2018年9月30日日曜日

紙漉重宝記 その51




P.21 楮苧再阿らふ図 


(読み)
楮 苧再   阿らふ図
そゝ里ふ多ゝびあらふづ


い可きへ入連、川 水 尓天、悪汁灰 の、類 をよく、あらひ
いかきへいれ、かわみずにて、あく者いの、るいをよく、あらひ

そヽぐなり。そ能うへ尓て、雫  をよく、多ら須なり
そゝぐなり。そのうへにて、しづくをよく、たらすなり


(大意)
そそり(白皮)を再び洗う図

白皮をいかき(ザル)へ入れ、川の流水で灰のアク汁などを洗い落とし
よくすすぐ。そうしてから、雫をよくきり、水気をとる。


(補足)
「連」、「れ」の変体仮名で頻出です。「辶」が下部の横線一本になります。
「水」、何度出てきても、なんの字だろうとおもってしまう。
「水」の字は、真ん中の「|」が対称軸になって両側が「く」とそれをひっくり返した形の3つです。わたしの覚え方ですが、最初の上部の点「、」が|のつもりで、二画目に左部分の「く」をひっくり返した字、三画目がそのまま右に筆を運び「く」を小さく書き、筆は右に流さないで左下に適当に流して格好をつける。これを何度も指でなぞるのですが、次に出てきたときにまた読めるかどうか心配。
「類」、振り仮名が(るい)(たぐい)のどちらなのか、わかりません。
「そ能うへ尓て」の「尓」は「耳」かもしれません。
「雫」はなんとかわかります。

「いかき」の大きさや形は用途に応じてたくさんあるはずですが、ここでは絵図のような普通の丸いよく見かけるザルでした。

 老婆の表情と髪の毛が今までとは比べ物にならないくらい、丁寧に優しく慈悲深く描かれています。横顔が微かに微笑んでます。でも裸足で寒そう。たすき掛けの背中のちょうちょ結びもかわいらしい。

ところが、英国版 10_Second washing of the "sosori" は



 金髪のお姉さんになっちゃってる!
冷たい水で何度も何度もさらさなければならない辛い作業をグッと受け止めて、老婆を描いた心情など微塵もありません。

 挿絵の丹羽桃渓(にわとうけい)が実際に現地へ足を運び、この老婆と話し込んだり、一緒に食事をしたり、川ですすぐ作業を見せてもらったのかもしれません。



2018年9月29日土曜日

紙漉重宝記 その50




P.20 7行目〜最後まで


(読み)
狗 可ミ者異 やう能ものなり。此 湯尓かきら須゛、鉄 銑 製 の
いぬかみはことやうのものなり。これゆにかきらず 、てつづくせいの

多ヽらに付 事 あり。左阿る時 者、其 湯口 より湯一 滴 も出ざ流なり。
たたらにつくことあり。さあるときは、そのゆくちよりゆいってきもでざるなり。

奇怪  の事 奈れども心  得の多めこれを記 し置 なり。
きくわいのことなれどもこゝろえのためこれを志るしをくなり。


(大意)
犬神は異様なものである。紙漉きのときに用いる湯に限らず、銑鉄を
精錬するときにも犬神がつくことがある。そのようなときは、
湯口(精錬した鉄が流れ出てくる口部分)から鉄が一滴も流れ出てこない。
奇怪なことであるが、心得のためにこのことを記しておく。


(補足)
「異やう」(ことやう)、振り仮名どおり発音することは今ではなくて、異様(いよう)。
「多ゝら」、「多々良浜」という地名が日本各地にあります。浜で砂鉄がとれ、それを精錬して良質な鉄にしました。日本刀や刃物に使われます。精錬するには多量の木材が必要で、次々に森をなくしてしまったことはご存知のとおりです。
「多」のくずし字、下の部分でクルクルと2回転します。「両」のくずし字と似ています。
「阿」、読みにくい。「阝」がわかりにくいし、「可」だって普段見るくずし字とは違っています。
「奇怪」(きくわい)、「きかい」。
「心得」、また出てきました、3度目。



2018年9月28日金曜日

紙漉重宝記 その49




P.20 4行目〜6行目まで


(読み)
い可やうに致 しても蒸 煮 出来奴事 有。
いかようにい多してもむし尓へできぬことあり。

これハい可ヽ゛い多し、可く尓へ奴事 奈どヽ、不審 春流尓
これはいかが いたし、かくにえぬことなどと、ふしんするに

是 ハ俗 尓言、 狗 可゛ミの付 多ると志類べし。
これはぞくにいう、いぬが みのつきたるとしるべし。

彼 地尓て者平 生 心  得ある由へ騒 ぎ申 さ須゛、
可のちにてはへいぜいこころえあるゆえさわぎもうさず、

早 く祈祷 奈とい多し、退  く類なり。
はやくきとうなどいたし、志りぞくるなり。



(大意)
どのようにしても、蒸すことが出来ないことがある。
これはどうしたことか、このように煮えぬことなど、原因は思い当たらないが、
これは俗にいう、犬神がついたと知るべきである。
石見では普段からその心得があるので騒がないが、
早く祈祷などして、犬神を退治しなさい。


(補足)
「流」のくずし字、「佐」と似ています。比べてみてください。
「狗」のくずし字は、書き順通り一筆書きみたいに書かれています。なんかホッとします。
「心得」、本文2度めです。
「騒」の旁が「癶」+「虫」になってます。

 当時はうまく蒸せなかったり煮えなかったりすると祈祷などをしたわけです。
現代では、科学的にそれらの原因に対処するわけですが、それでもやはり上質な紙が出来上がるように、どこの工場や工房にも神棚をもうけお祈りと感謝は欠かさないはずです。


2018年9月27日木曜日

紙漉重宝記 その48





P.20 1行目〜3行目まで


(読み)
自然  煮  といへども、煮 奴事 有。
し袮ん尓尓へるといへども、尓へぬことあり

其 時 蠟 灰 一 升  程 入 る。早 速 煮 ると志るべし。
そのときろう者いいっしょう本どいるる。さつそく尓由るとしるべし

蠟 灰 奈き時 ハ、石 灰 尓天もよし。
ろう者いなきときは、いし者いにてもよし。

灰 を加 へしハ紙 漉 立 し後、 紙 少 しく赤 ミさ春なり。
者いをくわへしは可ミ春き多てしのち、かみ春こしくあ可みさ春なり。

爰 尓いら佐゛る事 奈可゛ら、心  得のために記 し置 也。
こゝにいらざ ることなが ら、こゝろえのためにしるしおくなり。

初 め蒸春節、 又、 かく乃
者じめむすせつ、また、かくの

古゛とく煮る時、
ご とく尓るとき、


(大意)
楮苧皮は普通はそのままで煮えるものであるが、煮えないこともある。
そのときは蠟の灰を一升程入れると、すぐに煮えることを知っておくとよい。
その蠟灰がないときは石灰でもよい。
灰を加えて紙漉きした後、その紙は通常のものより少し赤みがさしている。
 ここで、いらないことかもしれないが、心得のために記しておくことがある。
最初に楮苧の枝を蒸すときや、また、前述のように煮るとき、


