかわります。

 

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