2021年11月15日月曜日

桃山人夜話巻三 その6

P3後半 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

(読み)

王れ悪 念 越い多゛きてせしこと尓ハ阿ら須゛さる尓

  阿く袮ん  

われあくねんをいだ きてせしことにはあらず さるに


者可ら須゛も御 多袮をやどし参 ら春ること畜 生

      於ん      まい     ちくせ う

はからず もおんたねをやどしまいらすることちくしょう


登いへども其 情  さ須可゛尓捨 可゛多し王れハ今 与りし

     曽のぜう      須て       いま

といえどもそのじょうさすが にすてが たしわれはいまよりし


天此 世越去 べし君 安 代をい多ハり給 ひ奈ば

 このよ さる  きミや春よ     多満

てこのよをさるべしきみやすよをいたわりたまひなば


(大意)

わたしは悪意をもってしたことではありませんでした。ところが

おもいもかけずにもあなたの子を宿してしまったこと、畜生

であっても、さすがにその情を断ち切ることはできないのです。わたしは今から

この世を去ります。あなたが安代を大事に育ててくださるなら、


(補足)

「さる尓」、「さらに(更に)」の意ではなく「然るに」しかるに、ところが、そうしたところ、するとなどの意。

「者可ら須゛も」、「ら」はもう形はなく、前後のつなぎの役目になって流れで読むしかありません。

「給ひ」、「給」が振り仮名もなくこれひと文字だけだったらまず読めません。

 歌舞伎の照明をおとした舞台、ひとりロウソク程度の明かりの中、切々と訴える野狐。三味線の低音が野狐の嘆きを引き出すように先んじて奏でます。

 

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