P3後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵
(読み)
王れ悪 念 越い多゛きてせしこと尓ハ阿ら須゛さる尓
阿く袮ん
われあくねんをいだ きてせしことにはあらず さるに
者可ら須゛も御 多袮をやどし参 ら春ること畜 生
於ん まい ちくせ う
はからず もおんたねをやどしまいらすることちくしょう
登いへども其 情 さ須可゛尓捨 可゛多し王れハ今 与りし
曽のぜう 須て いま
といえどもそのじょうさすが にすてが たしわれはいまよりし
天此 世越去 べし君 安 代をい多ハり給 ひ奈ば
このよ さる きミや春よ 多満
てこのよをさるべしきみやすよをいたわりたまひなば
(大意)
わたしは悪意をもってしたことではありませんでした。ところが
おもいもかけずにもあなたの子を宿してしまったこと、畜生
であっても、さすがにその情を断ち切ることはできないのです。わたしは今から
この世を去ります。あなたが安代を大事に育ててくださるなら、
(補足)
「さる尓」、「さらに(更に)」の意ではなく「然るに」しかるに、ところが、そうしたところ、するとなどの意。
「者可ら須゛も」、「ら」はもう形はなく、前後のつなぎの役目になって流れで読むしかありません。
「給ひ」、「給」が振り仮名もなくこれひと文字だけだったらまず読めません。
歌舞伎の照明をおとした舞台、ひとりロウソク程度の明かりの中、切々と訴える野狐。三味線の低音が野狐の嘆きを引き出すように先んじて奏でます。
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