2023年12月13日水曜日

人間一生胸算用 その23

P9 国立国会図書館蔵

(読み)

それより

それより


可バやきやの

かばやきやの


まへをとをり

まえをとおり


个れハ者奈可゛

ければはなが


可ぎつけ口 可゛

かぎつけくちが


くひ多可゛り

くいたが り


ま多きを

またきを


そゝの可し

そそのかし


心  尓すゝ

こころにすす


むれども

むれども


心  多し可

こころたしか


なれハ

なれば


ま川゛

まず


南 一 の

なんいちの


む多゛と

むだ と


い川

いっ


可う尓

こうに


せ う

しょう



せ須゛

せず


心  「サア\/

こころ さあさあ


ち川とも者やく

ちっともはやく


うちへ可へる可゛いゝ

うちへかえるが いい


すのこん尓やく

すのこんにゃく


のといつて

のといって


於れまでを

おれまでを


あぢ奈

あじな


心  尓

こころに


する

する

(大意)

 それから、蒲焼屋の前を通ると、鼻がかぎつけ、口が食いたがり、

またまた、氣をそそのかす。心に勧めてはみるものの、心は動ぜず、

南鐐一枚の無駄と、まったく承知しない。

心「さあさあ、さっさと早く家へ帰った方がよい。四の五の言って、

俺までその気にさせるのか」

(補足)

「可バやきやの」、「や」がふたつあります。後者の「や」は現在のものとかたちがおなじですが、前者は「ゆ」に見えてしまいますが「や」です。「ゆ」は変体仮名「由」で、中の縦棒がやや曲がります。この頁の下段「二し由可さんし由の」参照。

「すのこん尓やくのといつて」、「四の五の言って」のもじり、言葉遊び。

「南一」、「南鐐」(なんりょう)、『② 二朱銀の通称。表面に「以南鐐八片換小判一両」と刻まれていた』とありました。

 台詞の前に小さく話者が記されています。いろいろ工夫しています。

「大蒲焼」の看板行灯の骨組みがこれまた実に丁寧でまるで設計図のよう。京伝の性格の一端がわかります。

 

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