2022年1月31日月曜日

桃山人夜話巻四 その39

P23 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

野き川袮

のぎつね


きつねの挑  燈 の

    ちやうちん

きつねのちょうちんの


火をとり蝋 燭 を

ひ   らうそく

ひをとりろうそくを


食 ふこと今 毛

くら   いま

くらうこといまも


まゝ阿る事 に

    こと

ままあることに


奈ん

なん


(大意)

野狐

きつねが提灯の火をとって蝋燭を

食べることは今も

ときおりあること

である。


(補足)

提灯を「挑」という漢字を当ててますが、同じ音とはいえ無理矢理で上手ではありません。暗闇に灯りを挑ませるぐらいの感じでしょうか。

 旅人か通りががりの人がきつねに驚いて、なりふりかまわず逃げてゆきました。残された提灯を手にして大好物の蝋燭の火と立ち上る煙をみて、うっとり。自然と顔がほころんでしまいます。もう一匹は妻がなめおわるのを待ちながら、後脚で背中をポリポリ、気持ちよさそうです。秋もおわり、里山の夜のひとときでありました。

 

2022年1月30日日曜日

桃山人夜話巻四 その38

P22後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

免り猿 奈どを取 て手のひらて押 尓忽   死春穴

  さる   とり て    於春 多ちまちし 阿奈

めりさるなどをとりててのひらておすにたちまちしすあな


与り於尓く満をとり出  春を於曽゛く登云 奈り大 木

         い多゛       いふ  たい本゛く

よりおにくまをとりいだ すをおぞ くというなりたいぼ く


を井个゛多の如 く尓組 天藤 づるを以 天穴 の口 を

 ゐ    ごと  くミ ふぢ   もつ 阿奈 くち

をいげ たのごとくにくみてふじづるをもってあなのくちを


ふさぎ種 ゝ  の木を入 れバ取 て於くの本うへつめ

   志由\゛/ き いる  とり 

ふさぎしゅじゅ のきをいるればとりておくのほうへつめ


(大意)

(歩)く。猿などを捕まえて手のひらで押すとすぐに死んでしまう。穴

から鬼熊を取り出し捕まえることを「おぞく」という。大木

を井桁のように組んで藤蔓(ふじづる)で穴の口を

ふさぎ、いろいろな木を入れると、鬼熊はこれらを取って奥の方へ詰め(込み)


(補足)

「手のひらて」、(手のひらにて)だとおもうのですが、「に」がみあたりません。カタカナ「ニ」が小さくあるようにも見えますが、この本ではそれが使われているところはなかったようにおもいます。

「押尓」(於春に)。「春」がかすれているので、見た目は「ミ」にみえます。

「忽死春」(多ちまちし春)。振り仮名を読むのも一苦労。

「大木」(たい本゛く)、「た」が変体仮名「多」にも平仮名「た」にもみえません。

 この本では巨人伝説や島のような赤エイの話などがありました。で、今回は巨大熊。

なんとなく実際にいたのだろうとおもってしまいます。

 

2022年1月29日土曜日

桃山人夜話巻四 その37

P22前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    四鬼 熊

多゛以さん志゛うし於尓く満

だ いさんじゅうしおにくま


鬼 熊 ハ人 の目尓可ゝらぬ毛の奈り木曽尓てハとし

於尓く満 ひと め         き曽

おにくまはひとのめにかからぬものなりきそにてはとし


遍多る熊 越於尓く満とハ以へり夜深 天民 間 尓

   く満          よふけ ミん可ん

へたるくまをおにくまといいえりよふけてみんかんに


出 牛  馬 越引 出  し天喰 ふ尓人 の如 く立 て阿由

いでぎう 者゛ ひきい多゛  くら  ひと ごと 多ち 

いでぎゅうば をひきいだ してくらうにひとのごとくたちてあゆ


(大意)

第三十四鬼熊

鬼熊は人目に触れることはないものである。木曽では年

をとった熊を鬼熊という。夜が更けると人家のまわりに

あらわれ、牛馬を引き出して食い、人のように立って歩く。


(補足)

「熊」のくずし字が「鮭」にもみえます。「能」の部分は「能」のくずし字になっています。

変体仮名「毛」(も)のかたちは数種類あり、「もの」とセットで使われるときはほとんど、ここのかたちです。

「遍多る熊越於尓く満とハ以へり」、「尓」が「φ」のようにみえます。ここの「に」は英語筆記体小文字「y」のかたちだとおもいます。同じ行の最後にもこの「に」があります。

 

2022年1月28日金曜日

桃山人夜話巻四 その36

P21後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

春るゝ登いへり於ろ可奈る人 越多ぶら可し天毛のをう

            ひと

するるといえりおろかなるひとをたぶらかしてものをう


者゛ふ氣越志りて人 尓近  くこと奈し牛  馬 の本袮

   き    ひと ち可づ     ぎ う者゛ 

ば うきをしりてひとにちかずくことなしぎゅうば のほね


を得ざれバ化  ること能 ハ春゛位  の望  むこと未   詳    奈ら須゛

 え   者゛け   阿多   くらゐ の曽゛   いま多゛つまびら可

をえざればば けることあたわず くらいののぞ むこといまだ つまびらかならず


(大意)

(これを)忘れてしまうという。愚かな人をたぶらかして物を

奪う。気配を感じて人に近づくことはない。牛馬の骨が

なければ化けることができない。野狐が自分の地位・身分を望むことは

いまだ明らかではない。


(補足)

ここからの3行、文章の切れ目がちょっとわかりにくいです

「於ろ可」、変体仮名「於」(お)が変体仮名「礼」(れ)にもみえます。

「近くこと」、「近」のくずし字が元の字からかけ離れています。「斤」の一画目の次くらいから「を」になったような感じ。「こと」は合字。このあと2箇所でてきます。

「本袮」、変体仮名で「ほね」だが、一瞬なんのことかと。

「望」のくずし字が「野」のそれとにています。

 なんだか説明だけになってしまっていて残念。

 

2022年1月27日木曜日

桃山人夜話巻四 その35

P21前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    三 野狐

多゛以さん志゛うさんのぎつ年

だ いさんじゅうさんのぎつね


野干 ハ蝋 油  漆  奈らび尓女  の氣血 越このむもの

や可ん らうあぶらうるし    をん奈 き个つ

やかんはろうあぶらうるしならびにおんなのきけつをこのむもの


奈りと心 要 論 尓出 多り疑    ぶ可き毛の尓し天日の

   志んやうろん 以で  う多可゛ひ        ひ

なりとしんようろんにいでたりうたが いぶかきものにしてひの


光 り越恐 連刃   をきらふ毛の越守 ら春る尓一 旦

ひ可  於曽 やい者゛       まも    いつ多ん

ひかりをおそれないば をきらうものをまもらするにいったん


ハ信 越失  ハ春゛登いへども其 うむ尓至 り天ハ是 をわ

 志ん うし奈        曽の   い多   これ

はしんをうしなわず といえどもそのうむにいたりてはこれをわ


(大意)

