2020年4月30日木曜日

豆本 きつねの嫁入 その12




 P.10

(読み)
たまのよふなるなんし
たまのようなるだんし

多んじやう阿り
たんじょうあり

於やこともむしけ
おやこともむしけ

ちにミちのうれ
ちのみちのうれ

いなく春こ
いなくすこ

やか尓ひたち
やかにひだち

个る由へそのよろこび?ふ
けるゆえそのよろこび?う

か多なら春゛一 家しんるいさ可い
かたならず いっかしんるいさかい

个るこそめで多しゝゝ
けるこそめでたしめでたしめでたし



(大意)
玉のような男子が誕生しました。
親子ともに(赤ちゃんには)虫家や
(母親には)血の道の心配はなく
健やかに(産後の)肥立ちも心配はありませんでしたので
その喜びようは大変なものでありました。
一家親類栄えることこそ、めでたしめでたしめでたし



(補足)
 最後のページはめでたしめでたしめでたしで終わるのがお決まりですが、
ここはなんと読むのだろうとちっともめでたくはありません。

一行目のふたつの「な」は現在とほとんど同じ。「なんし」と読めても意味が不明ですが、読み進めると「男子」だろうとわかります。4行目の「な」も現在と同じ。

「たまのよふなる」では平仮名「た」ですが、その左側では変体仮名「多」です。
そして「多んじやう」の次が「た」にも「な」にも見えますが「阿」(あ)でした。

「おやことも」の出だしも悩みます。変体仮名「於」のようにみえます。

「むしけ」(虫家)、「む」がこれまた悩む。

「そのよろこび?ふか多なら春゛」、ここが一番悩みました。
「か多なら春゛」は「一方(ひとかた)ならず」の「一」が省略されていると荒っぽく判断すれば意味は通じます。そうすると「?」は「や」としたいのですが、そうは読めません。
変体仮名「个」にも似てますが、この豆本で出てきた「个」はたいてい「个る」の例が多く、また字体も小さい。うーん、わかりませんでした。

「一家」(いっか)、これは漢字。平仮名ばかりで悩んでいるところへいきなり漢字が出てくるとこれまた一瞬悩むんです。

「しんるい」、「るい」が「ゑ」に見えてしまいます。
「さ可い个る」、「さ」の一画目「一」が弱いので「と」のようにも見えてしまう。
「めで多し」、「め」の一画目の逆「ノ」があるかないかですが、最後のお約束言葉なので「め」。


 新婚さんホヤホヤだからでしょうか、お玉さんは振り袖です。
表は渋い青で落ち着きさを、でも内側は赤と黄色で若さをと粋ですね。





2020年4月29日水曜日

豆本 きつねの嫁入 その11




 P.9

(読み)
里やうしん
りょうしん

うひまごの
ういまごの

か本ミること
かおみること

をたのしミ
をたのしみ

し尓者や
しにはや

りん个゛つ
りんげ つ 

となり
となり

志ゆひ
しゅび

よく
よく



(大意)
両親は初孫(ういまご)の顔を見ることを
楽しみにしていたところ、
早くも臨月となり、首尾よく



(補足)
「里やうしん」、この「里」は以前にも出てきました。
「か本ミること」(かお)、いつもなら「か」は例外なく「可」なのですが。「こ」の真ん中に
「丶」があって「ミ」に見えますが、その上の「ミ」を見ると、「そ」のようにつながってます。
「者や」(はや)、「は」が小さいのでちょっと悩みます。
「志ゆひよく」、その前の「りん个゛つとなり」につながり「なり志ゆひ」(なりしゆへ)のように読んでしまいそうです。

 文章全体の筆跡は今までと特に変わることはないのですが、めでたい婚礼の席のせいか、女性が書いたような感じの手跡です。



P8P9見開き。



 絵全体の色合いがやさしく渋くもありほんのりと明るくもありめでたい席にぴったりです。
屏風で丸く囲って、四角が基本の和室の対比でおしゃれです。

松の盆栽もその台の脚が凝ってます。

白無垢姿のお玉さん、おもいかなって三三九度の盃が・・・。よかったよかった。
白無垢なので白一色、描きにくいとおもうのですが輪郭線を水色で際立たせています。



2020年4月28日火曜日

豆本 きつねの嫁入 その10




 P.8

(読み)
者やの??
はやの??

のいわ多 又
のいわた

又 ?び?春
  おび?す

きた
きた

れバ
れば


(大意)
早くも(望みの)岩田帯を
巻く頃となり


(補足)
一行目、見た目どおりは「者やのつこく」ですが、「のつこく」が、資料によれば「のそみ」と読めるのだそうです。いろいろ調べてみてもわかりません。お手上げであります。降参。

「いわ多」、いままでは「わ」は変体仮名「王」でしたが、この「わ」は「和」のようです。

「又」は記号「☓」の上に「一」です。

「於び」(おび)、くずし字辞書で「於」を調べても、あまり似てません。
この直後の「山」に見える字が「も」なのだそうですが、「も」のいろいろな変体仮名を調べ尽くしても「山」のようなものはありませんでした。

 たった4,5行に手も足もでません。

読めなかったときは、わかるところだけをつないでいって、あとは類推するしかありません。


2020年4月27日月曜日

豆本 きつねの嫁入 その9




 P.7

(読み)
おたまハ
おたまは

そう者らめ
そうはらめ

ミとなりし
みとなりし

由い里やう
ゆいりょう

しんハ
しんは

さらなり
さらなり

可ないのものも
かないのものも

おふき尓よろ
おうきによろ

こびふうふの
こびふうふの

中 もむつましく
なかもむつまじく



(大意)
お玉はすぐに身ごもりましたので
両親はもとより家内の者たちも
大変に喜びました。
夫婦の仲も睦まじいものでありました。



(補足)
 一行目はとても読みやすくこのままスラスラすすめるかとおもいきや、なかなかやっかいです。

「そう者らめ」、読めませんでした。「そ」と変体仮名「者」(は)がほとんど同じ形です。「そ」の一画目の逆「く」の部分が左に傾いていてわかりずらい。「た」に見えます。

「由い」、(ゆへ)ですが、「ゆい」ともいうのでしょうか、わかりません。
「里やうしん」、「里」が読めませんでした。
「可ないのものも」、二番目の「の」がすぐ左側の「よ」とほとんど同じ形です。
「おふき尓」、この「尓」は筆記体の「y」。
「むつましく」、「む」が難。

 先頭の提灯の家紋がどこかでみたようなと前をたどってみると、表紙の錦絵の男の右胸にある白い紋所と同じようです。宝珠の紋でしょうか?


