2022年11月30日水曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その8

P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)

P4

[下 ゟ ]

 したより


この

この


よしを

よしを


きゝ

きき


とも尓

ともに

P5

かにの可多

かにのかた


きをとらん

きをとらん


とそうだ

とそうだ


んなし

んなし


个る

ける


(大意)

ことの事情をきき、

ともにかにのかたきをとろうと

相談しました。


(補足)

P4P5見開きの上段部分になります。

「下ゟ」、「ゟ」は「より」二文字を一文字に合体させたもので合字といいます。この合字はフォントがありましたが、ない合字もたくさんあります。

「よしを」、「よし」は「理由」の「由」。

「とも尓」、「とらん」、「と」が「Z」の真ん中に「ヽ」が入ったような文字に見えます。

 たまごは子どもたちには格好のいたずら書き筆頭だったことは間違いありません。この豆本は大変に状態がよく、書店に並ばずにできたてを即、圖書館に収蔵されたものなのでしょう。

 

2022年11月29日火曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その7

P5 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

あとへたまこき多り

あとへたまごきたり


てかにをた春けこと

てかにをたすけこと


のし多゛いをきゝて

のしだ いをききて


いる

いる


ところへ

ところへ


者ちう

はちう


春もき

すもき


たりて

たりて


[上へ]

 うえへ


(大意)

そののち、たまごが来てかにを助け

ことの次第をきいているところへ

はちとうすもやって来て


(補足)

 文章は細身の彫りで読みやすい。下段文末四角の中は「上へ」とあります。

 かには逃げ去るさるを指さし、手ぬぐいで涙をぬぐっています。このかには潮もふくし涙もながすようです。

 かにの姿を頭から足先まで細かく拡大してみると、とてもよく描けていることがわかります。着物の青と白の市松模様の色を置くのも細かい仕事です。

 地面の薄い肌色、背景の小山の辛子色、ところどころに草地の薄緑、空は赤と色の配置もなかなかであります。

 

2022年11月28日月曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その6

P4 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

りてやべしとて

りてやべしとて


きのうへ尓てひ

きのうえにてひ


とりくらいゐ多る尓

とりくらいいたるに


かにハ志多尓てこへ可

かにはしたにてこえか


けしるさるハい可り

けしるさるはいかり


て志

てし


ぶ可き

びかき


を可に

をかに


尓本うりつけきづを

にほうりつけきずを


おわしてにけさり个る

おわしてにげさりける


(大意)

(「おれが登って)とってやろう」と

木の上でひとり柿を食って、

かには下から(わたしにもと)声をかけるだけでありました。

さるは怒って、渋柿をかにに放り投げて

怪我をさせ逃げ去ってゆきました。


(補足)

 文章はP4下段からP5下段へつづき、P4上段にもどってP5上段となります。

「やべし」、「やるべし」でしょうけど「る」がない言い方もあるのかまちがいなのかは?です。

「こへ可けしる」、大意のように解釈しましたが、「こ」を「と」としても意味は通じるので、さて?

 絵はたまごが下駄をはき威勢よくかたきをとってやろうじゃねぇかと腕まくりしているところ。たまごは簡単に割れてしまうのでちっとも強そうには見えないのですが、他の豆本などでは囲炉裏に隠れて爆弾のように破裂するので強いというより自爆です。


 

2022年11月27日日曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その5

P3 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)

もと尓

もとに


い多りたのしミて

いたりたのしみて


ゐ多るところへ

いたるところへ


さるま

さるま


いり

いり


ま与

まよ


う尓あ可るミ

うにあかるみ


てもなぜと

てもなぜと


らざるといゝ个れバわれハ木への本゛

らざるといいければわれはきへのぼ


れ春゛由へ尓とら春゛といへバさるハわれの本゛りてと

れず ゆえにとらず といえばさるはわれのぼ りてと


(大意)

(木の)したにたたずみ、楽しんで

いたところへ、さるがやってきました。

「こんなに赤くなっているのになぜとらないのか」と

言うので

「わたしは木へ登ることができないのでとれないのです」

と言うと、さるは

「おれが登って(とってやろう)」


(補足)

「まよう尓」は「かよう尓」のまちがいでしょうか。

文章の文字がまるで細い筆で直にかいたようで、彫ったようにはみえません。それにとても鮮明です。

 かに男の腹ばいになっている具合が、着物の縦縞の曲線で上手に表現されています。

 

2022年11月26日土曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その4

P2 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)

てい多る可゛ひ

ていたるが ひ


ましに□

ましに


□ゑ多゛者志

 えだ はし


げり多く

げりたく


さん尓

さんに


可き☓

かき


☓な

 な


るを

るを


きの

きの


(大意)

(楽しん)でいましたが

日増しに、枝が茂りたくさんの柿がなるのを

木の(したに)


(補足)

