2022年8月31日水曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その7

P4 国立国会図書館蔵

(読み)

[つゞき]

 つづき


二 人の

ふたりの


よろ

よろ


こび

こび


大可多

おおか


奈ら春゛

ならず


もゝ太郎

ももたろう


と奈づけ

となづけ


せいてう▲(成長)

しちょう


「きミのよい

 きみのよい


おと可゛

おとが


春る

する


(大意)

つづき

二人の喜びようはそれはすごいものでした。

桃太郎と名付け、

成長(するにしたがい)

「気持ちの良い音がする


(補足)

「せいてう」、旧仮名遣いはなれていてもふとこれはなんだというようなことがあります。

 体をくの字にして力いっぱいの餅つきですが頭の位置が下すぎるのか構図がもう一息です。杵を左利きの構えで持っています。右利きの構えで持つと左手が前にきてからだの正面を隠すことになってしまうので、それを避けているのだとおもいます。絵師のいろはなのでしょう。

 当時の豆本出版にたずさわった人たちは、まさか後世の人が手にして読んでいるとはこれっぽっちもおもってなかったはずです。ましてやそれを拡大して細かく仕上がりをたしかめるなんて、まさかの出来事であります。

 隅から隅まで拡大してみてみましたが、手抜きのての字もみあたりません。ほんとに細かく精緻に刻んでいます。銅版だとおもうのですけど、嬉々として背を丸め仕事をしている姿が思い浮かびます。上部の花の丸い描き方は他の部分とタッチがことなっています。花と杵が重なる部分もあって、なにか工夫したのでしょうか。

 

2022年8月30日火曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その6

P3上段 国立国会図書館蔵

(読み)

者゛ゝ

ば ば


「あめの

「あめの


奈可

なか


可ら

から


お多

おた


さん可゛

さんが


で多と

でたと


いふ

いう


个れ

けれ



もゝの

ももの


奈可

なか


可ら

から



ぞう

ぞう


可゛で多

が でた


とハきゝま

とはききま


せんこ連ハ

せんこれは


志んぶんや

しんぶんや


もの多゛

ものだ


(大意)

ばばあ

「飴の中からお多(福)さんが

出てきたとはいうけれど、

桃の中から小僧が出たとは

聞いたことがありません。

これは新聞ネタものだ。


(補足)

 出だしの文字は「お」に「ゝ」をつけ忘れたのではなく、平仮名「あ」です。この時代の「あ」は縦棒がまっすぐ。

「あめの奈可可らお多さん可゛で多」、最初意味がよくわかりませんでした。いろいろ調べてなるほどど。「お多さん」はお多福さんのことでした。金太郎飴の金太郎をお多福にしたお多福飴でした。「奈可」と「可ら」の変体仮名「可」のかたちがずいぶん異なっています。同じ言い回しが9行目にもありますが、こちらの変体仮名「可」はいくらかにています。

「志んぶんやもの多゛」、新聞というものがまだでて10年ちょっとのときにこの言い回しはなかなか斬新だったのかもしれません。まぁそれ以前に瓦版が定着していましたから気持ちの上ではそれほどの変化はないとおもいますが「新聞」という言葉の響きは「ざんぎりあたまをたたいてみれば文明開化の音が」したのかもしれません。

 障子がまっすぐの線できれいに描かれています。みじかで使用されているもので数百年から千年くらいかもっと、変わってないものの筆頭はこの障子があげられます。木と紙とのりだけ。わが家でも部屋の全てに障子がありますが、とてもすぐれています。

 

2022年8月29日月曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その5

P3下段 国立国会図書館蔵

(読み)

△山 よりぢゝ

 やまよりじじ


いの可へり

いのかえり


をまちて

をまちて


もゝを

ももを


ふ多つ

ふたつ


尓王れ

にわれ


バもゝ

ばもも


の奈可

のなか


より

より


多満

たま


のやう

のよう


奈る

なる


をと

おと


この

この


こ可゛

こが


う満

うま


連多れ

れたれ


バ[つぎへ]

ば つぎへ


(大意)

山から帰ってくるじじいをまって

ももを二つにわると

桃のなかから

玉のようなおとこの子が

生まれたので、


(補足)