第三十三野狐

野干は蝋・油・漆ならびに女の生気と血を好むもの

であると「心要論」に出ている。疑い深い性質で日の

光を恐れ刃(やいば)を嫌う。約束をさせると一旦は

守り信用を失うことはないが、それがいやになってしまうとこれを

(忘れてしまうという)


(補足)

「野干」、日本語変換でも普通に出てくるので通常の単語のようですが、恥ずかしながら、狐の別称であるとは知りませんでした。「野狐」の振り仮名に「♡」マークのようなものがありますが、「年」のくずし字で、変体仮名「年」(ね)。古文書などでは「◯」+「ヽ」のかたちがおおいです。

「油」の振り仮名に平仮名「あ」が使われています。

「気」のくずし字が「柔」に似ています。「汽」の「氵」をとったものがまとめて上部になって、「メ」or「米」が下部になります。

「疑ぶ可き」、振り仮名がありますがこれを読むのも一苦労。

「日の光」の振り仮名がかすれて読みづらいですがこれは漢字が読める。

「守ら春る尓」、この振り仮名もかすれてます。

「うむ尓至り天ハ」、「うむ」がしばし悩みます。辞書を引きました。「倦む」です。そういえば「倦まず弛まず」(うまずたゆまず)という言い方がありました。

 眉唾な話をもっとそれらしく驚かすか呆れさせるかして誇大妄想的に膨らませて書いてほしいところですが、作者はここに来てややお疲れの様子・・・

 

2022年1月26日水曜日

桃山人夜話巻四 その34

P20 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

天火

てんく王

てんか


ま多ぶら里火といふ地より丗   間

     び   ち      个ん

またぶらりびというちよりさんじっけん


余ハ魔道 尓天さ満\゛/の悪 鬼

よ まだう        あつき

よはまどうにてさまざ まのあっき


ありて王ざ王ひを奈せり

ありてわざわいをなせり


(大意)

天火

またはぶらり火という。地面より三十間

あまりは悪魔の住む世界であるので様々な魔物

がいて、災いをなした。


(補足)

「十」を三つ並べて「十十十」三十。一間は約1.8mなので約54m。京都に三十三間堂がありますがあの廊下の長さプラス三間。

「魔道」、振り仮名「だ」が変体仮名ではありません。「道」のくずし字は特徴的。

「王ざ王ひ」、最初の「王」が小さすぎて読めません。

 まぁ、こんなものが天から降ってきたら、諦めるしかありません。

 

2022年1月25日火曜日

桃山人夜話巻四 その33

P19 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

野鉄 本゜う

のでつ

のでっぽう


北 國 の深 山 尓居る獣  奈り人 を見可け蝙蝠

本つこく しんざん ゐ けもの  ひと    可ふ本り

ほっこくのしんざんにいりけものなりひとをみかけこうもり


のごとき物 を吹 出 し目口 をふさ起゛天息 を止

    もの ふきい多゛めくち      いき とゞ

のごときものをふきいだしめくちをふさぎ ていきをとど


免人 をとり食 ふと奈り

 ひと   くら

めひとをとりくらうとなり


(大意)

野鉄砲

北国の奥深い山にすむ獣である。人をみかけるとコウモリ

のようなものを吹き出し、人の目と口をふさいで息を止

め、捕まえて食ってしまうという。


(補足)

 どうして野鉄砲というのかが気になっていました。なるほど画を見てみると鉄砲のように勢いよく旅人をねらって撃つごとく吹き出しているからのようです。玉はコウモリのようなものなのでしょう。画ではモモンガにも見えますが。

「野鉄本゜う」、「本」に半濁点「゜」があります。

ここでは「北」が楷書になっています。くずし字はまったく別の漢字で「小」+「ヽ」。

「蝙蝠」、振り仮名が「かふほり」。「かふ」はよいとして「ほり」は旧仮名遣いで「もり」と読めそうもないと思うのですけど。

「ごと」は合字「こと」に濁点。

「吹出し」、振り仮名「い」を読みとばしそう。

「ふさ起゛天」、漢字に濁点があるのは変ですが、「起」は変体仮名なので。

「人をとり」、「と」のかたちが上部が丸くなってます。拡大してみると一画目の最後を二画目に引きずっているためのようです。

 

2022年1月24日月曜日

桃山人夜話巻四 その32

P18後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

退 役 し天ひと月 過 火 氣も奈き所  与り火出

多以やく    つき春ぎく王き   ところ  志由つくハ

たうやくしてひとつきすぎか きもなきところよりしゅっか


天家 越やき身も焼 死しむさぶり多くハへ多類

 いゑ   ミ やけし         

ていえをやきみもやけししむさぶりたくわえたる


金 銀  財 宝 衣類 ホ 一 時の烟  と立 登  れり其

きん\゛/ざ以本うゐる以とういちし 个むり 多ちの本゛  曽の

きんぎ んざうほういるいとういちじのけむりとたちのぼ れりその


日ひとむらの火天 与り下  りしをミ多る人 有 恐 るべし

ひ     ひてん  く多゛      ひとあり於曽

ひひとむらのひてんよりくだ りしをみたるひとありおそるべし


(大意)

退役してひと月を過ぎたころ、火の気もないところから出火し

て家を焼き自身も焼け死しんだ。むさぼりたくわえた

金銀財宝衣類などほんのいっときの間に煙となって立ち登った。そ

の日、火のかたまりが天より降ってきたのを見た人がいる。恐るべきことである。


(補足)

「火出天」、送り仮名「し」が抜けているようです。

「ひとむらの火」、「と」、「ら」は形をなしていません。「の火」と続くので読めました。

「ミ多る」、ここも少し悩むところ。

 悪代官の屋敷を天よりの大火球で打ち砕き炎上しろと領民が願っていると、ほんとうにそうなりそうな気がしてきます。

 

