2018年10月21日日曜日

紙漉重宝記 その72




p.28 其二 下段


(読み)
手可゛つめたあ
たが つめたあ

けへ、め川多尓
けへ、めったに

こがあならぬ
こがあならぬ

ものじや
ものじや


(大意)
「手が冷たいので、めったにこんなふうにはうまくいかないものじゃ」


(補足)
 熟練した紙漉き職人さんでも、紙漉きは農閑期になる冬の仕事。手の冷たさとの戦いでもあります。手の冷たさを理由にしてはいますが、出荷する製品としては問題がないとしても、毎回の漉き桁の加減や原料の混ざり具合などから微妙な仕上がりの違いをふともらしたのではないでしょうか。

 「半紙漉之圖」でも漉き船が描かれています。ここの「其二」の漉き船と比較してみます。
1.脚が後者の方は角が面取りしてあり、貫(ぬき)が入り、その木口部分にも面取りがしてあります。
2.桁もたせの作りが異なっています。
 どちらも丁寧に観察して描いているなとおもいます。

 紙床(しと)、紙を積み重ねておくところですが、正確に積層している様を描くことで、手を抜くことなく、このように一寸のズレもなく積み重ねなさいと、明示しているのです。


Reports on the manufacture of paper in Japan、16_The "boat" です。





 どんなふうに、紙を作るのかが大雑把にわかればよかったのでしょう。

 英国の首相グラッドストン(1868-1874)が駐日英国公使ハリー・パークスに、日本の紙産業事情の調査を命じたのがこの報告書の発端だったようです。英国の紙産業を発展させ、また聖書などのインディア紙に代わるものを探していたということもありました。当時の日本の和紙が400種類以上収拾され、またその頃出版されていた紙漉重宝記をはじめ、原料や製造方法もまとめて本国へ送られています。現在でもこれらの史料は現物がそのまま英国で保管されています。ありがたいことです。



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