 下段につなぎの△印がありますので、こちらが先になりました。

「多満のやう」「う満連多れバ」の変体仮名「満」(ま)は特徴的なかたちなので、一度おぼえれば読み間違えることはありません。平仮名「ま」も「可へりをまちて」などで使われています。

 生まれたばかりの桃太郎は簡素な筆さばきですが、顔の表情は錦絵の見得の雰囲気があります。

 柾目の板模様は年輪にしたがって間隔を変化させて描くのが定石ですが、縁側や桶、柱などがそのようになっています。また部屋の壁はひびがあって、隙間からは下地の葦や竹の格子を描くのがこれまた定番です。

 おばあさんのひっくりかえり倒れる寸前の描写は簡単でなく難しい、上手ですね。

 

2022年8月28日日曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その4

P2 国立国会図書館蔵

(読み)

[つゞき]

 つづき


由起し可゛

ゆきしが


川 可ミ

かわかみ


より

より


大 起奈

おおきな


もゝ可゛

ももが


奈可゛れ

なが れ


き多

きた


連バ

れば


者ゝあハ

ばばあは


ミるより可のもゝ

みるよりかのもも


をとりて王可゛やへもち

をとりてわが やへもち


可へり▲

かえり


(大意)

つづき

行きましたが

川上より

大きな桃が

流れてきたので

ばばあは見るとすぐに

その桃をとりあげ

わがやへ持ち帰りました。


(補足)

「もゝ可゛」、ここの「も」はちょっとわかりにくですが、このあとにでてくるふたつの「も」も、筆順は同じで、「し」のようにかきはじめて、最下部で左回りにSの字のようにさかのぼり上部で今度は右回りに次の字へむかいます。

「奈可゛れき多連バ」、平仮名「れ」、変体仮名「連」(れ)、両方使われています。

 見開きの絵なので、滝のようにみえるのは幼い桃太郎が桶から流しているところです。水が縁側にぶつかってくだける水しぶき、北斎のを意識してまねているのかもしれません。細かく描写されています。桶を拡大してみると水しぶきの描写に負けず劣らず精緻に描かれています。

 前頁でじじいの山の芝刈りの様子が籠をしょって小さく描かれています。着物柄が卍で、この頁とおなじになっています。

 

2022年8月27日土曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その3

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

む可し\/

むかしむかし


ぢゝいと

じじいと


者゛ゝア

ば ばあ


可゛▲


▲ありて

 ありて


ぢゝいハ

じじいは


やまへ

やまへ


志者゛可り尓

しば かりに


由き者゛ゝ

ゆきば ば


あハ川 へせん

あはかわへせん


多く尓[つぎへ]

たくに つぎへ


(大意)

むかしむかしじじいと

ばばあがいました。

じじいは山へ芝刈りに

ゆき、ばばあは

川へ洗濯に


(補足)

 この豆本の絵師は最後の頁に「幾英筆」とあります。小林英次郎です。たくさんの豆本の絵をかいていて、飛幾亭、箴飛亭(しんぴてい)の号で記されていることもあります。このBlogでもアップしてあります。

 読みにくいところはありません。おばあさんのうしろは定石にのっとり、ほどよい草山があり立木に続いてその奥に民家の藁葺き屋根がみえて、遠方には山を描きます。

 川の流れを細い線で丁寧に表現し、一番大事な桃はなんとも簡素な描き方、これでは丸い石ころになりそうかと心配したのか桃の葉をそえています。おばあさんのように着物を端折って川に入っている光景はもう見られなくなってしまいました。

 

2022年8月26日金曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その2

見返し 国立国会図書館蔵

(読み)

桃 太郎 一 代 記

ももたろういちだいき

(大意)

なし

(補足)

 紙が和紙ではなかったようで、薄茶色に変色してしまっています。現在まだ使われているわら半紙のような紙質なのかも。しかし山の端の空が白い。白色をおいたとはおもわれないし、この紙のくすみかたはなんなんでしょう?

