2018年10月31日水曜日

紙漉重宝記 その82




P.31


(読み)
だあよ、とゝうハ
だあよ、とゝうは

多尓へ可ミを
たにへかみを

取 にいきやつ多けへ
とりにいきやつたけへ

ついもどりや
ついもどりや

志やるまあ
しやるまあ

こん奈こよ
こんなこよ

おちやあるな
おちやあるな

(大意)
「おっかぁ、とうちゃんは谷へ紙を取りに行ったよ。すぐには戻ってきはしないよ」
「息子よ、落ちんじゃないよ」


(補足)
母と息子の会話です。

「奈」(な)と「留」(る)の変体仮名がくずし方にもよりますが、わかりにくといえばわかりにくい。

 全頁の紙干しをしながら左側を見ていた御婦人は子守をする母と息子を見ていたのでした。
母親も子ども二人も裸足です。
子どもの着物には継当てがあります。山里では実際はもっと継当てだらけの着物だったのでしょうか。それともそこそこ継ぎのない着物だったのでしょうか。母親には継ぎが見当たりません。
気になってこれまでの絵図を見直してみました。
継当てのある着物はこの子どもだけでした。

子は谷へ行った父を、母は谷へ落ちるなと子を心配しています。
いったいどんなところで紙を干しているのでしょうか、次頁でわかります。

Reports on the manufacture of paper in Japan にこの頁の絵はありませんでした。
このレポートは紙原料の植物や紙漉きの作業に関係のないこういった場面の絵は描いていないのです。


2018年10月30日火曜日

紙漉重宝記 その81




P.30 紙干之圖 11行目〜最後まで


(読み)
一 人漉 、板 四十  枚 程 用 意有 べし
ひとり春き、いたしじゅうまい本どもちいあるべし

板 へ者りし方
い多へはりしかた

紙 のおもてなり
かみのおもてなり

此 板 を床 といふ
このいたをとこといふ


(大意)
一人で漉くのに、干し板は40枚ほど用意する必要がある。
(干し)板へ貼った方の面が
紙の表になる

この板を「床」といふ


(補足)
「有」、頻出です。このくずし字も確実に読めるようになると自信がつきます。
「おもてなり」の「も」が「り」になっています。間違いでしょう。

「紙床」の絵、重ねてある様子、直線はまっすぐに四隅をきちんとそろえて、が細かく描きこまれています。

 頭の手ぬぐい、たすき掛けや、前掛けがいい感じです。


さて、英国議会版です。



どうでしょうか。



2018年10月29日月曜日

紙漉重宝記 その80




P.30 紙干之圖 5行目〜10行目


(読み)
右 の手に志べ本゛うき
みぎのてにしべぼ うき

を持 て奈で付 る也 。上  手入 べし、
をもちてなでつくるなり。じょうづいるべし、

心  得あり。日より奈れバ早 く
こころえあり。ひよりなれば者やく

可王くなり。雨天 なれバ
かわくなり。うてんなれば

火に可け可ハか春る事 あり。
ひにかけかはかすることあり。


(大意)
右手にしべぼうきを持ってなでつける。上手に行うには
コツがいる。天気がよければ早く乾く。
雨天のときは火をたいて乾かす事もある。


(補足)
「心得」、何度もでてきてます。「心」がこれだけだとわかりにくい。「得」の旁が「月」のくずし字にそっくりです。
「日より」、よい天気・晴れ。
「可王くなり」、「王」、「わ」の変体仮名。

 「紙干之圖」の説明では左手に竹の棒、右手にしべぼうきと、右利きを前提としています。
左利きの人はきっと、普段の生活では左利きでも、仲間と一緒の仕事では、親方に直されたに違いありません。

 御婦人はここでも裸足です。この時代これが普通だったのでしょうか。



2018年10月28日日曜日

紙漉重宝記 その79




P.30 紙干之圖 1行目〜5行目


(読み)
紙 干 之圖
可ミ本しのづ

壱 間 板 尓
いっ个んい多に

表  へ五まい裏 五枚 圖の
をもてへごまいうらごまいづの

古゛とし。紙 一 方 少  厚 し。其 方 へ
ご とし。かみいっぽうすこしあつし。そのほうへ

者じめ、圖能ごと起竹 を以 て
はじめ、づのごときたけをもって

まき取。
まきとる。


(大意)
紙干しの図。
長さ一間の(干し)板に、表へ5枚、裏へ5枚、図のようにはる。
紙の一方は少し厚くなっているのでそちら側の厚い方から
図のような竹の棒で巻き取る。


(補足)
 この箇所は読み方で難しいところはないようにおもいます。
この作業も腰に負担がかかりそうです。

 干し板の長さが一間ですから畳と同じです。図では短めに描かれていて、
半紙3枚目を手にしている位置が低すぎます。あと2枚これでは貼れません。

 この図も丁寧に描かれ、顔が作業の手元を注視せずに、ふと手を止め左のほうを見ています。
何を見ているのでしょうか。
この頁は、冊子の見開き左側の頁にあるので、次の頁をめくらないと御婦人の左側に何があるのかわかりません。



2018年10月27日土曜日

紙漉重宝記 その78




P.29 8行目〜9行目


(読み)
勿 論 、女 子共 ノ手間
もちろん、じょしどものてま

一 向 算 用 二入 不申  候   。此 外 、たきゝ゛代 四分程 、
いつ可うさんようにいれもうさずそうろう。このほか、たきぎ だいしぶほど、

可ゝ里候  へども、山 里 能事 故 算 用 二入 不申  候。
かかりそうらえども、やまざとのことゆへさんようにいれもうさずそうろう。

(大意)
勿論、女や子どもの手間賃は
まったく勘定に入れていない。このほかに、薪代(銀)が4分程
かかるが、ここは山里なので(薪はたくさんあり)勘定に入れていない。


(補足)
「候」が3箇所でてます。古文書では候文は頻出ですが、この重宝記では珍しい。
「候」はごく普通に使われるので、それだけたくさんのくずし字があります。「、」で済ましている場合もあります。
「間」、「門」が冠のようになり、その下部に「日」です。「門」の漢字は同じようにくずします。
「故」、頻出です。「+」+「m」のような感じ。

 1873年ウィーン万博に明治政府として初めて参加しました。そのときに和紙類が大量に展示即売されてます。また万博終了後も日本が展示したものはほぼすべて現地で売りつくされました。
それに先立つこと、1862年のロンドン万博、1867年のパリ万博にも参加しており、同じように和紙類が人気の的でした。ジャポニズムの時代でした。
 わたしのパリの親戚の家には、1867年パリ万博で購入したアラブの木造建築置物があります。
ウィーン・ロンドン・パリなどには万博のときに購入し代々受け継がれてきた日本の品々がたくさんあるはずです。