(補足)
この頁は絵図なしの文章のみとなります。
「自然」の振り仮名が「し袮ん尓」(しねんに)となってます。この振り仮名ならば
「自然二」とカタカナの「二」があるかとおもうのですが、そうなってません。
ここでの「自然」は山川海などの自然ではなく、そのままで、ひとりでに、ほおっておいてもなどという意味です。

「有」のくずし字、「メ」の部分がなんかすごい。「月」は普通のくずし字。
「蠟灰」、日本農書全集53の注には、蠟を取るのに使った「ハゼ」の実の灰だろうか、とあります。
「早速」は常套句で頻出。
「爰」(ここ)、頻出。
「いらざる事」の「ざ」は「佐」。「亻」+「ち」のような形です。「流」のくずし字に似ています。
「心得」、古文書には頻出用語で日常語の上位の言葉だった感じがします。くずし方の形も数通りあり、出てきたら必ず読めるようにしておくべき用語です。
「初」のくずし字、「於」に似ています。
「節」のくずし字は、冠の「竹」が「前の上部」(りっとう)になってます。
「〜節」というふうに頻出です。
同じようものに「筋」があります。くずし字は「リットウ」+「助」。

この「節」の次の字は「又」です。「尓」に似て、筆記体の「y」の大きな字みたい。


 絵がないと寂しいので、以前の頁の
2_Cutting the paper-mulberry in winter.の絵図。



2018年9月26日水曜日

紙漉重宝記 その47




P.19 楮苧煮多記の圖11行目〜最後まで


(読み)
数遍 春べし 其 後 く多゛んの棒  越引 ぬく也
春へんすべし。そのゝちくだ んの本゛うをひきぬくなり。

其 穴 より湯ま王り
そのあ奈よりゆまわり

よく丹由ると知流遍゛し と可く片 煮 のせ奴やう二
よくにゆるとしるべ し。とかくか多尓へのせぬように

用 意春る事 肝 要 也
よういすること可んようなり

釜 ハ 二尺  六 寸  二尺  七 寸
かまは にしゃくろくすん にしゃくななすん


(大意)
数度繰り返す。その後この棒を引く抜く。
その穴から湯が釜全体によくまわり
よく煮えることを覚えておくと良い。いずれにしろ一部分だけが煮えることのないように
注意することが肝要である。


(補足)
「数遍」、(すうへん)と読まずに(すへん)としてます。
「其後」、「其穴」の「其」がずいぶんと異なってます。あとのほうのくずし字は頻出。
「片煮」の「片」が、ぱっと見た目どうしても「行」に見えてしまいます。

 Reports on the manufacture of paper in Japan
9_Boiling the "sosori




 間違い探しクイズ以前の絵です。
草履がなく裸足でつま先立ち・左手に持つ籠の中が空っぽ・釜中の棒が不鮮明・釜とへっついがひどい・御婦人の全体の姿勢がなってない・着物が衣類ではない。

 ちなみに 3_Steaming the paper-mulberry(楮苧むしの図)の絵です。



 いかかでしょうか。
こちらは少しマシかも知れません。



2018年9月25日火曜日

紙漉重宝記 その46




P.19 楮苧煮多記の圖7行目〜10行目まで


(読み)
の趣   に追 々 入  一 時 尓煮 也
のをもむきにおいおいいれ、いっときに尓るなり

煮汁 ハそば可゛らを焼  此 灰 の
尓しるはそばが らをやき、この者いの

あくを取り煮 也  丹るに志多可゛ひ
あくをとり尓るなり。にるにしたが い

二本 の棒  に天芋 阿らふ古゛とくか記廻し ゝ
にほんの本゛うにていも阿らうご とくかきまわしかきまわし


(大意)
のように次々に釜へ入れ、二時間程度煮る。
煮汁のあくは、そば殻を焼いた灰を入れて
これらに吸わせて取る。煮るにしたがい
二本の棒で、芋を洗うように何度もかきまわし、


(補足)
「趣」=「走」+「取」、「走」はわかりにくいですが「取」はわかりやすいくずし字になってます。この二行後に「取」があります。
「趣に」の「に」ですが、「耳」の変体仮名でしょうか。
「追々」、よくでてきます。

「一時尓煮也」、「一時尓」(いっときに)が時間の「二時間」を表すのか、「同時に、一度に」なのか不明です。どちらでも意味は通じます。いずれにしても、「二時間程度まとめてじっくり煮る」ということです。実際の紙漉きの行程を見ればすぐにわかることなのでしょうが。

「そば」、この前の段落では「蕎麦」でした。
「此」のくずし字は頻出です。字体もいろいろあります。ここのくずし字が一番単純なもの。
「丹」(に)が久しぶりに出てきました。
「廻」、送り仮名があるので読めました。

 ところで、「重宝記」なる文献は、今で言うハウツー出版物や百科事典のようなもので、
この「紙漉重宝記」と同じく大阪が元祖であるといわれてます。100種類を超えて出版されていました。どうでもよい趣味的なものから、農業や諸産業に係るものも多数あり、それら出版物が全国に流布することによって、諸藩で大いに農業林業漁業諸産業が振興されたのでした。

2018年9月24日月曜日

紙漉重宝記 その45




P.19 楮苧煮多記の圖 6行目まで


(読み)
楮 苧煮多記の圖
そゝ里尓多起のづ


右 の古゛とく製 せしを釜の
みぎのご とくせいせしを可まの

中 へ入  かく能ごとき
奈可へいれ、かくのごとき

棒  二本 こしらへ
本゛うにほんこしらえ

立 類 根本 ハ楮 苧尓て
たてる。袮もとは可うそにて

留 る也  その上 へ蕎麦温
とまるなり。そのうえへそばう

鈍 奈どをゆで流ごとく 画図
どんなどをゆでるごとく、ゑづ

(大意)
楮苧煮炊きの図

前頁で説明したように作った楮苧の皮を釜の
中に入れ、図のような棒二本をこしらえて
釜の中に立てる。棒の根本は楮苧の皮(の隙間に押し込ん)で
固定される。その上から蕎麦や饂飩などを茹でるときと同じように、図