 鬼と桃太郎のお面が仲良く並んでいます。鬼退治をする桃太郎もこらしめられる鬼もお面をはずせば中身は一緒、仲良くしなくちゃいけないよとおこさまがたに伝えているのかもしれません。お面の前にある花模様は奥の山の斜面にもあってなにか意味するところがあるのでしょうか。表紙の鬼のへそににてなくもありません。

 

2022年8月25日木曜日

桃太郎一代記(木村文三郎) その1

 

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

桃太郎一代記

もゝ多らういち多゛いき

(大意)

(補足)

 ラベルを貼ってあるところに鬼ヶ島の館の赤い門がみえます。その奥には館の屋根もいくつかのぞめます。

 桃太郎は口をムの字にして(阿形)、助けてくれーと叫び逃げる赤鬼の口(吽形)は大きく開いています。桃太郎の左拳は赤鬼を殴ったところなのか首根っこを押さえているのか、右腕は拳を硬く握りしめ今まさに振り下ろさんとする勢い。赤鬼のへそは大きな女郎蜘蛛のよう。

 桃太郎の袴の網目の入った四角い部分は拡大してみると、非常に細かく網戸の網目の何倍も細かく、まったくつぶれていません。銅版画のなせる技。木版でもできるでしょうけれど一冊3銭では難しい(はず)。

 書店に並べば手が出る表紙であります。


2022年8月24日水曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その18

裏表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 編輯兼出版人木村文三郎の豆本を6冊ダウンロードしてBlogにアップしてないのはあと一冊「桃太郎一代記」となりました。

 出版人によっては出版した豆本の裏表紙の意匠がすべて同じというものが多い中で、文三郎さんの豆本は6冊すべてがことなっています。そしてそれらの意匠がどれもとてもすぐれているのです。どれもこれもそのまま他の分野へ使えるものばかりです。テーブルクロスでもいいし着物の生地でもよいし手拭の柄でもなんでもござれ。

 梅のような花を散らし、梅の花弁の曲線に対して直線で五角形や六角形をこれも花を意識して散らしています。枯れ木に花を咲かせて見せましょうと裏表紙を満開にしてくれました。

 

2022年8月23日火曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その17

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

明治十五年七月十一日御届

東京日本橋区馬喰町二丁目一番地

編輯兼出版人 木村文三郎


(大意)

(補足)

 あらためて明治15年は西暦1882年で現在が西暦2022年ですから今から140年前となります。それほど昔のことではなく、おじいさんやひいおじいさんくらいのことで、せいぜい4世代前後遡るくらいの時代です、と書き始めるつもりでしたが、書きながら父方の祖父はそういえば・・・と思い出して計算してみました。このおじいさんのことはBlogでも思い出として短文を記しています。昭和39年、ちょうど東京オリンピックが始まる年の1月に亡くなりました。1964年です。82歳でした。引き算をすると生まれたのは1882年!なんという偶然!!この豆本シリーズが出版された年です。おじいさんが子どもの頃にこの豆本を読んだ可能性があるかもしれません。

 おじいさんは江戸時代の文化をもつ親や親戚や他の人たちに育てられたことは確実です。ということはわたしはおじいさんをとおして江戸時代の身振り手振りや仕草やしつけなどなどたくさんのものに間接的にふれてきたということになります。江戸時代後期や中期までもそれほど現在と隔たってないことに気づかされます。

 以前Blogにアップした木村文三郎さんの豆本の奥付でここにある4種類の出版本の宣伝文の読みをしたことがあります。概略を知ることはできますが一字一句正確に読み下すことは結構困難でした。おじいさんの世代の人たちはこんな文章をスラスラと当たり前に読めたわけですけど、たった140年で読めなくなってしまうことになるなんてなんか首をかしげてしまいます。

 

2022年8月22日月曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その16

P12後半 国立国会図書館蔵

P12拡大

(読み)

王るきことハせぬもの奈り

わるきことはせぬものなり


こどもし 由ハせ うぢ起ぢゞい

こどもしゅうはしょうじきじじい


のま年を奈さいましといひ

のまねをなさいましといい


まし多めで多し\/  \/  \/

ましためでたしめでたしめでたしめでたし


(大意)

悪いことはしないことです。

子どもたちは正直爺さんの

まねをするのですよと

言いました。

めでたしめでたし

めでたしめでたし


(補足)

「王るきこと」、変体仮名「王」(わ)は「已」のようなかたちで、変体仮名を学ばないと読めない字のひとつです。ただかたちが特徴的なので一度おぼえてしまうとまず読み間違えません。「こと」は合字。

