2023年6月30日金曜日

箱入娘面屋人魚 その29

P14P15 国立国会図書館蔵

P14

(読み)

歌 〽二八

うた にはち


十  六 ハ

じゅうろくは



奈し

なし


の可け日

のかけび


二九の十  八 で

にくのじゅうはちで


志ちやの

しちやの


里あげ

りあげ


四五の二十  めで

しごのにじゅうめで


やちん可゛壱 川

やちんが ひとつ


王しや

わしゃ


おびも

おびも


うけぬ

うけぬ

(大意)

歌。二八十六は日済しの借金の掛日(支払日)、二九の十八で質屋の利上げ、四五の二十目で家賃が一つ、わしゃ帯も請けぬ。

(補足)

歌はひらかな盛衰記四段目神崎揚屋の段の梅が枝のせりふ「二八十六で、文付けられて、二九の十八で、ついその心。四五の二十なら、一期に一度。わしゃ帯とかぬ」のもじりですけど、内容がよくわからないので面白みもよくわかりません。もとの科白はとてもしっくりきます。「歌」のくずし字は元の形があるような、ないような形。「可」ふたつ、上は小さく下は大きくかいて、「欠」は「丶」。

「可け日」、「うけぬ」、変体仮名「可」(か)と「う」はほとんど同じ形でまぎらわしい。

 

2023年6月29日木曜日

箱入娘面屋人魚 その28

P14P15 国立国会図書館蔵

P15

(読み)

せんと思 ひこん多゛る人 魚 の

せんとおもいこんだ るにんぎょの


一 袮ん王れを王すれ春で尓

いちねんわれをわすれすでに


飛しやくをお川とらんとせし可゛

ひしゃくをおっとらんとせしが


かんじんの手可゛奈个れバ大 き尓

かんじんのてが なければおおきに


ま可゛ぬけ志バし多めらふその

まが ぬけしばしためらうその


所  尓思 ひ可け奈きうしろ

ところにおもいがけなきうしろ


より多れ可ハ志ら須゛その

よりだれかはしらず その


手ハこゝ尓とひしやく

てはここにとひしゃく


もちそへふり上 しハ

もちそえふりあげしは


すさまじ

すさまじ


可り个るといふ

かりけるという


保ど尓こそ奈个れ

ほどにこそなけれ


む多゛らし可り个る

むだ らしかりける


志多゛

しだ


い奈り

いなり


め多゛可

めだ か


者ちの

ばちの


せき

せき


しやう

しょう


ふき

ふき


水 の

みずの


ミへ尓

みえに


奈る

なる

(大意)

と、思い込んだ人魚の一念、我を忘れて

まさに柄杓に手をのばしかけていたのだが、

肝心の手がないので、ひどく間が抜けて

しばらくためらっていたところ、

思いがけずにうしろより

誰かはわからないが、その手はここですよと

かわりに柄杓を持ちそえて振り上げてくれました。

これは、興ざめしてしまうということのほどもないけれど

ちょっと徒労におわってしまったような次第でありました。

 めだかの鉢の石菖(水草)が(水曲芸の)吹き上げ水のように

見えていました。


(補足)

「すさまじ可り个るといふ保ど尓こそ奈个れむ多゛らし可り个る志多゛い奈り」という部分は、人魚が手水鉢のかわりにめだか鉢をたたこうとしたところへ、うしろから黒子があらわれて手のない人魚にかわって柄杓を持ちあげたたいてくれたという筋書きが、あまりいいおもいつきではなかったかなと作者が自嘲しているのでしょうか、う~ん・・・

 座っている人魚はともかく、立っている人魚はこれまたちと怖い。ましてや髪振り分け・・・

 しかし、その髪の毛の一本一本、また鱗模様の繰り返しとその数の多さ、尾鰭の細かさと彫師の手並みは見事です。

2023年6月28日水曜日

箱入娘面屋人魚 その27

P14P15 国立国会図書館蔵

P14

(読み)

ヲゝそれよ王れハいやしき

おおそれよわれはいやしき


人 魚 奈れどもおつとを思 ふ

にんぎょなれどもおっとをおもう


袮ん力 ハ奈ど可梅 可゛え尓

ねんりきはなどかうめが えに


おとるべき

おとるべき


それハ手おもひ三 百  両

それはておもいさんびゃくりょう


こつちハ王川゛可七 八 里やう

こっちはわず かしちはちりょう


多ゞもく里やうといひて可゛

ただもくりょうといいてが


ありそう奈ものおりふし

ありそうなものおりふし


て うづ者ちも奈个れバ

ちょうずばちもなければ


うを尓ゑんある

うおにえんある


め多゛可者゛ち尓て

めだ かば ちにて


ま尓

まに


あ王

あわ

(大意)

「あぁそうですよ、わたしは卑しき人魚ですが

夫をおもう念力はどうして梅が枝に劣ることがあるでしょうか。

あちらは手にも重い三百両、こっちはわずか七、八両。

ただでくれてやるという人がいそうなもの。

手水鉢がみあたらないので、ちょうど目の前にある

魚に縁あるめだか鉢で間に合わせましょう」

(補足)

「ヲゝ」、読めてしまえばなんでもないですけど、結構悩みます。

「奈ど可梅 可゛え尓」、わからないのでいろいろ調べました。「などか」は「反語の意を表す。どうして…であろうか。「―,翁の手におほし立てたらむものを,心に任せざらむ」〈竹取物語〉」が適当でしょうか。

「梅が枝(うめがえ)」は元文四年(1739)浄瑠璃『ひらかな盛衰記』初演の四段目に登場する傾城の名前。無間(むけん)の鐘(静岡県掛川市にあった無間山観泉寺の鐘)はこれを撞くと来世は無間地獄へ堕ちるが、現世では金持ちになれるという伝説。傾城梅が枝がその無間の鐘になぞらえて手水鉢をうつと、三百両の金がバラバラと降ってくる場面があった。

「多ゞもく里やうと」、「く」はここにあるような形もあれば「ム」のようなものもあって、くせものです。

 縁側に落ちているのは小判。枕屏風にかけてある手ぬぐいの紋は梅が枝役をお家芸とした瀬川菊之丞のものとものの本にはありました。

 

2023年6月27日火曜日

箱入娘面屋人魚 その26

P14P15 国立国会図書館蔵

P14

(読み)

平 ニもとより飛んこう尓て

へいじもとよりひんこうにて


あるとき日奈しと多奈ちんの

あるときひなしとたなちんの


多ゝまりと可け合 尓

たたまりとかけあいに


せ可゛まれ奈んきし个る可゛

せが まれなんぎしけるが


女  本゛う人 魚 きの

にょうぼ うにんぎょきの


どく尓思 ひおん

どくにおもいおん


可゛へし尓この金 の

が えしにこのかねの


さい可くせんと

さいかくせんと


思 へども人 个ん

おもえどもにんげん


奈ミでさへ

なみでさえ


御ぞんしのよの中

ごぞんじのよのなか


五 文のくめんも出来ハ

ごもんのくめんもできば


こそさ須可゛里 うぐう

こそさすが りゅうぐう


うまれ由へミせものといふ

うまれゆえみせものという


ち可ミちへき可゛つ可須゛

ちかみちへきが つかず


と川ゝおつ徒志あんして

とつつおつつしあんして

(大意)

平次は言うまでもなく貧乏な者であるが、日済(ひな)しの借金と家賃の払いのたまりの取り立てに難儀していた。それを女房の人魚は気の毒に思い恩返しにと、これらの借金の工面をしようと思ったが、人間でさえ、ご存知の世の中、五文の工面ならばどうにかできるのだが、さすが竜宮生まれゆえ、見世物で稼ごうという近道に気が付かず、あれやこれやと思案して、

(補足)

 P12P13は原本ではどのようなわけか裏返しに摺られたものが製本されています。ですので元に戻したものをP14P15としました。

「飛んこう」、貧公。

「日奈し」、日済し。「日済し金」元利を日割りで返済する,無担保の高利の金。

「多ゝまり」、たまり。

「と川ゝおつ徒志あんして」、読めてもすぐにはなんのことかと?