P6P7見開き



 見開きで眺めると一層華やかです。
婚礼輿入れの慶事にケチをつけてはひんしゅくですが、
雨がちょっと降りすぎかなぁ・・・
これじゃぁきつねの嫁入りじゃなくなっちゃいます。

 籠横にお供をする女性の着物姿、腰から下をゆるい「く」の字に描いています。
和服着物姿の女性を描くときの定石でしょう。



2020年4月26日日曜日

豆本 きつねの嫁入 その8




 P.6

(読み)
さんゝ
さんさん

くど尓
くどに

さ可つき
さかつき

ことも
ことも

すミ
すみ

なこふ
なこう

どハよひの
どはよいの

うちと者や
うちとはや

おひらきと
おひらきと

なり尓个る
なりにける



(大意)
三三九度に盃事も済み、
仲人は宵の内にと早くも
お開きとなりました。


(補足)
 まさにきつねの嫁入り、
質素ながらも青畳のような蓬色の品のある籠にお供の者たちのなんと幸せそうな顔かおカオ・・・

 天気雨や、晴れの中にさぁ〜っと通りすぎるような雨を「きつねの嫁入り」と呼びますが、この雨の描き方もいいですねぇ。

 浮世絵には雨の情景を描いた名作がたくさんありますが、この豆本の雨もいけてます。
雨を描くなんて、その表現描写に恐れ入ります。
青と黒で降り落ちる軌跡を並行にしないところがミソかな。
ちょっと降りすぎているような気がしないでもないけど。

 前頁の終わりの文章は「さんゝ」でしたが、この頁ではその「さんゝ」をもう一度繰り返しています。慶事の婚姻なので「さんゝ」と「九度」を離してしまっては、縁起でもないので再度繰り返しているのでしょう。


「くど尓」、「と」と「尓」がつながっています。
「ことも」、この「こと」は合字になっていて、これで一文字扱い。


2020年4月25日土曜日

豆本 きつねの嫁入 その7




 P.5

(読み)
由いのふ
ゆいのう

おとり 可ハし
おとり かわし

大 吉 日 を
だいきちじつを

ゑらひ
えらひ

古しいれ
こしいれ

ありてさんゝ
ありてさんさん


(大意)
結納を取り交わし、
大吉日を選んで輿入れをしました。
三々(九度)


(補足)
「おとり可ハし」、「と」の一画目の右側に「丶」があり、そのために「ハ」に見えてしまいました。「可」が「め」に見えて、読めません。

「古しいれ」、久しぶりに変体仮名「古」、悩みます。

 白兵衛とお供の者も正装です。
お供の肩に掛けているものは、婚礼祝定番の鰹節でしょうか。


 P4P5見開き。



 障子の赤い部分は堅桟(たてさん)下桟(しもさん)中桟(なかさん)の名称があるようですが、ここはきっと赤漆でしょう。黄色い部分は腰板(こしいた)、部材はなんでしょう?

 特に派手なこともないお祝いの訪いの光景ですが、隅々まで丁寧に描きこまれています。


2020年4月24日金曜日

豆本 きつねの嫁入 その6




 P.4

(読み)
志可らハ
しからば

さつそく
さっそく

たまゑも
たまえも

んの可多へ
んおかたへ

こんいん
こんいん

のそうだん
のそうだん

せんと☓
せんと


☓ひと
 ひと

もつて
もって

いゝいれ
いいいれ

し尓さつ
しにさっ

そくそう
そくそう

だんとゝの
だんととの

い吉 日 を
いきちじつを

いらミて
いらみて

そう者う
そうほう


(大意)
ならばと早速に、玉右衛門方へ婚姻の相談を
人を介して行いましたところ、すぐに相談が整い
吉日を選んで双方


(補足)
 特に込み入ったお話ではないのですが、字面ばかりに注意を向けていると、
それに登場人物?が狐ばかりで、顔が皆同じで区別がつきません。
その上、衣装も上等で皆似ています。

 尻尾玉右衛門には息子に白太郎がいます。
また、白狐屋白兵衛には16になる娘お玉がいます。
このお玉があるとき白太郎を見初めます。
白兵衛は娘お玉の気持ちを察し、人を介して玉右衛門宅に婚姻の相談を遣わせます。
というのが、ここまでの内容になります。


「志可らハ」、「ハ」は問題なくわかりますが、「可」が通常より大きくて「ら」とのつながりがわかりずらく、「ら」もとらえにく。

「んの可多へ」、「可多へ」の区切りが悩みます。変体仮名「多」は「さ」の横棒を除いた形ですが、左にカーブしているところが左下に傾いてしまって、パッと見た目は「くく」です。