2018年10月26日金曜日

紙漉重宝記 その77




P.29 7行目〜8行目


(読み)
一   灰 、代 銀 一 分六 リ。一   のり木、代 銀 二分四 リ。
ひとつ 者い、だいぎんいちぶろくり。ひとつ のりぎ、だいぎんにぶよんり。

右 壱 〆 の紙 漉 一 日 二四 束 、
みぎひとしめのかみすきいちにちによんそく、

志可れバニ人 半 役 。板 へ付 干 申  二二人 役 、但 シ荒 草、
しかればににんはんやく。い多へつけ本しもうすにににんやく、ただしあらくさ、

けづり夕 奈べ尓い多し候  へバ一 人 前 二五百  目、
けづりゆうなべにいたしそうらへばいちにんまえにごひゃくめ、

ならでは出来不申。
ならではできもうさず。


(大意)
ひとつ 灰の代銀は一分六里。ひとつ のり木の代銀は二分四里。
吉賀紙一締めは1人で1日に4束(800枚)漉けば、二人半の働きになる。
(同じく)干し板で干す仕事では二人分の働きである。ただし、荒草(楮苧の皮の黒皮)を
夜なべ仕事で削っているので一人前で500目しかできない。


(補足)
「のり木」、トロロアオイのことと日本農書全集53にはあります。
うーん、夜なべ仕事で・・・のところの意味がよくわかりません。
わたしの宿題にします。

くずし字などで、特に補足するところはここではなさそうです。

2018年10月25日木曜日

紙漉重宝記 その76




P.29 5行目〜6行目


(読み)
一   白 大 極 上  吉 賀紙 、六 〆 入 代 銀 、九  拾  四五匁。
ひとつ しろだいごくじょうよしかがみ、ろくしめいりだいぎん、きゅうじゅうしごもんめ。

同 、中  物 同、 八 拾  五匁  。同 、下 物 、
どう、ちゅうものどう、はちじゅうごもんめ。どう、したもの、

同、 七 拾  匁  ゟ 五匁  。右 不景 気。
どう、ななじゅうもんめよりごもんめ。みぎふけいき。

漉 方 手許 。 一   楮 苧、三 〆 目代 銀 、六 匁  三 分。
春き可多てもと。 ひとつ こうぞ、さんかんめだいぎん、ろくもんめさんぶ。

此 草 个づり取 壱 貫 五百  目尓成。
このくさけずりとりいっかんごひゃくめになり。

件   の壱 貫 五百  目に天吉 賀紙 、一 〆め二千 枚
く多゛んのいっかんごひゃくめにてよしかがみ、ひとしめにせんまい。


(大意)
ひとつ 真っ白の最高級品吉賀紙は六締めで代銀94、95匁である。
同じく中級品では同じく85匁、同じく下級品では同じく70匁より75匁である。
これらは不景気のときの価格である。

紙漉き農家の稼ぎ賃。ひとつ 楮苧三貫目の代銀は6匁3分。
この(楮苧の黒皮を)削り取った白皮は1貫500目の量になる。
この1貫500目で吉賀紙が一締め、つまり2000枚できる。


(補足)
 この紙漉重宝記は楮苧の育成方法から製紙工程・販売など一連の紙の元から消費者の末まで詳しく記されていますが、さらに原価や問屋との間の価格まで実に細かく書かれているのがひとつの特徴です。生産者と問屋との間の価格(原価)を明らかにしてしまうことは、双方にとって一長一短がありますが、ある程度の基準を示すもとして、その役目は果たしてきたのだとおもいます。

漢数字のオンパレードです。「五」が読めれば自身がつきます。「拾」がそのままで読みやすいです。「壱」も読みやすい。「二千枚」が「弐」ではありません。
「ト」は「分」(ぶ)。「分」のくずし字は「ミ」を裏返し、その右側に点です。

「漉方手許」の次に一つ書き「一」がきています。行頭にくるものばかりとおもってました。
「手許」(てもと)、暮らし向き、生計と広辞苑にあります。日本農書全集53では「原価」としています。それもなんかしっくりこないので、現代語訳に当てはまる単語を連想しました。
「稼ぎ」または「稼ぎ賃」はどうでしょう。


2018年10月24日水曜日

紙漉重宝記 その75




P.29 4行目


(読み)
一   近 年 去 御国 尓て紙 漉 御糺   の節 、答  左之通。
ひとつ きん袮んさるみくににてかみすきお多ゝ゛しのせ川、こ多へさのとおり。

彼 地尓て盤、半 紙を吉 賀紙 といふ。
可のちにては、はんしをよし可がみという。


(大意)
ひとつ 最近ある国より紙漉きについての質問があったので、左記の通りに答えた。
なお、その国では、石州半紙のことを吉賀紙と呼んでいる。


(補足)
「節」は「竹」冠ですが、くずし字では「前」の上部分になってます。「答」でも同じです。振り仮名の「川」は「つ」。
くずし字になると冠部分が「前」の上部分や「艹」のような形になる字が多いです。
「半帋」、「半」がわかりにく。「帋」、紙の異体字です。「帋」「紙」の使い分け基準がしりたいところです。
「左」、「エ」が「ヒ」になっているのも異体字。


「和紙多彩な用と美 久米康生」に、ハリー・パークスが英国に報告するために収集した和紙などの一覧がのっています。当時混沌とする日本の世情の中で長崎・大坂・東京などからよくもこれだけ収集したなとおもわせる品々です。しかし一方、これだけの種類の和紙を大都市の紙問屋では全国から取り寄せ扱っていたのではないかともおもわれます。ですから、パークスはそういった問屋へ一声かければよかっただけなのかもしれません。


2018年10月23日火曜日

紙漉重宝記 その74




P.29 3行目


(読み)
一   摂 州 名塩 漉 盤、右 の上 尓べを加 ふ。諸 国 のりの入 らざ流ハ稀 なり。
ひとつ せつしう奈じ本春きは、みぎのうえにべをくはう。しょこくのりのはいらざるはまれなり。

(大意)
ひとつ 摂津国名塩(兵庫県西宮市)の名塩紙を漉くには、さらに「にべ」を加える。
諸国で漉く紙には、米のりの入らないものはまれである。


(補足)
 名塩紙はノリウツギの樹皮からとる粘液(にべ)を使うと日本農書全集53にあります。
さらに名塩は名塩雁皮(がんぴ)紙製造地としても有名で、そのことにはなぜかふれられていないと指摘しています。