 右下の文章からはじまり上段へ続きます。

柿の実が花のようにみえて、花札にしたくなるような構図です。猿の着物の黄色の縦縞が色合いとしてはわずかですが、全体を締めています。

「ゑ多゛者志」、パッとみ、初見ではて?と悩みます。

「ひましに」「多くさん尓」、平仮名「に」の出番も多くなってます。この変体仮名「尓」は英語筆記体小文字「y」とほとんど同じかたち。

 

2022年11月25日金曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その3

P1後半 国立国会図書館蔵

(読み)

▲可へけ

 かえけ


る可に

るかに



可き

かき


のた

のた


ねをもち

ねをもち


わ可゛やへ

わが やへ


可へりに

かえりに


わへうへ

わへうえ


多のしミ

たのしみ


(大意)

(むすびととり)かえました。

かには柿の種をわが家へもちかえり、

庭に植え、楽しん(でいましたが)


(補足)

 今に始まったことではありませんが、句読点もまだ整備されていない時代で、文章の切れ目がどこなのかと、読めない字を読みながら、区切りを探していくのはなかなか大変です。

 それにしてもでかい白飯のむすびです。

 

2022年11月24日木曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その2

P1前半 国立国会図書館蔵

(読み)

む可し\/

むかしむかし


さるとかにとあり

さるとかにとあり


あるひ可に

あるひかに


可゛む春

が むす


飛゛をひ

び をひ


とつもらい

とつもらい


多りさるハおのれ可゛くらいし可き

たりさるはおのれが くらいしかき


の多ねをもちき多りむ春びをとり▲

のたねをもちきたりむすびをとり


(大意)

昔むかし

さるとかにがいました。

ある日かにが

むすびをひとつもらいました。

さるは自分が食べたかきの種を持ってきて

むすびととり(かえる)


(補足)

 「む可し」「む春飛゛」「む春び」、最後の「む」は平仮名よりその変体仮名「武」(む)かもしれません。「び」のようにおなじ音でも平仮名と変体仮名がずいぶんと混在しています。

 さるは草履をはいていますが、かには裸足。頭全部が蟹の姿っていうのもあらためてながめると斬新です。

 

2022年11月23日水曜日

さ留かに合戦(堤吉兵衛) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

さ留かに合 戦

さるかにがっせん


(大意)

(補足)

 変体仮名は「留」(る)だけで、頻繁に使われる変体仮名「可」(か)、変体仮名「尓」(に)は意識的に平仮名を用いているようにおもえます。

 とても見事な表紙絵です。額に臼印をつけた武士が猿顔の男をこらしめているところの錦絵です。

 手のひらにのるようなちいさな豆本の表紙にここまでの情熱をこめるていることに感激します。明治十八年に出版されているのですが、まださがせば腕のよい絵師・彫師・摺師がいたことがわかります。この構図とまったく同じで最終頁も描かれています。

 阿吽の構図はここでも守られています。猿顔の「阿」は右手も広げ、この手もササッと描いているように見えますがうまい。「吽」の臼、こちらの右手は口と同じようにギュッと握ってます。

 臼の頭部を拡大します。

表情の力強さ、髪の鬢(びん)の細さ、眉毛の両端、目尻の端、口角など、この小ささの中にこめている力量の大きさにしびれます。

 猿顔も拡大しましょう。

北島三郎にそっくりです。サブちゃん本人もこれをみれば喜ぶこと間違いありません。

 髪の生え際や髷の丁寧な描き方と髪の毛の端まで一本一本を描ききっています。眉毛を見てください。眉毛の両端です。なんと細かい仕事をしていることでしょうか。

 そして一番驚かされるのが、右上の臼を見上げる仕草は目が右上をむいているほかは、顔をほぼ対称に描いているもののほんの少しの顔の線だけでそのバランスをくずし、懲らしめられて自由がきかないながらも臼の方を見返している動きを表現しているところです。

 髪の毛の生え際などの細かいところは絵師の仕事ではなく、彫師や摺師の仕事でしたからかれらの腕の良さが目立ちます。

 豆本はその小ささゆえ、書店に並べて手にとってもらうためには表紙がある意味、命でした。手にした子どもや親たちは裏表紙をすぐにめくって価格を確かめたことでしょう。定價壱銭でした。

 

2022年11月22日火曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その11

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

このむまハ三 七

このむまはさんしち


のぶた可ゞつれて

のぶたかがつれて


由きそう奈り

ゆきそうなり


者るごまハ

はつごまは


めで多いもの

めでたいもの


たといゝます

だといいます


價  二銭

あたいにせん


御届明治廿年二月廿一日

日本橋区吉川町五バンチ

編輯兼出版人 堤 吉兵エ

(大意)

この馬は三七

信孝がつれて

ゆきそうです


春駒は

めでたいもの

だといいます


(補足)