(補足)
 釜の大きさは二尺六寸、二尺七寸(約78cm、81cm)なのでかなり大きい釜です。
棒の大きさが記されていませんが、図をよく見ると鬼の角のようなものが2本突き出しているのがわかります。なのでけっこう大きな長さのある棒ということになります。

 以前に「楮苧むしの図」がありました。このときは楮苧の棒を釜に入れて皮をむきやすくするために煮たのでした。

「棒」の旁が、「本」のくずし字と似てるが、よく見るとちょっと違います。
「留」の上半分が「ツ」に見えます。異体字「畄」なのでしょうか。
文中の「図」のフォントがありません。「日」+「労」のように見えなくもありません。

 仕事をする御婦人、ちゃんと草履を履いて表情は楽しそう♪



2018年9月23日日曜日

紙漉重宝記 その44




P.18 同阿く多゛しの圖の下半分5行目〜最後まで


(読み)
於さへ
おさえ

石 越置  雫  を取 と
いしををき、志づくをとると

志流遍゛し
しるべ し

夫 より
それより

左の釜 尓て煮 類也
さの可まにてにるなり

けづりし実
けずりしミ

をそゝ里といふ
をそそりという

袮バりけ奈起
ねばりけなき

やう尓阿らふなり
ようにあらうなり


(大意)
重しの石を乗せて水分を取る。
その後、この次のP19の図のような釜で煮る。
削り取ったあとの白皮の部分を「そそり」という。
粘り気がなくなるまでよく洗う。


(補足)
「左」の「エ」が「巳」になってます。
「右の」となると、すでに記した右側の行にある事柄ですが
「左の」では、この後述べる事柄だったり、この後に書かれている左側の行の内容になります。

いくつも変体仮名がでてきますが、だいたい読めるはずです。

Reports on the manufacture of paper in Japan
8_Expressing the sap



 言葉を失う出来栄えです。
もう今にも柄杓を持ちながらその場に倒れそうなくらい頬もこけ疲れ切ってそう。
柄杓の柄も描いてないな。
文句ばっかですが、それにしてもねぇ・・・。


2018年9月22日土曜日

紙漉重宝記 その43




P.18 同阿く多゛しの圖の下半分4行目迄


(読み)
さる皮 个づり取 し実を可け目五貫 目三 日尓春く
さるかわけずりとりしみをかけめごかんめみっかにすく

上  手者二 日尓春く これを漉 賃 銀 八〇 六 匁  なり
じやうづはふつかにすく。これをすきちんぜに    ろくもんめなり

此 五貫 目越川 へ持 行  よく阿らひ さしもの又 ハ囲
このごかんめをかわへもちゆき、よくあらい、さしものまたはい

かき・桶 尓てよくあらひ
かき・をけにてよくあらい

(大意)
さる皮を削りとった(内側の白い)部分の重さ五貫目を三日間で漉く。
上手な人はこの量を二日間で漉く。この漉き賃は銀六匁である。
この削り取った楮苧の皮を川へ持って行きよく洗う。
(川で洗えないときは)木箱やまたはかごやざる・桶でよく洗う。

(補足)
「漉賃銀 八〇 六匁」は日本農書全集53の注によると、銭八〇文を銀一匁とする通貨単位で六匁という意味とあります。
さしもの⇒木箱など、いかき⇒かご・ざる(広辞苑)。図では桶ですが、さしものといかきはありません。
「さしもの又ハ」の「又」が「尓」の変体仮名「y」(筆記体のy)と全く同じです。
「持行」、「持」は読めるようになってきましたが、「行」がどうも苦手です。
「五」はほぼどんなくずし字でも読めるようになってきてます。

 ここまでの図でやっと気づいたのですが、女性の着物柄が無地もありますが、柄が異なっていました。凝ってます。
ところが、Reports on the manufacture of paper in Japan では、
柄は無視して適当な色で乱暴に塗りたくっているだけでした。雑です。


2018年9月21日金曜日

紙漉重宝記 その42




P.18 同阿く多゛しの圖の上半分


(読み)
同 阿く多゛しの圖
どうあくだ しのづ

さる皮 商  ひ
さる可ハあき奈い

木可ハとも云
きかわともいう

かけ目十 〆 目
かけめじっかんめ

代 銀 十  二匁  位
だいぎんじゅうにもんめくらひ

高 下もあり
こうげもあり

所  に天春記
ところにてすき

あまり防 州
あまり本うしう

岩 国 藝 州 領
いハくにげいしう連う

尾形  大 竹 へ運
を可゛多おおたけへうん

送 し商  ふなり
そうしあきのふなり


(大意)
同アク出しの図

ちり紙の原料の「さる皮」の商いについて。
「さる皮」は「木かわ」ともいう。
重さ十貫目の代銀は十二匁くらいだが、上下することもある。
ここで漉いて余ってしまったものは
周防国の岩国、広島藩領の尾形・大竹へ運送し商う。


(補足)
見出し、「阝」+「可」なので「阿」、偏が悩む。

「銀」「高」「所」、どれも頻出で、慣れてきたはずです。
「領」=「令」+「頁」ですが、最初はすぐに読めませんでした。
「分」のくずし字は、「彡」+「丶」ですが、「令」のくずし字はは手強い。

 運送し商うのですが、それについてはずっとあと最後の方に出てきます。
なんせ、まだ紙の「か」の字にもなってません。

 水仕事を裸足でしている、手はあかぎれするだろうけど、足は何ていうのだろう。
冷たくて大変だ。
左下の、漬物石みたいなの、犬がふてくされて突っ伏しているように見えてしまう。
そんなことないか。


2018年9月20日木曜日

紙漉重宝記 その41




P.17 同う春皮を削圖の下半分すべて


(読み)
水 尓漬 し
みずにつけし

由へひら多ふ奈る
ゆへひらたふなる

馬の く川を
むまのくつを

臺  尓付 流
多゛いにつくる


さる皮 計  尓て漉 し
さる可ハ者可りにて春きし

ちり紙 を生  苧春゛起と云  性  よし
ちり可ミを志やうそず きという。しやうよし


(大意)
水につけておいたので、楮苧の皮は平たくなっている。
馬のための草鞋を台に敷き、その上で包丁で削る。

さる皮だけで漉いたちり紙を「生苧漉き」という。紙の質はよい。


(補足)
既出ですが、「水」のくずし字が難しい。何度も何度もなぞって覚えるしかありません。
「ひら多ふなる」、「ら」が「し」に見えてしまいますが、前行の「漬し」の「し」とは、あきらかに異なります。「る」がつながっているので、上半分がありません。
「流」のくずし字は必ず読めるようにする。
「斗」は「計」(ばかり)で、頻出です。

