2024年9月14日土曜日

江戸生艶氣樺焼 その24

P14 東京都立中央図書館蔵

(読み)

ゑん二郎 ハいへざくらを於もひい多゛し

えんじろうはいえざくらをおもいいだ し


かへるさつ个るいぬざくら

かえるさづけるいぬざくら


くぜつのつ本゛ミ

くぜつのつぼ み


本ころびし

ほころびし


そでを可ぶろ可゛

そでをかぶろが


ち可らぐさ

ちからぐさ


ひ可連てゆくや

ひかれてゆくや


うしろ可゛ミ

うしろが み


こゝろつよくも

こころつよくも


きり可゛やつといふ

きりが やつという


もんくより

もんくより


本可のきやく人 の

ほかのきゃくじんの


つ可まるをうらやま

つかまるをうらやま


志きこと二於もひ

しきことにおもい


何 の事 も奈い尓

なんのこともないに


志んぞうや可ぶろを

しんぞうやかぶろを


多のミこつち可ら

たのみこっちから


大 門 尓つけてゐて

おおもんにつけていて


徒らまり者於り

つらまりはおり


ぐらいハひつさけても

ぐらいはひっさけても


多゛いぢ奈いといふ

だ いじないという


やくそく尓て

やくそくにて


ひきづられて

ひきづられて


ゆく

ゆく

(大意)

 艶二郎は家桜を思い出し、「かえるさつげる犬桜、口舌のつぼみほころびし、袖を禿が力ぐさ、引かれてゆくや後ろ髪、心つよくもきりがやつ」という文句から、他の客がつかまっているのをみてうらやましくおもい、わけもなく、新造や禿にたのみ、(艶二郎が)こっちから大門に張り込んでいてわざとつかまり、羽織ぐらいは引き裂かれてもかまわないという約束で、引きづられて行った。

(補足)

「いへざくら」、河東節「助六郭家桜(すけろくくるわのいえざくら)」。寛延二(1749)年三月中村座初演。この年、吉原仲之町に初めて桜を植えたのを助六劇にとりいれたもので、海老蔵(二世団十郎)の助六が大当たりだった、とありました。

「いぬざくら」、『【犬桜】バラ科の落葉高木。高さ5~10メートル。本州中部以西に分布。葉はサクラに似る。春,白い小形の五弁花を総状に多数つける』。帰る時刻を告げるように犬が吠えるのに掛けている、とありました。

「くぜつ」、『【口舌・口説】〔古くは「くぜち」とも〕

① 言い争い。特に,恋のうらみ言や痴話(ちわ)げんか。「抱かれて寝ても,顔が気にいらぬと―仕懸られ」〈浮世草子・好色一代男7』

「ち可らぐさ」、口舌がはじまり、男が帰ろうとすると、禿が袖にすがって引きとめようとしてひかれていく。男も後ろ髪をひかれるおもい。

「きり可゛やつ」、『桐ヶ谷〔もと鎌倉桐ヶ谷から出たのでいう〕桜の品種の一。一重咲きもあるが多くは八重咲きで,薄紅色。最高の品種とされている。八重一重』。

 心強くそんな思いを振りきり、帰ってゆく。「きり」に引っ掛けるのにわざわざこんな地名まで出して、多くの人はついていけないはずであるとともに、知ったかぶりをしたい人にとってはうれしい。

「何の事も奈い尓〜」、普通馴染客がことわりなしに他所の妓楼に通うようなとき、そうはさせまいと、新造や禿が大門あたりに待ち伏せ、目当ての客を無理に引きづってゆく。艶二郎はそれとは反対に自分が大門あたりにひそみ、色男を演じたいためにわざとつかまって引きづられてゆきたいということ。

 河東節「助六郭家桜」を理解するだけでもこんなにながくなってしまいました。

大変です💧💧💧

 右下に看板「中の町」があって、大門からまっすぐの通りに桜を植えました。

 

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