「せぬもの奈りこどもし由ハ」、かたちの異なる「も」が使われています。どちらを使うかは使われる熟語か文章の流れかそれとも気分次第。「し由」は悩みますが「衆」と気がつけばなるほどと。

同じように使われるおきまりの言い回しは「おこさまたちは」というのがあります。

 褒美はよく三方(さんぼう、さんぽう、三宝)にのせてあたえられますが、ここのものはその特大版です。

 「定價三銭」は木印に朱肉をつけてペタンと押した感じがします。


2022年8月21日日曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その15

P12前半 国立国会図書館蔵

P12拡大

(読み)

Ⅹひ起おろされおと可゛めを

 ひきおろされおとが めを


可うむり多りせ うぢ起ぢゝいハ

こうむりたりしょうじきじじいは


およびい多゛しお本めのうへいろ

およびいだ しおほめのうえいろ


\/い多ゞき由く春ゑ者ん

いろいただきゆくすえはん


じやう奈し多連バ可奈ら春゛

じょうなしたればかならず


(大意)

引き下ろされお咎めを

うけました。正直爺さんは

呼び出されお褒めの上、いろいろ

いただきその後は楽しく

栄えました。ですから

絶対に


(補足)

文意をさぐりながら読まないと、「ろ」「と」変体仮名「可」「う」「り」「ら」などはかたちがにているのでやっかいです。

 県令様が腰掛けている床几のようなものは全頁でもありましたが、長持ちを運ぶための棹をたてかけてよりかかれるようにしたものなのでしょうか。一行4人の顔がみな同じようなのが笑えます。

 

2022年8月20日土曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その14

P11 国立国会図書館蔵

P11拡大

(読み)

Ⅹま年

 まね


をして

をして


个ん連いさ満の

けんれいさまの


おとふりをまち

おとうりをまち


可れきより者いを

かれきよりはいを


ま起ちらせバ者奈

まきちらせばはな


ハさ可春゛との

はさかず との


さ満の

さまの


めくちへ

めくちへ


者い可゛者いり

はいが はいり


多れバきよりⅩ

たればきより


(大意)

まねをして

県令様の

お通りを待ち、

枯れ木より灰を

まき散らすと、花は

咲かず殿様の

目口へ

灰が入って

しまい木より


(補足)

「ま年」、変体仮名「年」(ね)はもう何度も出てきています。○にヽのような、「Q」ににたような形です。

「个ん連い」、変体仮名「个」(け)も何度も出てきています。「々」ににたような形ですが、もとは妖怪からかさ小僧のような形。

「おとふり」、読むのになやむところです。

「者いを」、「い」が「ハ」にみえてやっかい。

「ま起ちらせ者゛」、「ら」がほとんど「ヽ」になっていてなやみますが、文意から読めます。

「めくちへ」、「く」がカタカナ「ム」の三画目がないかたちになってます。

「者いり多れバ」、平仮名「れ」も使えば、「个ん連い」では変体仮名「連」(れ)も使います。

 殿様のおつきの二人、とても漫画チックに描かれています。そしてこの三人の衣装や仕草の描写は完璧。うしろでは欲張り爺さんがこらしめられています。1ページに6人も出てきてにぎやかにぎやか。

 

2022年8月19日金曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その13

P10後半 国立国会図書館蔵

P10拡大

(読み)

可連き尓者奈をさ可せるもの奈りと申

かれきにはなをさかせるものなりともうし


あぐる尓さ可せてミろとのお本せ尓

あぐるにさかせてみろとのおおせに


可のう春の者いをまけバ可連きハこと\゛/

かのうすのはいをまけばかれきはことご と


く者奈ざ可りと奈り多りよくふ可又Ⅹ

くはなざかりとなりたりよくふかまた


(大意)

枯れ木に花を咲かせるものですと申し

上げると、咲かせてみよとおっしゃり

例の臼の灰をまくと、枯れ木はことごとく

花盛りとなったのでありました。

欲深(じじい)はまた


(補足)

 文章に読みにくいところはなさそうです。

色がついてないせいもあるかもしれませんが、もう少し華やかさがほしい場面であります。灰をまくじいさま、もうちょっと微笑んでくださいな。

 

