2024年8月20日火曜日

金々先生栄華夢 その29

P18 国立国会図書館

(読み)

きん\/せんせいおい出され

きんきんせんせいおいだされ


いまハ立 よる遍゛き可多も奈く

いまはたちよるべ きかたもなく


い可ゞハせんとあきれ者て

いかがはせんとあきれはて


と本う二くれて奈げきい个る可あ王

とほうにくれてなげきいけるがあわ


毛ちのき年のおと二おどろきおきあ可つて

もちのきねのおとにおどろきおきあがって


見れハ一 春いの夢 尓してあつらへのあ王もち

みればいっすいのゆめにしてあつらえのあわもち


いま多できあ可゛らずよ川て金 兵へよこ手うち

いまだできあが らずよってきんべえよこでうち


王れ夢 にぶん春゛いの子と奈りてゑいく王をき

われゆめにぶんず いのことなりてえい がをき


王めしも春てに三 十  年 さ春れバ人 个ん一 生  の

わめしもすでにさんじゅうねんさすればにんげんいっしょうの


多のしミも王川゛可にあ王餅 一 う春の内のことし

たのしみもわず かにあわもちひとうすのうちごとし


と者し免てさとりこれより春ぐにさい所 へ引 こみ个る

とはじめてさとりこれよりすぐにざいしょへひきこみける


毛し\/

もしもし


毛ち可

もちが


できまし多

できました


(大意)

 金々先生追い出され、今はどこゆくあてもなく、どうしたらよいかわからなくなり、途方にくれて嘆きくれていた。しかし、粟餅の杵の音に驚き、起き上がってみると、一睡(一炊)の夢の出来事、注文した粟餅はいまだ出来上がっておらず、金兵衛はたと両手を打ち合わせ「われ夢に文ずいの子となり、栄華をきわめるもすでに三十年。さすれば人間一生の楽しみも、わずかに粟餅一臼のようなものである」とはじめて悟り、これよりすぐに故郷へ引き込んだのでありました。

「もしもし、餅ができました」

(補足)

「おい出され」、「出」のくずし字は「お」とほとんど同じです。もうひとつ「お」にそっくりなくずし字に「村」があります。

「夢」のくずし字はよく出てきて特徴的。最後の「タ」の斜め棒が右下まで突き出し「友」のようなかたちになる。

「よこ手うち」、『よこで【横手】両手を左右に開いてパシッと打ち合わせること。その仕草』

 右枠の縦枠にそって波線があるのは何度か出てきた場面転換のつもり、ここは最終話の場面なので波線もちょっとしゃれてます。

 粟餅屋の女に「もしもし」を「もちもち」と洒落たかったかも。できたての粟餅が五個もあって腹一杯になりそうです。

 目を覚まし両手をあげて伸びをする金兵衛、寝ぼけてどこをみるでもなくすこしほうけた表情が上手。

 

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