「摂」、読めません。形でおぼえるにしても・・・。まぁ地名ですから、そのまま印象づけるしかなさそうです。
「盤」(は)、たまに出てきますが、くずし字はちょっと「春」(す)に似ています。


2018年10月22日月曜日

紙漉重宝記 その73




P.29 1行目〜2行目


(読み)
一   寒 漉 、とろゝ計   尓て製 春る越生漉 と唱 へ
ひとつ 可ん春き、とろろ者゛可りにてせいするをき春起とと奈へ

書 物 に用 ひ年 久 敷 所 持春る尓
しよもつにもちいとしひさしくしょじするに

虫 入 ら須゛、上  品 尓して石 州  紙 の妙  也 。
むしはいらず 、じょうひんにしてせきしゅうかみのみょうなり。

春 漉 、のり加 へしハ請 合 可゛多し
者る春き、のりくハへしはうけあいが たし


(大意)
ひとつ (真冬に漉く)寒漉きの楮苧とトロロアオイだけでつくる紙を生漉(きすき)という。
書物の紙に用い、何年所持していても虫に食われず、石州紙の最上品でありすばらしいことである。
春になって(米)のりを加えて漉いた春漉きの紙の品質は保証しがたい。


(補足)
 文章の文頭に「一」がおかれ、それがいくつか段落ごとに続いています。
一つ書きといいます。古文書の典型的な書き方で、現代でも用いられています。
ひとつ何々、ひとつ何々、と段落が増えても、二、三、となることはありません。

「寒」、振り仮名があるので読めました。
「久敷」の「敷」は頻出です。夥敷(おびただしく)、宜敷(よろしく)、六ケ敷(むつかしき)、悪敷(あしく)、間敷(まじく)、怪敷、などなど

「石州」、「州」が「刀」三つとなってます。異体字です。
「春」のくずし字が、わたしはちと苦手なのです。

 今年の5月に、市博物館で地元の有名な約156年前の古文書を撮影させていただきました。
100頁程もあります。和紙の薄さ、美しさ、墨書きの際立った凛々しさ、頁をめくるたびに緊張感が増しました。紙が薄くて頁を数箇所とばしてしまい、再度撮影しました。
虫喰などひとつもなく、保存状態の良かったことは勿論、紙の品質も非常によかったのだとおもいます。どこ産の紙なのでしょうか。



2018年10月21日日曜日

紙漉重宝記 その72




p.28 其二 下段


(読み)
手可゛つめたあ
たが つめたあ

けへ、め川多尓
けへ、めったに

こがあならぬ
こがあならぬ

ものじや
ものじや


(大意)
「手が冷たいので、めったにこんなふうにはうまくいかないものじゃ」


(補足)
 熟練した紙漉き職人さんでも、紙漉きは農閑期になる冬の仕事。手の冷たさとの戦いでもあります。手の冷たさを理由にしてはいますが、出荷する製品としては問題がないとしても、毎回の漉き桁の加減や原料の混ざり具合などから微妙な仕上がりの違いをふともらしたのではないでしょうか。

 「半紙漉之圖」でも漉き船が描かれています。ここの「其二」の漉き船と比較してみます。
1.脚が後者の方は角が面取りしてあり、貫(ぬき)が入り、その木口部分にも面取りがしてあります。
2.桁もたせの作りが異なっています。
 どちらも丁寧に観察して描いているなとおもいます。

 紙床(しと)、紙を積み重ねておくところですが、正確に積層している様を描くことで、手を抜くことなく、このように一寸のズレもなく積み重ねなさいと、明示しているのです。


Reports on the manufacture of paper in Japan、16_The "boat" です。





 どんなふうに、紙を作るのかが大雑把にわかればよかったのでしょう。

 英国の首相グラッドストン(1868-1874)が駐日英国公使ハリー・パークスに、日本の紙産業事情の調査を命じたのがこの報告書の発端だったようです。英国の紙産業を発展させ、また聖書などのインディア紙に代わるものを探していたということもありました。当時の日本の和紙が400種類以上収拾され、またその頃出版されていた紙漉重宝記をはじめ、原料や製造方法もまとめて本国へ送られています。現在でもこれらの史料は現物がそのまま英国で保管されています。ありがたいことです。



2018年10月20日土曜日

紙漉重宝記 その71




P.28 其二 中段 


(読み)
春多多る紙
すきたるかみ

何 枚 もかく
なんまいもかく

のごとく重 ぬ
のごとく可さぬ

べし
べし

け多も多せ
けたもたせ

箱 間半 二一 間 少 し
はこまなかにいっけんすこし

せまし
せまし

(大意)
漉きおわった紙は何枚も図のように積み重ねること。
桁もたせ。
箱(漉き船)の大きさは、前後は半間(三尺)で横幅は一間より少し小さい。


(補足)
漉き船の説明がわかりづらい。
箱とは漉き船のこと。
間半(まなか)、広辞苑に「【間中・間半】①(西日本などで)1間(いっけん)の半分。また、畳やむしろの半分。」とあります。ついでながら②として九州南部地方では「便所」の意。
続いて、「一間少しせまし」とありますから、間半より長いのでこちらが長辺となります。
おおざっぱに、漉き船の大きさはおおよそ畳一畳分の大きさとなります。
実に作りのしっかりした見事な漉き船です。

「ごとく」がここでも、「ごと」がくっついています。
「重」(かさ)、ふりがながあるのでなんとか読めました。

「重ぬべし」、「ぬ」は否定の助動詞の印象が強く、ここでも重ねてはいけないと意味しているように勘違いしてしまいます。図を見れば一目瞭然で、そうでないことがわかります。ここでは「確かに」、「きっと」というような意でしょうか。

 漉き船のこの作業は、現代では立ち仕事ですが、この絵図では座ってます。それとも膝立ちでしょうか。立ち仕事でないとすると、けたもたせに立てかけ、背後の紙床(しと)に積み重ねる作業がいっそう辛いものになるはずです。馴れるにしたがいこの作業は大変に速くできるようになるとありますから、腰痛持ちのわたしとしてはどうしても腰への負担を考えてしまいます。