2022年8月18日木曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その12

P10前半 国立国会図書館蔵

P10拡大

(読み)

せ うぢ起ぢいさんハあるひ山 へ由起可れ

しょうじきじいさんはあるひやまへゆきかれ


き尓の本゛り可の者いをもちてゐ多る下 を

きにのぼ りかのはいをもちていたるしたを


ところの个ん連いさ満おとふり尓てその

ところのけんれいさまおとふりにてその


者いハ奈尓もの奈りとお多づ年あ連バ

はいはなにものなりとおたずねあれば


(大意)

正直爺さんはある日山へ行き枯れ木に

のぼり例の灰をかかえていたところ、その下を

その土地の県令様がお通りになり

その灰は何なのかとお尋ねになり


(補足)

4行目「者いハ」としましたが、「い」は「こ」にも「ろ」にも「う」にもみえます。誤字でしょうか。

 正直じいさんの着物柄が丸に十字のようなものから卍になりました。灰の入っている籠はやはり細い目を丁寧に描いています。人物や着物は上手なのですけど樹皮がなんとも独特です。

 

2022年8月17日水曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その11

P8 国立国会図書館蔵

P9拡大

P9後半

(読み)

ゐろり尓て多いて志

いろりにてたいてし


まつ多とつらふくらし

まったとつらふくらし


てこ多へ个る由へせん

てこたえけるゆへせん


可多奈くその者い

かたなくそのはい


をもらひ多し

をもらいたし


とてざる尓いれ

とてざるにいれ


王可゛やへもち可へり多り

わが やへもちかえりたり


(大意)

囲炉裏で燃やしてし

まったとふくれっ面で

こたえましたので、

仕方なくそれではその灰を

もらいたいとたのみ

ざるにに入れ

我が家へ持ち帰りました。


(補足)

「ゐろり尓て」、平仮名「ろ」は変体仮名「可」(か)とまぎらわしいので「いかりにて」(怒って)としても意味は通じます。3行目に「大おこり尓て」とありますので言い回しとしては不自然ではありません。

「つらふくらして」、「つら」がなやみます。

 八っつぁんふうの欲深じいさん、今度の立ち姿は完璧です。阿形(じいさん)吽形(ばあさん)の仁王像ように見開きで並んで臼をにらんでいます。爺さんの着物柄は格子縞で体の線にあわせて縞模様を変化させてうまいもんです。親方が描いたのかもしれません。はちまきの先端から手先、足先まで見事です。

 臼の置いてあるところは土間でしょうけどちょこっと雑草があります。

 

2022年8月16日火曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その10

P8 国立国会図書館蔵

P9拡大

P9前半

(読み)

◯ものやいぬふんいで

 ものやいぬふんいで


多りよくふ可ふうふハ

たりよくふかふうふは


大 おこり尓て可のう春

おおおこりにてかのうす


をうちこ王しいろりへ

をうちこわしいろりへ


くべて多いて志ま

くべてたいてしま


ひ多りせ うぢ起ぢゝい

いたりしょうじきじじい


う春のさいそく奈せ

うすのさいそくなせ


バこ連\/由へう春を

ばこれこれゆへうすを



(大意)

(汚い)ものや犬の糞が

出てきました。欲深夫婦は

ひどく怒ってしまいその臼を

打ちこわし囲炉裏へ

くべて燃やしてしまい

ました。正直じじいは

臼を返してほしいと催促

しましたが、これこれの理由で臼を


(補足)

変体仮名「可」(か)、平仮名「う」「ろ」「ら」、かたちがにているので、やはりまぎらわしいです。

 婆さんの縦縞の着物柄で上手にからだの線を表現しています。髪の毛が逆だっているのは怒髪でしょうか驚髪でしょうか?下駄がやけに丁寧で右の下駄は下駄裏の留め緒まで描かれています。同じく縦長の桶の箍(たが)も細かい。

 

2022年8月15日月曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その9

P6 国立国会図書館蔵

P7拡大

P7後半

(読み)

う春の奈可よりこ者゛ん多く

うすのなかよりこば んたく


さんいで多りよくふ可ぢゝい

さんいでたりよくふかじじい


ミてま多\/うらやましく

みてまたまたうらやましく


奈りう春を可りてもち

なりうすをかりておち


をつけバこんどハこ者゛んハ

をつけばこんどはこば んは


いで春゛や者りき多奈起◯

いでず やはりきたなき


(大意)