「いゝいれ」、(つゝいれ)ではありません。
「いらミて」、(えらみて)。「えらむ」は「選みて」。


 白兵衛の使者を迎えているのは玉右衛門、婚礼のことなので羽織袴姿で上機嫌です。
上がり框とその部屋への壁の板や障子の桟には黒線で立体感を出しています。




2020年4月23日木曜日

豆本 きつねの嫁入 その5




 P.3

(読み)
そと尓
そとに

阿らハ
あらわ

礼个る
れける

志ろ
しろ

べいも
べいも

ひそ
ひぞ

うむ
うむ

春め
すめ

のこと由へ大 き
のことゆえおおき

尓こゝろを?[上へ]
にこころを

[下ゟ]
いためだんゝ
いためだんだん

このやふ春を
このようすを

さぐりしりて
さぐりしりて



(大意)
外目(そとめ)にもあらわれてきました。
白兵衛も秘蔵娘のことなので大いに心を痛め
少しずつ(娘の)様子を調べ知ることができました。


(補足)
 読みにくいところがたくさん出てきてしまいました。

「阿らハ」、「阿」(あ)はよくでてきます。

三行目行頭の「?个る」、「れ」のはずですが、変体仮名「連」「礼」「麗」などのうちどれでしょうか。アレコレしらべても判然としません。
普段出てくる「連」のような気もしますが、ここは「礼」としました。

「志ろべいも」、「志」も「も」もわかりずらい。

「ひそうむ春め」、「う」「可」「ら」は注意が必要。「春」は「十」+「て」のような形。

「こゝろを?」、「こゝろ」のつながりが難しい。

「?」部分は、拡大してみると、この狭い部分に「上へ」と記入しようとしたものの無理なので
横書き[上へ]としたのではないでしょうか。なお「上へ」は一行一文字なので右から左へ読みます。

[下ゟ]、拡大すると、「ゟ」のように見えます。

「だんゝ」、変体仮名「多゛」ではなく、「だ」になっているのが新鮮。
「やふ春」、様子。

 渋い襖の向こうに頭に赤いリボンなどつけちゃって、ニコニコ顔の娘さん、恥ずかしそうに体をよじっている感じ(ニジニジ感)が心憎い。隠れている左手の指先は畳の目を数えていそう。

 襖の手前、あちらにいる娘がと左手で指ししめしている狐さんは濃紺羽織の正装。


P2P3見開き。



 床の間上座で火箸に両手をのせくつろぎの様子の旦那さん狐、朗らかな笑顔です。
この火鉢は木製のようです。
炭が赤くなっているのも描かれています。
お金持ちのお座敷です。


2020年4月22日水曜日

豆本 きつねの嫁入 その4




 P.2下段

(読み)
□しろたろふと
  しろたろうと

いふをミそめお
いうをみそめお

なことうまれ
なごとうまれ

し可ひある
しかひある

ならあ
ならあ

阿いふとの
あいうとの

ごとそいた
ごとそいた

いとこゝろ
いとこころ

尓王春るゝ
にわするる

ひまもなくそのいろ
ひまもなくそのいろ



(大意)
白太郎という(若者)を見初めて、
おなごと生まれたからには、あのような殿御に
添いとげたいと、心に忘れる時もありませんでした。
そのためその様子が、


(補足)
 下段の方は上段よりまぁ読みやすい。

「しろたろふ」、同じ「ろ」でも違って見えます。あとの「ろ」は「ら」かともおもってしまいますが、5行目の「ら」と比べると明らかに異なってます。
「いふ」、一文字のように見えますが、「いふ」です。
「あ阿いふとのごと」、「あ阿」の変体仮名の使い方の妙。
「こゝろ尓」、「こ」の中に「丶」が入ってしまっていて、何の文字かと悩む。
「尓王春るゝ」、「るゝ」はこれだけだとわかりませんが、前後のつながりで読めました。

前回「ひ」で悩んだことを書きました。
ここでも「ひ」が4行目と最後の行に出てきてますが、現在と同じ「ひ」です。

 ふと思い出したことがあり、調べてみるとやはりそうでした。
東京に鳥料理、特に軍鶏料理で有名な老舗「玉ひで」というお店があります。
看板は「玉飛天゛」なのですが、この「飛」が変体仮名でかかれています。



天に向かって飛ぶとは儲かりそうで縁起がいい。

 街には変体仮名で書かれた看板が意外とたくさんあります。
お蕎麦屋さんも、「楚盤」が変体仮名になってますし、他にも探してみるのも面白そうです。

2020年4月21日火曜日

豆本 きつねの嫁入 その3




 P.2上段

(読み)
飛や こや
ひゃっこや

志ろべいと
しろべいと

いふものゝ
いうものの

武春め尓
むすめに

お多まと
おたまと

いふへつぴ
いうべっぴ

んとしハ
んとしは

ニハの者な
にはちのはな

ざ可りいつし可□
ざかりいつしか□



(大意)
白狐屋(ひゃっこや)白兵衛(しろべえ)という者の
娘にお玉という別嬪(べっぴん)がいました。
年は二八の花盛り。いつしか


(補足)
 スラスラ読めるかとおもうと、つっかえつっかえ確かめながらでないと
先にすすめないところがたくさん出てきます。

本当に当時(この豆本は明治18年刊)、若年層の方々は誰にも頼ることなく
読むことができたのでしょうか。
それとも、そばの兄弟や大人に「ここはなんてよむの」ときき、楽しんだのでしょうか。

「飛やこや」、出だしからはたと目が点になってしまいました。
出だしは「ひ」に似ているけど、一画目が違います。調べると変体仮名「飛」でした。
読めたとしても「ひやこや」って何だ?
次の行に「志ろべい」(しろべい)と続くので、どうやら人の名前?と理解して、
ようやく「白狐屋白兵衛」だろうとたどりついた次第。

次の難題は4行目。
一文字目が一行目の「ひ」に似ているけど、どうも違う。
二文字目は 「十」+「て」 のようなので「す」(春)でしょう。
続けて読むと「ひすめに」となって変です。
「む」ではないかと推理して、変体仮名を調べるとありました、「武」です。

で、次は6行目、7行目。
「いふへつぴん」、「いふ」は「言う」として、「へつぴん」って何だ?
「ひ」に半濁点の○がついて「pi」の発音になりますが、半濁点は珍しい。
「へ」の濁点「゛」が省略されることはよくあるので、
これも次の行に読みすすめてみると「別嬪」(べっぴん)だろうことが
やっとわかったつもりになりました。

