2024年1月3日水曜日

人間一生胸算用 その44

P19 国立国会図書館蔵

(読み)

き可゛いふ

きが いう


「奈ん多゛いひのこし多事 可

 なんだ いいのこしたことが


あるそん奈らまて

あるしんならまて


ミゝ可゛さきへ可へ川多可ら

みみが さきへかえったから


与び可へして

よびかえして


きくべい

きくべい


「どうも可へし多く於川せん

 どうもかえしたくおっせん


与奈どゝいつもの

よなどどいつもの


あハせ可ゞミ

あわせかがみ


あしハ

あしは


いそ

いそ


いで者しこを於り个れときハ

いではしごをおりけれどきは


ま多゛二可い尓のこ川てこまらせる

まだ にかいにのこってこまらせる


あし


「サア多゛ん奈どうでごさりや春

 さあだ んなどうでござりやす


それハミ連ん\/

それはみれんみれん


「扨 きぬ\/と奈り个れハあし可゛

 さてきぬぎぬとなりければあしが


奈くてハ可へられ須゛と与び尓

なくてはかえられず とよびに


やれハあしハいそき来多り

やればあしはいそぎきたり


ミ奈\/を志由ごし可へらんと

みなみなをしゅごしかえらんと


志个れども氣者可りハと可く

しけれどもきばかりはとかく


あとへのこり

あとへのこり


らち可゛

らちが


あ可ぬ由へやう\/

あかぬゆえようよう


多゛満してつれ可へ累

だ ましてつれかえる

(大意)

氣が言う、「何だ、まだ言い残したことがあるのか。そんなら待て。耳が先へ帰ったから、呼び返して聞こう」。

「どうしても帰したくおっせんよ」などと、いつもの(調子を)あわせ鏡。

足は急いで梯子を降りたが、氣はまだ二階に残って困らせている。

足「さぁ旦那、どうしたんでございやす。それは未練みれん」。

「さて、一夜あけて朝の別れとなれば、足がなくては帰れずと呼びにやると、足は急いでやって来た。皆々をまとめて帰ろうとしたが、氣だけはあれやこれやと後へ残り、埒(らち)があかぬゆえ、なんとかだまして連れ帰った。

(補足)

「扨」(さて)、変体仮名「於」(お)ににてます。よく出てきます。

「きぬ\/と奈り」、『きぬぎぬ 衣衣・〈後朝〉② 相会った男女が一夜をともにした翌朝。また,その朝の別れ。ごちょう。こうちょう。「―の濡れて別れし東雲ぞ」〈宇津保物語•国譲上〉』

「志由ごし」、読めましたが意味が?「守護」か、とわかって納得。

「累」、変体仮名「累」(る)はたまに出てきます。

 遊郭二階の廊下・手摺・障子や階段と、丁寧に描かれています。

 

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