P21 国文学研究資料館蔵
(読み)
[命 に可けて思 ふ]
いのちにかけておもう
くるまの命 ハくさびなり
くるまのいのちはくさびなり
あふぎの命 ハ可なめ
おうぎのいのちはかなめ
から可さ能命 ハろくろ
からかさのいのちはろくろ
奈りふう里んの命
なりふうりんのいのち
ハ多んざく奈りおや舩
はたんざくなりおやぶね
尓命 づ奈ありたび
にいのちづなありたび
飛(び)と尓命 可゛年あり
び とにいのちが ねあり
いづ連命 ハ多いせ川
いずれいのちはたいせつ
奈るものなり志可るに
なるものなりしかるに
こいハくせ毛の尓天
こいはくせものにて
その多いせ川奈る命
そのたいせつなるいのち
もこい由へ尓ハうし奈ひ
もこいゆへにはうしない
や春し思 ふ男 を命
やすしおもうおとこをいのち
尓可けてきよミ川゛の
にかけてきよみず の
ぶ多ひからとびおりる
ぶたいからとびおりる
もミ奈こ以といふ
もみなこいという
くせものゝ志王ざ
くせもののしわざ
なりおそるべし
なりそそるべし
(大意)
車輪の命は楔(くさび)である。扇の命は要(かなめ)、傘(からかさ)の命は轆轤(ろくろ)である。風鈴の命は短冊である。親船には命綱があり、旅人には命金がある。どの命も大切なものであるのだ。しかし、恋はくせ者、その大切な命も、恋に落ちてしまうと失いやすい。おもう男に命をかけて、清水の舞台から飛び降りるのも、みな恋という曲者(くせもの)の仕業である。理解をこえた恐ろしいことである。
(補足)
「命に可けて思ふ」、ここの「思」のくずし字は意識的に「と」に似せ、「命に可けてとぶ」とも読めるようにしたのかもしれません。
出だしは「厶可まの」ではなく「くるまの」。「く」がカタカナ「厶」のかたちのものもおおい。
命の傘をさし飛び降りる、おもいつめ表情こわばらせる女、なんとも現実感あふれる描写であります。京伝もしかしたら、実際に布団か座布団を下にしき傘をもたせ女を飛ばしたのではないかと、おもうのですが・・・
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