「としハ二八の者なざ可り」、「とし」がそれほどかすれているわけでもないのに、読みづらい。
この部分は、落語などに出てくる決まり文句だな。「二」✕「八」で十六歳ってわけだ。
落語じゃ二八蕎麦の方が頻繁に出てきます。
これはうどん粉そば粉の割合ですが、当時のかけそばの値段十六文にひっかけてそう。

行末の□は、同じ頁内で文章が飛ぶときの行き先を示す記号で○☓△などいろいろあります。

 機嫌よく娘の縁談についてお話の様子ですが、たった九行を読むのにヒーヒーでした。


2020年4月20日月曜日

豆本 きつねの嫁入 その2




 P.1

(読み)
こゝ尓
ここに

ミめ
みめ




りの
りの

志りを
しりを

たまゑもんといふもの
たまえもんというもの

あり そのせ可゛れに
あり そのせが れに

志ろたろふといふ
しろたろうという

もの阿り こゝに本と
ものあり ここにほど

とふからぬ水 じん
とうからぬすいじん

かもり尓な多゛可き
がもりになだ かき



(大意)
ここ三囲(みめぐり)に尻尾玉右衛門(しりおたまえもん)
という者がおりました。
その倅(せがれ)に白太郎というものがおりました。
ここから程遠くない水神が森に名高い



(補足)
「ミめぐりの」と読めてもサッパリ?
辞書で調べると「三囲神社」が東京都墨田区向島にあることがわかりました。
ネットでさらに調べると、神社のいわれのなかに、「白狐がどこからともなくあらわれ3回回って死んだ」とあり、神社名の由来となったとあります。
ようするに、三囲神社付近に住んでいるところにということ。

 話が始まったばかりのなので、話にでてくる尻尾玉右衛門と白太郎が左下の人なのかどうなのかわかりません。

右上はお嬢さんにお供の女中さんでしょうが、左下の床几に腰掛け右の下駄をぬいでくつろぎ
お嬢さんに見とれているのが白太郎でしょうか。

 扇に和傘はやはり装飾品としては不可欠なようです。


「たまゑもん」、「た」が変体仮名になってません。
「阿り」、「あ」の変体仮名「阿」。

「本と」の次に「へ」のような記号?がありますが、これはなんでしょうか。

「本ととふからぬ」の「ふ」は「う」ですが、「しろたろふ」でも「ふ」が「う」です。旧仮名遣いではこうでしたっけ?

「水神可もり」、この「可」は読めません。



2020年4月19日日曜日

豆本 きつねの嫁入 その1




 表紙

(読み)
きつね能嫁 入
きつねのよめいり


(大意)
きつねの嫁入り


(補足)
 明治18年4月30日。作画者は堤吉兵衛編集、版元も同じ。定価1銭。
同名の「きつねの嫁入り」は前回の村井静馬版もあるのですが、それは後日。

表紙は錦絵摺り付け。
きつねの嫁入りとはあまり関係ない扇を持った男女の構図です。
背景は木の枝ぶりが梅のようなので、上部の丸いものは梅の花でしょうか。
さらにその背景には白線格子模様。
余白がありません。

見返しはなく、「東京図書館蔵」のでかい角印があるのみ。


 いやぁ〜、申し分のない錦絵であります。
男の濃紫の羽織、右袖からは裏生地の赤がのぞいています。紐の色は女の着物と同色。
着物が紺縦縞で、摺るときに上下で濃淡をつけたのか、かすれた具合がこれまたよい。

 豆本レベルでこのできなのですから、当時の画工・作画者の腕、恐るべしであります。

「きつね能」、「の」の変体仮名は「乃」「能」があります。

 毎回のことですが、こんなところにラベルを貼った係員は首です。

表紙と色見本定規。




2020年4月18日土曜日

豆本 文福茶釜全 その15




 奥付

(読み)
明治九年十月五日出版御届定價壱銭五厘
南本所外手町十八番地
長崎縣士族
著者 村井静馬

馬喰町四丁目十八番地
東京府平民
出版人 小森宗次郎


(大意)



(補足)
 これまでの豆本などは国立国会図書館デジタルコレクションのサイトで、
検索欄に「村井静馬」などの著者名で検索すると、豆本も含めてその他の作品もたくさん出てきます。

 村井静馬のような著名な浮世絵師からそれほどでもない絵師の作品がアーカイブされていて、同じ豆本でも作品の出来は見た目だけでなく内容においても、その差は歴然です。

 しかしながら、わたしが子どものころ親しんだ漫画雑誌も似たようなもので、高名な漫画家が必ずしも受け入れられていたわけではなく、たくさんの漫画家にはまたたくさんの自分のお気に入りの読者がいたはずです。もちろんわたしもそのうちの一人です。

 この豆本はわずか壱銭五厘です。
どの豆本にも子どもたちを楽しませようとするアツイ熱情は左程感じられませんが、
こんな絵本で、まぁ暇つぶしでもして楽しんでくれ、なんていう気持ちがあるような気がします。

 裏表紙。




 文福茶釜全はこれにて終了。



2020年4月17日金曜日

豆本 文福茶釜全 その14




 P.12

(読み)
[つゝき]

大よろろこひ尓て
おおよろこびにて

本うそう尓おさめ
ほうぞうにおさめ

个るめで多しゝゝ
けるめでたしめでたしめでたし

多ぬ起も
たぬきも

人を多春けし
ひをたすけし

むくひよつて
むくいよって

てん志やうく王い尓
てんじょうかい に

の本りしとぞ
のぼりしとぞ


(大意)
大喜びで(茶釜を)宝蔵に納めました。
めでたしめでたしめでたし。
たぬきも人を助けたことにより
天上界に昇ったということであります。


(補足)
 茶釜はどこへいったのやら、右手に笏を持ち、奈良平安時代の貴族の正装です。
渋赤色の装束に淡黄色の丸い絵柄は茶釜の意匠。
キントン雲で天上界へ昇りゆく文福茶釜大明神のまなざしは下界にむけ、達観した表情。
品と威厳があります。