2022年1月23日日曜日

桃山人夜話巻四 その31

P18前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  丗    二天 火

多゛以さん志゛う尓てんくハ

だ いさんじゅうにてんか


天 火尓て家 越やき焼  死せし人 所 ゝ 尓阿り去 所  尓

てんひ  いゑ   せう し  ひと志よ     さるところ

てんぴにていえをやきしょうしせしひとしょしょにありさるところに


天代  官  越勤  し者 春こしも仁心  奈く私欲 を可満

 多゛以く王ん つとめ もの    じんしん  しよく 

てだ いか んをつとめしものすこしもじんしんなくしよくをかま


へて下 ゝ 越志い多げ主 人 尓も悪 名  を負ハせ个る可゛

  志も       し由じん  あくみやう 於

えてしもじもをしいたげしゅじんにもあくみょうをおわせけるが


(大意)

第三十二天火

天火(てんぴ)により家を焼き焼死した人はあちこちにいる。ある所で

代官を勤めていた者がいたが、その者は少しも情け深い心がなく私欲のために

下々の者をしいたげ、主人にも悪い評判を負わせた。


(補足)

「天火」の読みを、題名では「てんか」とし本文冒頭では「てんぴ」、同じ言い回しや表現を避けるを徹底しています。「阿り」、「有」も混在しています。

「所々尓」、「々」を見落としそう。ここの変体仮名「尓」(に)は英文字小文字筆記体「y」とほとんどかたちが同じ。

「官」のくずし字は特徴的で、「友」の「一」を「冖」にしたような感じ。

 

2022年1月22日土曜日

桃山人夜話巻四 その30

P17後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

ふとこ路尓入 連バこれ尓さ満多げらるゝこと奈しと云

     いる                 いふ

ふところにいるればこれにさまたげらるることなしという


深 山 尓野可げと云 毛の有 名ハ可ハれども是 と同

  さん の   いふ  ありな      これ 於奈

しんざんにのかげというものありなはかわれどもこれとおな


じ野可げも名毛ミ越きらふよし深 山 の人 ハいへり

 の              や満 ひと

じのかげもなもみをきらうよしふかやまのひとはいえり


(大意)

ふところに入れておけばこれに襲われることはないという。

奥山に「野かげ」というものがある。名は異なっているがこれと同

じものである。「野かげ」も「なもみ」を嫌うという。奥山の人が言っている。


(補足)

前行「巻耳と云草越」、「巻耳」振り仮名が「奈もミ」とありますが、パッとみためは「ありミ」。拡大してみると確かに振り仮名通り。「云草」は「柔」一文字に見えます。

「野可げ」、ここではほぼ楷書の「野」。同じ読みでも表現をかえるのが習い。

今度は「深山」の振り仮名が「やま」になっています。二文字を「やま」とよませているのか「ふかやま」なのか、よくわかりません。前行では「深山」の振り仮名「さん」とありこれは「しんざん」でしょうけど。

 

2022年1月21日金曜日

桃山人夜話巻四 その29

P17前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第丗一野鉄砲

多゛以さん志゛ういちのてつ本う

だ いさんじゅういちのでっぽう


満ミと云 毛のゝ功 越へ多る越野てつ本うといへり阿る説

   いふ   こう     の

まみというもののこうをへたるをのでっぽうといへりあるせつ


尓ハこうもりの年 へ天野ぶ春満登云 毛の尓奈り

       とし  の    いふ

にはこうもりのとしへてのぶすまというものになり


多るをもいへりと曽゛夕 くれの比 与り出 天人 の面  尓あ

               ころ  いで ひと 於もて

たるをもいえりとぞ ゆうくれのころよりいでてひとのおもてにあ


多り目越ふさぎて生 血 越吸ふ巻 耳と云 草 越

  め     せい个つ 春 名もミ いふくさ

たりめをふさぎてせいけつをすうなもみというくさを


(大意)

第三十一野鉄砲

「まみ」というものの年功を経たものを野鉄砲という。ある説

にはこうもりが年をとってのぶすまというものになった

というものもある。夕暮れ時に出てきて人の顔面にあ

たり、目をふさいで生き血を吸う。「巻耳(なもみ)」という草を


(補足)

出だしから読めないし読めても意味が不明。そのようなときはかまわず次を読んでいきます。

どうやら「まみ」とは何かの名前のようです。「ミと」がグニャグニャとつながってわかりにくい。

「野」のくずし字は「那」+「土」or「王」のような感じ。

 吸血コウモリというのがいるのだから、でも日本にはいないかも、どこかの国では実際にありそうな話。いやだ。「まみ」という音が不思議、こうもりやのぶすまやのでっぽうという音と無関係な感じ。関係ないけど「野ぶすま」という音で思い出すのが「男衾(おぶすま)」という地名。東武東上線の池袋から行くと、寄居駅の手前(鉢形)の手前(男衾)にあります。「ぶすま」とは桶狭間の「狭間」という意味らしく、渓谷にはさまれてジメジメしたかんじの所の意。そこにうじゃうじゃコウモリがいたのかもしれません。

 

2022年1月20日木曜日

桃山人夜話巻四 その28

P16後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

こと多 し赤 間可゛関 の蟹 ハ平家一 門 の人 の怨

     阿可ま  せき 可尓 いけいちもん ひと 於ん

ことおおしあかまが せきのかにはいけいちもんのひとのおん


霊  也と楚゛化 春べき物 も有らん尓蟹 と成 多ること

里やう    くハ   もの     可尓 奈り

りょうなりとぞか すべきものもあらんにかにとなりたること


笑 ふべし婦女 尓ハ登も阿連物 の部多る者 死し天

王ら   ふぢよ      もの ふ  ものし

わらうべしふじょにはともあれもののふたるものしして


可ゝ類物 と奈ること此 比 平 家尓ハ愚人 のミ多 可りき

   もの     このころ     ぐ尓ん  於本

かかるものとなることこのころへいけにはぐにんのみおおかりき


(大意)

(永く怨みをみせる)ことが多い。赤間が゙関の蟹は平家一門の人の

怨霊が化したものであるという。化すべき物は他にもあるだろうに、蟹になるとは

笑うべきことである。女子どもはともあれ、武士たるものが死して

このようなものになるとはこの頃の平家には愚かなものばかりが多かったのである。


(補足)

「赤間可゛関」、「間」や「関」のくずし字の「門(もんがまえ)」は「冖(わかんむり)」のなっているのが特徴です。ならば「門(もん)」のように中に何もない漢字のくずし字ではどうなるかというと、同じ行のにありました、「平家一門」。さすがに「冖」にはならなくて、ほぼそのままでした。

「有らん尓」、「ら」は形をなしていません。

「成」のくずし字が久しぶりに出てきました。新しい漢字として覚えたほうが良さそうです。

「物の部」、振り仮名は「もののふ」ですが、「武士」をそう読ませるのが多い。

 平家蟹の甲羅にケチをつけ、平家一族を愚者扱いして話をしめてしまいました。なんともはや。

春泉子よ巻一序の気概はどこへいった。

 