 煙管一式、火鉢に鉄瓶と枕屏風。奥にはすだれと桶にお盆のようなもの。貧乏世帯の長屋にしては清貧の趣が感じられます。

 

2023年6月26日月曜日

箱入娘面屋人魚 その25

P11 国立国会図書館蔵

(読み)

〽平 次人 魚 ハ奈尓をくふもの可

 へいじにんぎょはなにをくうものか


志らざりし可゛やう\/

しらざりにが ようよう


思 ひ多゛しあ可本゛うふりを

おもいだ しあかぼ うふりを


と川てきてく王せる

とってきてくわせる


これ人 魚 と

これにんぎょと


金 魚 の

きんぎょの


まち可へ奈り

まちがえなり


〽王川ちや

 わっちや


そん奈

そんな


ものハいや

ものはいや


らく可ん可

らくがんか


おこし可゛

おこしが


いゝよ

いいよ


とハ

とは


さす可゛

さすが


鯉(こい)の子の

  こい のこの


志よく

しょく


このミ奈り

このみなり

(大意)

平次は人魚が何を食うか知らなかったが

やっと思い出し、赤ボウフラを取ってきて

食わせました。人魚と金魚を間違えてのことでした。

「わっちはそんなものはイヤ。落雁かおこしがいいよ」

という、さすが鯉の子は食通である。

(補足)

「奈尓をくふもの可」、「尓」と「ふ」がそっくり。文脈から読むしかありません。

「思ひ多゛し」、「思」のくずし字を「と」と読んでしまいました。確かにすぐ左隣の「と」と似ています。

 踏み台をちゃぶ台にして向かい合ってボウフラを食わせているところは滑稽です。踏み台の飾り窓が金魚鉢のように見えるのは洒落でしょうか。舟にあがったお鯉を見たときから何かが変だと思っていたのですけど、お鯉の後ろ姿を見て気づきました。尾鰭はあっても背鰭・胸鰭・腹鰭や臀鰭がないのです。せめて腕代わりに胸鰭があれば格好がついたのにとは素人の鯉談義。

 

2023年6月25日日曜日

箱入娘面屋人魚 その24

P11 国立国会図書館蔵

(読み)

〽さて平 二ハ人 魚 を女  本う尓して袮もの

 さてへいじはにんぎょをにょうぼうにしてねもの


可多りに二 おやにすてら連し王け

かたりにふたおやにすてられしわけ


をきゝ多゛ん\/ふびんまさり

をききだ んだんふびんまさり


きゝおよびてミせものし奈ど

ききおよびてみせものしなど


そう多゛ん尓くれども平 二よく尓

そうだ んにくれどもへいじよくに


者奈連て志やうちせ須゛人 魚 を

はなれてしょうちせず にんぎょを


い多ハり个る

いたわりける

(大意)

さて平次は人魚を女房にして寝物語に

ふた親に捨てられた訳をきいて

だんだん不憫がつのり

どこから聞き及んだのか見世物師などが

相談に来るのだが、平次は欲に

目もくれず承知することなく

人魚をいたわりました。

(補足)

 破れた壁の下地がのぞいています。実際そうだったのかは別として、貧乏長屋や小屋の壁を描くときの基本技。手紙などの反故(ほご)を貼って隠してあります。昔も今も同じです。

 

2023年6月24日土曜日

箱入娘面屋人魚 その23

P11 国立国会図書館蔵

(読み)

一ツ犬 きよを本へて万 犬 志゛川をつ多ふと

いっけんきょをほえてばんけんじ つをつたうと


仏経(ぶつきやう)尓もいへるごとく王れも\/ とおし可け

   ぶっきょう にもいえるごとくわれもわれもとおしかけ


やく飛゛やうよけのふ多゛をこひけ連バ平 二も

やくび ょうよけのふだ をこいければへいじも


あぐミ者て人 魚 を女  本うにし多と者゛可\/

あぐみはてにんぎょをにょうぼうにしたとば かばか


しくうちあけてもい王れ須゛せん可多奈く

しくうちあけてもいわれず せんかたなく


やくびやう神 のぶん尓して志まひ个るも

やくびょうがみのぶんにしてしまいけるも


おかし可りき

おかしかりき

(大意)

「一犬虚を吠えて万犬実を伝う」と仏教の経典でも言われているように

我もわれもと押しかけ、疫病除けの札を請われて、平次もどうしようもなく

もてあましてしまいました。人魚を女房にしたと打ち明けてもバカバカしく言うこともできず、しかたなく疫病神のせいにしてしまったのだが、それもおかしなことであった。

(補足)

「一犬虚を吠えて万犬実を伝う」、一人がでたらめを言うと,多くの人々がそれを真実として伝えてしまうものだというたとえ。

「仏経」、仏教の経典。お経。

「いへるごとく」、「ごと」は合字。

 こんにちわ〜っと平次の長屋の戸をあけて、こんな食事風景が飛び込んできたら、きっと卒倒すると思います。

 

2023年6月23日金曜日

箱入娘面屋人魚 その22

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

此 のちつりふ年平 次やどと

こののちつりふねへいじやどと


可き多るふ多゛を者りおくべし

かきたるふだ をはりおくべし


志可る内 へハ王れち可川てハいる

しかるうちへはわれちかってはいる


まじといひおしへ王可れ个るよし

まじといいおしえわかれけるよし


世こぞ川ていひい多し

よこぞっていいいだし


札 を可いてもらハんと

ふだをかいてもらわんと


大 せい平 ニ可うちへ

おおぜいへいじがうちへ


つめ可け个れバ平次

つめかければへいじ


大 尓手こずる

だいにてこずる


〽平 次可しらをうちふ川て

 へいじかしらをうちふって


イヤ\/それハ飛可事 といへとも

いやいやそれはひかごとといえども


ミ奈\/袮川可ら者川可ら

みなみなねっからはっから


せうちせ須゛

しょうちせず


〽平 次さ満く多゛せ

 へいじさまくだ せ


おふ多゛をく多゛せ

おふだ をくだ せ

(大意)

『この後、釣船平次宿と書いた札を貼りおくべし。しかる内(家)には、

われ誓って入るまじ』と言い伝え、別れた」とのことを

世間は盛んに噂した。札を書いてもらおうと大勢、平次の家へ

詰めかけ、平次は大いに手こずった。

「平次は頭をふって「いやいやそれは間違いだ」というのだが

皆は何から何まで承知しませんでした。

「平次様お札を下さい。お札を下さい

(補足)

「札」、平仮名「れ」ではなく、漢字の「札」(ふだ)。

「平二」、「次」が「二」になってしまいました。

「大尓」、「おおいに」なのか「だいに」なのか悩みます。

「飛可事」、「僻事」(ひがごと)。間違いの意。

 平次はくだけて立膝ですが、お札をもらいに着てる面々は正座で、紋付き羽織を着ている人もいます。長屋のおかみさんのような人の髪型がなんか変わっています。

 

