P27P28 国文学研究資料館蔵
P28
(読み)
[命 をやし奈ふ]
いのちをやしなう
「松 ハつらひとミ奈
まつはつらいとみな
お志やん春けれ
おしゃんすけれ
ど奈命 の奈可゛
どないのちのなが
いハ松 のこと
いはまつのこと
多゛
だ
「命 といふ木ハ多可゛うへ多
いのちというきはたが うえた
志ろミ川゛可けてみせ
しろみず かけてみせ
さんせあゝあん
さんせあああん
まり奈と
まりなと
此 ぢい
このじい
さ満
さま
江戸ぶし
えどぶし
をもち川と
をもちっと
ハう奈川多
はうなった
人 なり
ひとなり
(大意)
[命をやしなう]
「松(待つ)はつらいと皆おっしゃるけれども、命の長いのが松ということなのだよ。
「命という木はだれが植えた。白水かけてみるがよい。あぁあんまりな」とこの爺様、江戸節を少しはかじったことがある人のようである。
(補足)
「命といふ木ハ多可゛うへ多志ろミ川゛可けてみせさんせあゝあんまり奈と」、この本の冒頭の出だしと同じセリフ。所作事浄瑠璃の代表作河東節(かとうぶし)「乱髪夜編笠(みだれがみよるのあみがさ)」の「命という字は誰が書いた、白無垢脱いで見せさんせ、あゝあんまりな面憎や」のもじり。爺様はこの部分を語って、喉を披露している。とものの本にはありました。江戸節はこの河東節のこと。
この爺様、メガネをかけています。眼鏡のガラスの日本国内での生産は19世紀末とありました。しかしそれ以前に眼鏡は大量に輸入されていたようですから、高価なものだったとはいえ、手に入れることはそれほど難しいことではなかったようです。
若かりし頃イタリアの片田舎の屋敷にお世話になったことがあります。そこの女主人はもう歳で二階の寝室の上り下りができなくなって、一階の居間にベッドを移していました。そのベッドサイドテーブルに本が一冊ありました。表紙をなにげなくみてみると「長生きをするには」とあって、ガツンときたのをおもいだしました。
この本の爺様は命の松の木に白水を掛け、わしと同じように長生きしろよと願っているわけで、自分がその長寿にあやかろうとはこれっぽっちもおもってなく、待つということを知っている江戸節だけでなく人生の達人なのでありました。
松葉が上の方では薄く下の方が濃いように変化をつけているのが、できそうでできません。うまいものです。
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