2022年5月31日火曜日

猫鼠合戦 その5


P4前半 国立国会図書館蔵

(読み)

さてまたこゝにふく鼠

さてまたここにふくねずみ


といふもあ里て志多

というもありてした


の志ろねつミいふ丹

のしろねずみいうに


古んど猫 又 と

こんどねこまたと


いふやつせ可いの

いうやつせかいの


鼠  をからんと

ねずみをからんと


あまたのね古を

あまたのねこを


あつめを志よせる

あつめおしよせる


ゆふをふくねつミ

ゆうをふくねずみ


(大意)

さてこちらには福鼠という(大将)鼠がいました。手下の

白鼠が言うには

「今度猫又というやつが

世界の鼠を滅ぼそうと

たくさんの猫を

集めて押し寄せてくる」

と言うや、福鼠


(補足)

 変体仮名の使い方が興味深いです。変体仮名「尓」(に)を使わずに平仮名「に」を使い、かとおもうとあまり使われない変体仮名「丹」(に)を用いています。変体仮名「多」(た)は使われているものの平仮名「た」もあります。また変体仮名「毛」(も)がありますが、あまり見ない形です。

「せ可いの」、変体仮名「可」は現在の平仮名「ろ」そっくり。左の行には平仮名「か」があります。

 

2022年5月30日月曜日

猫鼠合戦 その4

P3 国立国会図書館蔵

(読み)

をあつめよに

をあつめよに


いふよふ国 にとう

いうようくににとう


ぞくいへに鼠  といふ

ぞくいえにねずみという


ねづミおふく

ねずみおうく


者び古る

はびこる


ね古奈き可゛

ねこなきが


古゛とく奈里

ご とくなり


よの鼠  を

よのねずみを


本ろ本゛さん

ほろぼ さん



者か里ける

はかりける


「さよう\/

 さようさよう


\/ \/

さようさよう



可くに

かくに


あるぞ

あるぞ


よ可゛つて

よが って




(大意)

(猫)を集め、「世に言われている

『国に盗賊、家に鼠』というのがある。

鼠が多くはびこり、猫はなきがごとくである。

世の鼠を滅ぼさんと力をあわせようではないか」


「そうだ。そうだ。そうだ」


「(俺が言うこ)と斯く斯くしかじかであるぞよ。

合点か


(補足)

変体仮名「尓」(に)がなく意識的なのか平仮名「に」だけになっています。また「ね古」では変体仮名「古」が、なにかこだわりがあるのか執拗にでてきます。

 鎧一式に身を固めて戦闘モードです。でもなんとなくさっぱり感があってとげとげしくありません。

 

2022年5月29日日曜日

猫鼠合戦 その3

P2 国立国会図書館蔵

(読み)

猫 又 といふもの

ねこまたというもの


あ里本ふ\゛/

ありほうぼ う


のね古を

のねこを


かたらい

かたらい


奈かにも

なかにも


ぶちね古

ぶちねこ


くろ

くろ


あか

あか


ミけ

みけ


きじ志ろ

きじしろ


とらね古

とらねこ


奈そと

なそと


いふごう

いうごう


ね古

ねこ


ま多ゝび

またたび


家内 安 全

かないあんぜん


「おれ可

 おれが


いふ古

いうこ


(大意)

猫又という猫がおりました。

あちこちの猫に声をかけ、なかでも

ぶち猫、黒猫、赤猫、三毛猫、きじ猫、白猫、虎猫などという

強く勇ましい猫(を集め)


「俺が言うこ(と)


家内安全

マタタビ


(補足)

 変体仮名のほうが少なく平仮名が目立ちます。

大将の背中にさしてあるのは鰹節でしょう。

 

2022年5月28日土曜日

猫鼠合戦 その2

見返し 国立国会図書館蔵

(読み)

や満又 者ん

やままたはん


者る志ん者゜ん

はるしんぱ ん


(大意)

やま又

春新版


(補足)

 やま又は版元の名前。春新版は春に出版したばかりの新版(たいていは正月三が日に出版)。

丸朱印は『 帝國圖書館印 IMP.LIBRARY. 既決・明治三六・七・二四・ 圖 』

「江戸絵本とジャポニズム」HPによると、猫と鼠の人形はともにおもちゃだそうです。昔からある素朴な玩具とありましたが見たことがありません。

 猫の方は睨みをきかしただるまのようなものが猫の人形にかぶせてあり、ややそっている羽子板みたいなものをたたくと反りが戻ってポンとだるまの頭がはねとんで猫があらわわれるのでしょう。

