2024年12月5日木曜日

江漢西遊日記一 その22

P26 東京国立博物館蔵

(読み)

之 を湯 治場尓取 立 ンと春れとも山 上  ニアリ

これをとうじばにとりたてんとすれどもさんじょうにあり


山 の下 ニ引キ亦 其 湯ぬるし或  ハ病  の事

やまのしたにひきまたそのゆぬるしあるいはやまいのこと


を問フ八 時比 ヨリ太 田原 侯 ヘ参 ル

をとうはちじころよりおおたわらこうへまいる


廿   二日 朝 曇 ル四時比 ヨリ玄 庵 方 ヘ参 ル夫 ヨリ

にじゅうににちあさくもるよじころよりげんあんかたへまいるそれより


同 道 して小西 隠 居 へ参 ル榧 ノ油  ニて揚 多る

どうどうしてこにしいんきょへまいるかやのあぶらにてあげたる


茄 を喰  ス隠 居 話  ニ云 若 キ時 の事 也 尾張

なすをしょくすいんきょばなしにいうわかきときのことなりおわり


の国 名古屋尓三 月 と九月 御城 の女 中  ニ

のくになごやにさんがつとくがつおしろのじょちゅうに


ヤブ入 とて小宿 アリて世話を春る事 なり

やぶいりとてこやどありてせわをすることなり


夫  を如女郎     買フ事 也 閏 房 至  て深 しと

おっとをじょろうのごとくかうことなりけいぼういたってふかしと


申 され个る一 笑  の談 也

もうされけるいっしょうのだんなり

(大意)

5月21日

 小袖の綿入れを着るくらいに寒い一日であった。近辺の者数人が来てオランダやその他いろいろな雑談して過ごした。

 この宿(駿府)から一里ほどのところに、湯の涌くところがあって湯治場にしようとしたらしいが、山上にあり、下まで引かなければならないし、また湯もぬるく、なんの効能があるかも不明である。

 昼過ぎ2時頃、大田原侯のところへ行った。

5月22日

 天気はパッとしない。昼前10時頃玄庵方へ行って、一緒に小西隠居のところへ出かけた。

そこで榧(かや)の油で揚げた茄子をごちそうになった。

 榧の油の独特な香り、そして揚げたての茄子、江漢さんの食いっぷりとうれしそうな顔が見えるようだ。

 隠居がこんな話を申された。

「若い頃のこと、尾張国名古屋のことでじゃ。三月と九月に御城の女中が藪入で実家には帰らず、近場にある、そのなんじゃ、ちょっとしたそういった宿を世話したことがあっての。つまりだ、夫を女郎のように買うようなあんばいなのだな。閨(ねや)のことはなんとも深いことじゃのぉ」

 笑えるはなしであった。

(補足)

「八時」、午後2時。「四時」、午前10時。

「榧ノ油」、『かや【榧】イチイ科の常緑針葉樹。山地に自生し,また庭木として栽植。高さ約20メートルに達する。葉は広線形で二列につく。四,五月頃に開花し,翌年の秋,楕円形で紫褐色に熟する種子をつける。材は碁盤などとし,種子は油をとるほか食用にする。〔「榧の実」は 秋〕』。現在でも販売されています。匚(はこがまえ)を忘れてしまったようです。

「揚」「湯」「場」、みな似ていて悩ましい。

「隠居」、二行並んで「隠」がありますけど、この一文字だけ見て読むのは困難。

「如女郎」、漢文で「如₂女郎₁」となります。

「閨房」、『けいぼう ―ばう【閨房】① 寝室。ねま。特に,夫婦の寝室。② 婦人の居間。』

 

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