 三七はなんだろうと調べてみると、「織田信孝、通称三七(さんしち)または三七郎」のことだろうとわかりました。信長の息子です。どうしてこの張り子の馬を信孝が連れてゆきそうなのかを調べましたがわかりませんでした。

 馬の鞍に「全壬駒」のように読めるものをまいていますが、これも不明です。

車付きのは武者姿の子どもを乗せて引っ張ったりして遊んだのでしょうか。上のはかぶっておどったのでしょう。上手に描けています。

 

2022年11月21日月曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その10

P9 国立国会図書館蔵

P8P9

(読み)

まこ

まご


「だん奈ゆんへハ

 だんなゆんべは


とこへおとまりで

どこへおとまりで


ごさいます

ございます


アニくま可へで

あにくまがえで


よび可へされ多ッてへ

よびかえされたってえ


あつもりイ

あつもりい


くひ奈すツ多こ

くびなすったこ


おしつくらと

おしつくらと


くミうちでも

くみうちでも


志奈すツたんべい

しなすったんべい


馬 「ヒイゝー

うま ひいぃー


(大意)

馬子

「旦那昨夜はどこへおとまりでございます。

なに、熊谷まで呼び返されたってぇ。

敦盛の首???

取っ組み合いでもしなすったんべ

馬「ひいぃー


(補足)

「おしつくらと」がわかりません。

悲鳴を上げている馬は一日の仕事ですっかり疲れたようで目も悲しげであります。

 

2022年11月20日日曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その9

P8 国立国会図書館蔵

P8P9

(読み)

まごう多

まごうた


「おい王けヱー

 おいわけえー


ま春可゛多でナァー

ますが たでなぁー


本ろと奈い多を

ほろとないたを


王春れ多可

わすれたか


ハイ\/\/\/

はいはいはいはい


(大意)

馬子唄

「追分 枡形で ホロと泣いたを 忘れたか


(補足)

 追分馬子唄は全国にたくさんのかたちがあって、調べるとこの歌詞に近いのが見つかりました。

「追分 枡形の茶屋で ホロと泣いたが 忘らりょか」。

この頁に記されている内容だけでは意味がさっぱりだったところです。

 馬の背に半畳ほどの座面を乗せ、そこにお客さんを座らせて運びます。尻尾には糞袋、蹄には馬草鞋を履かせているようです。

 

2022年11月19日土曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その8

P7 国立国会図書館蔵

P6P7

(読み)

いまハうへの

いまはうえの


いけの者多

いけのはた


九多゛ん坂

くだ んざか


せ うこん

しょうこん


社 尓も

しゃにも


このま奈び

このまなび


とし\゛/

としど し


阿り

あり


(大意)

今は上野池之端の九段坂にある

招魂社でこのまねごとが

毎年行われている。


(補足)

「せうこん社」、「こ」が変体仮名「王」(わ)にみえますがやはり「こ」。

 招魂社はのちの靖国神社。九段坂招魂社で調べると、当時ここに競馬場があったそうです。錦絵や写真などで見ることができます。

 乗馬している人はぶすっとしていますが、馬は元気でニコニコ笑っているようでかわいらしい。

 あとから追いかける馬を前の頁におさめることもできたでしょうけど、二頭を並べて追いつ追われつを描くためにはこのような絵わりにしなくてはならなかったのだとおもいます。なので首部分が分かれてしまっても見開きで見ごたえある「打毬」のいち場面となってます。

 

2022年11月18日金曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その7

P6 国立国会図書館蔵

P6P7

(読み)

者つ者るの

はつはるの


御志 うぎと

ごしゅうぎと


して

して


はい者゛

はいば


だき うの

だきゅうの


おんもよふし

おんもよおし


あり

あり


しも

しも


(大意)

初春のご祝儀として

拝馬

打毬の

お催しがあります


(補足)

後半部分がさっぱりで調べてみると

『だきゅう ―きう【打毬】

二組みの騎馬に分かれ,馬上から毬杖(ぎつちよう)で毬(まり)をすくい取って自分の毬門に投げ込むのを競う古代の遊戯。大陸から伝わったもの。平安以降,庶民の間では徒歩で行われた。まりうち』

がありました。なるほど、馬二頭でそれらしき催しをしている絵にみえます。

「はい者゛」を調べるもわかりません。適当に漢字を「拝馬」とあてはめました。

 

2022年11月17日木曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その6

P5 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

「それ尓王多らせ

 それにわたらせ


たまふ盤へいけ

たもうはへいけ


が多のおん大 将  と

がたのおんたいしょうと


見多てまいる

みたてまいる


王れこそハ熊

われこしはくま


可゛への次郎 奈本

が えのじろうなお


ざねひつ可へして

ざねひっかえして


志やうぶ阿れ

しょうぶあれ


ヲイ\/\/

おいおいおい


(大意)

「そこで渡ろうといらっしゃるは

平家方の御大将とお見受けした。

われこそは熊谷次郎直実、

引っ返して勝負あれぇ

ハイハイハイ


(補足)

 最後の「ヲイ\/\/」が読めません。「ヲ」or「ハ」?