2022年1月19日水曜日

桃山人夜話巻四 その27

P16前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  三 十  於菊 虫

多゛以さん志゛うおきくむし

だ いさんじゅうおきくむし


皿屋 しきのお菊 むしハおきく可゛怨 念 虫 と奈りしと云 伝

さらや    きく        於ん袮んむし 

さらやしきのおきくむしはおきくが おんねんむしとなりしといいつた


ふ春へ天可ゝる怨  のことゞもハ其 所  尓止  り天年 越ふる

       うらミ      曽のところ とゞ満  とし

うすべてかかるうらみのことどもはそのところにとどまりてとしをふる


尓随 ひ草 木 鳥 虫 ホ 尓化 し天永  く怨  越ミ春る

 死多 さうもくとりむしとう くハ  奈可゛ うらミ

にしたいそうもくとりむしとうにか してなが くうらみをみする


(大意)

第三十於菊虫

皿屋敷の於菊虫はおきくの怨念が虫となったものと云い伝えれてい

る。すべてこのような怨みなどというものはその場所にとどまって、年がたつ

に従って草木や鳥や虫などに化けて永く怨みをみせる(ことが多い。)


(補足)

「皿屋しき」、「屋」が偏で「し」が旁の一文字の漢字のようです。

表題では変体仮名「於」(お)ですが、本文では「お菊むしハおきく可゛」と平仮名。

「怨」、振り仮名「うらミ」の「うら」がニョロニョロしていて判別しにくい。

「ことども」、「こと」は合字、「ど」がくずしすぎで読めません。

「随ひ」、振り仮名が「志多」で「可゛」を忘れたのか、「随」の次に小さく「可」があるようにもみえて「したがい」と読むのか?しかし「有」のくずし字は次の次の行に「有」がありますが、

「月」の部分をくずした最後に「一」がつきます。なので振り仮名に「可゛」を忘れたと判断。

ちなみに「月」のくずし字はここにあるようにグニャグニャしたものではなく、「月」そのままのかたちか「同」のくずし字に似たかたちです。

 

2022年1月18日火曜日

桃山人夜話巻四 その26

P15後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

登有 妄 念 妄 想 のこゝ路ハ無学  文 盲 ゟ

 阿りもう袮んもうさう     む可゛くもんもう

とありもうねんもうそうのこころはむが くもんもうより


出 ると説可れ多れ者゛学 者るべき本どの分 際 尓

いつ  と      ま奈       ぶんさい

いずるととかれたれば まなばるべきほどのぶんざいに


於 天書 尓眼  をさらし天道 越志り己 れ可゛心

おゐ ふミ ま奈こ     ミち   をの   こゝろ

おいてふみにまなこをさらしてみちをしりおのれが こころ


の善 悪 越弁 へ孝 悌 忠  信 仁 義礼 譲  を知

 よしあし 王き こうて以ち う志んじん 連以ぜ う しる

のよしあしをわきへこうていちゅうしんじんぎれいじょうをしる


多ゝ人 尓ハ愚  奈ること尓迷 ふこと有 べ可ら須゛と思 べし

      をろ可     まよ   阿る      於も

ただひとにはおろかなることにまよふことあるべからず とおもべし


(大意)

とあり、「妄念や妄想をもつ心は無学文盲により

出るのである」と説かれている。であるからそれぞれが学ぶことのできる身の程に

応じて本をしっかりと読み、道を知り、自分の心の善悪をわきまえ、孝悌・忠信・仁義・礼譲を知る普通の人には愚かなことに迷うことがあるわけがないと思うべきである。


(補足)

「奈し登登有」、文末文頭で「登」がダブってしまいました。

「ゟ」、「より」を一文字にした合字です。

「説可れ多れ者゛」、「可」が変体仮名「个」(け)のようにみえます。

「弁へ」、振り仮名に「ま」がありません。

南総里見八犬伝に出てくるのは「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」(の数珠の玉(仁義八行の玉))。

「多ゝ人尓ハ」、現在でも使われる「ただの人」(一般の人、ふつうの人)。

「こと」、合字ですが「ゟ」のようにフォントがありません。

「思べし」、拡大してみても振り仮名に「う」が見つかりません。

 それぞれが分相応にしっかり学び儒学の教えを身につければ妄念妄想を持つこともなく愚かなことに迷うこともないというとても夜話らしからにはなしになってしまいました。

 

2022年1月17日月曜日

桃山人夜話巻四 その25

P15前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

尓も多ゝ須゛と志る遍゛し狐  多ぬき尓多ふら可さる

                           きつ年

にもたたず としるべ しきつねたぬきにたぶらかさる


るも是 と同 じ祐 天 大  僧 正  の詞   尓も一 念 の

  これ 於奈 ゆうてん多゛以さうせ う こと者゛  いち袮ん

るもこれとおなじゆうてんだ いそうじょうのことば にもいちねんの


無益 奈る心  越發 春可゛ゆへ尓無き妄 想 越

む    こゝろ 於こ      奈 もうさう

むえきなるこころをおこすが ゆえになきもうそうを


呼 奈り念 奈き毛の尓多ゝるべきの霊 奈し登

よふ  袮ん           連以

よぶなりねんなきものにたたるべきのれいなしと


(大意)

(いるならいるで)やはりあらわれないと知るべきである。狐や狸にたぶらかされる

のもこれと同じである。祐天大僧正の言葉にも「無益な

激しい思い込みを起こしてしまうから、ありもしない妄想を

呼ぶのだ。念のない者にたたる霊はない」と(ある。)


(補足)

「多ゝ須゛」、多ら須゛とも読めますが、文意の流れで「たたず」。

「多ふら可さるる」、「ら可」と続いているので変体仮名「可」(か)が区別のためか「可」とわかるようにかいてある(ようにおもえます)。

「多ゝるべき」、一行目にも同じ「多ゝ」があります。こちらのほうがいくらかわかりやすいか。

 祐天大僧正を調べると江戸時代を代表する呪術師とあります。ウィキペディアによると鎌倉大仏の鋳掛修復に着手し復興をはかったとあります。しかし鎌倉大仏のほうにはこのことが全く触れられていません。何か隠されたことがあるのでしょうか。

 

2022年1月16日日曜日

桃山人夜話巻四 その24

P14 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

お菊 むし

おきくむし


皿 屋敷 のこと盤犬 う川童

さらやしき    いぬ  王らべ

さらやしきのことはいぬうつわらべ


だ毛知れゝバ古ゝにい者須゛

  す   

だもしれればここにいわず


(大意)