 鼠の方は、これは書いているうちになんとなく思い出しました。こんな玩具がありました。遊んだ記憶もあります。鼠の人形は最初細い棒の手元にあって、この手元部分を小刻みにたたくと振動でなぜか上に鼠が登ってゆくのです。最後はてっぺんの唐辛子に到着。

 豆本の見返しはほとんど表紙裏につまり表紙と同じ版木に彫られているのですが、ここでは表紙裏は白紙です。見返しはいつもながらこの部分だけをとりだし額装して飾りたくなるくらい味があります。

 

2022年5月27日金曜日

猫鼠合戦 その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

猫鼠合戦

ねこねずみかっせん


(大意)


(補足)

豆本です。作画者は歌川芳寅。版元はやま又。刊行年は文政〜安政頃?(1840〜1860)。

表紙の絵の通り猫と鼠が鎧に身を固め、戦うというお話。

朱の背景に白抜きの鈴があります。

 

2022年5月26日木曜日

舌切雀 その32

P20 国立国会図書館蔵

(読み)

せ うぢきぢゞいハ

しょうじきじじいは


(けん)どん者゛ゝア尓

(けん)どんば ばあに


春ゝめハ

すずめは


ときハ

ときは



これ志多おきられ

これしたをきられ


し春ゝめ

しすずめ


可へつて

かえって


せん志ん尓春めるの志ぜんのり奈りとて

せんしんにすめるのしぜんのりなりとて


こゝろをあら多めさせ个る由へ者゛ゝアハ

こころをあらためさせけるゆえば ばあは


下女 と奈りてまめや可尓つとめむ春めハ

げじょとなりてまめやかにつとむむすめは


むこをとりて者ん志゛やう奈し

むこをとてりはんじょ うなし


めで多き者るを

めでたきはるを


む可へ个る

むかえける


めで多し

めでたし


\/

めでたし


渓斎

けさい


英 泉 画

えいせんが


吉 例 の通 り

きちれいのとおり


目出

めで


多し\/  \/  \/

たしめでたしめでたしめでたし


\/\/\/


(大意)

正直ジジイは欲深ババアに

スズメは

ときは


これ舌を切られしスズメ

かえって


(穏やかに住める?)自然の理であるから

心を改めさせることができたので

ババアは下女となって誠実につとめ

娘は婿をむかえ家はにぎやかにさかえました。

めでたい春を迎えたのでありました。

めでたしめでたし。


渓斎英泉画

めでたい習わし通り

目出たし

目出たし目出たし目出たし

目出たし目出たし目出たし


(補足)

「せん志ん尓春めるの」がわかりません。前頁の衝立の上の部分の文章もほとんど同じで「せんしん尓春め个る」とあります。

雀と同じくらいの大きさで、署名があります。ネットで人物像を調べ想像するに自己顕示欲満々で自信家だったようです。でも確かにうまい。この羽を広げて飛んでいる雀の羽根の部分は線で輪郭を描くことなく筆をおくだけでふんわり感やフサフサ感をだしています。

この豆本でもそうでしたが、完璧に読むことができませんでした。

 

2022年5月25日水曜日

舌切雀 その31

P19後半 国立国会図書館蔵

(読み)

「これ可らこゝろを

 これからこころを


阿ら多めま須可ら

あらためますから


どふぞおめを

どうぞおめを


お可け下 さり

おかけくださり


まし

まし


者゛け

ば け


ものを

ものを


者じめて

はじめて


ミまし多いやもふ

みましたいやもう


お者奈し尓ハ奈り

おはなしにはなり


ません

ません


(大意)

「これから心を

改めますから

どうぞお目を

おかけくださりませ


化け物を初めて

見ました。

いやもう、

恐ろしくて

話すこともできません。


(補足)

 会話の話し言葉は昔も今も変わらないようです。このままで理解できます。

 欲張りババアの背を丸めた後ろ姿だけで、気持ちを表現しているところがなんとも舌をまきます。

この婆さん、感情豊かで、化け物を見たとき驚愕し、スズメたちに宝物を要求し酔っ払ってとぐろを巻き、正直爺さん娘が宝を出しているのを障子の影からのぞいている妬みの顔と、ほんとにうまい。

 火鉢はよくある形ではなく筒状で飾りがついた高級品。奥の衝立も素敵です。現在ではパーティションとカタカナで商品自体はあるけれど、こういった昔ながらの衝立を普段使いするという文化は失われしまいました。

 

2022年5月24日火曜日

舌切雀 その30

P19前半 国立国会図書館蔵

(読み)

(さても)

