2019年8月4日日曜日

変事出来二付心得覚記 その262




 P.167 最初〜最後まで。「飯能市立博物館所蔵平沼家文書」

(読み)
弥 増 多勢 二相 成 終  誰 頭 取 と
いやましたぜいにあいなりついにだれとうどりと

申  儀も無之  人 氣二乗  し一 同 二而
もうすぎもこれなくひとけにじょうじいちどうにて

同 村 穀 屋共 居 宅 打 毀   及
どうそんこくやどもきょたくうちこわしにおよび

狼 藉 候   次第  至 り候   段 畢 竟
ろうぜきそうろうしだいにいたりそうろうだんひっきょう

右 体 不容易   致企     候   故 之義
みぎていよういならぬくわだていたしそうろうゆへのぎ

右 始末 不届 キニ付 紋 二郎 者
みぎしまつふとどきにつきもんじろうは

死罪 豊 五郎 遠 嶋 可被仰
しざいとよごろうえんとうおおせつけられべく

付處  右 両  人 共 病  死以多し
 ところみぎりょうにんどもびょうしいたし

候   二付 其 旨 可存   段 被仰渡候
そうろうにつきそのむねぞんじべくだんおおせわたされそうろう



(大意)
いよいよ多勢になり、誰が首謀者であるかも
わからないようになり、混乱に乗じ全員で
同じ村の穀物店住居を打ち壊しに及んだ。
狼藉を行った様子の経過については、結局
以上のような重大な事を企てたことによるものである。
このようなことは法に背くことであるがゆえに、紋二郎は
死罪、豊五郎は遠島になるべき
ところであるが、両人とも(獄中で)病死している
ため、その旨承知しておくことと申し渡されました。


(補足)
「乗し」、くずし文字では、一文字を上下ふたつに、冠と脚のようにすることがよくあります。
「狼藉」、楷書です。「打毀」もほとんど楷書です。普段使用頻度が少なくて画数の多い漢字は楷書にするのでしょうか。でも「居宅」も楷書だし、よくわかりませんね。
「畢竟」、「畢」のくずし字が「異」の異体字「己」+「大」ににています。
「遠嶋」、「遠」の辶は底辺の「一」。「嶋」の山が W で、鳥の下部は「る」。
「死」が2回あり、筆順がよくわかります。

 字のバランスがよく整った頁です。

 当時獄中でお裁きを待つ間に死んでしまう人は結構いたようです。
獄中での暴行や、極端に不衛生で食事もひどかったという事情やまたは役人の強引な取り調べなど様々なことによるものだったのだとおもいます。

 同じような例で、シーボルト事件の高橋至時が有名です。かれはお裁きをまたずに獄中で死んでしまいますが、お役所は彼を壺の中に塩漬けにして保存しました。
判決は斬首でしたのでそのミイラ化した屍体の首をはねたと記録されています。
 死んでも猶幕府の判決を下し斬首する、お上の面子のコダワリは異常ともみえます。

 江戸幕府の政権が安定した中期以降、武士が武力を行使する場面はなくなりました。
役人化するわけですが、武士たちから武力を引き算して残ったもの、体面や面子や家を守ることや武士は食わねど高楊枝的な振る舞いなど、それらの維持に金がかかりました。武士たちも生き延びるには必死ですから、あれこれカネを稼ぐ算段はしたはずですが、時代はすすみ豊かになった商人たちからの借金がかさみました。この流れは幕末までかわることなくひどくなるだけでしたから武家社会は滅びるべくして滅んだことになります。
 楊枝をくわえたまま死んでしまいました。




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