臼のなかより小判がたくさん

出てきました。欲深ジジイは

これをみてまたまたうらやましく

なり、臼を借りて餅を

つくと今度は小判は

出ずにやはり汚い


(補足)

 爺さんの着物柄はここまで同じで丸に十字の島津藩のような手裏剣のような紋。杵(きね)を持ち上げる格好が背面でウエイトリフティングをしているようでなんか変なかまえです。絵師が誰だかわかりませんけど、腕がよいのかわるいのかわかりません。両足の足先も体が正面を向いているときのものです。

 背景はおきまりの構図で、やはり屋根の一部がのぞいています。

 

2022年8月14日日曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その8

P6 国立国会図書館蔵

P7拡大

P7前半

(読み)

▲のごおんあり可゛多し王連を

 のごおんありが たしわれを


うづめ多るところのまつの

うずめたるところのまつの


き尓てう春をこしらへもち

きにてうすをこしらえもち


をつき給 へとをしへて由めハ

をつきたまえとおしえてゆめは


さめ多りよくじつそのごとく

さめたりよくじつそのごとく


うすをこしらへもちをつけバ

うすをこしらえもちをつけば


(大意)

の御恩有難し。わたしを

埋めたところの松の

木で臼をつくり、もち

をついてくださいとおしえて夢は

覚めました。翌日そのようにして

臼をつくり餅をついたところ


(補足)

「もちをつき給へ」、「給」のくずし字は特徴的、左上より右下斜めにむかってクルクルっと右回りに2回筆先を螺旋にまわします。

 もち米を蒸す釜と窯はむかしもいまもこれからもずっとかわらないはず。もち米を入れてある籠がやはり細かく丁寧に描かれ、下に薪を2本置いて台にしてあるのがなかなか芸が細かい。婆さんの背景はおきまりの構図です。

 

2022年8月13日土曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その7

P4後半 国立国会図書館蔵

P4拡大

P5

(読み)

のき多奈起ものやいぬ

のきたなきものやいぬ


のふんあま多いで多る

のふんあまたいでたる


を見て大 い尓い可り

をみておおいにいかり


可のいぬをうちころし

かにいぬをうちころし


きの志多へうづめ个り

きのしたへうづめけり


せ うぢ起ぢゝい奈げ起

しょうじきじじいなげき


し可゛そのよの由め尓

しが そのよのゆめに


いぬき多りこ連まで▲

いぬきたりこれまで


(大意)

汚いものや犬

の糞がたくさん出てきたのを

みて、大変に怒り

あの犬を打ち殺して

木の下に埋めてしまいました。

正直じじいは嘆きま

したが、その夜、夢に

犬があらわれ、これまで


(補足)

「いで多るを見て」、たいていはカタカナ「ミ」ですけど、ここは漢字「見」。

変体仮名「可」(か)のかたちにまぎらわしいのがたくさんでてきています。「う」「り」「ろ」。

 鋤(すき)を振るう欲深じじい、両脚踏ん張りなかなか立派な姿です。ばばあは縦縞でしたがじじいは格子縞です。やはり体の線や動きに合わせて微妙に柄を変化させています。鋤は簡素に丁寧に描かれていて鉄の刃の部分がリアル。刃のうしろの立木は葉の茂り具合まで描き込まれていますし、両手の上の葉(実?)は小さな丸いかたちをたくさん繰り返しかいています。

 

2022年8月12日金曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その6

P4前半 国立国会図書館蔵

P4拡大

P5

(読み)

◯ものをえんといぬ

 ものをえんといぬ


つ連由くまへのごとく

つれゆくまえのごとく


奈し多る由へよくふ可

なしたるゆえよくふか


ぢゝい者゛ゝあハよろ

じじいば ばあはよろ


こびそのところを本

こびそのところをほ


りてミれバこハい可

りてみればこはいか


尓多可らものきん\゛/

にたからものきんぎ ん


ハいで春゛していろ\/

はいでず していろいろ


(大意)

(宝)ものを得ようと

犬を連れてゆきました。

前のときと同じようにしたので

欲深じじいとばばあは喜び

そのところを掘ってみました。

しかしこれはどうしたことか、

宝物や金銀は出ず、いろいろな


(補足)

