2023年12月6日水曜日

人間一生胸算用 その16

P5P6 国立国会図書館蔵

P5

(読み)

「善 多満しゐ可゛者い川て

 ぜんたましいが はいって


ミろとい川多可゛

みろといったが


なる本ど

なるほど


きこへやし多

きこえやした


「京  傳 此 やうす

 きょうでんこのようす


をふしき可゛る

をふしぎが る


これをミれバ

これをみれば


荘司(そうし)可゛

   そうし が


く王ぎ うの

か ぎゅうの


つのゝ

つのの


うへ尓

うえに


く尓可゛

くにが


あると

あると


い川多も

いったも


まんさらの

まんざらの


万 八

まんぱち


でも

でも


あるまひ

あるまい

(大意)

「善魂が入ってみろと言ったが、なるほどよくわかりやした」

 京伝この様子を不思議におもった。

「これを見れば、荘司が(寓話で)『かたつむりの角の上に国がある』と言ったのも

まんざら嘘っぱちでもあるまい」

(補足)

 黄表紙では余白のあちこちに文章が散らばるので、読者は筋がつながるように選択して読みすすめますが、ここでは読みをまとめやすいようになるべく頁の順にしてますので、筋が切れ切れになってしまっていて申し訳ないことです。

「善魂」、「善」のくずし字がこれ一文字だけでできたら悩むこととおもいます。

「公」+「口」のような感じにくずしてるようにみえます。

 

2023年12月5日火曜日

人間一生胸算用 その15

P5P6 国立国会図書館蔵

P6

(読み)

無二郎 可゛心

むじろうが こころ


可年てより

かねてより


多ゞし个れハ

ただしければ


与く於ちつきゐて

よくおちつきいて


ミ奈\/尓

みなみなに


げぢする

げちする


由へこの

ゆへこの


く尓

くに


よく

よく


於さまりて

おさまりて


於多や可也

おだやかなり


佐連ど

されど


うらむらくハ

うらむらくは


無二郎 とし和可

むじろうとしわか


个れハ者゛んとう

ければば んとう


かぶの気ハ奈尓可尓

かぶのきはなにかに


つけて於り\/

つけておりおり


きの可王る事 ありて

きのかわることありて


ふら\/とし多き尓

ふらふらとしたきに


なれども心  ハ志り

なれどもこころはしり


ぞい天よく

ぞいてよく


志あん志奈をし

しあんしなおし


か多くきを

かたくきを


い満しめて

いましめて


くらし个る

くらしける

(大意)

 無二郎の心は常ひごろから真面目で大変に落ち着き、皆に指示するため、この国はよく治まって穏やかである。しかし残念なことには、無二郎は歳が若いこともあって、番頭株の気は何かにつけて、そのときそのときで気がかわることがあり、ふらふらとしたところがあるが、心は一歩下がって思案し調整して、しっかりと氣を戒めくらしている。

(補足)

「於多や可也」、「也」のくずし字は三画目の辶のようなところが残った感じ。

「佐連ど」、「御」ではなく「佐」でした。

 それぞれの袖や肩に「き」「者奈」「め」「ミゝ」とあります。目は眉もあって、これはきっと髪の毛がわり。

 

2023年12月4日月曜日

人間一生胸算用 その14

P5P6 国立国会図書館蔵

P5

(読み)

此 ものどものこしへ一トすじツゝの

このものどものこしへひとすじずつの


な王をつけあるじの心  これを志つ可と

なわをつけあるじのこころこれをしっかと


志めくゝ里ゐて手をうこ可さんとする

しめくくりいててをうごかさんとする


時 ハ手の奈王を由るめあ由まんと

ときはてのなわをゆるめあゆまんと


する時 ハあしの奈王を由るめミ奈\/

するときはあしのなわをゆるめみなみな


心  の下知尓志多可゛川て者多らく

こころのげちにしたが ってはたらく


事 うつ可ひのごとくさるまハ

ことうつかいのごとくさるまわ


しのごとし心  の

しのごとしこころの


こまの

こまの


多づ奈

たずな


由る

ゆる


す奈

すな


とハ

とは


こゝの

ここの


事 也

ことなり

(大意)

この者どもの腰へ一本ずつ縄を縛りつけ、あるじである心はこれをしっかりと握っていて、

手を動かそうとするときは手の縄をゆるめ、歩もうとするときは足の縄をゆるめる。

みな心の指示にしたがって働くさまは、鵜使いのようでもあり猿回しのようでもある。

心の駒の手綱を許すなとは、このようなことをいっているのである。

(補足)