2023年6月22日木曜日

箱入娘面屋人魚 その21

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

よの中 のぞくぶ川ども者り本どの

よのなかのぞくぶつどもはりほどの


事 も本゛う本ど尓いゝ

こともぼ うほどにいい


本゛う本どの事 も

ぼ うほどのことも


者しら本ど尓いふ可゛

はしらほどにいうが


尓んじやうつりふ年の

にんじょうつりふねの


平 次可゛人 魚 を

へいじが にんぎょを


とも奈い可へり

ともないかえり


し事 多れいふ

しことだれいう


と奈くつり舟

となくつりふね


の平 次ハ品 川

のへいじはしながわ


おきてやくびやう

おきでやくびょう


可ミ尓さ可奈を

かみにさかなを


ふるまひそのおんを

ふるまいそのおんを


むく由る

むくゆる


多め尓いへるハ

ためにいえるは

(大意)

世の中の俗物どもは、針ほどの事も棒ほどに言い、棒ほどの事も柱ほどに言うのが

世の常である。釣船の平次が、人魚を伴い帰ったことは、誰が言うとなく

「釣船の平次は品川沖で疫病神に魚を振る舞い、その恩に報いるために

(補足)

 火鉢脇のどこかデレデレ状態の人物左腕肘に「平」とあります。

 

2023年6月21日水曜日

箱入娘面屋人魚 その20

P8P9 国立国会図書館蔵

P9

(読み)

〽春゛いふん多いても

 ず いぶんだいても


袮やう可゛さ可奈

ねようが さかな


多゛可つて入 る

だ かってはいる


ときハま多

ときあまた


多゛可つて出ると

だ かってでると


いふ可らゑんぎ可

いうからえんぎが


王りい

わりい


〽此 とし尓奈川て

 このとしになって


女 本 うせんさくハ

にょうぼうせんさくは


きさ満の可ら多゛

きさまのからだ


じやァ袮へ可

じゃぁねえが


おひれの可゛くもんじや

おひれのが くもんじゃ


ぬしの口 さきのつり

ぬしのくちさきのつり


者り尓かゝ川ちやァ

ばりにかかっちゃぁ


あべこへ多

あべこべだ

(大意)

「何度も抱いて寝てやっても良いが

魚抱いて床に入ったときは、また抱いて床から出るというから

縁起が悪い」

「この歳になって女房を見つけようとは

おめぇの体じゃねぇが、余計なこった。

おめぇの口先の釣り針にかかっちゃぁ

あべこべだ」


(補足)

「さ可奈多゛可つて入るときハま多多゛可つて出る」、〔「礼記」『大学』の「貨悖而入者,亦悖而出」(貨悖(たからさか)って入っては、また悖(さか)って出ず)〕不正をして手に入れた財貨は,身につくことなく,すぐなくなってしまう。悪銭身につかず。なんとも高尚な洒落であります。

 平次のうわっぱりがボタンどめのようになっています。また股引も足首のところで締めています。この当時の漁師の姿なのでしょうか?足元には煙管一式がおいてあります。

 う〜ん、何遍見てもおこいはなんとも奇妙です。

 

2023年6月20日火曜日

箱入娘面屋人魚 その19

P8P9 国立国会図書館蔵

P9

(読み)

奈ん本゛から多゛可゛うをでも

なんぼ からだ が うおでも


つりふ年の平 次すこし

つりふねのへいじすこし


う可れのいろミへてまん

うかれのいろみえてまん


ざらても奈ひと思 ふ

ざらでもないとおもう


〽和多しハな人 魚 といふて

 わたしはなにんぎょというて


大 事奈ひものさどうぞ

だいじないものさどうぞ


ぬしの可ミさん尓して

ぬしのかみさんにして


くん奈多゛ひて袮てくん奈

くんなだ いてねてくんな


きハ奈し可へ

きはなしかえ


〽人 魚 ハぶんごふしの事 可い

 にんぎょはぶんごぶしのことかい


奈といふミ尓ていちやつく

なというみにていちゃつく

(大意)

しかし、いくら体が魚でも、釣船の平次は

いくらかウキウキした色目でながめ、

まんざらでもないとおもう。

「わたしはな、人魚というてたいしたものではないのさ。

どうぞ主(ぬし)のかみさんにしてくんな。

抱いて寝てくんな。

気はなしかえ〜」

「人魚は豊後節の(哀切たっぷりに)決め台詞『事かいな』と、

身をくねらせてにじりよる」

(補足)

「大事なひものさ」、大事な(鯉の)干物ではなく、大事無い。

豊後節はものの本には以下のようにありました。

当時流行した音曲をたとえる諺に「河東上下、外記袴、半太羽織に義太股引、豊後かわいや丸裸」というのがあった、哀調に富み、訴えるような曲調の豊後節は口説きかけるようであり、また人魚は丸裸だから豊後節のように言い寄るということである。

  洒落を理解するのもそれ相応の下地がないとちんぷんかんぷんであります。

 

2023年6月19日月曜日

箱入娘面屋人魚 その18

P8P9 国立国会図書館蔵

P8

(読み)

これハこれ可の

これはこれかの


うらしまと

うらしまと


こいとの奈可尓

こいとのなかに


でき多る人 魚

できたるにんぎょ


此 沖 尓て人 と

このおきにてひとと


奈り者やとしも

なりはやとしも


十  七 八 尓天

じゅうしちはちにて


本んまの人 間

ほんまのにんげん


奈らいろざ可り

ならいろざかり


いぢ王るく可本ハ

いじわるくかおは


ろこう尓万 きく

ろこうにまんぎく


とじやく尓ぐ尓や

とじょくにぐにゃ


とミをべ尓おし

とみをべにおし


ろいでぬ多尓し多る

ろいでぬたにしたる


ごとく尓うつくし个れハ

ごとくにうつくしければ

(大意)

が、これはこれは、かの浦島と鯉との

あいだにできた人魚ではないか。

この沖で人となり、はや歳も十七八にて、

ほんとうの人間ならば、一番の娘盛り。

ちょと意地悪にいうと、顔は(歌舞伎の有名な女形の)路考(ろこう)・万菊(まんぎく)・杜若(とじゃく)・ぐにゃ富をあわせて、紅白粉で塗りたくったような美しさである。

(補足)

「人間」、「間」のくずし字は「門」が上にきて、「日」が下にとふたつに分かれます。

「ろこう尓万きくとじやく尓ぐ尓やとミ」、読めてもサッパリ?当時有名な若女形歌舞伎役者の名前でした。路考茶は着物の色として二代目瀬川菊之丞(ここの話に出てくるのは三代目)が着てその名を残しています。

「ぬ多尓し多るごとく」、料理の「ぬた」なんてことはないので、「塗りたくる」かと。「ごと」は合字。

 舟に飛び込んだお鯉、じっと見るもやはり奇妙な人魚です。デンマークの人魚像をみたことがありますが、なんの違和感もありませんでした。腰から上はまったくの人間で、見ようによっては細長いスカートをはいた裸婦像とも言えます。しかし、お鯉は別物、魚姿九割五分であります。

 平次の小舟はとても良くできていて立派です。お鯉は一番ステキな舟を見つけてそれに飛び込んだのかもしれません。

 