 さても


个んどん

けんどん


者゛ゝアハ

ば ばあは


いのち

いのち


可ら\゛/

からが ら


尓げ可へり

にげかえり


者じめて

はじめて


おのれ可゛

おのれが


けんどん

けんどん


奈る

なる



くひを志りせ うぢき

くいをしりしょうじき


ぢゝい可゛いへ尓き多り

じじいが いえにきたり


ぜん飛をくひ

ぜんぴをくい


こゝろをい多めて

こころをいためて


王び个る由へ

わびけるゆえ


いろ

いろ


\/

いろ


せん

せん


しん

しん



春め

すめ


个る

ける


(大意)

さて、欲深ババアは命からがら

逃げ帰り、はじめて自分の欲深いことの

報いを身にしみて、正直ジジイの家に来ました。

前非を悔い心を痛めて詫びましたので

いろいろ

心穏やかに住むことができました。


(補足)

「尓げ可へり」、「尓」が「う」にみえます。この「尓」は英語筆記体小文字「y」ににている形のものだとおもいます。

「せんしん尓」、この「せんしん」は「潜心」でしょうか?読みを間違えたかもしれません。

 

2022年5月23日月曜日

舌切雀 その29

P18 国立国会図書館蔵

(読み)

さても

さても


「そう

 そう


いふこゝろ

いうこころ


尓者やく

にはやく


奈ると

なると


よいの

よいの



ヤれ\/

やれやれ


志おら

しおら


しい

しお


(大意)

さて(欲深ババアは命からがら)


「そういう心に

はやくなればよかったのに

やれやれ

しおらしいのう


(補足)

「こゝろ」はいったん読めてしまうとなんでもないですが、初見でははてと悩みました。

「志おらしい」、「い」の左側に文字があるようにみえますが、汚れのようです。

 ひゃっひゃっひゃと幸せそうな笑い声が聞こえてきそうな笑顔であります。年寄り独特のからだが傾いだ線の描き方がうまい。そして手前の娘の若さの溌剌さとの対比がこれまたよい。

豊かに幸せに暮らしましたとあるように部屋はなかなか豪華です。

 

2022年5月22日日曜日

舌切雀 その28

P17 国立国会図書館蔵

(読み)

もゝん

ももん


可゛ア

が あ


とつて

とって


可?よ

???


あんまり

あんまり


けの者つた

けのはった


者゛けものハ

ば けものは


でぬ可゛

でぬが


よい

よい


者ん

はん


ぎや

ぎや


可゛


いや

いや


可る

がる


多゛


らう

ろう


アゝ

ああ


おそろ

おそろ


しや

しや



めん

めん


\/ \/

ごめんごめん


(大意)

ももんがぁ

とって???


あんまり毛のある化け物は出ないが

腕の良い版木屋は

いやがるだろう


あぁ

恐ろしや

ごめんごめんごめん


(補足)

「ももんがぁ」といいながら腕を広げて驚かし、次は「とって」食ってやるのような言葉でしょうけど読めません。

腕の良い版木屋は髪の毛一本一本描くのに腕をふるいますが、ここではそのような技を見せることができないので嫌がるというわけかな。

江戸時代には化け物図鑑が出版されているくらいの化け物妖怪で大賑わいでした。

 

2022年5月21日土曜日

舌切雀 その27

 


P16後半 国立国会図書館蔵

(読み)

ミ多くおもふ尓

みたくおもうに


多゛ん\/もちおもり可゛

だ んだんもちおもりが


してつゞらの飛も

してつづらのひも


きれ个れバ

きれければ


奈可よりハいるい

なかよりはいるい


いぎやうの

いぎょうの


者゛けもの

ば けもの


出る

でる


(大意)

見たくなりましたが

だんだん、持っているうちに重たくなり

葛籠の紐が切れてしまい

なかより、異類異形の

化け物が出てきました。


(補足)

「もちおもり可゛」、読むことはできたのですが、意味がピンときません。辞書で調べるとちゃんと「持ち重り」(持っているうちに次第に重く感じること)がありました。お恥ずかしい。

 けんどんばばあの恐れおののくシワ顔のほうが怖い。ババアや化け物たちの髪の毛の一本一本を掘る彫師はたいしたものだとおもうのですが、これくらいどうというこはないのでしょう、きっと。


2022年5月20日金曜日

舌切雀 その26

P16前半 国立国会図書館蔵

(読み)

个んどん者゛ゝア

けんどんば ばあ


おもいつゝらをやつと

おもいつづらをやっと


志よつて可へつ多

しょってかえった


ところ可゛ミち\/

ところが みちみち


奈可のもの可゛

なかのものが


(大意)