「本うそう尓」(ほうそうに)と読めても、意味がわかりませんが、続けて読むと「おさめ个る」とあるので、「宝蔵」かもとわかります。

「人を多春けし」、「人」の左上に点があり「いへ」と読んでしまいました。

「てん志やうく王い尓」、(てんじょうかいに)ですが旧仮名遣いだとなんとも・・・

 手のひらサイズの豆本の短いお話、しかしジンと胸をうちました。


2020年4月16日木曜日

豆本 文福茶釜全 その13




 P.11

(読み)
ミ起゛尓つ起
みぎ につき

百  ゑんそへ
ひゃくえんそえ

おさめ多し
おさめたし

ともふし
ともうし

个る由へ
けるゆえ

ぢ うじ
じゅうじ




[次へ]


(大意)
右のような事情につき
(茶釜に)百円を添えて納めたい」
と申し出ましたところ
和尚も


(補足)
「ミ起゛尓つ起」、「右」という漢字を使えばよいのにと、余計なことを考えてしまう。
「ゑん」、「ゑ」がでてきたのはこれで2回目。
「ともふし」、字が震えているようでよみずらい。

 画工の村井静馬はここの御婦人なんてササッと描いてしまうんでしょうね。
襖の柄がおしゃれです。なんて言いましたっけ、このような柄?
「大明神」、「日」が「目」になってますが、何かわけがあるのかもしれません。


P10P11見開き。



 床の間が遠近法で描かれています。
床の間の左側の板、色を置き忘れ、三宝の左半分も、うっかりでしょう。
千両箱はともかく、江戸時代の家屋、部屋にはほとんど家具らしいものはなく、清潔簡素を旨としてました。


2020年4月15日水曜日

豆本 文福茶釜全 その12




 P.10

(読み)
[つゝき]

可のち 可゛満
かのちゃが ま

をもりんじ尓
をもりんじに

もち由起ぢ うし尓
もちゆきじゅうじに

めんく王いし☓
めんかい し

☓可く
 かく

ゝ の
かくの

志多い尓て大 志あ
しだいにておおしあ

ハせい多し
わせいたし


(大意)
その茶釜を茂林寺に持ってゆきました。
和尚さんに面会して
「このような次第で大変に幸せになりましたので


(補足)
 うーん、この頁は読みづらく、やや難しい。
「もりんじ」「もち由起」、この「も」は両方とも同じ形です。
「ぢうし」(住寺)(じゅうじ)。お寺の和尚さん。「う」が悩みます。

 以前の投稿で「め」の左下が版木で薄れて読みづらくなってるとしましたが、そうではなさそうです。ここの「め」もまったく同じようになってるからです。ここの変体仮名は「女」ですから、二画目から三画目で筆が流れなければつながりませんので、ここのような形の「め」になるんですね。

「めんく王い」、(めんくわい)。面会。

「志あハせ」、ふっと「志あ王せ」じゃないかとおもってしまうんですが・・・


 香具師さん大金儲け大幸せ、濃紺の羽織はおって髷もきりりと立派です。大店のご主人の趣。
高価そうな飾り柱の床の間の右側には「両」と書かれた千両箱が山と積まれています。


2020年4月14日火曜日

豆本 文福茶釜全 その11




 P.9

(読み)
お本よろこひ
おおよろこび

大 可年もふ
おおかねもう

けふく
けふく

ゝ と○
ふくと

○奈りし可バ
 なりしかば

やしも
やしも

も者や
もはや

多連りと
たれりと

おもひ[次へ]
おもい


(大意)
大いに喜び、大もうけして大金持ちになりました。
そして香具師はもはや十分に儲けたとおもい、


(補足)
同じ「大」(おお)でも、「お本よろこひ」だったり、そのまま「大可年もふけ」としたり、いろいろです。
「年」(ね)の変体仮名は○にちかい。右上から右回りにクルッと丸をかき、戻ったところで小さな横棒です。
「ふ」は「不」ですが小さくてわかりずらい。しかし、次の行の「ふ」は現在のものと同じです。

「ふくゝ」(福福)。

「やしもも者や」、おなじ「や」でもずいぶんと形が異なってます。

「おもひ」、ここの「も」はそのまえのふたつの「も」と筆の運びが最後のところが逆になってます。


P8P9見開き。



 文福茶釜の綱渡り。右手に「大入」扇子を、左手に傘。不安定さはなく上手な綱渡りです。
傘は日本では独特のおしゃれの品物として、昔より作られてきました。和の美には不可欠なものとして不動の装飾品となってます。
文福茶釜のたぬきは綱渡り踏み外して落ちたときのパラシュート代わりにも使ったのでしょう。

 絵の焦点はもちろん文福茶釜。香具師も親子3人も食い入るように視線そちらに向けています。
舞台の板はりが、ちょっと乱暴に描いているようにもみえますが、そうではありません。
使い込んだ板張りの感じを、画工の技工を感じさせぬようなにげなく描いています。
単純に板の色として渋茶色に黒線を引くのではなく、薄肌色を交互に幅を不規則に入れることにより木目感を出し、舞台の広がりを表現しています。



2020年4月13日月曜日

豆本 文福茶釜全 その10




 P.8

(読み)
[つゝき]
ゑいとうゝ   と
えいといえいとうと

大 入 大 者んじやう
おおいりだいはんじょう

又 ハ可ぞく可多
またはかぞくかた

尓もめさ連
にもめされ

よせ起奈ど
よせきなど

尓いで春
にいです

こし
こし

のひま
のひま

も奈し
もなし

大 者゛
おおば

やり
やり

由へ
ゆえ

やしハ
やしは


(大意)
「えいとうえいとう」と大入り大繁盛しました。
また(あるとき)は華族方(の家)にも呼ばれ(たり)、
寄席などに出て、少しの暇もなく大流行しました。
そのため香具師は