2023年6月18日日曜日

箱入娘面屋人魚 その17

P8P9 国立国会図書館蔵

P8

(読み)

こゝ尓又 可ん多゛の八 丁  本゛りの

ここにまたかんだ のはっちょうぼ りの


遍ん尓つりふ年の平 次と

へんにつりふねのへいじと


いふものありつ年ニおきつりを

いうものありつねにおきつりを


可ぎやうニしてくらし个る可゛

かぎょうにしてくらしけるが


あるとき志奈川 おき尓て

あるときしながわおきにて


可ミをミ多゛せし女  の

かみをみだ せしおんなの


者けもの舩 中  へとびこミ

ばけものせんちゅうへとびこみ


何 可むしや\/ くらふ由へ

はにかむしゃむしゃくらうゆへ


きもを

きもを


つぶし个る可゛

つぶしけるが

(大意)

ここにまた、神田は八丁堀のあたりに

釣り船の平次というものがいた。つねに

沖釣りを家業にして暮らしていたが、

ある時、品川沖にて、髪を乱した女の化け物が

船中に飛び込み、何かむしゃむしゃ食っているので

肝をつぶした。が、

(補足)

「八丁本゛りの遍ん尓」、変体仮名「遍」(へ)、ちょっと「道」のくずし字ににています。

「つりふ年」「つ年二」、「年」のくずし字は「◯」+「ゝ」で英字「Q」のような形で変体仮名も同じような形です。

「何可むしや\/」、「何」のくずし字はよく出てくるのですけど、ちょっと苦手で悩むことが多い。

 前の頁からここをひらくと目に飛び込んでくるのがなんとも強烈。西洋の人魚は腰から上が人間で下は魚なので、まだ人間味がありますけど、ここのは首だけ人間で、あとはまったくの魚、目を何度もパチパチさせてしまいます。人面魚というのはここからはじまったのかもしれません。

 

2023年6月17日土曜日

箱入娘面屋人魚 その16

P6P7 国立国会図書館蔵

P7

(読み)

〽アゝおれも

 ああおれも


里 うぐうもので

りゅうぐうもので


奈くハあハれ王れを

なくばあわれわれを


そ多゛てあげ天

そだ てあげて


ふきや丁可゛ し可

ふきやちょうがしか


両  ごくへ出せバき川と

りょうごくへだせばきっと


おちをとる可゛

おちをとるが


ぜひ奈くおしひものを

ぜひなくおしいものを


すてるぞせいじんの

すてるぞせいじんの


のちも可奈らず

のちもかならず


ミせものし尓

みせものしに


ミつ可らぬやう尓

みつからぬように


しろ

しろ

P6

〽者やく

 はやく


ちやう

ちょう


ちんを

ちんを


もつて

もって


ごされ

ござれ


あ可子の

あかごの


こゑ可゛

こえが


しま須

します

(大意)

「あぁ、俺も竜宮者でなければ

いとしいおまえを育てあげ

葺屋町河岸か両国へ出せば

きっと評判をとるだろう。

やむを得ず惜しいことだが捨てるぞ。

成人したあとも、きっと見世物師に

見つからないようにしろよ。」

「早く提灯をもってきてください。

赤子の声がします。」

(補足)

「里うぐう」、「ぐ」が「ム゛」にみえます。

「おしひものを」、「し」がわかりにくい。

「ミつ可らぬ」、ここの「つ」は平仮名。前の行の「つ」は変体仮名「川」でした。

 浦島太郎は波柄のしゃれた着流し、でもそのうえから腰蓑をして、どこまでも漁師にこだわります。

 

2023年6月16日金曜日

箱入娘面屋人魚 その15

P6P7 国立国会図書館蔵

P7

(読み)

里 う王うへ

りゅうおうへ


きこ由る

ここゆる


ときハ

ときは


両  人 可゛ミの

りょうにんが みの


大 事と

だいじと


ふびん奈可゛ら

ふびんな がら


人 志れ須゛

ひとしれず


とある

とある


所  へすて

ところへすて


个るぞ

けるぞ


う多て

うたて


个れ

けれ


〽よまハりの

 よまわりの


うをども

うおども


きをつける

きをつける

(大意)

竜王の耳に入ってしまったときは

ふたりの身に危険がおよんでしまう。

不憫ではあるが、人知れずに

とある所へ捨ててしまったのでした。

心が痛むのでした。


夜回りの魚どもが気が付きました。

(補足)

 「わ」の変体仮名は「王」で「己」のような形です。P4に「里う王の二代め者゛可つら里う王う」とあって漢字の「王」は変体仮名のかたちではなく、普通にくずした形になっています。

「う多て个れ」、「う」が「こ」にもみえるし、「うたて(し)」の意味も?辞書に『 気の毒だ。心が痛むほどである。「宮の御運のほどこそ―・けれ」〈平家物語•4〉』とありました。

 浦島太郎は人魚の赤ちゃんを抱いてます。脇の道標には「右源兵衛澪(げんべえみお) 左天王洲(てんのうず)」とあって、場所は天王洲の近く、品川沖のよう。人魚の赤ちゃん、もっとそれらしく描くことができたとおもうのですが、とってつけたような頭だけの赤ちゃんの前髪が切りそろえられていて一直線、ニコニコ顔です。

 

2023年6月15日木曜日

箱入娘面屋人魚 その14

P6P7 国立国会図書館蔵

P6

(読み)

いろ\/心  を

いろいろこころを


い多めひそ可尓

いためひそかに


うませ个る尓

うませけるに


あさ満しや

あさましや


人 个んと

にんげんと


うをとの

うおとの


中 尓てき多る

なかにできたる


子奈連ハ

こなれば


可しらハ

かしらは


人 尓て

にとにて


可ら多ハうを

からだはうお


奈りこれ

なりこれ


い王由る

いわゆる


人 魚 奈るへし

にんぎょなるべし


志可る尓此 事

しかるにこのこと

(大意)

いろいろ心を痛め、ひそかに産ませることにしました。

驚くことに、人間と魚とのあいだにできた子なので

頭は人間で体は魚なのでした。これは

いわゆる人魚でありましょう。

しかしながら、このこと

(補足)

「人个んと」、すぐには読めません。「人」が平仮名なのか漢字なのか、「个」はわかる。次の「ん」も「人」に似て悩みます。「と」は「を」にも見えるし。わからなまま次の行にすすむと「うをとの中尓てき多る」とあって、「人間と」と納得。

 中国(朝鮮?)風の衣装の二人、ひとりは提灯を持ち日本のものではなくあちら風。二人は夜回りで赤ん坊の声がするほうに急ごうとしているところのようです。

 波頭がくだけるのはひとつふたつで、沖の大きなうねりが描かれています。

 

2023年6月14日水曜日

箱入娘面屋人魚 その13

P6P7 国立国会図書館蔵

P6

(読み)

扨 もうら志まとこいとの中

さてもうらしまとこいとのなか


志奈川 のせ川ちんよりこうじ

しながわのせっちんよりこうじ


町 の井戸よりもふ可く奈り

まちのいどよりもふかくなり


古ん尓こんをそめこミて

こんにこんをそめこみて


るりこんのこひぢと

るりこんのこいじと


奈り二尺  五寸 の

なりにしゃくごすんの


手ぬくひ

てぬぐい


地可ぶら尓や

じかぶらにゃ


奈らぬ王けと

ならぬわけと


奈りつい尓

なりついに


こいハミごもり

こいはみごもり


个れハうら嶋 も

ければうらしまも

(大意)

