P29 個人蔵
(読み)
うしハね可゛い可ら者奈を
うしはねが いからはなを
とふ春とゑん二郎 可゛
とうすとえんじろうが
王るあんじの志んぢ う
わるあんじのしんじゅう
此 とき世上 へ者゜つと
このときせじょうへパ ッと
うき奈多ち志ぶうちハの
うきなたちしぶうちはの
ゑ尓まで
えにまで
可いてい多゛しけり
かいていだ しけり
於連ハ本んのすいきやうでし多
おれはほんのすいきょうでした
事 多゛可らぜひ可゛奈い可゛
ことだ からぜひが ないが
そちらハさぞさむ可ろう
そちらはさぞさむかろう
せけんの道 行 ハきものをきて
せけんのみちゆきはきものをきて
さいごの者゛へ行 可゛こつちのハ
さいごのば へゆくが こっちのは
者多゛可でうちへ道 行 とハ
はだ かでうちへみちゆきとは
大 き奈うら者ら多゛
おおきなうらはらだ
ひぢりめんのふんどし可゛
ひじりめんのふんどしが
こゝで者へ多も
ここではえたも
於可しい\/
おかしいおかしい
本んの
ほんの
まき
まき
ぞへ
ぞえ
で
で
奈ん
なん
ぎ
ぎ
さ
さ
(大意)
「牛は願いから鼻を通す」と。艶二郎のくだらぬおもいつきの心中は、このとき世間へあっという間になまめいた噂がたち、さえない画まで描かれて出されてしまった。
艶二郎「おれはほんの酔狂でしたことだからしかたがないが、おまえはさぞ寒かろう。世間の道行は着物を着て最後の場へ行くが、こっちのは裸でうちへ道行とはまったくあべこべだ。緋縮緬のふんどしがここで目立ったのもゆかいだゆかいだ」
浮名「まったく、まきぞえになって、こまったもんさ」
(補足)
「うしハね可゛い可ら者奈をとふ春」、『牛は願いから鼻を通す
〔牛はその天性によって鼻木を通される意〕自ら望んで災いを受けることのたとえ』
「道行」、このくずし字が何箇所かにあります。「道」、「行」両方とも頻出ですが、意外と(特に単独で出てくると)これなんだっけとなるくずし字です。これを機会にしっかり印象付けたのでもう大丈夫(のはず)。
「者へ多も」、現在の「ばえる」(映える)とまったくおなじ意味。
文章だけで手一杯なはずですが、鳥居脇の松はとても丁寧だし、傘も骨が一本一本ほんの少しはみ出して描いてあるところなどこだわっています。
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