欲深ババアが

重い葛籠をやっと

しょって帰ったのですが

道々、なかのものが


(補足)

 江戸時代の化け物の絵はどこか愛嬌があって、身近に感じます。

化け物三人?の中央がどこかで見たことがあるとしばしおもいめぐらせたら、

ジ・アルフィーの坂崎幸之助さんにそっくりでありました。

「おもいつゝらをやつと志よつて可へつ多」、なぜか「つ」が気になりました。

 

2022年5月19日木曜日

舌切雀 その25

P15後半 国立国会図書館蔵

(読み)

もちまいの

もちまいの


可ん志やく

かんしゃく


おこり多いつい

おこり????


?くを奈らべ个る由へ

??をならべけるゆえ


春ゞめどもきもをつぶし

すずめどおきもをつぶし


おもひつづらをあ多へそう\/

おもいつづらをあたえそうそう


おい多゛し可へし个る

おいだ しかえしける


「こん奈もの可゛

 こんなものが


くら王れるもの可

くらわれるものか


おもいれ可年の多んと阿るつゞらを

おもいれかねのたんとあるつづらを


者やくよこせ

はやくよこせ


ヲや\/

おやおや


チウ\/\/

ちゅちゅちゅ


(大意)

持ち前の癇癪をおこし

わがままをいい並べるので

スズメどもは肝をつぶし

重い葛籠を与えて早々に

追い出し、帰しました。


「こんなものが食うことができるか。たっぷり金がた〜んと入った葛籠を

はやくよこせ。


おやおや

ちゅちゅちゅ


(補足)

「おこり?????くを」、わかりません。

「そう\/」、なかなか読めませんでした。

「おい多゛し」、「お」が「奈」に見え、また「多゛し」のところも判別しにくく、苦労しました。

「可へし个る」、「へし」が難しい。

「おもいれ」は辞書に副詞で『思う存分に。「湯でも―飲みなせえ」〈滑稽本・東海道中膝栗毛•2〉』とありましたが、どうも自信がありません。

 酔っ払った欲深ババアの目が座り脚をかかえあげとぐろを巻きからだが傾いでいる様がいいですね。わがまま言い放題のだみ声が聞こえてきそう。

 

2022年5月18日水曜日

舌切雀 その24

P15前半 国立国会図書館蔵

(読み)

やさしく

やさしく


もて奈し

もてなし


いろ\/ちそう

いろいろちそう


春る由へ者゛ゞア

するゆえば ばあ


者じめハ

はじめは


ついせ う

ついしょう


けい者くを

けいはくを


いゝ个る可゛

いいけるが


さけ尓

さけに


ゑひ多る

よいたる


尓志多可゛ひ

にしたが い


(大意)

丁寧に

もてなし

いろいろなごちそうを

ふるまっていたのでババアは

はじめは

おべっかをつかい調子よくしていましたが

酒に酔うにしたがい


(補足)

「もて奈し」、「し」がほんの薄くかすかに残っています。

「ちそう」がなかなか読めませんでした。

「ついせうけい者く」、「追従軽薄」です。相手に媚びて調子よく振るまうこと。

「ゑひ多る」、「ゑ」は「よ」の間違いだとおもいます。

「尓志多可゛ひ」、「尓志」がつながっているので判読しにくい。

 

2022年5月17日火曜日

舌切雀 その23

P14 国立国会図書館蔵

(読み)

けんどん者゛ゝアハようやく

けんどんば ばあはようやく


春ゝめのいどころへ

すずめのいどころへ


多づ年

たずね


阿多り

あたり


多゛ん\/

だ んだん


志多を

したを


きり

きり


多る

たる


ことを

ことを


王び

わび


个る

ける


由へ

ゆえ


さ須

さす


可゛尓

が に


春ゞめも

すずめも



者やくくらつて个へらつせへ

はやくくらってけへらっせへ


とんとくらいそ者゛いた

とんとくらいそば いた


志尓ぞく奈いど

しにぞくないど


大???

????


(大意)

欲深ババアはようやく

すずめのすみかを

訪ねることができました。

かさねがさね

舌を切ったことを詫びるので

さすがにすずめたちも


はやく食って帰ってくれ

たくさん食って

?????


