2024年5月21日火曜日

延命長尺御誂染長壽小紋 その55

P22 国文学研究資料館蔵

(読み)

[命  を満とに可ける]

 いのちをまとにかける


「さむらいの命  ハ多とへバ

 さむらいのいのちはたとえば


へんとうもち能べんとう

べんとうもちのべんとう


やりもちのやりのごとし

やりもちのやりのごとし


なぜといふ尓べんとう

なぜというにべんとう


もちのべんとうハ

もちのべんとうは


和可゛もち奈可゛ら

わが もちなが ら


王可゛もの尓あらす

わが ものにあらず


やりもちのやりも

やりもちのやりも


満さ可のと起ハ

まさかのときは


多゛ん奈もの

だ んなもの


なりさむらい

なりさむらい


の命  ハ可年てきミへ

のいのちはかねてきみへ


さしあげておく

さしあげておく


命  奈れバ王可゛命  尓て

いのちなればわが いのちにて


和可゛ものにあら須゛

わが ものにあらず


ことあると起ハ

ことありときは


命  をまと尓可け

いのちをまとにかけ


て者多ら可ねバち うぎの

てはたらかねばちゅうぎの


人 とい和

ひとといわ



ざる

ざる


なり

なり

(大意)

 侍の命はたとえば、弁当持ちの弁当、槍持の槍のようである。なぜかというと、弁当持ちの弁当は、自分で持ちながら我がものではない。槍持の槍も、いざとなったときは主人のものである。侍の命は、あらかじめ主君にあずけてある命であるから、自分の命ではあるが我がものではない。事あるときは命を的にかけて働かねば、忠義の人といわれないのである。

(補足)

「へんとうもち能」、「と」の一画目の出だしが欠けてしまっているので「と」に見えづらい。

 「命」を文字通りというか絵の通りというか、的にかけているという、侍の生きる様をきつい洒落にしています。侍二人弓の練習を真剣にしているところ、しかしどこか力を込めている感じがしないのは、京伝の画力不足だけではなさそうです。

 

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