お菊虫

皿屋敷のことは犬を打つ子ども

でさえ知っていることなので

ここでは言わない


(補足)

 摺りと綴じの関係で次の話の図が先行しています。

出だし「お菊むし」の「菊」から読めません。つくずく初心者にもまだなれてないとうなだれます。

「艹」と「勹」がひとつで冠のようになり「米」はその下部にあります。よくあるパタンです。

「こと盤」、変体仮名「盤」(は)は知っていますが、こうして出てくるとう~ん、悩みました。

「犬う川童」、読めましたが意味がはてさて?しばらくして「犬を打つ子ども」と理解。

「だ毛」、これはさっぱりでした。でも変体仮名「毛」(も)は読めました。しかし「だも」って何だ?何度か音読するうちに前後の流れから意味はなんとなくわかりましたけど。辞書で調べたことをここに記してもしょうがないことですが、「だも」は「〔副助詞「だに」に係助詞「も」の付いた「だにも」の転〕」とあります。で、「だにも」は「〔副助詞「だに」に係助詞「も」が付いたもの〕」とあります。「春やとき花やおそきと聞きわかむ鶯―鳴かずもあるかな」〈古今和歌集•春上〉

「古ゝに」、どうも変体仮名「古」(こ)が苦手です。

 わずか2行ですが手こずりました。

画は井戸(下の方に井桁の角が見えます)から現れたお菊むし。胸から下が蛇のような龍のような鱗状になってます。顔の表情はどこか間が抜けて、あれっ出るとこ間違えちゃったかなっていう感じ。よく見る両腕と胸に綱が巻かれています。捕まったときのまま怨霊になってしまったのかも。

 

2022年1月15日土曜日

桃山人夜話巻四 その23

P13 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

加さ袮

かさね


可さね可゛死霊  乃

           し里やう

かさねが しりょうの


ことハ世の人 農

   よ ひと

ことはよのひとの


志るところ也

しるところなり


(大意)

かさね

かさねの死霊の

ことは世の人の

知るところである


(補足)

 綴じの関係でかさねの図と次の話の図が続き、かさねの話の続きは次の次になります。

変体仮名「加」(か)、「乃」(の)、「農」(の)が本文では出てこなかったものでしょうか。

一方で平仮名「ね」があります。

「霊」は異体字orくずし字?で「ヨ」+「大」。「己」+「大」は「異」の異体字。

両手をたらしてひゅードロドロといった感じではなく、もっと激しく炎の中から恐ろしげに現れています。ご婦人は臥せっていたようで頭に病鉢巻を巻いています。何を指差しているのでしょう。

 

2022年1月14日金曜日

桃山人夜話巻四 その22

P12後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

天人 尓取 附 天王ざハひをい多須ことハ覚   あるの

 ひと とりつき            於本゛え

てひとにとりつきてわざわいをいたすことはおぼ えあるの


身与りし天思 ひまうける可゛故 尓是 越ま袮く也

ミ    於も       ゆへ これ

みよりしておもいまうけるが ゆえにこれをまねくなり


己 れ尓於もひむ可ふる所  奈个れ者゛生 霊  死霊  の

をの         ところ     いき里やうし里やう

おのれにおもいむかうるところなければ いきりょうしりょうの


中 尓阿りといふとも取 つ可るゝこと阿るべ可ら須゛去

奈可        とり             され

なかにありというともとりつかるることあるべからず され


バ霊 のことハ奈き可゛奈き尓も多ゝ須゛して阿る可゛有

 連以                      阿る

ばれいのことはなきが なきにもたたず してあるが ある


(大意)

人に取り付いて禍(わざわい)をなすのは、すべてその者に身に覚えがあって

取り憑かれるのではないかと不安に思ってしまうためにこれを招いてしまうのである。

自分に思い当たることがなければ生霊や死霊の中にあっても取り憑かれてしまうことなどあるはずがないのである。つまりこのような霊についてはいないならいないであらわれないし、いるならいるで(やはりあらわれないと知るべきである)


(補足)

「覚あるの」、「覚」のくずし字が次行の「是」とそっくりです。

「思ひまうける」、「う」と「ら」は間違えやすい。「思い設ける」、前もって考える。予期する。予想する。とあります。

「己れ尓於もひむ可ふる所奈个れ者゛」、「も」や「可」や「る」など小さくてわかりにくいところがありますが、文脈で判断しながら読むしかありません。

「取つ可るゝこと」、「るゝ」が悩みます。「こと」は合字。次の行のも同様。

「多ゝ須゛して」、ここの「たつ」は、はっきりと目に見えるようになるの意でしょうか。ひと目にたつ。

「阿る可゛有」、こちらは変体仮名「阿」「有」と使い分けてますが、ないほうは「奈」を繰り返しています。

 作者は他の話のところでも、霊を見たり感じたりするのは自分の心の持ちよう次第なのだと同じようなこと述べてました。しかし霊はある場所にとどまり続け、だからそのようなところには供養塔や石碑を建て供養が必要なのであるとも述べています。

 

2022年1月13日木曜日

桃山人夜話巻四 その21

P12前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

袮毛の可゛多りと云 毛の阿り天お徒王尓与右衛門尓

ねものが たりというものありておつわによえもんに


こ路されしと書 多れども作 意奈り曽も\/此 死

          可き    さくゐ      このし

ころされしとかきたれどもさくいなりそもそもこのし


霊  のお菊 といへる尓取 附 多る者与右衛門おきく可゛

里やう  きく     とりつき   よゑもん

りょうのおきくといえるにとりつきたるはよえもんおきくが


身の誤   与り出 多る奈り春べ天生 霊  死霊  と

ミ 阿や満り  いで       いき里やうし里やう

みのあやまりよりいでたるなりすべていきりょうしりょうと


(大意)

(「かさ)ね物語」というものがあって、おつわが夫の与右衛門に

殺されたと書かれているが、それは作り話なのである。そもそもこの

死霊が後妻のお菊というものに取り付いたのは与右衛門とお菊の

不義密通より出たものである。生霊や死霊が


(補足)

「毛の可゛多りと云 毛の」、「毛の」という使い方のときはこの変体仮名がたいてい使われています。

「書」のくずし字が「出」に見えます。「書」は画数が多いので簡単に「小」+「一」。

 芸能週刊誌の不倫記事のようでもあります。

 