2018年10月19日金曜日

紙漉重宝記 その70




P.28 其二 上段  7行目〜12行目


(読み)
又、 春起可く類
また、すきかくる

事、 先 のごとし。馴るゝ尓
こと、さきのごとし。奈るるに

随  ひ至極 早 きもの也。
志多かひしごく者やきものなり

紙 くさ少 奈く、漉 可゛多
かみくさ春くなく、すき可゛た

き時 ハ、者じめの製
きときは、はじめのせい

の古゛とく春べし
のご とくすべし


(大意)
また同じように紙を漉き、
これを繰り返す。慣れるにしたがい
この作業は大変に速くなるものである。
紙の原料が少なくなり漉きにくくなってきた
ときには、作業の最初にしたように(楮苧とトロロアオイを)混ぜる。


(補足)
「馴」、旁「川」は間違えませんが偏「馬」がわかりません。
「随」、「阝」+「辶」+「有」。うーん、形で覚えるしかなさそう・・・。
「至極」、よくでてきます。「至」が?でも「極」が読めれば、見当がつきます。
「先のごとし」、「こ」の下部分が「と」の出だしとくっついてます。

 作業の流れは、こんな具合でしょう。
1.漉き船の中で楮苧とトロロアオイを混ぜる。
2.漉き桁(入子輪・外輪・簀)で紙を漉く。
3.漉き終わったものを、左の「けたもたせ」に立てかけ水を切る。
4.もう一組の漉き桁で漉く。
5.それを、けたもたせに立てかけるときに、同時にもう一方の手で先の水を切っていたものと入れ替える。
6.水を切り終わった漉き桁から紙をはがし、背後の紙床(しと)に重ねる。
7.空になった漉き桁で再び紙を漉く。
これを繰り返し、漉きにくくなってきたら、原料を足して、漉いてゆく。

 大変な作業です。手は当然冷えるので、本文中には記されてませんが
漉き船の影にかくれた湯桶から、モウモウと湯気が立ち上がっています。
すぐに冷めてしまうはずで、湯を沸かし続けていたことでしょう。

2018年10月18日木曜日

紙漉重宝記 その69




P.28 其二 上段 最初〜7行目


(読み)
漉 多る紙 を
春起たるかみを

け多もろとも
けたもろとも

左のけ多持 せ尓
さのけたもたせに

も多せ、雫  越多らし置
もたせ、しずくをたらしをき

今 一 ツの个多尓天漉、 先 の
いまひとつのけたにて春き、さ起の

持 せ置 しけ多の紙 を
も多せおきしけたのかみを

う川し置。
うつしおく。


(大意)
漉いた紙は漉き桁と一緒に、図の(左側板に立てかけてある)桁もたせに
立てかけ、雫をたらしておく。
もう一つの漉き桁で漉き、先に立てかけておいた漉き桁と入れ替えて、
立てかける。


(補足)
紙を漉く工程で一番目にするものとなりました。ここまでに至る作業も気が遠くなる程でしたが、
このあともまだ気の抜けない作業が待っているのです。

 この工程の図で気づいたのが、桁もたせです。「半紙漉之圖」にも描かれていました。
ここの「其二」の図と同じものです。細かくいうと「半紙漉之圖」の方は桁もたせの中間に補強の梁がありますが、「其二」の方にはありません。

 桁もたせの水面に近い所に支えがふたつあるのがわかります。背負子の支えと同じようなものです。紙漉きではなくてはならぬ重要な道具のひとつのはずですが、先の「道具之圖」では説明されていませんでした。不思議なことです。

「左」の「エ」が「ヒ」です。
変体仮名のオンパレードです。春、起、多、尓、越、个、天、川、慣れるしかありません。

「半紙漉之圖」とここの「其二」には同じ漉き船が描かれています。
「其二」の絵全体からは、きりりと引き締まった緊張感が伝わってきます。

2018年10月17日水曜日

紙漉重宝記 その68




P.27 道具之圖 下段 8行目〜12行目まで


(読み)
竹 の簀、竹 を水 引 の如 く
たけのす、たけをみずびきのごとく

能 々 けづり、馬 の尾を以
よくよくけづり、うまのををもって

図の古゛とくこしら由る也
づのご とくこしらゆるなり

但 し右 の道 具弐具
ただしみぎのどうぐにぐ

用 意あるべし
よういあるべし


(大意)
竹の簀は竹を水引きのように
よく削って細くし、馬の尾で編んで
図のようにこしらえる。
但し右の道具(漉き桁と簀)は二組
必ず用意すること。


(補足)
「竹」のくずし字、左側が偏のように見えてしまう。
「能」、ジッと見ると「能」にみえてくるが、初心者の私はパッとみると悩む。
「図」のこのくずし字、フォントになかった。「口」+「労」のような感じ。
「道」、もうこれは形でおぼえるしかない。しかしおぼえてしまうと、
間違えることはなくなるくずし字です。
「具」、連続して出てきてます。最初のくずし字は、「る」の最後にニョロン、次のは楷書で問題なし。
「弐」、ここにあるくずし字は、わかりやすい。
漢数字の壱弐参四五六七八九拾でわかりにくい順(つまりこれがわかれば楽ちん)は
五、壱、拾、弐で、他はまぁ間違えることはあってもどうにかなります。

 馬の毛が何度も出てきます。水に強く丈夫でした。
大正生まれの母も、わたしが子どもの頃、洗い張りをするときに、馬の毛で作った「>=<」の形状のもの(真ん中の=が紐でぐるぐる巻かれていてその部分を握る)を使ってました。

毎度、Reports on the manufacture of paper in Japanではどうなっているでしょうか。



 図の説明です。



 うーん・・・、毎回ですが、一体誰が描いたのか、興味津々です。
調べてみたい。
それになんでこんなひどい絵を採用したのか。
当時の日本ならこれ以上の絵師なんていくらでもいたはずです。
1871年英国で出版されているわけですが、このとき日本に来ていた英国人は鑑識眼もそれなりにあって、この絵の拙さはすぐに気づいたはずです。
なにもかも???だらけです。

 しべぼうきと簀をほとんど同じタッチで描いている。これでは道具の説明になってません。
内輪と外輪も歪んでしまって・・・。

 竹の棒の直径が1/4inchとありますから6.35mm。ずいぶんと細い。
「筆の軸のごとし」とありますが、こんなに細かったかな。



2018年10月16日火曜日

紙漉重宝記 その67




P.27 道具之圖 下段 3行目〜7行目まで


(読み)
内 外 輪、杉 尓て製」之
うちそとわ、すぎにてこれをせいす

手可るく女  の力  二応 春゛る
てがるくおんなのちからにをうず る

古゛とく須。外 輪へ簀を
ご とくす。そとわへ春を

志起、入 子の輪を以  堅 め
しき、いれこのわをもって可多め

用 由るなり
もちゆるなり


(大意)
内輪(入子)と外輪は杉材でつくる。
手に持ってする作業なので軽く作り、女の力でも作業しやすいようにする。
外輪へ簀をしき、その上から入子を重ね入れ、簀をしっかり押さえて
用いる。