 さて、浦島と鯉との仲は、

品川の雪隠(せっちん)より、

麹町の井戸よりも深くなり、

紺に紺を染め込んで、瑠璃紺の恋路となり

二尺五寸の手ぬぐいを被らねばならなく訳

となったのでした。ついに鯉は身ごもり、

浦島も

(補足)

「志奈川のせ川ちん」、当時品川宿の街道のすぐ脇は海でした。便所はその海辺につきだして造られていて、その下の海まではかなり深かった。

「こうじ町の井戸」、麹町は高台に位置していて、井戸は深く掘らなければなりませんでした。

「こひぢ」、ここも瑠璃紺の「生地」に掛けています。

「二尺五寸の手ぬくひ地可ぶら尓や奈らぬ王け」、布地の寸法を測るのに使われていた鯨尺(くじらじゃく)で約37.879cm。現在でも鯨尺の物差しは販売されています。駆け落ちやこっそり姿を隠し逃げたりなどするときに頬被りする手ぬぐい。手ぬくひ地も「地」と韻をふんでいます。

 

2023年6月13日火曜日

箱入娘面屋人魚 その12

P4P5 国立国会図書館蔵

P5

(読み)

を一ツしやう多川多

をいっしょうたった


ぞへ多とへ此 身ハ

ぞえたとえこのみは


いとつくり尓され

いとづくりにされ


いりさけて

いりざけで


く王れても

くわれても


可ハらぬ

かわらぬ


心  ハこく

こころはこく


志やうで

しょうで


の本゛り

のぼ り


つめ多る里やう門 のうちで

つめたるりゅうもんのうちで


せ可るゝ多きの水 奈らふ

せかるるたきのみずなろう


事 奈らぬしの所  へとんで

ことならぬしのところへとんで


行 多ひ奈んの可のとひ里やう

ゆきたいなんのかのちひりょう


とも奈らん思 ひ尓て里 うぐうの

ともならんおもいにてりゅうぐうの


こひち多゛けちひろの

こいじだ けちひろの


そこのそこ志れぬ

そこのそこしれぬ


ふ可き中 とそ

ふかきなかとぞ


奈り尓

なりに


个る。

ける

(大意)

(落雁)を一生断ったぞえ。たとえこの身が糸作りにされ、

煎り酒で食われても、変わらぬ心は濃(or恋or鯉)醤で、

上りつめたる竜門の、うちでせかるる滝の水、

なろうことなら、主のところへ飛んで行きたい」。

なんのかのと言っても、飛龍にでもなれたらと思い、

竜宮での恋路だけに、とっても深く底しれぬ深さの、

深い中になったのでありました。

(補足)

 お鯉うが吐露する恋心、途中から五七調でリズムよく刻まれて、ぺぺんぺんぺんと講談調になってゆきます。声を出して読むと気分がよい。

「こく志やう」、濃い醤油のように心は変わらぬ。濃いはもちろん「恋」と「鯉」に掛けているのでしょうけど鯉こくを醤油で食うのに引っ掛けているのがなかなかしゃれています。濃醤という鯉を味噌汁のように煮込んだ濃い味の料理もあるようですけど。

 わたしたちのこの恋を妨げるような激しい滝の水をやっとのおもいでのぼって竜門をこえて上りつめたけど、あぁ、ここからは龍になってあなたのところへ飛んで行きたい。

「一ツしやう多川多ぞへ」、何度か繰り返して読んで、ようやくわかりました。

「こひち多゛け」、「こ」が「丁」のようになっています。さて?

漢字のくずし字がいくつか出てきます。「此身」「心」「門」「水」「所」「行」「思」。どれも基本的な漢字のくずし字で重要です。

 箱行灯のように見えるのはそば屋「海原」の岡持ち。「さらし那」とあります。

 椀を持って階段から上ってくる鯰(なまず)女中は遣手婆(やりてばばあ)。鯰はもちろん利根川の名物。

 海の底、波間の下に栄える新地だけど、頁の底には荒れる海原が描かれています。


2023年6月12日月曜日

箱入娘面屋人魚 その11

P4P5 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

〽そう志゛つ

 そうじ つ


らしく

らしく


い川ても

いっても


てまへハ

てまえは


もと与り

もとより


さ可奈多

さかなだ


可ら可奈ら

からかなら


ずおれをこけ尓

ずおれをこけに


する奈よ

するなよ


〽ぬしハ

 ぬしは


そのやう尓

そのように


う多可ひ

うたがい


奈者る可ら

なはるから


王つち可゛此

わっちが この


む年を

むねを


あらひ

あらい


こい尓

こいに


して

して


ミせ

みせ


多ふ

とう


ごさり

ござり


やす

やす


琴高(きん可う)

   きんこう


仙 人 さん尓

せんにんさんに


く王ん可けてらく可゛ん

が んかけてらくが ん

(大意)

「そうやって真心込めて好きだと言ってくれても、おまえはもともと魚だから

絶対におれをこけ(苔)にするなよ」

「ぬし(主)はそのように疑いなはるなら、わっちのこの胸を洗い鯉にして

みせとうござりやす。琴高仙人さんに願掛けして落雁(を一生断ったぞえ)」

(補足)

いつもながら「可」「ら」「う」「ろ」は区別がしにくい。「り」も。

太郎は漁師なので腰蓑はかかせません。座敷奥には竿と魚籠があります。

お鯉のの頭の鯉はとても念入りに描かれていていまにもすぐ泳ぎだしそう。

屏風の字が読めません「?事聞風雪 ?渓」。

 

2023年6月11日日曜日

箱入娘面屋人魚 その10

P4P5 国立国会図書館蔵

P5

(読み)

御そんし

ごぞんじ


のいろ

のいろ


男  あり

おとこあり


ゑよう

えよう


ハもち

はもち


の可ハ可の

のかわかの


うつくしひ

うつくしい


おとひめも

おとひめも


すこ者奈尓

すこはなに


つきこの

つきこの


ころハ

ころは


ひそ可

ひそか


尓この

にこの


中 すへ志のひ

なかすへしのび


き多り可の

きたりかの


志ごく

じごく


のうち尓て

のうちにて


うつくしき

うつくしき


と袮川 やの

とねがわやの


お鯉(り)のといふ

おり   のという  


本つとりものと

ぽっとりものと


あい本れ尓て

あいぼれにて


多可い尓志年志奈ふ

たがいにしねしなぬ


里やうられやう

りょうられよう


尓ら連やふと

にられようと


いふ中と

いうなか


奈る

なる

(大意)

御存じの色男がおりました。

栄燿(えよう)は餅の皮、かの美しい乙姫も

少し鼻につきだして、この頃は

ひそかにこの中洲へ忍んで来ていました。

例の地獄(素人売春婦)のなかに、

美しい利根川屋のお鯉のというぽっとり者(愛嬌があり色気もある女)と

相思相愛の互いに死ね死なぬ、料理されようが煮られようが

想いは変わらぬという中になりました。

(補足)

「栄燿(えよう)は餅の皮」、「栄燿」は贅沢をすること。ぜいたくになれて,餅の皮まで剝いて食べる。この上ないぜいたくのたとえ。

「うつくしひ」「うつくしき」、ここの「く」は、下半分が「ム」のように水平になっているのでわかりにくい。

「すこ者奈尓」、「こ」と「と」は区別しにくいです。「少」(すこ)。

「里やうられやう尓ら連やふと」、「尓ら連やふと」が煮られようとわかって、「里やうられやう」がわかりました。

 利根川(現在の江戸川)の鯉が当時名物であったので、利根川屋のお鯉のとしたとものの本にはありました。

 