(補足)
「ゑいとうえいとう」、最初、香具師が舞台で文福茶釜を囃し立てる掛け声かと思いました。
それでも意味が通じないことはありません。
いちおう辞書で調べるとあるところにはあるものです。
次のようにのっていました。
『興行などで,見物人が大勢つめかけるさま。また,劇場などで,大入りを願う口上の言葉。「東西東西,―,―」「四季に絶せぬ見物は―,―又―」〈洒落本当世気とり草〉〔「永当」とも書く〕』

 賑やかに沢山の人が押し寄せている雰囲気を表しているとして、そのまま言葉に記さなくてもよいのですが、口上としてもおかしくはないので、大意のようにしました。

この「ゑ」は、めったにでてきません。いくつか豆本を見てきましたが、はじめてかもしれません。
「う」とくりかえしの「く」が重なってわかりずらい。

「可ぞく可多尓もめさ連」、いったん読めてしまうとなんでもないのですが、初見だと悩みます。
「可ぞく」がすぐには「華族」とピンときません。「家族」になってしまう。
「め」がかすれてしまって「や」のようにみえますし、ここの「連」もなやみます。

「よせ起奈ど尓いで」、「寄席」、現在では「よせ」とフリガナをしますが、そのまま「よせき」なんですね。「よ」がその両脇の「尓」とにていて、なやみます。「い」が「ハ」でなやむ。

「春こしのひま」、「こ」が読めません。「こ」の変体仮名は「古」で「十」+「い」のような形ですが、上半分が欠けてしまったのでしょうか。

「由へ」、「由」は左上から右回りに丸を描いて、元の位置に戻ったら右下中心に向かってゴニョゴニョと書きます。ここのはその途中右上でちょっと切れてしまったようです。


 香具師は舞台で文福茶釜に掛け声をかけ、舞台かぶりつきの席では父母子どもの家族が食い入るように見ています。子どもの青ゾリがかわゆい。

 香具師の衣装がなかなか。派手なのは紅白裃だけで、渋萌黄色の着物に内側は渋青、しかし両袖口からちらっと赤が見えています。
おしゃれです。


2020年4月12日日曜日

豆本 文福茶釜全 その9




 P.7

(読み)
さつそくきんじよの
さっそくきんじょの

やし尓そのちや可゛満を
やしにそのちゃが まを

うり者らひし可゛
うりはらいしが

やしハそのちや
やしはそのちゃ

可゛満をミせもの
が まをみせもの

尓い多゛しつ奈
にいだ しつな

王多り可る王さ
わたりかるわざ

さ満ゝ のけい
さまざまのげい

とうを奈し个る
とうをなしける

ゆへとうけいぢ う
ゆえときょうじゅう

の大 ひよう者ん
のだいひょうばん

と奈りまい日
となりまいにち

ゝ   [次へ]
まいにち


(大意)
早速(さっそく)、近所の香具師(やし)にその茶釜を
売り払ってしまいました。
香具師はその茶釜を見世物に出し、綱渡りや軽業など様々の芸当をするので
東京中の大評判となり、毎日毎日、


(補足)
 こんなに楽しい茶釜なら、茶の湯はせずとも、家にほしい。
しっぽフリフリ、なんか酔っ払っているような、あっいやさぁ〜こらさっと聞こえてきそう。
手で頭の蓋をとり、カチャカチャならし賑やかそう。
尻尾ですが、拡大してみるとフサフサ感がでるようにか、細かく描いています。

 左の大きな籠の底は網目に編んでなく、頑丈にするためにグルグル巻いてこしらえてあるところが心憎い。

「きんじよ」、「じ」が「ト」に見えます。「よ」は変体仮名「与」。
「やし」、版木なのですが「や」の筆の運びが「ゆ」と同じような感じに見えてしまうので「ゆ」とまちがえそうです。「や」は「也」、「ゆ」は「由」。

4行目「ちや」の「ち」が「ら」にみえます。その2行右の「ち」と比べても・・・

「可る王さ」、「可る」がややわかりにくいか。

「けいとう」(芸当)、「とうけいぢう」(東京中)、「大ひよう者ん」(大評判)。


 P6P7見開き。



 行灯の明かりのところは渋黄色になっていて、ゆらめく灯りの感じがよいです。
また、布団の左端だけが左の絵にほんの少しだけ描かれていますが、細かい芸当です。


2020年4月11日土曜日

豆本 文福茶釜全 その8




 P.6

(読み)
[つゝき]
个ふ
きょう

もりん
もりん

じ尓
じに

て可ひき
てかいき

多りし
たりし

ちや可゛満尓
ちゃが まに

てあし可゛
てあしが

者へおどり
はえおどり

い多る由へ
いたるゆえ

くづやハ
くずやは

きも
きも




つぶし
つぶし


(大意)
今日、茂林寺で買ってきた茶釜に
手足が生え、踊っていたので
屑屋は肝をつぶし


(補足)
 屑屋さん、もうかっているとみえて寝具も上等そうです。
あわてたのか、箱枕が左下にころがってしまいました。
ついたてには満月にすすきの絵、行灯はしっかりしたつくりですが、なんか左側一面が変、急須が浮いてしまってます。

 話がとびますが、「茂林寺」が群馬県館林市に実際にあることを知りませんでした。
お寺が所蔵する文福茶釜もあり、見学できるそうです。


 文章は読みづらいところはなく、ここまで読んできた知識だけでスラスラ読めるはずです。


2020年4月10日金曜日

豆本 文福茶釜全 その7




 P.5

(読み)
のころ
のころ

まくら
まくら

もと尓
もとに

奈尓可
なにか

もの
もの

おと
おと

し个る
しける

ゆへ
ゆえ

いづやハ
くづやは

めを
めを

さまし
さまし

ミまハ
みまわ

せバ[次へ]
せば


(大意)
の頃、枕元に何か物音がしたので
屑屋は目を覚まし見回したところ


(補足)
版木の文字はかすれもなく、変形しているところもなく読みやすい。

座敷にいる和尚さんはP1の驚いてひっくり返っている和尚さんと着物の柄が同じなので、きっと同一人物です。
その隣の和尚さん?、どことなく浮世絵美人画の一人の趣。
尼さんなのでしょうか?
帯の結びも気になります。