 江戸時代、荷物を運ぶ馬には蹄を守るために、馬専用の草鞋を履かせていました。馬へのしつけは上手ではなかったらしく、聞き分けなく馬の暴れている様子がよく記されています。
幕末頃異国人が乗馬している馬には蹄鉄がうってあるものがあり、それをみた日本の上級役人がその馬を一日借りて、同じように自分の馬に蹄鉄をうった話は有名です。


「その36」で紹介した、Reports on the manufacture of paper in Japan の
7_Removing the inner fibre です。



 ケチばっかりで恐縮ですが、1871年当時のイギリス議会が責任編集出版したものとはおもえないくらい稚拙です。
1)人物の表情や姿勢がなってない
2)文中に「馬のく川」とはっきり書かれているのに、それが描かれていない
3)台がひどすぎる。原図はしっかり細線の直線で見取り図となっていますが、模写では木端が二重線でフニャフニャ、木口は厚さも保ってなく線がなよなよ。
4)火鉢は火鉢になってない、これじゃぁ、かぼちゃです。いや「かぼちゃ」に失礼でした。

 この後の投稿でも、このレポートの絵を紹介してゆきますが、ぐちばかりになりそうです。


2018年9月19日水曜日

紙漉重宝記 その40




P.17 同う春皮を削圖の上半分の9行目〜最後まで


(読み)
能 多ゝきとろゝを入 天
よくたたきとろろをいれて

漉 也  楮 苧少  き年 ハ
春くなり。可うぞ春く奈きとしは

桑 の木越製 須 楮苧 能ことし
くハの者をせいす。可うぞのごとし

桑 の葉も春起こむなり
くハの者もすきこむなり


(大意)
よく叩き、トロロアオイを入れて漉く。
楮苧の収穫が少ない年は桑の葉で代用する。
楮苧によく似た製品になる。
桑の葉も鋤きこむ。


(補足)
 「とろろ」はトロロアオイのことで、和紙製造の肝だそうです。
この後しばらくして、トロロアオイについてだけの説明が詳しくされてます。
「能」のくずし字、すぐには読めません。この2行後では、「楮苧能ごとし」の「能」は
よく見るくずし字です。

「桑の木」、「木」を「者(は)」と読ませてます。しかし次の行では「桑の葉」としてます。
日本農書全集53によると「桑の葉で漉くことはない」と注に記されています。


2018年9月18日火曜日

紙漉重宝記 その39




P.17 同う春皮を削圖の上半分の5行目〜8行目まで


(読み)
黒 皮 ちり紙
くろ可ハちり可ミ

漉 尓用 由 これを
春くにもちゆ。これを

さる皮 と唱 ふ 是 を
さる可ハとと奈う。これを

川 尓て能 洗 ひ釜 へ入
かわにてよくあらい可まへいれ

煮類 其 後 くさら可し
尓る。そのゝちくさらかし


(大意)
 黒皮はチリ紙を漉く原料に用いる。これを
「さる皮」という。これを川でよく洗い、釜へ入れ
煮る。その後、腐らして、


(補足)
 「これを」、「是を」、とやはり同じ言葉を表現を変えてます。
「是」のくずし字は最初教えてもらわないと読めません。

 ここででてくる「ちり紙」は、わたしが中学生頃までお便所で使っていた紙と同じものなのでしょうか。薄黒いというか灰色でゴワゴワしており、おしりを拭くと痛いときがありました。
鼻をかむと、鼻周りが必ず赤くなりました。
また小学生の時、この紙を鼻紙としてもってゆくと友達に笑われたものでした。
恥ずかしいので誰にも見られないよう、教室のすみや廊下の端で鼻をかんだものです。

 紙漉きというと、大きな画板のような薄い箱を、風呂みたいな水の中へ出し入れして前後左右に揺する作業を思い浮かべます。しかしその工程までにはまだまだ程遠く、さらにたくさんの手間をかけなければなりません。江戸時代のこの重宝記以前、何百年も前からたくさんの失敗を繰り返し、多数の先人の試行錯誤があってこその和紙でした。



2018年9月17日月曜日

紙漉重宝記 その38




P.17 同う春皮を削圖の上半分の4行目まで


(読み)
同 う春皮 を削  圖
どううす可ハをけづるづ

黒 皮 を春ご起捨つるなり
くろ可ハをすごきすつるなり

図の古゛とく庖 丁 尓て於さへ
ずのご とく本うてうにておさへ

前 へ引く黒 皮 悉   く去
まへへひくくろ可ハことゝ゛くさり

春川る也
すつるなり

(大意)
同じくうす皮を削る図

黒皮をしごき捨てる。
図のようにして庖丁で押さえ
皮を手前に引き黒皮をすべて削り取る。


(補足)
「捨る」、「春川る也」、ふたつの「る」が異なってます。「捨る」とつなげると「る」の上半分がなくなります。
「図のごとく」、こういう「図」のくずし字もあります。「囗」が冠になり、中の部分がその脚になります。くずし字では普通にあります。他の例は、「聞」のくずし字も同じで、「門」が冠になり、中の「耳」が脚になります。

 作業台が二人並んで仕事ができるくらい大きくて厚みもあり立派な台です。この作業台を作った職人もいるわけですが、それについても詳しく知りたくなります。
薄皮を削り取るのに、皮を左手の手首にまわしています。手前に引くときに結構な力が必要であったことがうかがい知れます。脇に火鉢があるものの、冬でも汗をかく仕事だったはずです。

2018年9月16日日曜日

紙漉重宝記 その37




P.16 同皮を漬置く圖の7行目から最後まで


(読み)
画図の古゛とく
ゑずの古゛とく

い多し漬 置 也
いたしつけをくなり

棒  の中 を除 置 ハ
本゛うの奈可をよけをくは

可多げ可へ類手廻 し也
かたげかへるてまわしなり

一 日 一 夜つけ於起
いちにちいちやつけおき

てもよし
てもよし


こしがい多ア
こしがいたぁ


(大意)
図のように楮苧の皮を水にさらす。
棒の中央をあけて楮苧皮をかけてないのは
片方を入れ替えてかけ直すための準備である。
一昼夜つけておいてもよい。

「腰がいたぁ」

(補足)
「棒の中を除置く」理由がよくわかりません。
「図のごとく」とありますが、図では「棒の中」にも本数は少ないですが皮がかかっています。
図のようにさらせば、水にさらされる部分に差があるので皮全体が均等にさらされないことはわかります。なのでそうならないように、途中でひっくり返すなり、皮が棒にかかっているところを入れ替えるなりしなければなりません。
しかし、それらの作業は「棒の中を除置く」理由にはならない。
何か異なる作業があるのかもしれません。