「たまふ盤」、変体仮名「盤」(は)としました。「は」の変体仮名のほとんどは「者」ですが、「盤」も使われます。

 ここまでの豆本に出てきている「熊谷次郎直実」は、なぜか「くまがい」ではなく「くまがへ」となっています。

 直実の背中にも敦盛とおなじように丸いものがあります。矢ではなかったのかも。

 豆本の複製を10冊ほどつくりました。小さいことは承知していましたが、できあがったものを実際に手にとるとその小ささにあらためて驚きました。こんな小さいものを木版で絵師・彫師・摺師の手をへて、そして製本しているのです。いまでは豆本の大きさより何倍も拡大して細かく見ることができるのですが、その精緻さにまたまた驚き感嘆してしまいます。

 この頁は色ズレもなく直実の緊迫した表情や馬の動き、ほんとにそのまま直実の名乗りを上げている声が聞こえてきそうです。

 

2022年11月16日水曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その5

P4 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

「王れこそハ

 われこそは


むく王んの

むか んの


た由ふ阿つ

たゆうあつ


もり

もり


奈り

なり


(大意)

「われこそは

無官の大夫敦盛なり


(補足)

 源平盛衰記、敦盛と坂東武者熊谷次郎直実の出会いの場面。敦盛の様子は「紺の錦の直垂(ひたたれ)に、萌黄おどしの鎧をつけ、白星を打った甲の軍装である。背には滋籐弓と、護田鳥尾の矢を十八差して、白鵇毛(しらつきげ(白みがかった月毛))の馬に乗る」などと本などには記されています。敦盛の背中の紫の丸いものが矢の18差でしょうか。

 馬の右の沖に見える赤い船は敦盛が逃げめざす大将船。それを見つけ呼び止めた直実に向き合う敦盛を描いたのがこの頁です。波打ち際での戦いとなるのですが、ちゃんとそれらしく沖に浮かぶ船のところの波とかき分けています。

 変体仮名「王」(わ)のかたちはほとんど「已」(已然形の已)とおなじです。

 

2022年11月15日火曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その4

P3 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)

「おふさい\/

 おおさいおおさい


よろこび

よろこび


阿りや本可ゑハ

ありやほかえは


やらしとおもう

やらじとおもう


(大意)

「おおさえおさえ 喜びありや( 喜びありや 我がこの所より)外へは遣らじとぞ思ふ 


(補足)

 昨日のその3に引き続き舌出三番叟の歌の最初の部分です。昨日の歌はこの続きになります。

「おぉなんとも喜ばしいことだ。この喜びをほかにはやるまいとおもう」のような感じでしょうか。

背景の立派な松はこの三番叟の歌に出てくる「常磐の枝ものほんよえ 木の葉も茂る えいさらさら」「牡丹に唐獅子 から松を」を意識したものか。

左の裃姿の武者は、これも歌の「頭(かしら)に重き立烏帽子」を描いたものかもしれません。 

そして肝心の「お馬津゛くし」ですから、ここでは歌に出てくる「栃栗毛」二頭を描いたものでしょう。「馬の毛色のひとつ。主毛が暗い褐赤色でやや灰白色、たてがみと尾が黒みがかった褐赤色または灰白色」。たしかにそのような色合いになっています。

 左の馬の目が笑顔になっていてとてもかわいい。右の馬も切れ長の目ながら笑っていそうです。

とにかくめでたさいっぱいよろこびいっぱいの絵であります。

「よろこび」、「よ」はどちらかというと変体仮名「与」っぽい。

「阿りや」「やらし」、変体仮名「阿」(あ)。ふたつの「や」のかたちがちがうことに注意です。

「本可ゑハ」、変体仮名「本」(ほ)、変体仮名「可」(か)、変体仮名「恵」(ゑ)。

「おもう」、ここの「も」は、「し」のように書きはじめて下端でクルッと左回りに逆S字にさかのぼって上端で右回りに下がってゆくようなかたち。

 

2022年11月14日月曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その3

P2 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)

「い与\/

 いよいよ


きよく馬 の

きょくうまの


者じまり\/

はじまりはじまり


う多

うた


「尓せむらさ起の

 にせむらさきの


奈可\/尓およハぬ

なかなかにおよばぬ


ふて尓うつしゑも

ふでにうつしえも


いけぬみき王の

いけぬみぎわの


いしかめや

いしかめや


本ん尓うのまね

ほんにうのまね


からすとひ

からすとび


(大意)