2023年6月10日土曜日

箱入娘面屋人魚 その9

P4P5 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

可くて

かくて


奈可ず可゛

なかずが


ふ多ゝび

ふたたび


里う

りゅう


ぐうの

ぐうの


せ可いと

せかいと


奈り

なり


者んじやうする尓

はんじょうするに


つけてハいつと

つけてはいつと


奈くうつくしひ

なくうつくしい


ちや屋

ちゃや


女  可゛でき

おんなが でき


これを

これを


至極(しこく)

   しごく


\/

しごく



奈づけ金 魚(ぎよ)

なづけきんぎょ


ぎん魚 を

ぎんぎょを


せしめ个る

せしめける


〽こゝ尓又

 ここにまた


可多しけ奈くも

かたじけなくも


とう里 うくう可いの

とうりゅうぐうかいの


おや玉 志や可つら

おやだましゃかつら


里 う王 の二代

りゅうおうのにだい


め者゛可つら

めば かつら


里う王 うの

りゅうおうの


御そく女

ごそくじょ


おと

おと


飛めの男  め可け尓

ひめのおとこめかけに


うらしま太郎 とてミ奈さ満

うらしまたろうとてみなさま

(大意)

かくて、中州が再び竜宮の世界となり、

繁盛するにいたって、いつともなく

美しい茶屋娘があらわれ、これを「至極」と

名付け、金魚銀魚を自分のものにしてしまった。

 そしてここにもまた面目なく、当竜宮界の親玉沙羯羅(しゃかつら)竜王の

二代目バカ面竜王のご息女乙姫の男妾に

浦島太郎という皆様(ご存知の色男がおりました。)

(補足)

 場面は波間の下の竜宮の中洲新地にある地獄(至極)屋、利根川屋の2階。地獄とは中洲の素人売春婦でそれをかかえていた料理屋茶屋などが地獄屋。

 金魚とは踊り子の総称で、東両国回向院前に金猫・銀猫と呼ばれた私娼がいたのにかけて、竜宮バージョンで金魚銀魚としたと、ものの本にはありました。

 黄表紙や洒落本滑稽本など、江戸のごく狭い地域でしか通じない、言い回しや店の名前やそのときの流言などが引っ掛けて語られるので、なかなか簡単には理解できません。このあとの話もそのような引っ掛けだらけです。

「志や可つら里う王」、読めても「沙羯羅竜王」とはすぐにはわかりませんし、こんな王様はじめて知りました。

 

2023年6月9日金曜日

箱入娘面屋人魚 その8

P3 国立国会図書館蔵

(読み)

海馬(可い者)のきよくのりとびうをのつ奈王多り

   かいば のきょくのりとびうをのつなわたり


者満ぐり可゛志んきろうをふくミせもの

はなぐりが しんきろうをふくみせもの


多この八 人 个゛い奈ぞさ満\/いろ\/の

たこのはちにんげ いなぞさまざまいろいろの


志由可うを出しぜ尓をせしめんと飛し

しゅこうをだしぜにをせしめんとひし


めくよく心 ハ水 のそこまで

めくよくしんはみずのそこまで


お奈し事 奈り〽ふぐ者可りあつめて

おなしことなり ふぐばかりあつめて


きりミせ可゛できる个゛な

きりみせが できるげ な


おらもち川と

おらもちっと


て川本゜うを

てっぽ うを


者奈し尓

はなしに


由く

ゆく


へい

べい


〽志んきろうといふハ

 しんきろうというは


らうそく

ろうそく


の見せ

のみせ


もの

もの


しや

じゃ


袮へ

ねえ


(大意)

 海馬の曲乗り、トビウオの綱渡り、

蛤が蜃気楼を吹く見世物、

蛸の八人芸など様々色々の

趣向を凝らして、銭を稼ごうとひしめく。

金欲物欲はここ水の底でも同じである。

「フグばかり集めて、切見世ができそうだ。

おらもちっと、鉄砲を放しにゆくべ。

「蜃気楼というのは蝋燭の見世物じゃ

ねえのか

(補足)

海馬(かいば)はここではタツノオトシゴのことではなくてオットセイ。

蛤の蜃気楼は中国の故事で大蛤が吐く気で海中に楼台の形が現れること。

 切見世は岡場所や吉原のそばにあった最下級の店。安女郎で梅毒に当たったことを鉄砲をうつに引っ掛けている。フグにあたるとはフグの別名「鉄砲」に由来するとも言われるが逆もあり。諸説あるようです。

 日露戦争のとき戦場の兵士は「気象庁\/\/」と唱えながら戦ったとか。敵の玉が当たらないおまじないだったらしい。しかし、しばらくすると気象庁の予報も精度が上がり、つまり「たまにあたる」ようになって、すぐにおまじないは効かなくなったようです。

 「飛しめくよく心は水のそこまで」、変体仮名「飛」(ひ)と「心」のくずし字がとても似ています。が、よくみると変体仮名「飛」は「ミ」の最後を引きずって右へ流れていますが、「心」は「云」を変形させたような形です。

 蛤蜃気楼の店の前で口上を述べているのは木戸札、下の籠にもたくさん入っています、を手にしている木戸番。見せ前の提灯が邪魔してそのうしろの幟が読めません。「志」からはじまっていますけど何でしょう?気になります。

 

2023年6月8日木曜日

箱入娘面屋人魚 その7

P2 国立国会図書館蔵

(読み)

右 のごとくきのふまて尓ん个ん可いの連う

みぎのごとくきのうまでにんげんかいのりょう


ぶん尓てありし中 ずも个 ふハ多ちまち里 う

ぶんにてありしなかずもきょうはたちまちりゅう


ぐうの志者い志よと奈り个れハま川゛奈ミを

ぐうのしはいしょとなりければまず なみを


ふミ可多めの多め里 う王 よりの

ふみかためのためりゅうおうよりの


御由るし尓て見世もの志者゛ゐ

おゆるしにてみせものしば い


水 ちや屋やうきう者゛ 奈とを

みずちゃやようきゅうば などを


志つらひ志んち奈りしときの

しつらいしんちなりしときの


尓ぎハひ尓おさ\/おとらぬ

にぎわいにおさおさおとらぬ


ハんじやう奈り

はんじょうなり


(大意)

このようにきのうまで人間界の

領分であった中洲も、きょうはあっという間に

竜宮の支配するところとなってしまった。まずは

てはじめとして竜王より

お許しを得て、見世物や芝居の小屋、水茶屋、楊弓場などが

しつらえられ、人間界の中洲新地であったときの

賑わいにほとんど劣らぬ

繁盛である。

(補足)

 竜宮の中洲新地で楽しむ魚や貝やイカなど海中人たちは頭にそれぞれ区別のための印をのせています。これは現代でも幼稚園や小学校の学芸会で同様のこと、輪っかに自分の演じる生き物などを目立たせたものを頭にのせています。

 三重の丸は「土弓」。幟は「蛸八人藝」「海馬曲騎」。

 

2023年6月7日水曜日

箱入娘面屋人魚 その6

P2 国立国会図書館蔵

(読み)