 もともと作画者の村井静馬は浮世絵師歌川房種です。



 こんな錦絵を描いている人ですから、豆本などチョチョイのチョイですが、手を抜いているとは感じられません。

P4, P5見開き。



 座敷の上がりのところの板壁の下端が二重線になってます。
また座敷の奥の板壁の下端も二重線で描かれています。
絵全体の視点がやや上からですから、たったこれだけで奥行きと立体感がでています。




2020年4月9日木曜日

豆本 文福茶釜全 その6




 P.4

(読み)
[つゝ起]
 つづき

でしをよび
でしをよび

ミせ个連バでしも
みせければでしも

ぎう てん奈しこ連ハ
ぎょうてんなしこれは

うり者らふより本可
うりはらうよりほか

奈しおでいりのくづ
なしおでいりのくづ

やをよび一 貫 文 尓て
やをよびいっかんもんにて

うり王多し个る
うりわたしける

そ連よりくづ
それよりくづ

やハうちへもどり
やはうちへもどり

や春ミ个ると
やすみけると

よ奈可
よなか



(大意)
続き
弟子を呼び見せたところ、弟子もビックリ仰天してしまいました。
これは売り払うよりほかなしと、お出入りの屑屋(くずや)を呼び寄せ
(和尚は)一貫文で売り渡してしまいました。
それから、屑屋は家に戻り休んでいると夜中


(補足)
 屑屋さんの左手に持っているのは、棒秤(ぼうばかり)です。
わたしが子どもの頃はごく普通に使われていました。
電池もバネも不要で、いくつかの分銅と棒竿があればよく、壊れる心配はありません。
現在でも最強の秤(はかり)です。

 茶釜は鉄製なので量り売りなのでしょうか、「一貫文尓てうり王多し个る」とあります。
「メ」は「貫」のくずし字、「攵」は「文」のくずし字、だとおもいます。

 左の竹籠(たけかご)の具合も細かく描いています。

「つゝ起」がなぜか急に変体仮名「起」が使われています。

「个連バ」「こ連ハ」「そ連より」、最初の「連」がわかりずらい。

「うちへもどり」、この「う」一文字だけだったら読むのに悩みます。


2020年4月8日水曜日

豆本 文福茶釜全 その5




 P.3

(読み)
あし可゛
あしが

者へ多る
はえたる

ゆへ○
ゆえ

○お志やうハ
  おしょうは

おどろ起
おどろき

そ連より[次へ]
それより


(大意)
脚がはえたため
和尚は驚き、
すぐに


(補足)
 この和尚さん、普段から修行怠りないようで、両腕両足ともたくましい。
茶釜を追い払う箒は槍を振り回していそう。

「ゆ」は「由」、「や」は「也」ですが、ここでは「や」がややつぶれてわかりずらい。

「そ連より」は前後をつなげる接続詞のように頻繁に使われます。「そして」が一番語感としては近そうです。ここでは「すぐに」としました。


P2P3見開き。



 囲炉裏も茶道具もどこかへなくなってしまいました。
簡素な部屋に、二人があわてふためき、どこか呑気に文ぶく茶釜が逃げ飛び回っている様が愉快です。寺男は驚愕の様子ですが和尚の表情はにこやか。

 箒をぶら下げる下げ緒までちゃんと描かれています。




2020年4月7日火曜日

豆本 文福茶釜全 その4




 P.2

(読み)
[つゝき]
可のちや可満をとり
かのちゃがまをとり

い多しいろり
いたしいろり

尓可けおく
にかけおく

尓とく
にとく

尓ちや
にちゃ

可満
かま




志り本可゛
しりほが

者へ
はえ


(大意)
あの茶釜を取り出し囲炉裏にかけておくと
すぐに茶釜に尻尾(しっぽ)がはえ、


(補足)
 左の頁に和尚さんが箒で茶釜を追い払って、逃げ回っているところの図。
どうして和尚さんの隣に町人風の男がとおもったのですが、先を読むと弟子とあります。
寺の雑事などをする寺男でしょう。

 鮮明な摺りです。
男の脚が少ない線で描かれていますが、肉付き感がしっかり表現されています。

変体仮名「可」は「う」にそっくりなので注意、たくさんでています。
変体仮名「尓」(に)も4箇所でてます。

「とく尓ちや可満」、この「とくに」は「疾くに」、「すぐに」の意味でしょうか? 「特に」ではないとはおもうのですが。


2020年4月6日月曜日

豆本 文福茶釜全 その3




 P.1

(読み)
む可し
むかし

もりん
もりん

じと
じと

いふてら尓
いうてらに

としふる
としふる

ち 可゛満
ちゃが ま

あり
あり

ある日の
あるひの

ことぢ うし
ことじゅうじ

ちやの
ちゃの

ゆを
ゆを

せんと[次へ]
せんと



(大意)
昔、茂林寺という寺に年代物の茶釜がありました。
ある日のこと、和尚が茶の湯をしようと


(補足)
 和尚の前には、茶の湯の道具一式がそろっています。
茶釜から脚が出て、しっぽも左になびきながらあらわれ、頭は和尚の方へ正面に向いています。
茶釜の湯は煮立って上に飛び散り、蓋が上方へ高く上がってます。

「としふる」、年経る。
「ある日のこと」、「こと」のフォントがないのですが、合字になってます。「こ」と「と」をひとつにしたものです。濁点がついて「ごと」としても使われます。他の例として「より」が「ゟ」などがあります。

「ぢうじ」、住持(じゅうじ)。寺の住職。住持茶とつなげて読んでしまい、宇治茶というのがありますから、はたとこんなお茶あったっけ?とボケてしまいました。情けない・・・

 和尚さん余程驚いたのでしょう、左足の指が6本もあります!!!