(補足)

「者゛ゝアハようやく」、「ハよ」が一文字のように見えてちょっと悩みました。

「志多をきり多ることを」、「きり」の「り」が「つ」にもみえます。「こと」は読みづらい。

下の4行を何度も声を出して読むのですが、ウ~ン、わかりません。

 

2022年5月16日月曜日

舌切雀 その22

P13 国立国会図書館蔵

(読み)

と奈りの者゛バア

となりのば ばあ


これをミてうらやま

これをみてうらやま


しくさつそく春ゞめ

しくさっそくすずめ


のうちを多づ年志多を

のうちをたずねしたを


きり多ることを王び

きりたることをわび


多可らをもら王んと

たからをもらわんと


それより

それより


可の山 おくへ

かのやまおくへ


多づ年

たずね


由き个る

ゆきける


(大意)

となりのババアは

これを見て、うらやましくなり

すぐに雀の家を訪ね

舌を切ったことをわびて

宝物をもらおうとしました。

それから

あの山奥へ

訪ねて行きました。


(補足)

 文字がかすれたりカドが切れかかったりしていて判読しにくい。摺りをかさねたためでしょうか。

娘さんの描写はやはりうまい。しかし印象に残るのはうしろのふすまからのぞいている欲張りババアです。出っ張ったおでこや表情が欲張り感うらやましさ感がにじみ出ています。美人画ではないこういったいわば醜い感情を描けるのはかなりの腕前とみました。

 

2022年5月15日日曜日

舌切雀 その21

 


P12後半 国立国会図書館蔵

(読み)

さ満

さま


\゛/

ざ ま



多可ら

たから


もの

もの


阿り

あり


个れ

けれ



者?ぬ

は?ぬ


さい王い

さいわい


よろごひて由多可尓

よろこびてゆたかに


くらし个る

くらしける


これハ

これは


\/ と

これはと


者゛かり

ば かり


可年の

かねの


山 多゛

やまだ


(大意)

様々の宝物がありました。

幸運を喜び

豊かに暮らしました。


これはこれはと驚きつつも

金の山だ。


(補足)

「者?ぬ」、読めません。

おじいさんの表情がやはりうまいですね。つづらの黒い部分はべったり摺ってしまうとつまらない箱になってしまうところ、摺師はちゃんと表面に濃淡がつくようしています。


2022年5月14日土曜日

舌切雀 その20

P12前半 国立国会図書館蔵

(読み)

それよりぢゞいおやこハ

それよりじじいおやこは


つゞらをせおひ可へりて

つづらをせおいかえりて


何 をいれ多る可と飛らい

なにをいれたりかとひらい


てミれバきん\゛/ハ

てみればきんぎ んは


もちろん

もちろん


可くれミの

かくれみの


可くれ可゛さ

かくれが さ


うちで

うちで


のこ

のこ


づち

づち


(大意)

それからじじい親子は

つづらを背負って帰りました。

何が入っているのかとひらい

てみると金銀は

もちろん

隠れ蓑(みの)、隠れ笠、打ち出の小槌


(補足)

「何を」、変体仮名「阿」(あ)と似ているのでまぎらわしい。おじいさんの後頭部に「阿」があります。

「飛らい」、変体仮名「飛」(ひ)をしらなくても、文章のながれから予想できます。

「隠れ蓑」「隠れ笠」は身につけたりかぶったりすると姿を隠すことができるすぐれもの。

「打ち出の小槌」は言わずとしれた、これもひとつ是非手元におきたいもの。重い葛籠を背負うのは大変だったでしょうから、これひとつでよかったような気もします。

 

2022年5月13日金曜日

舌切雀 その19

P11後半 国立国会図書館蔵

(読み)

「む春め

 むすめ


さいち う尓

さいちゅうに


奈つて

なって


きまぐれと奈ると申

きまぐれとなるともうし


ぢぐちハチト

じぐちはちと


さし??でごさり

さし??でござり


ま須可

ますか


(大意)

娘は

宴もたけなわになって

気まぐれになるからと申し

???


(補足)

最後の3行がよくわかりません。

「ぢぐち」は「地口」しかありません、語呂合わせの言葉のことです。

「さし」の次が読めません。ウ~ン、なんか落ち込んでしまいます・・・

 

2022年5月12日木曜日

舌切雀 その18

P11前半 国立国会図書館蔵

(読み)

「ごちそう尓辻 春ゞめ

 ごちそうにつじすずめ


おどりのせ うめいを

おどりのしょうめいを


ごらん尓いれます

ごらんにいれます


「ありやサ

 ありゃさ


こりやサ

こりゃさ


王多しで

わたしで



よい\/

よいよい



おいらでセよい\/

おいらでせよいよい


ありやサ

ありゃさ


よい\/

よいよい


(大意)

ごちそうに辻すずめ踊りの

ほんものをごらんにいれます。

「ありゃさ

こりゃさ

わたしで せ

よいよい

おいらで せ よいよい


(補足)

