2022年1月5日水曜日

桃山人夜話巻四 その13

P7 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

手負 蛇

ておひへび

ておいへび


蛇 を半   殺 して

へび 奈可者゛ころ

へびをなかば ころして


捨 置 し可バ

春ておき

すておきしかば


其 夜来 りて

そのよき多

そのよきたりて


仇 を奈さんとせし可ど毛

あ多

あだをなさんとせしかども


蚊帳  を多れ多りし可ば

可ちやう

かちょうをたれたりしかば


入 事 越得春゛翌 日 蚊屋の廻 り

いる   え  よくじつ可や ま王

いることをえず よくじつかやのまわり


紅   の血しほ志多ゞ里たる可゛おのづ

くれ奈ゐ ち  

くれないのちしほしただりたるが おのず


可ら文字の可たちを奈し天

  もじ

からもじのかたちをなして


あ多むくひてんとぞ

あだむきひてんとぞ


書 多り

可き

かきたり


(大意)

手負蛇

蛇を半殺しにしてそのままにしておいたので

その夜、やって来て仕返しをしようとした。しかし

蚊帳を張ってあったので中に入りことができず

翌日、蚊帳のまわりに紅の血潮が滴っていたが

それは蛇がおのずから、血で文字の形をなぞって

「仕返しをしてやるぞ」と書いたものであった。


(補足)

 図では本文とはことなった文字の使い方をしているよう気がします。

「半殺し」(奈可者゛ころ)し。「可」がほとんど点です。

「来りて、「りて」の二文字が重なって「て」が「せ」のようにみえます。

変体仮名「毛」(も)は数種類のくずし方があって、ここでは「もの」と二文字セットで使われるときのくずし方。

「し可ば」、平仮名の「ば」は珍しい。

「入事越」、「事」を「る」と読んでしまい「いるるを」としてしまいましたが、まぁそれでも意味は同じです。

「志多ゞ里たる」、2行前は「は」で、こんどは平仮名「た」、やはり珍しい。

「あ多むくひてんとぞ」、ここの「ん」は文法的には格助詞「む」が転じたものでしょうか。〜するつもりだ。話し手の意志や決意を表す。

 蛇の胴の中程は肉が削げて骨だけになっています。本文の教訓臭い語りより、この絵の文章と蛇が蚊帳のまわりを這いずりまわる様子のほうがよほど恐ろしい。

 

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