「いよいよ

曲馬のはじまりはじまり~

うた

「にせ紫もなかなかに 及ばぬ筆に写し絵も いけぬ汀の石亀や 

ほんに鵜の真似からす飛び


(補足)

うたの部分が読めても意味がさっぱりで調べまくりました。以下のHPに詳しく説明されていました。

ほとんどすべて参照させていただきました。ありがとうございます。

http://www.tetsukuro.net/nagautaed.php?q=131


舌出三番叟(しただしさんばそう)(三番目に登場する老人)のうたのいち部分です。

「おおさえおさえ 喜びありや 喜びありや 

我がこの所より外へは遣らじとぞ思ふ 

にせ紫もなかなかに 及ばぬ筆に写し絵も いけぬ汀の石亀や 

ほんに鵜の真似からす飛び とっぱひとへに有難き 

花のお江戸の御贔屓を 頭(かしら)に重き立烏帽子 」


大意ではそのままでしたので、先程のHPから引用(無断でもうしわけありません)させていただきます。

「江戸紫をまねてはみれど、所詮にせもの、あの人の芸には到底及びもつかない。

本物そっくりの写し絵のはずが、絵師が下手だよ、ありゃいけないよ、どこの池にもいる石亀じゃ、

空など飛べるわけがない。おっしゃる通り、鵜の真似をするカラスのように、ばたつくだけの私のからす飛びでございます。」


 それにしても中身の濃いうたです。ひとつひとつの言葉に重みがあって、またひっかけもありひとつの言葉が次の言葉を引き出してゆきます。

「い与\/きよく馬の」、おなじ「よ」ですが一方は変体仮名「与」。

「およハぬふて尓」、濁点がついてないのでいっそう混乱してしまいます。

「いけぬみき王の」、ここも濁点がなくわかりにくい。変体仮名「王」(わ)が読みとれませんでした。

「うのまねからすとひ」、ことわざ「鵜の真似をするカラス水におぼれる」(身の程知らずに人の真似をする者は必ず失敗する意)というのがあるそうですが、知りませんでした。

 まわし飾りをつけた馬や武者の絵が少々荒いですが、動きはしっかりとらえていています。

ふぅ〜、うたが大変でした。

 

2022年11月13日日曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その2

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

者しややの

ばしゃやの


むまのつめへ

むまのつめへ


かねを者める

かねをはめる


ところ

ところ


「そこのちく

 そこのちく


志やう

しょう


おと奈しく

おとなしく


志ろ

しと


(大意)

馬車屋の馬の蹄(ひずめ)へ

蹄鉄をはめるところ

「おいおまえ

おとなしくしろ


(補足)

 でだしの「者゛しややの」で悩んでしまいます。そのまま読みすすれば「馬車屋」と納得。

 馬の全体が無駄な線がなく的確に描かれています、うまいもんです。馬の頭が小さく見えるのはいやがって首を左側に振っているからでしょうか。尻尾がかるく結んであるようでかわいい。

 職人ふたりも馬と同様柔らかい線で輪郭だけで動きを出しています。左側の職人は右手に木槌、左手に蹄のかたちを整えるための包丁を持って、もうひとりは蹄鉄を用意しています。

 明治まであと少しの江戸後期に諸外国から外国人と一緒にかれらの馬も入ってきました。その馬が蹄に鉄をうってあるので当時の武士たちや馬をあつかっていた人々は驚いたそうです。すぐまねをする武士たちもいたというから今とそうかわりません。日本ではそれまでは馬に馬専用のわらじをはかせていました。その頃日本にやってきた外国人の日本見聞記などを読むと、日本人は馬を大切にしているが扱いがとても下手だとかかれています。

 

2022年11月12日土曜日

お馬津゛くし(堤吉兵衛) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

表紙

お馬 津゛くし

おうまづ くし


(大意)

(補足)

「馬」のくずし字がやや図案化されていて「一」+「る」。

馬づくしですけど、表紙では二頭の馬の頭をちらっと見せているだけです。にくい演出。

乗馬している人の衣装が、左側のひとりは着物でもうひとりは陣羽織のようにも見えますがさて?

「價二銭 御届明治廿年二月廿一日」


 

2022年11月10日木曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その11

P10 国立国会図書館蔵

奥付

(読み)

本ど尓たぬきの

ほどにたぬきの


ふねハつちなる

ふねはつちなる


由へおい\/

ゆえおいおい


く春゛れ个るとき

くず れけるとき


うさぎハ可いを

うさぎはかいを


もつて者゛ゝあの

もってば ばあの


可多きおもい

かたきおもい


しれとたぬ

しれとたぬ


きおうちころし

きをうちころし


个るぞめで多し\/\/\/

けるぞめでたしめでたしめでたしめでたし


奥付

定 價壹 銭

ていかいっせん


御届  明 治十  八 年 四月 廿 日 吉 川 町 五バンチ

おとどけめいじじゅうはちねんしがつはつか よしかわまちごばんち


編 輯  出  版 人 堤  吉 兵衛

へんしゅうしゅっぱんにんつつみきちべえ


(大意)

