2023年12月7日木曜日

人間一生胸算用 その17

P5P6 国立国会図書館蔵

P6

(読み)

あしハ手を於こす「これ\/手よめを

あしはてをおこす これこれてよめを


さませ\/   多ん奈可゛さ川き可ら

さませめをさませだんなが さっきから


つ奈をいご可さ川しやる

つなをいごかさっしゃる


手可゛いふ「ナアニ志ら袮へふりを

てが いう なあにしらねえふりを


してゐる可゛いゝ大 可多ま多

しているが いいおおかたまた


者奈尓手者゛奈を可んで

はなにてば なをかんで


やれといふ事 多らう

やれということだろう


於そ

おそ


連る

れる


多ん

だん


奈多゛

なだ


京  傳

きょうでん


「さて\/於つ里き奈里可多のもの多゛とんと

 さてさておつりきなりかたのものだ とんと


こけ可゛本う引 をひくやう多゛

こけが ほうびきをひくようだ

(大意)

 足は手を起こす。「これこれ手よ、目を覚ませ目を覚ませ。旦那がさっきから綱を動かさっしゃる」

 手が言う。「なあに、しらねえふりをしていればいいさ。おおかたまた、鼻に手鼻をかんでやれということだろうよ。困った旦那だ」

京伝「さてさて、うまい綱さばきのながめじゃないか。まったく宝引をひいているようだ」

(補足)

「於そ連る多ん奈多゛」、「おそれる」には『④ 閉口する。恐れ入る。「飲六さんの悪ふざけには―・れるねへ」〈滑稽本・浮世風呂•2〉』という意味もありました。

「於つ里き」、(乙りき)。『一風変わっていてしゃれている・こと(さま)。「―な年増が見へるはへ」〈西洋道中膝栗毛•魯文〉〔「りき」はただ添えた語。「あたりき」(「当たり前」の意)の「りき」と同類〕』。

「里可多」、(利方)。『得するやり方。便利なこと。また,そのさま。「月給を与(や)らなくて済むだけ―だ」〈社会百面相•魯庵〉』

「本う引」、(宝引)。『正月の遊びとして行われた福引きの一種。多くの縄の中から,橙(だいだい)の実が先端についている縄を引き当てた者に賞品を与えた。また,直接縄の端に金や物を結びつけた。のち金銭を出す賭博も現れたが禁止された。季新年「―のかはる趣向もなかりけり」虚子』

 着物の柄は「鼻」は団子っぱな、「目」はめがね、「耳」は片仮名「ミ」でしょうか。

宝引のこと。

 わたしが6歳前後の頃だとおもいます。近くの商店街は八の日に縁日がありました。人出もすごくとってもにぎやかな縁日なのです。

 いつもはひとりでぶらりと商店街にそって並んでいる屋台などをひとめぐりするだけなのですが、そのときは母がいっしょでめずらしいことでした。そしてなぜか母がなんでもいいからやってごらんといってくれたのです。怖かった。家は貧乏でしたからいつも見るだけです。それがなんでもいいからやってごらんと・・・

 そういえばその日の夕飯はいつもとは違っておかずも多く豪華だったことをおもいだしていました。母は働いていて、もういろいろつらくて今夜いっしょに死のうね、なんてことはないだろうけど、でもあるかもしれないし、いやいや、やっぱし、母の様子もそういえばちょっと変だし、声色もなんかいつもより平らっぽく感じる。

 母にせっつかれて、前から気なってやりたかった屋台の前に母を連れていきました。それが宝引という名前であることはまったく知らなくて今回この黄表紙で知りました。

 百本以上の紐の先に景品がついていて、それらの紐は丸い筒状のところでひとくくりにされ、そこからまた紐がお客さんが引っ張ることができるようにたれさがっているのでした。

 一回目。たまごボーロのような小袋に入ったお菓子を引き当てました。わたしがほしいのは金属で作られたような小さい戦車のおもちゃでした。斜め上の母の顔を見るとニコニコしています。もう一度いいと聞くように母の目をみるとうなずいています。

二回目。こんども何かお菓子の小袋でした。また母の顔を見上げます。うんうんとうなずいています。

三回目。あぁ〜、こんどもおなじでした。また母をみあげると、どうしたんだい、もっとおやり。わたしであるボクはわけもなくドキドキしてました。おかあちゃんどうしたんだろう、いままでこんなことなかったよな。もっとおやりだって。

 しばらくためらって、もういいやと母にいうと、あいかわらずニコニコ顔でそうかいそうかい楽しかったかいと機嫌よくうなずいていました。

 右手に3つの小袋のお菓子をにぎりしめ、左手は母がどこかへいってしまうんじゃないかと不安で、母の手を強くにぎりつないで縁日から帰ったのでした。

 そんな母はどこへゆくこともなくいつもボクのそばにいて、昨年9月102歳の生涯をまっとうして天国へ召されました。


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