「画図の古゛とく」の「図」がいままでの「圖」とは違います。「囗」の中が、筆記体の「y」の下を丸め、そのまま左上にすすみ、今度は右下へグニュグニュといった感じで流します。
「置く」のくずし字がきちんと「四」+「直」になってます。
「類」の偏、「米」+「大」がどうしてこんな形にくずされるのか、わかりませんがとにかく形でおぼえるしかなさそうです。ちょっと見た目が「弓」に似てる。
「廻」、「辶」のある、くずし字はとてもやっかいです。

「腰がいたぁ」と言っている御婦人、ほんとに痛そう。
「紙漉重宝記」すべての会話文の中で、一番しびれたのが、この人がもらした、この言葉でした。
皮を小川の中につけ置くと、板場の上で腰をトントンとしながら少しずつ伸ばし、「うー」とか
「あー」とか声をもらしながらため息が聞こえてきそうです。
いつの時代も変わりません。


2018年9月15日土曜日

紙漉重宝記 その36




P.16 同皮を漬置く圖の6行目まで


(読み)
いさや紙 を漉 ん
いさや可ミを春可ん

と思 ふ時 朝 ゟ 晩
とおもうときあさより者゛ん

晩  方  奈れバ朝
者゛ん可゛多なればあさ

まで水 へ漬 於き
までみずへつけおき

持 可へりう春皮 を
もちかえりうす可ハを

春ご起取 なり
すごきとるなり

(大意)
いざ紙を漉こうとおもうときは、楮苧の皮を水に漬けておくのだが
それは、朝から晩まで、または晩につけたのなら朝まで行う。
持ち帰ったら、薄皮をしごき取る作業をする。


(補足)
「思」、前後関係から読めなくもありませんが、初めて見ると?です。
「朝」、旁の「月」が特徴的。よく出てきます。
「ゟ」(より)、フォントを探したらありました。ひらがな二文字をくっつけたもので合字といいます。このフォントは機種依存字なので他機種では表示されないかもしれません。
「晩方奈れば」の「奈」の変体仮名が「る」そのままで、紛らわしい。
次の「朝」の「月」はそのままでくずされてません。美意識としておきます。

「水」はなんでこんなくずし字になるのかわからないながらも、最初の最上部の点みたいのが一画目の「|」で、二画目で左部分を、三画目で右部分の「く」を流してゆくと勝手に解釈してます。

「持」、ぱっと見た目で判断すると「枝」と読んでしまう。旁の「寺」はこんな感じにくずされることが多いですが、2行目の「時」では「寸」のようになってます。
「春」のくずし字は頻出ですが、「す」と「て」をくっつけたようにも見えます。

 作業をしている人たちはいままで裸足が多かったのですが、この御婦人は草鞋をはいてたすき掛けをしています。川の流れは速そう。

 「紙漉重宝記」は海外で翻訳出版されていることは以前の投稿で紹介しました。
1871年にイギリス議会で「Reports on the manufacture of paper in Japan」として出版されています。



 「同皮を漬置く圖」は「Washing the skins」と題して収められています。



 このレポートに収められている、色絵は原図に比べると稚拙です。
誰が写したかはわかりません。
雰囲気は出ているのですが、細かな描写が手抜きです。
急いでいたのかもしれませんが、そうだとしてももっとマシな絵師を雇うべきでした。


2018年9月14日金曜日

紙漉重宝記 その35




P.15 同賣買能事の下半分


(読み)
さまれゝ
さまれさまれ

こん奈やと
こんなやと

上 方  の
可ミ可゛多の

馬 ハ四 十 〆
むまはよんじっかん

可ら付 る
からつける

げ奈
がな

ど可奈
どかな

事 しや
ことしや


(大意)
さぁ、さぁ、これくらいの荷物ならば
上方の馬ならば40貫はのせられるだろうに、
どうしたんだよ。


(補足)
島根県浜田市「浜田市の方言」で調べると、
さまれ さまれ ⇒ 落ち着いてよく聞きなさい(K紙漉)
どがな、どがぁな ⇒ どんなであろう(重宝記)
とあります。

 前々回の投稿で、馬が背負い運ぶ重量のことに触れました。
この会話文と馬の表情から想像すると、馬はこの3束でもヒーヒー言っているのかもしれません。
首を下げて苦しそうだし、目も釣り上がって「うー、苦しィー」って、うなっていそう。

 馬を引いている人は、「これくらいの荷物でどうしたんだよ、さぁさぁ落ち着いて、上方の馬はもっと運ぶと云うぞ、どうしたこれくらいで」となだめ、元気づけているというところでしょうか。

「奈」、「な」の変体仮名。「馬」(むま)、昔はこのように発音したのですね。
この2つのくずし字「る」がほとんど同じです。さらに「事」のくずし字も「る」に似ている。
「〆」、「貫」のくずし字、何度もでてきています。


「紙漉重宝記」はだいたい120回弱を予定しています。この回でおよそ四分の一を終えたことになります。文章はともかく挿絵も素晴らしい。どれも塗り絵したくなってしまいます。
挿画は丹羽桃渓(1760-1822)、この重宝記だけでなく「鼓銅図録」という銅の採掘から精錬までの作業工程や道具類を色付きで写生しています。ふだんは大阪で家の家伝の薬を販売していました。


2018年9月13日木曜日

紙漉重宝記 その34




P.15 同賣買能事の上半分8行目から最後まで


(読み)
同 国 尓て東  石 見の
どうこくにてひがしいわみの

皮 二三 王り
可はにさんわり

安 し 内 皮
や春し。うち可ハ

外 可ハむ記やう
そとかわむきやう

尓てち可゛ふ也
にてちが うなり


(大意)
 (石見)国でも東石見の楮苧皮は二、三割安い。
内皮・外皮の仕上げのむき方によって、価格が異なるのである。


(補足)
 「内皮」「外可ハ」、皮と可ハを使い分けています。
「し」もタダの棒みたいなときもあれば、「安し」の「し」ように頭の部分に点をつけ変化させている字もあります。同じ音が繰り返す時、変化を付けて同じ字を使わないのはひとつの美学なのでしょうか。
この上部に出てくる「尓」のくずし字は、ほとんど筆記体の「y」にみえます。
最後の行「尓てち可゛ふ也」、「ちがう」と連続すると「が」が読み取りにくくなります。