「一トすじ」、「ト」の「ヽ」がありませんが、多分片仮名の「ト」ではないかと。

「な王をつけ」、平仮名「な」をつかうときもあれば「奈王を由るめ」のように変体仮名のときもあります。

「志めくゝ里ゐて」、一文字一文字判別するのが難しいところです。

「多づ奈由るす奈」、「許す」としましたが、緩(弛)(ゆる)めるなの意もあろうかとおもいます。

 

2023年12月3日日曜日

人間一生胸算用 その13

P5P6 国立国会図書館蔵

P5

(読み)

善 多満しゐのつう里き尓て

ぜんたましいのつうりきにて


京  傳 ハ無二郎 可者らの中 へ者いりて

きょうでんはむじろうがはらのなかへはいりて


ミれハ者らの中 尓一 ツのく尓あり

みればはらのなかにひとつのくにあり


これ可の小  天 地のいゝ奈りなつけて

これかのしょうてんちのいいなりなづけて


無状無象国(むしやうむぞうこく)と云 此 国 の多゛ん奈ハ

      むじょうむぞうこく というこのくにのだ んなは


す奈ハち心  奈り者゛んとうハ

すなわちこころなりば んとうは


気(き)奈り心  と気とハもと一ツ多い

  き なりこころときとはもといったい


ふんじん奈り耳目鼻口(ミゝめ者奈くち)の

ふんじんなり     みみめはなくち の


四 ツのものハ於も手代 尓てやく人 也

よっつのものはおもてだいにてやくにんなり


あしと手ハ手代 より

あしとてはてだいより


こしもとそうりとり

こしもとぞうりとり


でつちまでを可袮天

でっちまでをかねて


つとめ中 てもいそ可゛しきつとめ奈り

つとめなかでもいそが しきつとめなり

(大意)

善魂の神通力で、京伝は無二郎の腹の中に入ってみると、

腹の中にひとつの国があった。これは善魂の言っていた小天地だった。名付けて無状無象国という。この国の旦那はつまり心である。番頭は気である。心と気はもともとはひとつであったものが分かれたものである。耳目鼻口の四つの者は、手代でも上位にあり、役人の役割をする。足と手は、手代から腰元(身の回りの細々した仕事)、草履取り、丁稚までを兼ねて勤め、なかでも忙しい勤めである。

(補足)

 いっきに登場人物が多くなりにぎやかになりました。心がそれぞれの腰へ縄をつないでいます。また右の頁では、首から上に「口」「あし」「て」がのっていて、なんとも妙ちくりんです。着物の左袖に名前がついています。また着物の柄が「口」は片仮名のロ、「手」は片仮名のテ、「足」だけが片仮名の「エ」ですけどはてなぜでしょう?

「一ツのく尓あり」、「つ」の横棒がでだしできれているので、平仮名「つ」ではなくカタカナ「ツ」だとおもうのですが、さて?

「もと一ツ多いふんじん奈り」、ここも前とおなじかたちなので「ツ」だとおもいます。ただ読みが「ひとつ」ではなく「いったい」。分身(ぶんしん)は古くは「ふんじん」ともとありました。

「四ツ」、ここの「ツ」も先の二つとおなじかたちになっています。

「於も手代尓てやく人也」、辞書にないとおもって調べたらありました。重手代。やくのあとが「\/」にみえましたが、漢字の「人」でした。

「あしと手ハ手代より」、「ハ」の左がかけています。

「で川ち」、変体仮名「川」(つ)、片仮名「ツ」の元字。

「つとめ中てもいそ可゛しき」、つとめちゅうでも、としても意味は通じますが、区切るところは「つとめ/中(なか)でも」。

 

2023年12月2日土曜日

人間一生胸算用 その12

P3P4 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

「ハイ飛へ

 はいひえ


もの

もの


で

で


ござい

ござい


ご

ご


めん

めん


奈さい

なさい


「いま\/しいや川多゛

 いまいましいやつだ


於れ可゛事 を

おれが ことを


くそのやふ尓

くそのように


いやア可゛る

いやぁが る


くさめ\/

くさめくさめ


「於ら可゛と奈りの京  傳 ハ

 おらが となりのきょうでんは


さりとハ遍゛ら本う奈男  多゛

さりとはべ らぼうなおとこだ


又 四五日 出天うちへかへらぬさふ多゛

またしごにちでてうちへかえらぬそうだ


者゛可尓つける

ば かにつける


く春る可゛奈いとハ

くすりが ないとは


よくいふ多ものじや

よくいうたものじゃ


と奈りのせんきで

となりのせんきで


アゝづ徒う可゛する

ああずつうが する

(大意)

