P4P5 国立国会図書館蔵
P5
(読み)
を一ツしやう多川多
をいっしょうたった
ぞへ多とへ此 身ハ
ぞえたとえこのみは
いとつくり尓され
いとづくりにされ
いりさけて
いりざけで
く王れても
くわれても
可ハらぬ
かわらぬ
心 ハこく
こころはこく
志やうで
しょうで
の本゛り
のぼ り
つめ多る里やう門 のうちで
つめたるりゅうもんのうちで
せ可るゝ多きの水 奈らふ
せかるるたきのみずなろう
事 奈らぬしの所 へとんで
ことならぬしのところへとんで
行 多ひ奈んの可のとひ里やう
ゆきたいなんのかのちひりょう
とも奈らん思 ひ尓て里 うぐうの
ともならんおもいにてりゅうぐうの
こひち多゛けちひろの
こいじだ けちひろの
そこのそこ志れぬ
そこのそこしれぬ
ふ可き中 とそ
ふかきなかとぞ
奈り尓
なりに
个る。
ける
(大意)
(落雁)を一生断ったぞえ。たとえこの身が糸作りにされ、
煎り酒で食われても、変わらぬ心は濃(or恋or鯉)醤で、
上りつめたる竜門の、うちでせかるる滝の水、
なろうことなら、主のところへ飛んで行きたい」。
なんのかのと言っても、飛龍にでもなれたらと思い、
竜宮での恋路だけに、とっても深く底しれぬ深さの、
深い中になったのでありました。
(補足)
お鯉うが吐露する恋心、途中から五七調でリズムよく刻まれて、ぺぺんぺんぺんと講談調になってゆきます。声を出して読むと気分がよい。
「こく志やう」、濃い醤油のように心は変わらぬ。濃いはもちろん「恋」と「鯉」に掛けているのでしょうけど鯉こくを醤油で食うのに引っ掛けているのがなかなかしゃれています。濃醤という鯉を味噌汁のように煮込んだ濃い味の料理もあるようですけど。
わたしたちのこの恋を妨げるような激しい滝の水をやっとのおもいでのぼって竜門をこえて上りつめたけど、あぁ、ここからは龍になってあなたのところへ飛んで行きたい。
「一ツしやう多川多ぞへ」、何度か繰り返して読んで、ようやくわかりました。
「こひち多゛け」、「こ」が「丁」のようになっています。さて?
漢字のくずし字がいくつか出てきます。「此身」「心」「門」「水」「所」「行」「思」。どれも基本的な漢字のくずし字で重要です。
箱行灯のように見えるのはそば屋「海原」の岡持ち。「さらし那」とあります。
椀を持って階段から上ってくる鯰(なまず)女中は遣手婆(やりてばばあ)。鯰はもちろん利根川の名物。
海の底、波間の下に栄える新地だけど、頁の底には荒れる海原が描かれています。
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