2018年9月12日水曜日

紙漉重宝記 その33




P.15 同賣買能事の上半分7行目まで


(読み)
五貫 目把 壱 駄 といふ時 ハ
ごかんめ多ばいち多゛というときは

三 十 貫 目也  於川とり五貫
さんじっかんめなり。おっとりごかん

目尓て右 の干 皮 銀 九  匁
めにてみぎの本し可ハぎんきゅうもんめ

十  三 匁  廿   匁  至  て凶 年ハ
じゅうさんもんめにじゅうもんめいたって个う袮んは

廿   八 匁  位  春る事 まれ尓
にじゅうはちもんめぐらいすることまれに

ぞ有 也  諸 国 へつミ出須
ぞあるなり。しょこくへつみだす

と記ハ引け物 多 し
ときはひけものをゝし


(大意)
 五貫目の束で「一駄」というときは
三十貫目のことである。(つまり一駄は6束)
おおよそ、干し皮五貫目で(品によって)銀九匁、十三匁、二〇匁、
ひどい凶年では二十八匁位することがまれにある。
諸国へ出荷するものには不良品が多い。


(補足)
 馬の絵が見事です。仕事中の馬には専用の草鞋をはかせて蹄を守る習慣があったのですが、ここではそのままになってます。「一駄」という単位、「駄」がつくのでなんとなく馬一匹が背負える重さと思ってしまいますが、約112kgもあります。まぁ運べない重さではない。しかし図では3束を背負っていますが 重さは15貫≒56kg なので大人一人分くらい。それとも馬に乗せやすいように両側と上の3箇所に分けただけなのかしれません。
馬を引く人は、脚絆もしっかりまき、すっかり仕事支度をしています。

「駄」の「太」はなんとか読めますが、「馬」が難しい。くずし字は偏がとにかくわかりずらいです。
「五」「壱」、しっかり読み取れるようにする。ここでは「拾」のくずし字が出てませんが、これも必須。
「匁」が「多」のくずし字とにています。
「有る也」がくっついているので判別しにくい。「有」は頻出です。
「物」のくずし字と、「於」の変体仮名が似てます。

2018年9月11日火曜日

紙漉重宝記 その32




P.14 楮苧皮干之図の下半分


(読み)
くゝりめをあバ記
くくりめをあばき

よく干春べし
よく本すべし

其 後 五貫 目づゝ掛
そのゝちごかんめづつ可け

改  め把  丹春流
あら多め多者゛にする

よう可ハい多
ようかわいた

こ袮多所  越
こねたところを

とひて本そふ
といてほそう


(大意)
 束にしてまとめてあるところを広げ、必ずよく干すこと。
その後、5貫目ずつ量り、また、束にする。

(補足)
 図では竿にかけ広げているところですが、その束の下がくくられたままになってます。
当然そのあたりの乾きは悪くなります。説明文ではその部分を広げてよく乾かせと説いていますが
その図がありません。もしかしたら理解が間違っているのかもしれません。
話し言葉の部分でも「こねたところをといてほそう」とあるとおり、
「こねた(束ねた)ところをといて(ばらして)」ですから、あってるとおもいますが、うーん。

 左側の作業している御婦人の左手が、文章の説明にある通り、
「女の片手ににぎる程」となって、楮苧を束にしています。

「五貫目づゝ」の「づゝ」が判別しにくい。
「把丹春流」、たばにする。「丹春流」変体仮名の連続。
慣れればスラスラ読めます、読める、読みたい。

「所」のくずし字は頻出。「不」と間違えないようにする。


2018年9月10日月曜日

紙漉重宝記 その31




P.14 楮苧皮干之図の上半分


(読み)
楮 苧皮 干 之図
可うそ可ハ本しのづ

皮 をむ記直 に干春
可ハをむき春ぐに本す

女  の片手 に尓ぎる程
おんなの可多てににぎる本ど

二三 日 の間   尓本し上
にさんにちのあい多゛にほしあげ

風 あれバ一 日 二
可ぜあれバいちにちに

可ハく事 もあり
かはくこともあり


(大意)
皮をむきすぐに干す。女の片手で握れる程度の束ならば
二、三日間で干し上げるが、風があれば一日で乾くこともある。


(補足)
 相変わらず「図」「圖」の二種類を使っています。どのように使い分けているのか不思議。
「直」のくずし字、「ホ」+「、」+「一」です。
「片」が「行」に見えますが、「行」のくずし字の旁はこんな形ではありません。
「手」のくずし字が「年」と似てます。
「ほ」の変体仮名のもと「本」が頻繁に出てきます。「3」を書くつもりで1、2、と丸くかいてもう一つ右へ丸く山をつくります。
「風」の中を「ミ」にしてくずしています。
「事」のくずし字は「る」を適当に流して最後の小さい丸を次の文字につなげる感じ。

 作業は相変わらず裸足。
台にしている椅子の作りがしっかりしています。脚の部分の4本の貫はきちんとホゾで接合してあるようです。


2018年9月9日日曜日

紙漉重宝記 その30




P.13 同可ハを剥く圖の下半分


(読み)
だあよをらも
だあよおらも

むひ天
むいて

やらふ可
やろうか


こん奈子よ
こんなこよ

むく奈ら
むくなら

をら可゛やう二
おらが やうに

も川天むけ
もつてむけ

やあれ
やあれ

そふ奈いと
そふないと

ひ可゛し石 見 の
ひが しいハミ の

ごと春本゛むき
ごとすぼ むき

になるぞ
になるぞ


(大意)
「かあちゃん、おれもむいてやろうか」
「お前もむいてくれるなら、かあちゃんのようにもってむいてくれ。
そうしないと、東石見のように『すぼむき』になってしまうぞ」


(補足)
方言そのままで会話しています。
『すぼむき』、お行儀の悪い靴下の脱ぎ方みたいな感じで内側が外側にまくれてしまうむきかた。

「だあよをらも」の「も」一文字だけ改行しているのがなんか変な感じです。
母親の文言が丁寧に読まないと、わかりません。
「奈」「可」「川」「天」「春」「本」、変体仮名がたくさん出てきます。
しっかり確認します。


2018年9月8日土曜日

紙漉重宝記 その29




P.13 同可ハを剥く圖の上半分


(読み)
同 可ハを剥く圖
どうかわをむくづ

圖の古゛とく
づのご とく

手にもち
てにもち

皮 をむき
可ハをむき

と流なり
とるなり

中 の真 木
なかのしんき

多きゝ゛の外
たきぎ の本可

用 立  なし
よう多゛ちなし


(大意)
図のように枝を持って皮をむきとる。
むきとって残った芯の枝は薪以外に使いみちはない。


(補足)
 図で、枝の長さとむきとる作業の様子が実感できます。
全ページの蒸す図でも、ここでも裸足で作業しています。

「多」の変体仮名で、「多きゝ゛」の「多」が、よく出てくる変体仮名「よう多゛ち」とは異なってます。じっと見つめていると「多」に見えてきます。

 この紙漉重宝記は英語、ドイツ語、フランス語などの外国語に翻訳されているのだそうです。
和紙を作るには、楮苧などの樹木を育てることから始めなければならないはずですが、どうしているのでしょう。興味あるところです。