く王んせいの今 尓い多りても

か んせいのいまにいたりても


五分本どもち可゛ひ奈くよく

ごぶほどもちが いなくよく


あて奈さ川多うそハ奈可ず

あてなさったうそはなかず


志んちもふ多ゝびもとの奈可゛れ

しんちもふたたびもとのなが れ


と奈る事 ふちハせと奈りせハふちと

となることふちはせとなりせはふちと


奈りのぞき可らくりの可ハるよりも

なりのぞきからくりのかわるよりも


者やくこれとさ多め可゛多きハ个尓うき

はやくこれとさだめが たきはげにうき


よのありさ満奈りヲゝそれよ可う

よのありさまなりおおそれよこう


里く川くさくいふのでハ奈可川多さて

りくつくさくいうのではなかったさて

(大意)

寛政の今に至っても少しも違うことなく、よく

言い当てたものだ。嘘だったのは、中洲新地

も再びもとの流れに

もどった事。淵は瀬となり瀬は淵と

なり、のぞきからくりの変わるよりも

はやく変わってしまう。万物変化する、なるほどこれが

現実というものだ。おっとそれを

こう理屈っぽくいうのではなかった。さて

(補足)

「五分本ども」、くずし字を学びだすと必ず一〜十、壱弐参・・・のくずし字を学びます。その中でも「五」は特徴的な形です。「分」のくずし字は「ミ」+「丶」のような形。

 中洲新地は1771年(明和八年)に隅田川と箱崎川の分岐点を埋め立てて造成した繁華街でしたが、20年も経ずして1789年(寛政元年)に取り払われました。この頁の絵はその中津新地を竜宮に移した架空のもの。

 

2023年6月6日火曜日

箱入娘面屋人魚 その5

P2 国立国会図書館蔵

(読み)

かもの長  明 可゛方丈(者うじやう)

かものちょうめいが    ほうじょう


の記(き)尓由く川 の奈可゛れハ

の  き にゆくかわのなが れは


多え須゛して志可ももと

たえず してしかももと


の水 尓あら須゛与どミ尓

のみずにあらず よどみに


う可ふう多可多ハ可川

うかぶうたかたはかつ


きへ可川むすびて久 しく

きえかつむすびてひさしく


とゞまる事 奈しとハ昔

とどまることなしとはむかし


建暦(个ん里やく)袮ん中  のせりふ奈れと

   けんりゃく ねんちゅうのせりふなれど

(大意)

鴨長明が『方丈記』に「行く川の流れは

絶えずしてしかももと

の水にあらず。淀みに

浮かぶうたかたはかつ

消えかつ結びて久しく

とどまることなし」とあるのは

昔、建暦年中の科白であるが

(補足)

 この部分の大意はほぼそのまま現在でも違和感がありません。

「長明」、「明」のくずしじは古文書学習で一番最初に覚えるほど頻繁にでてきます。さらに「月」を部品にもつ漢字にほぼこの形が使われますので「月」のくずし字は最重要となります。

「由く川」、この時代の「や」は筆順が一筆書きで「ゆ」のように書くので現在の「ゆ」と間違えやすい。変体仮名「由」(ゆ)は左上から右回りにクルッと丸を書き縦棒になるのですけどその縦棒は中程で必ず揺れますのでわかりやすい。ここの「川」は変体仮名「川」(つ)ではなく、本来の「かわ」。

「多え須゛して」、平仮名「え」はあまりみません。変体仮名「須」(す)も「春」もよく出てきます。

「水尓あら須゛」、「水」のくずし字は、水に形がないように、とらえどころのない形。

「与どミ尓」、「ど」と「ミ」がつながって判別しにくいですが、ゆっくりなぞってみると、ちゃんと「ど」と三本の「ミ」が区別できます。変体仮名「尓」(に)は平仮名「ふ」とほとんど同じ形です。

「う可ふう多可多ハ可川」、方丈記のこの部分を知らないと、初見で読むのはやや難。「う」「可」の形が同じで「尓」「ふ」も似ているので難しい。

「久しく」、これもこの部分を知らないと、「可へし\/」とも読めます。

 

2023年6月5日月曜日

箱入娘面屋人魚 その4

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

当 年 者可゛りハ作 い多しくれ候   やう相 多のミ候  へハ

とうねんばか りはさくいたしけれそうろうようあいたのみそうらえば


京  伝も久  しきちいんの王多くし由へ尓も多しかたく

きょうでんもひさしきちいんのわたくしゆえにもだしがたく


そんしまげて作 い多しくれ候   す奈ハち志やれ本 およびゑさうし

ぞんじまげてさくいたしくれそうろうすなわちしゃれぼんおよびえぞうし


志ん者ん出来候   間  御好 人 さ満ハけ多゛いもくろく御らん

しんぱんできそうろうあいだごこうじんさまはげだ いもくろくごらん


の上 御求  可被下   ひとへ尓奉希      候   以上

のうえおもとめくださるべくひとえにねがいたてまつりそうろういじょう


寛 政 三 ツ亥の春 日 板 元 蔦  唐 丸

かんせいさん いのはるび はんもとつたのからまる

(大意)

今年だけは書いてくれないかと頼んだところ

京伝とは長い間の付き合いのわたくしの依頼を断ることも

できず、無理をして書いてくれることになりました。そうして洒落本や絵草紙

の新作が出来ましたので、ご希望の方は冊子の広告を御覧

の上、お求めくださるよう宜しくお願い申し上げます。

寛政三年 亥の春日 版元 蔦唐丸

(補足)

 最後の年号のところの「ツ」が?です。寛政三年は「辛亥 かのと い (シンガイ)」ですが「辛」のくずし字にはみえません。「年」のくずし字にもみえません。さて?

「当年」、「年」のくずし字はほとんど「◯」+「丶」で「Q」のような感じです。

「者可゛りハ」、濁点「゛」の位置が「者」の右下にきているようにもおもわれますし、次の文字につけるのが流儀だったようにもみえますがさて?三行先に「け多゛い」とあり、これも「外題げだい」で濁点がずれています。しかし二行先の「まげて」は現在と同じ。う〜ん。

「作い多しくれ候」、「候」がカタカナ「ㇳ」に簡略されてます。すぐ下に「候へハ」はよくでてくる形のくずし字です。そして文末の「奉希候以上」では定型文で「候」は形もなくただ長く伸びているだけ。

「ちいん」、知音。辞書をしらべて知りました。

「も多しか多く」、「も多し」は「黙し」。黙するので黙っている無視するということ。

「出来候間」、「間」のくずし字は「門」が冠のようになって「口」が下にきます。少し「る」ににています。

「御好人様」、「ごこうじんさま」としましたけど「おこのみのひとさま」かも。意味はそのまま、ご希望される様方。

「御求可被下」、「可被下」(くだささるべく)は定型文なので、この三文字セットで覚えます。「被」のくずし字が「丶」になっていますが三文字が合字のように一文字なので簡略されてます。

「ひとへ尓」、ここの変体仮名「尓」(に)のくずし字は英字筆記体小文字の「y」。

「奉希候(ねがいたてまつりそうろう)」、これも定型文。このままおぼえます。

 この挨拶文、版元の蔦唐丸こと蔦屋重三郎(つたやじゅうさぶろう)本人が書いているようにおもわれますが、もちろんそうではなくて山東京伝自身が口上もこの黄表紙滑稽本の一部としておもしろく書き述べ、版元承知の上のことでありましょう。

 