(沖にゆく)ほどにたぬきの

船は土でできているため

だんだんとくずれてゆくそのとき

うさぎは櫂を持ち

「ばばあのかたきおもしれ〜」と

たぬきを打ち殺したのでした。


(補足)

 絵も文字も彫りがとても鮮明です。また背景の注連縄(しめなわ)・垂(しで)とうさぎが裃で平服している姿の取り合わせが簡潔ながらきまっています。うさぎはババア汁を食わせられてしまったじじいに敵討ちの報告をしているところのようです。

「たぬきおうちころし」、「お」が「を」ではありませんが5行目「可いをもつて」では「を」を用いています。

 いつもながら定價壹銭に驚きます。豆本の大きさは約8cm×12cmくらいなのですが実際に作ってみるとその小ささにさらに驚きます。こんな小さな文字を彫師は彫っていたのかとさらにさらに驚くのでありました。

 裏表紙は白紙ですので省略しました。

 

2022年11月9日水曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その10

P9 国立国会図書館蔵

P8P9

(読み)

くるしミひ

くるしみひ


なら春゛

ならず


なをり个れバ

なおりければ


うさぎハきぶね

うさぎはきぶね


とつちぶねをつく

とつちぶねをつく


りたぬき尓春ゝ

りたぬきにすす


めつちぶねにの

めつちぶねにの


せうさぎハき

せうさぎはき


ぶね尓のり

ぶねにのり


多゛ん\/と由く

だ んだんとゆく


(大意)

苦しみ、しばらくして

治りましたので

うさぎは木舟と土船を造りました。

たぬきに土船をすすめて乗せ、

うさぎは木舟に乗り、

だんだんと(沖に)ゆく


(補足)

 たぬきの乗る土船は土船らしさをだすため濃い色で塗りつぶされてしまっています。しかし拡大してよく調べてみると、うさぎの木舟とおなじようにきちんと和船の作りになっているのを濃い色にすけてうっすらと見ることができます。

「ひなら春゛」、平仮名「な」「た」「か」「ね」などが使われだしている頃ですが、やはり使い慣れた変体仮名「春゛」(ず)や「春」、「多」「尓」「由」などがでてきてしまいます。 

 

2022年11月8日火曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その9

P8 国立国会図書館蔵

P8P9

(読み)

これをつけれ

これをつけれ


バさつそく

ばさっそく


なをると

なおると


春ゝめや

すすめや


けどへつ

けどへつ


け个る

けける


由へ

ゆへ


多ぬ

たぬ


きの

きの


くるしミなをはげし

くるしみなおはげし


(大意)

これをつけると

すぐに治ると

すすめ、やけどにつけました。

そのため、たぬきの苦しみは

いっそう激しく


(補足)

 ここも見どころのひとつで、両開きの頁で沖での敵討ちの場面、なかなかいいです。うさぎが右足の指を船のへりにかけ力をこめ、たぬきを打ち、船を沈めようとしている姿が力強い。でもこの場面で一番目をひくのがうさぎの乗っている小舟でしょうか。細かいところまで描き込んでいて和船らしく仕上がり、また打ち付ける波もまあまあです。

 

2022年11月7日月曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その8

P6P7下段 国立国会図書館蔵

(読み)

P6

□そのう

 そのう


ちひ可゛もへ

ちひが もへ


あ可゛りて

あが りて


おふやけど

おうやけど


となりやま

となりやま


へ尓げ

へにげ


P7

由き

ゆき


ける

ける


うさ

うさ



よろ

よろ


こびと

こびと


うがら

うがら


しミそ

しみそ


おこしらい見

をこしらいみ


まへ尓まいり

まへにまいり


(大意)

そうするうちに火が燃え上がり

大やけどをして山へ逃げて行きました。

うさぎは喜び、

唐辛子みそをこしらえ

見舞いに行き


(補足)

 屏風がP6とP7で色が異なってしまってます。

 現在のように句読点や分かち書きなどせずにベタに文章をつらねて書いてゆくので、意味を理解しつつ読まないとなかなかすすめません。内容がわかってしまえばなんともないのですけど。

 

2022年11月6日日曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その7

P6P7上段 国立国会図書館蔵

(読み)

とつてあげ

とってあげ


まし与ふと

ましょうと


もふし多ぬ

もうしたぬ


きのやまへ

きのやまへ


由きたぬき

ゆきたぬき


尓志者゛を

にしば を


おハせうし

おわせうし


ろふり

ろふり


可ち\/と

かちかちと


ひおうち

ひをうち


可けあお

かけあお


ぎけれバ

ぎければ


たぬきい

たぬきい


まのおとハ

まのおとは


なんのおと

なんのおと


たときけバ

だときけば


こゝハかち\/

ここはかちかち


やまなりと

やまなりと


もふしける□

もうしける


(大意)