2018年9月7日金曜日

紙漉重宝記 その28




P.12 楮苧むし能圖の下半分


(読み)
鍋 寸 法 二尺  六 七 寸
奈べすんぽうにしゃくろくしちすん

尓てよし
にてよし

藁 こしき
王らこしき

木の根を鍋
きの袮を奈べ

底丹 春べし
そこにすべし

だあよ可う
だあよこう

そむさ須゛と
そむさず と

もち越
もちを

むして
むして

く王せ
くわせ


(大意)
鍋の寸法は2尺6、7寸がよい。
(蒸籠のようにするために)鍋底に木の根を必ず入れなさい。(その上に楮苧の枝を置く)

「かあちゃん、楮苧なんかむさないで、もちを蒸して食わせろ」

 藁こしきは図の説明

(補足)
 木桶を逆さまにして、その隙間を縄をくるくるまいて蒸気がもれないようにしています。
母は濡れ手ぬぐいで隙間をふさいでいました。

「越」(を)は頻出で形でおぼえます。
「藁」は「艹」「高」「木」ですが、「高」が典型的なくずし字になってます。

 子どもがもちを蒸してと言ってますが、まさかこの鍋と木桶で蒸していたのではないはずです。
こどもの腹減らし、いつの時代も同じみたいです。



2018年9月6日木曜日

紙漉重宝記 その27




P.12 楮苧むし能圖の上半分7行目から最後まで


(読み)
二尺  五寸 三 尺  本どに切
にしゃくごすんさんしゃくほどにきり

天蒸春 志バらくして小口 の
てむす。しばらくしてこぐちの

可ハ少 しむけ可ゝ類を見天
かわすこしむけかかるをみて

熟  せしを知類 冬 の夜
じゅくせしをしる。ふゆのよ

五鍋 六 奈べ本どハ蒸 るゝ
ご奈べろくなべほどはむさるる

と志類遍゛し
としるべ し


(大意)
二尺五寸、三尺ほどに切って蒸す。
しばらくしてから、木口の木皮が少しむけるようになってきたら蒸し上がっためどとなる。
冬の夜には、この作業を5回6回と行うのである。


(補足)
「流」「類」がまた出てきてます。前半6行の使い方とは逆になっているような気がします。
いい加減なんです。
「遍゛し」(べし)、このくずし字はよくでてきます。形で覚える。「道」と似てます。
「熟」の「灬」が「火」になってます。フォントを探したのですが見つかりませんでした。

 蒸すには火力が必要です。それもたくさんです。
冬の夜につらい作業でしたでしょうが、かまどまわりは暖かかったはずです。
みんなでかまどを囲み、頬をあからめにぎやかだったのかもしれません。


2018年9月5日水曜日

紙漉重宝記 その26




P.12 楮苧むし能圖の上半分6行目まで


(読み)
楮苧 むし能圖
可うそむしのづ

農 人 鍋 持 ざ流者 ハ
のう尓ん奈べも多ざるものは

より合 天蒸春
よりあひてむす

鍋 かり賃 皮 むき
奈べかりちん可ハむき

取 し跡 の木也  是を
とりしあとのきなり。これを

薪   と春類 たのミ丹
多きゝ゛とする。たのみに

より皮 もむきくれる也
より可ハもむきくれるなり


(大意)
楮苧の蒸しかたの図
農民で鍋を持っていないものは
寄り合って蒸す。
鍋の借り賃は皮を向いたあとの木で、
これを薪として使用する。
皮もむいてくれるよう、頼むこともある。


(補足)
 専用の大きな鍋だったのでしょうか、誰でも持っているものではなかったようです。
熱源の薪が鍋借り賃になっています。
薪はどこにでもころがっているものを集めてもよいという印象がありますが、
村々の薪をとるところは厳しく決められていました。
薪が原因で村々の争いになることはこの時代よくありました。

くずし字は振り仮名がふってあるのでなんとか読めます。
「る」が「流」「類」二種類あります。
見出しの「の」にあたる「み」に似たくずし字は「能」です。


2018年9月4日火曜日

紙漉重宝記 その25




P.11 楮苧賣買之事の下半分


(読み)
王しや
わしゃ

紙布の五枚 も
しふのごまいも

あれハ由起の中
あれはゆきのなか

でもさむふハ奈ア
でもさむうはなあ

をらハ本ん可゛んじ
おらはほんが んじ

宗  でござ流
しゅうでござる

や春ふう川天下 され
やすううってくだされ

奈む阿ミだ ゝ
なむあみだ なむあみだ

アゝか多じけ奈い
ああかたじけない



(大意)
「わしゃ 紙布が五枚もあれば雪の中だって寒ぅはなぁ」
「おらは本願寺宗です。安く楮苧を売って下され。
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 あぁありがたいのぉ」


(補足)
 雪を「由記」と書いている。どうしてこんな当て字をするのかとやはりおもってしまう。
前ページにも出てきたが、会話体で記された文章、当時の人のしゃべる様はこんなふうだったのだろか。親しみがあります。

 安く売ってくれと言っている婆様は裸足、下はきっと土間。左手に持っている茶碗はなんのためでしょうか。

 紙布とありますが、当時すでに、衣料品として使われていたことがわかります。
和紙は文字を記すためのものだけではなく、実に生活の全てと言って良いぐらい多方面に使われていました。また16世紀以降日本にやってきた異国人が本国へ持ち出すだけでなく、輸出が盛んに行わてましたから、外国の博物館などには当時の和紙が保存されています。
現在でも、外国の美術品の修復には日本の和紙が欠かせないものになっています。


2018年9月3日月曜日

紙漉重宝記 その24




P.11 楮苧賣買之事の上半分


(読み)

楮 苧立 木を見天
可うそ多ちきをみ天

賣  買越春るハむ記
者゛いゝをするはむき

とりし楮 苧直段
とりし可うそ袮多゛ん

五貫 目尓て譬  バ銀
ごかんめにて多とへばぎん

十  匁  の價  なれバ銀
じゅうもんめのあ多いなればぎん

十  匁  二荒 木の可け目
じゅうもんめにあらきのかけめ

三 十 貫 目とるべし
さんじっかんめとるべし

これをむき取れバ
これをむきとれば

正  味五貫 目餘有
しょうミごかんめよあり

手間ハ真木を
てまはまきを

薪   尓し天徳 分
多きゝ゛にしてとくぶん

利口 に当 類也
里可うにあ多るなり

(大意)
楮苧の立木の状態を見て売買するときは、
楮苧の皮をむきとった束が5貫目で、たとえば銀10匁ならば
この値段にみあう楮苧の荒木(加工する前のそのままの木)の重さは30貫目と見積もりなさい。
この荒木をむきとれば正味5貫目余りあり、手間賃は、むきとった残りの木を薪にして与えればよい。
立木の売買はもうけがあり賢い方法である。


(補足)
 キセルをくわえシブチン顔で算盤をはじいているのは、楮苧の原料を販売している問屋さんでしょう。脇には煙草盆と天秤棒があります。その後ろの風呂敷包みは?