「本りてミれバ」、平仮名「れ」を使うこともあります。

「こハい可尓」、読めてしまえばなんともないのですけど、「こ」が「と」?、「可」が「る」?など悩みました。

 欲深ババアの石持つ右手のたくましきこと、左手の握りしめたる拳の恐ろしきこと。わんこの悲痛な表情と目が恐怖でいっぱい。

 ばばあの縦縞の柄がからだの動きにそっています。描くのはやさしそうで難しい。

背景の木や小川さらにその奥は民家の屋根に山々が静かにそびえ、まさに静と動。怖さをいっそう感じさせます。

 

2022年8月11日木曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その5

P2後半 国立国会図書館蔵

P2拡大

P3

(読み)

P2

の多可らものあ満

のたからものあま


多いで多りそのと

たいでたりそのと


奈り尓よくふ可起

なりによくふかき


ぢゝ者゛ゝありこの

じじば ばありこの


やう春をミてうら

ようすをみてうら


や満しくおもひ可の

やましくおもいかの


いぬを可りて多可ら◯

いぬをかりてたから


P3

「さて\/

「さてさて


うらや満

うらやま


しいこと

しいこと


多゛ぞ

だ ぞ


(大意)

P2

な宝物がたくさん出てきました。

その隣で欲深なじじばばがかくれ

この様子を見て、うら

やましくおもい、あの犬を借りて宝

P3

「さてさて

うらやま

しいことだぞ


(補足)

変体仮名「満」(ま)は特徴的な形をしているので、すぐに覚えられます。平仮名の「ま」も「とゞまりて」「いふま年を」のように使われいます。何か使い分けの規則があるのかと悩みましたが、今のところはどうやら文章のながれだろうということで納得しています。

変体仮名「可」(か)、平仮名「う」「ら」はそっくりですので気をつけます。

 婆さんの驚いて腰を引いた仕草がうまいもんですねぇ。掘るときに草履を脱いだのか裸足です。うしろの欲深じいさんは岡っ引きという感じ。犬がようやく犬らしくなりました。

 

2022年8月10日水曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その4

P2前半 国立国会図書館蔵

P2拡大

P3

(読み)

▲とゞまりてちゞ

 とどまりてじじ


い尓む可ひ志起り

いにむかいしきり


尓奈くさ満本れ

になくさまほれ


といふま年を春

というまねをす


連バぢゞ者゛ゝハく王

ればじじば ばはくわ


をもちき多りその

をもちきたりその


ところをう可゛ちミ

ところをうが ちみ


る尓きん\゛/ハいふ

るにきんぎ んはいう


尓およバ春゛いろ\/

におよばず いろいろ


(大意)

▲立ち止まり、じじい

に向かってしきりに吠えて

ここを掘れという真似をすれば

じじばばは鍬(くわ)

を持ってきて、その

ところを掘りはじめました。

すると金銀はいう

におよばず、いろいろ


(補足)

 驚いた両手のひらが印象的です。背景の野原の稜線に茅葺屋根を少し見せるのが、このような場面ではおきまりのようです。

「ぢゞ者゛ゝハく王を」、「く」の上が「宀」に見えますが「ヽ」に「ハ」。

 

2022年8月9日火曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その3

P1 国立国会図書館蔵

P1拡大

(読み)

む可し\/ せう ぢ起奈るぢいさん者゛アさん

むかしむかししょうじきなるじいさんば あさん


ありてこいぬを可ひお起可あい可゛ること

ありてこいぬをかいおきかあいが ること


このごとく尓い多わり个れバいぬも

このごとくにいたわりければいぬも


し多゛い尓大 きく奈りそのおんを王春

しだ いにおおきくなりそのおんをわす


連春゛ぢゝいの春そをひ起つ連由起▲

れず じじいのすそをひきつれゆき


(大意)

むかしむかし正直なじいさんとばあさん

がいました。子犬を飼っていましたが絵のように

とてもかわいがっていました。犬は

しだいに大きく育ち、その恩を忘れず

じじいの裾を引いて、連れて行くと


(補足)