(かたきを)とってあげましょう」と

申し、たぬきのいる山へ行き、

たぬきにに柴(しば)を背負わせ、うしろから

カチカチと

火を打ちかけあおいだところ

たぬきは「今の音は何の音だ」ときくので

ここは「カチカチ山だ」と申しました。


(補足)

P6P7見開きで文章が上下段に分かれてます。

「多ぬきのやまへ由きたぬき」、変体仮名と平仮名を使ってます。「じじい」と「ばばあ」もそうですが、おなじ言葉は表現をかえるようにしているようです。

「うしろふり」、「ふり」は「から」のまちがえではないかとおもうのですけど、わかりません。

「ひおうち可けあおぎ」、「お」は「を」。「う」と変体仮名「可」(か)はいつもながらそっくり。「あお」とふたつならんで形の比較がしやすい。「あ」は現在では縦棒がゆるく左に曲がりますが当時はまっすぐで、右に点をつければ「お」となります。

 うさぎはやはり目が赤いほうがぐっとそれらしくなります。絵の内容と文章が前後していますがよくあることです。

 

2022年11月5日土曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その6

 

P5 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

まいり

まいり


ぢゝい尓

じじいに


なにをないて(何を泣いてござる)

なにをないて


こさるとたつ(と尋ねねけるとき)

ござるとたず


ねけるときち(ジジイはババアが殺されしことを)

ねけるときじ


ゝいわ者ゝあ可こ

じいはばばあがこ


ろされしことを

ろされしことを


くわしくか多り

くわしくかたり


なけき可なしミけり▲

なげきかなしみけり


▲さよふ

 さよう


ならハわ多

ならばわた


くしが可

くしがか


たきを

たきを


(大意)

(うさぎが)やってきて

じじいに「何を泣いてござる」と尋ねると

じじいはババアが殺されたことを詳しく語り、

嘆き悲しみました。

「そのようなことならば、

わたくしがかたきを


(補足)

 何度かこの豆本の絵師・彫師・摺師の腕がやや稚拙であることの嘆き悲しみを繰り返していますが、文章を読むのに初心者のわたしは下部の部分を読むのに苦労いたしました。平仮名の彫りがなんともつたないことでしょうか。彫師は文章の内容を理解していないような彫りかたです。

 たぬきが背中に火を背負ってあわてふためくさまもまだまだという腕。炎ののびかたがすさまじい。文句ばかりですいません。

同時期に販売されている他の出版人のものは見事なものも多く、出版人が契約している絵師・彫師・摺師の差が大きいことがわかります。

 この頁では変体仮名「奈」(な)がつかわれてなくて平仮名「な」になっています。


2022年11月4日金曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その5

P4 国立国会図書館蔵

P4P5

(読み)

たぬきとなつて

たぬきとなって


尓げさりける

にげさりける


あと尓て

あとにて


ぢゝい者

じじいは


おとろき

おどろき


可なしミ

かなしみ


い多るところへ

いたるところへ


うさき

うさぎ


(大意)

たぬきとなって

逃げ去りました。

その後、じじいは驚き

悲しんでいたところに

うさぎ


(補足)

 うさぎの目に赤を忘れてしまったようです。あるのとないのとではやはり全然雰囲気が異なるものです。

「た」や「な」が平仮名ですけどやはり「に」は変体仮名「尓」でした。また「ぢゝい者」では変体仮名「者」の簡単な方ではないもう少し複雑なかたちが使われています。

 うさぎやたぬきの立ち姿がどうも腰がすわったような絵になっていません。この頁は弟子が描いたかもしれません。しかし、豆本の題名になっている「カチカチ山」のまさに火打ち石で火花散らす場面なら親方が描くはず。でもそれにしては絵が稚拙なんです・・・

 

2022年11月3日木曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その4

P3 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)

うちころし者゛

うちころしば


ばあにすが多

ばあにすがた


をやつし

をやつし


者゛ゝア可すが多

ば ばあがすがた


尓へんし者゛ゝア

にへんしば ばあ


可志可゛い

がしが い


を志

をし


る尓に

るにに


ておく

ておく


ところへちゝい可へり♡

ところへじじいかえり


♡き

 き


多り

たり


ける

ける


かの

かの



るを

るを


ぢゝい

じじい


にくわ

にくわ


せ者

せば


は阿ハ

ばあは


(大意)

打ち殺してしまいました。

ばばあの姿を装い、

すっかりばばあに変身しました。

ばばあの死骸を汁にして煮ているところへ

じじいが帰ってきました。

例の汁をじじいに食わせ

ばばあは


(補足)