「せうめい」は「正銘(しょうめい)」ほんもの。。正真正銘のダイヤ。

表紙にも描かれていました。ここはスズメが踊っているのでお尻部分をよくみてみると、尾羽根があります。

 

2022年5月11日水曜日

舌切雀 その17

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

せ うちき志゛ゞいおやこ尓つゞらふたつを

しょうじきじ じいおやこにつづらふたつを


い多゛しおもいつゞら可るいつゞらふ多つの

いだ しおもいつづらかるいつづらふたつの


うちいづれ尓てもおミやげ尓

うちいづれにておおみやげに


さし阿け多いといへバ

さしあげたいといえば


ぢゞいとしより尓ハ

じじいとしよりには


可るい

かるい


つゞら

つづら


可゛


よいとて

よいとて


もらい个る

もらいける


(大意)

正直親子に葛籠ふたつを

出して、重い葛籠と軽い葛籠ふたつの

うち、どちらでもおみやげに

差し上げたいというと

ジジイは年寄りには

軽い葛籠が

よいというので

それをもらいました。


(補足)

「せうちき」、「せ」が「セ」に見えます。平仮名だとはおもうのですが。

「可るいつゞら」、前後の文脈から読めましたが、「可る」がひとつで「る」にみえて、わかりずらい。

「うちいづれ尓ても」、「う」は変体仮名「可」にみえるし、「ち」は「ら」にみえて、悩みます。「尓て」、「て」の曲がり部分がかすれていて、読みづらい。

「いへバ」、「へ」には見えませんけど、流れから判断。

「ぢゞいとしより尓ハ」、「とし」がしばらくわかりませんでした。お恥ずかしい。「尓ハ」、「ハ」は確かですけど、「尓」は「尓」に見えないので、あてずっぽうです。

 爺さんと娘さんのすっかりくつろいでくだけた様が上手です。爺さんの表情が特にいいです。

 

2022年5月10日火曜日

舌切雀 その16

P9後半 国立国会図書館蔵

(読み)

●もとの

 もとの


ことく奈り

ごとくなり


个る由へ

けるゆえ


ぢゞいおや

じじいおや


こをちそう

こをちそう


春る

する


まこと尓

まことに


そまつ奈

そまつな


ぎで

ごで


ござり

ござり


ま須

ます


(大意)

もとのようになりましたので

じじい親子に

ごちそうをしました。


「まことに粗末な

もてなしでございました。


(補足)

「こと」の合字が二箇所あります。

上の娘スズメは右側の頁の爺さんの娘とお話に夢中です。それにしても真っ黒な葛籠(つづら)の立派なこと。手前では黒の羽織で一番格の高いもてなしです。

 

2022年5月9日月曜日

舌切雀 その15

P9前半 国立国会図書館蔵

(読み)

て何 と云

てなんという


ところ奈りと

ところなりと


とへハ可くれざとゝ

とえばかくれざとと


云 ところ尓て

いうところにて


候   奈りとて

そうろうなりとて


おくへ

おくへ


とも

とも


奈い

ない


可奈い

かない


のもの

のもの


が?い



さま\゛/と

さまざ まと


もて奈し

もてなし


个る尓

けるに


のりを

のりを


奈め

なめ


多る

たる


春ゞめも

すずめも


く春り尓て

くすりにて


志多も●

したも


(大意)

何(なん)というところなのかと

問うと、隠れ里であるとのことでした。

遠いところからよくいらっしゃました、

奥へご案内いたします。

家内のものが様々にもてなしくれました。

のりをなめたスズメも薬で舌も


(補足)

 わからないところが多すぎです。大意は文章全体の流れのようなものです。

まぁ読めるところから読んで先にすすめるというのが、経験的によさそうなので

そうするしかありません。ウ~ンそれにしても・・・

 5月12日記。わからないところを手直ししました。

 

2022年5月8日日曜日

舌切雀 その14

P8後半 国立国会図書館蔵

(読み)

ごあん奈いつ可

ごあんないつか


まつりませ うと

まつりましょうと


とも奈い个る

ともないける


由く本ど奈く

ゆくほどなく


春ゞめの

すずめの


春ミ可尓

すみかに


い多り

いたり


こゝハ

ここは


いづれの

いずれの


く尓ゝ

くにに


これハ\/

これはこれは


い可い

いかい


ごちそう

ごちそう


しや

じゃ


(大意)