「可あい可゛ることこのごとく尓」、「こと」と「ごと」は合字。「こ」と「と」を一文字にした文字。

「い多わり个れバ」、平仮名「わ」としましたが、「バ」とにていますので「ハ」かもしれません。。

「王春連春゛」、変体仮名ずくし。

 じいさんが左手にもつ皿の上に何があるのかと拡大してみれば尾頭付きの魚でありました。じいさん立派な身なりであります。垣根は藁で組んだものでこれまたすばらしい。

 絵師はやはり動物は苦手と見えます。犬なのか猫なのかどちらにもみえますし、頭の角度がとっても変。尻尾もないし。

 

2022年8月8日月曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その2

見返し 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 あきらかに籠の細い網目を意識して銅版画の刻みを目立たせているようにおもわれます。それにカゴの中は爺さんが撒き散らす灰でしょう。犬も毛並みが描かれているのですがいまひとつで、かわいらしいけどなんか変、絵師は苦手そうです。

 豆本の見返しにはそのまま切り取って飾りたくなるものが多いですけど、ウ~ンこれは遠慮します。

 

2022年8月7日日曜日

花咲ぢヾい(木村文三郎) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

花 咲 ぢゞい

者奈さ可


(大意)

はなさかじじい

(補足)

 隙間も余白も許すまじという硬い決心で描かれた感じの表紙です。

 空に向かってまき散らした灰は二人の淑女の着物に桜のとなって咲いたようであります。女ふたりの目もとはかすかに薄紅があるようなないような、きれいな桜色。

 生え際の髪の毛の繊細さ、彫師の腕でしょうけどお見事です。しかしこの前回からつづくシリーズは木版ではなく銅版なので鉄筆のようなもので削ったり刻んだりの工程です。よい表紙であります。


 

2022年8月6日土曜日

あさ可゛本物語(木村文三郎) その17

裏表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 今回のこの豆本、いままでの豆本とはまったくことなるものでした。顔の描き方が今までのものとはあまりにもかけはなれているので驚くとともに現代につながるものを感じました。

裏表紙の意匠は線香花火にも雪の結晶にもなでしこにもみえますけど、やはり朝顔を図案化したものでしょうか。P8の宮城阿曽二郎の袴の柄と同じです。

 とても印象に残る豆本でありました。

 

2022年8月5日金曜日

あさ可゛本物語(木村文三郎) その16

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

明治十五年七月十一日御届

東京日本橋区馬喰町二丁目一番地 定價三銭

編輯兼出版人 木村文三郎

(大意)

(補足)

鼇頭 明治文証大全 改正

「ごうとう」と読みます。意味は「書物の上欄。また,そこに書き入れた注。「―に記す」」とありました。字がつぶれてよくわかりませんので、上の部品は「土」+「方」+「攵」で、下は「黽」。

もちろん、わたしは読めませんでした。

ネットで調べると、「メイジ ブンショウ タイゼン : ベットウ カイセイ」ともあります。「文証」は「ブンショウ」「モンショウ」どちらでもよさそうです。というかわかりません。辞書で調べてものっていません。

 内容は宣伝文にあるように(6割くらいしか読めません)著名人などの記したものを集めた本のようです。デジタルアーカイブで実物をみると紋章やら色紙に揮毫したものやらが羅列されています。

こういった本の要望があったから出版したのか、それとも出版して啓発したのか、なんかよくわからない書籍であります。

 

2022年8月4日木曜日

あさ可゛本物語(木村文三郎) その15

P12 国立国会図書館蔵

P12拡大

(読み)

□可けあひ

 かけあい


あら多めて

あらためて


あそ二郎

あそじろう


ミ由起と

みゆきと


ふうふ尓

ふうふに


奈り

なり


个り

けり


めで

めで


多し

たし


\/  \/

めでたしめでたし


\/

めでたし


(大意)

話し合って

あらためて

阿曽二郎は

深雪と

夫婦に

なりました。

めでたし

めでたしめでたし

めでたし


(補足)

 深雪のやや切れ上がった細い目のやさいいこと、鼻梁はまっすぐで小さめの口、きれいだなぁ。

深雪は阿曽二郎をみつめますが、阿曽二郎はそれをはすにうけます。体全体からでる幸せ感を扇であおいぎこちらに吹いてきそう。

 床の間の掛け軸が読めません。