2022年1月12日水曜日

桃山人夜話巻四 その20

P11後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

奈り依 天里 人 阿多゛名し天累  と呼べり夫  与

  よつ さとひと      可さ袮 よ  於つとよ

なりよってさとびとあだ なしてかさねとよべりおっとよ


右衛門を里んきし天ミつ可ら井尓投 じ天死し

ゑもん            とう  し

えもんをりんきしてみずからいにとうじてしし


其 霊 後 妻 尓取 附 奈や満せしことハ与右衛門 可゛

曽の連以こうさ以 とりつき        よゑ もん

そのれいこうさいにとりつきなやませしことはよえもんnが


因 果 毛の可多り尓出 多れバこゝ尓略  せり世尓可さ

ゐんぐ王      いて      里やく  よ

いん がものがたりにいでたればここにりゃくせりよにかさ


(大意)

(九回にも)なった。そのため里の人はあだ名をつけ「累(かさね)」と呼んだ。夫与

右衛門に嫉妬しみずから井戸に身を投じて死んでしまった。

その霊は後妻に取り付き悩ませたことは与右衛門の

因果物語に詳しいのでここでは略す。世に「かさ(ね)


(補足)

「を里んきし天ミつ可ら井尓」、読みにくい箇所ですが、変体仮名「里」(り)が判別できればあとは大丈夫。変体仮名「可」(か)は「ら」や「う」とまぎらわしい。

略された「与右衛門の因果物語」の内容が気になります。

 

2022年1月11日火曜日

桃山人夜話巻四 その19

P11前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  廿   九累

多゛以尓志゛うく可さ袮

だ いにじゅうくかさね


下 総 の国 羽生 村 の百  姓  与右衛門可゛妻 の可さ袮実

志もふさ く尓者尓うむら ひやくせ うよ     つま    志゛つ

しもうさのくにはむらむらのひゃくしょうよえもんが つまのかさねじ つ


名  をお徒王といへり性 淫 乱 尓し天邪 見 奈る可゛ゆへ

ミやう          ゐんらん   じや个ん 

みょうをおつわといえりせいいんらんにしてじゃけんなるが ゆえ


尓多び\/嫁春れども離別 せらるゝこと九の度

     可    里べつ        多ひ

にたびたびかすれどもりべつせらるることくのたび


(大意)

第二十九累

下総の国羽生村の百姓与右衛門の妻かさねは本

名をおつわといった。性格は淫乱で薄情であったため

に何度か嫁ぎはしたが離縁されたことは九回にも

(なった。)


(補足)

「累」、振り仮名「ね」が平仮名のように見えますが拡大してみると変体仮名「袮」(ね)でした。

「お徒王」、最初変体仮名「津」(つ)とおもったのですがどうやら変体仮名「徒」(つ)のよう。

「るゝ」、一文字のようにみえてしまいます。

 

2022年1月10日月曜日

桃山人夜話巻四 その18

P10後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

西 嶋 といふ所  あり山 の春楚尓夕 ぐれ与り二 ツの

尓しじ満   ところ  や満    ゆふ    ふ多

にしじまというところありやまのすそにゆうぐれよりふたつの


火出 天狂 ひ夜中 尓ハ其 火合  し天一 ツと奈り天

ひいで くる よ奈可  曽のひ可゛つ  ひと 

ひいでてくるいよなかにはそのひが っしてひとつとなりて


ハうせ个り里 人 も何 の火と云 こと越志ら須゛往 来

     さとびと 奈尓 ひ いふ       王うら以

はうせけりさとびともなにのひということをしたず おうらい


の旅 僧 見天い多ち奈りといへりい多ちの毛ハよ

 里よ曽うミ              け

のりょそうみていたちなりといえりいたちのけはよ


尓入 天ハ光 る毛の奈りと楚゛鷺 も是 と同 じ

 いり  ひ可        さぎ これ 於奈

にいりてはひかるものなりとぞ さぎもこれとおなじ


(大意)

西島というところがある。山のすそに夕暮れよりふたつの

火があらわれて狂ったように動き、夜中にはその火は合体してひとつとなり

消えてしまった。里の人も何の火であるか知らなかった。街道を

旅する僧が見て「あれはイタチである」と言った。イタチの毛は夜

になると光るものだという。鷺もこれと同様のことである。


(補足)

「山の春楚尓」、「そ」はたいていは変体仮名「曽」(そ)ですがここの変体仮名も使われます。最終行「毛の奈りと楚゛」。

 巻四ともなると話も出尽くして、作者が苦労しているのがわかります。鷺が光るのがイタチと同じだなんて落としどころがつまりません。五位鷺の名前の由来のほうがよほどおもしろい。

 

2022年1月9日日曜日

桃山人夜話巻四 その17

P10前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

なりさ天尓驚  く尓多ら須゛昔  河 内の国 内 野と云

        於どろ      む可し可王ち く尓うちの いふ

なりさてにおどろくにたらず むかしかわちのくにうちのという


とこ路尓夜奈\/光 り物 有 見届  んとて行 个る

    よ   ひか もの阿りミとゞけ   ゆき

ところによなよなひかりものありみとどけんとてゆきける


毛の其 土中  与り古  刀  を得多り鉄 氣の土 尓うき

  曽のどち う  ふるき可多奈 え  てつき つち

ものそのどちゅうよりふるきかたなをえたりてつきのつちにうき


多る可゛星 の光 り尓映 じ多る奈りといへり遠   江耳

    本し ひ   え以         とを\/ミ

たるが ほしのひかりにえいじたるなりといえりとおとおみに


(大意)

(常)である。それほど驚くほどのことではない。昔、河内の国の内野という

ところに毎晩光るものがあった。どのようなものか確かめようと行った

者がそこの土の中に古い刀を見つけ得た。刀の鉄分が土にまじり浮き

それが星の光でキラキラ映ったのだという。遠江に


(補足)

「届んとて」、「ん」がわかりずらい。

「星の光」、振り仮名「ひ」に「可」をうっかり忘れてます。

「遠江耳」、たびたび変体仮名「耳」(に)が出てきます。

 

2022年1月8日土曜日

桃山人夜話巻四 その16

P9後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

奈りと恐 れ朽 多る木越ミて光  明  奈りといふこと

   於曽 くち  き   くハうミやう

なりとおそれくちたるきをみてこ うみょうなりということ


まゝ有 奈らひ奈り春べて陰 尓生  春゛る毛のハ陰 気

  阿る        ゐん せ う      ゐんき

ままあるならいなりすべていんにしょうず るものはいんき


尓応 じ天うる本ひをまし陽 尓生 春゛る毛のハ陽

 於う         やう せう      やう

におうじてうるおいをましやうにしょうずるものはよう


気尓感 じ天うる本ひを曽ふること一 切 のものゝ常

き 可ん            いつさ以    つ年

きにかんじてうるおいをそうることいっさいのもののつね


(大意)

