2023年12月17日日曜日

人間一生胸算用 その27

P11P12 国立国会図書館蔵

P11

(読み)

古ゝにあハれをとゞめしハ無次郎 可゛心  奈りすこしの由るミ尓

ここにあわれをとどめしはむじろうが こころなりすこしのゆるみに


つけこまれこのく尓のあるじ奈可らも多せい尓ふせい

つけこまれこのくにのあるじながらもたぜいにぶぜい


ち可らお与バ須゛む年の

ちからおよばず むねの


あ多りの在城(ざいじやう)を

あたりの   ざいじょう を


於ひ出され

おいだされ


すご\/と

すごすごと


いつくへ可

いずくへか


於ち

おち


由く

ゆく


「けちをして

 けちをして


於いらを

おいらを


う多せ多

うたせた


むくひ多゛

むくいだ


これで

これで


於もひ志里川こ

おもいしりっこ


「ヱゝさん袮ん\/

 えぇざんねんざんねん


もゝくりざん年

ももくりざんねん


可き八 年

かきはちねん


於れハむ年んで

おれはむねんで


いで可年る

いでかねる


「京  伝 いゝむ多゛も

 きょうでんいいむだ も


あれども

あれども


あまりきのどく

あまりきのどく


多゛可ら

だ から


多まつて

だまって


ゐる

いる

(大意)

 同情をいっしんにあつめたのは無次郎の心であった。

少しの心のゆるみに付け込まれ、この国の主(あるじ)ながらも多勢に無勢、

力及ばず、胸のあたりを住まいにしていた心は追い出され、すごすごとどこかへ退散した。

「けちをして、おいらをぞんざいにした報いだ。これでおもいしれ。

「えぇ、残念ざんねん、桃栗残念柿八年、おれは無念で出てゆくのがたえられない。

「京伝、無駄口(洒落)のひとつも言ってやりたがったが、あまりに気の毒なので黙っている。

(補足)

 とうとう心は無次郎の体から裸一貫で、氣は身ぐるみ(除褌)はいだ着物をもって、追い出しています。

「由るミ尓」、「る」の変体仮名は「流」「留」「類」たまに「累」ですが、ここのは変体仮名「王」(わ)にみえます。

「む年のあ多りの」、「おれハむ年んでいで可年る」、ここの「年」は変体仮名「年」(ね)。「もゝくりざん年」「可き八年」、こちらは漢字。

 

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