ばばあが何度も出てくるので「者゛ばあ」「者゛ゝア」「者は阿」といろいろ変化させています。「者は阿ハ」は少し悩みました。

「ちゝい可へり♡」「♡き多り」の「き」がわかりません。文章のつながりからの読みです。

平仮名「か」「が」「に」が使われています。

 前回ふれた屏風絵は見返しに描かれていそうな絵です。ババアに変身したたぬきと重ね合わせなければ、ほのぼのとして滑稽みもあっておもしろい一幅であります。黄色の点々の散らばりが、まるで蝶々のとんできたあとに残る鱗粉のようにみえます。


 

2022年11月2日水曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その3

P2 国立国会図書館蔵

P2P3

(読み)P2

むきをつきて

むぎをつきて


やるべしと

やるべしと


もふしける由へ

もうしけるゆえ


者゛ゝアハなハを

ば ばあはなわを


とき由るしける△

ときゆるしける


△たぬき

 たぬき


よろこび者゛

よろこびば


ゝ阿尓む

ばあにむ


ぎを

ぎを


つくべし

つくべし


ともう

ともう


し者゛ゝア□

しば ばあ


のゆ多゛ん

のゆだ ん


お?すまし

を すまし


(大意)

麦をついてやろう」と

申していたので

ばばあは縄を

ときはなちました。

たぬきは喜び

ばばあに「麦をつくぞ」と

申し、ばばあを

すっかり油断させ


(補足)

「む」は「むかしむかし」のときと同じでなんとなく癖があるような形です。

「とき由るし」、「ゆるす」はここでは『⑩ 強く締めたり,引いたりしたものをゆるめる。「猫の綱―・しつれば」〈源氏物語•若菜上〉⑪ 手放す。自由にする。「夕狩に千鳥踏み立て追ふごとに―・すことなく」〈万葉集•4011〉』。

「者゛ゝ阿尓むぎを」、何度も出てくるので同じ繰り返しをさけて「阿」としたのかもしれません。ここの「む」は納得。

「つくべしともうし」、「も」の下半分がかけてます。

「ゆ多゛んお?すまし」、「?」が読めません。「お」を「を」として「すます」を「すっかり〜させる」と理解。

 ばばあに化けたたぬきがお盆でババア汁のおかわりをすすめている格好が、左上の屏風でたぬきが細い竹竿の先に蝶々のおもちゃでうさぎの人形とのんきに遊んでいる姿と重なります。あとでうさぎに敵討ちされてしまうともしらず、なんとも怖い屏風絵です。そしてうまそうに幸せな表情で食事するじじいがこれまたなんとも・・・

 お櫃(ひつ)や汁鍋、箱膳など描き方がやや稚拙です。たぬきとじじいもいまひとつ。じじいの茶碗を持つ手が変ですし、表紙の絵師と違う感じがします。

 

2022年11月1日火曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その2

 

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

む可し\/ ぢゝい

むかしむかしじじい


と者゛ゝあ可゛あり阿る

とば ばあが ありある


ひたぬきをし者゛り

ひたぬきをしば り


おきぢゝいハやまへ

おきじじいはやまへ


ゆきける可゛あと尓て

ゆきけるが あとにて


者゛ゝあハむきを

ば ばあはむぎを


つきゐ多るところ

つきいたるところ


たぬきハ者゛ゝア尓

たぬきはば ばあに


む可ひ王れらの

むかいわれらの


なわをとき由る

なわをときゆる


てくれ候  ハゝ

てくれそうらわば


(大意)

むかしむかしじじいと

ばばあがおりました。

ある日たぬきをしばっておいて、

じじいは山へ行ってしまいましたが

ばばあはのこって、麦をついていたところ

たぬきはババアにむかって

「おれの縄をといてくれたなら


(補足)

 出だしの文字が「お」にみえます。拡大してみるとちゃんと「む」になってました。

「者゛ゝあ可゛あり」、「可゛」が「ら」のようにみえます。小さな「可」に「゛」です。

(豆)本ごとにやはり字にくせがありますので、なれるまでは苦労します。

「あと尓て」、「尓」は頻繁にでてきますが、ここの「尓」のかたちはほとんど英語筆記体小文字の「y」。この3行後の「尓」はほぼそのままのかたちです。

「くれ候ハゝ」、「候ハゝ」(そうらわば)は定型文というか決り文句です。古文書ではよくでてきます。

 前回の「猫の芝居」の絵師は人の体幹を想像させるまでには描く腕がともなっていませんでしたが、ここのたぬきがばばあに馬乗りになって殺そうとしている場面では、脚をばたつかせるばばあとそれを必死に抑え込むたぬきの動きが見えてくるようです。

 うしろの筒状のものは麦搗きの臼でしょうけど、あまり丁寧に描く気がなかったようです。