だと恐れ、朽ちた木を見て光明だとおもうことは

時折あることである。すべて陰に生ずるものは陰気

に応じて潤いを増し、陽に生ずるものは陽

に感じて潤いを添えることはすべてのものの常


(補足)

「奈らひ」、「ら」がかたちをなしていませんが、「奈らひ」の三文字セットで読みます。

「毛のハ」「毛のハ」「ものゝ」、ちょうど3行の下の方に並んでいます。変体仮名「毛」(も)は何種類かのくずし方があります。

「うる本ひ」、「うる」がわかりにくい。次行の「うる本ひ」も同様。

 うーん、ウーン、う〜ん・・・、どうも何を言わんとしているのかがつかみきれません。

 

2022年1月7日金曜日

桃山人夜話巻四 その15

P9前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

第  廿   八 五位の光

多゛以尓志゛う者ちごゐ ひ可り

だ いにじゅうはちごいのひかり


五位鷺 の息 つくを闇 夜尓ミれ者゛火の青 く

ごゐさぎ いき   阿んや     ひ あを

ごいさぎのいきつくをあんやにみれば ひのあおく


光 る可゛如 し春べ天鳥 个多゛毛ゝ息 ハ夜中  尓光 れ

ひ可   ごと    とり     いき やち う ひ可

ひかるが ごとしすべてとりけだもののいきはやちゅうにひかれ


里猫 の眼虫 の目何 連も同 じ魚 の鱗  をミて光  物

 袮こ めむし めいづ  於奈 うを うろこ   ひ可りもの

りねおのめむしのめいずれもおなじうおのうろこをみてひかりもの


(大意)

第二十八五位の光

五位鷺の息つぎをするところを闇夜に見れば火が青く

光っているようである。すべての鳥や獣の息は夜中に光る。

猫の目・虫の目が光るのはいずれも同じことである。魚の鱗を見て光り物


(補足)

「闇」のくずし字が「つとる」のようにみえます。「つ」の部分は「門」が冠のようになったもの。「とる」は「音」のくずれたもの。

「ミれ者゛」、「ミ」の三画目が流れてわかりずらい。この2行後「ミて」その次の行「ミ天」も同様。

 猫や虫の目が光るのはまだしも、鳥・獣の息が夜中に光る、見てみたい。

 

2022年1月6日木曜日

桃山人夜話巻四 その14

P8 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

五位の飛可里

ごゐ

ごいのひかり


此 鷺 五位の

このさぎごゐ

このさぎごいの


くらゐをさ川゛可り

くらいをさず かり


し故 尓や夜 ハ

 由へ  よる

しゆえにやよるは


光 り阿りて阿多りを

ひ可 

ひかりありてあたりを


照 せり

てら

てらせり


(大意)

五位の光

この鷺は五位の

位を授かっている

ためだろうか、夜は

光ってあたりを

照らしている


(補足)

 図が本文より先になってます。菩薩像の背中の後光のようにうすく光が放射状に広がっています。

変体仮名「飛」(ひ)のかたちがもう少し抽象化されると「ひ」になりそうですが、平仮名「ひ」のもとは変体仮名「比」のようです。

「さ川゛可り」、濁点が「可」に付いてしまっているようにみえますが、変体仮名「川」(つ)の右下にきただけ。

「尓や」、疑問または反語。

 

2022年1月5日水曜日

桃山人夜話巻四 その13

P7 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

手負 蛇

ておひへび

ておいへび


蛇 を半   殺 して

へび 奈可者゛ころ

へびをなかば ころして


捨 置 し可バ

春ておき

すておきしかば


其 夜来 りて

そのよき多

そのよきたりて


仇 を奈さんとせし可ど毛

あ多

あだをなさんとせしかども


蚊帳  を多れ多りし可ば

可ちやう

かちょうをたれたりしかば


入 事 越得春゛翌 日 蚊屋の廻 り

いる   え  よくじつ可や ま王

いることをえず よくじつかやのまわり


紅   の血しほ志多ゞ里たる可゛おのづ

くれ奈ゐ ち  

くれないのちしほしただりたるが おのず


可ら文字の可たちを奈し天

  もじ

からもじのかたちをなして


あ多むくひてんとぞ

あだむきひてんとぞ


書 多り

可き

かきたり


(大意)

手負蛇

蛇を半殺しにしてそのままにしておいたので

その夜、やって来て仕返しをしようとした。しかし

蚊帳を張ってあったので中に入りことができず

翌日、蚊帳のまわりに紅の血潮が滴っていたが

それは蛇がおのずから、血で文字の形をなぞって

「仕返しをしてやるぞ」と書いたものであった。


(補足)

 図では本文とはことなった文字の使い方をしているよう気がします。

「半殺し」(奈可者゛ころ)し。「可」がほとんど点です。

「来りて、「りて」の二文字が重なって「て」が「せ」のようにみえます。

変体仮名「毛」(も)は数種類のくずし方があって、ここでは「もの」と二文字セットで使われるときのくずし方。

「し可ば」、平仮名の「ば」は珍しい。

「入事越」、「事」を「る」と読んでしまい「いるるを」としてしまいましたが、まぁそれでも意味は同じです。

「志多ゞ里たる」、2行前は「は」で、こんどは平仮名「た」、やはり珍しい。

「あ多むくひてんとぞ」、ここの「ん」は文法的には格助詞「む」が転じたものでしょうか。〜するつもりだ。話し手の意志や決意を表す。

 蛇の胴の中程は肉が削げて骨だけになっています。本文の教訓臭い語りより、この絵の文章と蛇が蚊帳のまわりを這いずりまわる様子のほうがよほど恐ろしい。

 

2022年1月4日火曜日

桃山人夜話巻四 その12

P6後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

多り両  頭 の蛇 奈んども仁 心 越可満へ天人 尓禍

  里やう多う へび    じんしん     ひと 王ざハひ

たりりょうとうのへびなんどもじんしんをかまえてひとにわざわい


をさせ満じと思 ひ詰 多る善事 奈れバ遍びハ

      於も つ免  ぜんじ   

をさせまじとおもいつめたるぜんじなればへびは


をろ可尓し天鳥 獣    多り登も其 仇 越むくふ

      とり个多゛もの    曽の阿多

おろかにしてとりけだ ものたりともそのあだをむくう 


遍゛き所  も奈くま多王ざハひをい多須へきの

   ところ  

べ きところもなくまたわざわいをいたすべきの


なき満も奈し可ゝれバ勤 へきハ只 善 の一 ツ也

          つと   多ゞぜん ひと

なきまもなしかかればつとべきはただぜんのひとつなり


(大意)

ふたつの頭がある蛇については情け深い心をもって人に禍が

かからぬよう思いつめた結果の善行であったから、蛇

は言うまでもなく鳥や獣であっても、その仕返しをする

べきところもなく、また禍を及ぼすこともなかった。

このようなことであるので勤めるべきはただ善のひとつのみなのである。


(補足)

「両頭」、「両」のくずし字は「ち」+「α」のような形。変体仮名「満」の両の部分もおなじようになってます。

「をろ可尓し天」、「を」の上半分がないようです。「蛇は愚かにして」の意ではなく、「〜は言うまでもなく。〜もとより」の意。だとおもいます。

「い多須へきのなき満も奈し」、「なき満」がどうもわかりません。致すことのない間もないだとあることになってしまってどうも変?