(補足)
製」之、(之を製す)。なぜかレ点がついてます。学術書や宗教などの楷書で書かれた文献では普通ですが、この重宝記では、初めてでしょうか。
「外」、頻出です。「る」の気持ちで書き始め、下の小さなクルッと回るところでそのまま真下に流し、右側に点です。

簀は海苔巻きやだし巻きなどを作るときに使いますので、馴染みのあるものです。
日よけにすだれとしても使いますし、すだれ状のものは身の回りに探すとたくさんあります。

「堅」の下部「土」がかすれてわかりにくいですが、かすれてなくても「土」のくずし字、わたしは苦手です。「云う」の上の「一」がないような形に見えます。

2018年10月15日月曜日

紙漉重宝記 その66




P.27 道具之圖 下段 最初〜2行目まで


(読み)
此の簀古 くなる時 ハ馬尾 の形、  紙 に付 也。
このすふるくなるときはうまおのかたち、かみにつくなり。

是 を紙 中 買、 簀可゛高い と唱 へ、きらふ也。
これをかみなかがい、すが たかいととなへ、きらうなり。


(大意)
この簀は古くなると(ひごを編んでいる馬毛がささくれ)その跡が紙に付いてしまう。
これを紙の仲買証人は「簀が高い」と言って、嫌う。


(補足)
「簀が高い」という表現に興味がひかれました。広辞苑によると「高い」の意に「時間が多く経過している」、「年齢が多い。年長(た)けている」もあります。要は竹ひごを縛っている馬毛がくたびれてきて、ささくれだった状態を意味しているわけですが、「古い」とは言わずに「高い」と表現するには何か他に理由があるような気がします。

「高」のくずし字も頻出です。「亠」の下の部分が「寺」のくずし字ににています。



2018年10月14日日曜日

紙漉重宝記 その65




P.27 道具之図 上段 道具の説明


(読み)
道 具之図
どうぐのづ


入 子 輪 外 輪 簀
いれこのわ そとわ す

水 嚢  志べ本゛うき 
すいのう しべぼ うき

竹  長 サ一 尺  三 寸  細 サ筆 の軸 の古゛とく 
たけ ながさいっしゃくさんすん ほそさふでのじくのご とく


(大意)
道具の図

入子の輪 そとわ す
水嚢 しべぼうき
竹の長さは一尺三寸(約39cm) 筆の軸のような細さである


(補足)
「輪」も「軸」も「車」偏ですが、「爿」に見えます。
「軸」のほうは、「筆の」と続くので(じく)?と推量します。

 どの図も見取り図ですが、直角の箇所は直角に、丸めるところはそれらしく、箒のフサフサ感もあり、簀のすだれ具合も丁寧に描いています。

「しべぼうき」の「しべ」とは、稲穂の芯のこと。
水嚢が中華料理のセイロに似ています。


2018年10月13日土曜日

紙漉重宝記 その64




P.26 半紙漉之図 図の説明


(読み)
手冷 る由へ始終
てひゆるゆへしじう

湯をたぎらし折々
ゆをたぎらしおりおり

手越阿多ゝむる
てをあたたむる


(大意)
手が冷えるので始終
湯を沸かしておき、ときどき
手を温める


(補足)
「始終」の「終」の旁「冬」、わかりにくいですが、なんとなく「冬」に見えてくる。
振り仮名がこれではかえって読めません。漢字から類推する?
「折々」は頻出。「斤」がいつもながらわかりにくい。

絵師はここでも細心の筆使いで描いています。
漉き船の側板の直線や直角部分の正確さ、材の厚さも均一です。
中の楮苧やトロロアオイが混ざっている水も、よくかき混ぜているので
その水面が波立っている様まで描写しています。
湯おけの湯気の立ち具合、「湯をたぎらし」続けるのだぞと言っているようです。

Reports on the manufacture of paper in Japan より
14_Making the paper called "hanshi" です。



 こんな貧弱なみすぼらしい器具や道具で和紙を作っているのかと
当時19世紀の英国人はおもったかもしれません。
 もう、こんな絵に至っては感想する気も萎えました。
でも、ひとつだけ。
湯気だけは原画よりも立ち上がっている様子がモクモクと描かれています。
さすが、18世紀、蒸気機関発明の国、湯気の大切さは知っていたようです。




2018年10月12日金曜日

紙漉重宝記 その63





P.26 半紙漉之図 7行目〜最後まで


(読み)
ゴブリゝ  と云 。袮バり少  个れバ
ゴブリゴブリという。ねばり春く奈ければ

とろゝを、ま須。至  て可个゛ん物 也。
とろろを、ます。い多つてかげ んものなり。

竹 を以 てかきまぜ引 上 見れバ
たけをもってかきまぜひきあげみれば

海苔 のごとし。可个゛ん志るゝ也。 竹 尓可ゝら
ふのりのごとし。かげ んしるるなり。たけにかから

ざる本どに、こ奈累ゝをよしと春。
ざるほどに、こなるるをよしとす。

と可くよくゝ まぜる本どよし
よかくよくよくまぜるほどよし。


(大意)
ゴブリゴブリという音がする。粘りが少なければ
トロロアオイを増やす。その加減は大変に難しいものである。
竹棒でかき混ぜ引き上げてみたとき
棒の先についた楮苧の繊維はふのりのように見える。このときの様子で繊維の混ざり具合加減がわかる。竹棒の先に絡まなくなる程度が、こなれた状態でちょうどよい。
とにかく、十分に混ぜれば混ぜるほどよい。


(補足)
「ゴブリゴブリ」という音が、実感があります。
「个」が「々」とまぎらわしい。
「至」、頻出です。かたちでおぼえます。
「以」、「m」に似ている。しかし、偏と旁が原型を保っている感じ。
「累」(る)、この「る」は、はじめてです。小さい「冖」に「ふ」のようなくずし字。

「海苔のごとし」、「志るゝ也」の「ご」や「る」がわかりずらいです。

 この次の頁が「道具之圖」なのですが、ここの作業で使用する、
竹の棒(節がある)、外輪板(額のような型で四隅の直角がきりりとあざやか)、水のう、漉き船、湯おけが、意識的にクッキリと描かれています。漉いている人は手ぬぐいをほっかぶりをしているので女の人で、文中説明にある通り半紙を漉いているはずです。