「はい、ひえものでござい。ごめんなさい」

「いまいましいやつだ。おれのことを糞のように言いやがる。

へくしょん、へくしょん」

「おれの隣の京伝はまったくとんでもない男だ。また、4,5日出かけて家に帰らぬようだ。

馬鹿につける薬がないとはよく言ったものじゃ。隣の疝気で、あぁ頭が痛い」

(補足)

「ハイ飛へものでございごめん奈さい」、湯屋の風呂に入るときにまわりの人にことわる言葉と、ものの本にはありました。京伝が無二郎の中に入っていくところを洒落た。

「於れ可゛事を・・・」、京伝がまさに無二郎の中に入ろうとしてるそのとき、無二郎がひとりごとで京伝のことをひどくいっているのをきいて、怒っている。

「四五日」、「一二・・・十」のくずし字を学ぶのは必須です。その中で「五」は特徴的なのでおぼえやすいのですが読めないことがおおいのもこれです。「乙」のように筆をはこんで最後はそのまま左上に「S」を下からなぞるようにしてその上部で右回りに下へながします。

「づ徒う」、変体仮名「徒」「津」のどちらなのか迷うことがおおい。

 

2023年12月1日金曜日

人間一生胸算用 その11

P3P4 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

今 とも多゛ちの京  傳 をふく中  へのミこみし

いまともだ ちのきょうでんをふくちゅうへのみこみし


事 ハ由め尓も志ら須゛ひとり事 をいつ天いる

ことはゆめにもしらず ひとりことをいっている


「志可る尓京  傳 可゛から多

 しかるにきょうでんが からだ


まめ人 きやうのごとく尓

まめにんぎょうのごとくに


なり無二郎 可゛ふき

なりむじろうが ふき


出し多る多者この

だしたるたばこの


希ふりにつゝまれ

けふりにつつまれ


無二郎 可゛から多゛の

むじろうが からだ の


うちへ者いり个るぞ

うちへはいりけるぞ


ふしき奈り

ふしぎなり

(大意)

今、友達の京伝を腹の中へ呑み込んだ事は夢にも知らず

ひとりごとを言っている。

 しかし、京伝のからだが豆人形のようになり、

無二郎が吹き出したたばこの煙に包まれ、無二郎のからだの中に

入ってしまった。不思議なことであった。

(補足)

 何十年も前に「ミクロの決死圏」という映画がありました。宇宙船のような円盤にのって、それに特殊光線を照射し微小にして体の中に入り、赤血球や白血球より小さく血管内を飛び回る映像を覚えています。それより150年くらい前にすでにおなじような構想の体内探索のはなしを創作しているところがなかなか愉快であります。

「ふく中へ」、一読では理解できませんでした。

「まめ人きやう」、「ま」がなやむ。

「多者この希ふりにつゝまれ」、「者」は「し」にみえるし、「希」はなやむし、「ま」は「まめ人きやう」の「ま」とにています。

「から多゛の」、この「多゛」はかたちがよくわかりません。

 

2023年11月30日木曜日

人間一生胸算用 その10

P3P4 国立国会図書館蔵

P3

(読み)

此 無二郎 といふハ

このむじろうというは


いま多゛廿   二三 尓て

いまだ にじゅうにさんにて


とし和可奈れども

としわかなれども


志゛川ていなる生 れ

じ っていなるうまれ


尓天奈里尓毛

にてなりにも


ふり尓も可まハ須

ふりにもかまわず


あさゆふそろ

あさゆうそろ


者゛んを者奈

ば んをはな


さ須゛よく可せぐむすこ奈り

さず よくかせぐむすこなり

(大意)

この無二郎というものは、いまだ二十二、三歳で

年若いが、生まれつき実直で身なりも気にせず、

朝から晩まで算盤をはなさず、よく稼ぐ息子であった。

(補足)

「廿二三」、これで二十二、三。十に縦棒一本加えて廿、さらに一本加えて卅。

「尓天奈里尓毛」、変体仮名六連発。

 帳場に座る無二郎、「奈里尓毛ふり尓も可まハ須」どころではなく、髪は結い髪したばかり、髭もきれいにあたって、眉も整え、着物も着こなし、羽織の結び目まで氣を使っているおしゃれ若旦那であります。