「勤へきハ」、振り仮名が「つと」になってますが「む」が消えているのか忘れたのか。

 お隣の唐土の国から思想・文芸・宗教などたくさんの事柄が日本に入ってきているわけですが、桃山人さんはどうもはなしをまとめるにあたって、唐土云々を安易に用いすぎているような気がします。当時としてはそのことを確かめるすべなんて簡単にはできなかっただろうし、おはなしをまとめるにあたって唐土云々でちゃんちゃんばかりだと、読者の中には「なんでぇ〜またもろこしかよ」っておもう人がいたかもしれません。まぁそんなことは気にせず寝転がって読んで、ふぅ〜んで終わってよいのかも。

 

2022年1月3日月曜日

桃山人夜話巻四 その11

P6前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

免の子越取らんとせしこと越侘 多り登見て夢

   こ と        王ひ   ミ ゆめ

めのこをとらんとせしことをわびたりとみてゆめ


ハ覚 多り母 此 こと越語 り出 个る尓ミ奈\/思 い合

 さ免  者ゝこの   可多 いで       於も 阿王

はさめたりははこのことをかたりいでけるにみなみなおもいあわ


せ天奇異の夢 奈りと感 じ多りと蘇轂 子

  きゐ ゆめ   可ん    曽こくし

せてきいのゆめなりとかんじたりとそこしし


可゛筆 談  尓のせ多りま多楚の孫 叔  敖 可゛ころし

  ひつ多゛ん       曽 曽んし由くごう

が ひつだ んにのせたりまたそのそんしゅくごうが ころし


(大意)

(すず)めの子をとろうとしたことをわびたところで夢は

覚めた。母がこのことを語ると皆々あれこれと考え思いあたり

「奇異な夢である」と感じ入ったと蘇轂子

の筆談に載っている。また楚の孫叔敖が殺した


(補足)

「め」が平仮名のものと変体仮名の「免」が使われています。

「出个る尓ミ奈\/」、そそっかしく「いでけるにことなく」と読んでしまいました。

「筆談」、翻訳書のような書籍という意味でしょうか。

 

2022年1月2日日曜日

桃山人夜話巻四 その10

P5後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

己  可゛手尓可け天打 殺 春べし登のゝ志りてふ多

     て    うちころ 

おのれが てにかけてうちころすべしとののしりてふた


打 三打 うち多ゝき个れバ蛇 ハ頭  を多れ天いづこ

うちミうち        へび 可しら

うちみうちうちたたきければへびはかしらをたれていずこ


登も奈く逃 失 多り此 ことさら尓志る毛のも奈可

    尓げうせ  この

ともなくにげうせたりこのことさらにしるものもなか


里个る可゛其 夜母 の夢 尓一 ツの蛇 来 り天春ゞ

     曽のよ者ゝ ゆ免 ひと  へびき多

りけるが そのよははのゆめにひとつのへびきたりてすず


(大意)

わたしの手でもって打ち殺してやるぞ」とののしり、さらに二打

三打と打ちたたくと蛇は頭をたれてどこかへ

逃げていってしまった。この出来事はほかに知るものもいな

かったが、その夜子どもの母親の夢に一匹の蛇があらわれて、雀


(補足)

「手尓可け天」、この頁では平仮名「け」がよく使われています。「个れバ」のときに変体仮名なのはこれでひとセットのためでしょう。

「のゝ志りて」、「ゝ」を読み落としそうです。

「夢」(ゆ免)、ここでは変体仮名「免」(め)です。次頁にまたがる「春ゝ゛免」も同様。しかし4行目の雀の振り仮名は平仮名「め」となっています。何を使うかは気分次第と言うか変化自在。

 

2022年1月1日土曜日

桃山人夜話巻四 その9

P5前半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

凡  いける多くひ尓子の奈き毛のや阿る子をも川

於よ曽       こ        こ

およそいけるたくいにこのなきものやあるこをもつ


親 の子越思 ハざるハあるべ可ら須をの連もとハ蛇

於や こ 於も                へび

おやのこをおもわざるはあるべからずをのれもとはへび


の子尓し天ま多子越も多ざるといふこと阿るべか

 こ    

のこにしてまたこをもたざるということあるべか


ら春゛さ阿ら者゛何 楚゛雀  の生 多川越喰 ふことや

        奈ん  春ゞめ 於ひ   くら

らず さあらば なんぞ すずめのおいたつをくらうことや


阿るべき今 与りし天可ゝる悪 事越奈春尓於 てハ

    いま       あくじ    おゐ

あるべきいまよりしてかかるあくじをなすにおいては


(大意)

そもそも生きとし生けるものに子のないものなどあろうか。子を持つ

親が子を心配しないことがあるはずがない。お前ももとは蛇

の子であり、また子を持たないということもないだろう。

そうであるのになぜこれから育とうとする雀の子を喰おうとするのだ。

これからこのような悪事をするときは


(補足)

 こういった説教めいた文章を読むと調子が福沢諭吉風になってしまいます。

「多くひ尓」、「多」も「く」も小さくてこの二文字が一つの文字のように見えてしまいます。

「も川」、変体仮名「川」(つ)。縦3本が横棒一本とカーブになってしまうのはずいぶんと極端な変化です。しかしカタカナ「ツ」は「川」そのものです。

「もとハ蛇」、どうしてこんなに小さい「と」なのでしょう。

「阿るべから春゛」、平仮名「か」の出現率は低い。変幻自在の「ら」がここではお手本の「ら」。

「生多川越」、「生い立つ」(子供が)成長する。育つ。

「今与りし天」、古文書でよく見る「今」は「彡」+「ゝ」。

 子どもが蛇に説教しているわけですが、明治初期の豆本で子どもが地獄の鬼に食って掛かる場面を思い出しました。