2018年10月11日木曜日

紙漉重宝記 その62




P.26 半紙漉之図 最初〜6行目まで


(読み)
半 紙漉 之図
はんしすくのづ


杉 原 奈どハけた重 く男  の職  也
春ぎ者らなどはけたをもくおとこのしょくなり

半 紙ハ女  漉 なり。春可んと思 ふ
はんしはおんな春くなり。すかんとおもう

本ど多ゝきか多め桶 の中 へ
ほどたたきかためをけのなかへ

入 置 し玉 越可ぎとりとろゝを
いれをきしたまをかぎとりとろろを

春いのう尓てこし、まぜけ多を持 て数へんまぜあハせ
すいのうにてこし、まぜけたをもちてすへんまぜあわせ


(大意)
半紙を漉く図

杉原紙などは漉き桁が重いので男の仕事である。
(石州)半紙は女が漉く。漉こうと考えている
量の分だけたたいたものを、丸く固めて桶の中に
入れておく。その玉から必要分をかきとり
トロロアオイを水のうでこし、混ぜ桁で数度混ぜあ合わせると


(補足)
やっと漉き船の工程になりました。
「杉原紙」、播磨国揖東郡杉原村(2005年まで兵庫県中部の多可郡加美町、現在は多可町加美区)で作られた紙。主に武家の公用紙として用いられた。(日本農書全集53より)
「けた」、漉き桁のこと。次の「道具之圖」に出てきます。お寿司や料理で使う、巻き簀(まきす)の大きいものを底面にしたお盆状のもの。
「すいのう」、以前にでてきました。不純物を取り除くための笊(ざる)類。
「まぜけた」、絵図の漉き船の左側の側板に立てかけてある額のようなもの。また、この枠に桁がぴったりはまり、漉き船の中でじゃぶじゃぶして紙を漉く。両方の目的で使ったのだろうか。

「杉」、「木」+「久」。
「数」、なんとなくわかりますが、くずし字の偏の「米」+「女」がわからない。
異体字で「米」+「攵」と書きますが、これかもしれません。

専門用語が句読点なしの文章に混じり、どこできるのかが分かりづらい頁です。
声を出して読み、区切りを探します。



2018年10月10日水曜日

紙漉重宝記 その61



P.25 擲棒之図


(読み)
擲  棒  之図
多ゝき本゛うのづ

長 サ 三 尺  先キハ四角 元 ハ丸 し
ながさ さんじゃくさきはしかくもとはまるし

(大意)
たたき棒の図

長さ三尺(約90cm)。先は四角、元は丸い。


(補足)
たたき台の幅三尺ですから、たたき棒もそれに合わせたのでしょうか、同じ長さになってます。
向かい合いで叩く作業では、向き合う相手にうっかりすると届いてしまうかもしれません。危ない!
絵図では、たたき台とたたき棒の長さの加減が正確に描かれているようにおもいます。

 ハチマキ姿のおじさん、表情が朗らか楽しそうです。竹刀の持ち手と同じように握っています。
たたき台の脚の隅が面取りしてあり、このたたき台の造りがきっと、丁寧なものであったことがうかがわれます。

 作者は「身尓志ミゝ゛と哀也」とありますが、部屋の中で作業をしている本人たちは
たたき棒の音にあわせて、民謡など歌っていたのかもしれません。
ハチマキおじさん、唇が半開きで何か話しながらの作業かやはり唄を口すさんでいそうです。
顎の髭あとも細かく描き、絵師の入れ込み具合が伝わります。

 籠の中には、これからたたくソソリがたくさんあります。
たたき終わったものが手前の籠のほうでしょうか。

 この見開き一ページの絵図からは、「身にしみじみと哀れ」を、わたしは感じません。
さぁこれから、いい紙を作るぞという、意気込みと楽しさが醸し出されているのです。

一方、Reports on the manufacture of paper in Japan の
13_Pounding the "sosori はどうでしょうか。



 なにか良い点を探そうと、くまなくみるのですが、うーん・・・、ない。
あえて云うなら、こんなふうな作業をするということぐらいです。
たたく作業の趣なんぞ、これっぽっちもない。
いけないいけない、悪口雑言が続いてしまいそうです。やめます。

 この紙漉重宝記の絵図で見開きのものは三箇所しかありません。
二箇所はこのあと出てくる風景です。
もうひとつがこの頁になるわけですが、作者の特別な思い入れがあるような気がしてなりません。






2018年10月9日火曜日

紙漉重宝記 その60




P.24 楮苧擲く図 10行目〜最後まで


(読み)
此 音 遠 くきこへ天いとゝ゛
このをととをくきこへていとど

物 さびしき山 家
ものさびしきさん可

身尓志ミゝ゛と哀  也
ミにしみじみとあハれなり

擲  臺 板 長 サ五尺  幅 三 尺  余 り
たたきだいいたながさごしゃくはばさんしゃくあまり

厚 サ三 寸 五分 樫 桜  尓て作  也
あつささんすんごぶ かしさくらにてつくるなり


(大意)
この音が遠くから聞こえてくるのだが
人里離れたずっと山の奥の家で楮苧をたたいている人たちのことをおもうと
ひとつひとつの音がしみじみと身にしみて、哀れな気持ちになってしまう。


たたき台板長さ五尺(約150cm)、幅三尺(約90cm)余り
厚さ三寸五分(約10.5cm)、樫・桜にて作るなり。


(補足)
「遠」のくずし字、「辶」が「土」の下に「と」のようになっています。
「物」のくずし字は「お」のようにみえます。しかし「お」の変体仮名は「於」です。
「哀」、振り仮名がないと読めません。

たたき台は樫・桜で作るとあります。桜はお経や絵図などの版木として用いられました。一度刷って冊子ができてしまうと、表面を全て削り取り、再び彫って再活用します。両面を使って、これを数回繰り返し、最後は薪となりました。余談ですが、京都の黄檗宗萬福寺に鉄眼版一切経版木6万枚があります。もう半世紀近く昔、半日近くこれらの現物に対面し感動したのを今でも覚えています。

 桜も硬い材で、粘りがあり版木にはピッタリでしたが、樫はそれよりも硬い。加工する刃が欠けることもあります。150✕90ですから4人がけ食卓テーブルサイズです。図でもそのような感じに描かれています。
 そして厚さがなんと約10cm、樫のこれだけ大きな材を探すのは現在ではなかなか大変です。当時でもそうなかったはずで、幅の狭いものを2,3枚はいで一枚にしたものでしょう。
 重さはきっと軽く100kgを超え、150kgくらいあったはずです。ということはたたき台を据える床も頑丈でなければいけなかったはずで、土台からしっかりとした工事をしていたことになります。

