P25 東京国立博物館蔵
(読み)
今 日の様 子ヲ者なし殿(トノ)様 身(ミツ)可ら薄 茶 を
きょうのようすをはなし との さま みず からうすちゃを
多て此 菓子を下タされ多ると話(ハナシ)聞カ春れ
たてこのかしをくだされたると はなし きかすれ
ハ亭主(テイシユ)肝 を津婦゛し此 様 なる事 竟 ニうけ
は ていしゅ きもをつぶ しこのようなることついにうけ
多ま王ら春゛殿 様 のあれへお出 ニてお逢(アヒ)と
たまわらず とのさまのあれへおいでにてお あい と
云フ事 希しから須゛重 き事 なりあな多
いうことけしからず おもきことなりあなた
様 のお宿 仕 候 得ハ即 ち殿 様 お入 あるも
さまのおやどつかまつりそうらえばすなわちとのさまおいりあるも
同 前 ありか多き事 なり此 菓子ハ誠 ニい多
どうぜんありがたきことなりこのかしはまことにいた
だく事 能ならぬ者 ニて疫病(ヤクヒヨウ)除 尓なり申
だくことのならぬものにて やくびょう よけになりもうす
とて涙(ナミタ)を流 して恐(オソ)れ个る
とて なみだ をながして おそ れける
廿 二日 天 氣此 宿 餘 りあしく故 尓小崎 安(ヤス)
にじゅうににちてんきこのやどあまりあしくゆえにおざき やす
(大意)
略
(補足)
「希しから須゛」、『けしから◦ず 【怪しからず】① 普通ではない。「かく―◦ぬ心ばへは使ふものか」〈源氏物語•帚木〉⑤ 格別である。「一夜―◦ず摂して候ひしよ」〈謡曲・鵜飼〉』
「即」、吊のようなかたちのくずし字もあるようです。
「同前」、同然。
「廿二日」、天明8年11月22日。西暦1788年12月19日。
江漢さん、宿の主人に、殿様に招かれたときのことをはなしながら、どうですわたしはこのように名のある画人なのですよとまわりのひとたちに知らしめ、鼻高々である一方、どこか冷めた目で、殿様を神のように崇める宿の主人や町の人々を、なにそんなにたいしたことではないのですよと、涙を流して恐れている主人に、言葉がないようでもあります。
身分社会の形苦しさや馬鹿らしさに、どこかで江漢さんはそんな社会のすみづらさを感じているようでもあります。
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