ご案内つかまつりましょうと

おともをしてくれました。

ほどなくして

スズメの家につきました。

ここはどこの里ですかな。


「これはこれは

すごい

ごちそうじゃ


(補足)

「ごあん奈いつ可」、「こ」と「と」がにているのでやっかいです。いくつもでてきます。「い」と「つ」もにてます。

「く尓ゝ」、「く」の上は汚れのようです。

 娘さんはスズメの話に夢チュウで身を乗り出しています。その様がこれまた上手です。おじいさんや娘さんのの生き生きした描写に比べると、ごちそうの鯛やその台は筆先でちょっちょっと描いている感じ。

 

2022年5月7日土曜日

舌切雀 その13

P8前半 国立国会図書館蔵

(読み)

のやとへお多づ年るよしをもの可゛多れバ

のやどへおたずねるよしをものが たれば


それハ王多くしの阿尓ゝて

それはわたくしのあににて


やど尓おりま春れど

やどにおりますれど


のりを奈め春ぎ多

のりをなめすぎた


うへ尓志多おきられ

うえにしたをきれら


て奈んきい多し故 尓て

てなんぎいたしゆえにて


小野と申  口中

おのともうすこうちゅう


いしやのく春りを

いしゃのくすりを


多ゞいま可い尓

ただいまかいに


まいる道 奈り

まいるみちなり


(大意)

(舌切雀)の宿をたずねることになったいきさつを話すと

それはわたくしの兄でして

家におりますが

のりをなめすぎた

うえに、舌を切られ

て難儀しておりましたので

小野と申す口の中の

薬を医者に

ただいま買いに

行こうと出かけたところでした。


(補足)

 読みにくい箇所が多く難儀しました。

「小?を?口中」、二箇所の?のところが不明です。読めそうで読めない・・・

 おじいさんの首や肩まわりのかしげ方がいかにも年寄りっぽくてうまいですねぇ。またおじいさんの着物の輪郭だけやや太く描いていて存在感を目立たせています。

5月12日記。わからないところの手直しをしました。

 

2022年5月6日金曜日

舌切雀 その12

P7後半 国立国会図書館蔵

(読み)

あるき个る尓阿る

あるきけるにある


山 道 尓て春ゞめ

やまみちにてすずめ


尓で阿いこれハ\/

にであいこれはこれは


おふ多りさ満ど

おふたりさまど


ちらへときけバ

ちらへときけば


志多きり春ゞめ

したきりすずめ


「己  ハ

 おのれは


多゛へ

だ へ



おきやく

おきゃく


さま

さま


とちらへ

どちらへ


おいで

おいで



さりま春

さります


いつも

いつも


お王

おわ


可ふ

こう


ごさり

ござり


ま春

ます


(大意)

(たずね)歩いていると

ある山道でスズメに出会いました。

「これはこれは

お二人様

どちらへ」と聞けば

舌切雀(の宿)


「???

お客様

どちらへおいで

なさります


いつも

お若くて

いらっしゃいます


(補足)

「おふ多りさ満ど」、変体仮名「多」(た)がわかりにくい。

「己ハ多゛へ奈おきやく」、「己」(おのれ)だとおもうのですけど、その次がわかりません。「おきやく」もあっているかどうか?「これはだんな、おきゃく」様としても意味が変。

 スズメの身振り手振りがいいです。特に右手がいい感じ。

 

2022年5月5日木曜日

舌切雀 その11

P7前半 国立国会図書館蔵

(読み)

せ うぢき志゛ゝいおやこ

しょうじきじ じいおやこ


ハ春ゞめ志多をきられ

はすすめしたをきられ


そのまゝきへ志れ

そのままきえしれ


ざり个れバふびん尓

ざりければふびんに


おもひ春ミ可を

おもいすみかを


多づ袮んと

たずねんと


おやこづれ尓て

おやこずれにて


多び志多く奈し

たびしたくなし


志多きり春ゞめ

したきりすずめ


おやどハどこ多゛

おやどはどこだ


チヨツ\/ \/ と多づ年

ちょっちょっちょっとたずね


(大意)

正直じじい親子は

舌を切られたスズメは

そのままいなくなってわからなくなってしまったので

かわいそうにおもわれ

すみかを訪ねようと

親子連れで

旅支度をしました。

舌切雀

お宿はどこだ

ちょっちょっちょっ、と訪ね

(歩いていると)


(補足)

 小さめの字で、一文字一文字の大きさもまばらで、さらにカスレており読むのに難儀しました。と自分の読解力のなさを脇において不平不満だらけであります。

「せうぢき志゛ゝいおやとハ」、「おやどはどこだ」があたまに染み込んでいて、これでは意味がおかしくてつうじません。この6行さきに「おやこづれ尓て」とあり、読み間違いに気づいた次第でお恥ずかしい。「こ」が「と」に見えなくもないと言い訳させてもらいます。