 このたたき台は見開きで描かれ、大変に立派で大切にされていることがわかります。
次回は文章は少ないので、絵図等の感想をおもに記してみたいとおもいます。

2018年10月8日月曜日

紙漉重宝記 その59




P.24 楮苧擲く図 6行目〜9行目まで


(読み)
冬 紙 ハとろゝ者゛可り入
ふゆかみはとろろば かりいり

て多ゝくなり。春 紙 尓
てたたくなり。はるかみに

盤のりを入るゝもあり
はのりをいるるもあり

左奈くては漉 可゛多し
さなくてはすきが たし


(大意)
冬に漉く紙はトロロアオイだけを入れてたたく。
春に漉く紙はのりを入れてたたくこともある。
そのようにしないと漉きにくい。


(補足)
「冬」のくずし字、遠目にパッと見た感じは「色」のようですが、よくみると「冬」そのままです。
「春」のくずし字は何種類もあります。変体仮名の「春」(す)は「十」+「て」のようなくずし方が多いようです。

恥ずかしながら「春紙には、のりを入るる」なのか「春紙に、はのりを入るる」なのか、文章の区切りに迷いました。「ふのり」というのりがあるので「はのり」もあるのではないかとおもったのです。
「盤」(は)のくずし字もよくでてきます。

2018年10月7日日曜日

紙漉重宝記 その58




P.24 楮苧擲く図 最初〜5行目まで


(読み)
楮 苧擲 く図
そゝ里多ゝくづ


明日紙 を漉 んと思 ふと起
あ春かみを春可んとおもふとき

前 夜尓そゝ里をあらひ
ぜんやにそゝりをあらひ

翌 朝 より多ゝく尓
よくあさより多ゝくに

朝 飯 志可け置き
あさ者んしかけをき

尓へる間   多ゝけバよし
にへるあい多゛たたけばよし


(大意)
楮苧(こうぞ)擲(たた)く図

明日、紙を漉こうとおもったら
前夜にそそり(楮苧の白皮)を洗い
翌朝よりこれをたたく。
朝飯の支度をして、
ご飯が炊ける間にたたけば十分である。

(補足)
 ようやくこの工程まできました。
よく目にする、水の中でじゃぶじゃぶするところまではあと少しです。

相変わらず変体仮名が振り仮名にも文章中にもたくさん出てきます。
「里」り、「多」た、「春」す、「可」か、「起」き、「尓」に、「志」し。

「擲(なげう)つ」、古文書では「打擲」(ちょうちゃく)として出てくることが多いです。
「思」、「田」がわかりにくい。
「夜」は比較的わかりやすいのですが、「朝」の「月」のくずし字に慣れる。
「置」、「直」のくずし字は頻出です。この部分が読めると、この部品を含む漢字の応用範囲がグッと広がります。

 棒でたたく婦人の姿が丁寧に描かれています。
ござも藁で細かく編んだものでしょう。
棒は手元は丸棒状で真ん中から先端部分は四角の形状がわかるように描いています。
御婦人の姿勢がやや前かがみに、右手はこれから振り下ろそうと力を込めている様子がうかがわれます。「えいっ、えいっ」と掛け声が聞こえてきそう。


2018年10月6日土曜日

紙漉重宝記 その57





P.23 下段 6行目〜最後


(読み)
紙 漉 一 舩 尓壱 升  本ど入 天
かみ春きひとふ年にいっしょうほどいれて

心  得べし。
こころえべし

尤   春いのう尓てこし小桶 二入
もっともすいのうにてこしこをけにいれ

置 入 用 程 づゝつ可ふ
をきいりよう本どづゝつかふ


(大意)
紙漉き一船につき、一升ほどのとろろあおいを入れる
ことを承知しておくこと。
もっとも、(一度に使い切るのではなく)水のうでこしたとろろあおいを小さな桶に入れておき
必要のあるごとに小分けにして用いる。


(補足)
「舩」=「舟」+「公」、旧字体です。頻出というか「船」はほとんど使われない。
「心得」、何度も出てきます。必ず読めるようにする。
「遍゛」=「戸」+「冊」+「辶」+「゛」、「冊」は両側がはみ出ませんが、これで「べ」。
「戸」のくずし字は原型を保ち、「冊」はグニュグニュとさせ、「辶」は下部に横棒となり、
濁点「゛」がつきます。
「尤」(もっとも)、「然」(然るに)の「犬」の部分のくずし字になります。

「春いのう」(すいのう)、水切りのこと。馬の毛や竹などでザルのようにしたもの。
わたしはうっかり「氷嚢」(ひょうのう)と勘違いしてしまいました。頭を冷やさなくちゃ。

 この頁の終わりに Reports on the manufacture of paper in Japan より。
今までの絵に比べたら、余程ましです。
植物だけの写しなら、得意なのかもしれません。



 上部の黄色い花一輪とふたつの蕾は原画でも目立ちすぐに気が付きますが、
中部左側にあるのも、ちゃんと描かれています。
根のひげをもっと目立たせてほしかった。




2018年10月5日金曜日

紙漉重宝記 その56




P.23 下段 5行目迄


(読み)
ひげ皮 をこそげとり擲 く。
ひげ可ハをこそげとり多ゝく。

其 製 とろゝ汁 の古゛とし
そのせいとろろしるのご とし

水 をさし入るゝ本どやハら可
みずをさしいるるほどやわらか

尓成 と志るべし。猶 かげん
になるとしるべし。なをかげん

あ類べし。
あるべし。


(大意)
ひげのある皮の部分をこそげ取り、根をたたく。
とろろ汁のようなものができあがる。
水を差し加えてゆくほどに、粘り気がなくなる。
必要に応じて、加える水の量を加減しなくてはならない。


(補足)
「擲く」(たたく)、「扌」+「酋」+「大」+「阝」。古文書では「打擲」(ちょうちゃく)などとよくでてきます。
「水」、もう何度も出てきましたが読めましたか。
「猶」(なお)、頻出です。「猶又」(なおまた)のように、文頭に用いられます。