2020年4月5日日曜日

豆本 文福茶釜全 その2




 見返し

(読み)
文 ぶく
ぶんぶく

茶 可満
ちゃかま


(大意)



(補足)
 いやぁ〜、淡々として気持ちが和みますな。
赤系統の色がなく宵闇左上にかかる半月が静かです。
茶釜のためにこしらえたような囲炉裏に自在鉤に吊るされて熱くなったのか、
たぬきが頭を出し、しっぽを出し、手足も出して動こうにも、吊るされちゃってるからな。

 茶釜の蓋と横木の渋黄色がアクセントになってこれまた、絵をしめてます。



2020年4月4日土曜日

豆本 文福茶釜全 その1




 表紙

(読み)
村井静馬著
むらいしずまちょ

文福茶釜全
ぶんぶくちゃがまぜん


(大意)



(補足)
 前回の「桃太郎噺」と同作画者・同版元・同日・同定価で出版された
「文福茶釜」のはじまりはじまり~

表紙は錦絵摺り付けのようです。
母親とその娘さんでしょうか、女の子は右手に狸の置物のようなおもちゃを持っています。
母親は立派な日本髪、娘さんは典型的な子どもの髪型で部分部分を残してあとはツルツル。

背景は梅の花。

典型的なな明治赤を画面の8割以上使ってます。
顔の白さが引き立ちますね。

絵のどこをみても丁寧に描かれています。


色見本と一緒に。



 ところで文福茶釜のあらすじってどんなのだっけと心もとなく、
思い出しながらすすめていきます。
それにしても、毎回毎回いらつくのですが、ラベルをこんなところに貼りやがって!
よく係員は首にならなかったものです。




2020年4月3日金曜日

豆本 桃太郎噺 その15




 奥付

(読み)
明治九年十月五日出版御届定價壱銭五厘

南本所外手町十八番地
長崎縣士族
著者 村井静馬

馬喰町四町目十八番地
東京府平民
出版人 小森宗次郎


(大意)



(補足)
 廃藩置県は明治四年(1871年)に行われました。その翌年1872年には華族・士族・平民の3族籍に身分制度は大別されています。
なので、「長崎縣士族」「東京府平民」はできたてホヤホヤの表現のはずです。

価格が1銭5厘。
これだけの豆本がこの価格、驚きです。
どれくらい売れたのか興味あるところです。


 裏表紙です。



 普通の横縞柄です。

 桃太郎噺はこれにて終了。
次回も豆本です。


2020年4月2日木曜日

豆本 桃太郎噺 その14




 P.13

(読み)
[つゝき]
いのちを多春け多可ら
いのちをたすけたから

をい多゛させそ連を
をいだ させそれを

いぬさるきじ尓
いぬさるきじに

も多せ
もたせ

王可゛やへ多ち可へり
わが やへたちかえり

ぢゞ者゛ゝ尓
ぢぢば ばに

よろこバしめで多く者るをむ可ひ个る
よろこばしめでたくはるをむかいける

めで多しゝ
めでたし

ゝゝ

ゝゝ


(大意)
命を助け宝を出させました。
それらの宝を犬猿雉に持たせ
家に帰りました。
(桃太郎は)ジジババを喜ばせ、めでたく春を迎えました。
めでたしめでたしゝゝゝ。


(補足)
「多春け」、ここの「け」は変体仮名「个」(形は「々」)ではなく、現在と同じです。

「王可゛やへ多ち可へり」、「や」がわかりにくい。「可」が簡略すぎて読めません。

「いぬさるきじ尓」、「ぢゞ者゛ゝ尓」、ふたつの「尓」の形が別物です。

「者るをむ可ひ个る」、ここの「者る」は難しい。


 桃太郎の前に平伏しているのは命を助けられた鬼でしょうか?
桃太郎の身なりがゴチャゴチャして手足などどこがどこだかよくわかりません。
いままでの絵の構図と比べると平面的で、最後を飾るにはもうちょっと頑張ってほしかった。


2020年4月1日水曜日

豆本 桃太郎噺 その13






 P.11 , P.12

(読み)
[つゝき]
可しらのお尓
かしらのおに

をもゝ太郎 とりこと
をももたろうとりこと

奈し多可らを多゛さ
なしたからをだ さ

バいのち者゛可りハ多
ばいのちば かりはた

多春くべしといひ
たすくべしといい

个連バも者や可奈
ければもはやかな

王じとおもひ多可
わしとおもいたか

らハのこら須゛い多゛春
らはのこらず いだ す

べしといふゆへ[次へ]
べしというゆえ


(大意)
桃太郎は鬼の頭領を取り押さえ
「宝を出せば命だけは助けてやろう」
と言いました。
鬼はもはやかなわぬとおもい、
宝を残らず出せと言うので


(補足)
 日本のあちこちに悪鬼を踏みつけている仏像はたくさんあります。
ここの絵もまさにこれ、金棒を振り回し鬼を踏みつけています。
鬼の虎パンツと脛(すね)の虎柄脚絆(きゃはん)は今でも売れそう。

「とりこと」、「と」と「こ」のちがいはパッと見た目はわかりにくいですが、ジッと比較すると異なってます。

「多多春くべし」(たたすくべし)、「助けてやろう」ということですが、「たたすく」を調べてもヒットしません。糺(ただす)ではないですし、「た」を一文字余計に入れてしまったかも。

「个連バ」、何度も出てきてますが、ここの「个」はいつもより「々」がくずれてます。


P11P12見開きです。



 この物語一番の見せ場、絵の隅々まで実によく描かれています。
鬼の体の筋肉の盛り上がりも、ササッと筆を走らせているだけでモリモリ感がでていますし、苦悶の表情もうめき声が聞こえてきそう。

 このまま額装して飾ってもよさそうです。