P1 国立国会図書館蔵
(読み)
当 年 者可゛りハ作 い多しくれ候 やう相 多のミ候 へハ
とうねんばか りはさくいたしけれそうろうようあいたのみそうらえば
京 伝も久 しきちいんの王多くし由へ尓も多しかたく
きょうでんもひさしきちいんのわたくしゆえにもだしがたく
そんしまげて作 い多しくれ候 す奈ハち志やれ本 およびゑさうし
ぞんじまげてさくいたしくれそうろうすなわちしゃれぼんおよびえぞうし
志ん者ん出来候 間 御好 人 さ満ハけ多゛いもくろく御らん
しんぱんできそうろうあいだごこうじんさまはげだ いもくろくごらん
の上 御求 可被下 ひとへ尓奉希 候 以上
のうえおもとめくださるべくひとえにねがいたてまつりそうろういじょう
寛 政 三 ツ亥の春 日 板 元 蔦 唐 丸
かんせいさん いのはるび はんもとつたのからまる
(大意)
今年だけは書いてくれないかと頼んだところ
京伝とは長い間の付き合いのわたくしの依頼を断ることも
できず、無理をして書いてくれることになりました。そうして洒落本や絵草紙
の新作が出来ましたので、ご希望の方は冊子の広告を御覧
の上、お求めくださるよう宜しくお願い申し上げます。
寛政三年 亥の春日 版元 蔦唐丸
(補足)
最後の年号のところの「ツ」が?です。寛政三年は「辛亥 かのと い (シンガイ)」ですが「辛」のくずし字にはみえません。「年」のくずし字にもみえません。さて?
「当年」、「年」のくずし字はほとんど「◯」+「丶」で「Q」のような感じです。
「者可゛りハ」、濁点「゛」の位置が「者」の右下にきているようにもおもわれますし、次の文字につけるのが流儀だったようにもみえますがさて?三行先に「け多゛い」とあり、これも「外題げだい」で濁点がずれています。しかし二行先の「まげて」は現在と同じ。う〜ん。
「作い多しくれ候」、「候」がカタカナ「ㇳ」に簡略されてます。すぐ下に「候へハ」はよくでてくる形のくずし字です。そして文末の「奉希候以上」では定型文で「候」は形もなくただ長く伸びているだけ。
「ちいん」、知音。辞書をしらべて知りました。
「も多しか多く」、「も多し」は「黙し」。黙するので黙っている無視するということ。
「出来候間」、「間」のくずし字は「門」が冠のようになって「口」が下にきます。少し「る」ににています。
「御好人様」、「ごこうじんさま」としましたけど「おこのみのひとさま」かも。意味はそのまま、ご希望される様方。
「御求可被下」、「可被下」(くだささるべく)は定型文なので、この三文字セットで覚えます。「被」のくずし字が「丶」になっていますが三文字が合字のように一文字なので簡略されてます。
「ひとへ尓」、ここの変体仮名「尓」(に)のくずし字は英字筆記体小文字の「y」。
「奉希候(ねがいたてまつりそうろう)」、これも定型文。このままおぼえます。
この挨拶文、版元の蔦唐丸こと蔦屋重三郎(つたやじゅうさぶろう)本人が書いているようにおもわれますが、もちろんそうではなくて山東京伝自身が口上もこの黄表紙滑稽本の一部としておもしろく書き述べ、版元承知の上のことでありましょう。