絵図の「ひげ皮」、ひげのある部分がよくわかります、


2018年10月4日木曜日

紙漉重宝記 その55




P.23 上段 5行目〜10行目


(読み)
石 原 に出来る
いしハらにできる

ハ尺 短  し。
は多けミぢ可し。

売 買 銀 壱 匁  二
ばいばいぎんいちもんめに

かけ目百  廿   目
かけめひゃくにじゅうめ

安 き時 ハ壱 匁  二
やすきときはいちもんめに

かけ目五百  目
かけめごひゃくめ



(大意)
がれきの野原で育ったものの根は
丈が短い。
(とろろあおいの)売買は銀一匁につき
重さ120目、
安いときは重さ500目である。


(補足)
「短い」=「矢」+「豆」、「豆」が読めるのでなんとか「短い」とわかりますが、「矢」が難しい。
同じように、「銀」も偏の「金」がわかりずらい。
「百廿目」、この「廿」は典型的なくずし字なのですが、どうもわたしは苦手です。
でも、「五」は自信をもって、読むことができます。

2018年10月3日水曜日

紙漉重宝記 その54




P.23 上段 最初〜5行目


(読み)
花 志ほるゝを引 ぬき
はなしほるるをひきぬき

五月 入梅の間   に干し
さつきつ由のあい多゛に本し

多くハふ也。 根の大 きさ
たくはふなり。ねのおおきさ

八 分位。  長 く牛蒡  の
はちぶぐらい。ながくご本゛うの

古゛とし。
ご とし



(大意)
花がしおれた頃に引きぬき、
五月入梅の間に干し、たくわえる。
根の長さは八分(約24cm)くらいあり、長く牛蒡のようである。


(補足)
「五」のくずし字がいつでも間違えなく読めるようになっただけでも、なぜか自信がつきます。
「五月」に振り仮名がないので。(ごがつ)か(さつき)なのか、わかりません。
「入梅」、(つゆ)と振り仮名があります。
旧暦なので、5月が梅雨で、五月晴れは梅雨の間の晴れ間、ということらしい。
「間」のくずし字は頻出です。「門」が「冖」のように、上部にきて、その下に「日」がくる。
門と日の関係が、冠と脚の位置関係になってます。
くずし字では偏旁冠脚の部品の位置関係が、いろいろ変化してることが多い。
「分」のくずし字も読めるようになると、自信がつく漢字です。

 絵図、葉も茎も、そして花と蕾も描いています。



2018年10月2日火曜日

紙漉重宝記 その53




P.22 と路ヽ草の種類 後半


(読み)
山 とろヽといふハ、作 ら須゛。
やまとろろというは、つくらず。

自然 尓生  春゛るもあり。
じ袮んにしやうず るもあり。

これを藝 紙 等 漉 耳
これをちりがみとう春くに

用 由。其 紙 いろ赤 くなる
もちゆ。そのかみいろあ可くなる

と志類べし
としるべし


(大意)
「山とろろ」というものは、栽培はしない。
自然に山野に生育するものもある。
これはちり紙などを漉くのに用いる。
その紙の色は赤くなる。


(補足)
「自然」、読みはここでは(じねん)ですが、他の部分では(しぜん)の振り仮名もありました。
「藝紙」、藝を(ちり)と振っています。この漢字が「塵」には見えません。
先の「うす皮を削図」のところで、「黒皮ちり紙漉に用ゆ。これをさる皮と唱ふ。」とあって、
さらにその次の「阿く出しの図」で、その「さる皮」は石見で消費しきれなかった分を、「藝州領尾形へ運送し、商」うとあります。なので藝州でよく見かける紙だったのかもしれません。
しかし、単純に漢字の間違いかもしれませんが。



2018年10月1日月曜日

紙漉重宝記 その52




P.22 と路ヽ草の種類 前半


(読み)
と路ヽ草 の種 類
とろゝくさのしゆるい


大  豆小 豆を作 る時候  等 し
多゛いづせうづをつくるじこうとひとし

春 生  じ花 さく。花 の中 尓
者るしやうじはなさく。はなのなかに

実を生  須゛。ちいさく六 角 有。
ミをしょうず 。ちいさくろっ可くなり。

胡麻尓似多り。虱  尓似多り。
ごまに尓たり。志らミに尓たり。

花 実用 立 奈し。根を用 由。
者奈ミようだてなし。袮をもちゆ。

左二図あり。木の象  、綿 木の
さにづあり。きの可多ち、わたぎの

古゛とし。
ご とし。


(大意)
とろろ草(とろろあおい)の種類。

とろろあおいの栽培は、大豆や小豆と同じ時期に作る。
春に芽を出し花が咲く。花の中に実ができる。小さく六角形である。
胡麻に似ているし、虱にも似ている。
花や実は役に立たなく、その根を用いる。
絵図にあるように、木の形は綿の木のようである。


(補足)
見出し。
「路」、「足」+「各」。なかなか難しい。
くずし字の偏はやっかいです。「種」は「禾」、これはまぁなんとかなるけど
「類」の偏は「米」+「大」だけど、くずすと「小」+「弓」みたいになっている。
「草」=「艹」+「早」、「早」のくずし字はなるほど、今まで見てきたくずし字になってます。

小豆(せうず)⇒(しょうず)、今では(あずき)ですが(しょうず)なんですね。
「作」のくずし字は特徴的で、その偏「乍」は「乍恐口上申上控」(おそれながらこうじょうもうしあげひかえ)などのように頻出です。くずし字もしっかり覚えて、読めるようにする。
時候(じこうと)、「と」が振り仮名があります。
「等」=「竹」+「寺」、「寺」のくずし字は「ち」or「る」のような形になります。

春夏秋冬のくずし字は大切です。
「春」は簡単なようで意外と難しい。下部の「日」が「云」になりますが、他のくずし方もたくさんあります。
「花」、連続で出てきてます。形がきれい。
「六角有」、振り仮名は「なり」になってますが、漢字は「有」。

「似」=「亻」+「以」、「以」のくずし字が「m」です。
「m」のようなくずし字になるのは他に「故」「処」などがあります。
「用」のくずし字は一画目の「ノ」がありません。

 図は丁寧に描かれています。
左側の隅に蝶がかわいらしく飛んでます。

扨、英国議会版を見てみると、


 あれっ、蝶々はどこ?
相変わらず、絵は雑ですが、黄色い花が二つ、蕾が二つ描かれています。

 アレレとおもって、もう一度もとの絵図をよ〜く見てみると、
花がありました。上の方に三つ、左真ん中へんに一つ。
蕾らしきものがいくつかあります。

黄色い花を描いてもわかりにくかったので、蝶をそっと隅に添えたのかもしれません。