P11P12 国立国会図書館蔵
P11
(読み)
古ゝにあハれをとゞめしハ無次郎 可゛心 奈りすこしの由るミ尓
ここにあわれをとどめしはむじろうが こころなりすこしのゆるみに
つけこまれこのく尓のあるじ奈可らも多せい尓ふせい
つけこまれこのくにのあるじながらもたぜいにぶぜい
ち可らお与バ須゛む年の
ちからおよばず むねの
あ多りの在城(ざいじやう)を
あたりの ざいじょう を
於ひ出され
おいだされ
すご\/と
すごすごと
いつくへ可
いずくへか
於ち
おち
由く
ゆく
「けちをして
けちをして
於いらを
おいらを
う多せ多
うたせた
むくひ多゛
むくいだ
これで
これで
於もひ志里川こ
おもいしりっこ
「ヱゝさん袮ん\/
えぇざんねんざんねん
もゝくりざん年
ももくりざんねん
可き八 年
かきはちねん
於れハむ年んで
おれはむねんで
いで可年る
いでかねる
「京 伝 いゝむ多゛も
きょうでんいいむだ も
あれども
あれども
あまりきのどく
あまりきのどく
多゛可ら
だ から
多まつて
だまって
ゐる
いる
(大意)
同情をいっしんにあつめたのは無次郎の心であった。
少しの心のゆるみに付け込まれ、この国の主(あるじ)ながらも多勢に無勢、
力及ばず、胸のあたりを住まいにしていた心は追い出され、すごすごとどこかへ退散した。
「けちをして、おいらをぞんざいにした報いだ。これでおもいしれ。
「えぇ、残念ざんねん、桃栗残念柿八年、おれは無念で出てゆくのがたえられない。
「京伝、無駄口(洒落)のひとつも言ってやりたがったが、あまりに気の毒なので黙っている。
(補足)
とうとう心は無次郎の体から裸一貫で、氣は身ぐるみ(除褌)はいだ着物をもって、追い出しています。
「由るミ尓」、「る」の変体仮名は「流」「留」「類」たまに「累」ですが、ここのは変体仮名「王」(わ)にみえます。
「む年のあ多りの」、「おれハむ年んでいで可年る」、ここの「年」は変体仮名「年」(ね)。「もゝくりざん年」「可き八年」、こちらは漢字。
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