 楮苧皮買い入れ業者が楮苧農家の青田買いも、もうけがでて賢い方法であるとの説明でしょうか?
むき取り手間賃の支払いを残りの木を薪の現物で与えればよいので、その分がうくという理解でよいかどうかちょっと悩みます。

「越」、「を」です。結構出てきます。くずし字はどうにかわかりやすい。
「直」はそのままでも、部品としても頻出。特徴的なくずし字。今では「値段」ですが「亻」がなかったんですね。
「譬」(たとえば)、くずし字は「言」が「云」になってます。
「有」、確実の読むことができる部類のくずし字に入れるべき字。
「間」、これは最頻出です。「門」が冠(かんむり)になっているのです。そして、門構えの中が冠の下部にきます。くずし字では、偏と旁の関係が、冠とその下部になっているような例が多いです。言い換えると部品の左右関係が上下関係になってます。

 くずし字はひとつの漢字にひとつのくずし字が対応している訳ではないので、古文書辞典で調べたときは、必ずほかの用例のくずし字の形を手でなぞります。意味は大抵わかっているので
何度もなぞって記憶にとどめます。

 外国語を学ぶとき、その単語にあてはまる訳語を探すだけでは正確に文章を理解できません。
その単語を調べたら、必ずほかの意味も読みます。こちらのほうが重要です。その単語の意味の全体像をつかみとるためです。

 くずし字は日本語ですが、同じようなものだと考えています。
くずれ方、くずし方の加減を印象づけるために何度もなぞる、コツコツわたしはやってます。



2018年9月2日日曜日

紙漉重宝記 その23




P.10 冬楮苧苅とる圖


(読み)
冬 楮苧苅とる圖  可ミくさ
ふゆ可うそとるづ  かみくさ


十  月 かり取 也
じゅうがつかりとるなり


木立  を見せ
こ多゛ちをみせ


苅 春゛して商  ふ
可らず してあき奈ふ


もあり
もあり


間半 に
ま奈可に


切りそろへ類
きりそろえる


於ら尓用 可゛有 なら
おらにようが あるなら


む可ひのたを可らひや
むかいのたをから「ひや


これ といふて下 され
これ」というてくだされ


か多ふ くびつ天 く連ふ
かたふ くびつて くれふ



(大意)
冬に楮苧を刈り取る図。かみくさ。
十月に刈り取る。楮苧の育ち具合を見せて、刈らないで売ることもある。
半間に切りそろえる。

「おらに用事があるなら、向かいの峠から大声で呼べと言って下され」
「固く結んでくれ」


(補足)
「ひやこれ」「ひゃこれ」、島根県は石見の方言だそうです。ネットで調べるといろいろでてきます。
見せるだけで売買していたとありますから、今でいう青田買いなのかな。
「間半」(まなか)、一間の半分。三尺なので90cmくらい。

刈っている様子から、楮苧の立木はすっかり葉を落とし、地面近くで枝分かれしているのがわかります。のこぎりではなく、鎌で切っているのですね。
固く結んでいる人は、上半身ハダカです。力仕事なんでしょう。
ちなみに、薪などをくびるときは結んだあとに、その束に薪を数本無理やり押し込むと決してゆるゆるにはなりません。

「取」のくずし字は既出ですが、あらためてながめると「死」に似てなくもない。

見出しに「〜の圖」とあります。この後この形が続くのですが、旧字の「圖」のこともあれば「図」のこともあります。特に使い方の統一がないところがゆるくて、そんなことを構わない、気を使わないのが当時では当たり前だったのでしょう。


2018年9月1日土曜日

紙漉重宝記 その22




P.9 l.7〜最後まで


(読み)
落 葉し 十  月 至  て苅 取 也  深山 に植 置 尓
らくようしじゅうがつい多つて可りとるなり。ミやまにうへをくに

猪鹿の患  奈可らんにハく多゛の
しゝのうれいなからんにはくだんの


猪鹿を打 取 楮 苧の本とりへ埋 ミ置 時 ハ志し来 ら須゛又 こやしにもよしと
しゝをうちとり可うそのほとりへうづみをくときはししきたらず またこやしにもよしと


北 国 人 の物 語  りせし事 あり 其 是非を知ら須゛
本つこくびとのもの可゛多りせしことあり。そのぜひをしらず。


(大意)
落葉し、10月になって刈り取る。山奥に植え、
猪や鹿の害の心配をなくすには、それらの
猪・鹿を仕留めて楮苧の畑のまわりへ埋めておくと猪鹿がやってこなくなり、また肥料にもなると
北国の人が話していたことがあった。その是非はわからない。


(補足)
「取」が頻繁に出てきます。頻出なのでしっかり形を覚えます。「趣」の旁でも頻出です。
「葉」が「義」の上部+「ふ」のようなくずし字に見えます。
「深」、旁が「原」に見えます。
「猪鹿」(しし)が「志し」に、前にも出たとおもいますが、毎度ひっかかります。
「北」のくずし字は特徴的、「置」のくずし字の真ん中部分「小」+「ゝ」と同じです。
「事」がいままでの「る」のようなくずし字と異なってます。
「須゛」、「ず」ですがこのページではたくさん使われてます。

 害獣と今ではひとくくりに言ってしまいますが、当時からというか、きっと縄文時代後期頃から、人が作物を育て始めたときから、切っても切れない問題だったのでしょう。
狩猟をし、木の実を拾っての食生活のうちは獣たちと同じであったわけで、特に問題はなく、あったとしても、お互いのテリトリーの奪い合いか譲り合いぐらいだったはずです。
狼や他の動物を根絶やしにしてしまった人間が、いちばん身近な猪や鹿や猿などがどうして生き残ってくることができたかが、不思議といえば不思議です。