「そのまゝきへ志れ」、この箇所もなかなかわからなかった。「きへ」を「中らへ」or「中らく」と読んで意味がやはり変。前後を何度も読んでみるとその前の行に「きられ」と「き」があって、「中ら」と見えたのは「き」とわかりました。いやいやほんとにお恥ずかしい。

「おもひ春ミ可を」、「春ミ可」を判読するのも時間がかかりました。「春」の上に●がありわかりずらい。

「多づ袮んと」、「多」の曲がり部分がかすれていて見えませんが、文意からわかります。

このあとも読むのに苦労します。

 

2022年5月4日水曜日

舌切雀 その10

P6 国立国会図書館蔵

(読み)

志多

した


きり

きり


春ゝめ

すずめ


おやどハ

おやどは


どこ多

どおだ


チウ

ちゅう


\/\/

ちゅうちゅう


(大意)

舌切すずめ

お宿はどこだ

ちゅうちゅうちゅう


(補足)

 この浮世絵師はやはり人物描写が上手です。爺さんが杖を頼りに歩き、娘が寄り添うように助けながらの道中、腰をややおとし膝を曲げている不安定な姿勢が動きをだしています。ふたりの表情もいいです。

 

2022年5月3日火曜日

舌切雀 その9

P5後半 国立国会図書館蔵

(読み)

者奈志可゛いの春ゞめ

はなしが いのすずめ


のりを奈めて志まい个れバ

のりをなめてしまいければ


者゛ゝア大 き尓

ば ばあおおきに


いきどおり

いきどおり


春ゞめを

すずめを


とらへ

とらえ


志多おきりて

したをきりて


者奈し

はなし


やりぬ

やりぬ


「あいつ

 あいつ


ハ 文 可゛

はちもんが


のりを

のりを


ミん

みん



なめ

なめ



志や可゛つ多

しやが った


太郎 どのゝ

たろうどのの


いぬ

いぬ


奈ら

なら


あぶら



どろ



春ゞめとハ



??



やう多゛



(大意)

放し飼いのスズメが

のりをなめてしまったので

ババアは大変

腹を立て

スズメを

捕まえて

舌を切り

放してあげました。


「あいつは

八文(はちもん)もするのりを

みんななめてしまいやがった。

太郎殿の犬なら

???


(補足)

「者奈志可゛いの」、かたちはとても「可゛」にみえませんが、文脈から判断。

「志多おきりて」、現在なら「を」のところが「お」です。まま見かけます。

「なめて」、変体仮名「奈」(な)ばかりではなく平仮名の「な」です。

最後の5行が読めません。

 

2022年5月2日月曜日

舌切雀 その8

P5前半 国立国会図書館蔵

(読み)

と奈り尓

となりに


よくしんまん\/多る

よくしんまんまんたる


可多いぢ者゛りの

かたいじば りの


奈さけを志らぬ

なさけをしらぬ


个んどん者゛ゝア

けんどんば ばあ


阿りてせん多く

ありてせんたく


もの尓のりを

ものにのりを


つけんと

つけんと


井戸の者多尓

いどのはたに


おき多るを

おきたるを


(大意)

隣に

欲張り丸出しで

頑固で固まり

情けのかけらもない

けちんぼなババア

がいました。洗濯物に

のりをつけようと

井戸の端に

置いたものを


(補足)

 頁中央右端にババアが持つ大きな和鋏がみえます。桶の中には洗濯物、その手前に空になった茶碗があります。桶の箍(たが)が丁寧に描かれています。

変体仮名「奈」(な)と変体仮名「於」(お)が似ているので注意。

字が小さくてかすれているところもあり、少々読みづらい。

 

2022年5月1日日曜日

舌切雀 その7

P4 国立国会図書館蔵

(読み)

せ うぢき

しょうじき


ぢゝいの

じじいの


「ヤレ\/

 やれやれ


か王い

わかい


そう尓

そうに


(大意)

正直ジジイの

「やれやれ

かわいそうに


(補足)

「せうぢき」の「せ」が「う」につながているために「セ」のようにはみえませんけど「せ」です。

 欲張りババアの右腕の先が見えていませんが、和鋏(わばさみ)を持っています。

二人の年寄の立ち姿や、膝をついたやや不安定な格好、また普段着の着物の着崩れかたなども見事に描かれています。やはり浮世絵師、うまいです。