2023年6月4日日曜日

箱入娘面屋人魚 その3

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

多ハけのい多り殊 ニ去 春 奈ぞハ世の中 に

たわけのいたりことにさくはるなぞはよのなかに


あしき飛やうきをうけ候   事 ふ可く

あしきひょうぎをうけそうろうことふかく


これらを者ぢ候   て当 年 よりけ川して

これらをはじそうろうてとうねんよりけっして


戯作 相 やめ可 申  と和多くし方 へもか多く

げさくあいやめべくもうすとわたくしかたへもかたく


ことハり申  候  へ共 さやう尓てハ御ひいきあつき

ことわりもうしそうらえどもさようにてはごひいきあつき


王多くし見世き う尓すいひニ相 成 候   事 由へぜひ\/

わたくしみせきゅうにうしひにあいなりそうろうことゆえぜひぜひ


(大意)

(そのようなことは)

愚の骨頂です。ことに昨年の春ごろには世間より

悪い評判をうけてしまいましたことを深く

身にしみ恥じ入りまして、今年より決して

筆はもうとらないとわたくしどもへもはっきりと

断ってきたのですが、そのようなことでは日頃よりあつくご贔屓くださっている

わたくしの店はすぐにかたむいてしまいますれば、どうかどうか


(補足)

「去春」、「春」のくずし字は変体仮名「春」(す)とはことなっています。

「世の中に」、平仮名「に」はあまり目にしません。ほとんどが変体仮名「尓」(に)かこの行にもあるように右下に小さくカタカナ「ニ」です。

「飛やうき」、評議。変体仮名「飛」(ひ)と「心」のくずし字がにていてよく間違えます。「や」が「ゆ」のような筆順で書かれているので間違えやすい。「ゆ」は変体仮名「由」で5行先の「相 成候事由へ」にでてきます。

「者ぢ候て」、読みを「はじそうろうて」としましたが、「候而者」(そうらいては)がありますので「はじそうらいて」かもしれません。

「け川して」、でこぼこしているので変体仮名「川」(つ)としました。

「和多くし方へも」、ここは変体仮名「和」ですが2行先の「王多くし見世」では変体仮名「王」。

「ことハり申候へ共」、「こと」が合字になっていて一文字です。このフォントはありませんが「より」の合字「ゟ」はありまして一文字です。「候へ共」は古文書によく出てくるのは候得共(そうらえども)です。

 

2023年6月3日土曜日

箱入娘面屋人魚 その2

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

まじめ奈る口 上

まじめなるこうじょう


まつも川て王多くし見せの儀おの\/様 御ひゐきあつく

まずもってわたくしみせのぎおのおのさまごひいきあつく


日満し者んしやう仕    ありが多き仕 合 ぞんし奈り候

ひましはんじょうつかまつりありがたきしあわせぞんじなりそうろう


扨 作 者 京  傳 申  候   ハ多ゞ今 まで可りそめ尓

さてさくしゃきょうでんもうしそうろうはただいままでかりそめに


つ多奈き戯さく仕   り御らんニ入 候  へとも

つたなきげさくつかまつりごらんにいりそうらえども


可やうのむゑきの事 尓日 月 および

かようのむえきにことににちげつおよび


筆 紙 を徒いやし候   事 さりとハ

ふでかみをついやしそうろうことさりとは


(大意)

まじめな口上

 まずはわたくしどもの店、皆様方の格別のご贔屓をたまわり

日増しに繁盛しておりますことありがたき幸せに存じ上げます。

さて、作者の京傳という人物はこれまでにどうでもよい

下手糞な戯作をみなさまに御覧に入れてまいりましたが

このような役に立たない事に時間と紙を費やしますこと、そのようなことは

(愚の骨頂です。)

(補足)

「奈る」、「る」は変体仮名「留」。変体仮名「可」「ら」「う」「り」などと間違えることが多く、みなそっくりです。

「まつも川て」、「つ」に濁点「゛」がありませんが、そのへんはいい加減であったりなかったり、次の文字についてしまっていたりと、いろいろ。変体仮名「川」はなんとなく「つ」の平らな部分が凸凹していて元の形が残っている感じ。そのカタカナ「ツ」はちゃんと三本縦棒があります。

「王多くし」、平仮名「く」は現在のものと同じ縦長のもの(この行の一番下)と、カタカナ「ム」のようなかたちのものがあって後者はよく読み違えます。

「御ひゐき」、「御」のくずし字はよく使われるので、たくさんの形があります。ここのはわかりやすい形。

「ありが多き」、平仮名「か」が使われるのは比較的少ないです。

「入候へとも」、「候」が「〃」のようになってます。もっと略して「丶」のときもあります。頻繁につかわれる文字ほど簡略化されます。

「筆紙を徒いやし」、変体仮名「徒」。ここの「筆」のくずし字は「竹」「ヤ」「免」のようにみえます。

 

2023年6月2日金曜日

箱入娘面屋人魚 その1

表紙 国立国会図書館蔵

見返し

(読み)

表紙

寛 政 三

かんせいさん

箱 入 娘  面 屋人 魚

はこいりむすめめんやにんぎょ

京  傳 作

きょうでんさく

重 政 画

しげまさが

合 三 冊

ごうさんさつ


見返し

仙 太郎

せんたろう

(大意)

(補足)

 寛政3年は寛政1年が1789年フランス革命のときなのでその2年後、1791年となります。今から232年前。わたしの母方のおじいさんのおじいさん新三郎さんは天保3年11月6日(1831)生まれですのでそれほど昔々というわけではありません。昔くらいでしょうか。

「箱」は竹冠があります。竹冠のある漢字のくずし字はほとんどが2文字に見えてしまいます。ここの「箱」も「竹」と「相」が離れていて2文字に見えます。どうしてなんでしょうね。

画の重政は北尾重政。Wikipediaを見ると浮世絵や錦絵に大きな影響を与えた絵師とありました。

見返しに挿絵などはなく、本の持ち主か名前のみ。

 さて、話の内容は浦島太郎のパロディのような奇想天外荒唐無稽なものであります。変体仮名読みの学習が目的ですので、文字の読解を第一としています。

 

2023年6月1日木曜日

OURASIMA LE PETIT PÊCHEUR その25

 

裏表紙 個人蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 このちりめん本の裏表紙は擦り切れて穴があいて縁もよれよれになってしまっています。しかし大和綴じの部分はちぎれることなくしっかりとその役目をはたしています。

 裏表紙の絵はなかなかこっています。灯籠流しのような灯火が波間をうねうねと漂い沖へ伸びています。龍神の背びれをおもわせ、波の細かな表情は竜のひげのようにも、姫の髪のようにもみえます。

 長谷川武次郎さんが用いたちりめんの技法は錦絵や浮世絵ですでに使われていたものでした。わたしの手元にあるこの豊原国周(とよはらくにちか)の「開花人情鏡勇婦」

はちりめんにしたもので、平紙のものもあります。両者を比べるとちりめん版のものは特に着物が本物の生地のような風合いがいっそう際立ちます。なんといっても立体感・奥行き感が豊かになり、ふっと手を伸ばすとそのまま絵の中へ入っていけそうな感覚におそわれます。

 長谷川武次郎さんのひ孫さんのお宅にはたくさんの作品や印刷物が現存していて、今後多くの方々に知っていいただけるような形を作りたいと、のぞんでいらっしゃるようです。ありあまる資金がわたくしにあれば喜んでお手伝いするのですが・・・残念です。